下町お洒落化計画


 私が経営するカフェの隣の空家で、ガレージセール兼写真の個展が開かれている。
 主催者は、その家の持ち主である、町工場の社長。もうすぐ還暦だがまだまだ気持ちは若いのだ、と言わんばかりに、お洒落カフェや雑貨屋の店主らと積極的に交流している。「覗きに来てや!」と声を掛けられていたので、夕方、店番を妹に任せて、ちょっと顔を出してみた。
「こんばんは……どうですか?」
「いやあ、やっぱり雨降ったらあかんな。人歩いてへんもんなあ」
 社長はそう言って禿げ上がった額をぺちぺちと叩いた。
「そうですねー、うちも今日は暇ですよ」
 と話を合わせつつ、社長自らが旅行先で撮って来たという写真を見て回る。マンハッタンの風景、の中に、ワールドトレードセンターがある。
「これ、綺麗に撮れとるやろ! あのテロのほんの一か月ほど前に行ったんや!」
 社長は実に嬉しそうにその写真を指差した。「はあ」としか反応出来ない。
 ガレージセールの方には何があるのかと見てみたら、古ぼけた鍋つかみや枕カバーに急遽アップリケを付けたような、どうしようもない物が並んでいた。余りじっくり見ていたら、また社長が「味があってええやろ!」などと言ってきそうなので、さっと一通り目を通すだけにしておいた。
「そろそろ店番代わらないといけないんで……」
 と帰ろうとすると、社長は言った。
「今日、個展終わったら、この写真のうちのどれか一つ、あんたんとこの店に飾ったってくれへんかなあ」
「……はあ……」
「せのない返事しなや。約束やで。頼んだで!」
 これから先、この町でずっとやっていけるのだろうか、と不安にならずには居れなかった。

下町お洒落化計画

下町お洒落化計画

設定:2002年

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-02

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