『クリスマス・ギフト』

定番のクリスマス、サンタクロースネタで書いてみました。


 何度見ても感動する。
 雲海の上の、真冬の月。
 トナカイを雲の高さにギリギリ合わせて、俺は颯爽と目的の街へ向かった。
 今日でデビュー三年目。もはやベテランの領域のサンタクロース=カイだ。
「ひゃっほー」
 白い息が雲になって流れていく。
 今から向かう街、日本のとある街だ。俺の故郷に近い。
 毎年の仕事で、俺はいつもこの日を心待ちにしている。
 やっぱり出身地は譲れないぜ。
 そろそろだな。
 トナカイに指示をだし、一気に雲海を突っ切ると、小さな光がたくさん集まった、大きな街があ

った。
 キラキラと輝いて、空から見る景色は最高だ。
 これはサンタクロースの特権だぜ。
 遠目で見ると、人々が活発に動いている。12月だからって、うきうきしすぎだな。
 まあ俺も、夜中は起きているんだがな。
 俺はビルへ近づき、そこからそーっと見た。
 もちろん周りには結界が張ってあって気づかれることはない。それも神様の結界だ。そんじょそ

こらの退魔師だろうが、屁でもない、気づかれる心配などなにもない。
 どれどれ、と行き交う人々を盗み見た。
「ふむぅ」
 あと少しで幸せに届きそうな人々がいっぱいいた。
 俺の仕事は、そういう人を中心に、良いきっかけを渡すギフトの能力で幸せにすることだ。
 時間は、もう十一時。
 なのに、やれやれ、まだまだ起きてる人がいるぜ。俺自身も人のこと言えないがな。
 すでに寝始めている子供たちは、あとでじっくりやればいい。まずは目の前のこの人たちからだ


 懐からタクトを取り出す。
 今から見せてやるぜ。ただ、見た瞬間すぐこの記憶は遠くに消えてしまうがな。
 赤い光と白い光の奇跡。
「えい」
 空の複雑な模様を書く、そして、小さな光がいっきに降り注いだ。
 光の粒が雪のように降り注いでいき、人の体に入っていった。
 花火職人にも負けない美しさだ。
「ふぅ、さてと、郊外に出るから」
 俺はタクトをソリの後ろにつけて、そのままとんだ。
 あとは自動的にギフトが降り注ぐ。楽ちんだ。
 動いている相手にはああいう派手な動きが必要だが、寝ている良い子には、これで十分なのだ。
「ふふん♪♪」
 あとはふらふらとさまようだけ。
 プレゼントを直に配る仕事とは違い、こっちは楽だ。俺はそっちへ配属は希望してない。なんせ

面倒で重労働だからな。
 空をいつものようにふらふらと漂っていると、ひときわ黒い光を放っている女の子が視界にうつ

った。
 俺はなんだかそれが気になり、ソリを止める。
 トナカイは困惑したように俺を見た。
 俺はそれを手で制した。その女の子が無性に気になるのだ。
 普段の俺なら、そんなことはない。帰ったら何をするかで頭がいっぱいである。
 でも今回はいつもと違っていた。陰気な彼女がどうしても頭から離れないのである。
 まさか俺は博愛心に目覚めたのか? んなわけない。
 普段から先輩に、あまり個人を対象としてギフトを使うなと言われてるが、今日はこの女の子に

使ってみよう。
 そうと決めたら、この仕事をさっさと終わらせよう。
 トナカイを指揮して、おおざっぱに街の上を周った。

 ようやく一回りを終えて、あの女の子のところへやってきた。トナカイはすでに事務所に返して

ある。これからは単独行動だ。
 俺はふわふわと漂いながら、ベランダから近づいて行った。
 おいこりゃ怪しいやつだな。神様の力がなけりゃ、すぐ通報されて終わりだな。
 音がたつことなどありやしないが、緊張で足が震えてきた。そーっと、そーっと。
 女の子はすでにすやすや寝ていた。
 さきほどの陰気そうなオーラはどこ吹く風で、穏やかな表情だった。
 ベランダの窓とカーテン越しに見ていた。
 なあんだ、彼女は大丈夫そうだな。
「…………」
 心配して損した。
「…………」
 お詫びにギフトしてあげよう。
 俺は窓をすり抜け、彼女の横に立った。
 呪文を唱えて……
「えい」
 バン――
 部屋にかつてないほどの大きな音が鳴った。
「え」
 あれ、あれ。どうして失敗したんだ。
 この女の子がうっすらと目を開けようとしていた。
 彼女が起きてしまう前にもう一度――
 バン――
 俺はその音が鳴った瞬間、すぐさま窓をすり抜け、空を飛んだ。
 ちょ、これどういうことだよ。
 なんで失敗するんだよ。
 もう一度、イメージする。すると、また小さな音が鳴ってしまった。
 さっきまでの様子と違って、光の粒はごく少量になってしまった。
 このままでは、内勤に配属されてしまう。とりあえず、秘密にしておいて。
 今日の仕事は終わりにしよう。

 家に帰って、俺は真っ青になった。
 予備の杖がない。
 まさか、どこかで落とした。一応名前は書いてある。
 それなら警察に届いて、て、いやいや……。
 思い当たるふしはあった。昨日の出来事だ。むしろ、これしかない。
 まさか、あの女の子の家に落としたのか?
 背筋に寒気が走った。
 俺は慌てて、彼女をサンタネットワークで検索してみる。
「ええと、たしか」
 三国メイか。この女の子か。
 すぐさま取りに行こうとサンタ服に手をかけたが、俺は自分に待ったをかけた。
 サンタ服にはさまざまな特殊効果がある。
 それが、道端の意志効果だ。これは、ぶっちゃけドラえもんの……ごほんごほん。
 その不思議な力で、サンタ服なのに、認識外になってしまう。
 隣でダンスをしてても、気づかれない代物である。
 だが、一方で悪用もできるわけで。さすがに個人的に使うのは気が重い。
 仕方がない。謝って、返してもらうか。
 俺は私服で整え、その街に向った。
 電車を乗り換えると、すぐについた。
 すぐさま彼女のマンションへ向かった。
 彼女の部屋の前に立った。
「さてどうするか」
 平日のお昼をすでに過ぎている。メイとかいう人は、いるだろうか。
 居たとして、どう取り返せばいいだろうか。
 ピンポーン――
 しばらく待ったが、誰もでてこない。
 もう一度、
 ピンポーン――
「……はーい」
 ドア越しに声が聞こえてきた。
「あのーすいません。昨日の夜、上から杖を落としてしまって」
「…………」
 しばらく無言がつづいて、ドアが開いた。
 目の前には赤髪のぼさぼさ頭の女の子がいた。パジャマのままだ。
「……こっちに入ってきなさい」
 俺はそのままメイさんについて行った。
「正座しなさい」
「……はい」
 緊張で手に汗を握った。
「あんたねー、ふざけてるの!」
 メイさんは右手に杖を持っていた。
「このせいで、このせいで、バイトくびになったじゃない!」
「え……はあ」
「真夜中、妙な音がしていこう、眠れなくなって、胸騒ぎがして、探したら、あんたの杖を見つけ

たの!」
 メイさんは怒り心頭だ。
「これで、これで、こいつのせいで……。今日バイトに出かけようとしたら、その会社から電話が

あって……うわーん」
 え、それ最初からクビ決まってたんじゃ。
 口に出さずとも言葉が伝わったのか、目があった瞬間、そらされた。
「とにかく、あんたが犯人ね」
 ビシッと指をおでこにつきつけられた。
 もしかしたら、ギフトのせいかもしれない。そう思うと、とたんに不安になった。
「分かった! これを返してほしくば、私を養いなさい!」
 偉そうにふんぞりかえりながら、あほなこと言ってきた。
「んな、あほな」
「ごはん! ごはん!」
 ごはんを作れというらしい。
「……きんけつなのよ」
 小さな声で「金欠」と聞こえてきた。
「え、なんだって」
「あんたねー。これ折るわよ」
「すいません。すいません」
 俺は慌ててどけ座した。
 あの杖を折られたら、俺だってただですまない。もう必死だった。
「分かればよろしい。……私、顔洗ってくるから」
 俺はすぐさまコンビニに走った。
 急に言われたので、売れ残ったやつしか残ってなかった。
 メイは嬉しそうにほおばっていたからよかったが。

 ご機嫌そうになったメイは聞いてきた。
「それで、あんたの職業はなんなの?」
 ついに恒例の質問来たか。
 たまに友達にその質問されてこたえに困っていた。馬鹿正直に、「サンタクロース」と言えるわ

けない。言ったら、変人扱いだし、守秘義務違反だ。
 だから、いつも運送業って言ってる。
 実態は間違っていないはずだ。
 とくに十二月に増えるともいっておいた。
 その時は、「あ、サンタクロースみたいだね」と冗談半分に言われた。
 言われて、焦って取り乱したことは記憶に新しい。
 でも、今回は大丈夫だ。
「ああ、運送業だよ。特に夜仕事している」
「運送業? たいへんねー。あ、だから昨日の夜のこれか」
 俺の杖を指揮棒のように振りまわして、俺の頭をたたいた。
 取ろうとすると、すぐに後ろ手に隠される。
 ううむ、さすがに強引に奪うわけにはいかないか。
「じゃあ今日も仕事なの?」
「っもちろん」
「へえ」
 感心するような、うらやましそうな顔をして言われた。
「ねえあんた……ええと、カイさんは、どこに住んでるの?」
 遠慮がちに聞かれた。
 まあ訪問して訪ねて来た身だ。包み隠さず話した。
「結構遠いわね。……いいわ、今日からここに居候しなさい」
「はあ?」
 妙なことになってきた。
「カイは、変なことしなさそうだし、お仕事たいへんそうだからね。家事ぐらい、私が担ってあげ

るわ」
 これは遠回しに生活費を出せって言ってるのか? メイさんの顔は真っ赤だった。
 俺は部屋の周囲を盗み見る。家事は、まあ大丈夫そうだが。
「勘違いしないでほしいんだけど、私はあなたを許したわけじゃないよ」
 顔を真っ赤にしながら睨まれる。
 あの杖は今後も必須だ。もしなくしたら、なにかとんでもないことを言われてしまうかもしれな

い。
 悩んだ。
「お願い、お願い」
 今度は両手で拝まれた。
「……分かったよ」
「やったー」
 メイさんはガッツポーズした。
「それじゃあそれじゃあ」
 メイさんは手を出してきた。
「ほらよ」
 俺は仕方なく一万円をそこに乗せる。
「やったー。これで久しぶりに冷蔵庫を満たせる!」
 メイさんの異様な喜びように、俺はひいた。
 いったいどんな生活していたんだよ。
「それで、あんたは今から寝るんでしょ。ふとん持ってくるね」
 ああ、そうか。深夜の仕事だと、普通は朝や昼に寝るもんな。
 サンタクロース効果で疲労回復してたからすっかり忘れてた。
 どうしよう。
「四時間くらいで十分だけどな」
「え、そんな短い時間で大丈夫なの?」
 まさか言えるわけないし、とにかく押し通す。
「大丈夫だから」
「カイってすごいわねえ。私なんか無理だわ」
 そう言って、布団を持ってきた。
「あ、言うの忘れてたけど、勝手に箪笥とか開けないでよ」
「んなもん、分かってるよ」
 まあ昼寝みたいなもんか。
 俺はそのまま寝ることにした。

 つい寝てしまった。なるほど二度寝は気持ちいい。
 油断してた。
「おはよう」
 となりでは、携帯ゲームをやっているメイさんがいた。
「あ、おはよう。……そろそろ仕事?」
「そうだよ」
「待ってて、料理はもうできてるから」
 メイはシチューを持ってきた。
 いい夢みたのはこのシチューが原因らしい。
 おいしかった。
「ごちそうさま」
「あれ、もう行くの?」
 時間はもうとっくに六時を過ぎている。
 そろそろ会社へ集合しなくてはならない。
「んじゃあ行ってきます」
「……いってらっしゃい」
 背後の声を無視し、俺はとりあえず会社に向かった。
 会社ではすでに先輩たちが集まっていた。先輩たちはすでにソリの準備を整えている。
「ちーっす」
「おう、カイ」
 肩をたたかれる。
「それじゃあ、みなさん頼みますよ」
 社長の一言に一同掛け声を出してそのまま先輩たちは空へ飛んで行った。
 俺もすぐにサンタクロース服へ着替えて、ソリを駆った。
 なにも聞かれなかったから、たぶん杖の件は大丈夫に違いない。
 俺は昨日と違う隣の街へ向かった。
 そこからギフトを降らせて、まちを一周するのに、朝日が昇るころまでかかった。
 いつもよりも時間がかかってしまったようだ。

「ただいまー」
 なんだか言うのが少し恥ずかしかった、
 小さな声で言ったにも関わらず、声が聞こえてきた。
「おかえりー」
 メイさんは朝食の準備にかかっているのだろう。
 すぐさま台所に向かうと、俺の分まで作ってくれていた。
 メイさんはぶすっとした顔をしながら、料理を作っている。
 俺は複雑な表情をしながら席にすわった。
「バイトは見つかったか?」
「ぜんぜん」
 だめだこりゃ。でも一日目だからな。数日すれば、見つかるだろうか。
 朝食を食べ、そのまま話し込んだ。
「ねえカイ、仕事を紹介して欲しいんだけど……そしたら」
「いいやだめだ」
 サンタクロースの仕事なんて、そうそう頼めるわけないだろ。
 うちの社長になんて言われるんだか。
 メイさんはがっくりして、そのまま机に突っ伏した。
「うううう」
 恨めしそうな声で言う。
「だめなものはだめだ。あ、ちょっとシャワー浴びてくるな」
 メイさんは机につっぷしたまま手を振った。
 シャワーを浴び終えて、部屋に戻ると、メイさんはふとんを被ってねていた。
 どうやら二度寝らしい。
 しかたなく、俺は自分のふとんに座った。
 ふと、見回すと、杖がある。
 ラッキー。
 俺はひっそりと、それに近づく。
 メイさんは起きない。
 よし、とろう。取れば、もうこんなことはない。もうごめんである。
 しかし、取ろうとうると、手がすり抜けた。
「あ、あれ?」
 おかしい。手がすり抜ける。
 なんで、なんでだ?
 なんども試すが無駄だった。
 俺はそのままふとんに突っ伏す。
 社長に聞くしかない。
 はあ、と俺は溜息を大げさについて、そのまま寝た。

「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
 すぐさま会社へ向かった。
 すでに先輩たちは会社にいて、もう出発し始めていた。
「あの、社長、じつは」
「……杖の件ですか?」
「え」
 社長はすでに把握済みだったようだ。
「どうして」
「予備の杖です。心配ないですよ」
「じゃ、じゃあ取り返す必要ないと?」
「そうじゃありません。なにか、おかしなことありませんでしたか」
 そういわれて昨日の件を思い出した。
「そういうことです。あれは、その子を主と認めたようですよ」
 社長は優しそうな笑顔をして言った。
「な……じゃあ、サンタクロースに誘っていいんですか?」
「もちろんですよ。その子をここに連れてきてください。歓迎しますよ」
 簡単に解決してしまった。
 居候となって、右往左往していたのが馬鹿みたいだ。
 拍子抜けして、ぐったりとしてイスに座った。
「……女の子がサンタクロースでも良いんですか」
 それでも声を絞り出すように聞いてみました。
 社長はその質問を待ってましたとばかりに、おかしそうに笑いながら言った。
「実はカイくんの先輩たちの奥さんって……」

 俺ははやる気持ちを抑えて隣の隣の隣街への仕事を終えて、すぐさま居候とする部屋へ向かった


 こんな出会いも良いかもしれない。
 こんなギフトも良いかもしれない。
 あのときのギフトは失敗じゃなかった。
 俺たちにギフトがかかっていたのだ。
 俺は社長の話を聞き、ギフトの力が増したのを感じた。
 今日はいつも以上に、光の粒(見えないけど)を降らした気がする。
 いや、明らかに光の粒が溢れだしていた。
 これでよりたくさんの人が幸せのきっかけを手に入れるに違いない。
 そして今度は俺の番だ。
 俺自身が幸せを掴んでみせる。
 電車の窓越しに、目的のマンションが見えてきた。
 横を見ると、朝日がまぶしい。
 俺は飛び上がる気持ちを必死に抑えて、マンションへ向かった。
 目の前にはあの扉がある。
 よし、いくぞ。
 ――ピンポーン
 まだかまだか。
 ――ピンポーン
「はーい」
「ただいまー」
「……おかえりー」
 きっちり髪を決めたパジャマ姿のメイが笑顔で立っていた。             END

『クリスマス・ギフト』

サンタコス好きです。
赤と白、良いですね。
巫女とサンタコス、両方大好きです。

ふう、それと今のところ、書き馴れるしかないんかな。まだまだ書けそうな感じで終わり。

『クリスマス・ギフト』

サンタさん(青年)が、ある事件をきっかけに、女の子と親しくなるお話です。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-14

CC BY
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