涙色の雫

月はその体を苗床に命を作り、魂を地上に送り出す。
そして、役目を終えた命は、月の光に導かれ
吸いつけられるように昇っていく。
生み出す以上、刈り取り奪い去るのが天空の掟。

凍てつく月の涙は、まあるくまあるく雫になって
雪花のようにひらひらと舞い降りる。
上弦の月は、静かに風を奏で、夜の空を揺らしその雫を世界中に届けている。
七色に輝く雫は、全てを覆い尽すほどに、甘く切なく心を満たす薬。
遠くに離れた太陽の光をその雫は体中に溜め込み、鈍い光を放っている。
魂が喜び、幸福を感じる一瞬の感覚は月の雫の薬の効果。
深くえぐれた傷に入り込み、暖かく包み浄化し、構築し抱擁する。
治るべき傷を抱えた動物たちの為の薬。

あなたの心にも、もうすぐ届くはず。

月に寄り添い、風とともに流れる世界をただじっと眺める精霊は
地上に投げ出された月の雫の行方を見守っている。
命の意味も存在も、儚さも全て夜船からその瞳に映し
ただひたすらに航海を続ける。手を差し伸べる事も、奪うこともしない。
逃げることも、寄り添うことも出来ないから。

新月の夜に精霊は、大海原に投げ出され、地上の命の餌となる運命が待ち受けている。
運命の輪は生まれた時に動き、灯火が消える時間はそれぞれに決まっているから。
だから、それまでは・・・。

涙色の雫

涙色の雫

月はその体を苗床に命を作り、魂を地上に送り出す。 そして、役目を終えた命は、月の光に導かれ 吸いつけられるように昇っていく。 生み出す以上、刈り取り奪い去るのが天空の掟。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted