惨殺残像

初めて自分で書いたものです。短いですが、暖かい目で見守ってください。


<プロローグ>
そいつは焦ったのか俺の生死を確認せずに、ナイフを持ったまま、静かな闇夜へと消えていった。


<1>
鼻水をすする音が聞こえる…。胸が少し苦しい。
「おい…。重いよ。」

「…拓海?拓海!?おいババア!拓海が、拓海の意識が戻った!」
親友の佐藤敦だった。
「拓ちゃん!?大丈夫なの?」
これはそばにいた、敦の母親だった。
「うん…。よくわかんないけど大丈夫だよ…。」
「良かった…。ホント心配したんだぞ!」
敦は、安心したような顔つきでぐったりした。そして気づいたように。
「あっ、ちょっと待ってろ。」
何の話なのか、どういう状況なのかわからない。
敦が部屋から出てから、敦の母親が泣き出しそうな目で言った。
「あなた、昨日の夜に誰かに刺されて倒れてたのよ。それを学校行くときに家に寄って行った敦が見つけたって…。病院で三日寝たっきりで…。」
「………。」
大学から一人暮らしを始め、慣れてきた矢先の事だった。閉め忘れていたドア開け入ってくる人。手にはナイフを持っていた。思い出すだけで怖くなる。

敦が病室を出てから数分後、白衣の男が入ってきた。そして、俺の周りをなにやら調べ始め、それが終わったらしく
「こんにちは。あなたの主治医の齋藤です。今調べましたが正常に戻ってきています。びっくりですよ。あの状態から復帰できるなんて、すごい生命力ですよ。」
敦は心配症だから大袈裟にしているのだと思ったが、先生の反応見る限り本当に危険な状態だったのだろう。
そういえば敦の姿が見えない。
「先生、敦は?」
「下で電話してますよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
多分俺の父親や親戚に電話してるんだろう。まぁ、電話したところでここには来ないと思うが。

俺の父親は大企業の社長だ。
しかし、母親は五才の時にはもういなかった。何者かに殺されたのだ。惨殺事件だったため、警察も力をいれて捜してくれたが犯人は見つからず、ついに時効となった。殺されたのは俺を産んで何年後か後だった。
死因は刺殺である。
その時のことを記憶として捉えていなかった。母親は病死だと認識していたため、十三の時に殺人事件のことを父親から教えてもらった俺のショックは大きかった。
いつか見つけて殺してやると本気で思った。しかしその殺意も所詮無意味だった。警察が見つけられなかった犯人を俺が見つけられる訳がないのだ。

そうして、忙しい父親だけが家族となっていた俺は親戚の家に預けられた。

しかし、親戚の人たちも突然押しつけられた俺を養うことを良く思うはずがなく、俺を嫌なものように扱った。
学校の行事には父親はもちろん、その親戚も来たことは無かった。暗い性格だった為友達は居なかった。
独りの状態が続き、もう少しで心を閉ざしそうになった俺に救いの手を差し伸べてきたのが、敦だった。

敦とは、中学校から今の大学までずっと一緒だった。というより俺が付いて行ったと言った方が正しいと思う。
敦も小さい頃父親を亡くしていた。会社での嫌がらせの末、自殺をしたそうだ。しかし敦はその素振りさえ見せず、俺に優しく接していてくれて、敦の母親も俺を息子同然のように扱ってくれた。
だから今まで、親戚の嫌がらせにも耐えられることができた。
「今、お前のおばさんに電話してきたからな!」
「別にしなくて良かったのに…。」
「そんなこたねぇよ!一応お前の親御さんだからな!」
特有の荒い言葉使いで怒られ、反論出来なくなってしまった。
「そんなムッとした顔すんなよ~」
「あぁ~、鬱陶しい!離れろ!」
昔からこんな感じで、喜怒哀楽が激しい奴だ。
二人でしゃべっていると、病室に誰かが入ってきた。 「すいません、失礼します。」
ちゃんとした感じの男。
「神奈川県警の水井というものです。先ほど目を覚まされたと聞いたので事件についてお話を伺いに来ました。」
自分が「事件」に巻き込まれ「被害者」となっていることを認識する。
「わかりました。どこで話をすればいいですか?」
話す話が大してあるわけではないが。
「あっ、ここで大丈夫です。お母様だけ外にでてもらっていいですか?」
「わかりました。じゃあね、拓ちゃん。」
「ていうか俺も残るんですか?」
「すいません、お願いします。第一発見者ということなので。」 「へー、分かったっす。」そして敦の母親が部屋を出て、事情聴取が始まった。

「えーっと、俺が分かるのは…」
・武器として、ナイフのようなものが使われた。
「だけですね…。」

「ふむふむ、はい。ありがとうございます。それじゃあそちらの方もいいですか。」

「はーい、じゃあ俺が分かるのは…」
・敦が倒れた俺を発見した時刻が朝の6時。そして敦が救急車呼んだのが6時5分。
・ドアは鍵が掛かってなかった。
「だな…。こいつ几帳面だからいつも家片付いてるんすけど、その日は鍵は開いてるは、靴もバラバラで、変だなーって思って入ったら倒れてて…。」

「そうですか。ご協力ありがとうございます。えー、それでは、こちらが集めた情報を教えさせていただきますね。」
・ナイフで刺されてからの時間を逆算すると、刺された時間は3時30分前後。
・ドアノブなどには指紋は付いてなかった。
・家の周りの道に血の付いたナイフを発見。また、これにも指紋は付いてないない。
・部屋の中は特に荒れておらず、金銭的な目的は無く、目的は殺害だけと考えられる。
・真夜中の犯行だったため、目撃者は居なかった。

「以上、これらが今分かる情報です。まったく、情報が少なくてすいません。」
「いえいえ、こちらこそすいません。そんなにしっかり調査してもらって。」
「それにしても情報が少なすぎますね。指紋なんか残ってないですし。きっと犯人は初めての犯行じゃないでしょうね。」
「…!」
その言葉に俺はゾッとした。本当に殺されたかもしれない。
その事実に恐怖を抑えられなかった。
母親が殺された。その事実も恐怖を駆り立てる。
なぜ殺されそうになったのか、そんな恨みを持たれた覚えもない。
犯人に検討がつかない。
ということは、また犯人が殺しにくるかもしれない可能性があると言うことだ。
気持ちが追い込まれたからか、一つのことを思い出した。

「しつこくて申し訳ないですが、本当に小さな情報でも良いので何か思い出せませんか?」
タイミングよく水井が聞いてきたので
「すいません。…それで、実は今あることを思い出したんです。」
「えっ!?」 「マジか!」
二人の声が重なった。

「いや。そうは言っても。大した事じゃないですけどね。」
「詳しく教えてください!」
興奮気味に聞いてくる水井に少し引きながら
「怪しい記憶ですけど。多分犯人、女性だと思います。」
「ほーう!そうですか!」嬉しそうにメモをとる水井の横で、敦が疑うような目で
「本当に怪しいなぁ、おい?」
「だからあいまいな記憶だって。後、その人結構髪長くて、肩よりちょっと下ぐらいまであったと思います。」
「ではそういう人に恨みを持たれた記憶は?」
「ないです…。」
「そうですか…。しかし!その情報はかなり有力ですよ。犯人を絞れますから。」
この証言が後に自分の足を引っ張ることを俺は知らなかったのである。

「それでは、そろそろ終わりたいと思います。ご協力ありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。」
「それでは、情報が入り次第また伝えに来ますので。では。」
水井は電話番号の書いた紙を置いて部屋から出ていった。すると敦が
「さて、拓海これからどうすんだ?」
「えっ?」
「お前は犯人をどうおもってんだよ。」
「殺したい…と思う。」
自分が言った言葉にハッと驚いた。恐る恐る敦の方を向いてみる。
(………え?)
敦は泣いていた。
「あっ、ごめんな。なんかお前が生きてるなぁと思うと嬉しくてさ。すまん。」
だからって泣かなくても、と思うが、自分の心配をしてくれているのは嬉しいものだ。沈黙が少し続いてから敦が
「んじゃあ、帰るな。今日は安静にしてろよ!協力できることがあったら言ってくれ。また来る。」
そう言って部屋を出た。
「それじゃあ俺も寝るかな~。」
今は頭がいっぱいだ、少し休むことにしよう。



(…今何時だ?うーん、まだちょっと眠いな…。結構寝たはず何だけど。)
すると部屋へ誰かが入ってきた。
敦の母親だ。
「あっ、拓ちゃん。おはよう。あのねさっき部屋出されて、少したって、また来てみたら拓ちゃん寝てたから、敦も居なかったし看病しようと思って。」
「ありがとう。おばさん。」
「それじゃあ、おばさんも帰るね。お大事にね。」
にっこり笑ってくれた。
そして、敦に言われたことを思い出した。今度は冷静に考えて、ある結論に至った。
(病院出れたら、ちょっと調べてみるか…。)

「やっぱり、きれいに整えたいよな。」

それから2週間後驚異的な早さで回復した俺は、見事退院を果たし家へ帰宅した。


(久しぶりだな…。)
犯人を探すという目的を得た俺は家を調べている。
(まぁ、警察も調べたみたいだし、あまり期待しないで調べるか…。)
家を調べるという地味な作業に面倒くささを感じながら、調べているとある違和感を感じた。

それを感じたのは、自分が倒れていたリビングの隣の部屋だ。主に写真や本が置いてある部屋だ。
その違和感とは本棚に入っている、本の配置が違うという点だ。几帳面の拓海だから分かったことである。
(なんで犯人は本棚を…?本棚に何か秘密があったのか?)
普段手をつけてないのに分かる訳もなく、諦めていたその時
<プルル>
と家の電話が鳴った。覚えのある電話番号だ。
「もしもし。」
「拓海か!?体は大丈夫か!?」
その声の持ち主は俺のよく知っている人物だった。 「うん、大丈夫だよ。」
そしてこの言葉をこの人に対して言うのは何年ぶりだろう。
「……父さん。」
直接電話がきたのはとても久しぶりだ。俺が小学校に入学した時以来、つまり14年ぶり。
「どうしたの、急に?」
「お前の友達が会社に連絡くれたんだ。すまない。入院した時点で、電話するべきだった…。」
つまり俺が入院したという連絡を本気にしてなかったということだ。…いや、興にも引かないことだったのだ。
「もう退院したのか?」
「うん、今家に居る。」
「そうか、良かった。じゃあ私は仕事に戻る。気をつけろよ。」
(それだけかよ。)
と心の中で毒づいて、
「うん、わかったじゃあね。」
「拓海…。」
「何?」
「本当に悪かった。」
<プープー>
無機質な音が聞こえる。
何かある…?
そうしたら今度は携帯電話が鳴った。ディスプレイに [敦]と光っている。
「もしもし…。」
「おっ、拓海か?今から家行ってもいいか?あいつも一緒に退院祝いだ。」
あいつとは。
友達の少ない俺の中で思いつくのは、あいつしかいない。だからといってあいつが友達なわけではないが。
「別にやんなくていいよ。」
「まぁさ、あいつに見せてやれば何かわかりそうだろ。なっ!」
これ以上粘るとあっちが切れそうだったので、渋々了承した。

「わかった。確かに俺も事件のこと知りたいし。」
「わかった。じゃあ今からあいつの家寄ってから行くから!じゃあな!……うぁっ!」

大きい衝撃音が電話越しに聞こえた。
「なんでお前がいんだよ!」
「いや、なんとなく私の家に来る気がしてね。先に迎えにきたよ。」

その聞き覚えのある独特の低い声…多分あいつだろう。

「戸田美加子」
超能力を持つ女

<2>
「久しぶりだな。拓海。」
「こっちこそ。」
あいつと玄関越しで1年ぶりの再開を祝う。
ここで 「あいつ」である 「戸田美加子」の説明をしておこう。(これからも 「あいつ」と呼ぶ事にしよう。)

戸田美加子とは。
そして超能力者である。具体的に何をするかというと、物流思念の読み取り、テレパシーなどが主に出来る。
また、調子がいい時は(関係あんのかとツッコミたいところだが)未来も見れるらしい。
と言っても、日常生活のなかでバリバリ使っているわけではない。
一見便利な機能のように見えるが、活用する場面は、この平和な国日本ではない。
あいつの親はお寺の人なのだが、特にそういった能力は持ってないらしい。
お寺の娘と言えばお嬢さんといっても過言ではないが、あいつは神とか仏などには猛反発するらしく、高校から親に仕送りをしてもらいながら別居していたらしい。
(まったくこんな、あんな娘を持ったご両親がかわいそうで仕方ない。)
と、思ったら前からとんできた数珠が顔の横を通った。
「全部聞こえてるよ。」
親から無理やり持たされた数珠を ぶんなげるなんて。
(まったくこんな…。)
と、さっきと同じことを考えようとした瞬間
<ビュンッ>
<ドン!>
鈍い衝撃音がなる。おでこにはしる激痛。
(くそ。今度は当てにきやがった。)
今度は鍵を投げられていたらしい。
そしてあいつは、今度は言葉を発さないで、直接
(次はないよ…。)
と俺の頭に知らせる。
(そろそろ止めとこう。)
そしてあいつがニヤニヤしながら、部屋に入ってきた。
「お邪魔するよ。」
「あっ、俺もな。」
さっきの流れを静観していた、敦が入ってきた。
「大したものないよ。」
「ふーん。だろうとは思ってたけど。じゃあ、敦買ってきて。」
何も無いとわかっていながら何も買ってこないとは
(この鬼畜が…。)
おっと、横から痛い視線が感じるぞ。
「おっ、おう。」
そして、それに応じる敦もどうかと思う。

敦は昔からガキ大将という感じだったのだが、あいつの前ではいつもあんな感じだ。
理由は [好きだから]。あいつじゃなくてもいいだろうと思うが、まぁそれは人それぞれだ。
「じゃあ焼酎3つと、割るやつ買ってきてちょうだい。あぁ、あとビールもお願い。」
「あぁ。わかった。」
そして、いい笑顔で敦はコンビニ(?)へ向かった。
「んじゃまぁ、敦も行ったところでちょっと視てみますか。てことで、各部屋視せてもらうよ。」
「おう、頼む。」
それから20分後、買い出しに行った敦が帰ってきた。 「あれ、あいつは?」
「今視てもらってる。」
「あっ、そう。了解。」
と言って、買ってきた酒を机に並べ始めた。
俺も手伝おうと思い、腰上げたら、あいつが腕を組んで例の部屋から出てきた。 「なんか、分かったか?」と聞くと、
ちらっと、こっちを見て
「ん。いや特におかしなところはなかった。おっ、敦帰ってきたか。」
と言って、目を輝かせる。
「今日は飲むからね!調子もいいし。ぶっ倒れるまで酒を楽しんでやる。」
「俺はいいや、病み上がりだし。」
「バカだねぇ。いつ、これが最後の晩餐になるかわかんないよ。」
と言って、無理やり、準備していたコップに酒を注いだ。いつのまにか敦のところにも酒が注いである。
あいつがこっちを見て、ニタァと、笑い、そして

「それでは、拓海の退院と再開祝って、かんぱーーい!」
「かんぱーい…。」 「かんぱーい…。」
俺と敦の情けない声と声が響く。
「…元気に行こうぜ。」
と、あいつがふてくされたように言う。
「よし、もう飲むぜ。行くぞ拓海!」
「わかった。俺も飲むぞ!」
しかし酒がない。
あたりを見回すと、あいつが俺のコップを持っていた。
そしてくくく、と笑って
「おい、すり替えには気をつけろよ。」
「ったく、人の酒勝手に呑みやがって。」

「これからもすり替えには気をつけろよ。」
(まったく、こんな傲慢な娘を…。)
あいつが酒をかけてきて、にっこり笑って一言
「黙れ。」
「すいません…。」
とかいうことがあって、結局俺たちは夜まで飲み明かした。
あいつは相変わらずやかましく、夜の住宅街に笑い声と叫び声が響いた。

人間を卓越した存在 「戸田美加子」

俺はこいつの存在が明日消えるなんて知る由もなかった。

<3>
<パチッ>
目をこする。
朝の8時。
寝覚めの悪い朝だ。後悔しながら昨夜のことを思い出す。
(俺が寝たのは、1時頃だったから7時間寝たな。)
とかいうどうでもいいことを考える。

うるさい祝いの会が終わって、二人は俺の家で寝てしまった。
かくゆう俺も酔ってしまい、二人より早く寝てしまった。
二人はどこだろう。
二人は寝ていた。
「………。?」
何か違和感を感じる。
何かがない。
何かの部品が足りない。
何かの首が足りない。
「あいつ」の首が足りない。「戸田美加子」の首が足りない。
敦は?
寝てる、音をたてずに気持ちよさそうな顔を浮かべ、顔を浮かべ…?
顔がない。
いや、頭部がない。
「佐藤敦」の頭部がない。

「う、うゎああああああああああ!」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


「………。」
気づいたら30分たっていた。
「警察…呼ぶか。」
自分でもびっくりするくらい冷静になっていた。
机の上に置いてあった携帯電話を手に取り、水井の電話にかけようとし携帯電話を開くとメール作成画面になっていた。
それを見て驚いた。
『おはよう。今これを見てるのは犯人さんかな、それとも拓海かな?まぁ、拓海が見るとわかって書いてんだけど、』
死んだはずのあいつが書いたものだった。
『簡潔に説明しよう。拓海が今居合わせているその状況は、昨日からわかっていたことだ。なら、防げていたのではないかと思うかもしれない。しかし未来が変わることはない。防ごうとしても、どんな道を辿ってもゴールは一緒だ。申し訳ないな。まぁ、私が死ぬのは別に構わん。重要なのは、これからお前がどうするかだ。全て自分で考えろ。しかし最初の手順は教える、警察に電話して状況を説明しろ。それと、もしこの事件を解決する気があるのなら、その結果はお前に深く関わってくる。美加子より PS もし行き詰ったら、昨日の会話を思い出す』

「ふざけんなよ!」
拳を机に叩きつけた。それからしばらく、いろんなことを考えた。
「………。」
携帯を持って、水井に電話する。
「はい、もしもし。」
「あの水井さん…。死体があります。」
「えっ?」
「今すぐ来てくれませんか。」
「…わかりました。すぐ行きます。」
「お願いします。」
電話を切る。
「…美加子、やってやるよ。俺が犯人を見つけて殺す、絶対に…!」

1時間後、警察が死体を回収しに来た。
「遅れました。拓海さん。」
「いや、俺も通報すんの、遅くなりました。」
「にしても…、ひどいですね。首から切り落とすなんて。」
「ほんと、バカですよね。いかれてる。」
「つかぬことをお聞きしますが、拓海さんじゃないですよね?」
愚問だ。だけど仮に
「俺だったら、どうします?」
「今すぐ逮捕します。」
「良かった。そうならなくて、済みそうだ。」
「それなら、良かったです。」
俺はため息をついて、言った。
「人の命なんてこんなもん何ですね。やられたら死ぬ、蚊と同等だ。」
「そんなことないですよ。蚊の命がどうでも良いわけではないけど。それでも人の命は高価なものですよ。」
水井がしみじみと言った。
「それでは失礼します。また、わかったことがあったらお教えします。」
「はい、ありがとうございました。」

人の命=蚊の命

人の命>蚊の命

どっちの図式が正しいのだろう。それとも、

人の命<蚊の命

人の命=無

だろうか。

(所詮人の命なんて…。)
水井と自分の言った言葉を心に染み着けた。


<4>
あいつらが死んでから3日後の日曜日、水井から連絡があり
「おはようございます。すいません…。今から署に来ていただけませんか?」
「わかりました。今行きますけど、どうしたんですか?」
「詳しいことは、署で話しますが、簡単に言うならば死体がなくなりました。」
「はっ?どういうことですか?」
「とにかく署に来てください。」
「わかりました…。」

なんだか、幸運と不運が同時に降りてきた気がする。
これが犯人を見つけるための第一歩であろう。あくまで直感なのだが。

「待ってろ、このやろう。絶対にやったるからな。」

そうつぶやきながら、家を出ていった。

「つまりですね、死体が誰かに盗まれたんです。部屋の窓がきれいに割られてたので、多分そっからですね。」
今俺がいるのは警察署の応接室(?)だ。
「どっちの死体ですか。」 「えーっと、敦さんの方だけですね。」
「…そうですか。」
「いろんな検査する前に持ってかれたんで、困っちゃっいましたよ。」
「いつ消えたんですか?」
「今日の朝、パタンと消えてました。」
「警備は?」
「いやぁ、なんといっても警察署ですからねそれなりに整ってますよ。少なくとも窓ガラスが割れてそっから、部屋に入られて気づかないやつ居ませんよ。ついでにいえば階数は二階ですしね…。」
「そうですか…。」
さて、シンキングタイムだ。
なぜ盗んだのか敦の死体だけなのか、死体をどうやって盗んだのか、なぜ窓から入られても気づかなかったのか。

…駄目だ、まだ足りない。まだ[なぜ]が足りない。
今日のところはあきらめよう。
「…わかりました。今日はこれで失礼します。」
「急に呼び出してすいませんでした。それでは気をつけて!」
と言って、きれいな敬礼をつくってくれた。

帰ってテレビをつけ、例の事件についてのニュースをやってないか気になり、チャンネルを切り替えた。そのニュースはまだやってなかったようだ。
「…られた、警察官の〇〇さんが、裸の状態で発見されました。身元は近くに落ちていた警察手帳から判明したと言うことです。警察は〇〇さんの衣服が残ってないか調査を進めるそうです。………です。次のニュースは…」
なかなかやらないなぁ、と思いながら、テレビを消そうと思った矢先例のニュースがタイミングよく、報道された。
「…惨殺事件です。今日未明神奈川県、川崎市の住宅で、首を斬られた死体が発見されました。警察は第一発見者から事情などを聞くということです。」
惨殺事件をもっと大きく報道されると思っていたため、少し意外だった。
「さて、どうしたものか…。」
いくら何でも情報が少なすぎる。捕まえようにも、殺そうにもそんなん出来る分けない。
「『私の会話を思い出せ』か…。」
ノーヒントも同然だろ。



「おっ、あった。」
学校へ行くための準備を済ませ、朝ご飯を食べながら新聞を読んでいると、ある記事に気づいた。前半はニュースでやっていたことが書いてあって、後半には
『殺害方法は刃物ようなもので首部を斬られていた。またなくなった頭部は見つかっていない。』
と、書いてある。
俺の知らない情報だと思って嬉しがったが、特に意味のない情報なのでぬか喜びだ。
「じゃあ行くか。」
俺は学校へ向かうため、重い腰をあげた。


「おい、大丈夫か?」
「元気だせよな。」
「相談あったら、俺に言えよな!」

(オマエラダレダヨ
オレノトモダチカ?)

久しぶりに学校に行き戻って見ると、どこから仕入れたのか、例の事件についてしつこく聞いてくる始末である。しかも上のように俺を心配するやつも出てきた。それに対し俺は
「今話したい気分じゃないんだ。」
なんて甘い言葉は遣わない。
話しかけられたら、
「寄るな、どっか行け。」である。
「トモダチ」ができない理由もこれだろう。
しかしこれでも俺にはちゃんとした「友達」が居る。
敦、あいつ以外の友達が…

<今からは、*訳 の方を見てください>

「11100000333#663 3366*99」
*(うーす、久しぶり)
「11#663 3366*99」
*(あぁ、久しぶり)

「3*00055550004*444*45 」
*(残念だったな)

「66644411155338*6666*444*4444777779444*44447777711112」
*(普通にしゃべってもらってもいいか。)

「99888*111211」
*(了解)

<通常に戻ります>

「あぁ~、疲れた。」
「まだまだだな、拓海。」 「お前がおかしいんだよ。」

山之内 龍馬
天才 変人

<5>
「この前の小テスト返すぞー。」
「えぇー」 「いきなり」 「やったけそんなの?」
漫画を思わせるようなほのぼのっぷりに嫌悪感抱きながら、テストの点数を見ると、それはそれは本当に珍しく96点という高得点だった。
「90点以下は追試な~。今回はかなり難しくしたから、合格した奴は自信もっていいぞ。それでは終わる。」

授業が終わったので、自分の点数を隣の龍馬に自慢しようとそっちを向いてみると
(………)
龍馬が満点の答案を横に置いて本を読んでいた。
「んっ、どうした?」
「いや、なんでもないです…。」
すると龍馬なにか思い出したのか鞄の中から切りとった新聞を出し
「これって、あの事件の記事だよな?」
「ええっと…あぁ、そうだよ。」
「ふーん、そう。…お前さ不自然に思わなかった?」 「えっ、何が?」
「えっと、まずさどうやって殺したの?」
「書いてあるとおり、ナイフ。」
「殺害方法を聞いてんじゃない。鍵閉めなかったのか?」
「……えっ ?…あっ!…ほんとだ!…俺は敦が帰った後鍵を閉めた!」
「ふーん、そう。じゃあどうやって入ったんだろう?」
「凄腕の鍵開け師?」
「…が何であいつらを殺す?」

うーん、確かに。
「まぁ、それはいい。何らかの方法で開けたとする。」
「いいのかよ。」
「後はこれ」
と言って新聞へ向けて指を指す。
それにはマーカーが引かれていた。
『またなくなった頭部は見つかっていない。』
と書かれとある。
「これの何が?」
まったくというように、ため息をつき
「頭ってのは、結構重いんだ。それを2つ持っていくとなると、まぁまぁの重労働だ。」
「ふーん、まぁ男なら持てるでしょ。」
「ここで矛盾している。」
「はっ?」
「だって、お前が刺された時の犯人は女って言ってたんだろ?」
「いや、ちょっと待て。何?ていうか何で知ってんの?ていうか同一人物なの?何で?」
「お前マジか…。」
そんなため息つかれても困る。
「じゃあ、説明しろ。」
「99888*111211」
*(了解)

「割合でいえば、同じ家で二度犯行が怒るなんてありえるか?ましてやマンションだぞ?」
「そんなの説明にならないだろ。可能性だってなかったわけじゃ…」
「なんでお前を殺さなかった?」
少し大きめの声で探るように言う。
「なんで二人は殺されてお前は殺されない?」
「…わかんない。」
「思わせないためだよ、自分が犯人だと。警察は同じ家で事件があったことに関連性があると考える。しかし第一事件の被害者が生きている、犯人が一緒ならお前も殺されるはず…と。」
「いくら何でもそんな子供みたいなトリックにだまされないでしょ。」
「 目の前の宝箱が一番見つけにくいんだよ。簡単すぎてわかんない。簡単すぎてわかりづらいトリックに、相手が騙されるか、そうならないかの勝負を仕掛けたんだ。犯人は。」
頭が追いつかない。
「じゃあ、なんで犯人はあいつらを殺した?」
「そんなん知らねえよ。犯人じゃねぇし。」
ふぅ、とため息をつき
「つまりな、俺が言いたいのは犯人は男だろってこと。」
すかさず反論し
「いや、でも肩まで伸びてたし…。………!」
(何を言ってんだ、俺は?)
自分の口から出た言葉に違和感を感じる。
そして龍馬が小馬鹿にするように、
「そんなやつ、いくらでもいるだろう?まったく…それに気づかないお前も警察もバカだよ。」
最高に恥ずかしい、穴があったらはいりたい。
「自信満々に言っちゃったよ…、へこむ~。」
水井さんに連絡しようと携帯電話を取ろうとしたら、その手を龍馬に止められた。
「警察に電話するのか?あぁ、それはやめろ。あいつらはあてにならない、絶対駄目だ。それにお前犯人殺したいんだろう?警察なんかに捕まっちゃったら、それが出来ねぇぜ?」
「じゃあ協力してくれ。」
「99888*111211」

まったくなんで俺のまわりはこんなに変態ばかりなのだろう。
「それでも犯人に検討つかねぇな。」
すると携帯電話が鳴った。 「もしもし」
「拓海さんですか?」
「はい、なんかあったんですか?」
「今度は戸田さんの遺体が…。」
「………。」

「どうした?」
龍馬が尋ねた。
「美加子の死体が盗られた…。」
それを聞いた龍馬はにやっと笑いながら
「ふーんそうか、そうですか…。」
不審に思いながら、携帯電話に耳を戻す。
「どうすればいいですか?」
「はい、えーと今学校ですよね。なので学校終わってから、署に来ていただきますか?」
「わかりました。それでは。」
電話を切ってそうそう、
「俺もついていくよ。」
と言う。
「来なくていい、お前を巻き込む気はない。」
「じゃあ、俺の方から巻かれることにしよう。」
そして不敵な笑みを浮かべ
「やばいものには巻かれろ、だ。」
そしてまた、いや、今度は何か追い詰めるような、また、人を殺そうとするような、そんな目だ。
「………」 「………」
さて、どうしよう。
最近こんなのが多い気がする。こいつは「天才」だ、もしかしたらもう、「解答」にたどり着いているのかもしれない。やはり、力は必要なのだろう。
また、俺自身もそう感じるものがあった。
こいつによって道が開かれる、そんな感じがした。

しかし!それでも奴は
「変態」
なのである。
「天才」という力の上に、「変態」という力を持っている。これは大変危険だ。
「変人」が考えたことが、「天才」によって、現実に「起こる」。
「変人」が考えた地球滅亡が、「天才」の脳みそによって、天変地異が「起こる」。

山之内龍馬
またの名を
「天変人」


まあ、そんな中二病な二つ名は置いといて。
幸運にも、あいつ自身がそれを考えたことがないという。
しかし、それは今までの話である。もしそれを龍馬が考えたら…。
まぁ、今はどれだけ龍馬が「危険」なのかわかってくれればいい。

「…わかった!連れて行くけど、そんなに深追いするなよ。何するかわかったもんじゃない。」
「よし!そうと決まったら早速行こう。[善は急げ]だ。」
「まだ学校だろう。それに俺は[果報は寝て待て]派だ。」
「何を言ってる、幸運は動かない。自分でとらなきゃ、幸運なんてこない。」
「…分かったよ、行こうぜ。」
成績が奮わない俺は、いい子に授業を受けたいのだが…、もうダメだ。龍馬が鞄を持った、出発の時だ。
さぁ、「謎解きは授業の後で」。


<6>
「前回と同じ、窓ガラスが割られてました。」
話を聴いている場所も前回と同じ場所。
「本当にすいません。警戒はたかめていたんですが…。」
「いいですよ、別に。保有していたわけじゃないですし。ところで、検査の方は?」
「それはちゃんとやらせていただきました。といっても新しく得た情報とかないんですけど…。」
と、申し訳なさそうに言った。
(担当がこの人で良かった…。)
しんみりとそう思っていたら、横から
「死亡推定時刻は?」
「えー、ちょっと待っててください。」
と言って水井が部屋からでていった。
「…おい、お前、深追いしないって。」
「深追いした覚えはない。ただ死亡推定時刻を聞いただけだ。」
「そういうのを…」
「お待たせしたした!…なんか話してましたか?邪魔ならまた出ますけど?」
「あぁ、すいません、大丈夫です。わざわざとってきてもらって、すいません。」
そんなこと100%思ってないのに、申し訳なさそうに言う龍馬。

にしてもこれまた、タイミングの悪い登場だなぁ…。水井に非があるわけじゃないので、責めることはできないが
「それでどうでした?」
「はい、3時から3時30分でした。」
「ん?」
龍馬が首を傾げた。
「どうした?」
「お前が刺されたのって何時だ?」
と、小声で聞いてきた。
つられて小声で
「あぁ、確かにあいつらがやられたのと同じ時間だ。」
「ふーん。」
興味なさそうに頷き
「それじゃあ、また。ありがとうございました。」
といって帰ろうとした。
「ちょっ、待てって。」
そして龍馬が横切ろうとした時、耳元で
「―――――」

(…は?)
どういうことだ?だってあいつは…。そんな事あり得るのか?
振り向くと、龍馬はもういなかった。

あいつの言ったことが、あっている、または本当のことならば、今どこにいる? 「大丈夫ですか?」
心配したのか、水井が声をかけてきた。
「はい…、大丈夫です。」 「…。本当ですか?」
疑い深く聞いてくる。そんなに顔にでてるだろうか。
「水井さん。」
「はい?何ですか?」
「あいつらって死んでましたよね。確実に。」
「はい、もちろん。」
しかしそうじゃない。
そうならあいつの言ったことは間違えている。

もしくは

あいつの言ったことが正しくないのかもしれない。

今日あいつに感じた、いくつかの違和感。何かがおかしい。

「もう、いいですか?」
「えっ、あっ、はい。今日も報告だけなので。それじゃあお気をつけて。」
またあの敬礼を返してくれたが、それをちゃんと見ることもなく俺は走っていった。


「どういうことだ?」
「どうもこうもない。あれだけだよ。」


君に友達がいる。ちゃんとした友達、気の置ける友達。その子に嘘をつかれたら君はどうするだろう。
答えは一つ――
『許す』
その場で激怒しても、だ。そいつを殺そうとその時思っても、だ。
友達とは、都合のよい人間である。
『私たち友達だよね――』笑わせてくれる、そんなん言ってる奴は死ね。
あくまで、「悪魔」の僕の考えだが。

「さっき言った通りだよ

敦は生きている。

ただ、それだけだ。」
「だからぁ、どういうことだよ!」
「敦は不死で、いくら年をとったり、殺されても死なない…嘘だよそんな顔すんな。」
「理由は、根拠は?」
「ぶっちゃけただの、根も葉もない勘だけどな。とりあえず、今なんとなくわかってること全部話す。」
龍馬が自分の推理を話し始める。

「まずおかしいと思ったのは、警察署での死体の持ち運び。死体を運ぶのはもちろん、それを窓から運んだっていうのがおかしいと思った。いくらなんでも重労働過ぎる。まず、死体をどのように運んだかだ。バッグに人を入れることができない。なぜなら大きすぎるから。」
そして、こっちを伺うように見る。
「どうやったんだ。」
「斬ったんだろ。」
また残酷だ。
「入らないならバラバラにして入れればいい。きっと血の流れも止まってたんだろ。」
「にしても、重いだろ。」
「何回か分けて、運んだんだろう。」
ここで重要な疑問が湧く。 「じゃあ、どうやって死体がある部屋の中に入ったんだ?」
「こっから重要。そいつはどうやって部屋の中に入ったのか、逆に考えよう。どうやったら入れるか。」
早く言わない龍馬に怒りを感じながらも、その答えを待った。

「簡単に入れるのは

警察官

だけだ。」

「はっ!?」
ついに、狂ったか。なんでここで警察官が犯人になる。
「警察官が犯人とはいってない。警察官に変装したそいつが犯人だ。」
(変装?どうやって?)
「どうにかして警察官の正式な服を着て、部屋に忍び込んだ。ってこと。だと思う。」
まだ、混乱して理解できない。
「でも、どうやって?」
頭を整理して、問うた質問には驚きの答えが返ってきた。
「その服を提供したの俺なんだ。」


<7>
「ナニヲイッテイル?」
「俺が犯人に警察官の服を渡した。まぁ、ちょっと違うけどな。」
興奮しながらさらに聞く
「お前はどうやって、手に入れた?」
「殺した。」
思考停止。今度は復旧しない。
「ちょっと、俺に話させてもらおう。」
停止した状態のままの俺を置いて、また話し始めた。
「大昔のことになるが、俺は母親を殺されててな」
「………。」
「だけどそんな迷宮入りっていう事件じゃなかった。ちょっと調べたらすぐ分かるはずだった…、」
一呼吸置き龍馬は、憎しみのこもった顔をして
「あいつらは調べなかった!!特にその事件の担当者、福田涼成だけは許せない!あいつが適当にあしらった!何度も署に行ってお願いしたのに…。ちっ、くそ!」

当時のことを思い出しているのだろうか、本当に、本当に悔しそうな顔をした。
「…、はぁ。こんな事話したくなかったんだけどな…。」
独りでつぶやくように。

「そして先日、その福田涼成が死んだ。」
「………。」
「あれ、知らないのか?結構話題になってるけどな、真っ裸になってたって。」
なんと、あれか。
全くなんで同じ日に…。
「お前がやったのか?」
「俺はそんなこと一言も言ってないぜ?俺がやった証拠はない。」
そして、不敵に笑いながら
「それに、俺がやるんだったら絶対にバレない、いや誰かに押し付けるようにする。」
「…つまり?」
「まぁ、そんな焦るな。お前は?お前はどう思ってる。」
はぁ、とため息をついて(最近多い気がする)、重い口を開けた。
「お前がその福田って人を殺した。そして、あいつらを殺した犯人がそれを何らかの形で見つけ、服を剥ぎ取った。そして死体を盗んだ。」
「…足りてないし、間違ってる。」
ここで、俺は聞いた

「お前は全部分かってんのか?」
「あくまで予想ね。」
と、言ってこちらを伺う。それに首を縦に振って、応じる。

「99888*111211。んじゃさ、まぁ、俺が福田を殺したのは認める。それを処理した。まぁ、処理っていうか、ばれないようにしただけだけどな。しかっし、なぜだか、ニュースでその死体が見つかってるじゃないか。さて、なぜだろう?」
「知らねえよ。」
「こんなのもわかんないとは、まだまだだ。」
つまりだ、と下を向いて話し始める。
「誰にもわかんないように死体を隠したのに、それが発見されてる理由はもちろん、俺がそれを発見されるようにしたからだ。」
「…うん!?何言ってんの?大丈夫か?」
「全く本当に馬鹿だな…、呆れる。任せろ全部説明してやる。」
「お前何者だよ?」
「うん?別に、ただの天変人の一人さ。」
(わかんねぇよ!)
そして俺に解説を始めた。
「俺はちょっと父親にうんざりしててさ。お袋が死んでから、急に変わっちゃってよ。ギャンブルやり始めてさ、それまではくそ真面目でそれはそれでうざかったんだけどな。まぁ、それでも今より一京倍増しだった。」
「京って億の何倍?」
素朴な疑問を投げかけたら、軽く無視された。
俺の心に傷をいれてから、話を再開する。
「まぁようは、父親から逃げたかったんだわ。刑務所に入りたかった。だからバラした。ついでに死体も。」
「…そんなことだけか?だってバレたら、死刑かもしれないぜ?まさか、死にたいとかじゃないだろ?」
「もちろん!死にたくなんかないさ、未練だってあるしな。終身刑あたりで死刑はないかなとか思ってな。」
「だからといって、やるか?」

「やったもんはしょうがない。さて、話を戻そう。俺は死体をバレるようにした。だ・け・ど、それが悪用された、

犯人にな。

つまりだ、結果的に俺が死体の制服を渡したことになる。」

「…訳わかんねぇ。」
「まぁ待て。そして警察官の服を奪った犯人が、死体を盗んだ訳なんだけど。まず、疑問点を二つ、挙げてみよう。一つ目、なぜ死体を盗んだのか。どうだ?」
「…死体に証拠があったから?」
「そうだ。じゃあ、どんな証拠だ?」
なんでこいつは自分が正解なことを前提に話しているのだろう。ものすごくむかつく。
「………。」
しばらく考えたが何も思いつかない。
「くそ!…分からない。」
舌打ちをしながら、返事をした。

「99888*111211。ここで重要なのは、なぜ最初の時点で敦の死体を盗んだのかだ。美加子の死体は盗まなかったのか?」
今度は俺の方を伺いもせず続ける。
「それは、美加子の死体に用はなかったからだ。」
「………。」
「逆に言えば敦の死体に用があった。それと時間について。敦の死体が盗まれたのはいつだ?そう死体検査の前日。」
相変わらずこちらを向かず話す龍馬。
「つまり、 敦の死体が調べられたらバレてしまうようなことがあった 。」
そしてこちらを向いて
「お前なら、どんな証拠があれば死体を盗む?」
「死亡推定時刻みたいなとか?」
「…まぁ、悪くない。しかし美加子の死体の検査でそんなもの分かってる。敦の死体だけに隠された秘密。」
「…つまり?」
俺は聞いた。


「もし、あの死体が
―――――
すり替わっていたら?」


「何?」
「今日俺が話せるのはこれくらいだ。じゃあな。」
「ちょっと待ってくれ、それな…」
龍馬は既に家には居なかった。
龍馬が言った言葉を一つずつに考えを張り巡らす。筋は通っている話だった。

ただ、もし龍馬が嘘をついているとしたら…。
事件はどうなるのだろう。


〈8〉
俺は今、ある会社の目の前にいる。ある人物に会って問うために。
答えはもう完成に近い。

たくさんの人がその会社に出入りしてる。それだけでも大手会社ということが伺える。俺はその中に入り、受付に行く。可愛らしい女性が担当していた。
「社長に用があるのですが、」
元気の良い返事が返ってくる。
「わかりました!少々お待ちください。」
そして何やら機械を操作して
「はい、わかりました。失礼します。…面会OK出ました。部屋は12階にあります。それでは行ってらっしゃいませ!」
「行ってきます。」
可愛い笑顔に爽やか(?)な笑顔を返して、俺はそこへ向かった。
エレベーターに乗り12階の釦を押す。2階3階…と、上に昇って行く。
「何を聞けばいいんだろうなぁ…。」
あっという間に12階に着いた。自然と歩くスピードが速くなる。
そして社長室へ到着する。 (大丈夫、落ち着こう。話すだけだ。うん。)
コンコンと、部屋の扉をノックする。中から
「入れ。」
という声がした。
言われたとおりに、部屋に入る。
「失礼します。…事前に連絡した通りです。」
その人は悲しそうな表情をして
「分かっている。全て話すから安心しろ。」
「久しぶり。」
「あぁ、本当に久しぶりだな。」

そして俺らは声を合わせ言った。
「父さん。」 「拓海。」

<9>

「まず、これだけ言っておこう。私はもうすぐ死ぬことになってしまうと思う。」

「はっ?」
「癌だ。今日会社に来たのも、お前と話すためにわざわざきた。既に社長の引き継ぎの準備は出来てある。」
「本当なのか?もう無理なのか?」
「ああ、きっとな。」

いくらなんでもいきなりすぎる。赤の他人といっても過言じゃなかった。その父が、死ぬ――

「なんで早く教えてくれなかった?」
「お前に連絡しても、病気の進行は遅れないからな。」
「嘘だろ…。なんで、あんたまで死ぬんだよ。」

かすかな記憶が蘇ってくる。
俺は泣いてしまった。今までの悲しみが全てたまった涙だった。

「…今はそれどころじゃないのだろう。」
「…分かった。」
俺は涙を拭いて、父のほうを向いた。
「教えてくれ俺の過去を。」
「分かってる。」
父は諦めたように、もう終わりだと、言わんばかりの暗い表情で

「お前は私と母さんの子じゃない。」

「………。」
俺は何も言わない。
「お前の父親は違う人だ。」
「………。」
「すまん、今まで黙っていて。」
「なんで母さんを許しこれた?」
「…私にも、少なからず責任があるからだ。ちゃんと母さんと向き合っていれば良かった。仕事だけじゃなく…。」
だからといって普通許せるものだろうか。
「いつ頃分かったんだ?」
「お前を始めて見たときだ。何かが違う、そんな気がしなくてならなかったから、部下に調べさせたんだ。」
「…相手はわかったのか?」
「ああ。これがお前の一番知りたいことだろう。」
父は一呼吸置いて、言った。

「―――――――――――――――――――。」
鳥肌がたった。やっと繋がった。
やっと全部が
「整った…。」
俺は父の方へ顔を向けて
「父さん。」
と、呼んだ。
父はこっちを向いたまま
「…何だ?」
と、答えた。

「ありがとう。」

俺は父に背を向け、部屋を出ようとした。そのとき、後ろから父が
「頑張れよ。」
と、言った。
俺は足を止めずに部屋を出て、もう一度呟いた。
「…ありがとう、父さん。」
そしてまた涙をこぼした。


<9>
<プルル>
「…もしもし、俺だ。」
「………。」
「明日の12時に俺の家に来い。」
<プープー>
俺は自分からかけた電話を強引に切った。
「さて…、後は待つだけか。」


次の日――


準備万端だ。
後ろにはナイフ、一応近くにバットもある。そして証拠に推理、全て揃った。

<ピンポーン>
ついに来た。鍵は既に開いてある。
俺は立ち上がり、ナイフを右手に持ちながら、玄関まで歩いていく。
そこで止まり、そいつが入ってくるのを待つ。
ドアが開いた。
俺はその瞬間床を蹴って、ジャンプし、そいつにタックルをかまして、倒したところに馬乗りして上をとった。そして首もとにナイフをあてた。
倒れている男はこれを予想していたかなように、余裕の笑みを浮かべている。
「全く、とんだおもてなしだぜ。」
「さぁ、全て吐け! 龍馬 !」

そいつは

「99888*111211」

その 天変人 は

「簡潔に完結にしよう。」ニコッ と、笑ってそう言った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

俺は龍馬に推理を話した。

「まず、俺が襲われた事件についてだ。これの犯人は敦だ。…動機はわからない。次に敦と美加子が殺された事件、これの犯人はお前だ。」
びっ、と龍馬に向かって指を指す。
「動機について話す…。敦は昔、父親を亡くしている。俺は敦の父親が会社の嫌がらせが苦で自殺したと聞いた。だけどその嫌がらせを受ける原因は知らなかった。それは多分、多分だけど、俺の母親が原因だ。
いや、敦の父親にも原因があるとも言えるだろう。」

ここで一つ息を置く。
「その二人は不倫していた。その二人の間に産まれたのが俺だ…。そして敦の父親は敦の母親とも子供をつくっていた。
つまり、俺と敦は…。

腹違いの兄弟だ。

皮肉なものだよ。親友の父親と俺の母親が不倫しているんだからな。」

父から俺を生んだのは、敦の父親と聞いたとき、直感で俺と敦が兄弟だと感じた。同じ時期に二人の女に自分の遺伝子を残すなんて、故人にこんなことは言いたくないが、どう見てもイカれてる。父は俺の母と敦の父親がどのように知り合ったの語らなかった。知ろうとも思わなかったが。

「不倫のことが会社内で広まって敦の父親は嫌がらせをうけたんだと思う。それで、これは本当に想像だけど、俺の母親を殺したのは…
敦の母親だ。

その頃のことは覚えてないけど、多分そうだろう。まぁ、これは今関係ないから置いておく。」
龍馬はまだ目を瞑っている。
「次にお前の犯行についてだ。俺はお前に違和感を感じていた。」

ずっと感じていた違和感。

「…なんでお前が、

俺が犯人は女と言っていたのことを知っている?

これだけなら調べればわかるのかと、ギリギリ納得できる。
だけど、俺の気持ちは分からないはずだ。それなのに何故かお前は、

俺が犯人を殺したいという気持ちを知っていた。」

ここで龍馬が久しぶりに声を出した。
「…そんなの推測だよ。」

それを無視して話を続ける。
「俺が考えてるのは、お前と敦が手を組んでいたってこと。お前が福田さんを殺したのを知った敦はお前を脅し、協力するように迫った。返事はOK、こうしてお前らは協力関係になった。そうすれば敦から情報も貰え、敦もお前から情報を得られる。
そしてあの日、お前は首を切った福田の死体を、敦の死体のように見せかけた。死体を盗んだのは、その死体が福田の体だとわからないようにするためだ。
そして福田の警官服を着て部屋に潜入、死体を奪った。
しかし福田の死体だけに気をとられて美加子の死体は手につけなかった。これがお前の最大の失敗だ。美加子の死体に手をつけなかったことで、福田の死体には秘密があったと仮定できたからな。慌てたお前は美加子の死体を盗んだが、時既に遅し、俺に犯人だと言うことがバレた。」
しゃべりまくって乾いた唇を、舌で潤した。
コレが……今わかる全てだ。」
「………。」
ここで沈黙が何秒か続いた。その後拓海はふぅ、と息を吐き言った。

「…俺は嬉しいぞ。吐くことなんてないんじゃないのか?」
俺は龍馬を睨み、鋭い舌打ちをして
「とぼけるな!敦はどこだ!敦に会わせろ!」
龍馬は笑った、そして待ちくたびれていたかのように

「何言ってんだよ、もうここにいるだろう。」


<11>
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………はっ?」
どういうことだ、苦し紛れの戯言か?
ここにいる[敦]と名乗る「龍馬」は目を瞑り

「全て説明しよう。」
「何馬鹿なこと言ってんだ?今俺が説明したとおりだろ?」

俺の反論を無視して[敦]は話を続ける。

「俺は敦だ。これは揺るがない。お前が感じた違和感は、これかもな。」
「…ちょっと待て。お前が敦だとしたら、 龍馬はどこにいる?龍馬の電話にかけたのに何故お前が出る?」
はっ、とした。
「おい!龍馬はどうした!」

龍馬はなんの感情もないような声で、殺したよ と
呟いた。

「俺の死体の変わりは龍馬だ…。」
「いつからだよ!お前はいつから「龍馬」になった?」

「お前が学校へ来た時だよ。いや違うか、あの日、退院パーティーの時から俺は「龍馬」だったよ。」
「なっ!?」
「拓海を驚かせて元気つけようって名目で俺たちはすりかわった。龍馬は喜んで協力したよ。そうして俺は「龍馬」になり、龍馬は「敦」になった。」
「そんな訳…、そんなこと出来るわけない!」
「もともと背丈も顔立ちも似てたしな。髪を切ったり、服装を変えればな。」
「だからって…!」
「実際問題お前は気づかなかった。」
んっ、と
言葉につまった。

「そうだ、お前は気づかなかった。その事実は変わらない。」

さて、と敦は言い。
「説明を続けようか?」
言葉を返さないことが肯定となる。

「お前が寝たことを龍馬から確認し、俺は龍馬に部屋を入れてもらい二人を殺した。だから福田の死体はあんまり関係ないな。でも、龍馬が福田を殺したのは事実だぜ。それについてはさっきお前が言った通りに協力関係を結んだんだ。」
「そうだ、忘れてた…。俺は鍵を閉めたんだった。そのことを考えてなかった。なるほどそういうことか…。」

全く、と馬鹿にしたような顔で笑われた。そして
何が全て整っただ、結局相手に謎解きをしてもらって。


「負けた…。」

「おしかったな、まぁほぼ正解だし誉めてやるよ。さてと、俺ももう、自首しに行くぜ。じゃあな。」

「ちょっと待て…。」

「まだなんかあんのかよ。」
「ああ。」
俺は言った。


「なんで俺を殺さなかった?」


「………?」

「あぁ、そうだよ。なんで美加子達を殺した時、俺を殺さなかった。」
敦の方を向く。


「俺にナイフで刺したのは本当にお前なのか?」


「………。」
沈黙する。
俺は独り言のように敦に問いかける。
そして頭に自然と浮かんだ言葉を言った。


「あの夜、俺を刺したのは、
お前のお母さん、
おばさんなんじゃ、ないのか?そしてお前はそれを庇ったんじゃないのか?」
途切れ途切れに言葉を発する。
敦は沈黙を保ったままだ。

「何言ってんだお前。」
あの何に対しても逆らうような態度。うん、こいつは敦だ。それを認識して話を続ける。

「おばさんの怨恨。自分の子供が友達の母親の子供だと認識したときの恨みっていうのはすごいものだと思う。しかしその恨みの対象となる母親を殺しても、まだ恨みは残っていた。じゃあ、その恨みはどこへ行くか。」

自分の考えにうん、と相槌を打ち

「もちろん
その息子の
俺だ。」


「よく気付いたな。さすが俺の弟だ。」
「…オチは言わなくていいみたいだな。」
「ああ、もう終わりでいいだろう。さて、これからどうしようかな。」

「大丈夫だ。俺が全て整える。」


「OK、頼んだ。…じゃあお別れだ。」
「…最後に一ついいか?」

「ん?」

「なんで俺にヒントを教えた?」

敦は少し考えてから
「お前にこの事件を解いて欲しかったっていうのと」敦は微笑んで言った。
「自分に裁きをあたえたかったからだ。」
敦はもう一度背を向け

「じゃあな、後は頼んだぜ。名探偵さん。」
玄関の方でドアが閉まった。
「………。」
何も考えらんない。考えても行動に移す事はできないだろう。そしてこの言葉が頭に浮かんだ。
「これで許してくれ、美加子、龍馬…。」

そして全てが整った。


<11>
『惨殺事件犯人自首』
新聞の隅にあった見出しにはそう書いてあった。
『先日起こった首切り事件について、佐藤敦容疑者が自首した。また警察署で安置されていた死体を盗んだ事件についても自分が犯人だと供述し、警察は供述をもとにもう一度事件を調べ直すという。』

「…自首したか。」
さて、あの日の次の日の新聞を読んでる訳だが、この通りである。惨殺事件とのややこしい関係についてはあまり深くは書かれていなかった。

あの日、敦がいなくなった後に、敦の母親のところへ向かいすべてを話した。
話が終わった後には泣き出した。落ち着いてから彼女はかれた声で言った。

「拓ちゃん…本当に、ごめんなさい!怪我させたことも、それに昔のことも…。こんなの言い訳にも何にもならないけど、いつの間にか拓ちゃんの家の前にいて、そのまま…。本当にごめんなさい!」

落ち込むことなんて一つもない。人が衝撃的に人殺すことなんていくらでもある。そういくらでもだ。
泣き崩れるおばさんの肩を叩き、俺はこう言った。
「自首しようなんて考えないで、敦のためにも。敦は絶対に後悔してませんから。」
そうして俺は背を向けて、外に出た。



〈エピローグ〉
それから4年後、敦の死刑が執行された。奇しくも同じ年に父親も死んだ。
警察の捜査により龍馬、美加子の死体も無事発見された。本人たちの体はなかったがお葬式もあげることはできた。
福田の事件については、犯人が死んでしまった今、捜査は迷宮いりになっただろう。

そして事件の解決から10年後の今日この頃、俺は私立中学校の国語教師をしてる。
結婚もして、二人の子供に恵まれて、幸せな生活を送っている。

大切な人達をなくした、あの事件。たまにふと思い出すことがある。
目の中にはあの時のことが、残像のように残っている。

それを吹き飛ばすかのような、青く澄み切った空模様だった。

―――――END

惨殺残像

いかがでしたか?下手くそな文で読みづらかったと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

惨殺残像

自分が被害者の傷害事件、友達の惨殺事件…様々なものに関連性を見出し事件を解決することはできるのか。 解決に関係していた、自分の過去とは……

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-09-11

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著作権法内での利用のみを許可します。

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