お見舞い


 彼氏と蛍を見に行く約束をしていたのに、風邪をひいてしまい、当日の朝になってキャンセル。電話で謝っておいたが、彼氏は「うん」とか「おう」とか言うだけだった。
 氷枕で大人しく寝ていたら、夕方、彼氏がお見舞いに来てくれた。私の好きなりんごジュースを持って。……かなり温くなっていたけれど、お腹が冷えなくてちょうどいいや、と思いながら飲む。
 彼氏は、私の学習机の椅子に腰掛け、団扇でせわしなく首の辺りを煽ぎながら、いつもの調子で語り出す。
「まあな、どうしても見に行きたいっちゅうわけでもなかったんやから、気にせんと寝とったらええねん。蛍なんか、大体、ただの虫やろ? あんなもんな、光ってへん時にここらに出て来たら、『うわ、ゴキブリや!』って間違えて殺してまうで、絶対」
 それを聞いて私は笑ったが、冷静に考えると、どうもおかしい。
「なあ、それって、蛍自体どうでもいいっていうこと? 来年ももう見に行く気ないって?」
 団扇を持った手が止まる。
「……いや、そんなこと言うてへんって。お前が見に行きたいんやったら、虫でも何でも見に行ったる。いや、虫でも何でも、ってなんかおかしいな……」
 さっきより一層速くばたばた煽いで一人焦っている彼氏を見て、私はげらげら笑う。
 いつの間にか、元気になれた。ありがとう。

お見舞い

お見舞い

設定:1990年

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-06

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