ドラえもん最終回『宿題は、終わったのかい?』(さん)

(さん)

「のび太さん! お願い! 出て! のび太さん!」



その声の主はドラミちゃんであった。


ドラえもんは定期的に未来にいるドラミちゃんと連絡を取り合っており、いつの時代とでも連絡が取り合える『タイムテレビ』を常に枕元に置いていたのだ。



「その声はドラミちゃん?」



「のび太さん!? 良かった……やっと連絡が繋がったわ。」



ドラミちゃんはのび太の声を聞くと、安堵の溜め息をついた。




22世紀の便利道具の中に、『虫の知らせアラーム』という物がある。


これは、セットした相手の身に異変が起こるとアラームで報せてくれるというアイテムだ。


しっかり者のドラミちゃんは、遠く離れた未来の世界にいながらも、おっちょこちょいな兄ドラえもんの心配を常にしており、いつでも連絡がとれる様にしていたのだ。



「そっちで何か異変があったと思うけど、お兄ちゃんは大丈夫かしら?」



ドラミちゃんがそう言うなり、のび太は画面に飛び付いた。



「ドラミちゃん!! 大丈夫もなにも、ドラえもんが動かなくなってて、帰ってきたらポケットがタイムマシンで……いったいどうしたらいいのか!? ねえ、ドラミちゃん──」



のび太は今にも泣き出しそうになりながらも今の状況を必死に説明し、タイムテレビの画面を前後に振り回しながらドラミちゃんに助けを求めた。



「の…のび太さん、ちょっと落ち着いて。 何を言っているのかサッパリ判らないわ。 あたしに出来る事があったら何でもするから……」



ドラミはのび太の常態から何か緊急事態が起こっているとまでは判ったが、今の興奮状態でののび太の説明では状況がいまいち理解出来ず、とりあえず落ち着く様にのび太をなだめた。


そして興奮状態だったのび太も、言いたい事を言い切った為か、はたまたドラミちゃんになだめられた為か、少しづつ落ち着きを取り戻してきていた。


ドラミちゃんはそんなのび太の状態を見計らって、ゆっくりと質問を投げ掛ける。



「のび太さん。 お兄ちゃんが動かなくなっちゃったのね?」



「……うん。」



「お兄ちゃん、そこにいる?」



「……うん。」



「お兄ちゃんを見せてもらってもいいかしら?」



「……うん。」



のび太は元気なくそう答える。


今ののび太には、ただドラミちゃんを信じる事しか出来なかった。


のび太は袖で涙を拭うと、タイムテレビを押入れから取り出しドラえもんの前に置いた。




「う〜ん……。」



ドラミちゃんは動かなくなったドラえもんを見るや否や、何やら深く考え込んでしまった。



「どうなの? ドラミちゃん。」



そんなのび太の問に対し、ドラミちゃんは返答をせずまだ悩んでいる。



「ドラえもん、この調子でずっと動かないんだ。 やっぱり故障しちゃったんだよね……ドラえもん、治せるんだよね!?」



のび太はそう言うと、心配そうにドラミちゃんの返答を待つ。


ドラミちゃんはそんなのび太の反応を伺いながらゆっくり答えた。



「たぶん……電池切れだと思うわ。」



「……電池……切れ??」



のび太は完全に故障してしまったと思い込んでいた為、余りに単純な答えに一瞬意味が解らなかったが、直ぐにそれを理解しホッと胸を撫で下ろす。



「なんだそうか。」



よく考えれば電池切れなど極自然な事である。


例えば時計やリモコン等も電池やバッテリーが無いと動かない様に、ロボットであるドラえもんにだってその可能性があって当たり前なのだ。


まして、ドラえもんは昔からなぜか定期検査が嫌いで時期が来ると良く逃げ回っていた。


その度にドラミちゃんやのび太は、嫌がるドラえもんを捕まえ検査場に連れていくのに苦労したものだ。


しかしまあ、その苦労もむなしく殆んどが直前で逃げられており、のび太の知る限りでは一度も検査を受けているドラえもんを見たことがない。


今までにあったそういう出来事を思い返せば、ドラミちゃんの言う電池切れにも簡単に頷ける事が出来た。



「じゃあ、早く電池交換してよ。」



安堵したのび太の表情に対し、ドラミちゃんの表情はまだ暗く困惑気味であった。


それは何かを伝えなければいけない、だが言いずらい……まさにそんな表情である。


しかし、ドラミちゃんもこのまま黙っている訳にもいかず、言葉を選びながらゆっくりと口を開いた。



「のび太さん…………お兄ちゃんとの思い出、無くなっちゃうけど……いい?」



「?」



のび太はドラミちゃんの言っている意味が解らなかった。



「どうゆうこと? 電池を換えるだけでしょ?」



「それがね、そう簡単な問題じゃないの。 旧ネコ型ロボットは電池入れ換え時の補助記憶回路を耳に置いてるのよ。」



「???」



「でもお兄ちゃんは耳を無くしてるからバックアップがないの。 このまま電池を入れ換えるとお兄ちゃんの記憶がなくなってしまう…………お兄ちゃんとの思い出が消えちゃうの!!」



「ド、ドラえもんの記憶が消えちゃう!?」



「そんなばかな! 電池が切れただけなんだろ! 入れ換えれば治るんだろ!」



のび太にはドラミちゃんの言っている意味が難しくてよく解らなかった。


ただ、細かい専門的な内容は解らないが、電池の入れ換えをすると“ドラえもんの記憶が消えてしまう”、この言葉の意味だけは理解出来た。


しかし、だからといって「はい、そうですか」と簡単に受け入れる事など出来るはずもない。



「ドラえもんの記憶が消えちゃうなんて信じられるか!」



「落ち着いて、のび太さん。」



「どんなロボットでもエネルギーが必要なの。 特に精巧なロボットは重要な記憶だけ残し他は忘れて、より人間的な──」



ドラミちゃんはのび太をなんとか説得しようと言葉を続けたが、のび太はそんな話しを受け入れようとはしなかった。



「もういいよ! ぼくが未来の工場に連れていく!!」



のび太は融通の利かないドラミちゃんにタンカを切り、話しを切るように腕を大きく横に振った。


もちろんタイムマシンが使えなくなってしまっているのは判ってはいる。 


しかし、何時までも拉致の明かない話しを続けてるより、自分がなんとかしてでも治してみせる。


また、そう思う強い気持ちがのび太にそう発言させていた。



「のび太さん……ごめんなさい。 今そちらの時代への干渉は禁止されているの。」



ドラミちゃんは困った表情を浮かべながら、更に言葉を続ける。



「あたしも虫の知らせアラームを聞いて飛んできたんだけど、タイムパトロールがこれ以上進ませてくれないのよ。」



「話しも聞いてくれない。 こんな事は初めてだわ。」



ドラミちゃんはそう言うと画面から視線を外し前方周囲を見回した。



実は今、ドラミちゃんは21世紀の未来から連絡しているのではなく、タイムマシンでこちらに向かっている途中の時空間からやり取りしているのだった。



「なら、ポケットから道具を出して……」



「お兄ちゃんが機能停止している間、ポケットも使えないわ。 それにそんな精密な改造は、あたし達の手に負えない。」



「だったら作った人を呼んでよ!!」



「設計者の所在は超重要極秘事項なの。 残念だけどあたしの記憶にも何重にもプロテクトがかかってるわ……。」



ドラミちゃんの駄目だしを受けるや否や、のび太は大きく息を吐きだし倒れこむ様にうなだれた。


のび太にはこれ以上、他の方法が思い付かなかった。



『ドラえもんを治したい!』



幾らこの気持ちを強く持ったところで、出来ないものは出来ない、ただその事実を思い知らされるだけであった。


ドラミちゃんも、落ち込むのび太に掛ける言葉が見つからなかった。



「のび太さん……」



ドラミちゃんは何かを伝えようとしたが、途中で言葉を止めた。


実は、ドラえもんを直す方法が無いわけではないのだ。


ただ、その内容は落ち込むのび太に対し、更に拍車を掛ける様なものだったからだ。


しかし、何時までもずっとこうしては居られない。


ドラミちゃんは意を決し言葉を続けた。



「のび太さん……。 お兄ちゃんがこうなってしまった今、もしかしたらタイムテレビを回収されるかもしれないわ。」



「選択肢2つ……」



「1つは、未来の工場で電池を入れ換えること。」



「今ならまだ、タイムパトロールを誤魔化せるかもしれないわ。 お兄ちゃんの記憶は消えちゃうけど、また一緒に生活出来ると思う……」



「そしてもう1つは……そちらの時代の、未来の技術に期待してこのまま……」



ドラミちゃんは今ある現状、そしてこれから出来る方法、解決策などの全てを伝え、明日までに結論を出してもらう様に伝える。


のび太にとっては余りにも突然で、余りにも残酷な選択であったが、時間の猶予もなくドラミちゃんもこれ以上は何もしてあげることが出来なかった。



(つづく)

ドラえもん最終回『宿題は、終わったのかい?』(さん)

ドラえもん最終回『宿題は、終わったのかい?』(さん)

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-01

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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