ピュワ・アイズ
これはマスコミ探偵と呼ばれるシリーズです。漫画原作用のためシナリオ形式になっています。
ライブハウスの前に行列、満員の男性達、ざわついている。天気は台風の影響で土砂降りだ。
奈菜「今日の『そこんとこ教えて!』はアイドルグループのホワイト・チョコメンバーに密着します。本日も七瀬奈菜がレポートします。ごらんください。こんな土砂降りの中、ステージを見ようと行列を作ってます。この行列!熱気!ライブ会場前は男性で行列になってます。」
会場をパス。中にはピースのファンでごった返す。七瀬奈菜は少し抜けた女性レポーター。年は二十三歳。主人公で探偵役。スーツを着ている明るいタイプ。
番組「そこんとこ教えて!」は何でも疑問に答える密着型の番組。この奈菜にレポーターにかわってから、収録で殺人事件に巻き込まれることが多くなった。本日のテーマは「アイドルグループ・ホワイトチョコの一日」。ホワイトチョコはファン密着型のアイドルグループ。イメージはAKB。
奈菜「今年のホワイト・チョコの総選挙で、センターが指原(さしはら)志津香から高城美宥(みう)にかわりました。彼女たちは熾烈ながら輝きのポジションを争ってます。おっと!」
男性客に押されよろめく奈菜
奈菜「なにすんのよ!いやいや、この素晴らしい舞台は夕方六時開演します。今から舞台裏に密着っ!」
宗像「はい!OK。」
いつもながらやる気のなさそうなチーフ・ディレクターでニヒルなイケメンの宗像疾風がOKを出した。容姿は長髪でイケメン、手足は細くシンプルな服装。ヘッドセットを首にぶら下げている。30歳台前半、仕事、スポーツ万能タイプだがぶっきら棒が玉にきず。でも、事件の鍵をひねり出す役目。
奈菜「宗像さん!盛り下がるからもう少し覇気持ってくれません?」
宗像「俺、興味ねぇよ・・・」
奈菜「だからぁ、仕事だってばっ!」
智美「まあ、ほかっておこうよ。無駄だから。」
智美はAD。ゴシップ娘。奈菜とは仲がいい。普通の若い女性
奈菜(と言いつつ、チーフがロケ班に同行する必要もないのに、いつも何で来るのかしら)
奈菜はいつも宗像を不思議に思う。宗像、企画書に視線を落とす。
舞台裏、多くのメンバーが集う。華やかな中にも何かピリピリとしたムードが。
宗像「米ちゃん!主要メンバー撮っておいて!」
米ちゃんこと米田はカメラマン。アイドルとオカルトが好きな中年。太めの体格。
米ちゃん「奈菜さん!まず、茅野麻友(ちのまゆ)から、いきましょうよ!」
奈菜「なんで?やっぱりセンターの高城さんが最初でしょ?」
米ちゃん「俺、彼女好きじゃないっす。茅野さんがいいっす。活発で元気っす。」
智美「おいおい、公私混同してるんじゃない?」
奈菜(米ちゃんが興奮するもの無理ないか。この中、あこがれのアイドルがたくさんいるもんね。)
茅野麻友は総選挙で二位を獲得。次期のセンターを狙う。活発で活動的だが、少々感情が表に出やすい。ホワイトチョコの衣装は制服のアレンジで全員同じ
奈菜「あそこには次期のセンターを狙う茅野麻友さんがいます。今回は残念でしたが、今回二位と大健闘でした。きっと張り切ってステージを迎えることと思います。」
麻友に近づく奈菜。二位健闘でさぞや盛り上がっていると思う奈菜だった。
奈菜「今回二位おめでとうございます!ステージ前で緊張は?」
麻友「は?二位で健闘?あたしは真ん中がいいのよ。本番まえは声かけないものよ!」
つっけんどんで取りつく島がない。どうやら一位を逃したのが悔しかったのだろう。
麻友「私は後でいいわ。センターの子が最初じゃない?」
米ちゃん(奈菜さん、ごめん。彼女、ご機嫌斜めだ。後にしましょう・・・)
智美「みんな、あんな感じ?感じ悪いわ。」
米ちゃんもバツが悪そう。そこへ背広を着て痩せた眼鏡をかけた男性が寄ってきた。奈菜は見ると宇佐美尚吾というライブハウスのコーディネーター(演出家)だと分かった。
宇佐美「極東テレビさん。本番前に彼女らは緊張しているんだ。いやがってるよ。勝手に話しかけないでほしいなぁ。」
宗像「それについては、事務所と話がついてるんだ。第一、取材は俺たちだけじゃないぜ。」
宗像が指差す。他のメディアも取材している。
宗像「この子たちには配慮している。彼女らにとっても取材は必要なものなんだ。」
指原「宇佐美さん、気にしすぎですよ。気に入らなければ、あたしたち断ってるんですから。ごめんなさいね。」
奈菜は穏やかな指原志津香が入ってほっとした。指原志津香は去年のセンター、清純派だが今回は6位になった。そこへ麻友がくってかかる
麻友「ちょっと、指原さん!あんたが大人しいから、センター奪われちゃうんじゃない!最年長ならしっかりしてよ!」
これに指原がムッとする。
指原「茅野さん。もうそれはノーサイドよ!大体、選挙結果は人気のバロメーターでしょ?潔く受け入れたら?」
麻友「結果が偏って納得してないよ!誰かが大量に票を動かしたのよ!報道も言ってるじゃない!」
指原「ちょっと!マスコミを前になんてことを!疑惑報道でもされたら・・・」
勝手に大騒ぎになる二人に皆困惑。麻友は差し入れの果物ナイフと取るとリンゴに突き刺す!
麻友「本当だったらこうしてやりたいわ!よりによって、あんな奴に!」
麻友は果物ナイフのリンゴを持っている。唖然とする一同。
麻友「知ってるわ。あんたもあいつをこうしてやりたいんでしょ?美宥はきっと血液型はB型だわ!」
指原「血液性格判断?」
麻友「そうよ。あたしはA型よ。あんたは?」
指原「O型よ。そんなの迷信よ。」
麻友「そうかな?あってると思うよ。ちなみに宇佐美さんは?」
宇佐美「おれ?・・・AB型・・・」
フンと鼻を鳴らし麻友はリンゴを持って去った
指原「みっともなかったわ。普段は仲いいの。でも・・・」
何か言いたげな指原
智美「今回の選挙、遺恨が残っているみたいですね。高城美宥さんは何であんなにきらわれてんのかしら?歌唱力、容姿、性格、皆十年に一度の逸材だって報道が・・・」
指原「遺恨だなんて・・・美宥に対するやっかみですよ。出来すぎ故なんですよ。ここにはスターにあこがれ、自分がセンターを狙ってオーディションを勝ち残った子たちなんです。人知れず努力を惜しまない子たちなんですよ。美宥は、みんなと違って出身が違うんです。」
奈菜「それはどういう?」
指原「子役出身なんです。」
奈菜「別に子役なんか、元芸能人はいないけど・・・」
指原「プロは既にルートは別に出来ます。彼女もソロで活躍すればよかったんです。私も素人出身ですが、プロが私たちの夢の前をふさいだんです。麻友もその為ライバル心むき出しで・・・」
奈菜(売れたい!気持ちは分かるけど。)
奈菜「指原さんはいかが?」
ドキッとする指原
指原「えっ?私?やめてください!さっきの言葉を本気で取らないでくださいよ!」
気まずくなる雰囲気。二人の視線に美宥の姿が。なるほど、落ち着き払ったオーラの様なものを感じる。黙ってても存在感がある。
奈菜(確かに別格な感じだわ。でもすごい嫉妬ね)
宇佐美「高城さん、ファンから差し入れです。」
と言ってカートに載せた山積みの差し入れが。
指原「あんなもの、人前にみせつけるから反感買われるんだよ・・・」
視線は陰湿な感じ。差し入れを隠すことなく高城美宥は一つづつあける。
奈菜(堂々と見てるわね。鈍いのか、見せびらかしてるのか。それにしてもセンターはすごい人気だね)
有る箱をのぞいた美宥の手が止まる。
美宥「きゃーっ!」
箱ごと放り投げる、からからと血のついたナイフが。おびえる美宥。マスコミが一斉に注目する。
美宥「血のついたナイフよ!なんてものが入ってんの?宇佐美さん!ちゃんと確認したの?」
おどおどする宇佐美。
宇佐美「もちろんです。全部見ました。大変な量だけど全部見たのに・・・おかしいな・・・」
清純派の美宥の表情が変わる。
美宥「あんた、いつも抜けてんだから!こんなもの見逃すようならコーディネーター失格ね。」
奈菜(うわっ、画面に出ない地ってやつ?この世界、結構ドロドロしたものがあるわ・・)
宇佐美は泣きそうに刃物を拾う。
奈菜(あらっ?)
奈菜が寄る。
奈菜「宇佐美さん、ちょっとみていい?」
しげしげとみる
奈菜「これ、血糊よ。これは何?」
メモを見る
“あなたは薔薇だ。俺は赤が好きだ。同じ赤で染めたい―握手会の神―”
美宥「なんて悪質な差し入れよ!見つけたらただじゃおかないわ!」
奈菜(高城さん、テレビで見るのとだいぶ違うわね。)
美宥「宇佐美さん、今度あやしいファン見たら近づけないで!」
宇佐美「・・・すみません・・・」
宇佐美平謝り。
奈菜「それ違いますよ。」
美優はきつい目で奈菜を睨む。
美宥「それはどういう事かしら?」
奈菜「だってそうでしょ?ここにあるのは少なくとも宇佐美さんが目を通したモノ。と言う事は、これを紛らせたのは、その後ってことになりますよ。ファンが仕込んだものじゃありません。」
美宥「いいわ。あなたはここにいる人間だって言いたいのね。面白いレポーターさんだこと。でもね。どんないやがせにも負けないわ。想定内よ。」
美宥は麻友や指原を見ながら挑発的に言った。気の弱そうな宇佐美は震えあがっていた。役目上なのか
宇佐美「それでは、サプライズのイベント『仮装ダンシング』の衣装を選んでください。衣装部屋は奥のA会議室に用意してあります。それではまず、茅野さんから・・・」
麻友をコスチューム選定に促す。
麻友「人の残りは嫌よ。何でも早い方がいいわ。全部この順番にして下さらない?」
麻友は美宥を一瞥。両者に火花
奈菜「仮装ダンシング?」
指原「一種の仮装大会よ。今週は制服以外のプログラムが入っているの。いろんな企画でお客さん楽しませるの。仮装衣装選びもイメージには大事だわ。今から一人づつ衣装選びしておくの。」
奈菜(ふーん、大変ね。)
一人目の麻友が会議室に向う。麻友が帰ってくる前に美宥の番だ。
宇佐美「では、時間です。高城さん、衣装室に向ってください。」
美宥「あの子はウィッチでしょうね。私は女海賊にするわ。」
宇佐美は美宥について行った。
指原が小声で
指原「いちいち対抗意識燃やして、二人ともまいっちゃうわ・・・」
奈菜「あはは。これじゃ収録できないね。仲良くしてよ。」
指原も申し訳ない顔をした。暫くして麻友が帰ってきた。
麻友「どう?いい感じでしょ?」
麻友はウィッチスタイルに着替えている。
指原「美宥は来た?」
はしゃいでいた奈菜は顔が曇る
麻友「出てきたでしょ?宇佐美さんは、私より先に選んで出てったわよ!宇佐美さんは?」
指原「おかしいわね。美宥と一緒に行ったはずだけど。彼女は特別だもんな。」
奈菜「ねぇ、指原さん。宜しかったら、衣装室案内して下さいません?」
智美「そうね。インサートで撮っておかないと。」
指原「確かに私は順番じゃないけど、そういう話しは宇佐美さん通された方が・・・」
宗像「それが彼、いないんだ。見るだけだから頼むよ。」
指原「別に断る必要もないけど。いいわ。私が案内してあげる。」
廊下の途中で宇佐美と会う。
指原「あ、宇佐美さん!どこ行ってたんですか?姿見えなくなっちゃって。」
宇佐美「ああ、倉庫に小道具確認に行ったんだ。」
指原「テレビ局のスタッフさんが衣裳部屋案内して欲しいって!」
宇佐美はおどおどして
宇佐美「まだ、用事終わってないんだ。2階の音響室行くから案内頼むよ!手が離せないんだ。」
指原「えーっ?冗談でしょ?宇佐美さんの仕事じゃないの?」
宇佐美「志津香ちゃん、頼むよ・・・」
指原「もう、いいよ。まったく、この人は。ごめんなさいね。いつもこうなの。無責任で」
智美「みんな放りだしてんじゃない?」
呆れる一同。衣装室のある会議室はあまり広くない。
指原「ここが臨時の衣装部屋です。ここで衣装を選び隣で着替えます。」
見ると部屋中所狭しに衣装があった。窓際には暗幕を垂らし、見えないようにしていた。盗撮があってはならないし、当然か。なるほど、今時の萌えらしいコスチュームが並んでいる。
指原「あれ、この部屋、こんなに狭かったかな。まぁ、いいや。」
奈菜が並ぶ衣装を見て
奈菜「今日は仮装ダンシングという企画があり、普段見られない自由な衣装のステージがあります。ホワイトチョコはここで思い思いのコスチュームに身を包み、お客さんは最後帰りがけに投票して行くそうです。」
と言って、部屋を出た。
宗像「おいっ。誰か、宇佐美さんにコメントもらいに行ってくれないか?ステージのコーディネーターだ。『まとめ』が要る。」
智美「えー?また彼?」
米ちゃん「宇佐美さんは2階の音響室っす。」
宗像「うろちょろしやがるな。あれで務まるのかよ。」
スタッフ一同二階に向った。宇佐美はびくびくしながら荷物の整理をしていた。
宗像「宇佐美さん、カメラに今日のステージのまとめをお願いしたいが・・・」
宇佐美「分かりました。ちょっと待ってください。」
と言って段ボールずらしたり、ロープを引っ張ったりしている。
奈菜(おいおい、今することじゃないでしょうに。)
宗像「本番が始りますよ。このシーンはなしにします。」
宗像はとうとう堪忍袋の緒が切れた。映像なしとなれば宇佐美としてはこれでは失態になってしまう。
宇佐美「待ってください。終わりました。」
奈菜(この人、要領が悪いね。チーフ本当に撮るの?)
奈菜は宗像に同意を求める視線を送る。宗像は指を指してやれと指示。
奈菜「では、今日のステージの見どころについて、コーディネーターの宇佐美尚吾さんからお話・・・」
指原「きゃーっ!」
驚く一同。
ヤスオ「悲鳴は一階です!」
ヤスオは音響、銀板担当で若い優男。雑務なども担当。とてもおとなしい。
一同は悲鳴のした一階へ移動。
奈菜「どこですか?」
スタッフ「それが衣装室みたいで・・・」
衣装室に着くと、入り口で指原ががたがた震えている。まだ着替えてない。見ると血だらけのハンガーの中に倒れこむように死んだ高城美宥の姿。倒れこんでいるあたりは返り血で衣装は血だらけになっている。
奈菜「なんてこと・・・」
米ちゃんも遠慮がちにカメラを回す。
指原「この部屋に入ったら、正面に美宥の死体が・・・」
のぞきこむと顔以外何箇所か刺されていて、息絶えていた。
しばらくして警視庁から、あの刑事が来た。紅(クレナイ)警部だ。赤のスーツにハイヒール。派手な姿は警視庁捜査一課のイメージから遠い女性刑事だ。奈菜とはあまり相性が良くない。
紅刑事「また、君ら?殺人現場にあらかじめ来てるとは。事前に殺人予告でも有るのかしら?」
奈菜(いつもひっかかるわね。さっさと捜査しなさいよ)
遺体を見る紅刑事
紅刑事「数か所を刃物で刺されているわ。はっきりしたこと司法解剖で分かるけど、致命傷は背後から心臓めがけた一刺しね。あまり大きな刃物じゃないわね。刃渡り15?と言うところかしら。」
奈菜「例えば?」
紅刑事「そうね。果物ナイフぐらいかな。ん?邪魔しないの!」
米ちゃんを引き連れ奈菜はじろじろのぞきこむ。血だらけの衣装を見たが奈菜は変な衣装に気付いた。
奈菜(えっ?これがここに?なんで?)
紅刑事「ここは現場検証します。マスコミの方は出てって!」
宗像「仕方ない。レポーター出るぞ。」
奈菜(ははん、しっかり映像撮ったもんね。)
宗像達が出る頃、逆に紅刑事が関係者の事情聴取を始めた。呼ばれたのは宇佐美だ。
紅刑事「血の凝固はなく犯行は二時間の間にあったと思います。その間のアリバイを確認します。」
宇佐美「二時間なら皆、あの衣裳部屋で服を選んでいると思いますよ。私は確かに高城さんを衣裳部屋に連れていきましたが、用事があってすぐに二階に行きました。それは茅野さんが見ているはずです・・・」
紅刑事「そうですか?」
麻友「そうよ。その時は当然彼女の死体なんてなかったわ。」
紅刑事「では、あなたは被害者と二人っきりで残ったわけですね。」
麻友は自分の言ったことをしまったと思った。
紅刑事「それにあなたと被害者は何かにつけ口論していた・・・」
紅刑事の指摘に麻友はびくっとした。
麻友「誰から聞いたのですか?」
紅刑事「そこの彼女よ。あなたと被害者の関係を教えてくれたわ。あなたが果物ナイフ持って行ったって。」
麻友「それは、楽屋でリンゴ剥いただけです。」
紅刑事「しかし、その果物ナイフなくなっているそうよ!」
紅刑事はいつもの意地悪い口ぶりだ。指原は顔をそむけた。
奈菜(この刑事わざと煽ってる!)
麻友「なんてこと言うのよ!指原さん!あんただって選挙結果、不満漏らしてたじゃない。自分のファンをはがしたって!」
指原「ええ、言ったわよ。でもね、こんな程度で人を殺すことはないわ。正々堂々勝つと言っただけよ。」
紅刑事「でも・・・」
皆注目
紅刑事「私が聞いたところ、この総選挙ってものが、生き残り競争になる程の影響あるって聞いたわ。とすれば、被害者がいることが邪魔だった、という動機は有るわけだ・・・」
麻友「そうよ!指原さん!あんたは第一発見者じゃない!それまで誰も死体を見てないのよ!あんたが殺したってことじゃないの?」
宇佐美「二人と被害者はケンカが絶えませんでした。それに俺は指原さんに着替えの指示出しましたよ。」
二人はきっと宇佐美を睨んだ。
指原「いえ、人ごとのように言わないでくださいよ!宇佐美さんだって、仕事ができないってさんざん罵られてたでしょ?私、見てるから!」
麻友「そうよ!あんたこそ、美宥が消えてほしかったんじゃないの?私たちは来年また選挙で負かせばいいだけよ!」
宇佐美はニヤッとした。
宇佐美「来年?来年、あなたたちは、ここにいるんですかね。」
麻友「どういう意味よ!ムカつくわね!」
奈菜(このコーディネーターはどうして・・・)
3人は罪のなすりつけばかりしていた。
奈菜(整理すると、3人とも被害者を殺害する動機はあるのか。問題はアリバイね。3人とも接点があるわ。麻友さんは被害者と二人っきりになった。けれど、その時は後の子たちは死体を見ていない。宇佐美さんも同じ。指原さんは死体発見者だけど凶器らしいものを持っていない。凶器・・・それについては発見されてない・・・指原さんの宇佐美さんを見てない、ってのが矛盾するわね。指原さんと宇佐美さん、どちらかが嘘ついているかしら?)
紅刑事が3人の喧嘩の成り行きを見ていた。これで全部内情が分かるというものだ。
どちらかと言うと気の穏やかな指原がいいくるめられ、泣きそうになった。話の流れは指原が怪しくなった。近くにあったバッグを取りだす。ハンカチで拭こうとする。
指原「みんな、いい加減なこと言って!」
カバンからハンカチを取り出すと
カランカラン・・・
血のべっとりついた果物ナイフが出てきた。
指原「!」
麻友「それ、楽屋であたしが置いてきたナイフよ!やっぱりあんた!」
指原「違う・・・」
紅刑事「探していた凶器が出ましたか。決定的ですね。それが凶器であるか、血液型、刃型を照合すれば決定的でしょう。」
紅刑事の凍った視線が指原を貫いた。
警官が紅刑事に寄ってきた。耳打ち
紅刑事「刃ものに付着した血液型はAB型。被害者のものと同じでした。指原さん・・・もう少しお話聞かせてもらいます?」
指原はがたがた震えていた。
奈菜「あの刑事に任せちゃおけないわ。現場に入りたいけど・・・」
警官が現場検証中。
奈菜「やっぱ無理よね?。あはは・・・」
智美「あははじゃないでしょ?諦める?」
奈菜「いえ、ここは強行突破よ!」
乗り出す奈菜の肩をつかむ手。見ると宗像だ。相変わらず無口。つかつか鑑識による。
宗像「OKだ。こいよ。」
唖然とする一同
奈菜(どんな魔法を使ったんだ?)
奈菜「おじゃましま?す」
島さん「これがあんたんとこの新人さん。また活発そうな・・・」
島さんはベテランの鑑識
宗像「島さん、このレポーターは気にせず仕事続けてくれ。お宅のうるさい刑事さんに見つかると厄介だ。」
島さん「そうだな。なんか見つかったら少し情報入れるよ・・・」
鑑識の「島さん」と宗像は知り合いのようだ。
奈菜「チーフ知り合いですか?」
宗像「いろんなとこに出入りすると知り合いもできる。俺はもともとサツ回りだ。」
奈菜納得。サツ回りなら警察関係者に覚えられることもある。さっそく現場をチェック。さっきのままだ。疑問の場所を見る。
奈菜「ここよく撮っておいて!そこも。」
奈菜は見回す。
智美「あれ、ここってこんなに広かったかしら?」
米ちゃん「一度撮りに来た時は広くなかったッス。」
奈菜「これよ、問題の衣装。」
触れないので血だらけの衣装を見る。
米ちゃん「確かにありますね。これがあるのはおかしいっす。何でこんな物が・・・」
宗像「それ、触るなよ。指紋が付いたりしたらやばい。」
奈菜「指紋なんか付けないよ。それより何でこんな衣装があるの?」
宗像「知るかよ。海賊ならちゃらちゃらアクセサリーがいるんだろ?」
奈菜「こんなに尖った金属付けてたら危なくない?」
宗像「それがいいんだろう?もっとも誰もそれを選ぶことはないけどな。」
確かにこの海賊のコスチュームを選ぶメンバーはいないだろう。
智美「これなんか刺さりそうで嫌だわ。ここ、こぼれて、ダメージってやつ?違うわ」
米ちゃん「突き立てたんでしょ?ぽっきり折れてるんじゃないっすか?」
奈菜は米ちゃんを見た。
米ちゃん「あ・・・俺何か言いました?」
奈菜「それよ・・・」
智美「それにしても、雨の吹きさらし、窓締めていい?」
島さん「仕方ないな。こんな日に何であいてるんだ。」
智美「カーテンで見えなかったんでしょ?目隠しのカーテン、ビショ濡れじゃない。人の出入りがあって何でこんなことしてあるのかしら?事件じゃないならさっさと片付けるわ。」
奈菜「ちょっと待って・・・」
窓に寄った。サンを白い手袋でなぞった。アルミ製の窓枠は僅かに歪んでいた。奈菜はサンを覗き込むように周りを見渡す。壁は窓回りではなく、2、3列中に離れた場所だ。
智美「窓がなに・・・?」
窓の開いた方から反対側に行き壁を触る。
奈菜「ここに木ねじを抜いたような穴があるわ。そっちある?」
智美「あるわよ。」
奈菜「そこにかかっている大きな布を外してくれる?」
智美「この黒い布は、このクローゼットのカバーよ。そんなもの・・・!」
智美が触ると驚いた顔をした。
智美「何なのこの布・・・」
奈菜「やっぱり・・・読めたわ。」
米ちゃん「じゃ、」
奈菜「この事件すっぱ抜くわよ!」
宗像は無口に微笑した。
戻ると紅刑事と、指原が問答していた。
指原「心臓一突きでしょ!たくさんの返り血を浴びてる筈でしょ?」
紅刑事「あそこにはたくさんの着替えがあるでしょ?着替えて血だらけの衣装に紛れこませればいい。」
奈菜「現場もよく見ないで、人を犯人呼ばわりしますね。」
紅刑事「また、あんた?懲りないわね。」
宗像「報道の自由ってのがありましてね。こちらで取材しました。」
紅刑事(いつもこのディレクターがしゃしゃり出てくる!)
紅刑事はムッとしている。側に麻友と宇佐美がいる
奈菜「皆さん、おそろいのようですから、今から真相究明いたします。」
米ちゃんがカメラを回す。
奈菜「そもそも、そのナイフ、凶器ですか?」
紅刑事「バカ言っちゃいけないわ。血のついたナイフが凶器でないなんて!」
奈菜「たしか背後からの一突きですね。刃はどうなります?」
紅刑事「それは、肋骨でこぼれるわ・・・」
机の上の証拠品を見る。
智美「綺麗なものですけど・・・」
紅刑事「くっ・・・」
奈菜「肋骨は堅いものです。果物ナイフぐらいの小さなナイフはまずこぼれるでしょう。指原さんが犯人とすると、被害者はそれまでどこにいたんでしょうか。」
智美「『死体が無い』と思っているから後の犯行と思ったわけね。」
奈菜「死体は最初からそこに有りました。」
紅刑事「最初から有ったですって?そんな証言ないわよ。」
奈菜「見えない壁が発見を阻んでました。現場で説明します。」
一行が現場に着いた。まだ現場検証が行われていた。
紅刑事「島さん、終わったかしら?この探偵さんが用があるんですって。」
紅刑事は声を落とした
紅刑事「まさか、関係者以外に立入させてないでしょうね。」
島さん「ええ、もちろん・・・」
宗像が笑っている。
奈菜「そことそこに新しい壁の穴、分かるでしょうか。」
宇佐美「それは先日の催しで・・・」
宇佐美の声を押さえるように
奈菜「あれには小さな金具が取り付けてあり、ロープがかかってました。そこにそこにある大きな黒い布がかかってました。ちょうど今、窓にかかっているカーテンのように。黒に黒だから見分け付かなかったんでしょ。」
宇佐美「そんなの・・・俺が許すわけが無い・・・」
麻友「宇佐美さん、なんかたじろいでるね。」
指原「するとこの部屋は区切られてた、ってこと?」
奈菜「そう、犯人によってね。美宥さんを奥に特別な衣装でもあるとか誘ってね。」
宇佐美「バカを言うな!そんな証拠どこにある?」
奈菜「そこの黒い布、触ってくださる?」
麻友「あ、湿ってる。」
奈菜「それはそこの窓が開いてたからですわ。そこから吹き込む雨にぬれたんですよ。その手前の服がぬれてないという事は、雨はそこまで吹き込んでません。何故、ぬれてたんでしょ?それはここにかかっていたからです。」
壁から壁のラインを手で示す。
宇佐美「そのロープはどこです?残っている筈でしょ?」
奈菜「遺体発見時、あなたは二階にいましたね。あの時一階のロープを外し、回収したんですよ。」
宇佐美「そんな芸当出来るわけない。」
奈菜「それは開いていた窓に答えがあります。」
智美「ああ、台風で開いていた窓ってそういう事なのね。」
奈菜「台風で吹き込む雨に、窓を開けているわけありません。カーテンにかくされ、窓を開け、ロープを通します。丈夫なロープなら少々引っ張っても切れません。金具ありました?」
島さん「ああ、二つ見つかった。」
小さめの金具を見せる。力をかけたと見えて歪んでいる。
奈菜「窓枠にも歪みがあります。引っ張った時に引っ張られた為です。あなたはみんなが遺体発見で一階に行ったときに、回収したんですわ。」
宇佐美「それじゃ、凶器は何だ?果物ナイフじゃない、ほかに見つかってないとなれば、凶器はどこにある?」
島さん「凶器と言われても・・・」
奈菜「それは目の前ですわ。」
麻友「は?人を刺すような刃物ないわ。」
奈菜「刃ものじゃありません。手に着けるかぎ爪です。」
智美「確かに鋭そうね。でも飾りでしょ・・・」
奈菜「飾りじゃありません。ボロボロにこぼれてます。犯人はこれを腕にはめ、背後から襲ったんです。」
宇佐美「心臓つけば、血しぶきがあがるぞ!」
奈菜「あらかじめ衣装越しに刺せば返り血は衣装で防げます。細かい血しぶきがあがるはずなのに、壁にないのが証拠です。」
宇佐美「仮にそうでも、誰かがその衣装を持っていく可能性有るだろう!この衣裳部屋は数日人が出入りしていた!」
奈菜「あり得ませんわ。」
宇佐美「何故?」
奈菜「だいたいかぎ爪の海賊の性別は?ここにあるのはホワイトチョコの衣装でしょ?」
智美「ああ、見れば男ものね。大きいし、女の子が選ぶわけないわ。違和感あるぐらいよ!」
宇佐美「でも、果物ナイフは凶器でないのか?」
奈菜「さっき言ったように、あれは犯人のミスリード。同じ血液型の血のついたナイフが発見されれば、持っている人間が怪しくなる。宇佐美さんの血液型は?」
宇佐美「……」
麻友「AB型よ!」
奈菜「日本のAB型は9%と少ないわ。だからAB型というと別人のイメージがすぐ出ない。それが犯人の致命傷になるわ。」
指原「どういうこと?」
奈菜「犯人は凶器を前もって用意しミスリードを狙った。まず、茅野さんの楽屋にはいり、果物ナイフを取り、それに自分の血を塗り、指原さんのバッグに入れる。私たちが見なかった時に行ってたのよ。コーディネーターの立場で私物の持ち物に近づくことができるからね。果物ナイフに印象付ければいいのよ。実際のかぎ爪は血だらけで遺体のそばにあるから紛れるのよ。」
智美「返り血ね。」
奈菜「あの状態では、血がついても凶器と思われないし、かぎ爪は元々引っ掛けるもので、衣装では飾りの先入観があるからね。磨いてある刃ものとは思いもよらない。」
宇佐美は押し黙っている。
奈菜「ミスリードのため自分の血を使ったのはまずかったわね。紅警部、DNA鑑定で分かるんでしょ?」
紅刑事「ええ、今は90%以上の確率でね。」
麻友「やっぱりあんただったの?」
指原「やっぱり、罵られてたから?」
奈菜「複数にわたる刺し傷は恨みによる犯行の線が濃いわね。」
宇佐美が不気味に笑う。
宇佐美「だめだよ。そこは違うよ・・・探偵さん」
宇佐美が自白めいた告白をし始め、皆動揺
宇佐美「昔から、この世界が好きだ。大好きだった。ライブに入ったのもこの世界に浸れるからだ。くくくっ。毎日女の子と居られるんだ。美宥にかまってもらえると絶頂なんだ・・・」
米ちゃん「罵声をかまってもらうって。マゾかよ・・・」
宇佐美「あんたも同じ感覚だろ?カメラマンさん。」
智美「じゃ、何で手をかけたの?」
宇佐美「だってそうだろ?総選挙でセンターになれば、きっとここには来なくなる。俺のものにしたかった・・・」
奈菜「……」
宇佐美「へへへ、刺して息絶える時のあの姿・・・永遠に俺のものになった・・・と思ったんだ・・・これで誰にも手をだせない・・・・」
宇佐美は顔を押さえ、嗚咽を出し始めた。
智美「あんた自分の欲望のために・・・」
宇佐美「と思ったのに・・・俺の言葉に返事をしてくれなくなったんだ・・・」
と言って泣きだした。奈菜は無言のまま見下ろした。
半月後、番組「そこんとこ教えて!」は「ホワイトチョコ・高城美宥殺害事件の真相を独占スクープ!!」と題し特番を組まれた。玖珠あけみは司会アナ。
玖珠あけみ「われわれ、『そこんとこ教えて!』スタッフは事件の全貌をカメラでとらえていました。宇佐美容疑者の独善的な偏愛、そしてその先の悲劇。宇佐美容疑者の思いを遂げた時、大事なものを失ったことを彼自身が気づいたのです。」
セットの向こうで収録を見る奈菜と智美
智美「お手柄ね。またスクープよ。」
奈菜「事件はむなしいよ。」
智美「まあ、そうだけどさ。真実伝えるのも私らの役目だし。」
智美去る。宗像が近づく。無言で通り過ぎそうになる。
奈菜「また、助けてくれたね。」
宗像「何の話だ?」
奈菜「島さんに頼んでくれなかったら真相に近づけなかった・・・」
宗像「……」
奈菜「ありがとう・・・」
宗像「めんどくせーんだよ。こういうの。」
奈菜「……」
宗像「今度やる時は、犯人に振り回されるんじゃねぇよ。」
宗像流の激励だった。奈菜の表情が明るくなる
奈菜「そうだね!もっとうまくすっぱ抜くよ!」
宗像「その調子だ・・・」
奈菜「なんか言った?」
宗像「なんにも。それより、この後、おまえ自身の収録があるからしっかりやれよ。」
奈菜「うん!」
ピュワ・アイズ