信じる人々

まえがき

 宗教と言えば、神社仏閣や教会など、建物・施設を思い出す人もいれば、クリスマスや法事・神事などの行事を思い出す人もいるだろう。

 多くの宗教団体は自らの教えを広め、信者になってもらうべく活発に活動している。しかし、中には表立って教団名を言わないため、すぐには判別がつかないこともある。いや、むしろあえて姿を隠して会員を募り、その会員を必死に教団へ勧誘するサークルもある程である。

 これはひっそり姿を隠し、しかし激しく勧誘活動に取り組む宗教系サークル・イベントへの潜入記録である。

水野 松太朗

◎神とエイズとゴミ拾い(統一協会)

○序章
 ある日学校内をぶらついていると、「エイズ問題や性問題、生き方について考える」という目的を持ったサークルに遭遇した。丁度薬害HIV感染訴訟支援運動等に参加していたこともあり、このサークルに非常に興味を持ち、取り敢えず説明会に参加することにした。

 説明会は外部から講師を招いての「エイズ教育プログラム」みたいなもので、内容的にはやや難しめで分かりにくいものだったのだが、全体的に真面目な雰囲気のサークルだったので加入することにした。幸いにも(?)、部費は不要だった。しかしこの入部が悪夢の始まりであった・・・。

○「部長」の不可解極まる言動

 「部長」は自然科学系の院生であった。そして何度か雑談する機会があったのだが、妙に言動が不可解なことに気付く。

「この世界は絶対的創造主が創られたという『学説』が最近発見されてねぇ?・・・。既に論文として出版されてるんだよ、ホラ。」

 オカルトめいた表紙の新書の本を差し出されながら、そんなことを言われた。自然科学を学ぶ者としてはかなりトンデモな発言だ。此処で彼が何らかの宗教の信者である事に薄々気付く。しかし「この説を『科学』呼ばわりするのはついていけんが、『思想・信教の自由』は尊重しなくては。」と余り気にしなかった。

○運動に誘ってはみたものの

 表向き学習サークルのはずだったが、実際は「奉仕活動」(ゴミ拾い等)が中心だった。う?む、これはこれで意義のある活動とは思うが、当初の目的とはちと違うなぁ・・・。一応「エイズ問題を考える」サークルなのだからと思い、「部長」を「HIV訴訟を支える会」地方支部に思い切って誘ってみた。何度かは顔を出してくれたのだが、数回で来てくれなくなってしまった。誘っても「一体君たちは何を目的にしてるんだ!?」と攻撃的な態度をとってくるようになった。

○資料で分かったその実態

 どうもサークルの方針に疑問を抱き始めた自分は、彼らが最初の学習会で配った「資料」をもう一度読み返すことにした。そこで「光言社」という出版社の書物が参考文献に使われていることを見つける。どこかで聞いたことあるこの出版社について、「雑誌新聞総かたろぐ」(メディア・リサーチ・センター)をはじめとする出版社紹介の本などで徹底的に調べた。するとここは何と統一協会機関紙「中和新聞」の発行元ではないか!更に最初の学習会の講師について身元を洗ってみることにした。「WFWP支部会長」という肩書きだったが、WFWPは「世界平和女性連合」の略であることを知る。そして「世界平和女性連合」は統一協会のダミー団体との事であった。ヤバい!こいつら間違い無く統一協会だ!

 一応「部長」の後輩の部員に確認を取ってみると、彼は

「ああ、学外スタッフの某さんは統一協会の信者らしいですよ。オレは『部長』と他のサークル(運動部)で知り合いだから付き合いで入ってるんですけど。」

と発言。あ?、決定的だ!これはすぐにでも離れねば!いや、それだけじゃなくてこのサークルを亡きものにせねば!!!取り敢えず連絡先を知っている部員に片っ端から連絡し、このサークルの関係者に一切近づかないように訴えた。他の部員はサークルが統一協会関係だということを全く知らず、一様に驚いていた。

「連中と一緒に飯も食っちまったことあるよ。どうしよう・・・。」

と困惑する部員もいたが、とにかく毅然とした対応をするよう呼びかけた。そして、自分も次の集まりのときに脱会をアピールしようと決意した。

◎脱会の日

 脱会宣言をしようと決めた日、その日も「奉仕活動」として駅周辺のゴミ拾いをやった。学外スタッフの某氏は、その日は何故か自分に頻りに声を掛けてくる。

「いや?、僕は韓国に非常に興味があってねぇ。」

「性退廃の問題って矢張り深刻だよねぇ。」

(統一協会は教主の許可無く性交する事を禁止する「純潔主義」を貫き、性教育に反対している。反エイズなのも「エイズ=性病=反純潔・退廃」という発想のため。)

あああ、統一協会信者の典型的発言だ。今まで気付かなかったオイラって相当鈍かったかもしれん。

 近くのファーストフードショップで食事しながら雑談することに。自分は脱会宣言をするタイミングを伺う。何しろ他の部員は自分の脱会勧告によって活動には参加していない。周りはほぼ全員が統一協会の息のかかった連中、何をされるか分かったもんじゃない。慎重に慎重に・・・。

 話題が丁度「オウム事件」に飛ぶ。これはチャンスだ!連中の化けの皮を剥がすのは今しかない!!

(以下会話再現)

統一協会員某氏(以下某)「オウム事件ってホントにひどいよね?。矢張り思想的に間違った狂信者集団だから。」

自分(以下水)「あ、でも狂信的なカルト教団と言えば統一協会も外せませんよ。」

某「(怪訝そうな顔をしながら)・・・何?その統一協会って。」

私「キリスト教をトンデモに解釈した韓国生まれのカルト教団ですよ。『純潔主義』を言いながら『血分け』という性交を介した儀式をして教組が逮捕されたり。」

「部長」(以下部)「・・・つまり『淫教』って事?」

水「ですね。他にも一般市民をマインドコントロールして『合同結婚式』や『霊感商法』で壺などを売りつけて法外な金を取ったり、珍味や高麗人参茶、あとメッコールっていう怪しい飲みものを売り歩かせたりして社会問題になってる集団ですよ。元歌手が信者だったり、元スポーツ選手が脱会の記者会見やったり、苦情も多くてTVのワイドショーなんかで結構取り上げられてますからメチャクチャ有名ですよ。本当に知らないんですか?」

 周囲の表情がみるみる変わっていく。怪訝そうな顔をする者あり、悲しげな顔をする者あり。世界平和女性連合支部会長の女性は明らかに敵愾心を剥き出しにこちらを睨みつけている。自分は以前このサークルで配布された資料をテーブルに叩きつけ、畳み掛けるように話を続ける。

水「学習会で頂いた資料の参考文献にやたら出てくる『光言社』って出版社、統一協会の会社じゃないですか。あなた方統一協会なんですか?もしそうなら僕は二度と此のサークルには関わる気はありませんし、そうでないというなら、こんな団体との関係は即刻絶ってください。」

部「でも思想の自由があるから・・・。」

水「何言ってんですか!行動が明らかに反社会的でしょう!それが問題になってるのに思想云々は関係ない!」

 全員黙り込む。決定的だ。もはやこれ以上の会話は不要、いや、むしろ危険である。何かされる前にとっとと退散する。出口を出る際振り向きざまに、

「某さん、あんた統一協会の会員なんでしょ。」

の捨て台詞を残して。

○その後

 その後も性懲りもなく、一度だけ学習会を開いていた。取り敢えず自分も潜入し、隣になった下級生らしき人に、

「彼らは統一協会だから、もう近づかない方が良いよ。」

と注意を促す。しかし彼はヘラヘラ笑いながら、

「何それ??」

と一言。糠に釘だった。どうやら自分を除いては「動員」された連中だったようだ。それ以降部員募集ポスターは貼ってあったものの、幸いにも学校内では一切表だった活動は無くなった。

 学生に知的好奇心は必要不可欠だと思う自分だが、注意深く事実を見極める目というものも養わねばならない。何とか命が助かった今回に限っては、「良い教訓」となったのかもしれない。


◎健康と幸せを祈られてみたら・・・。 (神慈秀明会)

 1980年代頃から1990年代後半頃迄、「あなたの健康と幸せを御祈りさせて下さい」と手当たり次第に通行人に声をかけている人達を見かけた事は無いだろうか?

 筆者も彼等に何度か声を掛けられた。最初は気持ち悪く感じ、声を掛けられても「急いでるので・・・。」と振り切るだけだった。しかし、オウム真理教事件以来カルト関係に強い興味を持つ様になり、彼等についても非常に気になる様になっていた。彼等は一体何者なのだろう?好奇心がてら、思い切って祈られてみる事にした。

 その日も20代後半から30代前半位の女性が2人1組で駅前で布教活動をしていた。時間は夕方頃。わざと声を掛けられ易そうに、彼女等の近くをゆっくり歩いてみる。案の定声を掛けられた。

「あなたの健康と幸せを御祈りさせて下さい。」
「えっと、どんな風にすれば良いんですか?」

丁寧に御祈りのやり方を教えてくれた。御祈りは「浄霊」というとの事。祈られる側は頭を少し垂れ手を下に組み、祈る側は相手の垂れた頭に右手を翳す。そして互いに目を閉じ、祈る側が「明主(めいしゅ)様有難う御座います」と3回唱え、1分程度無言でその姿勢を維持する。そして時間が来たら再び祈る側が「明主様有難う御座います」と3回唱え、御祈りは終了する。御祈りが終わると教団の説明に入る。

「私達は神慈秀明会(しんじしゅうめいかい)。観音様を信仰し、浄霊を世界に広める団体です。」

聞いた事無ぇ団体だなぁ。観音(観世音菩薩)ってことは仏教か?しかし教団名には「神」が付いてるし、神仏習合なのかしら?彼女等の話が続く。

「今から一緒に道場に来て修行して下さい。」
「い、今からですか!?いや、今はちと用事もありますし、急に修行なんて言われても良く分かりませんし・・・。」
「では連絡先を教えて下さい。後日連絡します。」

いきなりの修行の誘いでかなりビビった。そしてうっかり自宅の住所を教えてしまった。独り暮らしだから同居人に迷惑を掛けるなんて事は無いが、当時カルト絡みの事件が頻発していたにもかかわらず随分軽率な行動であった。反省・・・。

 自宅を教えてしまった為、彼女等は自宅を頻繁に訪れるようになる。家に上げて居座られては困るので、「家の中は散らかってるので・・・。」と言い訳し、玄関で応対する。最初は彼女等が勝手に祈って自分は祈られるポーズを取ってボーッとするだけだったが、次第に「あなたも明主様のために祈って下さい。明主様に感謝の言葉を述べて下さい。」と、自分も「明主様有難う御座います」と唱えさせられる様になった。信じてもいない、それどころか存在そのものすらよく分からない「明主様」に対して「有難う御座います」と感謝の言葉を何度も唱える様強制される事を、段々鬱陶しく思う様になってきた。自分で蒔いた種とはいえ、良い加減何とかならぬか・・・。そうだ、取り敢えず彼女等の個人情報を掴もう。名前と連絡先を押さえれば、注意喚起や場合によっては法的措置もスムーズに行なえる。此れだ!

 てな訳で、当時関わっていた薬害患者支援の請願署名用紙に住所氏名を書いてもらおうと試みる。書いてもらえば個人情報を掴めて署名者数も増えて、まさに一石二鳥。

「そ?だ。ついでと言っちゃ何ですが、健康と幸せを祈るという繋がりで医療関係の署名を御願いしたいのですが・・・。」

すると急に彼女等の表情は強張り、態度は豹変。

「何ですかこれは!?一体何をさせる気ですか!」
「いや、議会に提出する請願署名ですよ。住所と名前を書いて下さい。宗教者なら弱者を見捨てるなんて事はなさらないでしょう?ましてや健康と幸せを祈る宗教であれば医療や福祉の関係には熱心に取り組まれるのでは・・・。」
「危ないです!あなた、危ない集団の一員ですか!」
「いやいや、人助けが危ない訳無いですよ。あなたも宗教者なら少しでも人を助けたい、人の役に立ちたいと思いますよねぇ?」
「こういう目に会う人間は心が穢れている証拠です。私達は世界を根本から治しているのです。こんな紙切れは全く役に立ちません。浄霊以外では何も解決しないのです。」
「いや、ちょっと待って下さいよ。支援の対象になってる人には何ら落ち度が無いんですよ。穢れてるとか言って患者等を責めるだけで助ける気が全く無いんですか!?それでも本当に健康と幸せを説く宗教者ですか!?」

彼女等の「病気は患者の自己責任だから助けてはならない」と言わんばかりの発言に怒りを感じ、こちらの語気も荒くなった。それに恐れをなしたのか彼女等は一目散に逃げた。腹が立っていたので後は追わなかった。次の日から自宅訪問はピタリと止んだ。

 その後も何度か街頭で信者を見かけた。議論を試みるも、家に来られたときと同じようなやり取りが繰り返されるばかりであった。中には「何だ!」と怒鳴りつけてくる信者もいた。又、最初に会った信者2人を見る事は2度と無かった。

 神慈秀明会とは、世界救世教(略称「MOA」)を源流とする「手かざし」系宗教の一派である。随分後で知った事だが、「明主様」とは世界救世教教祖であり、神慈秀明会の信仰対象となっている岡田茂吉の事だという。観音信仰というのは嘘だったのだろうか?はたまた岡田茂吉を観音と同一視しているのだろうか?

 筆者が中学生の頃には、通っている中学校周辺にも出没し、登下校中の生徒にも布教活動を行なうので、教師が「怪しい連中だから絶対相手にするな!すぐ逃げろ!」と注意を呼びかけていたものである。出没場所は学校や駅周辺だけではなく、夕暮れ時に公営図書館周辺で帰宅途中の中高生を捕まえて布教活動をする年配の女性信者を筆者は目撃した事がある。強引な勧誘で信者や勧誘対象者が日常生活に支障をきたした事や多額の強制献金などが問題となった事、オウム事件以降街頭での宗教活動が好意的に見られなくなった事等もあってか、現在では街頭での布教活動もめっきり見られなくなった。彼等は今、何処で誰の「健康と幸せを御祈り」しているのだろうか・・・。

◎手をかざせば農薬も平気???(崇教真光)

 地元の学校の学園祭に、突如見慣れぬサークルが現れた。その名も「L.H.陽光研究会」。「自然と農業を考える」というテーマで展示をするらしい。「L.H.」が一体何を意味するのか妙に気になり、覗いてみる事にした。

 会場の教室に入ると、机の上に飲み物や御菓子が置かれ、学生たちが歓談している。部屋の両脇には説明文付きの畑を耕している人のイラスト。そして2組程何やら儀式めいた事をしている人達がいる。互いに目を閉じ、1人は合掌しながら頭を垂れ、もう1人は垂れた頭に手をかざし・・・、何かしら???

 主催者の男性が話を始める。20代後半位かしら?

「2つのコップにコーラが注がれてますよね。飲み比べてみて下さい。違いが分かりますか?」

両方飲んでみる。特に違いは感じられない。他の見学者が

「一方はもう一方に比べて炭酸が抜けてる様な気がする。」

と回答すると、

「そうです。炭酸の抜けてる方は、先程私達が手をかざした方なのです。」

と主催者。手を翳すだけで炭酸が抜ける?んな事あるんか??抜けてるとしても、単に注いで暫く置いたからではないのか?

「今もやってみますね。こちらの方に手をかざして・・・、(暫くしてから)さあ、飲んでみて下さい。」

飲んでみる。矢張り違いが分からない。しかし別の見学者が

「あ、こっち(手をかざした方)は何となく気(炭酸)が抜けた様な・・・。」

と答えると、

「そうでしょう。」

と主催者。う?む、どうも解せんなぁ・・・。

 主催者が話を続ける。

「この世界には様々な有害物質が溢れています。然し人間にはそれを浄化する力があるのです。手をかざして祈れば、人や物の中に有る有害物質を綺麗に浄化出来ます。農薬が使われた土でも、手かざしによって浄化すれば無農薬と同じ野菜を作る事が出来るのです。」

手をかざすだけで有害物質を取り除く?!?余りの突飛な話に耳を疑った。手をかざすだけで有害物質の除去が可能なら、化学、物理学、工学、農学、医学、薬学など、大半の自然科学は無駄若しくは嘘という事になってしまう。それにちょっと待てよ?この論理だと「有害物質を控えたり避けたりする様心掛ける」という発想には至らず、「農薬等の有害物質を使いまくっても『手かざし』で全部消せるから万事解決」という事になりはすまいか?

「皆さんの健康も御祈りして差し上げます。こちらへどうぞ。」

と、御祈りの時間に入る。成る程、さっき端で儀式みたいな事をしてたのは此の「手かざし」をやってたのか。

 胡散臭いと思いつつも、入ったからには全てを体験してみねばと思い「手かざし」を受ける事にする。取り敢えず肩凝りが酷かったので、肩に手をかざしてもらう事にする。自分は指導者の人にしてもらう事になった。

 自分は指導者の人に背中を向けて座る。そして彼は肩の辺りに手をかざし始めた。

「あぁ、随分パワーを感じますね。そちらはどうですか?」

「いや、特に何も・・・。」

「そうですか?こちらはかなりパワーを感じるんですけどねぇ。」

いや、感じられてもこっちにゃ全然変化無しなんですけど・・・。手かざしを受けながら会話が続く。

「私達は崇教真光(すうきょうまひかり)というんですよ。こうやって自然についてや人の健康や幸せを御祈りする活動を実践しています。」

 これが崇教真光か?。団体名は聞いた事があるが、実際の信者と話をするのは初めてである。そして真光が「手かざし」系宗教団体の1つである事もその日初めて知った。

「パワーを感じませんか?では少しポーズを変えてみましょう。合掌して目を閉じ、頭を垂れてみて下さい。」

これって最初入った時にいた人達がやっていたのと同じポーズ・・・。モノホンの宗教団体の人に信じてもいない宗教の儀式ポーズを指導されるのは非常に抵抗感があった。しかしもう少しの辛抱。ここは我慢してやってみるしかない。言われるままにポーズを取る。

「どうでしょう。今度はパワーを感じるはずですが。」

「いや、これでも何も感じないのですが・・・。」

「おかしいなぁ、こちらは非常に強いパワーを感じているのですが・・・。本当に何も感じないのですか?」

「いやぁ、本当に何も感じないんですけどねぇ・・・。」

「そうですか・・・。まあ初めてなので分からない事もあるかもしれません。」

「初めてだからパワーに気付かない」という結論にされてしまった。

「手かざしのパワーは継続する事によってドンドン強まります。続けて受けて下さい。」

効果も無いし信仰心も沸かないし、余り継続したくないなぁ・・・。

 崇教真光は、世界救世教(MOA)から分かれた世界真光文明教団の、その又分派の団体である。情報発信は活発であり、特に文書による布教活動が盛んで、機関紙「陽光ライフ」は時々無料で各家庭やアパート等にポスティングされるので、読んだ事がある人も居るかもしれない。「手かざし」系団体の中ではメジャーな部類と言えよう。政治的には保守・右派的であり、信者の八代英太を始め、自民党候補の支持・支援を行なっている。民社党や横山ノック等と統一会派を組んでいたスポーツ平和党の元党首アントニオ猪木も崇教真光信者である。「L.H.」は、陽光だから「LIGHT&HEAL」(光と癒し)の略か?などと思っていたが、実は「LUCKY&HEALTH」
(幸運と健康)の略だと知ったのは随分後の話である。

 食の安全が重視される現在、崇教真光は今日も何処かで食べ物や畑の土に手をかざし、有害物質除去に励んでいるのかもしれない。

◎素晴らしい公開講座!? (浄土真宗親鸞会)

 ある年の6月頃、当時自分の通っていた学校の中で「公開講座」の参加者募集を積極的に行なっている若者がいた。学校内で学生がやるイヴェントとしては少々時期外れという気もしたものの、自主的な講座や勉強会等に参加するのが結構好きな自分は「何の公開講座だろ?」と聞いてみる事にした。

「あの、何の公開講座ですか?興味ある分野の物なら参加してみたいんですが・・・。」

「そうですか!では今から此方に来て下さい!」

小柄で小太り、そして四角い黒淵の分厚い眼鏡を掛けた20歳前後の男性に物凄く近い距離に顔と体を近づけられながら(引いても間を詰めてくる)、半ば強引に会場となる小さな空き教室に案内される。参加者は勧誘を行なっていた男性と自分の2人だけ、まさにマンツーマン。どう見ても「公開」されてる様には見えないんですけど・・・。おまけに何の講座かっていう質問にも答えてもらってないし。いや、主催団体すら聞いてないぞ。・・・ま、いいや。取り敢えず相手の話を聞くだけ聞いてみよう。

 バインダーに入ったイラスト入りの説明パネルをパラパラ捲りながら話してくれた。内容は要約すると此んな感じである。

「人はこの世で生きているが、此の世の幸せを追求する事等に一体何の意味があろうか?どんなに御金を稼いでも、どんなに立派な行ないをしても、所詮死んでしまえば結局全ては無に帰し、全くの無駄、無意味である。本当の幸せとは、御金等とは別の物なのではないだろうか?御金や名声といった此の世の幸せ等という目先の利益への欲望を一切捨て去り、本当の幸せを追求する為に真実を学ぶべきだ。」

現世で生きる意義を徹底的に否定した、何とも絶望感に満ち満ちた内容である。余りにあんまりな内容だったので、

「あの、自分に限らず人はいつか死にますが、人が築き上げた財産も、行ないの結果も後世の人々に引き継がれますよね。今生きてる自分達も先人達の築き上げたもののおかげで生かされてるんだと思いますし、社会に生きている限り人の人生が無駄なんて事は有り得ないと思うんですが・・・。」

と感想を述べたが、それを遮って、

「どうでしょう?もっと学んでみませんか?」

と更に誘いが続く。学校近くで集まりを開いているというので、「こうなりゃ毒を喰らわば皿まで」と思い、付いて行く事にした。歩いて数分、1部屋が2階分使える広めのアパートへ到着。入口に表札は無く、昼間にも拘らず窓は分厚い濃紺のカーテンが閉めてある。中に入ると、会員と思しき若者や誘われたと思しき学生達が数名歓談していた。壁にはホワイトボードのカレンダーが掛けてあり、「講座」「合宿」等とスケジュールがびっしり書かれている。本棚に目をやると、親鸞の生涯を描いたアニメのヴィデオテープ(出演:中尾彬、日色ともゑ他)が置いてある。成る程、浄土真宗系、少なくとも仏教系の新興宗教か・・・。

 指導者と思しき男性に声を掛けられる。年の頃は20代半ば位かしら?

「僕達は素晴らしい事について学習してるんだよ?。君も合宿に参加しようじゃないか。空いてるスケジュールを教えてね。」

「あの、素晴らしいって具体的にはどんな感じなんでしょ?」

「素晴らしい事だよ?。いつ合宿に参加するの?」

「いや、どう素晴らしいのか・・・。」

「素晴らしい事だよ?。いつなら参加出来る?」

全然答えになってないっつーの。幾ら具体的内容を聞こうとしても、とにかく「素晴らしい事」の一点張り。そして強引に空き時間を聞き出して合宿に組み入れようとするばかり。

 こりゃもう耐えらんねぇやと思い、「他の予定が確定してから伺います。」と言い残し、出された茶を飲み干して逃げる様にその場を立ち去った。彼等に関わると時間の浪費でそれこそ「全く無意味で無駄な人生」を送らされると感じ、2度と関わるまいと思った。

 校舎に戻ると、別の信者が定例校内演説会を終えた左翼系団体の活動家達を勧誘していた。ガチガチのマルキストに偏狭な仏教思想めいたものを説いたって時間の無駄だってば・・・。案の定活動家は呆れる様な、そして若干哀れむ様な表情で信者を見ていた。

 彼等の正体は浄土真宗親鸞会。サークルとして活動している所では「歎異抄研究会」等の名前を使っているとの事である。信者の学生が布教活動に専念させられ余り学校に出席出来なくなったり、家族と連絡が取れなくなるなどの問題が相次ぎ、それらの問題を告発するサイトも開設されている。今考えると、「御金を稼ぐのは無駄」と強調していたのも、「金は全く無駄なものなのだから持つべきではない。捨てたと思って、全財産を教団に寄付しなさい」と命令する為の方便だったのかもしれない。他にも全財産寄付を強要して問題となった集団が幾つか有ったが、それと同じ様な気が・・・。

 彼等は今も何処かであの「公開」講座を開いているのだろうか・・・。

◎神の前で仏(!?)を語る(幸福の科学)

 地元のミッション系学校の学園祭を廻っていると、1つ気になるサークル展示を発見した。「人生を考える」というテーマでの展示。然し学校公認の基督教系サークルとは違う模様。覗いてみる事にした。

 会場の教室に入ると、明るい感じの若い学生風の女性がで迎えてくれた。

「今日はー。入場料500円です。」

何!?サークル展示なのに入場だけで金取んのか!?!?しかしここで引き下がってしまっては彼女等の実態を掴むチャンスを逸してしまう。ここは我慢して、泣く泣くなけなしの500円を払う。

 先ずアンケートを手渡され、回答する様指示される。生きる価値や生き方等、如何にも哲学的・宗教的な質問が20問程並ぶ。適当に回答し、係りの人に手渡す。後で設問に関して解説があるとの事で、出された茶を啜ったり菓子を摘んだりしつつ解説の人が来るのを待つ。

 解説の人が此方に来る。受付で案内をしてくれた女性だ。最後の設問「自分に危害を加えた事のある人が改心した時、自分は彼を許す事が出来るか?」という質問に「出来る」と答えた事に随分興味を示され、

「ホントに出来ますかー?」

としつこく聞かれた。適当に答える。

「いや、確かに腹は立ちますけど、相手を許すという姿勢でないと、いざ自分が失敗してしまった時に自分も相手から非難だけされて許されない様な気がして・・・。許し許されるというのが信じられないと、立ち直りたいと考えていても実際に立ち直るのが難しくなると思います。ま、願望を多分に含んでますが。」

「そうなんですかー。実はですね、こんな話が有るんですよ。」

と、彼女は語り始めた。要約するとこんな内容である。

「盗みや強盗、傷害等、悪の限りを尽くした男が居た。或る日、いつもと同じく強盗を働こうとしたが、ヘマをして瀕死の重傷を負い行き倒れてしまった。彼の普段の行ないを知ってる人々は『普段の行ないが悪いから罰が当たったのだ』と、男が助けを求めても無視したり罵ったりして通り過ぎていった。『俺はこのまま死ぬしか無いのか・・・。』と絶望していた其の時、1人の人に助けられた。『自分の様な人間でも助けてくれる人が居た』と男は感激し、此れ迄の自分の行ないを反省した。そして改心し、修行を積み僧侶になった。」

 う?む、基督教にも通ずる「無償の愛」や「赦しと回心」の話だな。「良きサマリア人の話」もこんな感じの話だったような・・・。然し「僧侶」という事は矢張り基督教系ではなさそうだ。そして、

「私達は幸福の科学と言いましてね、・・・」

と切り出され、話は教団の説明に移っていった。な?んと、幸福の科学だったのね。名の知れた教団だが、実際の信徒を見るのは初めてだった。

 帰る際、教祖大川隆法の著書を1冊と、トレーディングカード等と同サイズのラミネート加工されたメッセージカードを貰った。カードには大川の著書から引用された言葉が書かれていた。本は後日ざっくり流し読みした後、即行で新古書店に売り飛ばした。新品だったが売値は100円だった。

 幸福の科学は東大法学部を卒業した大川隆法(中川隆)が始めた宗教。教義は仏教を中心としながらも、有りと有らゆる宗教の教義を混ぜ合わせた混合宗教である。文書による布教が盛んで、系列の出版社「幸福の科学出版」より多数の本を出し、新聞や「正論」(産経新聞社)等保守・右派系の雑誌に大きく広告を載せている。又、無料の広報誌がポスティングされる事も多い。

 政治的には保守派・右派であり、政治問題を扱う機関誌「The Liberty」で度々自民党支持・野党批判の記事を発表したり、単行本で「清和会」(自民党の派閥。森・小泉・町村派)代表だった三塚弘を持ち上げる「三塚弘総理大臣待望論」を発刊したりしている。大川の著書の中には「日本は妾国家中国朝鮮を再び強姦する」等、愛國的・反中嫌韓的言動も有る。かつては創価学会批判も熱心に行なっていたが、自公連立政権成立後は鎮静化している。

 漫画家のさとうふみや、俳優の小川知子、作家の故・景山民夫等が著名な信者である。タレントの所ジョージは景山から大川隆法の著書を大量に貰い、扱いに困ったという。又、小川と景山を中心とした講談社の写真週刊誌「FRIDAY」への抗議活動・不買運動は有名。

 それにしても、身元を隠しているとは言え基督教系の学校で他宗教が大々的に布教活動を行なうとは・・・。凄まじい度胸である。

信じる人々

あとがき

 上記以外でも、例えば創価学会や摂理(統一協会の分派)、ヨハン早稲田教会、右翼・左翼などの政治系、自己啓発セミナー関係などのサークルが、正式な団体名とは異なるサークル名で活動している例が散見される。また、ミッションスクールなど宗教系の学校では、YMCAや聖書研究会、仏教会などの宗教・思想系サークルが公認サークルとして活動していることが多い。また顕正会なども、身分を隠さず激しい勧誘活動を行なうことで知られる。一方、街頭での勧誘活動はオウム真理教(現「Aleph」)等による事件後少なくなってきている。

 正体の分からない宗教系サークルやイベントへのコンタクトは、得体が知れない相手と話すということもあって様々な困難を伴う一面もあるが、慣れてくれば「○○は××系」と見破ることがパズルのように面白くなる・・・かも?

信じる人々

カルト教団潜入体験レポート。

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 冒険
  • サスペンス
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-09-19

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