ジャン・クロード・ガンダム(前編)

ちょっとふざけたタイトルですが、書いているうちに結構普通のガンダム小説ができあがりました。

 
  宇宙世紀0197、百年以上にわたって続いた戦争と内紛の歴史はようやく人々の記憶から薄らいでいる時代。
 地球連邦軍は大きくなりすぎた組織を維持させることが困難になり組織を細分化させ、連邦は軍を再編成し地域ごとを守る軍隊となり、それにより各コロニーごとに軍隊の目が届くようになった為、かつてのように反連邦組織が決起し、モビルスーツ(MS)などの兵器により暴挙に及ぶことは無くなった。
 モビルスーツの存在価値は急激に下がり、軍の保有するMSも百年以上先祖帰りをしたと言われるほどであった。
 その中で同時に存在価値が薄れていったモノはニュータイプの存在である。そもそも軍事関係者にしか馴染みの無かったこの単語は未来への道しるべとなるべき役割を持った言葉であったはずだが、ニュータイプはモビルスーツ、つまり兵器を巧みに操れる存在としてしか扱われず、「ニュータイプ」と呼ばれた存在自体が嘗てジオン・レム・ダイクンが提唱したものとは別物なのではないかとさえささやかれ初めていた。


       1・・・ ジャン

 ここにも一人の「ニュータイプ」と呼ばれる少年がいる。
 名はジャン・カルロッテ。17歳の生まれ月を迎えたばかりの少年は、地球連邦軍第3区コロニー防衛師団に所属するパイロットである。
 10歳の頃ニュータイプ適正検査に合格したジャンの将来はその時ほぼ決まってしまった。
 この時代、少年少女は適正テストによりほぼ将来の道筋を決められる。勿論それにあらがって生きる事も出来るのだが、適正テストはニュータイプだけを検出する試験ではなくその子供が将来どのような職業に就けば社会に貢献できるのかを判断する基準となっているため、周りの環境がその子供に適した道に誘導して行くのが普通なのである。
 ジャンもその道にあらがう事が出来ず「ニュータイプなのだから連邦軍に入りモビルスーツのパイロットになりなさい」と親代わりをしてくれた祖母と祖父に言われ、十五の歳にパイロット養成高校に入り十七になる半年前、正式に軍のパイロットとなった。
 「連邦軍MS特務部隊」ジャンの配属先は所謂「隠密部隊」であり、細分化された連邦軍の不正行為やテロ集団との繋がりをもつ部隊はいないかの検査役である。
 しかし、この時代のMSはシンプルかつオートマチック化が進んでおり、訓練生が扱うシュミレーターの方がよっぽど扱いが難しいのではないかと言われていた。
 ジャンは部隊に配属されて直ぐ、古めかしく面白味がないMS「ネグロ」に飽き飽きしていた。
「俺はニュータイプだぞ、嘗ては戦争を左右した存在のはずだ、なのにこんな玩具みたいなMSを操って一生を終えるのか・・・」
 少年のストレスは自己中心的な方向へ走ってしまうのが常である。周りの人間が全て無能に見え、大人のアバウトさが正義感の服を着た自己愛に満ちた少年には許せなかった。
 ジャンは瞬く間に部隊の中で孤立していった。

 ジャンの所属する巡洋艦ミネルヴァは単独で地球からもっとも離れたコロニー群サイドインディオと呼ばれる地域での訓練を重ねていた。
 三機の小部隊による訓練飛行中でもジャンのストレスは整備士に向けられた。
「メインコンピューターとMSのOSがシンクロ出来てないんだけど、これいつになったら直るの?昨日も言ったよね・・・まったく、予算削減なのか知らないけど、MSの先祖帰りなんてバカげてるよ、今の時代どの家電でも自動シンクロは当たり前だっていうのにコイツは管制システムとのシンクロもろくに出来ないんだから」
 百年以上前のジム、またはその後長年にわたり一線で活躍したジェガンを思わせるネグロは操作性には優れているが近代化したシステムとの互換性には難のある機種であった。
「ネグロをうまく扱えないからって整備士に当たるなよ小僧。このMSはなぁ視線認識システムを積んでるんだ、それがどういう事だかわかるよな二ユータイプさん。パイロットの考えがほぼ直結でマシンに伝わるって訳だ、このネグロ一機あれば大昔のニュータイプの乗ったMS23機は俺ら普通の人間でも倒せるって事さ」
 通信機から怒りに震えたネルソン軍曹の声がジャンの鼓膜に嫌悪感を与えた。 
「ニュータイプなんて今のMS部隊には必要ない、とおっしゃりたいんでしょネルソン軍曹・・・その話はこれで三度めです」
「じゃあ何度聞けばそのお利口な頭にインプットされるのかねぇ」
「やめろ!ネルソン!ジャン!」
 小隊長のナイジェル・マスセルは冷静な男だ、荒々しい気性になりがちな小隊のまとめ役としては適任の人物である。
 ジャンもマルセル隊長には一目おいていた。
「ジャン、次の作戦のために突貫でお前の機だけツーシーターに改造したんだ、細かい不備も出る。そのための訓練飛行でもあるんだ」
 ジャンの乗るネグロのコックピットは急拵えで二段の雛壇状に作り替えられ、ジャンの背中のわずかに高い位置には助手席が設えてある。が、助手席といってもコ・パイロットが乗り込む訳ではなく、ただ単にパイロットシートが取り付けられているのみで、そこにコントロールパネルの類は一切ない。
「ハイ隊長」
「自分の機の不備を的確に伝え整備士とも連携をはかれる、それが一流のパイロットと言うものだ」
 
 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※   ※  ※  ※

 今回の隠密作戦は特務部隊の中でも一分にしか知らされておらず、ミネルヴァ艦内でも内容を知る者はほんの一握りだという、ジャン達MS部隊に知らされたのもほんの数日前の事であった。
 突然会議室に呼び集められたのはMS小隊の5人と整備班長、管制オペレーターの二人だけであることからもこの作戦がどれほど重要かつ秘密裏に行うべきなのかが伺われた。
「連邦議会議長の息子があるテロ組織にさらわれた。その13歳になる息子さん、組織内では「クロード」と呼ばれているようであるので、便宜上その子の名はクロードとする。そのクロードがインディオ宙域のポイント3に軟禁されていると言う情報を掴んだ、今回の指令は戦闘を避けそのクロードだけを救出する。何か質問がある者」
 腕組みして聞いていたネルソンが挙手もせず、椅子の背もたれに深く盛られかかりながら。
「サイド・インディオにテロ組織?そんな情報聞いたことありませんが、確かなんっすか・・・だとしたらこの宙域を担当してる部隊は何をしてたんすか」
 ネルソンはいけ好かない無能な男と思っているジャンもその点に対しては同意見であった。ジャンは艦長の顔を見た。そこには決意と殺気が漲っている。これはニュータイプだからこそ解る神経の揺らぎだろう。
「これから話す事はオフレコ中のオフレコと心に刻んでおいてくれ、実はサイド・インディオを担当する連邦組織第8連邦軍事態がテロ組織に資金提供をしているのではないかという疑いもあるのだ。これはあくまでも疑いの段階であるので、我々は少年救出だけを実行すればよい、その後テロ組織の壊滅作戦が始まるだろう。第8連邦軍の容疑を追求するのはその後だ」
 ジャンは理由もない寒気に襲われた。この作戦で何かが動き出してしまうだろう・・・
「まさか敵はMSを装備してるってことはねぇっすよね。腕には地震はありますが、無駄なドンパチは御免ですぜ」
 ネルソンの言葉に悪寒と殺気がジャンの全身を貫いた。
(この作戦で人が大勢死ぬ・・・MS同士の戦いがあるのかまではわからない、しかしこの作戦で近しい人が失われる)
 ジャンは蒼白になった顔を艦長の方へ向け、自分の感情を平常に保つよう努力した。
「新型のMSを作るのにどれほどの資金や技術提供が必要か解るかねネルソン軍曹。それは軍からのわずかばかりの資金提供では到底無理な話だ、MS戦にはならない事を私が保証しよう」
 不安げなのは何もジャンだけではなかった。マルセル隊長の表情にも不安と緊張が漂っていることをジャンは感じ取っていた。

2 クロード

     2・・・クロード

 地球から最も遠いコロニー群インディオ。
 インディオは連邦国家管轄の元「国」という名目を呈している大小七つのコロニーを要する地域である。その中でも三番目に建造されたコロニーがポイント3、通称「P3」だ。
 「P3」に不穏な動きがあるとの情報がもたらされた経緯は全く持って不明なのだという。粒子の粗い動画が連邦政府に送りつけられたのが三ヶ月前。その内容は「インディオの独立」を掲げた大段幕のもと一人の男が演説している様子が納められていた。
 それだけならどこのコロニー群でもある集会の光景であるのだが、壇上の男は「目覚めよ国民よ!嘗てジオンと呼ばれた公国の魂が我々スペースノイドの血として巡っているはずだ!」そう叫び男は拳を振り上げた。
 
 「ジークジオン!立ち上がれインディオ国!」
 壇上の男の名はゲルト・ベルガ、コロニー間の物流システムを築いたベルガ運輸の創始者の息子で元連邦軍のエースパイロットであり、退役後は家業を継いでいた。
 ゲルト・ベルガは百年以上昔のジオン公国主義に傾倒した危険人物として数年前からマークされていたが、ここまで反社会的な組織を拡大させていた証拠は初めてであった。
 ゲルト・ベルガの率いる組織は自らを「インディオ公国軍」と名乗り、数千人の活動員がいるとみられている。
 インディオ公国軍がクロードと呼ばれる少年を誘拐したのはいつかはジャン達特務部隊にも明かされていないが、不可解なのは連邦国議会議長の息子を誘拐しなにしては、「インディオ公国軍」が連邦議会に声明文や脅迫文などを送ったという形跡が無いことである。

「艦長は我々に嘘をついている」
 マルセル隊長は「クロード奪還計画」の作戦会議終了後MSパイロットだけを格納庫の一角に集め眼孔鋭くかたった。
「私が独自に調べたところによると、インディオ公国軍はかなりの資金力と軍事力を持っている」
 ベルガ運輸はインディオ宙域だけでなく他のコロニー群への輸送業務も一手に引き受けており、莫大な資金があることは言うまでもなく、武器などの検閲が厳しい物も自社のシャトルを使い、検閲を通らない独自のルートを持っている。
「この作戦の本意は他にあるのかもしれん、でなければ、そのクロードという子が何か特別な存在か。でなければただの救出作戦にMS小隊をまるまる使うことなどありえんだろう、戦闘機や戦車、あるいは型落ちのMSを持っている可能性も考え行動しろ」
「なぜ艦長は我々に嘘をつく必要があるんです」
 ジャンの強い口調にマルセルは少し次の言葉を発することにためらいをにじませたが、意を決し改めて皆の顔を見渡した。
「それは。この作戦が軍本部の認めた作戦では無いからだ」
 皆は息を飲みまたは唖然と短い声を上げる者もいた。
「つまりクロードという子も議長の子供ではないと?」
 マルセルは強ばった顔を崩すことなく、短く息を吐いた。
「だとするとクロードってガキは何者なんです」
 ネルソンの表情も硬い。
「私にもわからん、しかし、インディオ公国軍などと名乗る危険分子の手にあってはならん人物ということは確かだ」


   ※  ※   ※   ※   ※   ※  ※  ※ ※

 ポイント3を目視出来る地点でミネルヴァは停止。MS隊がメインバーニアの閃光を背にたなびかせ次々と発進する。
「アラン、テリー、ネルソンはP3のハッチを開け、セキュリティーシステムを全てダウンさせ、その後テリーとネルソンは我々の後を追うように、ジャンは私と作戦ポイントへ、クロードを救出しお前の機に回収し次第ミネルヴァへ戻れ」
「ハイ」
 ジャンの声は緊張からか、少し震えている。
「ジャン、先走るなよ」
「ハイ」
(つまらん作戦で死ぬのは年寄りだけで十分だ)
 ジャンの心にマルセル隊長の意識の断片が飛び込んできた。
 人の意識の奥底で芽生えた「声」が脳内に飛び込んで来るのはニュータイプゆえの弊害と言える。マルセル自身もそんな事を思った自覚もないであろう思いの断片だ。
「隊長こそ無理をしないで下さい」
「よけいなことを言うな」

 P3のコロニーハッチに取り付いたテリーとネルソンのネグロは手首のマニュピレーターでハッチのロックを解除し、アランは進入口にネグロを固定し、コックピットを展開させるとノーマルスーツのままコンピュータールーム内の機材に小型キーボードを差し込み操作すると、見る見るP3のセキュリティーシステムはダウンしてゆく。
「ゆくぞ」
 メインモニターに映るマルセル隊長のネグロはジャンに指で前方を指し示しゆっくりとハッチ内へ入る。ジャンはそれを逐ってP3へと入って行く。
 P3への進入口はMSが一機通って少し余裕がある程度で、ジャンはマルセル隊長の背を随伴する形となる。
 暫く行くと空気の壁(エアカーテン)があり叩きつける突風を受けると、吸い込まれるようにコロニー内に放り込まれた。
 そこはP3内空中部分でなだらかに湾曲した大地(人工の大地)が眼下に広がっていた。
 これが百年以上前に人類が宇宙空間で手に入れた仮初めの大陸スペースコロニーである。

   ※   ※   ※   ※   ※   ※



 P3の「空中」を暫く行くと大きな工業地帯が眼下に広がる。

 工場群のほぼ中心部に「ベルガ運輸」本社の広大な敷地があり、大小様々な建物の中心部に中庭と呼ぶには面積の広すぎる緑地帯に中世風デザインのビルが確認できた。

 それが現社長ゲルト・ベルガ一族の住まいと迎賓館を兼ねた建物だという、その中に捕らわれた謎の少年クロードが居るはずである。

「さて。ここまでは順調だが、これからが問題だ、その少年を確保するには一端MSを捨て建物内に潜入するか、力技で攻めるか・・・」
(私には出来ない・・・)
 ジャンの脳内に少年のような少女のような思念が一瞬だけ張り込んだ。
「隊長。こっちです」
 ジャンのネグロは目指す建物から少し離れた森へ向かう。
「ジャン!勝手なまねはするな」
「こっちです居るんです」
 ジャンが目指す先には工業用小型MSに乗る一人の少年らしき姿が。小型MSのコックピットはガラス張りになっていて、そこに座っている少年の姿は容易に確認できた。
 コックピットの少年は帽子を目深にかぶり、俯いたままでMSを操縦する意志は見られない。
 ジャンのネグロは小型MSの前に着地すると、外部スピーカーをオンにした。
「助けに来たよ、もう大丈夫だそこから降りて」
( いけない、このままでは沢山傷つく)
 ジャンはその思念に反応する前にMSの間接可動音に気づいた。
 小型MSの直ぐ後ろにもう一機MSが居たのだ。旧型のMSではあるがしっかりと戦闘装備を備えたMSだ、隊長の予感は当たっていたのだ。
 旧型のMSはクロードの乗る小型MSを抱えその場を飛び立つ。それを追うジャンのネグロは小型MSのガラス張りのコックピットを掴む。
「そこから降りるんだ!」
 ジャンはネグロのコックピットハッチを全開にするともう一度叫んだ。
「そこから降りるんだ!クラウディア!」
 その声に反応し、小型MSのコックピットがゆっくりと空中で開閉して行く。
「そうだ!飛ぶんだクラウディア! 」
 「少年」はジャンに導かれるように迷い無く遙か空中でジャンの乗るネグロへと飛んだ。
 「少年」はめいいっぱいに手を伸ばしていたジャンの右手を掴み、ネグロのコックピットへと引き込まれてゆく、恐ろしい勢いで飛び込んできた「少年」はシート倒れ込んだジャンの上に覆い被さる形となり、ジャンの顔に胸を押しつけるような体勢になった。
「胸?」
 ジャンの鼻から頬骨にかけて「少女」の発育途上の胸の膨らみが苦しいぐらいに押し当たっていた。
「女の子・・・・クラウディア・・・・」
 その時ジャンは無意識に叫んでいた名を思いだしながら、柔らかい感触を押し返し、「クロード」と呼ばれている「クラウディア」という名前 であろう少女を後部座席に座らせるとハッチを閉め、操縦桿を握った。
(クラウディア・・・)
 ジャンはこれから起こる惨状を予測出来ず少女の名をもう一度つぶやいていた   ※   ※   ※   ※   ※

3・・ガンダム

   
      3・・・ガンダム

 クラウディア・マスは急拵えのネグロの後部座席に収まると目深にかぶったキャップをとった。
 そう、クロードというコードネームで呼ばれていた少年は実は、クラウディア・マスという14歳の少女であった。
 しかしこの時点ではクラウディアはジャンに対して名乗ってもいないし、この少年には名乗る必要も無いことをクラウディアは知っていた。
 ジャンはこの狭いコックピットへ引き入れる時に自分を「クラウディア」と呼んだし、ジャンのパイロットにしては柔らかい手に触れた途端にこの少年はそれを察知する能力を持つもの、つまりニュータイプだと悟った。
 クラウディアはショートカットのヘアスタイルと幼さの残る容貌で「少年」として暮らしてきたせいか、そのような空気間も持ち合わせている。が、漆黒に近い青い瞳は神秘てきでもあり、丸みを帯びた頬はやや赤みをなし少女らしくもあり、また少年らしくもある。
「早く逃げないとあの人が追ってくるわ」
「なに?」
 ジャンは密室に漂う今まで味わったことの無い香りと数秒前に自分の顔を覆った柔らかい感触に思考を一瞬止めてしまっていた。
「来るって何が」
 ジャンは慌てて全方向スクリーンの下、つまり地上面に目をやった。
 そこには見たことのないMSの姿が、あり得ないほどのスピードでこちらへ向かって来ている。
 MSー0197R=Sanou・サノー。新型の青いモビルスーツがこちらに急接近している。
 Sanouは鎧武者を彷彿とさせるホルムでどことなくジオン系のMSを思わせる。がパワーは段違いにネグロを上回る最新技術によって開発されたであろうことは、地上から飛躍するスピードを見るだけでも一目瞭然であった。
<コイツ等は俺が抑える、ジャンお前はいち早くミネルヴァに戻るんだ>
 通信機から聞こえてくるマルセル隊長の声は若干強ばっているようにも聞こえた。
(生きるんだ、死ぬのは俺だけで十分だ)
 またあの声だ。ジャンはマルセルの方を見た。
 マルセルのネグロはSanouにビームライフルを連射するが、Sanouの反応速度は著しく早く、機体をかすめた物もアンチビームコーティングされたSanouの装甲に傷一つ付ける事が出来ない。
 これが「原点回帰」した最新MSと、「最先端技術」で建造されたMSとの差であった。
 マルセルのネグロは接近戦に持ち込もうとビームサーベルをぬきSanouに胴体ごと加速して行く。
 斧状のビーム武器ビームトマホークを抜き。、それに対抗したSanouはネグロのビームサーベルを受け止めると、軽々とネグロの右腕を砕き落とした。
「ジャン!お前だけは逃げるんだ」
 マルセルのネグロは叫び声と共に破裂した。まさにそれは破裂と形容する事しか出来ず、何が起こったのか理解できがたい状況だった。
 マルセル遙か後方にいつの間にかもう一機、赤いMSスサノー(S-Sanou)が出現していたのだ。
 赤いスサノーはサノーの発展型といった機体で、それを操るパイロットの腕なのか、恐ろしいスピードでこちらに接近してくる。
 スサノーの右腕にはビームバズーカが握られていて、その破壊力によってマルセルのネグロは粉砕されたのであろう事はジャンには理解できた。

  ※   ※   ※   ※   ※   ※

「連邦の量産機に何を手こずっているのだ」
「申し訳ありません社長」
「社長はやめたまえ・・・戦場ではベルガ。ゲルト・ベルガ総長とでもよびたまえ」
「はっベルガ総長」
「あの娘はなんとしても取り戻すのだ」
 コックピット内のベルガには緊張感はない、げそれはまるでゲームを達成する事への高揚感を隠しきれない少年のようでもあり、また不気味な薄笑いは狩人が獲物を追いつめる感覚に近い物をこの男は感じつつ操縦桿を握っているのかもしれない。
「スサノーの火力ではあの娘の乗ったMSを破壊してしまう。君がやるんだピット」
 ピットと呼ばれたサノーを駆る中年男はバーニアの噴射出力を上げ、ジャンのネグロへ急接近をはかる。
 ピットのサノーを援護すべく、スサノーはビームバズーカを威嚇の意味も込め、紙一重の場所を狙い射撃し続けている。が、ジャンのネグロは全て巧みにかわし、ライフルを接近するサノーに撃ち込みつつサノーとの間合いを積められないようにコントロールしている。
「あのパイロット、一筋縄ではいかんな」
 ベルガはなお薄笑いのまま、スサノーの出力を最大限にあげた。
「ピット、私が行く、このパイロット面白そうなのでな」
 スサノーはピットのサノーに一瞬で追いつき、サノーの肩を掴むとその反動でさらにスピードをつけ、ジャンのネグロとの間合いをつめた。
 スサノーとまともに対峙したのでは勝ち目は無いことを知っているのか、ネグロは逃げの姿勢を崩さない。
 スサノーはビームトマホークを抜き、身体一つ分にまで詰めた間合いで袈裟斬りにトマホークを振り下ろした。
 ネグロは辛くもそれを避け、フル出力で逃げる。
「あの娘だけの力ではここまで出来まい、ますます興味が沸いてきたよ」
 スサノーの加速は凄まじく、必死に逃げるジャンのネグロはその距離を離すことが出来ない、ジャンは意を決しビームサーベルを抜きスサノーと対峙する事を選んだ。
 ビームサーベルはスサノーのビームトマホークと刃を重ね、ビームどうしが激しく反発しあう。
「スサノーとまともに渡り合う、窮鼠猫をかむといったところか」
 しかしながら圧倒的な力の差がありながらもジャンのネグロはベルガのスサノーの攻撃を交わし時には攻撃に転じてくる。
「連邦にまだこんなパイロットがいたとはな、しかし過度な自信は我が身を滅ぼすと知れ」
 スサノーは全力でネグロのビームサーベルをはね除け、一刀の元その右腕を砕き落としてしまった。


  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 食いしばった下唇が切れ流血していることにもジャンは気が付かなかった。
 悔しい。ただ相手のいいように組まされ、そしていとも簡単に腕を斬り落とされた。
 死ぬのか。思った時、目の前を二本のビーム光が走り、スサノーのボディーを掠めた。
 テリーとネルソンが援護のためやってきたのだ。
「ジャン。隊長は」
 ジャンからの返事が無いことにネルソンはマルセル隊長の運命を察したのだろう、それ以上の事には触れず援護射撃をしつつジャンの元へ接近してきた。
「このMSは俺たちに任せろ!お前はミネルヴァへ戻るんだ」
「しかし!」
 言い返そうとしたとき、今度はネルソンの声が脳内に入り込んできた。
<救出したガキを連れ戻さなきゃ隊長が浮かばれないだろう>
「はい!離脱します」
 ジャンはフル加速でハッチを目指した。
 ネルソンとアランがスサノーを引き留めているのだろう、追う気配は感じられない。
 ジャンの中に若干の余裕が生まれた時、下唇の痛みを感じパイロットスーツの袖でその辺りを拭き取った。
 血だ、一文字に付いた赤い鮮血を見てジャンは初めて恐怖に震えた。
 何だったのだあのMSは、そしてあのパイロットの不気味なプレッシャーは。
「何故私を助けに来たの?」
 この数分の緊張で真後ろにクラウディアを乗せている事をすっかり忘れていたジャンは一瞬身を堅くし、飛び除そうになったが堪えた。
「何故って、任務だからさ」
「任務・・・あなたたちも私を利用するのですね」
「利用・・・そんな・・・」
 しかしジャンはそれ以上言葉をつなげる事が出来なかった。
 実際に詳細も解らずここへ来て、クロードという少年を救出せよと命令されたが、実際はクロードは少年ではなく少女で、貧弱な武器しか所有していないはずのインディオ軍がネグロを遙かに凌ぐMSを保有していた。
 そんな曖昧な情報の元作戦に従事していた自分にこの少女の行く末を答えることが出来るだろうか。
 実際にこの少女が連邦の元に渡れば何かしらに利用されるかもしれない。何かは解らないパワーのような物をこの少女から感じ取ることは容易であった。
 事実、インディオ軍を名乗る者たちはこの少女の何らかの「力」を見つけだし、自分達の所有する施設に監禁していたのだし、この少女を奪い返すために必死になっているのだ。
「君を酷い目にはあわせないよ・・・」
「無理しないでいいわ・・・」
 クラウディアのつぶやきは悲しげにコックピットに漂った。

 ハッチにたどり着くと異常を察知したのか、入り口付近でテリーがやってきていた。
「クロードは回収出来たのか、ならば行くぞ」
 テリーは腕のないジャンのネグロを見て事態を読んだのか、ジャンのネグロを先に行かせると自分は後ろ向きのまま出口をめざす。
 
 宇宙空間に出るとジャンのネグロに異常が生じた、右腕を切断されたせいもあり、ネグロの無重力バランスを補正する機能が正常に作動されていないのだ、それを必死に補正しつつジャンはミネルヴァとの通信回線を開いた。
「ジャン・カルロッテ目的の少女を救出しました。インディオ軍は想定以上の戦力を保有しています!早急にこの宙域を離脱したほうがいいです」「何があった。ジャン」
「いち早くそのクロードを引き渡すのだ。そうすれば今日の所は君たちにこれ以上の危害は与えない」
 この間にネルソンとアランを「始末」したのであろうスサノーとサノーがすぐ後方まで迫ってきていた。
「ふざけるなよテロリストが」
 テリーのネグロはビームライフルを連射しながらスサノーに接近した。 スサノーはテリーのビーム攻撃をことごとく盾ではねのけ、ビームバズーカをテリーに向けた。
「これが答えということでよいのかな?ならば」
 スサノーは躊躇いもなくバズーカを発射、テリーのネグロは瞬く間に「宇宙の塵」と化してしまった。 
「もう一度言う、クロードを渡すのだ」
「私はこの作戦の指揮官ミネルヴァ艦長パッド・ヨハンソンだ、我々連邦軍は君たちテロリストの要求に屈することはありえない」
「承知した。私の趣味ではないのだが、強引に引き戻すしかないようだな」
 ベルガはビームバズーカの出力を最大にまで上げ、発射した。
 それはジャンのネグロの横をかすめ、ミネルヴァの艦橋に直撃。一本に延びたビーム光が消えた時にはミネルヴァの艦橋は跡形もなく消えていた。
 なんという出力のMSだろう、現状の武器では到底かなわない。
 ジャンはただ絶望の中空間を漂う事しか出来ずにいた。
「だめ・・・だめ。それ以上人を殺さないでぇぇぇ!」
 クラウディアの叫びに連動したかのように、周囲の空間が止まった。
 あのスサノーですらまるで金縛りにあったように動けずにいるようであった。
「くっ!これが・・・ん?何かくるぞ」
 硬直するスサノーをコントロールしつつ、ベルガはレーダーに接近する物体の情報を察知した。
 次の瞬間スサノーの目の前に一機のMS(ラータONE)が飛行形態からMS形態に変形し、ビームガンを撃ち放った。その威力はネグロのそれとは格段に違うようで、スサノーは気圧されている。
 そうしている間にもラータONEが数機一体を取り囲んでいた。
「ジャン・カルロッテ伍長、この機体に捕まれ」
 ジャンの目の前に飛行形態のラータONEが急停止した。
 ジャンは状況に戸惑いつつもラータONEの機体に残った左腕を固定させた。
 飛行するラータONEに捕まりながらも、ジャンはモニターで戦況を確認した。
 突然現れたラータONEの群にスサノーとサノーは初め応戦し二機ほどのラータONEを撃沈させたが、あまりにも状況が悪すぎると踏んだのか、スサノーとサノーはP3へ引き返していった。
 新しく現れた軍隊はそれを執拗追うこともなく、ジャンを追うように帰艦のとについてゆく。
「こちら駆逐揚陸艦ブライト・ノア。ジャン・カルロッテ伍長とクロードを回収し帰艦せよ」

 目の前に巨大な白い跳ね馬のような戦艦が現れると、ジャンが掴まっているラータONEはその巨大な馬の前足のような部分にあるMSデッキへと吸い込まれて行く。
 広大なMSデッキには無数にも思えるMSが収納されていて、ジャンはその中の一機に目を奪われた。
 それは白を基調とした機体で青と赤に塗り分けられた機体だ。
「ガンダム・・・」
 ジャンは無意識につぶやいていた。 


 
 ジャン・クロード・ガンダム(前編)終了

     中編へ続く

ジャン・クロード・ガンダム(前編)

ジャン・クロード・ガンダム(前編)

宇宙世紀も二百年が経とうかという時代のガンダムのお話。ふざけたタイトルですが、ガンダム物の要点をおさえ書いております。是非読んで下さい。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-09-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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  1. ちょっとふざけたタイトルですが、書いているうちに結構普通のガンダム小説ができあがりました。
  2. 2 クロード
  3. 3・・ガンダム