Doll

Doll

 [ドール] 18:25 2013/10/31


 木藤涼は魅惑の人形展へ来ていた。
 先ほどまではモンマルトル広場のカルーセルをおぼろげに見ながら広い階段で腰をおろし淡い空に響かせるハープの旋律を聴いていたが、蚤の市で見つけていた金枠の手鏡と兎のアンティーク人形を手に革のショルダバッグとコート姿で冬を待っている恋人の様に、やはりぼうっとしていたものだ。広場を駆ける子供たちや小型のペットたち、そして笑いあう恋人たちは誰もが冬を待ち焦がれている風だった。
 手鏡を手に下げながら街角をあるき、ふと目にしたのが看板だった。引き寄せられて顔を上げると、ドアの先には美しくリアリスティックな人形たちの世界があった。それらは生きて停止しているが如く息づいて見えて、それでいて静謐なだけで済まない耽美と魔性の風雅があった。
 ドアを潜り、涼は進んでいった。アンティークな空間は全てが人形たちのために作り出された世界であり、そしてどれもが奇怪じみた背徳の美を静かなうちに、または堂々として魅せている。
 空間には音楽が流れ、それはどこか古めかしい柱時計に紛れ込んで300年の歴史に迷い途方にくれている様な空気を生んでここを心の迷宮にする。微かな談笑は横の場所で甘いものとカフェを頂いていた。
 日本人の涼を見ると女のオーナーが微笑み、彼も忘れた笑顔でぎこちなく微笑んだ。
「お客様は球体間接人形がお好きでしょう」
「こんなに美しい人形を見ることは初めてです。人形作家の方が気になる」
「あなたは日本人の方?」
「はい」
「この子たちを製作した彼も日本の方よ」
 涼は驚いてそれらを見た。
「へえ……」
 まるで魔の潜むメリーゴーラウンドに渦巻く者たちであって、実に西洋的だ。
「暮嘴 影留(くれはし かげる)という人形作家でね。ブルターニュに小さな邸を持つ方よ。本日は彼が夕暮れに来るので、どうぞお時間によろしければお会いになるといいわ」
 優雅な運びのフランス語を聞きながらそれらは巨大なオルゴールから流れる旋律にもあいまって涼をまるでカラクリ人形の様に頷かせた。女オーナーはくすりと微笑み、涼は小さく挨拶をして一点一点の絵画を見つめる風に人形たちの世界をじっくりと楽しんでいった。
 どこかの異次元から迷い込んだ夜の宴や、ふと横を見れば広がる密な世界に取り込まれて涼がすぐにこの球体間接人形が好きになった。
 秘められた、そして随所に現われもして欲望のままに成されるエロティシズムがエレガントに表現されては一種目を見張るもので、背徳の美は施されていた。おのおのの起源からある感覚を呼び覚ます形が。堂々としているからこそ欲望に取り巻かれない具体性があり、恥じらいの乙女に不朽のなにかを禁じえなかった。
 涼はどきりとし、すぐによろめいてその乙女の人形に目が揺らいで世界が回った気がした。それは、そこはかとないタナトスに見出された負傷と、迫り来る心を犯されたエロスがあった。一部の人形たちの様にエロティックな風がどこにもないというのに。
 ああ。記憶に確かにあるこの同じ表情。夕陽の毒々しい時間帯、憧れていた女生徒が息せき切って彼の袖をつかみ、震えて光る唇が言った。どんな目に遭ったのかを。そのとき涼は感情が紅の世界で渦巻き蛇の様に伸ばされる彼女の手腕から毒が発されているのかと思った。そして、宵の間際に木の陰で愛していた。そして、命さえも奪っていたのだ。既に陽の記憶さえ空は残さない宵は深みを増し、赤い血の色はどの闇も受け付けずに陽は誤魔化さない。彼の心も。絶望と、失った感情と愛と、そして夜の星が照らすにはもう澄んではいなくて移ろいでいた。
 ふっと吾に返った涼はいつに間にか手にしていたあの時のナイフでは無い、午前中の蚤の市で買った手鏡を持ってとっさに手放しかけた。鏡にうつる殊勝な顔立ちの人形が禍々しく口を動かした幻想を垣間見たからだ。
《 わ す れ て な か っ た 》
 だが鏡は方向を変えて暖色のシャンデリアを写し蝋燭が彼の横で揺れた。
 ドアの硝子に目をうつす。街並みは落ち着き払っている。出歩くものたちは誰もが目的地があり現在を生きていた。
「………」
 涼は記憶のぐらつきを覚え、ふっと意識が失われかけて台に手を掛けた。
「ご気分でもお悪くて? 蒼いので、お座りになって」
「ありがとう……」
 日本語で言っていて、アームチェアに促されて重い身体を背もたれに預けた。
「何か落ち着く飲み物をお持ちするわね」
 オーナーは歩いていき、フランス語では無い、他の国の言語で展示場の女の子に何かを言った。
 涼はおぼろげにオーナーを見た。とても美しい女で、優雅な身のこなしは人形たちの世界でもやはり合っている。金髪と色のついた瞳で、今彼女がフランス人でないのだと思った。
「マドモワゼルエトゥーシャ」
 男の声に振り返り、涼は颯爽と進んできた日本人を見上げた。オーナーと同じ言語で何か会話を短く交わし、休憩していたものたちが微笑んで立ち上がりフレンチで挨拶を交わす。
「カゲル クレハシ」
 涼はその単語に人形を見た。あ……、あの不可解な表情をする記憶の扉となる警鐘の人形。
「人形作家の」
 日本語に男は振り返り、しばらく静かに彼は涼を見た。目と目が合った刹那、なにか強烈なものに取り巻かれて頭を振り引力に酔って立ち上がった拍子に力及ばず彼に倒れこんでいた。
「ご気分が優れないらしいの」
 膨張する声が言う。
「それはいけない……奥へ」
「ええ」
 彼は運ばれ、もう目を開けられなくて意識が遠のいていく。声がする。殺害した女生徒の声。薫るのはお香と、それに男のつける香水の香りだった。ゲランの夜間飛行だと分かっていた。花の濃密な香りもする。もう、耐えられなかった。気をしっかり持っていることも脚の力も限界で、気分が優れなくて闇にあの人形が浮く。あの悲しげに物憂げな表情の美しい人形。間接はどれも人形のままに球体が嵌っていて、それがなければ本当に生きた乙女に見えた。
 夜行飛行がこの部屋の薫りでは無くもう少しさっぱりして思えて、暗がりの個室は魔物でも潜むのか暮嘴自身が魔性なのか、品のある男の顔立ちが言った。
「ここに横になると良い」
 ソファに横たえられクッションに沈んだままに、あの記憶が消えていく錯覚。
「悪かったね。よく僕の人形を見て気分を優れなくする人も多いんだよ」
 暮嘴は仕立ての良い黒いビロードジャケットと深い森色のセーターを着ていた。森の上を飛ぶセスナが脳裏に浮かぶ。
 マダムの声が小さく聴こえる。気遣わしげな声。涼は気を失っていた。

 「沙那ちゃん!」
 涼が叫んで目覚めると、見たことの無い場所だった。
「………」
 壁は濃い紫色で統一され、調度品は赤紫だ。カーテンは黒く、寝台と天蓋も黒かった。明かりがつけられていて、ピンク色の模様がつく壁は部屋をフェミニンな印象にしている。
 飾られたラウブリッターは薔薇で、今の時期にあるのも温室育ちだろうかと群青色のロマンティックな花瓶を見て思う。金の絵付けは顔のある月や身体のある兎、妖精や大きな星……。
 ふと思い出して自分の購入した兎の人形を目は探した。ナイトテーブルに手鏡がある。
「………」
 兎を見つけた。道化師の格好をした兎で、おぼろげにその腕をまくっていた。
「球体間接人形」
 エトゥーシャと呼ばれていたオーナーも言っていた。球体間接人形が好きなのかと。きっと、それだけではない。その世界に一瞬にして引き釣り込まれるのだと彼女には一目で見抜いたのだろう。その通りだった……。魔力の掠める秘められた世界で人形作家の手腕に翻弄された。誰もが人の記憶のリアルな場所をきっと見るものたちは忠実に思い出すのだろう。何らかの犯罪性を持つほどになのではないだろうか。
 高校を出てすぐに日本から出た。殺人の事実を誰もが知らない。行方不明の沙那は四年間そのままだ。
 二十二歳になった涼はパリで一人で暮らしながらもモデルをしていた。見てくれも甘い顔で小さい顔と高い背は猫っ毛の黒髪と大きな目をしていて、フランス人男性とは異なる容姿でもあり日本人離れした顔立ちでもあった。趣味で音楽を作る以外には休日広場や街を出歩くことが日課で、時々アムステルダムまで足を伸ばすこともあった。気味の悪い古い建物を巡ることも好きだからだ。
 兎の衣裳を戻してから暗い目元で自分を鏡で見た。首筋に激しい痕がある。二年間消えない沙那の残した生きていた痕跡だった。こちらに渡って初めて出始めたものだった。あの時の圧迫は覚えている。白シャツに黒いパンツで出歩くときも風を受けながらも野放しにしている。
「………」
 嘴につつかれたかの様に思える痕は星座の様な痕。
「暮嘴さん」
「目を覚まして」
 衝立の向こうから声が聞こえ、涼は声を出さずに頷いた。
 暮嘴が現れて涼を見ると進んできた。
 暮嘴が涼の首筋を見て言った。
「君の首筋に……人形特有の線を見たよ」
 涼は首をぎこちなくかしげた。
「何かを抱えるものは自己奴隷であり過去という鎖に繋がれている。自身に操られてあやふやな場所を歩かされている現在を過去は否定させはしない為に、僕にはそれらが見えるんだ」
 まるで、涼があの時間を共有したとでも言うような人形作家の目を見続けて、初めて目と目を合わせた時のことをありありと思い出す。まるで千里眼を持つ目で見ていたのだ。様々な人の記憶に触れる作品を暮嘴自身の心の闇から人形たちに投影させているのだろうか。
「あなたが何を知って」
「さあ。僕は心を覗けるわけではない」
 意味ありげにウインクする表情は絵画で見た無表情の悪魔に似ていて、涼は腕を抱えてうずくまった。
「……影留、あなたといると、俺は心が月が蝕まれるよりも強く翳っていくようだ。人形作家というのは恐ろしい人たちなのか?」
「忘れたいんだね」
「………」
 《 わ す れ て な か っ た 》
 暮嘴が作り出したあのまた違った人形。こわく的に誇張してきた記憶の残滓の見せた幻聴……。
 涼は首を横に振り、罪に苛まれて頭を抱えた。
「俺を見てください……、その痕、という物を」
 震え言っていた。暮嘴の瞳孔が開き初めて悦とした光りが覗き、涼は恐怖を覚えたものの視線を受け止めていた。手鏡に涼の顔が映る。まるで人形に見えた自己が紫の空間に浮かびピンクの模様は一部月明かりで蒼い。しんみりとして。人形にされたい心が浮遊する。このまま記憶を抱え込んだまま生きることを選ぶか、それともあの人形たちの一人になって表情の一部に取り込まれるのか。
 暮嘴は青年の白いシャツの肩から痣の覗く首筋を見た。際立って白い首筋に浮いている。それと共に、暮嘴には見えた。全く異なって横走る細い線が。普通には見えないこれも幻か、以前は暮嘴自身が悩みぬいたものだった。それを受け入れ人形師になることで人から読み取る感情を、罪を、意識を、快楽を、悦びや全てを刹那の人形に収めてきた。
罪アル者ヲ黙視ス心地ハ良イモノダ
 暗い記憶を逃避できる感覚を涼は受けた、読み取るのだろう暮嘴がそれを吸い取りでもするのだろうか。罪を承諾の上で上から塗り固められていく感情で。
「名前を知りたい」
「木藤……涼」
「涼」
 暮嘴は名前を得て思う。次回の人形は青年だ。
 恐れに暗く影を落とし生きる青年。死神の鎌と雲に隠れる月よりも暗く鮮明な月よりも表面に現された意識力は鎖に雁字搦めにされる美しい裸体をどこまでも怯えさせた。夜の帳の如く裸体を包む黒いヴェールと恐怖にエロスと繋がり静かな暗い表情の下で戦慄している。その可愛らしさ。
 自分が手鏡に映っていた。兎の人形はずっと見ている。恐怖に凍り付いていた表情も今は緩み、どこか兎が笑っている。

 涼は暮嘴影留の邸へ来ていた。
 どうやらモデル事務所のカメラマンが暮嘴ドールのファンで過去撮影を何度かしたことがあったらしく、今回モデルとの共演で涼が選ばれた。以前はメリーゴーラウンドに人形を乗せていたのだが。
 マドモワゼルエトゥーシャはカウチに寛いでいた。
 涼は足首に黒いシーツを絡めている。人形が横たわっていた。エレガントな柄のベンチに横たわっていた。人形はあの恐怖の記憶を呼び覚ました乙女の人形。カメラマンがそれを撮影している。これは趣味範囲のもので個展で見せる写真でもあった。カメラマンが本番の撮影を始める。人形はあの表情で泣きかけている。影のある顔立ちはどこか生々しすぎるものがあり美しさに磨きがかかっていた。波打つ上品な金髪がベンチから流れている。カメラマンは涼と乙女を様々な角度から撮影した。どちらも美しい。
 崩れた人形が悲しげに斜めになってベンチからしなだれる。その態にカメラマンは二人を移していた。一種異様な形態である。まるで柱時計に繋がれた振り子と本体でもあった。過去と現在を繋ぐ様な。
 カメラマンは微笑して撮影する。
 涼は静かに眠っていた。頭を使いすぎて疲れた。人形にもたれかかり眠っていて今は乙女が彼を慰めて抱きしめて思える。金髪が彼の身体も包んでいた。
 暮嘴は少年の時代を思い出していた。
 シャンパーニュ地方の親戚は彼を酒蔵の地下に寄宿している間預かっていた。母方がフレンチクオーターの暮嘴は十二の時に預けられフランスで過ごしていた。日系で煉一(れんいち)という名の男で葡萄畑を持っていた。毎日恐ろしいほど働かされた。半年間続いて他のフランス人の子たちもいることもあった。いつでも男の手首に、腕に見ていた線は球体の嵌められた関節だった。美しいと言えない男でもあったが一般的には悪くなかった。悪魔の様に虐待はしてこないからいいが崇拝してはいたらしい。彼の古書が挿絵つきでベンチ横に地下には置かれてランタンで照らされていた。
 初めて彼が作ったのはその男の生首の人形だった。それを鉤と鎖で吊るした。胴体は地面に作られていた。崩れて一部白骨化している。蛇が伝いそしてそれは吊るされる生首とも絡まりタナトスの地と繋げていた。雁字搦めに。男は完全に逃れられない奴隷だったことは明らかだ。男のその生首と体の人形の周りは木馬に座らされて拘束された少年の人形たちが暗い目元で黒いシルクで猿轡をされて囲っていた。自分もいた。それだけは恍惚とした顔をいまだし続ける男の生首と同じ顔と開ききった瞳孔をして、観てくる者を見ている。笑んで。自分もだと気づく。あの地下でのことがあってから人の暗い過去だったり犯罪性や様々な感情が手にとって分かる。恍惚も凶暴性も絶望も逃れられない全ても見てきた半年だったからだろうか。
 その時代を思っていた。人形は美しい人形だが、だが事実など全く違うのだ。そんな美しい世界では無かった。恐怖だけに占領されたクラシカルな室内。収穫の時期には忙しすぎて構っていられないからそれとは逆の時期だ。男がいない時期は古めかしい星座の本を見たり、他の少年たちがいた為にフレンチも堪能になっていったのだ。そしてやけに哲学的に、自堕落には陥らないプライドとそして美に関するそこはかとない望みが彼らに駆け巡り始めた。宇宙の始まりと終わりと精神宇宙と、何故人は感情に溺れなければならない生き物なのかも。それらの心を解き明かすことは愚かとも言うべきか男が来ると激烈して全てを粉々にしていく。
 解放された時は心身の開放をここまで感じたことは無かった。地下から出ると紫の夕暮れで、影は葡萄畑を占領するでもなく存在し留まっていたのだ。彼は葡萄畑を夕暮れ時とぼとぼと歩き影を引き釣り歩いていた。見つけた棚の柱に夜になって金の星が出た。佇み続け、暗い夜道を馬車が通って気を取り戻させて隠れた。無表情の目が白めだけ浮かび光っていた。
 それらの鎖が取れたのは二ヶ月した後にだんだんとだった。国に帰って日本の学校に通って生活と通常の感覚を取り戻しても心ではあの頃のままだった。それでも彼を雁字搦めにしてくる存在はいなくなりはしても様々な路行く人の表情に人形めいてリアルなものを見始めて思い悩む先に、高校で美術部に入ると人形を製作し始めて自宅の部屋はそれらがあふれ始めることとなる。高校生とも思えない作品の質の高さと哲学的な詩の収められた作品はどれもフレンチであって様々なコンクールに挙げられることもあった。
 そして彼の作品を気に入ったのがエトゥーシャ婦人の伯母であり北欧の魔女とも呼ばれる女だった。ヨーロッパでもコンクールが行われたことがあったのだ。その時からそのエトゥーシャ婦人の伯母は彼を招きいれ北欧の国に呼ぶと人形つくりを心置きなくさせた。そこで言語を学んで彼は人形作家としての名前を考え出した。それが今の名前だった。
 

 涼が目を覚ますと美しいマドモワゼルエトゥーシャがいた。
「あなた、涼って名前ですってね」
 涼は頷き、髪を撫でられて彼女を見た。
「あたしはグランダレン・エトゥーシャ」
「貴女は美しい方だ。俺の世界でも際立って」
「まあ、どうもありがとう」
 彼女が微笑むと涼は頬を微笑ませた。
「俺は貴女となら良い」
「それは無理なことね」
「何故。日本人は嫌いですか」
「それとは別の理由よ」
 優しく髪を撫でてくる指を取り肘をついてまっすぐと見た。
「あたしは人を愛さないの」
「それは悲しいことだ。愛を知らない目ではないのに」
「知っているわ。十二分に、影留も見抜いた闇の愛情がね。それを充たしたのが彼の作った人形たちなの」
「え……?」
 首をかしげて彼女を見つめた。
「今度ね、あたし、人形のお店を持とうと思っているのよ。ボールジョイントドールのお店よ。あなた、始めに彼の作品に触れておいて良かったわね。様々な人形作家がいるけれど彼も指折りなの。販売はしてはいないから他のヨーロッパの作家の作品を売るんだけれど、その際に別荘を買う予定よ」
「それはもしかして?」
「ご察しね。人形と戯れる屋敷だと」
 美しいマドモワゼルの姿に魔を感じて、分かった。あの人形、殊勝に彼に笑いかけた女の人形は今殊勝に人に惑わされた涼を笑う彼女と同じ顔だったのだ。それは、いつかの彼女自身の言う闇の記憶でも垣間見せた表情だったのかもしれない。彼女が何に対して何にどう感じ入ったのかは不明でも、その魔性の口元は引きあがっていた。
「煉一・ル・トワ・グランジュランという方がいらっしゃるの。シャンパーニュの影留の親族で彼自身を人形師にまでした方」
「影留さんの親族はフランス人なんだな」
「ええ。影留はあたしの為にあたしの愛する方と瓜二つな侯爵の人形を作成してそしてこれもよ」
 指でそれを彼女は指した。彼は彼女の美しさと人形に愛情を向けることを崇拝に似て心にあがめた。
 そして人形師と自己と人形を愛するマドモワゼルとの生活が始まった。
 モデルの仕事も続けながらで今までどおりの生活を続けながらも彼らとの奇妙な愛も続けながら。

 影留は現在三十の年齢であって若手の人形師でもあるがスキルは高校時代からなので十五年のキャリアがある職人である。
 いつでもビロードジャケットに身を包んでVネックのセーターを着ていた。靴はブーツで先が尖り今アームチェアに座っていた。涼は銀のペンダントで目隠しをされ手首は拘束されていた。暗がりはペガサスや木馬や馬の作り物が吊るされている。影留の髪は端正な白い肌と高めの鼻梁をゆったり囲ったブルネットでそれはあのグランジュランと同じだった。二重の目は色香のある目元だが元々熱っぽくて鋭い。襟足の髪が肩にかかって滑らかな頬が影を今は染みらせていた。意外に厚い唇は今は静かに閉ざされ涼を見ている。母方に顔の系統が似ている。貴婦人たちは若き人形師の端正な顔立ちに惚れ惚れしていた。
 音楽はゴシックが流れている。悪魔的な美しい女の声が唄っていた。
 たびたび思い出す。グランジュランの地下。何処からとも無く、壁の向こうから聞こえた声。そして自分たちのひそひそ声。不気味に思えたが何も問うことは無かった。目隠しをされ縄で天井から吊るされていた。その重力で身体と身体が触れ合うこともあったり何かの物体と触れることもあった。もしかしたら健全でなかったり命も奪われた者も吊るされていたかもしれない。または毛をはがされた動物や羊などもいたかもしれない。今でも地下ではこの時期をグランジュランは行いを続けているのだろうと知っていた。影留がその場所を尋ねることは無かった。
「影留さん」
 影留がグランジュランの脳裏に入り込むことは無いがあの気持ちはこういったものかもしれない。涼を見ると立ち上がった。背にだらんと手腕を下ろす。
「僕は君が望むものを用意しよう。だから、しばらく飼いならされてくれ」
 涼は頷き、子供の様に奴隷というおもちゃを手に入れた影瑠を横目で見た。
「マドモワゼルは変わった方だ」
「僕の創造した人形だけが砦なのさ。何も砦は物質的に巨大なものばかりじゃないよ。精神の砦はどんなに無物資なものであろうと巨大になりうる」
 涼は頷いていた。どこかしら、影留の声には何かを超越させるものが含まれている。小さな身体という存在から解放そうとしてくる。だからつい口が滑りかけてしまうのだ。過去にあった過ち、未だに罪を償うことから逃げている殺人の事実を洗いざらい、ふつふつと湧き出る言葉から。
 沙那の長い髪や腕、絡みついてくる記憶の箱に鎖と共に絡まって涼の脳髄に繋がって心臓を狙っている。弦になった髪束がつかのま、真実という矢に突き刺されかけていた。
 それでも、影留が自ら聞くことは無かった。人形を見て倒れる者たちに何が原因で感化されたに至ったのかを。きっと本人が作り出したものとして気にはなるのだろうものの、拘束という物に変えて聴いてくることは無い。だから涼は気持ちが一定のままだった。
 沙那は黒い大きな目をしていた。ストレートの黒髪が綺麗で、白い肌は陶器だった。花道部で、着物姿が実に様になる。風情と情緒のある表情をしていた。美術にも長けて様々な楽器も奏でられた。涼は彼女に憧れ続け、そして誰もが同じだった。いつも控えめな性格をしていて誰にでも優しかった。弱いものを見ると身を張ってでも味方をした。
 その沙那が不良に絡まれ痣にまみれて涼に助けを求めてきたあの瞬間。涼はブラスバンド部を終えて帰宅途中だった。背後から走ってきた音に振り返ると、涼は光沢を受けた黒髪にときめいて顔を上げた沙那を瞳を揺らして見た。隣の高校の男子生徒達に、いきなり。沙那が言い、クラスメートの男子たちのなかでもいつでも優しい涼に打ち明けた。だが、彼はそのとき優しくなど無かった。欲望が彼を飲み込んだ。闇が夕陽を飲み込むよりも早く。沙那は絶望して男子生徒が逃げる時に落としていったナイフを手に泣いた。黒い葉陰から広がる夕暮れ。優しいと思っていた涼。実際男なんてみな同じだったのだ。被っている皮が違うだけで。涼は沙那の手から落ちたナイフを手にしていた。そして、なぜかそれを凶器にしていた。
 木の陰で闇が落ちていき涼しい風が冷やしても。誰も通らない道だった。犬や猫さえも通らない。夜の星が見え始めて美しい骸をただただ見続けた。黒髪は綺麗に広がり真っ白く力をなくした手腕は置かれ赤い唇は光ったまま、何度も彼女の着物姿を思い出していた。あの花を生ける姿。その可憐な花がいつでも涼の幻想では妖しげに彼女が微笑しているのに。
 涼は目隠しをされたまま目を開いた。
 影留の気配は分からなくなっていた。どこかしらから聴こえるのはまた他の曲。
 マドモワゼルの声がする。彼女の母国の言葉で影留は話していた。記憶にトリップしている間に。
 影留は涼を見ながらエトゥーシャと話していた。
「それでは、煉一さんが」
「ええ。今度我々の仲間が集まるときに」
「僕はそれらには加わっていないので分からないが、煉一さんが人形をオーダーするかもしれない」
「あなたも歓迎してよ」
「いや……遠慮しておきます」
「ふふ」
 彼女は新しく影留が手に入れた涼という名の操り人形を見てから囁いた。
「あなたも見たいんじゃなくて?」
「彼は拒否を示すでしょうね。互いに」
 マドモワゼルは椅子から立ち上がると涼の横に来てフレンチで耳元に囁いた。
「それでは、ごきげんよう」

 グランジュランはあの頃よりも随分とスレンダーになっていた。だから影留は実に驚いた。美しくなかった男は限りない渋さを醸し、そして毅然としていた。これも年月がワインを熟成させるに至ったことだろうか? 紳士は颯爽と進んでからあの頃と変わらないが肉には埋もれてはいない鋭い二重の目で視線を巡らせてきた。
 マドモワゼルを見るとそちらへ進んで横のアームチェアにすっと腰を下ろした。
 影留は元々が日本名では無くドゥーラン=江藤という本名で、父方の江藤家にフランス人ハーフの母は嫁に入っていた。
 グランジュランはマドモワゼルの言葉でドゥーランを探した。あの目が。やはり一瞬で纏った瞳の色に影留は身を強張らせ心なしか背の高い身体を小さくしたかったが無駄な抵抗だった。グランジュランの瞳孔が一瞬開き、青年を見た。
「ドゥーラン」
 立ち上がり両手を広げここまで来ると影留を一度包括して離した。一気にあの頃の鞭打ちや恐怖がよみがえる。
「随分と変わったな」
「煉一さんも」
「ブルターニュにいる噂は聞いていたが人形を作っているらしいな」
「はい……」
「それではもう聞いただろう。お前に仕事を任せたいんだ」
「伺っています」
「五体ほど頼みたい。引き受けてくれるね?」
「ええ」
 向こうから涼が歩いてくる。
 涼は暮嘴の背を見た。あんなに緊張感漂う背は初めてみた。そして、彼自身が彼の作り上げる人形の様に見えたことも。そして分かった。違うという事が。あの男、鋭い顔つきの紳士が彼をオーラだけで人形にしているのだ。そこはかとなく涼はその事に深い感慨を持った。妙なのかもしれないが、それが素敵に見えた。
 マドモワゼルが涼を視線で呼び歩いていった。
「彼がル・トワ・グランジュラン」
「今回、庭園で彼との実演をするの」
「あなたが?」
 涼は美しい貴婦人と魅力的な渋い紳士を見た。
「あなたがよ」
 涼は頭で逃げる経路を計算していた。マドモワゼルは微笑んで身を返し椅子に座ると紅茶を傾けた。
「俺はあなたとなら良い。この背を打たれることすらも」
「駄目よ」
 彼女は微笑んで上目で言い、涼は再びグランジュランを見た。

 ミシェ、ブラン、シェトゥラはアムステルダムの街角にいた。
 ミシェはパリのモデルであり、ブランとシェトゥラはアムステルダムに住む双子の兄妹だ。三人とも涼の連れであり、ミシェと涼はよく二人でアムステルダムの友人の所へ遊びに行った。兄妹は古めかしい建物に住んでいて兄は音楽を、妹は人形集めを趣味としている。
「カゲル・クレハシって、ボールジョイントドール作家のあの色男の?」
「フランス系の日本人だってな」
「俺は初めて見た」
 シェトゥラにあの蚤の市で購入した兎のアンティーク人形を渡すと彼女はよころんでそれを退廃的なままの廃墟を部屋にしている人形たちのコレクションの一部に加えた。
「この兎、可愛いわ」
「ああ。お前が好きだろうと思った」
「リョウが人形に興味示すときが来るとは思わなかった」
「すごいんだな。異世界じみてた。狂気の幕開けだよ」
「彼は人形を売らないから手に入らないんだ。でも依頼は出来るって話。ただべらぼうに高級な額だけどね」
「分かる」
 魂が人形師の魂だけじゃなく、それに他の魂が憑依された誰かの魂までもが入り込みそれを見た者たちの魂までをも取り込むような魔性の人形たちなのだから。そして主人の暮嘴自身の魂も吸い込み続けているのだろう。
「女流じゃなくて男としてあの世界を耽美に創り上げてるならすごい感性」
「男さ。身なりも仕草や語り口調も。声は優しげだけど」
「誰もが憧れる人よ?」
「………」
 涼は一瞬でシェトゥラに沙那が重なり、口を閉ざした。同じものを感じたのだ。沙那を襲ったときの自分に。
 ブランはミシェと今は買い物に出ていてシェトゥラしかいない。涼は目が自然にナイフに引き寄せられたので視線を逸らして人形を手に取った。
 彼女が収集している人形はル・ブレンというタイプのドールたちで、しなやかな四肢の妖精たちの世界だった。ケルト神話や北欧に伝わるゲルマン系神話が好きらしく、それらを象った妖精や女神、自然の神などが繊細な顔つきと美しさで廃れた空間を飾っていた。兎人形は何匹かいて、涼が見つけたアンティークな球体間接人形の兎は一種異質でもある。人形たちの世界は森や林、湖や泉などが空間に形作られていた。それらに彼女は囲まれている。
 ル・ブレンは何人か有名な職人がいて販売も行っていた。彼女はこの部屋を自由に開放して人形たちを一般公開しているのだが、兄のブランがその時に楽器演奏をして妹がコーヒーや手製の甘いものを振舞っていた。涼が古い建物に惹かれて入ったのが二人との出会いでもある。そこからモデル仲間のミシェも連れてよく4人でアムステルダムの古い建物を巡る趣味が通っていた。
「俺がモデルで人形と共演した撮影を行ったんだ。それに、今度俺をモデルに人形を製作するって話」
「あたしもフランスに行くわ!」
 シェトゥラがハイヒールも折れるのではと思うほどの勢いで立ち上がり涼の肩をぐらぐら揺らした。
「ねえリョウ。オランダからあたしをパリに運んでよ」
「ブルターニュだよ」
「素敵!」
 ミシェがドアを開けて帰ってくるとブランはいなかった。
「下の路上でまた楽器やってる」
 ミシェは男勝りな口調のぶっきらぼうな性格で、ショートの髪で片目が隠れて紅の口はいつも笑顔を見せない。フェドーラとスーツジャケット意外はキャラクタロングTシャツとバンドで吊るしたショートパンツ、それにロングソックスとスニーカー姿だった。パリっ子のミシェは渦巻きキャンディを舐めていて一人掛けソファの背もたれに身体を向けて腕を乗せ二人を見た。
「人形増えてる」
「分かる?」
 兎を抱えてシェトゥラは言った。
「カゲル・クレハシに会いに行くんだ」
「誰それ」
「あんたは知らない人」
「へー」
 乙女な遊びに興味の無いミシェは足を放ってキャンディを舐めた。よく涼とは恋人同士や友達同士の設定で撮影されるのだが、マニッシュなミシェとは稀に撮影方法によっては同性愛者同士に見えた。ミシェ自身はレズビアンだということを公表している。スモーキーなメイクや黒いメイクをよくしている。
 異性愛者に変わりない涼には彼女は今はいないが、ミシェには同じモデル仲間の彼女がいた。だた、同棲している彼女を連れてくることはない。嫉妬深い子だからシェトゥラにやっかんでくる性格だと分かっているからだ。涼と出かけていると分かっていれば安心していた。実際シェトゥラとは何も無い。
「聞いた? こいつ、最近人形職人に入れ込んでんの」
「違う」
「逆か。はは」
「何それ。聞いてない」
「カメラマンに聞いたよ。すごい魅惑の写真撮れたって、見せてくんないわけ」
「撮影のためだ」
「それだけかな?」
 手を双眼鏡にしてみてきてせせら笑った。
「彼女作らないと思えば日本系の彼氏を見つけたか」
「違う。異性愛者だから」
「へー」
 異性愛者に興味の無いミシェは胡坐をかいて上目で微笑んだ。

 グランジュランの地下。
 あの頃とは様相が変わっている。白と黒の配色になっていてネオクラシカルだ。昔は暖色なクラシック空間だった。調度品は洗練されたアールデコ調に変わっていて、イタリア系を取り入れている。それらの地下に色とりどりの原色の格好の子達がいた。誰もが仮装をしていた。
 黒い硝子の玉が鎖で吊るされて空間を飾る。グランジュランがその内側に生首を入れているのではという疑いがあった。やはり昔感じた雰囲気で。手や腕、足などが。大振りのその硝子玉を割れば、傷口の血を伴い落ちてくるのではないだろうか。
 影留は宇宙を巡らせ心を保った。
 一人ブルゴーニュに連れ帰り等身大の人形制作に入った。五体作るが全て作る前に一体製作してグランジュランに見せなければ。
 邸は静かで、そして人形。間接がそれを告げるが生きて思えた。生気のある薔薇色の頬だ。唇も。まだ髪が埋め込まれていなく、何種類かの毛色が横にそろっていた。眉も書かれていないから検討中している時期なのだろう。
「影留さん。オランダから戻ってきました」
 影留は肩越しに涼を見る。
「一体どんな人形に?」
 涼は人形に引っかかって人形を見た。
「え……」
 違う。違った。これは生きた方だった。髪を剃られて眉さえ剃られ、動かなかった。本物の肘に線が描かれ、そしていた。
「自分と重なったよ。僕が受け続けた日々が。僕はあの頃グランジュランの人形だった。あのときも僕のような人形職人がいたら、僕らは恐怖や絶望がなかった。鞭打つグランジュランを愛しいと思ってマゾキスととして服従していたなんて、僕は耐え難いよ。僕らは苦しんだというのにね」
 涼は異常な恐怖を肌に感じて、暮嘴をただただ見た。言葉にならなかった。何をどうすればいいのか、暮嘴は美しい顔で泣いていた。
 彼自身が取り巻かれた心の奴隷症が分かりマドモワゼルの心が彼に投影されているのだと分かった。同類なのだと。愛を知っていると彼女は言った。暮嘴は自己を人形に投影して自己を愛し、自己しか本当は愛せず、他にも自己を投影させていたのだろう。人形たちに垣間見る全ての表情と起源にも。そしてマドモワゼルの場合は愛を及ぼしたものを素直に人形にしたのだろう。きっと、それは涼と同じく死を持って別れをなしたからこそなのではないだろうか。その闇を人形に投影して、暮嘴は怒りの相手が存在するからこそ相手の投影を人形にはもとめず、相手を憎んでいたのだ。グランジュランを。本来は。それが崩れ揺らいだからこそ今人形を粉々にしている。ガツガツと。あの頃の自己を投影させて。
 手鏡は涼の手の内にあった。それは涼の姿ではなく、人形師の室内を写していた。その暗がりに広がる。
 一角で、沙那が和装で花を生けている。幻想。それが、手鏡に映っていた……。涼は頭を抱え、そして叫んでいた。
 気絶した涼を介抱したのは暮嘴だった。手鏡は今涼の眠る横に置かれている。
「沙那ちゃん……、沙那ちゃん、」
 誰の夢に魘されているのか、さなという女の子の名前を呼び続けている。
 夢で沙那は悪魔の如く目をして鋭く暗い目で威圧的に涼を見ていた。背後に闇をまとって黒い服が夜風になびいている。涼を彼女は許しはしなかった。
 手にはナイフが握られてじっとあの黒髪をゆるい風に靡かせ彼を見ている。沙那が以前生けていた花が闇に飛ばされていく。
 涼が目覚めると暮嘴がいた。
「影留さん……」
「さなって言い続けてたよ。日本においてきた彼女かな」
「日本に置いてきた記憶さ」
 涼は顔を逸らして言い、枕を見つめた。
 沙那が夕暮れに微笑んでいる。頬を染めて微笑んで、生けた筈の花を一輪手に、それは涼に差し出された。それは幻想。愛は夢。幻……でしかない。
 髪が揺れ、和装のまま来た彼女は足袋に紫の鼻緒の下駄で、モダンな大正の着物を召していた。それらが、それらの時間は金の懐中時計をサイドに崩れ始めてちくたくと大きな音が鳴り響き夕陽の音にする。毒に犯された色味で。そして、皹が空間に歪めとして入っていく。沙那にも。美しい彼女にも。
 そして、掲げられた白い手腕は腕が袂から風で覗き、間接に線が……少年と同じ線が、それ以上に実質的な間接は球体がはまり、そして、筋の入った首が斜めに曲がる。黒髪が不気味に棚引き、着物がはためき、しおらしく袂を押さえ、足を揃えてみている。じっと、硝子質になった沙那ドールの瞳が……彼女を殺した涼を。

 オランダ、アムステルダム。
 ブランは竪琴を掻き鳴らしていた。
 涼はまるで茫然自失として二人の部屋にいた。暮嘴が製作して個人的に涼に贈った人形にもたれかかって、それは暮嘴初の和装の美しい女性の人形だった。
 沙那ドールは淫靡な口元をして崇高な目をしていた。魔と背徳と清純の入り混じる様。それが涼のドールだった……。
 竪琴は奏でる。そして古い唄が創作して歌われる。どこか、それは忘れられない時間めいた。

Doll

Doll

パリ。 とある美しい人形展を訪れた木藤涼。 彼は日本に過去を置き去りにしていた。 [Deep]の前の物語。

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  • サスペンス
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-12-19

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