小田のこと


 社会のテストで、織田信長と書くところをうっかり小田信長にしてしまった。隣に座っている小田信之介の名前のせいだ。それを見たカヨが、
「あんた、小田のこと好きなんやろ!」
 と言い出した。
 明くる日の運動会に、母が持って来たデジカメを貸して貰ってカヨを撮ってみたら、隅っこに小田が写っていた。それを見たカヨは、
「小田の隠し撮りしたんちゃうん!」
 と、またはしゃぎ出した。
 私はそんなカヨを放って、朝礼台横のテントへと向かう。私と同じ放送委員の小田は、もう先に来ていた。組曲『惑星』の「木星」をロック調にアレンジしてある曲に合わせた四年生のダンスを、ぼんやりと眺めている。
「なあ、木星って英語で何て言うか知ってるか」
「知らん」
「えー? ジュピターやで。セーラームーンに出てきたやろ、セーラージュピター」
 私も見ていないそんな女の子女の子したアニメをこいつは見ているのか、と思うと鳥肌が立った。
「なあ、お前ってセーラージュピターっぽいよな」
 小田は私の顔をまじまじと見て言った。
「は?」
「背でかいし、男言葉やし」
 どついてやろうかと思ったが、
「家庭科得意やし。こないだの料理クラブのクッキー美味かったで」
 と小田が続けたので、拳骨を引っ込めた。
 その時何気なくクラスの方に目をやると、カヨがこっちを見てにやにや笑っていた。小田と喋っているところを見られた! どうせまた後で囃し立てられるのだろう、と思うと憂鬱……でもないような気がしてきた。
「作ったやつ余ったらまたやるわ」
「おう」
 今度は材料を多めに買おうかと思う。

小田のこと

小田のこと

設定:2000年

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-07

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