飛ぶ女。
ハッとして目が覚めた
見慣れた電車の風景だけれども、乗っている人に腹が立つ。
ぶっ飛ばしたい。
素知らぬ顔で小説を読む四十ぐらいのおっさんのメガネ割りくさりたい。
おばはんのわけの分からぬビニール袋のこんにゃくの袋破りくさりたい。
2人の世界のカップルの大事そうに握り合った手を解きくさりたい。
かかとおとしかかとおとしかかとおとしかかとおとしそんなんちゃうねん、もっとでかいイメージじゃぼけ、ついてこいや。
手すりを両手で持ち、勢いつけて身体を回す。ぼっこぼっこぼっこぼっこぼっこぼっこぼこぼこぼこというのはちゃうな。振り回す感じじゃ、ついてこいってゆうとんねん。
振り回した足が勢いをつけて、風を纏って風の刃が出来る。
ふわっと浮いた体の行方を誰が知る。
誰も知りたあないわと口を開く小学生。
トラッキングシューズを脱ぎ捨てて、まわる。そんなふわふわしたイメージちゃうねん、もっとでかい壮大、言葉、足りない。
苦しそうに目を閉じると円中の花火がグルグル回って心拍数を上げて行く。赤と黄色と青とビビットな色の染色体が飛び交う。
どこまでこの感情を信じたらいいんやろう。
{乗っかってこいよ}
風が吹く。
瞼に風が侵入する。
スースースースースースースースー
{飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ飛べ}
どこまでいけるねん。うるさいわ、しゃべんなボケが。お前のことなんか誰も見てへんわ。勘違いすんな。しゃべんなしゃべんな、ぶち殺すぞ。あー、そんなんゆうてええんか。お前が俺のこと呼んだんちゃうんか。都合ときだけ呼んで帰れゆうなんてそれは話しちゃうやんけ。うるさいわ、ぼけぼけぼけ。失せろ失せろ。しねしねしねしねしね。飛べや、なあ、飛べや。磯辺焼きあるで、飛んだらあげるで。やから飛んで見せてくれや。
ああ、もうなんやねん。
アイプチで二重にした目が重い。
目だけ別の生きもんみたいに鼓動を始める。
手すりに握る手が熱い。壊したい壊したい壊したい。破壊じゃなくて生まれ変わるんや、私をこんなもんじゃないやゆうたんはお前ちゃうんけ、出てきてくれや。頼むわ、引っ張ってってくれや。もう天王寺や、頼むわ。もう夜が溶けて朝になんねん。はよはよはよはよはよはよ、お願い。なんでもしたい。私なんでもしたいねん。
呆け、お前次第じゃ、期待すんな。お前のことなんて誰も気にしてないわ。小さい箱にとどまってるお前なんて一生そこおれ。手すりが冷たくなる。素知らぬふりして体温を失って行く。わかってるねん、わかってるねん。
鏡に映るえげつないほうれい線の己。
誰がみとるゆうねん。
わろてわろてわろて、そんなんゆうたらわらうしかないやん。スマホでスースーしとってわろたらええねん。
それでええんか、ストイックにいけや。飛べるゆうたんおまえちゃうんか。
やれよ。やれよ。
とべ
とぶ。
飛びたい。
ほんま飛びたい。
あいつのあいつのあいつの頭を飛び越えて。
いや、そんなんちゃう。もっと大きなもん飛び越えて空になるんや。
ちゃうな、飛び越えてあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああもう
飛びたい。
見ててや、私飛ぶ。
ほんまに飛べる女になるから。見てて欲しい。
あんたに見てて欲しい。
それでええわ、ええか。見てるか。お好み食うとる場合ちゃうで。あんたにゆうてんねん。クラブで踊ってんちゃうで。誤魔化すな。こっちこい。
飛んでんの見ててや。
な。
いくで。
飛ぶ女。