アイボウとライバル

甲子園をひたむきに目指す主人公。
素直になれないアイボウ。
いつも強気なライバル。
寒すぎる顧問。
心強いキャプテン。
温かい仲間。
意外な助っ人。
個性豊かなキャラクター達の
さわやかな物語がいま始まる。

  ―目次―
 1:菊原村
 2:アイボウ     
 3:サムセン
 4:双子
 5:仲間 
 6:ライバル
 7:決戦
 8:甲子園への切符
 9:旅立ち



              ー菊原村ー
冬の名残がすっかり無くなった今、爽やかな春風が桜を優しく運んでいる。
ここは菊原(きくはら)村という、田舎の村である。
「これホントに手作りかいな」
「もー、失礼な。この位ちょちょいのちょいですよ」
「ハハ、そうかそうか。旨すぎてびっくりしたわい」
「いつもでしょーが」
農家のおじいさんとおばあさんが、田んぼ沿いで笑顔をこぼしながら食事をしている。
「よーい。ドン!!」
「待て待てー」
子供達が元気に走り回っている。そこには魅力的な風景が広がっていた。
その風景の中に一面ピンク色に染まった公園があった。
そこには一人の少年がいた。壁にむかってひたすらボールを投げている。
少年は風を切り裂くような勢いで白球を投げていた。
桜は舞い、白球はグングン加速し壁へと向かう。そして壁は見事に白球をはね返し、
彼のもとに届ける。少年は流れる汗をぬぐい、また一球、また一球と投げていった。
そこには、“甲子園”この三文字を追い続けるひたむきな姿があった……







              ーアイボウー
「ホレ、スポーツドリンク。飲んでよ。」
「ああ、ありがとう母さん。」
「健(けん)、程々にしときなさいよ。肩壊しても知らないわよ」
「了解、了解。心配しなくても大丈夫だから。」
「っそ。まぁ程々って言っても聞かないんだろうけど…」
少年の名前は一ノ瀬 健(いちのせ けん)
“菊南(キクナン)”の愛称で知られる菊原南高等学校という高校の三年生である。
そして
「今年最後の夏の大会、絶対甲子園のマウンドに立つんだ」
と口癖のようにいつも言っている野球大好き少年だ。もちろん野球部に所属している。
そこで、“エース”を任されているということもあって、投げこみはかかせないのだ。
今日は春休み最後の日である。この日は残った宿題を気合で終わらす日として有名だったりするが、健はこの日の為に宿題はなんとか終わらせていた。長期休みあけの練習に備えて調整するためだ。
「今年もやってたんだぁー。投げ込むなら誘ってよね。せーんぱい」
後方から聞き慣れた、いや聞き飽きた声が聞こえてきた。
「その呼び方いいかげん、やめろよな?。」
そいつはキャッチャーミットを左手にぶらさげて歩いてきた。
一ノ瀬 龍也(いちのせ りゅうや)だ。
健とはいとこ同士で高校二年生である。
家は隣同士で、健と同じ高校に通っている。
小さい頃からの付き合いで兄弟のようによく遊んでいた。
そのしまいにはいつものようにケンカをしていたが、
いつの間にかにすっかり仲直りしていた。
ごめんなさいなんて言ったことすらないくらいだ。
そんな感じでも健は龍也がかわいくてしょうがないと思うようになっていた。
でも今となっては
「せーんぱい」
なんて言ってちゃかしてきたりして何かウザい。
だが、二人が息ピッタリの凄いバッテリーだということは事実なのである。
“ビュッ!”“バシン!”
“ビュッ!”“バシン!”
「健、また一段と速くなったんじゃない?」
「当ったり前だろ。なんせ今年の甲子園は俺が沸かせるんだからな。足引っ張るなよ。」
「そっちこそ………」
 



            ーサムセンー         
翌日の朝を迎えた。さあ学校だ!っと元気良く飛び起きたのは龍也だった。
チャッチャと支度を済ませ家をとび出した。向かう先は健の家である。
「起きてっかなぁ………いやっ起きてるわけないか」
案の定、健は大きないびきをかいて熟睡していた。
「ケーーーン!!龍ちゃん来ちゃったわよーー!!」
「やべっ!」という声と同時に飛び起きた。
「母さんパン一枚!」
そう言ってマジックと思える程のテクニックで素早く制服に身を包んだ。
そして母からパンを受け取り、飛び出した。
「おはようございます!!一ノ瀬先輩。それにしても、髪ボサボサですよー。それじゃあ女の子にモテないっすよ」
「その口調やめようぜ…ってかそんなもんいちいち気にしてたらそこでゲームセットだ。」(なっ何が?)
「まぁ?待たせてごめん。」
「じゃあ昼、売店でオゴりね。」
「わーったわーった」二人は楽しそうにガヤガヤと話ながら学校へと向かった。

二人は昇降口で別れそれぞれの教室へと向かった。
「あっっ健。昨日は肩とか肘とか痛めなかったの?恒例のアレやったんでしょ?」
クラスで一番仲良しであり野球部のキャプテンでもある
加藤 秀行(かとうひでゆき)が心配そうに声をかけてきた。
「毎年やってるから大したことないよ。でも心配してくれてありがとう。」
「それならいいんだけど、菊南野球部にとって大事なエースだからどこか怪我したりしたら…」
「なーに言ってんのぉ。そんな気持ちじゃあ甲子園なんか行けないよ。仲間を信じてさ。頑張ろうぜ、キャプテン」
「おう!そうだな。」
こんな健の何気ない言葉の一つひとつがチームを活気づけるきっかけになったりもしていたのであった。

“ガターン!!”
「痛ーい!内股ウッチマッタ!」
体を教室の扉に激しくぶつけ、“寒い”ヤツが飛び込んできた。
「ホントに朝からついてないな。暗黒であんこ食う気分だ。」
「どんな気分だよ。ってか寒くね。」
この“寒い”ヤツこそが健たちの担任であり野球部の顧問である、
中川 聡(なかがわ さとし)だ。ぽっちゃり体型で穏やか性格のオヤジである。
寒いオヤジギャグを連発する(しすぎる)ため寒い先生、略して“サムセン”とみんなに呼ばれている。
今日も朝から絶好調の様だ。
「今朝さぁ嫁に、『いつまでその脂肪ぶらさけてんの?生徒に恥ずかしいでしょ。』とか言われて朝食抜きにされたんだぁ。だからさっきコンビニで買い弁したんだよ。ホント朝食抜きでチョーショックだよ。」
そうして生徒達は凍死してゆくのであった。(笑)「みんな凍死しちゃった!トウシよー」

時計が12時半を回り、昼食の時間を迎えた。
龍也は待ち合わせの場所でワクワクしながら健を待っていた。
「な?秀行ぃ一緒に売店行かね?それから龍也と三人で食おうぜ。」
「あっ。ごめん今日はちょっと無理。」
「あっ、そっそうか。じゃあね。」
健は内心ビックリしていた。秀行が誘いを断ったりすることなんて、よっぽど大事な用がない限り、滅多に無いことだからだ。
でも健は秀行の様子がいつもと違うと感じていた。どことなく不自然だった。
健は首をかしげ待ち合わせ場所へと向かった。
「ごめん、待たせたな。」
「いいよいいよ、ささ買いましょ買いましょ。」
「何がいい?」
「サンドイッチ三つと?あとオレンジジュース」
「……でーなんだって?」
「なんだよ?ぼんやりしちゃってさぁ。サンドイッチ三つとオレンジジュースとスポーツカー買って。」
「おっおう。」
(スポーツカーは冗談だし…)
健が買い終わり、二人は野球グラウンドの近くのベンチに座って食べ始めた。
「さっき秀行も誘ったんだけさ、あっさり断られちゃったんだよね。あいつ新しい友達でもできたのかなぁ?」
「あ?それきっと噂の彼女のせいだと思うな…ってか知らなかったの?」
「えっ!?なにそれ?えっと、じゃあ友達ではなく彼女をとったってことかよ。」
「とったって…そんな大げさなぁ。昼飯くらい、いいじゃんか。」
「そっそれもそうだよな。でも、秀行のやつそういう事なら言ってくれればいいのに。水くさいなぁ。」



              ー双子ー
今日は始業式だけだったので、昼から部活である。
健はそのまま龍也と部室へ向かった。
「チャーっす!!」
その途中、二人の少年にあいさつをされた。
聞き覚えのある声だったので健と龍也はとっさに振り返った。
二人は同時に「ユージ!!ユート!!」大きな声を出して感激した。
双子の櫻井 優次(さくらい ゆうじ)と櫻井 優斗(さくらい ゆうと)だった。
健達とは小年野球時代にチームメイトであった。
二人もまた、ピッチャー優次、キャッチャー優斗の息ぴったりのバッテリーである。
健と龍也が少年野球を引退した後は、この二人が健と龍也みたいなバッテリーになることを目標にしつつ、チームの中心になって頑張ってきたのだ。
でも二人は中学校入学間際に親の仕事の都合で都会の方に引っ越したはずだった。
でも、ここ菊原村に戻ってきていた。しかも同じ高校に入学してきたのだ。
「二人とも戻ってきてくれたんだぁ。すごく頼もしいよ。でもな、俺と龍也が卒業するまでは出番ないかもな。ハハハ。」
「お二人さん、安心して。この人、序盤バカみたいにとばしてそのうちこんにゃくみたいにヘロヘロになるから、出番は何度でも来るからね。」
(あのまんまか…なら大丈夫だな…)
「とはいえ、我が菊南野球部にとっては大きな大きな戦力になるな。なぁ龍也。」
「健先輩、まだ入部するとは言ってないんですが……。」
「今日、一年生は見学になるから、ジャージでいいよ。」
(まあしますけど…)
キャプテンである秀行が来た。もうユニフォーム姿だった。
「健、龍也、早く着替えて練習するぞ。」
「はい!」
「らじゃ?。」
二人は急いで着替え、優次と優斗を連れ、秀行のもとへと向かった。
「今日、だいぶ暑いなぁ。」
そう健が呟いた。確かに今日は夏を思わせるようなムシムシとした感じであった。
「甲子園もこんな感じかなぁ。」秀行が、照りつける太陽を見上げながら言った。

「アレっ?」龍也が何か異変を感じとった。
“サムセン”がすでにグラウンドのベンチに座って待っていたのである。
いつもなら剣道の真似っこして「面!面!面!面!面!…5面…ごめん……遅れた!」なんて言って、汗をタオルで拭きながら、ノロノロ歩いて来るのだが。
(どうせ今日は新入部員がいるからそうしたんだろうな。)
「こんちわーっす!!先生!!」
皆は挨拶した。「ぅぉう」……にも関わらずヤツはアイスをペロペロしていた。
暑さで汗と共にアイスもポタポタ落ちる。
「ア!イスにアイス落ちたー。ハーゲンダッツ買う客はハゲダッツーの。」(…………)
皆はこうしてこの寒さにより、暑さをしのぐのであった。
「整列!脱帽!礼!」
「お願いしまぁっす!!」
そうグラウンドに挨拶をし、ランニングを始めた。
「菊南ーーファイオっファイオーーー」
秀行の声に続いて皆も掛け声をかけた。
「おい、龍也。声出てねーぞー。」
「うい?っす」(も?いちいち言うなって)
次は準備運動。
「いっちにーさんしー」
「ごーろくしちはち」
怪我を防ぐために入念に体を伸ばした。
一人欠けただけでもチームとしては危機的状況になってしまうのである。
「はい。次、柔軟?。」
「イテテテーーー!イッテ!!コノッ!折れる!!!」
「うお?い!!なんでやねーーーん!!」


「じゃあキャッチボール?」
「おーい龍也やろうぜ?」
「いいよ。ボール持った??」
「わりぃー、持ってきて」
(ったくも?????)
いつも、健は龍也とキャッチボールをする。
バッテリーでキャッチボールをするとキャッチャーがピッチャーのフォームや
調子の良し悪しをチェックできたりして都合が良いのだ。
でも、龍也の場合は健の状態くらいすぐに察してしまうのだが…
“パシッ”
「ナイスボール」
“ビュン!”
「おいおい、どこ投げてんだよ?」
「ごめん、ごめん。ミスった」
「はいはい。とりにいって………こいや?!」
「任せろ?!!」

次はノックである。だが、健と龍也には投球練習があるので抜けていった。
それを見て優次がサムセンに言った。
「僕達も投球練習やっていいっすか?」
「君らもバッテリーかいな。そうかそうか。じゃあ行ってこい。」
「ありがとうございます!」
「せんぱぁい!待ってくださいよぉ!」優次達は二人の後を追った。











               ー仲間ー
ここは田舎ということもあって、総部員数はたったの十人なのだ。
だから、大きなあたりが期待できるバッターだが守備がいまいちで、
いつも補欠にまわされている飯田 修介(いいだ しゅうすけ)が龍也の代わりにキャッチャーをやっている。
他はそれぞれ自分のポジションについた。
ファースト沢田 真二(さわだ しんじ)眼鏡をかけていてマジメそうに見えるが、実はムードメーカー。
セカンド藤田 翔(ふじた かける)小柄で、人懐っこい性格で、どことなく可愛いらしい印象を受けるヤツだ。
サード宮出 功一(みやで こういち)責任感が強くて頼れるヤツだ。
ショート高崎 甫(たかさき はじめ)テンションの高低が激しく、ちょっと変わったヤツである。
レフト秋山 大輔(あきやま だいすけ)ノリが良く唯一サムセンと気が合うヤツだ。(サムセンを師匠と呼んでるとかなんとか…)
センターはキャプテンの秀行で、
ライトは児嶋 孝則(こじま たかのり)。わりとモテるヤツで、最近秀行の相談相手になっている。
「中川先生ぇー。準備OKっスぅー!」バットを持ったサムセンに向けた秀行の大きな声が聞こえた。
「待ってぇ、とりにくをトリニイク……ジョークで?す。さあいくぞお前らぁ」
左手でボールを高々と上げ、豪快な打球を打ち込んだ。
その速さ、そのテクニックは並の人物ではなせない技だ。
そう、サムセンこと中川 聡は昔、今じゃ考えられないほどのすごい野球選手であった。
甲子園で大活躍をし、プロからスカウトを受けたそうだが、高校教師の道を選んだそうだ。田舎でのんびりと野球を教えたかったらしい(だじゃれも…)
バットの使い方がうまいので、ここらの学校では驚かれる。
他校の先生で野球経験者はいるが、圧倒的にサムセンが上をいっている。
“カキーン!”“バシッ”“カキーン!”“バシッ”この打球の速さに慣れるだけでもすごく野球が上達する様だ。
「さぁもう一丁こーい!」“カキーン!!”
「中川先生って…何か凄いんだな…」
「ああ…」と優次達が呟くように言った。
「だじゃれ好きなただのデブだと思ったら大間違いだぜ。」
少し誇らしげに健が言った。
優次達はサムセン、そしてチームの凄さに驚かされたのであった。
“ビュッ!”“バシン!”
「どーだ!龍也ぁ!」
二人は健たちの凄まじい成長ぶりにも驚かされたのであった。

次は打撃練習が始まる。普通は何箇所かに分かれて打つのだが、部員が少ないので一箇所、つまり、試合と同じ形で行うのだ。
すると、守備練習にもなるので、一石二鳥ということになる。
健がピッチャー、龍也がキャッチャーに入り、皆が順に打っていく。
そして、健と龍也に対しては秀行が代わりに投げていた。
だが、優次と優斗が加わったことによって、その必要は無くなったのであった。
「っしゃー!こいっ!」
まずは、打順一番の藤田が打席に入った。
「いくぞっ!」鋭い球がキャッチャーミットめがけて直進する。
その速さのあまり藤田はのけ反りながらボールを見送った。
「はえーよぉ。ちょっとは手加減をだなぁ。」
「んなもんすっかよー」
(ならば…)
“コツンっ”ラインギリギリにバントをきめ、素早く一塁ベースを駆け抜けた。
セーフだ!
「おいおい、打撃練習でバントはねーだろ。バントわぁ。」
「いつもみたいに無理に打って内野ゴロで終わるよりは、こうやって足を生かした方がいいと思ってさ。それに、一番バッターが塁に出れば、作戦の幅が広がると思ってね」
「そっかあ…それもそうだな。それに、個性を生かすのは大事な事だしな。それにしても、とっさにバントを考えたの?」
「いや、前々から考えてたんだ。あまりパワーがない俺が出塁率を上げるためにはどうすればいいのかなぁってさ。そしたら、やっぱバントかなって思ってさ。」
菊南野球部の部員皆が、本気で甲子園出場を狙っていた。
そのために、それぞれ自分に出来ることを考えて工夫して取り組んでいたのであった。
二番秋山、三番宮出が打ち終わり、四番の秀行を迎えた。
「ケ?ン!手加減は一切いらんぞ。本気でかかってこい!」
秀行はバットを突きだし言った。そして、バットをくるっと一回まわし、構えにはいった。「挑(のぞ)むところだ!」健は真剣な顔つきで大きく振りかぶった。
そしてゆっくりと左足を上げていった。(秀行、真っ向勝負だ!)
力みの無いキレイなフォームで龍也のミットめがけて投げた。
ボールはミサイルの如く直進していった。
“バシンっ!!”
「あっ…」秀行のフルスイングしたバットはそのミサイルを捕えることなく空を切った。だが、秀行は悔しさを顔に出すことなく、無言で構え直した。
(何だこの感じ…)健は秀行から威圧感を感じた。
「さぁこい!」前に対戦した時より、ずいぶん速くなっているのは確かだ。
でも、これまで幾度となく対戦してきたんだ。
(打てない球ではない)そう確信していた。自信は確かにあったのだ。
健は龍也が出しているサインを見た。
“ど真ん中ストレート”健は頷き、モーションにはいった。
(小細工はいらない。ただ全力で投げるだけだ!)“ビュン!”
(もらったぁ!)“カキーン!”またしても秀行は一切のためらいもなくフルスイングをした。ボールは高々と上がってゆく。健はボールの行方を目で追った。
ボールは一向に落ちようとはしない。一体どこまで飛んでいくのか………
“ゴンっ!”なんと、ボールはダイレクトで遠くはなれた校舎に当たったのだ。
「ホ……ホ、ホームランだぁ!!ホームラン!!」秀行は大きくガッツポーズをして、
ダイヤモンドをゆうゆうと回った。
その時、職員室の窓が開いた。教頭だ。
「こらー!!誰ですかぁーー!あ・や・ま・り・な・さ・い・よお!」
「すっ…すみませんでした!!」
ゆうゆうと走っていた秀行の足が小走りになった。
「ジョークよジョーク!加藤君ナイスバッティング!!」
いつもは毒舌で、恐いイメージの教頭だが、密かに野球部を応援していたのであった。
必死に練習に取り組んでいる皆を見て、心を奪われたのである。

次は五番の健である。龍也もベンチに戻った。
「後輩になんか負けんなよ!」
「おう!!」優次がピッチャーに優斗がキャッチャーにはいった。
「先輩、いきますよ」そう言って優次は、6年振りに“憧れ”の
先輩に対して投げるのであった………

「さあ!こいっ!!」健が言った。
優斗はサインを出さなかった。
そう、初球はストレートと決めていたのだ。
ごまかしようの無い直球。それで中学校での進歩を見せつけてやるというのだ。

“ビュー!!!”“バンッ!!!!”
「ええっ……」「あっ……」一同が目を点にして声をもらした。
優次の球は健をもこえる速さで、ノビ具合も素晴らしいものであった。
その球を前にして健は手も足も出なかった。
「上手(うわて)投げだな。ってか、ウワッテー長いなー」
こんな事を言いやがったヤツは言うまでもないが…
「さすが師匠!ナイスです!!」
「おいー。何を言うてんねん。秋山ー。ここ褒めるとこやないし、この空気読めないヤツを止めるべきやろー。」
すかさず秀行がツっこむ。
「ツルが滑った。ツルっ!」
「調子に乗ってきちゃったじゃん!どーすんだよ。ってかどっちかっていうと、滑ったのはアナタですからね。」
「そのキレのいいツッコミ。う?ん。師匠のだじゃれとマッチしててサイコ…」
「ええ加減にせえやあ!!ってか今の球見てた?少しは驚けや?!」

健は目を閉じた。
(さっきの球、俺よりも速いんじゃないか?少年野球時代は、どっちかっていうとコントロールが良かっただけで、球は全然速くなかったんだけど…でもとりあえず対戦してみよう。色々聞くのはそれからだ)
「優次、続けて投げてくれ。」
「うす。」
優斗は健の顔をチラッと見てから、優次にサインを送った。
またしてもストレートを要求した。
“ビュン!!”
“カンッ”
ファールだ。健はバットを短く持ってコンパクトに振り、なんとか当てた。
ツーストライク。優次は優斗のだしているサインを見た。そして、大きく頷いた。
その時、健には、優次が少し微笑んだように見えた。優次はグローブの中でボールの握りを変えた。
“ビュン!”
(ん??)健は振りにいった………だが、ボールはバットから10cm程離れた所を通過した。健にはボールがブレて見えていたのだ。
(あのストレートといい、今の球といい…一体何なんだ…)
「空振り三振、バッターアウト!」龍也が言った。
そして、皆がざわつき始めた。「ブラボーブラボー鼻毛ボー!凄いじゃないかエッグのキミー!ちょっとこっち来なさい。あっっとりあえず皆も集合して。」
「ハイ!」
「最後に投げた変化球、なにかね?アレ」
「ナックルボールです。」

[解説しよう。えー……あっ…すみません。申し遅れました。(自称)凄腕野球解説者の谷村(ばかむら)です。ってちっ…チガーウ、たにむらだあ!『誰だよお前!』何て言ってるのは誰かな??……っハイ。全員でした……ってかなに今頃出てきてんの?って感じですよね。だってお母さんにお使い頼まれてたんだも……いや、“凄腕”には優雅な休日も必要なのさ。っとまあ誰も聞いてないかもしれないけど、とりあえず私、谷村が“ナックルボール”について解説させていただきます。ちなみにここ、テストに出るからチェックしておくこと。なに??『ペンが無い』だってー?じゃあ私のこの最高級のペンを貸してあげましょう。っっていらんのかい…“ナックルボール”とは、中の三本指、又は人差し指と中指を曲げ、投げる瞬間にそれらの指を開き、押しだすように、弾き出すようにボールを投げる変化球のことです。この変化球の特徴は、ほぼ無回転のため不規則に微妙にブレるところです。とても習得が困難なため、プロでも、ごくわずかの人しか投げていません。また、その人達は“ナックルボーラー”と呼ばれます。優次君もその一人ということになりますね。っとこんな感じですが、ちゃんと伝わったでしょうか。私、谷村がお伝えしましたー。]

「ほほー、ナックルボールか。こりゃたまげたなー。高校生で投げるヤツがおったのか。一ノ瀬君、こいつはバスをふっとバス……位の勢いがあるぞ。負けるなよ!」
「おっす!!まだまだ後輩には負けませんよ。」
その後、龍也がボテボテの内野ゴロであったが、前に飛ばすことができた。
しかし、後の選手は手が出なかった…だが皆はいたってポジティブであった。
(この球を完璧に打ちこなせれば恐いものはないと…)そして練習が終了した。
「誰か俺のだじゃれ聞いていかないかあ」という言葉をスルーして、健達は校門に向かった。皆が行ってしまうと弟子の秋山もしょうがなくサムセンのもとから立ち去った。






               ーライバルー
「今日の練習疲れたな?。」
「何かいつも以上にサムセン、気合い入ってたよな」
「そーそー、ノックの時の球、超速かったし。」
「いつも通りだったのは、あのだじゃれだけだったな。」
「ははっ、それもそうだな。なにがバスをふっとバスだし。笑っちゃうよな。」
「ハハハーっ」
学校からただ一本のびている道を皆揃って下校しているのだ。
そこで健がきりだした。
「そういえば、優次と優斗ってどこの中学で野球やってたの?」
「東京の“琉聖(りゅうせい)” の中等部なんすけど。」
「琉聖!?あの毎年のように甲子園行ってるとこだよね?」
「そうっすよ。名門ってこともあって練習が凄く厳しくて。」
「どうりであんなに上達したもんだ…」
「でも何でこっちに戻って来ちゃたの?あっちにいれば自動的に琉聖の高等部に上がれたのに」
「あの野球は僕らには合わなかったんですよ。縛られた野球は」
「そっか。お前ららしいな。」
「はい…」
「あっ、そういえばサムセンが、明日、練習試合だって言ってたよ。」
「まじー!?」「どこと?」
「笹木(ささき)高校とだってよ。」
「雄大(ゆうだい)がいるとこじゃんかー。」そう、笹木高校には、健と龍也のいとこである滝島 雄大(たきしま ゆうだい)がいるのである。
こいつはとんでもない偉大バッターであった。
笹木高校とは、よく試合をするから健と、雄大は何回も対戦している。
一度ホームランを打たれたことがあるが、健だって負けてない。
二人はライバル的な関係である。
「明日は絶対勝とうな。それじゃ、バイバイ。」
その言葉を残して、健は家に入っていった。
「ただいま?。」
「あら、お帰りなさい。お風呂にする?それとも…」
「風呂に入る!あー、そうだ。明日、雄大んとこの高校と練習試合やるみたい。」
「雄大かぁ?。またホームラン打たれるのかな?」
「ふっ、そんな簡単には打たれねーし。」
「っそ。」
(あ?汗びっしょりだ。早いとこ風呂入るか。)
サッと体を洗い、湯船に入り込んだ。
(アッチ!!そっちこっちどっち……寒い…いや熱い。い?やもう出よ。)
風呂から上がった健はコーヒー牛乳を飲みほした。
(やっぱうめーな。)
「夕食できたわよ。」
「へ?い」
「明日は試合に“勝つ!”ってことで…」
(またカツ丼か)
「カレーライス作ったよ。」
「えっ?関係なくね…?辛いご飯…カレーライス…」
「灼熱の焔(ほのお)のような凄いガッツを見せてって感じで…」
「ま?旨いからいいけど。」食べ終わると、ボールを手の上で転がせながら自分の部屋に向かった。
もう疲れたから寝ようと思ったが、(そうだ!)とばかりに携帯電話を開いた。
雄大に“明日はぜってー負けないからな!”
とメールを送ると、返事を待たずに寝始めた……








                ー決戦ー
“チュンチュン”小鳥のさえずりとともに、健は起き上がった。
いつもの様に二度寝しなかった。少し興奮気味だったのだろう。
そのせいか、肩が軽く感じた。リビングのテーブルの上には母さんが作り置きしてくれていたハムエッグが置いてあった。
その横には紙が置いてあった。母さんの字だった。“勝ってこい!!”とただ一言。
健は不思議と本当に勝てそうな気分になっていった。
朝食を食べ終わると、ユニフォームに着替えた。
そして背番号“1”を背負った健は玄関のドアを開けた。
「ったく?、また待たせやがって?。今回の罰ゲームは今日の試合で勝つこと!分かった?」
「はいはい分かりました、分かりました。…ってかいつも早すぎだって…」
「早く学校行くよ。バス出ちゃうよ?。」
「よしじゃあ、学校まで競争だ!」
「挑むところだ!でも、試合前に体力使い果たすなよー。」
「おお、任せとけ。お前なんか10%の力で勝てっからな。」
(うわー、言いやがったー。絶対負けないし。)

「勝ったー!な?にが10%だし?。」龍也の勝利だ。
「手加減してやった…んだよ…」健は悔しさと疲労のあまり、その場に仰向けになって倒れこんだ…。
それに続き、龍也も健と並んで倒れこんだ…。
二人が学校に到着した時にはまだ誰も来ていなかった。バカみたいにとばしてしてきたからなのだが………

「何してんだよ?、早く乗って乗って。」
「バスガイドさんが言った。『バスがイドーします』…」(……)
気がつくと皆は既にバスに乗りこんでいた。
「ここはどこ??私はだ?れ??」
「何言ってんだよ。早く、早く。」二人は寝ぼけた顔で乗り込んだ……

笹木高校に到着した。すると、笹木高校の野球部員は出迎えてくれていた。
(いたいた?。雄大、変わってねーなー。)
「ど?もー。中川先生。ご無沙汰しておりましたぁ。では久しぶりにナイスなギャグを聞かせて下さいよ。」
笹木高校野球部顧問の白石(しらいし)先生だ。
「いや?、僕のだじゃれなんかナイスじゃナイッスよ。」
「おお?。やっぱりナイスじゃないっすか?。ではグラウンドにご案内します。」
「じゃあお願いします。」

「おー!スゲー、外野が人工芝になってる!」
「学校にお願いしてなんとかやってもらったんですよ。」
「いいなぁ」と皆が羨ましがって言った。
「では、ウォーミングアップを始めてください。」
ランニング、準備運動、キャッチボール、そしてバッティングを終え、ベンチに荷物を運び込んだ。
そこで先攻か後攻をチームのキャプテン同士がじゃんけんをして決めるのであった。
笹木高校からは雄大が出てきた。続いて秀行が行こうとした。
だが秀行の肩を掴み、「俺が行くよ」と健は言った。
「やっぱ、そうだと思ったよ。じゃあ絶対勝ってきてよ。」
「任せとけ。じゃんけんの神様として崇められた俺の実力見せてやるぜ」(……)
「よぉ、雄大。」
「なんだ、健がじゃんけんすんの?」
「少年野球時代のケリつけなきゃ。」
「0勝12敗だったもんな。でも記録更新してやるぜ。」
「今までの俺とは一味違うぜ(何の根拠もなし)」
『最初は…』「パー!」「おいふざけんなよ?。」
『最初はグー、じゃんけんポン!!』(………)「また負けた…」
「記録0勝13敗になっちゃったね。じゃあ先行でお願いします。」

「ごめん…負けた…」
「いーよいーよ。先攻でも後攻で関係ないよ。」
「ありがとう。」
「さあ?円陣組むぞ」肩を組んで円になった。
「絶対勝つぞ?」『おう!!』

「整列!」それぞれのチームが向き合い整列をする。
「お願いします!」と挨拶をし合い、そしてそれぞれのポジションについた。
「投球練習は六球ね?」
「はい」
マウンドの土をならし、健は投球練習を始めた。
“ビュン!”“バシンッ!”
「はっはえー」
「雄大、アイツあんなに速かったっけ!?」
「いや、前よりずいぶん速くなってる。」相手のベンチがざわめく。
「ラスト一球!」“ザザッ”龍也が二塁にボールを投げた。
「キャッチャーの肩も凄くねーか!?」「ああ、盗塁も難しそうだな。」
「さあ打席に入って」「はい」
「プレイボール!!」健は龍也の出しているサインを見た。
“ストレート”健は頷く。大きく振りかぶり、思い切り投げた。
“ビュン!”“バシン!!”バッターは手も足もでなかった。
その後のバッターも三振に倒れていった。
投球練習で投げていた球よりもはるかに速かった。
相手チームは驚きを隠せなかった。
さて次は菊南の攻撃。?
「絶対俺まで回せよ!ホームまで還してやるからな。」
「ああ。分かった。」一番の藤田が打席に立った。
一球目「ストライク!」(こんなの、健の球に比べたら…)
“コツンっ”“ダダダ”「セーフ!セーフ!」
「アイツ足速すぎじゃねぇか?」
「ジェットでもつけてんじゃねえの?」
「な?にいきなり真顔で変なこと言ってんの。」
「だってはや…く…ね?」
続いて二番秋山。一球目、(あの足の速さなら盗塁するだろ…)キャッチャーは“外せ”のサインをだした。
藤田は盗塁する振りをして、一塁に戻った。
「ボール!」(盗塁するのか…?)
二球目、“コツンっ”またしてもバント。「アウト!」しっかり送り、藤田は二塁に進んだ。 「宮出?、かっとばせー。でも…三振しても俺に回るから…ってかいっそのこと…」
秀行がつぶやいた。
「ヒド……チェ…」
「ジョークだよ宮出!一発頼んだぜ」
「てめー、後で覚えとけ!打ってくるぜ!!」一球目から打ちにいった。
大きな金属音が鳴り響く。相手のピッチャーの顔がヒヤッとなった。
あわやセンターに抜ける球だったが、ショートが飛びついて捕ってしまった。
「アウト!!」こうしてランナーを二塁において、秀行に回ってきた。
「あっ!!UFO!!」
「えっどこどこ!?」
「アホかお前は…さあ行ってこい」
「騙したなー後で覚えとけ」(………)打席に入り、構えにはいった。
実に堂々とした構えであった。「さーこい!!」
一球目、見送った。「ストライク!!」(コントロール重視だな)秀行はタイミングを合わせようと必死だった。
健とのスピード差がだいぶ違うからだ。そして二球目、“カキンっ”かすれた金属音が鳴った。ファールだ。
ツーストライク、ノーボール。三球目、外して、ボール。(あのホームランの感覚を思い出して…)四球目、相手は勝負にきた。
(おらーー!)“カキンっ”打ち損ねたが、ポトンとうまい具合にセンターの前に落ちた。
その間に藤田がホームに突っ込んだ。
「セーフ!」
「命拾いしたなー秀行?」
「しゃーねーだろーが。一点入ったんだからいいじゃん。」
「結果オーライ…」
さて五番の健。いかにも打つ気まんまんだった。
案の定、一球目から打ちにいったが……ボテボテのサードゴロ。
だがとてもいい場所転がっていた。
「健!!間に合うぞ!走れ走れ!」
“サザー”ピッチャーだということも忘れ、無我夢中でヘッドスライディングをした。「セっセーフ!!」サムセンがニヤける。そして龍也が怒鳴る。
「情けないぞー。せんぱいー。」
「うっうるせー!」
ランナーを一塁・二塁に置いて、六番龍也。普段見ない真剣な眼差しだった。
そして第一球目。
“カキーン!”キレイな当たりのライト前ヒット。
秀行はすかさずホームへ。
「ホームイン!」初回から二点目を入れた。
「せんぱーい。僕が五番の方がいいんじゃないっすか?」
(チキショー…)「たまたまでそんなにはしゃぐなよ。」
七番の沢田はセカンドゴロに終わりスリーアウト、チェンジ。
ホワイトボードに“2”と書かれた。
とうとうそこには雄大がいた。豪快な音をたてながらブンブンバットを振っている。
(ヤバいな…)
投球練習が終わると、龍也が走ってきた。
「まさかビビってないよな。練習試合だぜ。全力勝負な。」
「もっ…もちろんだ」
雄大は、ゆっくりと打席に立った。
「振り、すごいね。」
「そんなことないけど。」
(へ?。)
健は気合いを入れ直し、大きく振りかぶった。そして渾身の一球を投げ込んだ。
“カキーン!!!!”大きな当たりは学校の外まで飛んでいった。
「ファール!!」(本当にヤバいな…)
二球目。カーブ。判定は“ボール”
(たしかにキレも凄くなってるな…)雄大は健の成長ぶりを感じ取っていた。
「どうだ?一ノ瀬君のピッチングは」
「とても凄いですよ。先輩として誇らしいです」
「何?ホコリっぽい?…………だよな。アイツは人一倍努力してるんだもん。」
(よし、勝負だ!)そして健は、力いっぱいに投げた。ボールは内角ギリギリのコースを直進していった。“普通の人”なら避けたいと思うだろう。
だが雄大は顔色一つ変えず、器用にくるっと体を回転させて打ちにいった。
またしても“ファール”・カウント、ツーストライクワンボール。
打球は確かに凄く速かったが、すでに健には恐れの気持ちは一切無かった。
どこから込み上げてるのか分からないが、かすかだが確かに自信が込みあがっていた。
“絶対負けない”ただそれだけを胸に龍也のミット目がけて全力投球した。
雄大もまた“絶対負けない”ただその一心でボールに向かっていった。
(負けない…)(負けない…!)意地と意地がぶつかり合う。
(ゴクッ…)皆も思わず唾を飲み込んだ。
(絶対かっとばす!)(三振だぁ!!……)
……“バシンっ!!!!”………
キレイな快音が鳴り響いた…
「ストライク!!バッターアウト!!」
雄大はとらえる事ができなかった……覚悟と自信の差だったのか…?
(でも…このままでは終われない…まだ…)

すると健はそれを機に調子をさらに上げ、ばったばったと三振の山をきずいていったのだ。
そしてとうとうラストバッターを迎えた。
「あと一人!あと一人!」菊南サイドが沸く。
バッター五番は雄大に続く強打者・佐々川(ささがわ)。
「タイムお願いします。」
佐々川が打席に入ろうとした時、龍也が言った。
そしてタイムをかけるとなぜか健と龍也がベンチに向かって歩いていったのだ。
守備陣の頭にハテナマークが浮かんだのだが、サムセンの頬は緩んだ。
「どうしたんすか?」優次が首をかしげながら聞いた。
だがなぜか「後は任せたぞ。」そう言って健は優次のグローブにボールを突っ込んだ。
続いて龍也が優斗にキャッチャーの防具を手渡した。
「せっかくだから暴れてこい」サムセンが親指を立てて言った。
「マジっすかぁ!?あざっす!!」二人は無邪気な子供の様にグラウンドへと飛び出していった。
そして優斗は防具を着けながら審判にバッテリーの交換を告げた。
「一年生とはなめられたもんだな?。」
佐々川がバッターボックスの土をスパイクでならしながら言った。
(ふんっ、どうだか…いくぞ!!)……“ビュッ!”“バシンっ!!”
(はっ……速い…)
「ストラーイク!」笹木高校サイドがざわめく。
剛速球に一気に注目が集まった。
“ビュッ!!”………「ストラーイク!」
“バシンっ!!”………「ストラーイク!バッターアウト!!……ゲームセット!!」
(なんだ…さっきの球は………ブレた…ぞ?)
佐々川は悔しそうにバッターボックスから立ち去った。
「ごめん、雄大…アイツら一年だろ…?」
「そうだけど、野球に学年なんか関係ないって。アイツらは確かに凄いバッテリーだよ」
「そうかな…。なら俺たちもっと頑張んなきゃな」
「ああ…負けてらんないな。次は絶対勝とうな。」
櫻井バッテリーは強烈なインパクトを残し、笹木高校に大きな衝撃を与えた……
それで彼らの気合は増幅していったのだが…“打倒菊南”を目指して…
試合は二対〇で菊南の勝利で終わった。
健にとってもチームにとってもプラスになる試合だった。
「ナイスピッチング!」
「あざっす!」
「よくあんな球とれたな。」
「ナイスランニング!」
「ナイスバント!」
皆それぞれが役目を果たす事ができたのだ。
自信はついたが、少し気を抜いたらやられる。そう分かっていた。
明日からもっと頑張る。
“甲子園に行きたい”絶対に。
 




            ー甲子園への切符ー
それからというものの、皆はさらに気合いを入れて練習に打ち込んでいった。
“ただ純粋にひたむきに”
チームの力が着々と上がっていく。健の成長もとまることを知らなかった。
(身長は若干とまってるけどね?)
(よっ、余計な事喋るなよ。)
数々の練習試合もこなし、夏の大会の準備は整っていった。

月日はあっという間に流れ、とうとう健達“菊南野球部”は甲子園への切符の目の前に立っていた。
舞台は超満員、夏の地区大会決勝戦、菊原南高等学校対笹木高等学校。
九回裏ワンアウトランナー、一塁・二塁。スコアは三対三の同点。
ピッチャー、一ノ瀬 健。
バッター、滝島 雄大。
カウント“ツーストライクスリーボール、フルカウント”
菊南は“のりきって延長戦に持ち込みたい”
笹木は“この回で決めたい”そういう状況だ。
一つ塁が空いてるからフォアボールで歩かせてもいいところだが、龍也はストレートのサインを健に送った。
“勝負”するのである。健はこの対戦にこだわっていた。
ここで歩かせたら悔いが残ると。そんな勝ち方してもしょうがないと。
「絶対逃げるな。逃げて勝っても何も嬉しくない。」
チームの皆を代表して秀行が言ってくれた。だから、一切の迷いも無かった。
ただ全力をぶつけるだけだ。“俺ならできる”ただそう信じて。
“俺は一人じゃない”そう心に言い聞かせて。
(さあ、いくぞ!!)エンジンをかけた。この一球の為に。今までで気が遠くなるような程の球数を投げてきた。たったその内の一回にこんなにも集中した。
健はボールが手から離れた瞬間から、スローモーションになったように感じた。
ボールは吸い込まれるようにミットに向かって直進する。
だが、それを妨げようとバットが向かってくる。
そして…………ボールの直進を止め、力強く跳ね返したのだ。
大きな金属音は球場中に響きわたった。
それと同時に観客が沸く。
ボールは高々と上がっていった。
センターの秀行は必死で追った。追った。尚も追った。
しかし、ボールは確実にスタンドへ向かって行った。
秀行はジャンプしてグローブを目一杯にのばした。
“あと少し、あと少し!”………………グローブにボールが入った事を確かに感じた…………“!!”(あっ……)次の瞬間…ボールの入ったグローブが手から離れ…スタンド内に落ちた……「ホッ…ホームラン!!!!ホームラン!!」
健の目には涙が溢れた。
しかしそれは悔し涙ではない…やりきった…ただそれだけ。
その思いが込み上げてきたのだ。
それは、宝石の様な輝きを放っていた。それも、とても美しく。
龍也が健に歩み寄っていく。涙を流して…
「何泣いてんだよ?」
「そっそっちこそ」
「泣いてねーよ。」
「嘘つけ…」
「とうとう終わっちゃったね」
「なーに、終わりだなんて思っちゃいねーよ。」
「ふーん。プロでも目指してるの?」
「勿論さ、俺、韓国でプロ目指そうと思うんだ」
「韓国!?」
「ああ、メジャーじゃありきたりだろ?」
「そっか…」
「何だ??寂しいのかあ??」
「そっそんな訳ねーだろ。」
「ったく、可愛くねーの。」
「結構ですよ?。」
「じゃあ……菊南野球部を頼んだぞ。」
「任せとけって。それにはまず、部員集めからだな。」
「大丈夫、お前ならできる」
「どっからその自信出てきたんだし…」

「整列!」『ありがとうございました!!』

そうして健達三年生の夏が終わった………?



               ー旅立ちー
そして健がいざ韓国に旅立つ時、空港に野球部(サムセンも…)の皆が駆けつけてくれたのだ。「ほら、先生急いで急いで」
「おっおう。」
「健、どんな時も諦めずぶつかってこいよ。」
「菊南魂見せたれ!!」
「いつでも応援してるからな。」
「たまには連絡くれよな。」
「活躍、期待してるぞ!」
「先生は……台湾に行きタイワン♪」
(勝手に行ってろ……)
「皆、本当にありがとう!!皆も頑張れよ!!」ただそう言い残して背を向けた………

「お前がいなくなってせいせいするぜ……」龍也が言った…

最後の最後まで素直になれなかった………………
単純な事なのに………………
意地を張って何になる………………

本当は寂しかったのだ。

“いつか、また会える”そう分かっているのに………
“菊南野球部は自分が支えていく”そう強く思っているのに……………
いっその事、このままついていきたい……そう思ってしまった……
健がいつものように近くにいる…それが普通だと思っていた……
“いなくなってしまう”そう、今実感した。
不意に涙が溢れてくる……
そうだ…今言わなくて…いつ言うんだ。

「どうせ行くんだったら…絶対…絶対……頑張ってこいよ。この…バカヤロウ!!」
涙をぬぐって、あえて笑って言ってやった。
「当たり前だろ!絶対、大活躍してくるから……………………
じゃあな…………それまで……その時まで…………俺の…相棒。」

アイボウとライバル

ーあとがきー
アイボウとライバルを最後まで読んでくれて本当にありがとうございました!!
高校野球の爽やかな香り、味わってもらえたでしょうか??
そして“寒く”なってもらえたでしょうか??ぜひとも感想聞きたいものです…
ところで…ところで…読んでみてどうでしたか?私の活躍。
そう、私、谷村(あほむら)の。(だから…たにむらだって…)
今さら『お前だれ??』なんていう声が聞こえますが、主人公ですよ、主人公。
(はい……どうせ脇役です…)
(自称)凄腕野球解説者の谷村ですよ?。うん?やっと思いだしましたか…
本日は私が司会を務めさせていただきます。
では本題にはいりま?す。内容はですね…なんとなんと
“QにAしてもらってちゃおうやないか!”
ということで…ゲスト…一ノ瀬 健君です!!
「どうも、こんにちは?。」
はいこんにちは。じゃあ、色々Qしてっちゃうのでよろしく。
「うっす」
ではさっそくQ1:大会終わってみての感想は?
A:「いや?、あっという間でしたね。でも最終回だけは異常な程長く感じましたけど。悔いは残らなかったですよ。このメンバーでやれて本当に良かったです。」
そうですか?。そのあっという間の中にも数々の思い出が残ったことでしょうね。
Q2:あれから雄大君とは連絡とりましたか?
A:「というか実際に会いました。『こんどこそ絶対負けねーからな!!』って言ってやりましたよ。」
やはりライバルですね。負けずに頑張って!!
Q3:今でも龍也君とは遊んだりするんですか?
A:「お互い拒否し合ってる感じです。恥ずかしいんでしょうかね。俺は秀行と遊んだりしてましたが、この頃は『デートだから…』なんて振られてばかりでした…」
でもとっても良いコンビだと思いますよ。日本に帰ったら相手してあげてみては?
Q4:趣味を教えてください!
A:「うん。この頃は音楽聴きながらランニングとかしてますね。韓国巡りも兼ねてね。」私もランニングしてますよ?。気分転換に最適です。まあ…ダイエット目的だけど…どんな音楽を聴くのか興味深しです。
Q5:韓国ではまってる事は?
A:「激辛キムチに挑戦する事ですね!!ヤバいですよ本当に…でも皆すました顔で食べてるんです。不思議ですね。」
キッ…キムチ…あんなん食べれないよ…だって…だって…
ラストQ:では今後の菊南野球部に期待する事は?
A:「やはりキャプテンになる龍也を中心に、ぜひ甲子園に行ってほしいですね。期待の優次・優斗バッテリーもいますからね。良い知らせが届くのを楽しみにしてます。」
きっと良い知らせが届きますよ。龍也君がいれば安心ですね。ファイト菊南!!
ってことでここらへんで終わり………(あっそうだ)…最後にサムセンについてお聞かせください。
「寒い」
なるほど!!熱心な回答ありがとうございます。ためになりました!
っと…いうことで………サプライズゲスト!サムセンです!!どうぞっ!
「ケンの剣!!」
はい、ありがとうございました。ってか今なんか聞こえた??
……ということでですね…
とうとうお別れの時間を迎えてしまいました……
この作品を通して何か伝えられましたかね…
ではではまた会える日までサヨナラ!!……

…いや……やっぱ健君しめちゃって!

「あっ…はいはい。任せて任せて。…えーっと僕も精一杯頑張ってくるので
皆さんも是非何事にも一生懸命取り組んでください!!とりあえず最後まで諦めないこと!!
…………………う?ん。言葉にできない。
まぁとりあえずファイトだファイト!!くじけるな!!では…さいならー!!応援してまーす!!」

…ちょっと冷たくない?…最後5文字しか喋っとらんよ………………
しかも若干スルー気味だったし………………
ああ悲し…苦し…ああああああ息がぁ!!酸素ぷりーず!!
ならば……
次作は“サムセン物語”に決定したぞ!!ヒャッホーイ!!氷づけ覚悟で読みたまえ!!
モチロン主役はこの私。あーオモシロそー。楽しみー。
乞うご期待・動きたい・叫びたい!!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !!!! !! !!
(※勝手に盛り上がってます。鼻で笑ってやってくださいな………では)


          !!!速報!!!
夏の甲子園、決勝戦の結果です!!!
笹木高等学校対琉聖学園高等学校の試合は……………
7対6で……………………
笹木高校の優勝です!!!!
キャプテンの滝島 雄大を中心とした粘り強い野球を見せました。
まさに“一球入魂”の強い意志を見せてくれました。
ホームランで点を稼いでいった琉聖学園高等学校に対し
繋ぐ野球を見せた笹木高等学校。
…はいっ、VTRです。
最終回は張り詰める緊張の中での滝島の執念のスクイズ。
あわやアウトだと思われたホームベース上でクロスプレー……………
しかし審判の両腕は水平に開かれた。
「セーフ!!」
土色に染まった少年達がベンチから飛び出しました。
「ゲームセット!!」
そして、監督の胴上げです。
「ワ?イ。ワ?イ。ワ?イ!」“ドンッ!!”
はい、恒例(?)でありますが監督をわざと落としました?。
「コ?ラ?!!」
「すませんすません!!」


野球の神様は何を思ってこの判決を下したのか……………
日々の努力をしっかり見てくれていたのでしょうかね。


「健……優勝したぞ!!」


はい、私サムセンがお伝えしま…………………………
ちゃうやろひっこんでろや!!

はい、気をとりなおして。
私、鈴木がお伝えしました?。(ってお前は誰やねん!!)

アイボウとライバル

いとこであるアイボウとライバルそして主人公。その他部員達や寒いオヤジ顧問が繰り広げる青春野球(時々ギャグ)ストーリーです!! ぜひぜひ読んでいってください。 感想などどしどしお待ちしております。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • アクション
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2010-08-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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