マリス栽培キット

マリス栽培キット

 二宮幸子がその役に抜擢されたのは、3ヶ月前のことだった。
 名監督、三浦・ジャスティン・孝四郎氏の新しい講演、【ザクロ】。主人公の女性が財産を全て相続するために親族を蹴落とし、殺害するというブラックストーリーである。幸子はその主役に選ばれたのだ。元々演技力があった彼女は、デビュー当初から業界に注目されており、三浦氏も予てより幸子のことを気に入っていた。
 連絡を受けたとき、幸子は2つ返事で了解した。三浦氏の講演に参加した俳優は更に名を挙げることが出来るというジンクスがあった。別に元から地位・名声を得るために女優になったわけではないのだが、やはり有名になってより多くの作品に出演したいという思いは強かった。
 さて、何故そのようなジンクスが生まれたかと言えば、それはきっと、三浦氏の鬼コーチぶりに理由があるだろう。彼の指導は兎に角厳しいのだが、そこにはちゃんとした指針があるので、指示に従って演技をすると本当に美しいものになるのだ。なので三浦氏は、俳優・女優の魅力を引き出してくれる男だと言われている。
 ここでは経歴も能力も関係ない。全員が対等に扱われる。演技力のある幸子もまた、三浦氏から厳しい指導を受けていた。
「ちっがうヨ! もっとアクドサを出すんだヨ!」
 三浦氏は日本とアメリカのハーフである。わざとなのか、元からこういう口調なのか、彼は常にドラマに出て来る外国人のように訛っている。
「はっ、はい! ……『お兄様? こんな不祥事を起こしたんじゃ、もう遺産は貰えな……』」
「違ァァうっ! ちょっと、ちょっと休憩だヨ」
 何度同じ台詞を言っただろう。自分が「悪そう」だと思っていても、相手から見ると全くそうは見えていない。
 自分には実力があるのだろうか。幸子は落胆した。
「サチコ」
 三浦氏が歩み寄った。ずっと怒鳴っているので顔が真っ赤だ。
「サチコは優しすぎるヨ」
「優し、すぎる?」
「Yes. 言葉や口調だけじゃなくって、顔や、仕草も悪そうにするんだヨ。サチコは優しい子だから難しいかもしれないけどネ」
 それだけ伝えて、監督はトイレに行った。
 厳しいが、ただ怒鳴るだけではなく、演者の良い所は認めてくれる。だから彼のことを批判する者は少ない。
 彼のフォローで少しは心も和んだが、それでも監督が望む演技が出来ないことは辛かった。このままでは本番に間に合わない。全員の足を引っ張ってしまう。
 純粋で、心優しい子。幼い頃から幸子はずっとそう言われ続けてきた。自分もそう言われることは嬉しかったのだが、まさかこんな所でその性格が仇となるとは。
 その後何時間も稽古は続いたが、監督がOKを出すような演技は出来なかった。



 帰り道、幸子は地元の商店街に足を運んだ。気持ちが沈んでいる日は、多くの人と話をするに限る。商店街の人々とつきあっているうちに、心も和やかになってゆく。
 買い物を済ませ、さぁ家に帰ろうというとき、幸子は不意に、路地裏に視線を移した。建物の間に出来た暗い空間。その下に何かあるらしく、ぼんやりとした光が見える。普段なら気にも留めない光景なのだが、この日は何故か、下にあるであろう何かが無性に気になった。足がゆっくりと闇の方に向かう。誰も彼女を止める者はおらず、幸子はすぅっとその闇に飲まれていった。
 石造りの階段がある。光の元はその下にあるようだ。何のためらいもなく、幸子はそこを降りてゆく。ものの10段程しかないのですぐ下に着いた。
 階段を下りてすぐの所にあったのは、古びた骨董品店。壁はガラス張りで、中の様子が何となくわかる。色とりどりの壷、カエルの置物、壁には変な仮面が飾られている。中に入ると、ココナッツか何かの甘い香りが鼻孔に入ってきた。海外旅行に来たときを思い出す。
 床のスペースが棚によって狭められており、歩くのが少し困難だ。カウンターの方を見るが、そこには誰も座っていない。店員は何処に行ってしまったのだろうか。
 だが、いずれ戻って来るだろう。それまで商品を見て回ることにした。どうやらここには骨董品だけでなく、他の店には売っていないような、怪しい代物も置かれているらしい。気になったのは棚の先頭に置かれた小さなかご。【インスタント マーダー】と書かれた宣伝の紙が貼られているが、中には何も入っていなかった。既に売り切れてしまったようだ。しかし【マーダー】は日本語で【殺人】。もしかしたら、とんでもない店に入ってしまったのかもしれない。ここまで来て、幸子はようやく我に返った。
 今すぐ逃げよう、店員が来る前に。奥にいる可能性もあるので、音を立てないよう慎重に出口に向かう。ドアを開けて外に出て、階段を駆け上がって、家まで走って逃げるつもりだった。が、ドアに手をかけたところで、ある商品が幸子の目に留まった。
 それは、ハードカバーサイズのビニル製の袋に入れられていた。説明書が1枚と、小さな粒が数個入っている。商品名は、【マリス栽培キット】。栽培ということは、この粒は何かの種なのか。それにしてもマリス、というのは何なのだろう? 海外、それも南米やアフリカに咲いている花だろうか。説明書の文を読むために、商品を手に取って近づける。すると、そのとき、
「気になりますか?」
 突如後ろから野太い声がした。驚いて袋を床に落としてしまった。
「ああ、驚かせてしまいましたね」
 声の主は40代の男性。髪は短く、肌は浅黒い。黒縁眼鏡の奥に見える瞳は若干緑色に輝いている。
 男は幸子が落とした袋を取り上げ、彼女に手渡した。
「マリス栽培キット。これはマリス、すなわち悪意を栽培する物です」
 なるほど、マリスは植物の名前ではなく【malice(悪意)】のことだったのか。
 商品の説明をされると、先程までの恐怖心は何処かへ飛んでいってしまった。これではまるで文化祭ではないか。いや、文化祭の方が役に立つ商品を売っている。さしずめ先程のインスタント マーダーもしょうもない品物なのだろう。
「いりません。失礼します」
 袋を返して、今度こそドアを開けて帰ろうとしたとき、
「悪意が足りないのですか?」
 と、男が聞いてきた。足が止まった。それは稽古のときに三浦氏に言われたことと同じだった。
 後ろを向くと、男が口元に笑みを浮かべていた。心を見透かされたようだった。
「あなたには悪意がまるで無い。そのことでお悩みのようですね」
「な、何なんですか?」
「ここにいらっしゃるお客様は、来るべくして来ているのです。そこらの店では見つからない物を求めて。この店は、そういうお客様にしか見えないのです」
 ここで言う「見えない」というのは、実際はそこにあるのだけれど、意識しないと視界に入ってこないという意味だろう。ここに来るとき、幸子は路地裏が無性に気になった。今まで全く気にしていなかった、暗闇が。
「あなたの場合は、悪意を求めてやってきた。違いますか?」
「悪意って……感情を物理的に生み出せるわけが無いでしょう?」
「いいえ、可能です。そのキットがあれば」
 男は袋を持つ手を少しだけ上げた。
「やり方は説明書に書いてありますが、まぁ聞いた方がわかりやすいでしょう。まずはこの種を飲んでください」
「飲む?」
「土に植えてもマリスは生長しますが、あなたの中には芽吹きません。周囲に悪意を振りまくだけです。ですから、必ず飲んでください」
 その他、肥料と呼ばれる粉を飲み込む。これは種ではなく身体に栄養を送るものだそうだ。そうしないと上質な悪意が出来ないのだとか。
 それらを飲んだ後、マリスの種は体内で消化され、血液に混ざって脳に伝わり、そこで悪意を増幅させるらしい。簡単には信じられない話だ。血液を経由して脳に行く辺りは科学的だから信用出来そうだが、それで感情が変わることなどあり得るのだろうか。
「百聞は一見に如かず。実際に試した方が実感しやすい。今回は特別に、種を1つ無料で差し上げます」
「え?」
「さぁ、どうぞ」
 男はマリスの種と肥料の粉を幸子に手渡した。何の変哲も無い小さな塊。色は黒く、表面はでこぼこしている。鼻に近づけてみるが臭いは無い。粉もまた然り。
「そうだ、こちらで飲んでいかれては?」
 男が提案してきたが、それは嫌だった。まだこの店を信じきったわけではない。もしこれが睡眠薬で、眠らされて海外へ売り飛ばされてしまったら……。考えただけで身が強ばった。
 とりあえず種を携帯している薬ケースの中に、肥料をバッグの小さいポケットにしまって、「結構です」とだけ答えて店から出た。外に出ると空気が新鮮だった。ココナッツの香りが、途中から鼻につく異臭に変わっていたからだ。
 店内を見ると、そこにはもう男の姿は無かった。奥に行ってしまったらしい。この店は何だったのだろう。薬ケースをバッグに入れて、幸子は自宅に向かった。
 彼女の住むアパートは、商店街から歩いて5分程の所にある。築40年の古い建物だ。
 部屋に入り、着替えを済ませてから、幸子は薬ケースを持ってリビングに入った。フタを開けて中を見ると、種はやはりそこにある。あれは夢ではなかったのだ。
 飲めば悪意を生み出せる。今の自分に必要な感情が。
「まさかね」
 いや、やはりそんな事があるわけない。飲んだところで何かが変わるわけでもない。……そう思うのだが、心の何処かでは、この種を欲している自分がいた。その自分は徐々に心を支配して、とうとう幸子の体を動かした。コップに水を汲ませ、小さな粒を口の中に入れさせ、水でそれを体内に流し込ませた。
 飲んでから1分程立ったままでいたが、特に異変は無かった。
「やっぱり」
 あれは何の意味も無い物だったのだ。ため息をついて、幸子は寝室に向かった。明日も早いのだ。





 翌日。
 目覚まし時計のけたたましい音によって、幸子は目を覚ました。
 何と五月蝿い音なのだ。いつも以上にイライラする。ボタンを押せば音は止むのだが、この日の幸子はそうはせず、時計から電池を引き抜いて床に投げ捨てたのだ。息を荒げ、時計を睨みつける。自分でもわけがわからなかった。ただ、無性に腹が立つのだ。
 ベッドから立ち上がり、時計を部屋の隅へ蹴り飛ばし、着替え始める。いつもは着ないような色っぽい服を身に纏い、化粧をしてから部屋を出た。朝食を食べている時間は無かった。何処かでゼリー飲料を買うことにした。
 家を出てから稽古場に着くまで、幸子のイライラは全く収まらなかった。コンビニで朝食を買ったときは店員がもたついていたことが気に食わなかったし、電車に乗っているときは男性に囲まれていることが憎たらしかった。改札を抜けると外では議員が演説していた。その声も耳障りな事この上なかった。稽古場に到着した頃には、彼女の目つきはいつにも増して鋭くなっていた。
「あ、おはようございます」
「どうも」
 挨拶も冷めたものだった。いつもならもっと丁寧にする筈なのだが。
「二宮さん、今日は機嫌悪いですね」
「うるさい!」
 その場が静まり返った。
 今のはまずかった。小さな声で謝罪し、バッグから台本を取り出した。台詞が頭に入ってこない。自分の身に何が起きているというのだろう。他の演者もチラチラと幸子の方を見て何か言っている。場の空気は確実に悪くなってしまった。
 しかし稽古の方は順調だった。今日は役にも一層身が入り、三浦氏も大喜びだった。
「そうだヨ! それだヨ、サチコ! それが私の言っていた演技だヨ!」
「あ、ありがとうございます」
 これまでとは打って変わって監督から賞賛される幸子。三浦氏が言うには、彼女の演技がよりリアルになったそうだ。
 これまで上手く演じる事が出来なかった悪役。それがたった1日でここまで上達するとは。いったい何が……そうだ、あの種だ。マリスの種。きっとアレが脳で芽吹いたのだ。朝からムシャクシャしていたのはそのせいだろう。
 店の男が言っていたことは真実だった。これで本番までに演技を仕上げられる。最高の悪役を演じることが出来る! 幸子の心は喜びに満ちあふれた。
 だがその後、演技とは別のところで問題が生じた。稽古が進むに連れて幸子の自尊心が高まり、他の演者を蔑むようになったのだ。これまで謙虚な姿勢を示していた彼女からは想像もつかないことだ。種によって新たに加えられた筈の【悪意】は急成長し、二宮幸子という人間を根本から変えてしまったのだ。……そのことに、幸子本人は気づいていない。これが生来の自分なのだと思い込んでいる。
 誰かが台詞を間違えれば敵意の視線を向け、他人の演技が気に入らなければ容赦なくそれを貶した。三浦氏もたじたじだ。
「何なのあなた、やる気あるの?」
「あ、はい」
「サチコ、そのぐらいにして続きをやろう」
「これで良いって言うのですか? 私はあなたの熱意を見込んでオファーを受けたのですよ? それがこの程度の芝居で本当に良いと思っているのですか? ねぇ!」
 遂には三浦氏にまで牙を剥く始末。これには演技を褒めてきた監督も眉間に皺を寄せた。しかし、本番まで残り1ヶ月を切った。ここで中断するわけにはいかない。三浦氏は稽古を再開した。
 やる気になっているのは幸子だけで、他の演者からは次第にやる気が失われていった。それもそうだろう、少しでもミスをすれば彼女から痛烈に批判されるのだから。
 演技だけならまだマシだった。幸子は演者やスタッフの行動や服装、話し方にまでケチをつけ始めたのだ。
「ねぇ、喋ってる暇があったら仕事してもらえる? あなた、あんな仕事で私が満足してると思う?」
「すいませんでした」
「これだから馬鹿は嫌なのよ」
 こんなことが毎日続いて、周りの人間も我慢の限界だった。
 本番まで残り15日となったある日、いつものように幸子が若いスタッフを貶していると、
「おい!」
 その場にいた男性スタッフが幸子に怒鳴った。監督以外の人間に怒鳴られると彼女は更に機嫌を損ねた。
「演技力が凄いんだか何だか知らないが、あんたちょっと調子に乗ってるんじゃないか?」
「何よあなた、何様のつもり?」
「もう我慢出来ない!」
 男が声を上げたのを合図に他の演者達も立ち上がった。全員が幸子を睨みつける。幸子もそれに負けじと彼等を睨み返す。
「ここでは演技力もキャリアも関係ない! みんな対等なんだ! これ以上輪を乱すつもりなら、もう降りてくれ」
「はぁ? 何言ってるの? 私は主役よ? 主役が降りたら、この講演は中止になるわよ!」
「いいえ、出来るわ」
 幸子より年下の女優、小柴夕子が言った。彼女は、劇中で主人公に殺害される親族の1人を演じていた。稽古が始まった頃は仲が良かったが、今ではストーリーと同じように敵対関係になってしまった。
「私はあなたの台詞も覚えてる。講演は予定通り27日から始められるわ」
「どうかしら? 台詞を覚えていても、今のあなたじゃ私のような演技は出来ないわ!」
「黙れ! お前に何がわかる!」
 別の俳優が叫んだ。彼は夕子の知り合いで、彼女とは何度も共演している。夕子の芝居を間近で見ていた彼は、彼女の演技力、そして血の滲むような努力を知っている。いや、彼だけではない。ここにいる者の約半数が夕子のことをよく知っている。だからこそ、彼女の事を何も知らない幸子が夕子を蔑む事が許せなかった。
 全員が幸子に牙を向くこの状況。これでは本当に、この場所にいられなくなってしまう。
「サチコ」
 そこへ監督がやって来た。
 そうだ、まだ彼がいるではないか。自分の演技を評価してくれた彼なら、自分が如何に必要な存在かわかっている筈。
 幸子は三浦氏に駆け寄り、彼に抱きついた。そして、涙を流し始めた。これもマリスの種がもたらしたものなのだろうか。
「監督、私、どうすれば……」
「サチコ」
 三浦氏が優しく語りかける。
「彼等の言っている事は、正しい」
 我が耳を疑った。三浦氏が、自分ではなく彼等の方を擁護した?
「確かに私は、アクドサを持てと言った。すると君はすぐに私の言った事をやってのけた。それは素晴らしいヨ。でも、私生活でも悪い子になれとは、一言も言ってないヨ」
「え?」
「これ以上、彼等の団結を乱すつもりなら……サチコ、もうさよならだ」




 君の優しさは魅力の1つだった。本当に残念だ。三浦氏が幸子に最後に言った言葉だ。
 ショックのあまり、幸子は号泣して稽古場から走り去った。これは偽物の涙ではない、感情を揺さぶられたことで流れた涙だ。
 帰り道、幸子はすぐに家に向かわず、途中で買い物をして、ある場所に向かった。それは、キットを売っていたあの骨董品店だった。覗いてみると、店はもう開いていた。中であの男が商品を並べている様子がうかがえる。
 幸子は勢いよくドアを開けた。その衝撃で、扉の近くに置かれていた商品が音を立てて床に落ちた。音に気づいて男が出入り口を見る。客の顔を確認すると、男はにんまりと笑みを浮かべた。
「これはこれは。今日は何をお探しで?」
 男が尋ねると、幸子はズカズカと彼に近づき、バッグから何かを取り出した。先程買ってきた物だ。
「アンタよ」
 幸子が取り出した物。それはナイフだった。躱せない所まで距離を縮めると、幸子はナイフを持つ手を大きく振りかぶり、相手の胸めがけて振り下ろした。男はそれを止めようとしなかったため、ナイフは彼の胸に深々と突き刺さった。徐々に痛みが全身に回ってきたのか、男はナイフの柄に手をかけてその場に座り込んだ。刃物を抜けば血が噴き出してしまうため、引き抜かず、そのままの姿勢で固まっている。
「アンタのせいで、アンタのせいで降板になっちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」
 苦しいのか、男は幸子に言い返そうとしない。
「ここに来たせいで、私の人生めちゃくちゃよ! こんな店無いほうが良いのよ! 人が不幸になってしまうわ!」
 そのとき、男がようやく顔を上げた。不思議なことに、男は幸子に笑みを送った。その微笑みが何とも気味の悪いものに見えた。
「上質な、上質な悪意が、め、芽生えましたね……」
 薄れゆく意識の中で、男が幸子に言った言葉はそれだけだった。
 だが、その言葉は彼女にはかなりの効果があったようだ。彼女の脳裏に、あの種を飲んだ日の記憶が蘇った。その後、自分がどんな人間になっていったかを思い出した。
 ここでやっと、幸子は本来の自分を思い出したのだ。今までの悪意のある自分は、種が生み出した存在だったことにやっと気がついたのだ。
 しかし、今更気づいたところでもう遅い。周りの人間を蔑み、主役の座からは下ろされ、そのあげく、他人を殺してしまったのだから。
「嫌、嫌、嫌……嫌あぁぁぁぁぁぁっ!」
 叫びながら、幸子は床の上に崩れ落ちた。同時に棚に乗っていた商品も幾つか落下した。
 純粋で心優しい、本来の二宮幸子に戻った瞬間だった。

マリス栽培キット

 こんな感じの物語。
 幸子は最終的に元の「二宮幸子」に戻ったわけだが、初めて種を飲んだとき、一緒にあの肥料も飲んでいたら、彼女はあのまま、2度と元に戻ることはなかっただろう。
 余談ですが、骨董品店の店長は別の人物に引き継がれています。前作で色々あったので、先代は責任を感じてやめてしまったようです。

マリス栽培キット

純粋無垢な女優が悪役を演じるために手に入れたもの。それはマリス(悪意)を栽培するキットだった。 最後にあとがきもご覧ください。

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-08-12

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