2011年12月22日 産経新聞「夕焼けエッセー」への掲載より。

ずいぶん大人になってから、クリスマスが好きになった。日本の高度成長期に少女時代を関西の田舎で過ごした私にとって、クリスマスとはバタークリームのケーキを食べるのが精いっぱいの行事だったように思う。
 バブル終焉のころ、結婚して東京に出た。都会の人々は生活を楽しみ、クリスマスが近づくとそれをより一層、謳歌しているように見えた。女性達のコートの襟に着けられたクリスマスを象徴するブローチ。生花で造られたリース飾り。パーティー。田舎育ちの私には目を見張るものばかりだった。私はクリスマスに恋をし、12月を待ちわびるようになっていった。
 それから10年が過ぎ、私は東京近郊の街に移り住んだ。駅から住居まで歩く間には家族向けマンションが建ち並び、11月末になると、その幾世帯もの窓にクリスマスツリーの灯りが輝き始める。それは温かく、それぞれの家庭の幸せを語っているように思えた。ひとつひとつの窓に歴史があるのだろうと想像すると、胸がキュンとなった。私は毎年その窓を眺めた。
 けれど、昨年からどの窓にも灯りがともらなくなってしまった。つくづく考えてみると、子供たちが成長し家族でクリスマスを楽しむことはなくなったのだろう。あれから10年も経つのだから。
 夕方、帰路を急ぎながら暗い窓を見上げてみる。ひとつひとつの窓にはそれぞれの物語があり、またその一人一人には人生がある。みんな幸せにと願わずにはいられない私のクリスマスである。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-26

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