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僕は目覚めた。さあ、家に帰ろう。

(主観は史上最大のゴールドラッシュbyかもめ座)

時計の針がたった今、上を向いた。

りりりんりりんりりりんりりん

僕は仕方なく目覚まし時計に手を伸ばす。だが、やっぱり届かない。

朝からイライラさせるなよと思いながら、半分寝ている体をひょいと起こす。

ここは曲線を多用した、美しくミステリーな寝室だ。ふかふかの100%白ベッド、さらにはコメットくんのような、しかしそれでも豪華なV.I.Cシャンデリア。ジョイフルのさえずり声が大変心地よいモーニングタイムを彩る。スイス製のカーテンの隙間からひょいと窓を覗けば、朝日のフラッシュが眩しいほど目に飛び込んでくる?

・・・あれえ、僕はいつもとは周りの様子が違うことに気がづいた。外は真っ暗ではないか!ジョイフルのさえずり声?それは聞こえた!第一ここは僕の部屋ではないぞ。僕の部屋はもっとこう貧相な感じだ。100%のベッドもシャンデリアもある訳なかろう。

僕はあーんとして立ち尽くしてしまった。少し経って、僕は窓際に置いてある一通の紙の手紙の存在に気がづいた。そしてすぐ、それにささっと手を伸ばす。何か分かるのでは、と思ったからだ。必死に封を破り、すぐさま内容を確認する。
とても驚くべきことに、手紙にはこう書かれていたのだ。

「ハーロミー。僕は森の熊さん。とても大事な話があるからすぐに電話してね。
123 4567 8910@通話料無料だよ!(別途通信料がかかります)」

手紙の主、森の熊さんはどうやら僕に電話をかけて欲しいらしいな。僕はこの時、何らかの事件に巻き込まれてしまったな、と思い危険だと思ったが、一応相手の希望通り電話をコールしてみる事にした。クリームランチャーなのかもしれないと警戒したが、たかが電話したくらいで今すぐ突然速攻命を落とすという事は無いだろう、と踏んだのだ。
だがこの時僕は、電話そのものが「爆弾」であるという可能性を完全に見落としていた・・・!

ぽぽぽぽぴーぽぽぽぽぴー

♫と・ろ・け・るタンポンダンスのイントロが流れる。

必勝確実だと思ったが実際に電話をかけてみると、やっぱりブルブルと緊張したのだが

「はい、もしもし。どちら様でしょうか?」

などと応答されたので、僕の尻は思わず底抜けになってしまった。電話しろと言ったのはそっちだろうに!だがここは落ち着いて冷静に対応しよう。可憐な大人の対応を見せてやる。

「えっと・・・手紙を読んだのですが、それに連絡先が記載されていましたので電話したのですが・・・」

ちょっと震えている僕が警戒しながら言うと、

「申し訳ありませんが、お名前のほうお願いします。」

と、事務的に言われたので思わず

「あっ、ペン=ライトです。」

と答えてしまった。あかーん、間違えて自分の本名を盛大にバラしてしまった!どう考えても相手はわんぱく山のムジーナよりも怪しいし、ここは松本洋一と名乗るべきだったな、と後悔したがもう手遅れだ。相手も何故か黙り込んでしまった。やはり本名を言ったのはまずかったのだろうか。極度の緊張に体がガタガタなってきた。だんだん恐ろしくなり、ガチャっと電話をガチャ切りしようとしたその瞬間、沈黙は破られた。

「ああ。手紙、よんでくれたんだね。宜しくペン君。じゃあひとつだけアドバイス。外出する時は必ずタンスの中のパンダちゃんを装着するんだぞ。そして絶対に脱ぐな。それだけさ。じゃあごきげんよう。」

先程よりも更に事務的に眈々と言われ、僕が何もしてないのに勝手に電話がガチャっと切られた。

・・・いたずらなのだろうか、いや恐らくそうだろうな。嗚呼、それにしても相手の話し口調が気に入らない、しかも言っている事も凄く意味不明だ。これはいたずら確定大万歳!家に帰ろう帰れない?じゃあ今日はもう寝よう。

すぐさま布団に滑り込んでから、ふと思った。・・・そういえば、パンダちゃんだったかな。中国のだよな。そいつはタンスの中に居るらしいが、どうして僕はそいつを着なければならないのだろう。
こんな事は、これからもずっと理解できる日は来ないだろうと考えていたが、翌朝、着なければならない訳はすぐに判明してしまった。

不安な一晩を布団一枚で過ごした僕は、大変寝不足で愉快を通り越して不愉快であった。ぷいっと窓を見ると、カーテンの隙間から光がすごく洩れていたので、今度こそ本当に朝が来たことを知った。そして僕は外の様子を確認するためにひっそりとカーテンを覗いた。

その瞬間、僕はどきっとした。みたところここは一階の部屋で(何階建てかは分からなかった)、窓から外の通りが見えたのだが、驚くべきことに通行人はみんな着ぐるみを着ていた。誰一人として着ていない人はいない。誰もが整然と着ぐるみを着こなしている。

キリシタンビルマークさん、コバルトナッシーニさん、マーサークァーサーさん、中には一風変わってシチリアノギスさんも歩いていたのだが、そいつはなんと頭を時計回りに180度回していやがった!勿論人型だったが、中身はどんな構造なのかと少し疑問に思った。けれどもうそれどころじゃあない!

パンダちゃんを装着しなければならない理由は、混乱している僕、つまり上がパンツで下が帽子の僕でも容易に察することが出来た。あの電話の男、昨晩はちょっとしたドッキリなのだと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。理由は分からないが、この街の住人は誰もが着ぐるみを着て生活しているようだ。

僕はすたこらさっさと、タンスの中に入っているらしいパンダちゃんを思いやった。この街からエスケイプするには、いや、この部屋から出るにはパンダちゃんは必須のキーアイテムだ。着ぐるみ無しで外出するなんて死んでもごめんだ。

僕はタンスをがばっと開けた。パンダちゃんは静かにそこに立っていた。丸くて愛嬌もあり可愛らしい、しかし狂気さえ感じるそいつはこちらを見てニコっていた。構成は普通の着ぐるみと同じだと思う。あの某島の国の着ぐるみような感じ。大きな頭のかぶり物とふわふわのスーツ。多分まだ新しいのだろう、この手のものでは気になる匂いや埃っぽさは、まるで全然全く無かった。多分新品。

僕は早速パンダちゃんを着よう試みた。パンダちゃんの頭は案外重みがあって、バランスを取るのには慣れが要るな。しかも視界も悪くなってしまう。構造上これは仕方ないのだろうか。僕は、重いし暑いし前見えないの3コンボで見事フルボッコにされたのだった。

ようやく着終わり、僕は寝室の扉のドアノブに慎重にそっと手をかける。罠だったらあかん、と一瞬思ったが、全くそんな心配は無用だった。扉は何の問題もなくぱかっと開き、廊下に出ることができた。そして僕は迷わず玄関へ向かう。玄関の扉も簡単に開いた。どういうわけか、僕はいとも簡単に家から脱出することが出来たのだ。結局僕をここへ連れてきた森の熊さんの意図はいと分からないままだった。

外の景色を見て、やはり異様な世界に連れてこられたことをつくづく実感した。島の国まんまの世界だが、違うのはこの街の住人が全員着ぐるみを着ているという点だ。流石のネズミの国でも、こんなにたくさん着ぐるみを着ている人はいない。結局のところ誰がゲストで誰がスタッフなのだろうか。さっぱり分からない!

行く当てもないのでしばらく僕は街を彷徨った。そして、気づいた頃には何もしてないのに噴水のある涼しげな広場に出ていた。立ち止まり、辺りを見回す。

その広場はそこそこの広さがあったが、広さとは反対に、着ぐるみなどは全然居なかった。僕はその中でも、何と無くどことなく優しそうな着ぐるみに、ここはどこなのかな、などと尋ねようと思ったが、ここではあまり目立つ行動はしない方が賢いと思い、やめておいた。

ふと広場の隅にある二人掛けのベンチに目を遣る。そこでは、仲の良さそうな福島塩カエルちゃんと南條ハーブチキンちゃんが、楽しそうに合体して会話をしていた。だが着ぐるみとは世にも奇妙なもので、楽しそうに会話はしているものの、その表情は一切全くぜんぜん変わらない。完璧に固定された笑顔だった。街ゆく着ぐるみも、容姿こそ違うものの、やはり表情は皆同じであった。

着ぐるみは自分の表情を隠すという特性を持っている。だがそれは、逆に相手の表情をきっぱりさっぱり読み取れないということでもあった。

僕はなんだか気味が悪くなってきたので、広場をすたこらさっさと後にすることにした。その際、ある看板が掛かっているのを大発見。それは他の看板よりも目立つ、大きくて派手なものだ。それによるとどうやら、世界で最も革新的なパレードが近くの大通りで行われるらしかった。

僕はパレードなんかに全くさっぱり興味は無かったが、その時は落ち込んでいた気分を上回って、何故か凄く行ってみたい気分になっていた。多分、街を出たい一心だったが、その術も行く先もわからず、けれども、じっとしていることなんて出来なかったからなのかもしれない。

僕が大通りに到着した時、予想はしていたが、やはりたくさんの着ぐるみが集まっていた。その光景を見て確信したのは、二つとして同じ着ぐるみは存在しないということである。似たような着ぐるみは何体もいるが、そいつらは、同じ様でいて同じではない。

しばらくすると大衆からボブっと歓声が湧き上がった。とうとうパレードが始まったようだ。

僕はなんと!運の良いことに一番前に行くことが出来たのだが、開始早々あまりの規模の大きさに、あーんと絶句した。中でもかなりヤバイのは、ひときわ目立つ派手な装飾の付いた光る台車の上で、黒いネズミちゃんとピンクのネズミちゃん、さらには黄色いくまちゃんなどが踊り狂っていることだ。それに合わせて観衆も一斉に踊り狂って、もはやどっかいった。

僕はさすがにそこまではしなかったが、今まで見たパレードの中に、こんなにも迫力のあるものは絶対に無い。この世界全ての物がどこか不気味なものに感じられたが、パレードだけは別格だと思った。パレード万歳!

楽しかったパレードも終わり、終わったあとも、暫く止まって踊り狂って飛んでいる着ぐるみダンサーたちを眺めていた。その時、僕は後ろから突然複数の着ぐるみにハーイと声を掛けられた。

「ペン=ライトだな。事情を聴きたいから、ちょっと署まで来てもらうぞ。」

まさかまさかまさかと、僕は声の方向へビュンとくるり一回転して振り返った。

そこにいたのは6人の着ぐるみメンで、胸のあたりにキンバリーの星バッジを付けていた。

警察なのだろうか。奴らどうして僕の名前を知っているのか。

その疑問について、自分に思い当たる節は一つしかなかった。あの夜の電話だ。本名がバレるとしたらそれしかない。ということはつまり、バラしたのはあの時の電話の相手、森の熊さんということになる。そもそもパンダちゃんの着ぐるみを着るように指示したのも奴だ。どういう目的かはまだ分からないが、たった今僕は、奴の策略にまんまと引っかかってしまったらしい。

僕は反論する間もなく、複数のキンバリーの着ぐるみ達に強制的に連行された。パトカーに乗せられるものだと思ったが、目の前にあるのは何故か24連馬車だ。しかも、馬車を引くのは本物の馬ではなく、ブリキのトラファルガーだった。

僕が抵抗しないからであろうか、着ぐるみ達は必要以上に拘束はしてこなかった。逃げても無駄だと思ったし、やましいことなど絶対何もしていないので、例え奴の罠に掛かったのだとしても、あえて抵抗しなかったのだ。僕は騙されてハメられた、ただの冤罪MANなのだと信じ、何もないことを祈った。

外の奇妙でヒステリーな街並みをぼけぼけと眺めているうちに、何もしてないのに警察署に到着していた。本当に警察署なのだろうか、怪しすぎてどこからどう見てもそうには見えなかった。なぜなら目の前にあるのは豪勢な伊勢屋敷だったからだ。だが、残念ながら屋敷の門にははっきりと、「お帰りなさい警察署」と記されている。

屋敷の内装は、昔のアンビリーバボーを思わせるような、インディアンの香りを漂わせていた。中央の蜘蛛型螺旋階段を上り、僕は透明感のある栗ガラスの部屋へと案内された。警察着ぐるみキンバリーメンのうちの5人は部屋から出て行き、リーダーらしきキリンちゃんの着ぐるみ1人だけが残った。これから尋問されるようだが、キリンちゃんがどんな表情であるかということさえ、僕にはきっぱりさっぱり分からない。

キリンちゃんは向かい側の席に着くと、予想とは裏腹に、可憐で落ち着いた口調で、ペラペラ話し始めた。

「こんにちわ。私の名前はヤン=プーだ。よろしくねペンくん。単刀直入に言うけど、昨晩、森の熊さんが着ぐるみを剥がされて死んでいるのが発見されたんだ。通話記録を確認したところ、彼と最後にコンタクトしたのはあなただったんですよ。何か知っていることはありませんか?」

アッーそれは衝撃の事実だった・・・

僕は森の熊さんこそが全ての黒幕だと思っていた。奴が僕をこの街に連れてきて、手紙を置いて行ったのだと思っていた。しかし奴が死んだとなると話は別だ。黒幕は他にいるのか?ORそれとも偶然死んだだけなのか?最後に奴と話したのが僕だったことも偶然とは思えない。全くもってどういうことなのか分からなかった。

僕は驚きながらも落ち着いてぺらっと聞き返した。

「森の熊さんが死んだ?どうしてです?」

キリンちゃんは驚いているような振りをして言う。

「おや、私はあなたが殺したのだと思っていたのですが、その様子だとそうではないのですね。」

それを聞いて、やっぱりか、と思った。やはり僕が疑われていたのかよ、だがこれは仕方ないな。最後に奴と話したのは何て言ったってあの僕なのだから。僕は冷静に、正直に答えた。

「ええ。勿論殺していません。大体、僕だってこの街の住人では無いのですよ。さっきまで奴に騙されたとばかり。」

すると、キリンちゃんは困窮困惑の様子で、

「騙された、とは一体?」

と聞いてきた。だから僕は、ここに至るまでの経緯を彼に事細かく話した。夜目覚めたら、見知らぬ世界に居たとこからだ。

それを聞いたキリンちゃんはしばらく黙っていたが、やがて何かを思いついたかのようにふらっと立ち上がり、小さな声で、

「ちょっと来てほしい。」

と言い、彼は僕を、窓のない鉄の部屋へと静かに連行した。

こんなこと話したのがまずかったのかな、と僕は正直に話したことを少し心配した。鉄の部屋に入場して、キリンちゃんはアイアンの特等席に、優雅に着席してから続けた。

「君もなのか?」

「えっ?」

「だから、君も連れてこられたのかい?」

「はい。君もってことは、もしかして、あなたも?」

「その通り。連れてこられたのはずっと前だけれど。 君はまだ着ぐるみ脱げるのかい?」

すげえ驚いた。連れてこられたのはなんと僕が初では無いらしい。

着ぐるみなんて脱げるに決まっている。そう思って僕は着ぐるみをテキパキ脱いで見せた。だがパンダちゃんの頭部を外そうとした際、何故か意外にしっかりはまっており、取るのに苦労した。かぶった時はゆるゆるすっこぬけだった気がするのだが。

「そうか、よかったね。君はまだ元の世界に帰れるよ。この街に馴染めば馴染むほど、着ぐるみは脱げなくなって行く。そして最終的には、着ぐるみと完全に一体化してしまうんだ。私のように。」

「そうなったらもう帰ることは出来ないからね。頼むから、私のようにはならないでくれよ。」

キリンちゃんはそう言うと、驚くべきことに、僕をこっそりと釈放させる旨を伝えてきたのだ。後にキリンちゃんが言うには、入口と出口は同じ所にあるらしいのだ。つまり最初に目覚めた家の事の寝室に、出口もあるということだ。そこに行けば元の世界にCOME BACK!ようやく街を抜ける目処が立った。彼を百パーセント信頼したわけでは無いが、それを信じるしか道は無い。とにかくパンダちゃんが癒着する前に、脱出しなければならないのだ。脱げなくなるなんて絶対に絶対にごめんだ!

秘密裏の釈放は特にトラブルもなく速やかに電光石火の如く成功した。しかもキリンちゃん、親切なことに、帰りの12連馬車までも用意してくれていたのだ。急いでいた僕にとって、これ程有難いことは無い。

僕を乗せた長い馬車がパレードを行っていた大通りに着くころ、外はすっかり暗くなってしまっていた。せっかくなら元の世界まで送ってくれれば良いのに、と思ったが文句は言えまい。

大通りといえども、暗くなったからだろうか、着ぐるみは一人も歩いておらず、街は沈黙していた。昼間にあれだけの盛り上がりがあった場所とは到底根底思えない。昼間もどこか不気味な雰囲気を醸し出しているこの街だが、夜はもっと不気味であった。街には僕の足音だけがせわしなくパカパカと響いた。

何と無く歩いてたどり着いたこの大通りから、最初の家に戻る事は無理なのではないか。と心配したが、なぜか自分でも分からないのだが、何と無く帰り道が分かるような気がしたのだ。だから不思議なことに、何と無く走っていると、暫くして噴水のある広場に出たし、さらに走っていくと、何もしてないのに通りの向こう側にに最初の家が見えてきたのだ。

感が鋭いとか、もしくは記憶力が良いんだと思ってふわふわ浮かれながら、どうにか僕は、ようやく家の目の前まで戻ってくることが出来た。

改めて今日のマイホームを見ると、美しい外観の家なのだなあと思い、ちらっと外観を眺めた時、違和感を感じた。

誰かが家の中にいる。

人の気配は、どうやら寝室から発せられているようだった。寝室の透明窓ガラスに忍び寄り、息を殺してちらちら覗き込むと、ベッドで何者かが寝ているのが見えた。

暗くてよく分からないが、やっぱり今すぐ家に突入するということも恐ろしく、躊躇したので暫く様子を伺うことにしてみよう、と思った次の瞬間、

りりりんりりんりりりんりりん

と鳴ったので、僕は驚いて慌てて窓から離れて隠れた。それは聞き覚えのある音だった。夜僕を起こしやがった忌々しい目覚ましの音だ。一体どうなっているんだヨ。

少しして目覚ましは止まり、寝ていたその人物は起き上がり窓から外を伺う。僕は、寝室で寝ていたそいつの顔を確認してあーんとした。

そこにいたのは、紛れもなく僕自身だったのだ。

僕が二人いる。こんなことがあっていいはずがない。さっきまで寝室で寝ていたやつは紛れもなく僕自身だ。だが、それを見ていたのも僕自身だった。

違うのは、外で寝室を覗き見ている僕は、パンダちゃんの着ぐるみを着ているが、寝室で寝ていた僕は着ていない、ただそれだけさ。

僕は寝室にいる僕が次にどうするか容易に予想出来た。そう、手紙を見つけて、書いてある電話番号にためらいなく電話をかけるのだ。そして今、あの僕はまさしくそうしようとしている。

あの僕は受話器を手に取った。そして番号を入力して、耳元に当てた。僕自身がそうであったようにあの僕の表情もまた、緊張に包まれていた。

すたすたすったんたったらたー

パンダちゃんの着ぐるみのポケットから、突然着信音♫森バナナ・ひろみちBOY!が聞こえた。今まで全く気づかなかったが、どうやらちいさい携帯電話が入っていたらしい。まさか自分に電話がかかってくるとは思わなかったが、僕はおもむろにそれを取り出し、なぜか迷いなく電話に出た。

「はい、もしもし。どちら様でしょうか?」

自分でも驚いた。その言葉は無意識のうちに、何もしてないのにポロっと発せられていたからだ。そのセリフはどこかで聞いたことがあった。そう、確か森の熊さんにこんな風に応答された覚えがある。そしてあの僕はこう言うのだ、

「えっと、手紙を読んだのですが、そちらに連絡先が記載されていましたので電話しました。」

やはり予想通りだった。どうやら僕は森の熊さんの代役らしい。さて次のセリフは何だったっけ・・・

「申し訳ありませんが、お名前のほうお願いします。」

あの夜の電話の内容は余り細かく覚えていなかったが、意識せずとも言うべきセリフは出てきて、なぜか無意識のうちにに発していた。続いて電話の向こうの僕は言う。

「あっ、ペン=ライトです。」

そして、僕は無意識にペラペラ話し始める。

「ああ。手紙、よんでくれたんだね。宜しくペン君。じゃあひとつだけアドバイス。外出する時は必ずタンスの中のうさぎちゃんを装着するんだぞ。そして絶対に脱ぐな。それだけさ。じゃあごきげんよう。」

その声は確かに自分の声だったが、酷く無機質的になったなあと感じた。僕は自分の体、いや、パンダちゃんが恐ろしくなった。気づいてしまったのだ、パンダちゃんに完全に乗っ取られてしまったと言うことを。もう何もかもおしまいだ。元の世界に帰ることは、今日はもう叶わない。

僕はその時ふと、キリンちゃんが言っていたことをフワッと思い出した。確か森の熊さんは、僕との電話のあとに殺されたんだっけかな。だからこの先僕の身に起きるであろうことは、何と無く予想がついた。

僕はきっと、殺される。僕の役目は終わったんだ。だが不思議ふしぎ、恐怖感は無かった。僕は安らかな気持ちで王様立ちをしながら、誰かが殺しに来るのをじっと待った。

しかし結局、予想とは裏腹に誰も殺しには来てくれなかった。

そう分かると、僕はおもむろに着ぐるみパンダちゃんを脱ごうと決意した。さて、まずはスーツからだ。スーツのジッパーはかちこちに固まっており動かなかったが、そんなの関係ねぇ!と僕は引っ張る。強烈な痛みが走った。が、そんなことに僕の手は怯まないぜ。僕はさっきよりももっと強い力でぐぐぐっとジッパーを引っ張った。

ぶーちぶちぶちぶち

自分の皮膚と肉が細かく千切れてしまったが、ようやくジッパーは開いてくれた。ああん♪剥き出しになった部分が熱いわ。でも、まだまだ足りない。僕はすかさずパンダちゃんスーツを引き剥がす。思い切り、勢い良く。

やっと僕は真っ赤なスーツを脱ぎ切ることが出来た。だが僕の体は、残念ながらボロボロになってしまった。全身の皮膚が剥がれ落ちて、恥ずかしながら筋肉が丸見えになってしまった。所々、例えば肋骨の辺りなどはその筋肉も剥がれ、骨が見えている。全身の血液が外に放出されていく感覚は今までに体験したことのない新鮮なものだ。

もうひと頑張りだ。さぁて、パンダちゃんのかぶり物を脱がなくちゃ。

僕は脱ごうとして頑張ったが、痛みと出血のせいで力が入らない。だが僕は決して諦めない!最後の力をガッとと振り絞り、かぶり物を全力でうーんと引っ張る。そして引っ張ろうとするたびに、腕の筋肉からは大量の血液が漏れて行く。

ぼきぼきぼっきーん

間違えて僕は横に引っ張ってしまったから、首の骨が折れてしまった。頭が不安定になって転びそうになったので、倒れないように支え、めげずに僕は引っ張り続けた。首の動脈や神経が伸びてきてだんだん千切れそうになる。もうさよならBYE BYE、そう覚悟し、すべての力を振り絞り、思い切りかぶり物を引っ張り上げた。

僕は生きていた。幸運なことに首はちぎれなかったのだ。かぶり物もしっかり脱げたようである。しかし誤って、自分の顔まで脱いでしまったらしい。顔面の皮膚は全て剥がれて、鼻は骨ごともげ、癒着していた眼球は引きちぎれてその辺の地面にころっと転がっていた。

僕はほんの少しの間、達成感のオンパレードに浸っていた。どうだいキリンちゃん。僕は最後まで着ぐるみと癒着しなかったぞ!だってほら、全部脱ぐことが出来たからね。やっと家に帰れるよ。ありがとうキリンちゃん。thank you ♡

(エンドロール)

キリンちゃんはいつもと同じ様に、屋敷のガラスの部屋の椅子に腰掛けていた。そして、そろそろかと、部下からいつもの報告を待っていた。

「キリンちゃん、殺人事件発生です。路地裏にて、パンダちゃんが着ぐるみを剥がされて殺害されているのが発見されました。これで83日間連続の犯行ですね。未だ犯人は不明、ですが非常に猟奇的な犯行です。」

ついに来たか。キリンちゃんはこの報告を待っていたのであった。そして彼は、今日も大通りで待っていなければな、と気持ちを引き締めこう言うのだ。

「分かった。直ぐに捜査を開始しよう。」

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これは序章に過ぎないのだ!
「ゴリアテ」をよろしく!!

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更新日
登録日
2013-08-02

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