ルリマツリ

みや

ルリマツリ

ルリマツリの花言葉はひそかな情熱、いつも明るいー

セミは早起きなんだ。ジージーワシャワシャ。ジージーワシャワシャ。
ぼくの目覚まし時計よりもすごく早起きなんだ。

だからぼくは目覚まし時計よりも早くセミの鳴き声で目が覚める。
朝の少しだけ涼しい風がぼくのほっぺを優しくなでてくれる。
扇風機の風なのかな?

まだ眠い目をこすりながらぼくは、奥の部屋の戸をそっと開けてみる。
夜遅くに帰ってきたお母さんがぼくに背中を向けてすやすやまだ寝ている。

遅くまで働いているお母さんを起こすのはかわいそうだから、ぼくは台所に行って食パンをゴソゴソ出して、そのまま食べる。

最近はいつも1人で朝ごはん。お母さんは最近つかれているみたいだから、ぼくはお母さんを起こさない。もう小学一年生だから、これくらい1人で大丈夫なんだ。
テーブルの上のジュースの空きカンに入ったかわいい花。小さな花がいっぱい集まった花たばみたいなその花は、昨日近所のおばさんにもらったんだ。

そのおばさんの家のにさいてるその花はすごくかわいいから、ぼくは学校の行き帰りにいつもこっそり見てたんだ。そしたら昨日学校の帰りにおばさんに見つかって、おばさんが「かわいい花でしょ?」って話しかけてくれた。
「…うん。かわいい」
「ルリマツリって言うお花なのよ」
「ルリマツリ!ぼくのお母さんもルリって言う名前なんだよ!」
おばさんはうれしそうに笑って、一本切ってあげるねと言ってチョキン、とハサミで切ってくれたんだ。ぼくはありがとう、と言って急いで家に帰った。

家に帰っても花を入れるものがなくて、ぼくはあせった。
お母さんに見せてあげたいのに、お母さんは帰って来るのがおそいから、花が元気なくなっちゃうよ…
そこでぼくはひらめいた。ジュースの空きカンに水を入れて、そこにチョコンと花を入れた。なんだかすごく…似合ってる!

夜ごはんはいつもお母さんが用意してくれているからチンして1人で食べる。きのうの夜はオムライスだった!
お風呂に入って、いつもは時計の長いはりが12短いはりが9になったらねるやくそくなんだけど、きのうのぼくはお母さんに花を見せたくてお母さんの帰りを待ってた。
ぼくの家にはお父さんがいないんだ。だからお母さんがいっぱい働かなきゃゃいけない。お母さんは昼は会社夜はコンビニで仕事をしていて、ぼくは近所のおばさん達によく言われる。
「渉君はお父さんがいなくてかわいそうね」とか、「渉君のお母さんは仕事がいそがしくて大変ね」とか、「夜1人でさみしいでしょ」とか。いろいろ。
でもぼくはお父さんの事よくおぼえてないし、お母さんはすごく優しいし、お母さんと2人でも楽しいし、だからぜんぜん気にならないよ。ぼくはお母さんが大好きなんだ。

でもこのごろお母さんはなんだかつかれてるみたいで、元気がない。朝ごはんの時もおきてくれない時があるし、ごはんもあんまり食べないし、仕事が休みのときも寝てばっかり。
だからこの花を見たらお母さんちょっとは元気が出るかな?って思ったんだ。

時計の長いはりと短いはりが12でこんにちは、したときくらいにお母さんは帰ってくるんだけどねむくてねむくて、ぼくは寝てしまってたみたい…台所のイスにすわったまた寝てるぼくを見て、帰ってきたお母さんがビックリしてた。「渉どうしたの!ちゃんとおふとんで寝なきゃダメじゃない!」
ぼくもビックリしておきて、エヘヘと笑った。
お母さんはやっぱりつかれてるみたいで、おこってるみたいで…ぼくは「お母さんおかえり」と言ったら、お母さんはちょっと笑って「ただいま、渉」と言ってくれた。

「明日は終業式なんだから早くおふとんに入って寝なさい」
「あのねお母さんこれ見て」ジュースの空きカンに入った花をお母さんに見せた。
お母さんのつかれた目がちょっとだけキラキラした。
「どうしたのこの花?」
「学校の近くの家のおばさんにもらったんだ」
「そうなんだ。かわいいね」お母さんはうれしそうにゆびでチョンと花にさわった。
「この花ルリマツリって言うんだって」
「えー!お母さんと」「同じ名前!」同じ名前を二人でいっしょに言ってぼくとお母さんは笑った。
「すごくかわいいね。花たばみたいだね」
「うん。お母さんに見せたかったんだ」
お母さんのつかれた目がまたキラキラした。キラキラキラキラ。お母さん元気出たかな?
「渉ありがとう」お母さんはぼくをギュッてしくれて、もう一回ありがとうって言ったんだ。
「明日も学校なんだから早く寝なきゃ」
「うん。お母さんおやすみ」
台所のとなりのぼくの部屋のおふとんにモゾモゾもぐりこんでたら、台所からお母さんの声がした。
「あさってから夏休みだけど、おばあちゃんちに行く用意はちゃんと出来てるの?」
ぼくはねむったふりをして答えなかった。夏休みになったらぼくは四国のおばあちゃんの家に行く事になってるんだ。おばあちゃんは死んだお父さんのお母さんなんだけど、ぼくはおばあちゃんがあんまり好きじゃないんだ。だから行きたくないけど、お母さんがどうしても行きなさいって言うんだ。夏休みは長いからぼくを一人で家においておくのはしんぱいだからって…だからぼくは1人でもしんぱいされないように、1人でなんでも出来るように頑張ってるんだ。だってお母さんを1人にするなんて、ぼくだってお母さんがしんぱいだよ。

だから今日の朝も1人でちゃんと起きて、1人で朝ごはん食べたよ。お母さんも会社に行かなきゃいけない時間だけど、だいじょうぶかな?大人だからちゃんと1人で起きれるよね?まだ寝ててもだいじょうぶな時間だから、ぼくはお母さんを起こさないようにルリマツリに「いってきます」と小さな声で言って家のドアをそっとしめたよ。

学校は今日は一学期の終業式で、ぼくは通知表をもらった。◎が少なくてぼくはしょんぼりした。これじゃあ夏休みに本当におばあちゃんちに行かされちゃうよ…

しょんぼりしてたら先生が話しはじめた。「みんないよいよ夏休みだけれど、休みだからといって遊んでばかりいないで宿題もちゃんとして、早寝早起きをして…」
そんな事ちゃんとわかってるよ…とぼくはため息が出た。そんなぼくを教室の窓から太陽がギラギラ笑っているように見えた。

学校が終わるとぼくは急いでうわばきをはき変えた。ぼくには計画があるんだ。今日は学校が早く終わるから、早く家に帰ってへやのそうじとかしてたらお母さんがえらい!ってほめてくれないかな…おフロそうじもしたら、もう夏休みにおばあちゃんちに行かないでいいよ、って言ってくれるんじゃないかな、ってぼくは考えた。

友達の一輝君と秋人君が渉、土曜日お祭り行く?って聞いてきたけどぼくはそれどころじゃないんだ。聞こえないふりしてばいばーい、と手をふってぼくはグランドをかけぬけた。

昨日ルリマツリをくれたおばさんの家に近づくとおばさんが花にお水をあげてた。ぼくは走って行っておばさんに、「おばさんお花ありがとう!お母さんすごくよろこんでたよ!」と言った。
「良かった!お母さんと同じ名前だものね。今日も持って帰る?」
そう言ってエプロンからハサミを出してチョキン、と一本切ってくれたんだ。
「ありがとうございます!」ぼくはちゃんとお礼を言って、おばさんからルリマツリを受け取った。お母さんきっとまたよろこんでくれるよね?

ルリマツリをギュッとにぎりながら、ぼくは家まで走ったんだ。家に近づくと、なんだかザワザワ。ザワザワしていて、人がいっぱいいて、救急車もいて、赤いランプがクルクル回っていたんだ。

ぼくが近づくと、となりの小野田のおばさんが、「渉君!」とぼくの名前を大声で叫んだ。ぼくはドキドキした。
「渉君お母さんが!」お母さんがどうしたの?
「おばさんがかいらんばんを渉君の家に持って行ったら、ドアが開いてて」ドアが開いてたの?ぼくがちゃんとしめなかったから?
「おばさんが声をかけても渉君のお母さんが出てこないから、おばさんしんぱいになって渉君の家に入ったら、渉君のお母さんが寝てて、声をかけても起きなくて…息をしてなくて」お母さん寝てたんじゃないの?ぼくのしんぞうはドキドキはれつしそうになった。
「おばさんあわてて救急車を呼んで、救急車の人がのうこうそくだって言ってたわ。今から病院に行くから、早く救急車に乗って!おばさんがついて行ってあげるから!」

ルリマツリを見てお母さん、また笑ってくれるよね?ぼくは持っていたルリマツリの花をギュッとにぎって、救急車に走り出した。

ルリマツリ

いつも明るくいられたら、いつも笑っていられたら。

ルリマツリ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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