人形の世界


 風呂から上がって、ビールを持って居間へ行くと、五歳の娘が床の上にリカちゃん人形の椅子を何個も並べていた。
「そんなようけ椅子出して、何すんねん?」
「ビアガーデン」
「……ビアガーデンって、何するとこか、知ってるか?」
「ビール飲むとこ!」
「……その子ら、学校行ってんねやろ? 子供はビールなんか飲んだらあかんぞ」
「えー。私飲んだよ」
「え!?」
 そこへ風呂に降りて来た妻登場。
「こないだお義父さんとあんたが『ちょっと飲んでみい』言うて飲ましたんやんか」
 ……覚えがない。
 気を取り直してビールを開け、テレビを点ける。ニュースにしてみた。嫌なことばかり起こるなあ、と思いながら見ていると、やがて天気予報が始まった。それに娘が反応する。
「あ、雨降ってきたわ!」
「ここはもう駄目ね、あっちの赤提灯にしましょう」
 おいおい、そんな言葉をどこで覚えた? と苦笑しつつ何気なく娘の方に目をやると……人形が全員裸ではないか! ここで「なんで服着てないん?」と聞いたら、一体どんな答えが返ってくるのだろう? と一人固まっているところへ、風呂上がりの妻再登場。
「あ! マミ、まだみんな裸のままやん!」
「いいの! ここは裸の国やの!」
「そんなんあかんって言うてるやろ! かわいそうやんか」
 ……で、こっそり妻に裸の理由を聞いてみる。
「この前買うたったドレスをな、着せよう思たら、リボンが結ばれへんかってんやん。ほんだらキレて、みんな裸にしてしもてん」
 ほっと一安心……しても居られない。キレ易いのは誰に似たのだ。
「ほら、まずこの『ランジェリーセット』で着せる練習しなさい。袖もないし、簡単やねんから」
 と妻に指示され、娘は嫌々作業に取り掛かった。六人もに着せるのは面倒そうなので、
「お父さんも手伝うたろか」
 と手を出してみたら、娘はさっと人形をつかみ、
「キャ――! 痴漢よ――!」
 と叫んで逃げて行った。
「こら! 変なこと言いな!」
 妻が追いかける。先が思いやられる。

人形の世界

人形の世界

設定:2008年

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted