本編TOKIの世界書一部「流れ時…1」(時神編)H22執筆

ごぼうかえる 作

本編TOKIの世界書一部「流れ時…1」(時神編)H22執筆
  1. ロストクロッカー
  2. ロストクロッカー二話
  3. ロストクロッカー三話
  4. ロストクロッカー四話
  5. ロストクロッカー五話
  6. ロストクロッカー六話
  7. ロストクロッカー七話
  8. ロストクロッカー八話
  9. ロストクロッカー九話
  10. ロストクロッカー十話
  11. ロストクロッカー十一話
  12. ロストクロッカー十二話
  13. ロストクロッカー最終話

TOKIの世界。
壱‥‥現世。いま生きている世界。
弐‥‥夢、妄想、想像、霊魂の世界。
参‥‥過去の世界。
肆‥‥未来の世界。
伍‥‥謎
陸‥‥現世である壱と反転した世界。

TOKIの世界のはじまりの物語。
これから徐々に世界観が露わになります。
アヤは果たしてこれから平和に生きる術をみつけられるのか?

ロストクロッカー

ロストクロッカー

「この現象はおかしいね。……ああ、『ナオ』が原因か。時神アヤに余計な運命を背負わせてしまったね」
少年の声がどこからかする。
「君はそのうち気がつくかもしれないね……霊史直神(れいしなおのかみ)……ナオ」
少年は少女にささやくが彼女は記憶を失っているかのように無邪気に笑っていた。

これはある少女のマイナスから始まる物語。


時計……
人間がつくった数字化した時間。
私はそれが好きだった。

とある普通のマンションの一室。
つくられた年代がバラバラな時計が多数置いてある。隅の方に机と椅子があり、そこには一人の少女が座っていた。
薄いピンクのパーカーに青い短いスカート。短くきられた茶色の髪と、髪と同じ色の目。
一見普通の少女だがこの少女は少し変わっている事で有名だった。
「時間……時計……歴史……」
少女は独り言をつぶやいている。
「歴史は時間があるから存在する。私は今、時間の中で生きている。こうやって話している間にも私の中の歴史は進む。……時間を止めたら歴史はなくなる……の?自分だけ歳をとらないようにする……とかってできないの?」
彼女は時間と時計がやけに好きだった。
ゆえに彼女の部屋は時計だらけだ。その時計はすべて同じタイミングでカチカチ鳴っている。
友達や来客はこの部屋のことを気味悪がって入ろうとはしない。
「タイムマシンをもし人がつくれるようになったら……タイムマシンに乗った人はどうなってしまうの?未来に行ったとしたら歳をとりすぎて死んでしまうの?過去に行ったとしたらその人はいなかった事になり消えてしまうの?」
少女は目の前でカチカチ鳴っている時計を見つめた。
今は……午後五時半……
もう……夕方か……
夕方……
ん?
五時半?
しばらくぼんやり見つめていた少女の目がいきなり見開かれた。
「!」
時計を見ていた少女はいきなり立ち上がり、周りを見回している。
さっきも五時半だった!
「時計が……」
徐々にだがさっきまでそろっていた秒針の音がずれはじめていた。
しかもひとつではない。複数の時計の針が狂っているようだ。
どの時計が狂っているのか……
少女は時計をかたっぱしからチェックしていった。
「……あれ?い、いま……何時?」
そのうち元の時間がわからなくなってしまった。
少女の部屋にテレビも携帯もなく、時間を確認できるものがない。
しかたなしに外にある公園の時計を見る事にした。
「もう暗くなっているから……六時か……七時……。」
そんなものだろうと予想を立てて部屋のドアを開けようとした時、突如時計の一つが光り出した。
「え?」
少女はその不気味な光りがなんだかわからずただ立ち尽くしていた。
しばらくして光りがやむと目の前に学生服姿のかわいらしい顔つきをしている男の子が現れた。
「……だ……だれ?」
気が動転していた少女は震える声で男の子に問いかける。
「お!壱(いち)の世界にきた!あ……いや……僕は……その……」
意味深な発言をした学生服の男の子は内気なのか下を向いて困っていた。
「泥棒?空き巣?どこから入ってきたの?」
少女は怯えながら疑問をぶつけた。
「ち……違うよ。僕は現代の時の神だよ……。えーと……現代神って皆僕の事を呼ぶんだ……。」
「時の神様?それって空き巣とか泥棒した言い訳?」
もちろん、時の神様なんて信じていなかったが彼の言葉に少し興味があった。
彼が時間関係の事を話しはじめたからだ。
話を聞いてあげるのもいいかもしれない。
それが忍び込んだ言い訳だったとしても。
「……まあ……信じてもらえないのも無理ないよ……。でも、僕は君に協力してほしいんだ……。」
「協力?盗みとかの?」
「ち……違うってば……。ん~……なんて言えばいいのかなあ。今、時計とか……その……時間とかおかしいでしょ?」
「!」
この男から時計が狂っている事を持ち出されるとは思わなかった。
もしかして……この人が私の時計を狂わせたの?用意周到な空き巣又は泥棒……。
でも、泥棒なら何のために時計を?
「それね、君の家だけじゃないんだ……。ニホン全体の時計が狂っているんだ。ニュースで問題になっているよ。君はテレビを見ないからわからないかもしれないけど。で、それは、ニホンの時神のせいなんだ。」
「わけわからない。あなた、頭大丈夫?……ん?」
少女は外で大声を出して言い合っているカップルの話に耳がいってしまった。
おそらく、マンションの横に通っている路地で言い合いをしているのだろう。
「あんた!デートに三時間も遅れるってどういう事よ!」
「ああ?何言ってんだ!十分前に来ただろうが!」
「ほら!私の腕時計見なさいよ!待ち合わせ何分だと思ってんのよ!」
「お前の時計が壊れてんだろうが!俺のは十分前だぜ!」
そのカップルはいつも路地に集まり夜の街へと消えて行く。
いままで時間の事で喧嘩なんてしていなかったように思えたが……。
次に耳に入ったのはとなりの部屋の住人の声だ。
「お前、今何時だと思ってんだ?今日はこれから塾だっただろ?」
「え?まだ、余裕じゃん。」
どうやら父と息子の会話らしい。
「そんな事ない。ちゃんと時計を見ろ。」
「さっき、僕の腕時計、壊れたからさ、公園の時計を見て時間合わせたんだよ?間違えるはずないじゃん!」
「じゃあ、この時計が壊れてんのか?ちょっと他の時計持ってくる。」
父親がドタドタと歩く音がしたと思ったら驚きの声が響いた。
「……時計の時間が全部バラバラになってるぞ!」
その会話を皮切りにあちらこちらから動揺の声が聞こえはじめた。
「なに?皆……時計が狂っているって言うの?」
少女は男の子に目線を戻した。
「えーと……だからね、僕の他に時神が二人いるんだ。一人は過去を守っている時神、もう一人は未来を守っている時神。ねぇ……助けて。君の助けが……」
脈絡がなさすぎて意味不明。
「伝わらない。ちゃんとしゃべりなさい。」
少女の言葉に男の子は泣きそうになっていた。
「うう……えーと……ね、かこのかみさまとみらいのかみさまがね……」
このままいくともっとわからなくなりそうなので少女は質問を変えることにした。
「なんで私の力が必要なの?」
「僕、時計を使って動いているんだ。だからさ、過去の時神に会いたい時に君の家の時計を利用させてもらおうと思って……」
男の子はおどおどしながら大きい年代物の和時計を指差す。
「……?それ、うちの家宝よ?」
「た、たとえば……この時計、これは江戸くらいにつくられた和時計なんだ……。僕はこれを使うと江戸の時代に行けるんだ。」
「へぇ……。その発想はなかったわ。あなたの話だと未来には行けないわね。未来の時計なんてここにはないもの。」
「それは君が描いてくれるといいんだけど……。」
「描く?何を言っているの?」
「君が未来の時計のイメージと年代を描いてくれれば僕はその年代に行けるんだ。」
「それだったら過去の時計だって自分で描いて行けばいいじゃない。」
「それはできないんだ。過去の時計はもう存在している。時計のパーツや組み立て方が当時のものじゃないと僕は渡れない。平安の世が現代、つまり僕の管轄だった時は時計なんて使わなくても渡れたんだけど、人が時計をつくって正確に時間の管理をしはじめてからうまく動けなくなっちゃって……。」
ふーん……なかなか面白い事を言うのね……
少女はおどおどしている男の子に目を向けながら内心楽しんでいた。
「私を過去に連れて行ったりする事はできるの?」
おもしろ半分で聞いてみた。
「できるよ。たぶん……僕から離れなければ……。」
「そう……。」
「さっきよりも楽しそう……だね?信じてくれたの?」
「まあ……そんなところ。あなた、過去に行きたいんでしょ?ついでに私を一緒に連れて行ってくれないかしら?」
半ば冗談まじりだった。
彼が言っている事はお話としてはよくできている。
話にのってみたらもっと面白い事が聞ける……ただ、そう思っていただけだった。
しかし、男の子は冗談など言っていなかった。
「ありがとう。僕一人だと不安だったんだ……。すごく助かるよ!じゃあ、さっそく行こうか!ええと……現代の時計を持って行ってね。戻れなくなっちゃうからさ。」
男の子はニコリと笑うと少女の手に小さい置時計を乗せた。
「え?」
少女が不安な表情になりはじめたが男の子は構わず少女の手を握る。
「ちょっ……」
男の子は和時計に向かって走り出した。
まぶしい光りが少女を照らす。
あまりのまぶしさに少女は目を強くつぶった。

ロストクロッカー二話

「ふう……無事についた……」
男の子は少女の手を放すとため息まじりにつぶやいた。
少女は恐る恐る目を開く。
「……。」
目の前には時代劇の風景が広がっていた。
木でできた年代物の瓦屋根の前を青物売りが足早に通り過ぎて行く。
そして頭には髷が……
二本差しの侍まで舗装されていない狭い道を歩いている。
狭い道のわきにはたくさんのお店が並んでいて着物を着た看板娘がお客を入れようと必死になっていた。
「嘘……。」
少女はぺたんと地面に座り込んでしまった。
「ど……どうしたの?」
男の子はいきなり力が抜けてしまった少女を心配そうに見ている。
「ど……どうしたって……なに?ここ……」
「うーん……よくわからないけど……江戸後期くらいみたいだね。ちょうどいいや。確かこのくらいの時代のこのへんに過去の時神がいたはず……この時間軸だとたぶん、当時の僕もいると思うんだけど……歴史変わっちゃうから僕は僕に会っちゃいけないし……ええーと……」
少女は一人でぼそぼそと謎な事を口走っている男の子の声を聞いていたらなんだか泣きたくなってきた。
理解してしまった。
冗談の世界ではなくこれはリアルな世界なんだと……
よくわからないが私はお話によくあるベタなタイムスリップをしたのだと……
「ニホンの時計が狂っているという事は僕か、過去神か、未来神の誰かが狂っているんだ……。あ……そうだ。僕は現代神って呼んでね。君は?」
「……アヤ。」
アヤと名乗った少女は頭を整理しているのか下を向いたまま固まっている。
「ここにいてもしょうがないし……アヤ、まずは服を着替えよう。……?どうしたの?」
「……ふぅ……なんでもない。そうしましょう。」
連れて行ってくれと自分で言った手前、現代に戻してくれとは言えなかった。
ので……やけくそになる事にした。
すくっと立ち上がるとまっすぐ現代神を見つめる。
「な……なに?」
アヤの目線に現代神はまたおどおどし始める。
「あなた、本当に時の神様なのね?」
なんとなく確認がしたかった。少なくとも自分と時計が彼のそばから離れなければいつでも現代に戻れる。そう思うとなんとなく安心できた。
「と……時神だよ。そんな顔で見ないでよ。」
アヤは知らないうちに睨みつけていたらしい。慌てて顔をもとに戻した。
「で?どうするの?」
「とりあえず、これに着替えて。」
現代神は学生服に手を突っ込むと着物を二着取り出した。
「どこにそんなもの入ってたのよ……。用意がいいわね。」
「とりあえず、着てよ。」
二人は人気のない茂みへと移動した。
「じゃ、じゃあ、僕は向こうで……着替えるから……その……」
「なに?」
「の、のぞかないでよ……」
現代神は顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「はあ?……見たくもないわ。はやく、着替えに行きなさい。」
ふつう……逆……じゃない?
慌てて走り去る現代神を目で追いながらアヤは深いため息をついた。


絶対に綿ではないぼろぼろの着物に着替えた二人は『ぜんざい』と書いてある店の前にいた。
ぱっと見て二人は農村の子のイメージである。
「ええと……ここ、たぶん、京都だね?」
「京都……。で、いつ?」
「……時代がいまいちわからないけど大火前かな……。」
一七七八年三月に京都の八割を燃やした天明の大火の事だ。
その事を知らず、人々は陽気に通り過ぎて行く。
「火事が起こるって言ったらダメなのよね?」
「歴史が変わるからダメ!絶対ダメだからね!」
アヤのつぶやきに現代神は声を荒げた。
それだけ歴史を変えることはいけない事なのだ。
「わかった。」
アヤが残念そうに言うと現代神はうんうんと頷いた。
「まずは過去神を探さないとね……。過去神は僕と同じく普通に生活していると思うんだ。」
そういえば彼は学生服を着ていた。現代神なのに高校か中学に通っていたらしい。
「時の神って人間に混ざって生活しているものなの?」
「その方が常に時計を監視できるからね……。」
「ふーん。」
現代神が道を歩き始めたのでアヤもその後を追う。
しばらく歩くと大きな建物が見えてきた。
どうやらお寺のようだ。
「あれ……西本願寺?」
「そうだね。ん?」
現代神は前を歩いている者に目を向けた。
「どうしたの?」
「黒衣……黒袴……新撰組?」
アヤは現代神が見ている方向を見た。そこには黒い陣羽織に黒い袴を着た男が多数集まっていた。
「え?新撰組ってあさぎうらの着物じゃないの?」
「新撰組があのダンダラを着ていたのは一年足らずだよ。それからずっとああいう黒ずくめの格好をしているんだ。……大火の時代じゃなかったのかな。百年近く違うもんね。新撰組が西本願寺にいるって事は一八六何年……くらいなのか?」
「そうなの?」
二人が不安そうに会話をしていると後から異様な気を感じた。
振り返ろうとした時、自分の肩に大きな手が置かれていた。
「どけ。小娘。」
なんだかわからずアヤは現代神のもとに突き飛ばされた。
「わっ……。」
現代神はアヤを受け止め、アヤを突き飛ばした者を見る。
背が高く眼光鋭い侍だった。こげ茶の髪を後ろでひとまとめにしている。ちょうどポニーテールのようだ。いや、この場合は総髪というのが正しいか。
茶色の瞳で二人を睨みつけている。
「っ……なに?」
アヤも男に目を向ける。
「い……いきなり突き飛ばすなんて……し……失礼だと思いませんか?」
現代神は震える声で必死に抗議したが侍は
「……斬らなかっただけありがたいと思え。」
とそう言うと新撰組がたむろしている方へ歩いて行ってしまった。
「……」
二人は恐怖心で何も言えなかった。
その後、変な感覚が襲ってきた。
気がつくとさきほどまでいた新撰組の者が血を流して倒れていた。
「え?」
何があったかわからない。
知らないうちにあの侍が新撰組のいたところに立っていた。右手に抜き身の刀を持ち、その刀から血が滴っている。
「……き……斬った……」
「……?」
現代神が震えながらつぶやく。
どうやら現代神はなにが起きたかわかっているようだ。
「!」
アヤも状況が見えてきて小さく悲鳴を上げた。
「……時神……過去神……。」
現代神は侍を睨む。
「え?あ、あれが過去神?」
「たぶんそう。さっき、アヤ、君は止まっていた。そして前を歩いていた彼らも止まっていた。動いていたのは……僕と、あの侍だけだ……。あの侍が……時間を止めたんだ……」
眼光鋭い侍がまっすぐにこちらを見ている。
背筋が凍りそうな感覚でアヤは気を失いそうになったがかろうじて立っていた。
「……。そうか……お前が時の神か……。この世の行く末を案じたか……。」
過去神の言葉に現代神は意味深な笑みを浮かべた後、言う。
「そうだよ……。僕は現代神。君は僕の時代では参(さん)の世界と呼ばれている世、過去にあたる。」
「なんの用だ。」
「君、時間を狂わせているね?」
「さあな。」
過去神は刀の血を新撰組の羽織で丁寧にぬぐいとると鞘に戻し、着物を翻して消えて行った。現代神は過去神が消えた後、すっかり存在を忘れていたアヤに目を向ける。
「うええ……」
アヤは死体を見て気持ち悪そうにしている。
「大丈夫?」
現代神はアヤの背中をさすった。
「そ、それより、あの人達死んだの?」
「さあ……ここからじゃわからない。けど、死んでいたらまずいね。現代に生きているかもしれない子孫が消えてしまう……。」
「それ、まずいどころじゃないじゃない……。」
「もっと前の時代に戻って彼らが襲われるのをなかった事にすればいいから今は過去神を追おう。」
気がつくと周りがガヤガヤとしていた。
「辻斬りか?」
「新撰組?」
「また過激派か?」
などときれぎれに言葉が聞こえてくる。知らないうちに野次馬が血を流して倒れている新撰組のまわりを囲んでいた。
「永倉さん……どうしますか?犯人捜ししますか?」
「待て。総司。とりあえず近藤さんと土方さんに報告するのが先だ……。また隊士がやられたか……。」
聞きなれた名前がアヤの耳に入った。
後を振り返ると侍と思われる男性二人が立っていた。
一人は身長が低く色白な顔で目つきはかわいらしい。
もう一人は背が高く目つきが鋭い偉丈夫である。
二人ともちゃんと髷を結っている。
「沖田総司と永倉新八……」
アヤは一発でわかった。
小さい方が沖田、大きい方が永倉だ。
二人はアヤと現代神の横を通り過ぎ、野次馬の中に入って行った。
「僕達は早く過去神を探そう。なんで新撰組を襲っているのか謎だし。」
「う……うん。」
本物を見る事ができたことに感動して話しかけに行く所だった。
危ない。危ない。
アヤは頬をパンパン叩くと現代神の後ろを歩きはじめた。


夕陽が差し込む。
店はどんどん閉まりはじめている。
習い事などが終わった子供が長屋へ帰って行くのがちらちら見えはじめる。
探し始めて何時間たったか……
さすがに疲れてきた。
過去神は一向に姿を現さない。
「そろそろ……暗くなるし明日にしようか。」
「いいけど……どうするの?」
「宿行こう。」
「お金あるの?」
「あるよ。この時代が管轄だった時にすこしだけとっておいたんだ。」
現代神は手から手品のように慶長小判や万延大判、寛永通宝など年代バラバラなお金を取り出す。
「けっこう……大金だと思うんだけど?」
「これのどれか見せればたぶんヒットするよ!」
「てきとう……。」
「ま、まあ、いいじゃないか。行こう?」
二人は近くの旅籠の中に入って行った。
案の定、なんかのお金がヒットしたのか番頭の顔つきがコロッと変わっていた。
現代神とアヤは二階にある二人部屋に通された。
床は畳で行燈が唯一の光源だった。
「個室にしてくれたんだね。いい旅籠だね。」
そう言うと現代神は少し湿った布団をひくと横になった。
「ねぇ、時計使って現代に戻って寝れば良かったんじゃない?」
「うん、まあ、でも、もうお金払っちゃったし。」
その言葉を最後に現代神はごろんと寝返りをうち、何も言わなかった。
現代神からかすかな寝息が聞こえてきたのでアヤも薄っぺらい布団をひいて横になった。
しかし……寝られない……
横になって目を閉じていると色々不安になってくる。
だいたいここはいつもなじみがあった場所ではない。
当たり前だわ……。さっきまで現代にいたのよ?
それに現代神がいなくなったら自分はもう現代に帰れない。
とりあえず、怖くなった。
怖くなったので気をまぎらわそうといつも常備している紙とボールペンでためしに未来の時計を描いてみた。
こんな時計しか思い浮かばないな。未来の時計ってどうなってんだろう。
アヤはなんとなく3200年と書くとどこにでもありそうな時計の絵をぼーっと見つめた。
しばらくいろいろ模索してみたが疲れのせいか強い眠気が襲ってきた。
アヤは夢の中に引きずり込まれた。

ロストクロッカー三話


ゴォンゴォンゴォン!
鐘の音が響いている。
「はっ!」
アヤは飛び起きた。
悲鳴と鐘の音が響きわたっている。
「え?」
起きてから周りを見回すと目の前が真っ赤だった。
同時にすさまじい熱風と炎がアヤを襲い始めた。
「あぅ……あつっ……」
火事だあ!と外から声が聞こえる。
「火事!」
アヤは逃げようとして止まった。現代神がいなかった。
「げっ……現代神!」
叫んでも返事はない。
探している余裕は彼女にはなかった。
火の手が上がり始めた部屋の障子戸を開け、外へ飛んだ。
うかつにもここが二階であるという事を忘れていた。
心臓が浮くような感覚が襲った後、すぐに地面に激突した。
「……いったあ……」
骨が軽く折れる勢いで飛んだが幸い、落ちた時の外傷は擦り傷程度ですんだ。
アヤはゆっくり起き上ると愕然とした表情になった。
「……嘘……。」
まわりは火の海だった。
あちらこちらで必死の取り壊し作業が行われている。
京都は逃げ惑う人々でごった返していた。
火はごうごうと音を立てて容赦なく家々を焼く。
アヤはひたすら走った。
冗談じゃない。
現代神もいない、京都は火事。
とりあえず火がまわっていないところを必死で探した。
熱いのと煙でくらくらしてきたがなんとか火がまわっていない茂みへ出る事ができた。
「げほ……げほ……」
小さな川が流れている叢に座り込んだ。
腰が抜けて立てなかった。
それから遠くで赤く燃えている街並みを恐怖の目で見つめた。
煙がもうもうと立っている。
ここもじきに火が移りそうだ。
もっと遠くへ行こうとよろよろと腰をあげたら目の前で現代神が心配そうに立っていた。
「大丈夫?ここにいたのかあ。探したんだよ。」
アヤは一気に力が抜けてしまった。
「……ど、どこに行ってたの?こっちだって探したのよ。」
「え?ああ、ごめん。ちょっと過去神を探していたんだよ。」
現代神はアヤに手を伸ばして立たせた。
「過去神を?」
「京都がこうなったのはたぶん、あいつのせいだよ。あいつが天明の大火をずらしたんだ。」
「時代をゆがませて大火を持ってきたって事?過去神が?」
「そうなるんじゃないかな?」
二人が考えを巡らせているとまたあの異様な気を感じた。
「俺がなんだ?」
アヤはビクッと震えた。
「君が歴史をおかしくしたのか……聞きたくてさ。探していたんだ。見つかって良かったよ。」
現代神も冷や汗を流しながら歩いてきた影を睨んだ。
「どうでもよいだろう。この火事で新撰組がなくなってくれればな。」
「やっぱり君が……。なんでそんなに新撰組を消したいんだい?」
「時代に逆らう者だからだ。俺は認めない。」
「あなたが手を出さなくても新撰組は後になくなるわ。」
アヤは震える声でつぶやいたがすぐに現代神に口をふさがれた。
「アヤ、余計な事言わないで。過去神がまた何かやって時代を歪ませるかもしれないからさ。」
「……でも……言った方が……。」
「大丈夫だよ。君の新撰組の認識が変わっていなければ彼らはまだどこかで生きている。それに、君の中の歴史が変わっていなければ新撰組はちゃんと歴史通りに動いている。余計な事を言って下手に動かれる方が迷惑だ。」
「そう言うなら、天明の大火は私の中では天明の大火よ?元治の大火とかじゃないわ。」
「小娘……お前はなんだ?」
過去神は気味悪そうにアヤに話かけてきた。
「私は……その……」
アヤが言葉を濁していると過去神はアヤが持っている時計に目を向けた。
「そうか……お前が時代を脅かす異種か。」
「え?」
過去神の言葉にアヤは思わず声をあげた。
「なに?時代を脅かすって……私はただ……この現代神に……。」
過去神の目つきがさらに厳しくなり、刀の柄に手を伸ばした。
「逃げよう!アヤ!彼は今正気じゃない!なにがあったか知らないけど時代のゆがみでおかしくなってる!」
「ええ?う、うん。」
アヤが走り出そうとした時、目の前で風を切る音が通った。
「ひっ!」
二、三歩無意識に下がった。
気がつくと手に持っていた時計が真二つになって地面に落ちていた。
「とっ……時計が!」
過去神は恐怖で震えているアヤの顔に剣先を合わせた。
「女子供を斬るのは俺の理念に反するが……しかたあるまい。」
「ま、待って……な……何を言っているの!」
「今、楽にしてやる……。いたぶる趣味はないのでな、なるべく一瞬で終わらせる。」
「アヤ!」
現代神が叫んでいた。
なんだかわからないがこのままだと殺される。
いきなりの事で頭がパニックを起こしていたがアヤは焦りながら考えた。
……現代神……
そうだ!
アヤは横で震えている現代神の手をつかむと先程描いた時計の絵を咄嗟に現代神の頭に押し付けた。
目の前が白くなった。


う……
アヤは恐る恐る目を開けた。
「!」
目の前には赤い空と大自然が広がっていた。
木々は多い茂り、長く伸びた草が風で揺れている。
過去神は消えていた。
嘘……
どうやら助かったようだ。
「アヤ……君は凄いよ……。」
ふいに声がかかった。
横を見るとぐったりしている現代神がいた。
「あんな状態で動けるなんて……僕なんて足がすくんじゃってなんにもできなかったよ。」
「私だって助かるなんて思ってなかったわ……。ほら、見なさい。足が震えてる。」
アヤはがくがくしている足を指差した。
「僕も……腰が抜けて動けないよ……。」
「で?ここはどこなの?」
「三千二百年だね。つまり、未来だよ。」
「未来?これが……なんかもっと機械化とかしているのかと思ったんだけど……。」
「僕も未来に関してはノー知識だよ。現代神だからねぇ。」
「だいたい紙に書くだけでその時代にいけるってどういう仕組みなの?」
「……さあ?」
「まあ、いいわ。現代の時計壊れちゃったわよ。どうするの?」
「時計を描いて現代にぎりぎり入らない年代を書いてその時代に飛んで現代の時計をみつけて戻るって手しかないね。」
「はあ……なんだか大変な事になってきたわね……。じゃあ、さっそく戻りましょう。」
ため息をついたアヤは残っていた紙とボールペンを取り出す。
「待って、この近くに時神がいるみたいだ。未来神がね。ちょうどいいから一緒に来てよ。」
「じゃあ、また探すの?さっきみたいに殺されそうになるとかは勘弁よ。」
「こっちの時神も時間を狂わせてなければいいんだけどね。過去神はあの時代に戻れないから置いといて今は未来神に会おうよ。」
そう言うと現代神は立ち上がり歩き始めた。
「ま……待って。」
アヤは現代神がいなくなるとこまるので慌てて追いかけた。
しばらく歩くと村に出た。
木々に囲まれたひっそりとした村だった。
「なるほど……人間は機械化をやめたのかな。」
畑の横にきれいな川が流れており、木々で作った家が建ち並んでいる。
パッと見てかなり前の時代に来たみたいである。
「……生活を昔に戻したって言うの?」
「たぶんね。燃料がもうつきたんじゃないかな?」
村人が家から出てきた。
時間帯的に夜明けのようだ。
「なっ!」
アヤは出てきた人に驚いた。
服装はみすぼらしく、なぜか犬のような耳がついており、しっぽが生えている。
その他、ぞくぞくと出てきた村人は皆おかしかった。
鳥の羽が生えている者、猫のヒゲのようなものが生えている者など、まるで魔物だ。
言ってしまえば江戸あたりの貧しい農村の人が動物の格好をしている感じである。
「ふうむ?……人の純血がいなくなってしまったのかな?皆どうみても動物が入っているね。」
「ちょっと……人間は動物と交配したって言うの!」
「わかんないけど、そうなのか、それとも動物を混ぜる技術があるのか……かな?あれは人間だよ。」
「……。」
アヤはあまりのショックで言葉が出なかった。
「おい……あれは純血様じゃないか?」
「おお。何千年と人間のみと交配を続けてきたっていうあれか?」
遠くで声がする。
どうやらアヤ達を見て言っているようだ。
「日本語自体はあんまり変わってないみたいだね。ちょっと聞いてみようか。最近変な事が起こってないかを。」
現代神はなんのためらいもなく村人に近づいて行く。
アヤも気味悪がりながら現代神に続く。
「あの……最近、時間がらみで変な事ってありませんか?」
「純血様がいらした!皆、王をお呼びするのだ!」
村人は犬の人に命令され、忙しなく動き始めた。
「いや……あの……。」
ぽかんとした二人は村の中でもひときわ豪華な家に入れられた。
「なんていうか……いきなりすぎて頭が働かないんだけど……」
アヤは周りをキョロキョロ見回しながら唸った。
壁の側面は宝石がちりばめられている洋風な雰囲気なのに床が畳というなんともアンバランスな部屋に通された。
「しばしお待ちを。」
犬の人はそう言うと外へ出て行った。
「……なに?これ?」
「さ、さあ。村人の言動からするとやっぱり動物と交配したっぽいよね?」
二人がしばらく呆然としていると犬の人の声と男の声がした。
「こちらです。」
「何?純血だって?珍しいね。俺、会うのはじめてだよ。」
閉まっていた障子が開かれた。
アヤと現代神は開かれた障子に目を向けた。
そこには犬の人と赤い髪の若い男が立っていた。
赤い髪の男は頬に赤色のペイントをしていた。紫だったらクマに見えたところだ。
その男はどこからどうみても普通の人間のようだった。
服は現代にありそうなネックのついている黒いシャツに黒いズボン。
「本当だな。純血だ!君らはどこの豪族の生まれだ?そんなぼろぼろな恰好をして。俺は湯瀬プラズマだ。よろしくな。」
「ご……豪族?」
「ん?どうした?」
「あ……いえ。」
赤髪の男が不安そうな顔になりはじめたのでアヤは無理に笑顔をつくってみせた。
「……!」
しかし現代神の顔つきは厳しくなっていた。
「どうしたの?」
「お聞きしますが……あなたはもしかすると……。」
現代神はアヤの問いかけを無視してまっすぐ赤い髪の男を見上げる。
「なんだ?」
「未来神……なのでは……。」
現代神の言葉で赤い髪の男から笑顔が消えた。
「さがれ。」
「はっ。」
赤い髪の男は犬の人を追い出した。
犬の人の遠ざかる足音を聞きながら赤い髪の男はため息まじりにつぶやいた。
「君、時神か?」
「そうです。時神、現代神。」
「で?俺に何の用?」
未来神は軽い口調で問いかけた。
「……時間を……ゆがませていませんか?」
「……。」
現代神の真面目な声音で未来神は黙り込んだ。
「……。ゆがませていましたか……?」
「だったらなんだ。」
「今すぐ、戻してください。」
「できない……。それだけは。」
未来神の顔つきが暗くなっていた。
「どうしてです?」
「戦争が起きるからだ。機械化に走った人間共と自然共存派の人間共のな。機械化したやつらは少数だが感情を消している種族だ。自然共存派は、それは人間じゃないって言い張って近い将来、その機械化した人間を壊すって言っているんだ。機械化した方もただ壊されるのを待つわけじゃない。攻撃されると防護プログラムが作動するようにできている。つまり、戦争が起きるのさ。だから俺は戦争を後にまわしているんだ。ずっと後にまわすつもりだ。」
「それはダメです。歴史は歴史です。時神は感情に流されてはいけません。」
二人は暗い顔つきで真剣に会話をしている。
アヤはなんだか不思議な気持ちだった。
時や歴史はこう簡単にゆがませられるものなのか。
でもそんな時の神でも歴史を変える事は不可能。遅らせたり早くしたりする事は可能だが事柄は確実に起きるのだ。
「……。すまないな。帰ってくれるか?俺は歴史をもとに戻す気はないしお前だけだと話をする気にはならない。」
アヤはお前だけだとの「だけ」に違和感を覚えたが違和感を覚えただけで軽く流してしまった。
「それはできません。」
現代神はいつになく険しい顔で未来神を睨む。
「……。」
未来神は無言で手をあげた。
するとどこからか大きな犬が現れた。
その犬は先ほどの犬の人に似ていたが人間というより犬だった。
未来神はその犬にまたがるとどこかへ飛んで行ってしまった。
「まっ……まってください!」
現代神の叫びもむなしく、未来神は遠くの空へと消えてしまった。
「ね……ねえ……どうするのよ。」
「探すよ。探さないといけないよ。もう一度、話をするんだ。」
二人はしかたなく外に出た。
そして近くを歩いていた猫っぽい村人に居所を聞いた。
「あのぉ……。」
「おお!純血様。」
村人の輝く顔を見ながら現代神は言葉を選んで話しかける。
「ええーと……湯瀬……プラズマ……様だっけ?……にうちへ来いって言われたのですがおうち、どこだかわかりますか?」
「屋敷の事でございますか?」
「ええ……たぶん。」
「それならあの山のふもとですよ。」
村人はかなり遠くの山を指差した。
「遠いですね……。」
「そうですね。なんならわたくしが送りましょうか?」
猫の村人は猫によくありそうなまったりとした顔をすると骨格をコキコキとならしはじめた。
「え……?」
二人は驚いた。
猫の村人は骨格を変えて四足の大きな猫へと変貌した。
「さあ、乗ってください。私の足だと夜にはむこうにつきますよ。」
「あ……あの……お仕事の方は?」
「心配いりませんよ。純血様をお乗せしたという事が我々にとって名誉な事なのですから。」
「……。じゃ……じゃあ……遠慮なく……。」
ウキウキしている猫の人に対し戸惑いが少し生まれたが二人は恐る恐る猫の人の背に乗った。
「じゃあ、行きますよ。」
ノリノリな猫の人は爆発的な加速力で森を駆け抜け、垣根を飛び越えまっすぐ屋敷へと向かいはじめた。
上に乗っている二人はあまりのスピードにつかまっているのに精いっぱいだった。
「わたくしの祖先はチーターの血が入っているのですよ。ですから、足には自信があるんですよ。と言ってもプラズマ様の配下の犬の彼にはかないませんがね。」
猫の人は楽しそうに語っているが二人は気を失いそうでそれどころではなかった。

ロストクロッカー四話

「はい。つきましたよ。あれ?どうしました?」
二人はゆらゆら揺れていた。
「……ん……。気持ち……悪い……。」
気がつくと猫の人が心配そうな声で語りかけていた。
そして意識を戻すため二人をゆすっていた。
と、いう事は知らない内に気絶していたらしい。
しがみついたまま気絶するとは……二人はとても器用なのかも知れない。
「うう……。」
二人は青い顔のまま猫の人から降りた。
山のふもとはもう真っ暗だった。
どこからか虫の鳴き声がする。
目の前には大きな屋敷が建っていて、近くに池がありそこに月が映っている。
すごくきれいで静かなところだった。
空には満天の星空と少し欠けた満月がキラキラと輝いていた。
「では。わたくしはこれで。乗ってくださってありがとうございました。」
猫の人は丁寧に頭を下げた。
「あ……いや……別に。ああ、こちらこそありがとうございました。」
現代神とアヤも丁寧に頭を下げた。
猫の人はにこりと笑うと風を巻き上げて消えて行った。
「……さっさと行きましょう。もう……はやく帰りたい。」
まだ青い顔をしているアヤは現代神を促した。
「ああ、まってよお!」
現代神も慌てて目の前に立っている屋敷に向かって歩き出した。
屋敷には門番がいた。
門の前に二人、一人は闘牛のようなツノをはやし、いかにも強そうである。もう一人も鋭い牙と鬣を持っているライオンのような男であった。
「正面からじゃ入れないね。」
「まわりこんで入れそうな所から入るとか。」
屋敷のまわりは壁のようなもので囲われていた。
「壁で囲われているけど、これくらいなら登れそうだね。」
壁はまったく防犯の意味をなしてないくらい低かった。
「そうね。変な意味で色々裏切ってくれるわねぇ。未来って言ったらもっと……こう……レーザーがビーって張り巡らされて見回りロボットが徘徊しているイメージだったのよねぇ。これじゃあ、江戸時代の垣根よ……。」
二人は軽々と中へ侵入した。
屋敷には窓がなく廊下と障子のみだった。
障子からは明かりが漏れている。
その障子戸の中からかすかに声がしていた。
「声がするわ。」
「とりあえず、行ってみよう。」
二人は声がしている障子に近づき、影が映らないように廊下の下にしゃがんだ。
声は未来神のものだった。
「俺は……君を守りたいんだ……。」
「何ですか?いきなり。」
未来神のほかにもうひとり誰かいるようだ。
「女の人の声ね。」
「みたいだね。」
二人は小声で確認しあう。
「君は……君だけは絶対死なせない。」
「またその話ですか?戦争とやらが起こって私が死ぬっていう……。本当に縁起でもない事をおっしゃる方。」
「……。大丈夫。俺が……絶対に戦争なんて起こさせやしない。」
「……最近思うのです。私はいなくなった方がよろしいのではないかと。」
「何言ってるんだ!……俺は!」
「わかっていますよ……。でも、あなたとは結ばれてはいけないのです。」
「君は……ウサギの血が流れているから……な。俺は純血の人間とじゃないと結ばれる事はない。でも……俺は……。」
未来神の悲痛な声と悲しそうな女の声が障子から漏れる。
「あなたが私にかまっていたらあなたはダメになります。やはりここで別れるべきなのでは……。」
「結ばれなくてもいい。だから、どこにも行かないでくれ。別れるなんて言わないでくれ。」
「純血の血を絶やしてはいけません。純血は人々の誇りなんですから。」
「……。」
声はそこで途切れた。
「そういう事ね。」
アヤは確信した。
未来神は女が戦争で死んでしまう事を知っていたから女が生きている間、戦争が起きないように歴史を後回しにしているのだ。
「聞いちゃうとさあ……言いにくいよねぇ。歴史をもとに戻せぇなんてさ。」
現代神は複雑な顔をアヤに向けた。
その時、未来神の声がした。
「……誰だ!誰かいるのか!」
障子が思いっきり開く音が響く。
二人はビクッと身体を震わせた。
「うう……見つかった。行くしかないかな。」
現代神は廊下の下からのそりと出た。アヤもそれに続く。
未来神の顔がゆがんだ。
「君たちか……もう、俺に関わらないでくれ。」
「そうはいきません。歴史をもとに戻してくださるまで僕は負けません。」
現代神は未来神を睨みつけた。
「……さっきから気になっていたのだが、となりの娘はなんだ?まさかと思うが……」
未来神が意味深な事を言いかけた時、となりからひょこっとウサギの耳がのぞき、かわいらしい女性が顔をだした。髪の毛は白く、服は色あせた赤いワンピースのようなものを着ていた。
「どうしました?」
「大丈夫だ。先に寝室に行って寝ててくれ。」
「……。はい。」
女はいぶかしげな表情を浮かべたが未来神の言葉に従い、部屋から出て行った。
女の足音が聞こえなくなるまで黙っていた未来神は足音が消えたと同時に話はじめた。
「娘……君を殺せば……あの戦争が……。君だろ?異種っていうのは……。」
「え?」
アヤはさっきと同様に意味不明な言葉をかけられた。
「ごめん……。本当は殺すとか嫌なんだ……だけど……あの沢山の犠牲とあの子を守れるなら俺は……。そもそも、君が無断で時を渡るからいけないんだ。だから時が狂うんだ!」
「な……なに言ってるの?私は、現代神から……」
戸惑っていたアヤに現代神は力強い瞳をして言った。
「君までおかしくならないでよ。アヤには罪なんてないんだから!しっかりして!ここでも未来神が時間を狂わせていたなんて……。現代が狂うわけだ。」
未来神は拳銃を取り出した。
「!」
高速で弾丸がアヤの髪を通り過ぎて行った。
「くそ……手が震える……俺は的なんて外した事ないのに!」
アヤは未来神が拳銃を撃った事にようやく気がついた。
なに?私……また……殺されそう……
逃げなきゃ……
現代神はさっきの銃声に驚き腰を抜かしてしまっている。
「何やってんの!殺されるわよ!逃げなきゃ!」
「う……うん!」
アヤは無理やり現代神を起こすと庭を駆けだした。
後から何発も弾丸が飛んでくる。
背中からも顔からも冷や汗がつたう。
壁までこんなに遠かったっけ?
全然たどりつけない!
アヤと現代神は必死で走った。
未来神が追ってきている足音と「侵入者!」と叫ぶ声が響く。
急に目の前が暗くなった。
「何!」
見ると先程の門番が武器を構えて壁の前に立っている。
門番は容赦なく斧のような武器を振り回し、爪で薙ぎ払う。
アヤは素早くそれを避ける。
なんで避けられたのかは疑問だがこう必死だと人間、不思議な力が出るようだ。
他にもあちらこちらから武器を持った獣人が現れたが、なんとか獣人達の攻撃に耐え必死で駆けた。
自分にこんな運動神経があるなんて知らなかった。
武器がのろくみえて避けるのは楽だった。
もしかしたら現代神がなにかしたのかもしれない。
しかし、アヤには現代神にそれを確認する余裕はなかった。
とりあえず、壁は獣人にふさがれてしまっているので門の方へ駆けた。
前を見ると先程の門が目に映った。
もうすぐ!もうすぐでこの屋敷を出られる!
門を駆け抜けた時、ほっとしたのと同時に体に痛みが走った。
背中と肩先、足から血が出ていた。
必死で避けていた時に斬られたらしい。
一度痛みを知ってしまうと痛くてたまらない。
「げ……現代神……私……もう歩けない……。」
「アヤ……ごめん。僕がついてきてなんてあの時頼んだから……」
「そんな事言っている場合じゃないでしょ!」
後からは武器を持った獣人と未来神がこちらに向かって走ってきている。
気がつくと斧を持っているツノの生えた男がアヤに斬りかかっていた。
「……。純血様……申し訳ありません。」
ツノの生えた男は苦しそうな顔をして斧を振り下ろした。
「アヤ!」
また現代神が叫んでいた。
だが過去の時みたいに逃げ切る考えはもうない。
死ぬ……
横なぎに斧を振り回している男相手に渡り合える自信などない。
咄嗟に後へ飛んだ。
腹すれすれの所を風が通りすぎる。
服が少し破けた程度だったがバランスを崩した。
やばい!
そう思ったと同時に冷たいものが身体を包む。
間髪をいれず、ドボンっと豪快な音がアヤの耳に入ってきた。
アヤは知らないうちに近くの池に追いやられていて、その池に落ちたのである。
い……息が……できない……
アヤの意識はどんどん遠のいていった。

ロストクロッカー五話

「おい!しっかりしろ!」
誰かにゆすられている。
あれ?私……どうなったの?生きているの?
アヤはそっと目を開けた。
「娘が傷だらけで池に浮いているなんて尋常ではない。」
アヤに話しかけていたのは男だった。
ん?この男の人……どこかで……
男は平安貴族のような恰好をしていた。
水干袴を着て烏帽子をかぶっている。
「話せるか?何があった?」
しきりにアヤに話しかけている。
「……。あなた……どこかで……」
うつろだった意識がだんだん戻ってきた。
「あなた!」
アヤは驚いて男から離れようとしてよろけて倒れた。
「どうした?大丈夫か?安心しろ。俺は何もしない。」
男はアヤに近づく。
「……何言っているの!時神過去神!あなた……私を殺そうとしたじゃない。」
きょとんとして立っている男は江戸の時代にいた過去神だった。
「なぜ、俺が娘を殺そうとする?お前を殺して俺は何か良い事があるのか?それからなんで俺の事を知っている。」
「え……?」
そういえば、周りの雰囲気がおかしい。
大きな屋敷が連なり、荷物を運んでいる牛が舗装されていない道をゆらゆらと歩いて行く。
過去神と同じような恰好をしている者とみすぼらしい着物を着た者がアヤを気味悪そうにちらりちらりと見ながら通り過ぎて行った。
「とりあえず、止血だけはしたが一応医師にみてもらった方が良い。」
「ここ……どこ?うう!寒いっ!」
よく見るとアヤの口からも過去神の口からも白い息が漏れている。
「都だ。今は冬だ。そんな恰好をしているから寒いのだ。」
過去神の言葉にアヤは眉をひそめた。
「……いつ?」
「寿永三年だ……」
「!」
寿永三年って……源平の時代じゃない!
源平の時代つまり治承・寿永の乱の真っただ中である。
現代神は?
アヤは周りを見回したが現代神の姿はなかった。
「……。どうして?私……タイムスリップしたの?」
「たいむすりっぷとはなんだ?」
「時間を渡る事よ。」
「そうか。お前は時の神なのか?」
「それより、なんであなた生きているの?あの時代から何百年も前なのよ?」
「時神は時と共にいる。お前がどんな時代から来たかは知らんが、時神は神だ。人の物差しではかるな。」
……と、いう事は……彼らは不老不死なのか……
「お前はなぜ時を渡ってきた?」
過去神はあやしむようにアヤを見てきた。
少なくともこの時代の過去神はアヤに危害を加えなさそうだったため、アヤは過去神を刺激しないように話す事にした。
「つまりお前は現代神と時を渡っていたがなぜか一人でこの時代に来てしまったと。」
「そういう事。でもきっと現代神がなんとかしてくれて助かったんだわ。」
「お前、池に落ちたと言っていたな。」
「そうよ。」
「現代神がなんかしたとするならそれだろうな。」
「え?」
「この時代に明確に時間をはかるものはない。この時代は時をはかる方法がたくさんあるのだ。日時計、星をよんで時を知る者、大雑把に日が出ている内は昼、日が沈んだら夜と考える者、そして水で時間を知る水時計……。」
「水……時計……。」
「だが、ただ池に飛び込んだだけでは時は渡れないだろう。水時計はそんな単純なものではない。おそらく色々条件が重なったのだ。……日が沈んだから夜、水時計、池に映った星……。条件ならあるだろう。」
「……なるほど。現代神はそれを見込んで私をこの時代に飛ばして助けてくれたのね。」
「さあな。そんな事本人に聞け。」
過去神の言葉にアヤは気がついた。
現代神が……いない。
現代神と別れた今、現代に戻る術はない。
まずい……
「私……もとの時間に……戻れない……。」
「とりあえず治療する。来い。」
アヤの言葉を半ば無視した過去神は手を掴んだ。
そこでまた新しい考えが浮かんだ。
「あなた、別の時間に行くことはできるの?」
「……?過去神は時間を渡る事はできん。」
「な、なんで?」
「その現代神とやらの能力は特殊なのか?」
「え?」
現代神の能力がどうなのかアヤは知らない。
「……通常はいけんはずだ。」
「で、でも、現代神は未来の時計を描いただけで未来へ飛べたわ。」
「だから、特殊な能力の持ち主なのかと聞いたのだが。」
わからない……
だいたい私は普通の人間だ……時の神の事情なんて知らない。
「だいたいなんであなたは私を殺そうとしたの?」
「知らん。その時代の俺に聞け。」
「そんな……。」
そこでアヤの意識は途切れた。


笛の音が聞こえる。
きれいで優しい音色。
アヤは目が覚めた。
最初に目に入ったのは木で組み上げられた天井だった。
アヤは布団の上に寝かされていた。
「……。気絶……したんだわ……。」
一気に頭の痛くなる事ばかり起こったせいで疲労の事まで考えてなかったらしい。
気絶というより眠ってしまったのだ。
ここは屋敷の中である。
起き上ると木の床と衝立と簾が目に入った。
簾の外はきれいな満月がうっすらと見えていた。
アヤの身体にはさらしのようなものがまかれていて厚手の着物が二、三枚着せられていた。
「……怪我、治療してくれたのかしら……。」
そっと立ち上がり簾の外へ出てみた。
池や手入れされた地面、外は庭のようだった。
目の前に大きな岩がありその上に過去神が笛を吹きながら座っていた。
外は息が白くなるほど寒く、雪がちらちらと舞っている。
「きれいな音色……」
満月と笛を吹く風景は幻想に近いものがあった。
「一応医師にみてもらったが……大丈夫なのか?」
過去神がアヤに気がつき口から笛を放した。
「ええ。もう大丈夫よ。たいした傷じゃないし。」
アヤの顔色をしばらく見ていた過去神は目を閉じて満月の方に顔を向けた。
「……戦の世の中は変わらないのか?未来は……これからの未来も……こんな事ばかり起こるのか?」
アヤからは過去神の顔は見えなかったが声に悲しみがこもっていた。
「……。そうよ。これから人は同じ事を繰り返していくの。」
「……そうか。」
過去神はそれだけ言うとまた笛を吹き始めた。
アヤはなんて反応したらよいかわからず黙って笛の音を聞いていた。

ロストクロッカー六話

朝になり平安京が騒がしかった。まぶしいばかりの太陽だが息は白くとても寒い。
アヤはあまりの騒ぎに飛び起きた。
「な、なに?というかなんで鎧着てるの?」
隣にはなぜか甲冑姿の過去神が座っていた。どうやら一日付き添ってくれたらしい。
「いままで木曽次郎義仲が暴れていたんだ……。征夷大将軍に任命されたからな。それが後白河上皇の作戦だという事も知らずに……。まあ、法住寺を焼き討ちして院を幽閉したのは義仲だから何にも言えんがな。」
過去神は遠くを見るような目でつぶやいた。
「義仲……木曽の義仲……。」
「そうだ。都ももう危ないな。戦がはじまる。」
「戦……。」
そこまで言いかけた時、塀の外から弓矢が飛んできた。
「お前は逃げろ。巻き込まれたらいかんだろう。」
「あなたは?」
「俺は義仲の軍という事でここにいる。敵が来たら戦うまでだ。」
過去神は刀を握りしめた。
「……。」
アヤは複雑だった。
木曽義仲はいずれ近江で討ち死にする。
平家物語で有名なところだ。
塀の中に入ってくる弓矢の数が先程よりも多くなっていた。
近いところで男達の叫び声が聞こえる。
逃げたいのはやまやまだがどこへ逃げればいいかわからない。
「しょうがない。来い。」
「わっ!ちょっ……」
過去神は迷っているアヤの手を掴むと屋敷の外へ飛び出した。
目の前は戦場だった。
馬のいななきと弓が唸る音と刀の響く音と鎧を着た男達の叫びが入り混じっている。
あちらこちらに血まみれの死体が転がっていた。
「ううっ……」
アヤはまた気持ち悪くなり口を手で押さえて必死で吐くのをこらえている。
「やはり……義経と範頼か……。」
「義経って源の九郎義経?」
「そうだ。六男範頼と九男義経。義仲を殺しにきたな……。」
過去神は平然と襲ってきた男達を斬っていく。
血しぶきが上がるが過去神は自分にかからないように斬っているようだ。
アヤは目の前で倒れていく人々に絶句した。
悲鳴もあがらなかった。
人って……こんなに簡単に殺していいの……?
現代とのギャップにアヤは目から涙がこぼれていた。
別に知っている人間ではないが……なんだか悲しかった。
「どうした?怖いか?これだから女は困る。」
「何言っているのよ……。人が……」
「日常茶飯事だ。弱い者は死ぬのが決まりだ。」
「……。もう……いや……。だれか……現代に戻して……」
「……お前……。」
過去神は襲ってくる男達を斬り捨てながらつぶやいた。
「っち……。わかった。来い。」
ぐずっているアヤの手を掴み過去神は走り出した。
「どこいくの……。」
「逃げればいいのだろう?」
アヤの足がガクガクしているのに気がついた過去神は舌打ちをもう一度するとアヤを抱えてまた駆けだした。
襲ってきた義経軍を華麗にかわし、弓を刀で弾きながら馬を探す。
鎧はとても重いので人一人抱えて走るのは大の男でもきつい。
ふと横目で見ると鎧を着た女の人が馬を乗りまわして戦っていた。
「巴……御前……。」
巴は何も言わずこちらをちらりと見ただけで男達の中へ入って行った。
「助かったな。」
「え?」
「彼女が足止めしてくれるそうだ。いまのうちに行くぞ。」
近くで暴れていた馬を落ち着かせ過去神は馬に乗り、前にアヤを乗せた。
そのまま狭い道を風の如く駆けた。
「……聞きたいことがある。」
馬を操りながら過去神は低い声でつぶやいた。
「な、何?」
「お前が知っている歴史を教えてほしい……。」
「……。」
アヤは過去神の言葉にどう答えようか迷い、しばらく黙りこんでいたが我慢できなくなり話しはじめた。
「義経軍の佐藤兄弟が帝をお守りし、義仲軍は京を出て逃げていたの。木曽を目指していたけど逃げ切れないって悟って義仲は巴御前を逃がしたの。その後、近江粟津で雑兵の放った矢で討死。今井兼平も自害したわ。」
「そう……か。」
一瞬、言ったらまずいのではないかという考えもよぎったがどうしても我慢できなかった。
「あなた、歴史……変えないわよね?」
「変えない。というより変えられない。歴史を時の神が動かす事はできない。歴史を動かす管轄なのは人間だ。俺が斬った人間も意識が戻った時にはかすり傷一つしていないだろう。我々時の神は時間を守るだけだ。その他に権限はない。」
アヤはまたわからなくなってきた。
今の過去神の言葉だと戦争などの歴史を違う時間軸に移す事は出来ないらしい。
それに人を殺そうと思っても殺せないようだ。
考えていると過去神がまた口を開いた。
「……俺が……できるかわからんが未来に戻せるようになんとかしてやろう。」
そうだ。とりあえず、今は現代に戻る事を考えよう。
アヤはそっちの方に考えを持って行った。
「ありがとう……私、未来に……飛びたいの。現代にぎりぎり入らない未来へ行って現代の時計をみつけて……あ……でも……その時代に時神がいるかわからないのよね……。」
「時神などどの時代でもいるだろう。時と共にいるのだからな。」
二人は京の都を出て木々が枯れている林の中へ入って行った。
林の中にも死体は転がっていた。
だが、京よりも安全なのは間違いなかった。
過去神は馬を止めるとアヤを地面に降ろした。
「……。ありがとう。あなたがいなかったら私、死んでいたわ。」
「礼は戻れてからにしろ。俺は戻せるかなんて知らんのだからな。」
「……。じゃあ、描くわ。」
アヤは紙とボールペンを出すと時計を描いた。
「ほう、これが時計か。」
「年代は……二千十五年……」
描いた紙を過去神に渡したが何も起こらなかった。
「やはり、無理なようだな。」
「まだ、あきらめないわ。もしかしたらこれはまだ現代っていう管轄なのかもしれない。もう少し時間をずらしてみるわ。」
アヤは内心ドキドキで今度は二千三百年と明記した。
すると過去神に紙を渡してもいないのに紙が光だした。
「え?」
不思議に思う隙すらなかった。
アヤは光に包まれた。


なんでよ!
なんで?
アヤは心でそう思っていた。
さっきの地獄はどうしたのか穏やかな日の光がさしている公園をカップルが通り過ぎて行く。
あきらかに現代ではないが源平の時代でもなかった。
アヤは公園のようなところで一人立っていた。
噴水が日の光できらきらと輝いている。
まわりは高層ビルが立ち並んでいてサラリーマンや子供がたくさん歩いていた。
アヤは少し暑かったので羽織っていた着物を脱いだ。
「ここ……まさか二千三百年の……東京?」
綺麗に手入れされた植木と磨かれたタイルの地面。
大都会の中の憩いの場のようにある公園。
なんで?
なんで私……タイムスリップしたの?
過去神はあの紙に……ふれてもいないのよ?
なんで?
その時、近くで自分をみている目線を感じ取った。
アヤはきょろきょろとあたりを見回す。
一人の男と目が合った。
男はこちらをまっすぐ見つめている。
アヤにはその男が誰なのかわかってしまった。
「……未来神……湯瀬……プラズマ……。」
「あれ?なんで俺の名前知っているの?それよりもその恰好どうしたんだ?」
未来神はあの時の険しい顔ではなくニコニコ笑っていた。
軽い感じでアヤに話しかけてきた。
「……。あなた、私に何か恨みでもあったの?」
「ええ?よく見たら怪我してんじゃないか。どうしたんだい?」
未来神は聞いていないのかアヤを舐めるように見ている。
「あなたが……やったんじゃない……。」
「何?俺が?なんで女の子を傷つけるような事しなければなんないんだ?」
ここでもそうだ。
さっきの過去神といい、私を殺そうとしてこない。
いつからだ……
いつから私は二人の的になった?
まず、なんで殺されそうになっているの?私……。
無性にそれが知りたくなった。
「あなたは歴史を動かす事ってできるの?」
この未来神もアヤに危害を加えなさそうなので質問してみる事にした。
「できない。歴史の管轄は人間じゃないか。歴史をつくるのは人間だよ。俺は時と共に生き、ただ未来を守っているだけさ。」
と、いう事はやはり時の神は起こった出来事を戻すことはできないし、違う時代に飛ばす事もできない。
「つまり……そういう事……」
そう考えると現代神が言っていた事は嘘になる。
現代神は未来神と過去神が時間を狂わせていると言っていた。
しかし、二人には歴史を変える能力はない。
いや、そうとは限らない。
二人が嘘を言っている場合だってあるのだ。
歴史を動かせないと見せかけて現代神を欺き、二人で一気に歴史を動かしたり止めたりしようとしている可能性だってある。
「なあ、どうしたんだ?さっきから福音さんみたいな顔して……。」
「福音さん?」
「あれ?福音さん知らない?最近出てきた議員なんだけどいつも眉寄せて険しい顔している人なんだ。ええと、確か自然共存の精神をひたすら国民に言いかけている人でさあ。」
「へえ。」
こうやって話していると彼には悪っけがまったくない。
「まあ、とりあえず怪我治そう。」
未来神はポケットから液体の入ったビンを取り出した。
「なにそれ……」
液体は青色をしていてなんだか不気味な色を放っている。
「飲みな。ほら。」
「飲みなって……。」
戸惑っているアヤに無理やりビンを押し付けると未来神はにこりと笑った。
「今、はやっている傷薬だ。血小板とか傷口を治す細胞を活性化させてなんかやる薬だ。俺もよくわかんないけど一瞬で治るよ。西条ケレンさんっていう外国の方とのハーフのあの人が発明したっていう……。」
「知らないわ。」
「え?知らない?ははっ、というか君、何時代からきたんだい?その古代の着物といい、コスプレ?それとも君も時神?まあ、俺を時の神だってわかるところからすると時神と考えるのが妥当か?」
「私は人間よ?」
「人間は歴史をつくるのみで時代は渡れないよ。時代を渡れるのは中立の立場を保っている現代神だけさ。」
「……現代神……だけ……。現代神だけの能力……だから過去神は特殊な能力って……」
「そうだ。君、時代を渡ってきたんだろ?じゃあ、現代神だよね?」
「違う……私は勝手にタイムスリップしちゃっただけ。」
アヤの頬を冷や汗が伝う。
私って……なんなの?
現代神がなんかしたのかしら……
そうだ。そうに違いない……。
現代神が私になんかしたんだ。
「ま、いい。とりあえず、それ、飲めよ。」
「……。」
未来神が青い液体を指差す。
彼らは一度アヤを殺そうとしたやつらだ。アヤはどうしてもこの液体が毒にみえてしかたなかった。
「毒……じゃないわよね?」
「毒?毒って時代劇サスペンスとかで出てくる毒を盛るってやつの事?」
「時代劇サスペンス?」
「ほら、今やってるよ。」
未来神はビルの前にデカデカと貼り付けられている薄型超巨大テレビを指差した。
そこでやっていたテレビはアヤの考えている時代劇とは違った。
現代で普通に放送されているサスペンスドラマ……
「これが……?これ、普通のサスペンスドラマじゃない。」
「時代物のサスペンスドラマさ。」
「時代物?これが?」
そこで気がついた。
私はいま、未来に来ているのだと。
そうか……私が生きている時代は過去か……それで時代劇……
アヤが考えにふけっていると未来神が首をかしげて困っていた。
「ああ、ごめんなさい。私からすればここは未来だから。感覚が狂っただけ。」
「ふーん。あ、俺さ、一度過去に行ってみたいんだ。君なら過去に行けるだろう?」
「行けるかわからないわ。いままでだってなんでタイムスリップしたのかわからないんだから。」
「ま、そのことは後で聞くからとりあえず薬飲みな。そのまんまでいたら変な目で見られるよ。」
未来神に言われてまわりの目が気になってきたアヤはどうにでもなれという気持ちでビンの蓋を開けると目をつぶって液を飲み干した。
すると一瞬で皮膚のひきつるような感覚が消えた。
よく見ると擦りむいた膝ももとに戻っていた。
「嘘……。」
「たいした傷じゃなくて良かった。これで大丈夫だ。じゃあ、話を聞こうか。」
「え?あ……うん。」
この時代の人間はこうやって傷を治しているらしい。
アヤはゲームの中などによく出てくる回復アイテムを想像した。
「まず、なんでこの時代に来たんだ?」
「話せば長くなるの……。」
現代神がいきなり現れた事、未来神、過去神に殺されそうになった事などをアヤは簡潔に話した。
「……そうなんだ。それ、俺も気になるな。その話けっこうおかしいんだよな。時神は歴史なんて動かせないし。それに俺は君に異種って言ったのか……。意味わからないね。まあ、まず、君を連れまわした現代神を探そうか。」
「え?一緒に来てくれるの?」
「気になるからさ。一緒に行くよ。」
「一応、お礼言っておくわ。」
二人は現代神を探すため別の時代に行こうと試み、時計を探し始めた。

ロストクロッカー七話

「機械式時計……。」
「これって江戸初期か戦国後期にあったって言われていた時計?」
アヤと未来神は公園から近いところにある古代博物館という名前の博物館にいた。
アヤは服を着替えていた。
赤色のドレスを変形させ、着物っぽくした服を着込んでいる。
この時代ではこれがはやりだそうだ。
見た目よりもかなり動きやすい。
話をもとに戻そう。
「戦国後期に作られた時計らしいぞ。説明にそう書いてある。」
目の前に木製で足の部分がやけに長い時計があった。
「これじゃあ、ちょっと戻り過ぎだわ。二千十年あたりの時計ってないの?」
「うーん……俺、この時代に行ってみたいんだよ。未来には紙と書くものがあれば戻れるんだろ?」
「まあ……そうだけど。……わかったわよ。どこの時間軸で時の神が狂い始めたのか知りたいって部分もあるし……しかたない。この時代に行きましょう。行けるかわかんないけどね。」
「よし!」
ため息をついたアヤとは対照的に未来神の顔は輝いていた。
アヤは未来神を呆れた目で見ながら時計の分析に入った。
「最古の機械式時計って徳川家康がスペイン国王からいただいたっていうのが現存している最古なんだって。その前に天文二十年にフランシスコ・ザビエルが大内義隆に献上したってのもあるし、天正十九年、ローマ法王庁へ派遣された日本少年使節団が帰国した時に、秀吉に献上したヨーロッパの土産の中に時計があったとも言われていたわ。どちらも現存してないはず。」
「詳しいんだね。俺にはよくわからない。」
「この機械式時計って最古の時計だったら東照宮にあるはずよね?ここにあるって事はこの時計は私の時代では発見されていなかった時計なのかしら?」
アヤがまじめな顔で時計とにらめっこをはじめたので未来神はため息をついて言った。
「とりあえずさ、はやく行こう。」
「だから、行けるかわからないわよ。」
「いいから。」
アヤはしぶしぶ未来神の手を掴むと無防備に放置されている時計にそっと手を置いた。
目の前がまた白くなった。


「うまくいったな。」
「また……タイムスリップした?……もう……ほんとに理解できない。」
二人は森の中に立っていた。
鳥のさえずりとなんだかわからない虫が姦しく鳴いている。
なんだか暑い。
どうやら夏に近いようだ。
手をひらひらさせて風を送っていると近くの草むらががさがさとなった。
「何?」
アヤが身構えると着物をきたポニーテールの男が草むらから顔を出した。
「時神過去神!」
草むらから顔を出したのは汗ばんだ顔をした過去神だった。
「お前は……」
過去神も鋭い目を見開き半ば驚いた顔をしていた。
「なんだ?君が過去神?」
未来神はにやりと笑いながら過去神を見つめた。
「お前……未来神か……。」
「そうだ。その髪型はあれなのか?最新のファッションとかなのか?」
「ふぁっしょんとはなんだ?」
「流行だ。」
「お前もこの時代を経験しているだろう。何を馬鹿な事を。」
未来神は過去神のポニーテールをぱさぱさ触りはじめた。
うざったそうに未来神を見た過去神は今度はアヤに話しかけた。
「お前、あれから未来へ飛べたのか?四百年ぶりくらいか。俺の記憶から消えるところだったぞ。」
「……そう……なのよね……。時を渡るって……こういう事よね……。という事は、今は戦国後期くらいって事なの?」
「慶長二十年だ。」
慶長二十年……大阪夏の陣あたりの年号だ。
「やっぱり戦国後期だわ。」
「俺は……人間の作る歴史が嫌いだ。争いばかりで生きた心地がしない。」
「そうなのか?俺は……今はけっこう楽しく生きているけどなあ。」
過去神が未来神を睨んだ。
「お前も俺が生きた時間を生きているのだろう?平気なのか?」
「平気じゃなかったさ。つるんでいた友達も戦争で死んだし。でも、今の俺の時代は平和なんだ。だから、戦争なんて起きてほしくないさ。」
「そうか。」
二人があまりにも次元がかけ離れた会話をしているため、アヤは会話に入れなかった。
「それより……お前達はなんでこの時代に来たんだ?これからまた戦争が起きるんだぞ。」
「ああ……思い出してきたよ。豊臣軍が滅ぶ戦いだね。ずいぶん前の事だったから俺自身忘れていたよ。来たのはただの好奇心さ。」
未来神は暗い顔つきでぼそりとつぶやいた。
どの時の神もいままでの歴史を通ってきているのだ。
嫌な事なんて数えきれないくらいあっただろう。
「一つ聞くわ。過去神、あなたは私を殺したいと思う?」
「いや。だから、お前を殺して俺はなんか得をするのかとだいぶ前にも聞いたような気がするが……。」
「……。じゃあこの時代じゃないんだわ……。あ、あなたは今どこへ行こうとしていたの?」
「俺は……天王寺に行く所だ。」
過去神は目を伏せた。
「そう……。」
つまり、天王寺・岡山の戦いの最中という事だ。
「だが……行くのはやめる事にする。もう……豊臣が勝てるとは思えん。……すまんが……また……聞いてもよいか?」
「何?」
「真田信繁はどうなった?死んだか?」
過去神は苦しそうな顔をしてつぶやいた。
真田信繁とは真田幸村の事だ。
「幸村?君、豊臣軍のやつと仲良かったのか?」
未来神が咄嗟に言葉を出した。
「幸村?信繁の事か?いや……手合せをした程度だ。」
「ああ、そうか。幸村は言い伝えの名か。ふーん、あれか。つまり、君は豊臣の方にはついてなかったんだ。手合せって死闘だったんじゃないか?」
「まあ、そうだな。俺は徳川の方についているからな。」
「いいな。俺は豊臣についたから地獄を見たよ?皆死んだ。あの時は本当に死ぬかと思ったよ。毛利と大野軍が自分の軍の数倍の徳川軍に正面から当たったらしいし。」
未来神は遠い過去を思い出すように語った。
「そうなのか……。それで……信繁は?」
「真田信繁は大阪夏の陣で戦死したって聞いたけど。」
「……つまりこの時代で死ぬのだな?……なるほど人生五十年か……。」
未来神にほとんど語られてしまったのでアヤは予備知識を話すことにした。
「あ、でも、説は色々あるの。信繁は生きていて秀頼と逃げた……とか。」
「そうか。……やつには生きていてほしいところだ。死んだのなら……しかたない事だがな。」
過去神は何かを思い出すように目をつぶると聞いた。
「これからの歴史も荒れるのか?」
「……。人の歴史なんてずっと荒れているさ。」
未来神は言葉を吐き捨てた。
「……もう、知り合いが死ぬのは耐えられない。まあ、どちらにしても俺よりも先に死んでしまうが……。……天王寺に行くよりもここから先の世界を知りたい。俺を未来へ連れて行ってくれないか。お前を殺そうとしている俺も気になるしな。」
過去神は銃声がしきりに聞こええてくる山をじっと見つめながら言った。
「天王寺に行かなくていいの?」
「……ああ。もういい。少し信繁の事が気になっただけだ。」
「そう……。」
少し沈黙があった後、
「ん?」
と、未来神が声を発した。
「どうしたの?」
気がつくと未来神が険しい顔で前を睨んでいる。
「なんだ?敵兵か?」
「違う。」
過去神とアヤも未来神が見ている方向を向いた。
そこにはフードのついている黒いローブのようなものを纏っている男が立っていた。
「……この時代の人間ではないな。」
過去神は目を細めた。
「時神?」
アヤが不思議そうに首をかしげたらその男はローブを翻して走り去ってしまった。
「追おう!」
三人はローブの男の後を走って追いかけた。
「この方面……天王寺?」
黒ローブの男は林の中を疾風の如く走っている。
必死に追いかけてもなぜか追いつかない。
「天王寺だって?俺、天王寺いけないよ!」
未来神が焦った顔で二人を止めたが足は止まらない。
「なんでだ?」
「俺に会っちゃうからさ。この時代の俺に。この時代の俺はたぶん、天王寺で戦っているから。時神は自分に会ってはいけないだろ?その時間軸の未来神に二人未来神が存在すると気がつかれた時どちらかが消滅する。つまり未来神がいなくなるわけだ。どちらかが消えるって事はどちらも自分自身だから両方消滅するって事なんだ。」
「え?そうなの?だから現代神も同じこと言っていたのね。」
「おい、見失った。」
話しながら走っていたせいか黒ローブの男は姿を消していた。
「はあ……しょうがないわ。」
「なんか、ごめん。」
未来神は丁寧に頭を下げた。
「もういい。……あの男は置いておいて一度未来へ連れて行ってくれ。」
過去神は燃え盛っている天王寺方面に向かって舌打ちするとアヤに目を向けた。
「行けるかわからないけど……わかったわ。……あなた、名前なんて言うの?」
「俺は白金栄次。お前は?」
「アヤ。」
「あ、ちなみに俺は湯瀬プラズマな。」
アヤは素早く時計を描くと先程の時間軸よりも少し未来の二千六百年と書いた。
彼らがおかしくなってしまったのはいつからなのかをちゃんと調べたかったからだ。
また目の前が真っ白になった。

ロストクロッカー八話

わあああ!と叫び声が聞こえる。
「何?」
アヤは周りを見回した。
まず目に入ったのは赤い夕陽。
そして沢山の人々がビルに押しかけている光景。
ここちよい風が三人の髪をなでる。
「ここ、さっき君と会った公園だ。雰囲気は違うけど。」
あの美しかった公園は暑苦しいばかりの銀色に変わっていた。
緑はまったくなく、地面にあったタイルは銀色のステンレスのようなものに変わっていた。
まわりには雑草の一本も生えておらず、ビルと銀色の地面を赤い夕陽が照らしていた。
「ここが……未来なのか?」
過去神は不安な顔をアヤに向けた。
「そうみたいね。」
人々は騒ぎ出している。
「偉大な福音さんの思想をなんだと思っているんだ!」
「自然を返して!」
「人間には自然が必要なんだ!」
「燃料を大切に使うべき!」
などと叫びながらビルに向かって何かを投げている。
どうやら大規模なデモ行進らしい。
「福音さんってあの自然共存派の福音さん?」
「そうじゃないかしら?」
「自然……共存派か……。」
三人がビルに向かって叫んでいる沢山の人々を眺めていると苦しそうな顔をしている今と身なりが変わっていない未来神をみつけた。
「やばい、俺がいる!ちょっと隠れてもいいか?」
「待て。」
過去神は鋭い声を出し、この時間軸にいる未来神の後ろ見るよう合図した。
二人が未来神の後ろへと目を持って行くと次の瞬間、驚きの表情になった。
「黒フード!」
黒いローブの男は未来神に声をかけた。
「話かけている。見つからないところへ隠れるぞ。」
「ええ。」
アヤと過去神は公園の門の前にある壁まで走って行った。
「はあ……怖いな。」
未来神も内心冷や汗をかきながら二人を追う。
門を出るとすぐビルがあり、その公園の外側の壁に未来神と黒ローブの男が立っていた。
三人は公園の内側の壁にしゃがみ込んだ。
会話がきれぎれだが聞こえてきた。
「君……か……?」
「そう……。……れ?」
「……は……だよ。」
「……が何の用……」
「忠告…………が時を……………」
「それは……戦争……って事……」
「いや……起こされる……」
「なんで……ことが?」
「これから……女の子が…………んだ。」
「……異種……」
「……アヤって………………で……なんだ。」
「アヤ!」
「知って……?…………歴史が変わった…………は……考えないと……。」
会話はそこで途絶えた。
アヤがそっと壁の向こうをのぞくと先程よりもつらそうな顔をしている未来神しかいなかった。
「アヤが……そんな……」
未来神はそうつぶやくとビルに向かって叫んでいる人々に背を向けるとどこかへ歩いて行ってしまった。
「私の事話していたわね。」
「そうだな。追うか?」
「そうしましょう。私達は会ってもなんの問題もないわけだし、未来神にはここで待っててもらって……。」
「ああ、じゃあ、俺はここにいる。」
とりあえず未来神を公園に置いて過去神とアヤはこの時代の未来神を追った。
すべてが銀で覆われている街を小走りに駆けた。
しばらく歩くと未来神の背中が見えた。
二人は息を飲むと話しかけた。
「あの……湯瀬プラズマさん。」
声を聞いた未来神は足を止め、つらそうな顔をこちらに向けるとうるんだ瞳で睨んだ。
「アヤ……なんでこの時代にいるのかわからないが、君が異種……。君が歴史を動かしたせいで六百年後俺は死ぬほどつらい思いをするんだ……。君がまさかそんな……異種だったなんて。」
「何を言っているの?異種ってさっきの人に言われたの?」
「ごめん。死んでくれ。君がここで現れてくれて良かったよ。ここで君を殺せばこの先の歴史が狂わず済む。」
このあいだのトラウマが蘇る。
未来神は二丁拳銃を取り出した。
二丁拳銃から目を離せないでいると過去神が素早く刀を抜き何かを撃ち落とした。
後からする銃声。
また……撃たれた……
過去神が弾を斬ってくれたおかげでアヤに怪我はなかった。
なんで?だから私が何をしたって言うの?
「過去神白金栄次……なんで彼女を守っているんだ。彼女は異種だぞ。」
「根拠がないだろう。」
「ちっ、君がいなかったらすぐにでも……。まあ、いい。どうせ、のちに現代神とアヤは来るんだ。その時始末する。今は何もしないで退いてあげる。だからさっさとこの時代からいなくなりな。」
未来神はそう言い捨てると背を向け、暗くなりかけている銀色の道を駆けて行った。
「ああ、ちょっと!」
アヤが追いかけようとしたら過去神に止められた。
「やめておけ。あいつを追うよりも黒いあいつを探したほうがいい。黒いあいつはなんだか知らんが情報通でお前の事も何か知っているようだ。」
「……そ、そうね。黒フードをみつけましょう。ありがとう。なんだかわかんないけど助かったわ。」
「ああ。あいつがあそこまで豹変するとはな。」
「異種って何かしら?」
「異種はな……劣化を始めた時の神の事を言うのだ。本来はな。」
過去神は着物を翻してもと来た道を歩み始めた。
「劣化をはじめた時神?」
アヤも過去神の後を追う。
「そうだ。時神の劣化が始まれば時の力がなくなっていくと同時に人の力が流れてくる。その間だけ歴史と時間の能力を両方持つことができるのだ。人の力で身体が満たされたら歳が逆流しその時の神は消滅する。その時の神が消滅したら新しい時の神が現れる。時神はそういう仕組みで動いているんだ。」
「そうなの……不老不死じゃなかったのね。話を戻すけど……私が劣化しているって事なの?私……死ぬの?」
「さあな。俺はお前が何をしていままで生きてきたのか知らないからわからん。そもそもお前は時の神なのか?」
「……違うわ。こないだまで普通の学生だったわよ。」
「そう……なのか。」
二人は先ほどの公園に戻ってきた。
未来神は怯えながら二人に向かって手を振っていた。
デモは先ほどとなんにも変らずに続いている。
「お前に襲われたぞ。」
「俺に?なんでだ?」
「私が異種なんだって。私、でも、こないだまで普通の学生だったのよ?」
アヤは複雑な顔を二人に向けた。
「うーん。よくわかんない。とりあえず、俺がおかしくなったのはあの男のせいだって事はわかったな。じゃあ、過去神がおかしくなったのはいつなんだ?それがわかれば、あの黒いやつ捕まえられるんじゃないか?」
「もう一度……あの辺の時代に戻りましょう。あの黒フードは急に消える事ができるみたいだし待ち伏せしないと捕まらないわよ。」
「そうするか。」
「ここじゃあ、時計を探すのが大変だから一度俺が生きている時代に戻ろう。」
未来神の提案により、三人は一度、二千三百年に戻り、そこからまたあの時計の中に入る事にした。
しかし……
「時計が……ない。」
「なんで?ここにあったじゃない!」
ここはさっき来たばかりの古代博物館。
目の前にあったはずの時計がなくなっていた。
「……。俺達の行動を読んで妨害しているやつがいる……。」
「……そうだわ。三千二百年に戻ったら現代神がいるかもしれない。私、現代神と未来へ行ったのよ。」
「いない確率が高いだろう。現代神は時を渡れる。つまりお前を探しているとすれば、一緒に池に落ちて今頃、源平の時代に飛んでいるだろう。」
「……思い出したよ。」
ふいに未来神が声を発した。
「なんだ?」
「ここには、もう一つ時計があったんだ。まだ公開されていない蔵に入っている時計が……。このフロアにないならまだ蔵の中にあるかもしれない。なんでしまわれているのかはわからないけど行ってみる価値はある。来て!いまなら警備の人も少ないから蔵に入れるよ。」
「あなた、なんでそんなに詳しいの?」
「俺、前、ここでバイトしてたんだ。」
「へえ。」
未来神に連れられ立ち入り禁止の黄色いテープをまたぎ、ひとつの扉の前に行きついた。
床はピカピカに磨かれたタイルが敷き詰められているのにこの扉は古臭い木の扉だった。
「本当に警備いないのね。」
「この時間は外に一人いるだけなんだ。ここはずっと変わらないね。」
そう言うと未来神は扉を開けた。
目の前に古びた和時計が現れた。
展示されていたあの時計にそっくりな時計だった。
「やっぱりあった!ずっとここに入りっぱなしなのか?この時計は……。」
未来神はふうとため息をつく。
「じゃあ……行くわよ。」
アヤは二人の手を掴むともう一つの手で時計を触った。
白い光が三人を包んだ。

ロストクロッカー九話

三人はガヤガヤとうるさい場所に立っていた。
うなぎを焼いている香りやかんざしを挿した女が談笑している声などがしている。
あちらこちらの飯屋が客を呼んでおりとても活気だっているところだった。
近くに歌舞伎座があるのか髷を結った人々が坂田藤十郎や市川団十郎など歌舞伎役者の会話をしながら通り過ぎて行く。
瓦屋根が連なり、たくさんの旅籠が立っていた。
「ここ……どこ?」
「江戸だ。時代はわからないけど江戸だよ。」
未来神はあたりをきょろきょろしながらアヤの質問に答えた。
過去神は何も語らず、遊女の話で盛り上がっている男達を怪訝な顔で見つめていた。
「昼間から女の話か……下品な奴らだ。」
「ん?遊女か。だが吉原ではなさそうだね。」
「遊女?吉原?」
アヤの顔がみるみる赤くなっていく。
遊女ってあれじゃない……水商売じゃない……
吉原って言ったら岡場所(色町)……
じゃ……じゃあ、あの男の人達は……
「アヤ、大丈夫か?」
「え?あ……え?」
違う事を考えていたアヤはいきなり過去神に声をかけられ、言葉が出ないほど驚いた。
過去神は眉を寄せてアヤを見た後、未来神に目を向ける。
「つまり、吉原っていうのは高い金で女を抱かせる場所という事か。」
「まあ、そういう事かな。花魁は手の届かないところにいるけどな。」
二人の会話を聞いてまたアヤは顔が赤くなっていくのを感じた。
「あんまり……女を抱くとか花魁とか言わないで。」
「……ああ、ごめん。女の子からしたらあまり気持ちの良い言葉じゃないよな。」
「……。声に出さないよう気を付ける。」
未来神は少しにやけ顔で、過去神は真面目な顔でそれぞれアヤにあやまった。
なんだか気まずい雰囲気が流れたのでアヤは話題を変える事にした。
「で、ここは何年のどこ?」
「年代はわからないけど……たぶんここは内藤新宿。」
未来神は首をかしげながらつぶやいた。
内藤新宿が開設したのは一六九七年(元禄十年)頃である。
開設して二十年足らずで幕府から廃止されたが一七七二年(明和九年)頃に再開している。
遊女を置くことは禁止されていたが飯盛女に遊女まがいの事をやらせていたらしい。
つまり歓楽街である。
「内藤新宿か……今の新宿よね?」
アヤが改めて現在の新宿の元を眺めていると旅装をした過去神をみつけた。
笠をかぶり、旅の物が入っていると思われる箱を下げている。
「過去神!」
「え?」
「まずい!」
なんだかわかっていない未来神をひっぱりアヤと過去神は近くにあった旅籠と旅籠の狭い路地に隠れた。
「あれ?いま、過去神……いた?なんで過去神がいるんだ?女目当てってわけでもなさそうだけど……。」
「旅装しているって事は旅してきたって事。彼はたまたま内藤新宿に寄っただけね。」
「待て……。」
過去神の表情が急に変わったので二人は慌てて旅装姿の過去神に目をむける。
「!」
となりには例のフードの男がいた。
また何か話している。
「女の子…………」
「アヤ…………知っているぞ……。」
「なんだって!歴史が……った。」
「……。」
「わかった……。彼女が……した事で…………したんだ……。だから……は…………にきたんだ。のちに…………来る……。」
またも話がとぎれとぎれに聞こえ、黒フードは人ごみの中へ消えて行った。
追いかける暇もなかった。
黒フードは過去神から背を向けた途端、消えてしまったのだ。
「消えた……。どこに行ったの?」
アヤは焦って探したが見つからなかった。
現れたのもいきなりすぎた。
三人は捕まえるどころではない状況だった。
「見失ったのか?消えたのか?なんなんだ?」
「なんにしても……捕まえられなかった!」
「また捕まえそこねたけど何話していたかはわかるんじゃないか?」
旅装姿の過去神はそのまま、内藤新宿を歩きはじめた。
「俺、聞いてくる。」
未来神が旅装姿の過去神を追うべく路地を出て行ってしまったが一人で行かせるのは不安だったのでアヤもついて行くことにした。
「俺もついて行く。この時代の俺に見えないようにつけるから安心して先に行け。」
アヤは過去神をちらりと見た後、さっさと走り去ってしまった未来神を追うために走り出した。
旅装姿の過去神は内藤新宿を抜けた所にある叢で足を止めた。
「先程から俺をつけている者……出て来い。ここなら人気も少ない。俺に用があるのだろう?出てきた方が身のためだぞ。」
つけていたのはバレバレだったようだ。
別段隠れる必要もなかったので未来神とアヤは過去神のもとへと出て行った。
「アヤ……。」
過去神の顔が曇った。
「あなた、さっき誰と話していたの……?」
「そういう事か……。」
過去神はアヤを睨みながらうなずくと刀に手をかけた。
「うわっ!やばい!」
未来神は咄嗟に銃を出して殺気立ってこちらに向かって来る過去神を撃った。
弾は過去神の頬をかすれて飛んで行った。
しかし過去神は顔色変えずこちらに向かって来る。
「銃みてなんも思わないのかよ!」
頬から流れ出る血も拭き取らず焦っている未来神のもとへと容赦なく走ってくる。
「話ができる状態じゃないわ。逃げましょう。」
また自分を殺そうとしている。
アヤは直感で感じ取った。
私って……なんなの?
この世にいちゃいけないの?
違う!
私は私!
殺される理由なんてない!
そう考えたらなんだかイライラしてきた。
逃げようと思ったがやめた。
「白金栄次!私が何したって言うの?言ってみなさい!」
過去神は歩みを止めた。
「お前は……後に……時を壊す……。新撰組なるものをつくる……。」
「何言ってるの?新撰組はもとから存在しているわ!私がなんで……」
そこまで言いかけて未来神に抱えられた。
「な、何するのよ!今、話しているの!」
「ダメだ!このままじゃ殺される!俺、あいつに勝てる自信ない!」
そう言うと未来神はアヤが何か言う前に走り始めた。
過去神の気が後から風の如く吹き抜ける。
追いかけてきている……。
「こえええええ!」
未来神は叫びながら必死で駆けた。
「ぐっ!」
突然後ろで呻きのようなものが聞こえたと同時に風が吹いた。
「うわあ!」
急に横で気を感じた未来神は驚いて転びそうになった。
すぐ横に過去神が走っていたからである。
未来神は過去神から離れようと違う方向へ向いたら声が飛んできた。
「俺だ。過去神だ。」
「みりゃあわかる!な、何時代のだよ!」
「お前らと時渡りした方だ。」
過去神は鋭い目をさらに鋭くしてこちらを向いている。
「ああ……よかった……死ぬかと思った……。」
「待って!あなた出てきて大丈夫なの?」
未来神に抱えられてむすっとしていたアヤは過去神にむかって叫んだ。
「案ずるな。」
過去神はそれだけ言うと後ろを見るよう促した。
二人は恐る恐る振り向くと目を着物の袖でこすっている過去神が目に入った。
「砂をかけて目を封じた。」
「レトロだけど助かった!」
二人は目を前に戻し走り始めた。
「誰だ……俺の邪魔をする者は……この気……俺か……?」
砂をかけられた過去神は手で目を覆いながら気配を探す。
「おい、気づかれそうだぞ……。」
未来神が小さい声で過去神に話しかけた。
が、過去神はもうすでにその場にいなかった。
「あいつ……頭いいな……。」
過去神は自分だと気づかれそうになった瞬間に気配を消してどこかへ行ったらしい。
未来神は何事もなかったかのように足を速めた。

ロストクロッカー十話

内藤新宿の方になんとか戻ってくることができた二人は考えを巡らせた。
「なんなのかしら……。私が新撰組をつくったとでも言いたいのかしら?」
「さあな。君は時を渡る能力があるみたいだし……あ、でも、新撰組をつくるのはありえないなあ。君はこの間まで学生だったんだろ?」
「ええ。そうよ。」
「……もしかしたら彼は知らないのかもしれない。」
「何が?」
「彼は過去の人だ。新撰組なんてはじめっから知らないじゃないか。だから、新撰組がなんだかわかっていないんだ!」
「?」
「わからないか?異種って歴史の力と時の力両方使えるんだ。」
「それは過去神から聞いたわ。」
「だから、君が異種だってあの黒フードから聞いたとするならあの過去神は君が新撰組という未来の歴史をこの時代に持って来たって考えているんじゃない?って事さ。」
「あの黒フードにだまされているって事ね。」
「なにが真実かわからないが、きっとあのフードはなにか確信をもたらすものを持っているんだな。俺も奴もあいつに話しかけられただけで豹変したんだからさ。」
未来神がうなずいていたらすぐ後ろでシュタッと音がした。
「うまくまけた様だな。」
音の方へ目を向けると過去神が立っていた。
「俺らと時渡りした方……だよな?」
「そうだ。」
「……ねぇ、これからどうする?」
アヤはほっと一息つくと周りを見ながらつぶやいた。
「うーん……。とりあえず……もう一度未来に戻ってあの時計からまたこの時代に戻って黒フードを捕まえるっていうのはどう?」
「それしかなかろう。今度はいつ現れるかわかるから捕まえやすいだろう。」
未来神と過去神は面倒くさそうにうんうんとうなずいた。
「しょうがないわ。じゃあ、また時計描くわ。」
アヤが紙とペンを取り出した時、聞き覚えのある声が自分を呼んでいる事に気がついた。
「アヤああ!」
アヤは声の方へ目を向けた。
「現代神!」
現代神が学生服姿でこちらに向かって走って来ている。
「ほう……あいつが現代神か……なんだか情けない雰囲気だな。」
過去神はあきれた顔をして走り寄ってきた現代神を見つめていた。
「アヤ!やっと見つけたよ!ずっと探していたんだから!ほら、見て!一端現代に戻って現代の時計もちゃんと取りに行ったんだよ!」
はあはあ息をつきながら現代神はごく普通の目覚まし時計を見せる。
「あ……ああ……ありがとう……。」
なんだかものすごくひさしぶりな気がする。
ひさしぶりなのにさっきまでいたような感覚だ。
「って……うわああ!アヤ、逃げよう!」
急に現代神が発狂し始めた。
「ん?」
アヤは首をかしげたがすぐにわかった。
彼は狂暴化している過去神、未来神しか知らないのだ。
「ああ、大丈夫よ。彼らは。」
「何に対して怯えているんだい?君は。」
「変な男だな。」
過去神と未来神はまだ首をかしげたままだ。
アヤは二人に説明しようと口を開いた。
「彼は……」
そう言いかけた時、現代神がアヤの手をいきなり握った。
目の前がまた白く光った。
「アヤ?」
過去神、未来神が自分を呼んでいたがその声は次第になくなっていった。


「ふう……危なかったね。」
現代神は汗をぬぐった。
「あなたねぇ……」
アヤは頭を抱えた。
ここは現代……
アヤの部屋……
時計は相も変わらず秒針が狂っていてまばらにカチカチなっている。
窓からは月明かりがのぞいている。
あたりはとても静かだ。
夜中なのかどうかも時計が狂っているのでわからない。
「戻ってこれたね。」
「あなたが現れてそうそうこうなるとは思わなかったわ……。」
「そうだね……君はとてもしぶといよ……」
「え?」
返答の仕方が意味深だったため、アヤは現代神に目を向けた。
「ああ……はじめから……こうすればよかったんだ……。そしたら面倒くさい事にならなかったのに……」
現代神は一人言のようにつぶやいた。
「何よ?気持ち悪いわ。」
「いや……僕は人を殺すのってどうもなれなくて……。」
「?」
アヤは現代神の顔を見てビクッと身体を震わせた。
現代神の瞳には光がなかった。
無表情でアヤを見つめている。
「な……なに言っているの?」
「君は知っている?時神の異種……。君は異種だ。」
また異種か……
アヤは身構えた。
彼も自分をこの世から消すつもりらしい。
だが、彼は明らかに弱そうだ。
アヤだけでなんとかなるかもしれない。
「色々やったのに……アヤは運がいいのか気転がきくのか全部逃げちゃってさ。」
「色々やった?何言っているの?」
「何言っているんだろうね。僕。」
「……まさか……あなたも黒フードに何か言われたの?」
アヤの頬に冷や汗がつたう。
「黒フード?何言っているのさ。」
現代神は表情もなくポケットから小型のナイフを取り出す。
一呼吸おいて彼は再びつぶやいた。
「黒フードは僕さ。」


「おかしいと思わないか?」
アヤが消えてしまった地面を見つめながら未来神はうーんと唸った。
「おかしいな。」
過去神もうなずく。
「ずっと不思議に思っていたのだがなんでアヤは現代神と時を渡れた?」
「彼女は異種なんだろ?」
「そんな事を言いたいのではない。なんで現代神はアヤをつれて時を渡ろうと思ったんだ?異種だってわかっていたらその場で殺そうとするはずだ。異種だと知らなかったのだとしても人は時を渡る事は絶対にできないという事は知っているはずだ。なぜ、アヤを連れて行こうとした?」
「たぶん、現代神はアヤが異種だってわかっていたんだ。自分では殺せないから俺達に殺させようとしたんじゃないか?」
「と、いう事は俺達が黒フードと接触した事を知っているという事じゃないのか?」
活気だっている客の呼び込みを無視して二人は再び唸った。
「奴は……全部……知っているって事か……。」
「まさか……黒フード……現代神って事はない?現代神の言葉なら……信じないか?」
未来神は過去神をうかがうように聞いた。
「……それはわからん。アヤから聞いたところによると会った当初、俺は現代神を認識していなかったらしいぞ。」
「ああ、そういえば……俺も……そうだったらしいな。でもそれってフードかぶってて顔が見えなかったからじゃないか?」
「なぜ顔を隠す必要があったんだ?」
「さあ……そこまではわからないけど……。」
「それになぜ先程俺達に怯えたんだ?黒いやつがあいつなら俺達に怯える必要ないじゃないか。」
「それもそうだよな……。じゃあ、違うのかな。」
二人が思考をめぐらせていると過去神が何かに気がついた。
「待て、先程の話とは関係ないがアヤが時神だとしたらこの時間軸にもいるのではないか?」
「そうか。劣化しているって事はいままでの時代を生きてきたって事だ。いるかもしれないな。……アヤが時の神ならばだけどな。」
未来神は一呼吸おいて再びひかえめに声を出す。
「探してこの時代に彼女がいたら……。」
ため息をついて過去神と目を合わせる。
「彼女が嘘をついているという事だ。」
過去神も未来神をみてうなずいた。
二人はこの時間軸にいるかもしれないアヤをとりあえず探す事にした。

ロストクロッカー十一話

「黒フードが……あなた?」
薄暗い部屋の中で現代神と距離を保って立っていたアヤは驚いて半歩下がった。
「そうだよ?」
「……。色々やったって言っていたけど……あなた……何したの?」
相も変わらず表情がない現代神に恐る恐る言葉を投げかけてみた。
「ん?まあ、どうせ君、もう消えるんだし……言ってもいいかな。君と会ってからずっと僕は君を殺そうとしていた。いままでずっと計画通りに進んでいたんだ。池に落ちて平安に行っちゃったのは予想外だったけどさ。」
「そんなふうには見えなかったわ。だいたい、あの時はたまたま私が過去に行ってみたいって言っただけなのよ?」
「僕は君の性格を知っていたんだよ。時計の話、時の話をすれば簡単に乗ってくる。案の定、君は乗ってきた。誘導するのは楽だったよ。それに君は数字を書くとき三と二、三の倍数をよく使うんだ。だから何年の未来へ飛ぶのかは大方予想がついた。」
現代神はナイフをアヤの目線まで持って行った。
「あなた、未来神の時も過去神の時もさっきも怯えてばかりだったじゃない。」
「怯える?はは!そう見えていたんなら大成功さ。」
アヤの言葉に現代神は怖いくらい笑っていた。
「何よ……演技だったとでも言うつもりなの?」
「そうさ。だって、狙われているのは君だし、僕が襲われるんじゃないんだから怯えるわけないじゃないか。ただ、突っ立っていただけだとほら……なんか怪しいでしょ?未来神と過去神に悟られるのだけは避けたかったしね……。」
アヤには最後の言葉の意味はわからなかったが、現代神に騙されていた事だけはわかった。
「つまり、あなたは手を汚さずに私を殺そうとしていたのね?……陰湿な男。」
「……僕はね……黒花の道化師って呼ばれていたんだよ?」
「黒花?黒は黒だけど花がわからないわ。あなたに花なんて……」
「僕の名前が立花こばるとって言うんだよ。だからじゃない?……じゃあ、そろそろ……。」
現代神はアヤに向かって歩き出した。
アヤは必死にどう乗り切ろうか考えていた。
その時、またこのあいだのような変な感じがした。
風で揺れていたはずのカーテン、時計の針が次々に止まっていく。
「現代神……あなた、時間を止められるの?」
アヤの言葉に反応もしない現代神の足がどんどん速くなってくる。
周りの物もこちらに近づくにつれてどんどん止まりはじめている。
やばい……
このままじゃ……自分も止まる!
焦っていると目の前がいきなり澄んだような気がした。
「うう!」
唸り声が聞こえ、気がつくと現代神が苦しんでいた。
カーテンは知らない内にさっきとは逆の位置で停止している。
「アヤ……君は強力だよ……。気を抜くと僕が止まりそうだ。」
「何……この感覚……。」
「自覚していなかったのかい?君にも時間を止める力があるんだよ……。」
現代神はアヤが放った強烈なタイムストップに必死に逆らっているように見えた。
「時間を止める?……あなた、ウソつきなの?」
アヤは苦しそうにしている現代神に言葉を投げかけた。
「な、何がだい?」
「時の神は歴史も時間も動かせないらしいじゃない!」
アヤの言葉を聞き、現代神は薄笑いを浮かべた。
カーテンがもとのように風でなびきはじめた。
「歴史動かせるなんて事、言ったっけ?」
「……。」
アヤは現代神を睨みつけた。
しかし、現代神は臆することなく口を開く。
「でもねぇ、時神が動かした歴史はね、時神の管轄になるから時神が好きなように動かせるんだよ?それ、知ってた?」
「そんなわけないじゃない。時神自体、歴史を動かせないわ。」
怒りのこもったアヤの言葉に冷めた目で現代神は答えた。
「何言っているのさ?異種だったら歴史動かせるじゃない。」
「……!でも、私は異種じゃないわ!歴史を動かしたわけじゃないし殺される理由がない。」
現代神は睨みつけているアヤから目を離すとつぶやいた。
「……君は立派な異種なんだよ。」


過去神、未来神はアヤを探して内藤新宿を歩き回っていた。
もう空が暗くなり始めている。
旅籠は夜の客の呼び込みに取り掛かっていた。
相も変わらずガヤガヤと賑やかだ。
「今日は旅籠に泊まるぞ。夜になったら探すのは困難になる。」
過去神がよってくる女を払いながら迷惑そうに未来神を見た。
「そうだな。君はもてていいな。」
未来神はそんな過去神をうらやましそうに横目で見ながら旅籠の一つへと入って行った。
「お前、金あるのか?」
「ある。昔とっておいた金が。」
むふふと笑いながら未来神はポケットから金色に輝く石を取り出した。
「おまっ……それ……金じゃないか。」
「そうだ。凄いだろ。」
驚いている過去神に金を自慢げに見せると未来神は番頭のもとへと走って行った。
少量だったが純金はこの時代では珍しかったらしく、あっさりと部屋へ通された。
「けっこう広いな。」
あたりを見回すと広々と畳がひいてあり、行燈と布団が隅の方に置いてあった。
行燈にはあかりが灯っていた。
「まあ、いい部屋だな。さっさと寝るぞ。」
過去神はさっさと布団をひくと横になった。
「うーん……つまらない男だな。」
未来神が横になっている過去神をつまらなそうに見ていると障子に影が映った。
「誰だ?飯盛女か?そういうのはお断りだぞ。」
過去神は首だけ障子に向けるとそっけなく言った。
「違いますよ。ここに上玉の飯盛女が来るって聞いて拝みにきただけですよ。」
障子戸が開き、正座した男の子が現れた。
「なっ……」
「き、君は!」
二人は驚いて立ち上がった。
その少年顔とも青年顔ともとれる顔つきの男の子はまぎれもなく現代神であった。
「げ……現代神!」
「なんで僕を知っているの?ああ、君たちはあれか!時神か!それでおかしな恰好をしているわけだね。」
現代神は未来神の格好をじっくり見つめている。
「……アヤは……嘘を言っていない……」
「ああ……。異種でもない。ここにこいつがいるという事はすでに現代神は存在している。ここまでの時代、ここから先の時代にアヤはいない。」
「いるのは平成からだろうな。」
「何を言っているんだい?」
思慮ぶかげに話し込んでいる二人を見ながら現代神は首を曲げ、眉を寄せている。
「ところでお前のところに黒い頭巾をかぶったやつは現れなかったか?黒頭巾というよりフードというらしいがな。」
過去神は迷っている現代神に声をかける。
「さあ……さっきから何の話をしているんだい?」
現代神は本当に何も知らないようだった。
「もし……お客人……部屋に入らせてくださいませんか?」
急に後で声がしたので驚きつつ現代神は振り返った。
見上げると薄化粧をしているこげ茶の長髪をしたきれいな女性が、正座している現代神を覗き込むような形で立っていた。
着物はそんなに高価なものではないのだが美しさが際立つ。
その女を見た二人の目が見開かれた。
「……あ……アヤ……?」
その女はアヤにそっくりだった。
なんというかアヤを少し成長させた感じの雰囲気である。
「……アヤ?どちら様ですか?私はおこうですが……。」
「おこう?」
女のきょとんとした顔を見て二人の頭は混乱してきた。
「……人……違い……なのか?それとも祖先か?それにしては似すぎている。」
「あの……。」
女がもじもじとこちらに寄ってきたので過去神は慌てて言った。
「あ、ああ、悪いが俺達にそういう奉仕はいらん。」
「私に魅力がないとおっしゃるのですか?」
「そうではない。お前さんは十分きれいだ。」
過去神と女の会話を未来神、現代神はぽかんとしながら聞いている。
「抱いてくださらないのですか?」
この女は意外にも男好きで何度もそういう事をしてきたらしい。
「おい、湯瀬、なんとか言ってくれ。」
過去神はうるうるしている女から目をそらすと未来神に助けを求めた。
「なんとかって俺にいきなりふるな。俺はちょっとエロい事考えたぞ……。」
二人が焦っていると現代神がいきなり立ち上がった。
「おこうさん……僕の方が泊まった金は安いけど僕は大歓迎だよ。ちょっと来ない?」
現代神の言葉におこうと名乗った女は目を輝かせてうれしそうに言った。
「本当ですか?ついて行きます。」
「と、いう事で彼女をいただきます。」
現代神は二人を交互に見た後、にやりと笑いおこうの手を握って部屋を後にした。
「なんだ。あの男……。あんな顔つきして女好きか?」
未来神があきれて頭を抱えた。
そんな未来神を横目でみながら過去神はつぶやいた。
「お前は馬鹿か?あれは娯楽を楽しむ気ではない……。殺気だ……。」
「え?」
「あの女……危ないぞ……。」

ロストクロッカー十二話

「私が……異種?だからその根拠がないって言っているのよ!」
ここはアヤの部屋。
相も変わらず現代神と向かい合う形となっている。
「君はわかってないね。異種は劣化だけを現すんじゃない。歴史と時の力両方持つものを異種と呼ぶんだ。つまり……これから時の神になる者にも適応される言葉なんだ。人間から時の神になる者、時の神から人間になる者……両方の事を異種と呼ぶ。」
「じゃあ、私は……」
「君はこれから時の神になるのさ。向上異種、別名タイムクロッカー。君はなかなか覚醒しなくてね、何度も生まれ変わっているんだよ。君、親と似ていないだろう?」
「……!」
そうだ……
私は親とはまったく似ていない。
母親は私を見ずに自分に似た子供ばかり探していた……。
私も本当の母親を探していた。
病院で生まれた時、すり替えられたのだと思っていた……。
「違う……。私が……時の神?」
「君はしぶとかったし鈍感だった。実は何度も殺そうとしていたんだ。だけどいつも逃げられた。運の良さでここまで生き残った……。だから普通の殺し方じゃ死なないと思っていたからこの計画に出たんだよ。だけど失敗したね。」
現代神は悔しそうな顔でまたこちらに近づいてきた。
「な……なんで私を殺そうとするの?私はこれから時の神になるのよ?」
「だからだよ!」
「きゃっ!」
一気に現代神に距離を詰められたアヤは現代神に押し倒されて仰向けに倒れ込んだ。
現代神はアヤの両手を片手で掴み、もう片方の手にナイフを持ち、アヤをまたぎ押さえつける。
「う……うう。」
動けない……
「僕はね、こう見えて力があるんだ。まあ、一応男だしね。ただの女の子相手に負けるつもりはないよ。」
現代神は無表情でナイフをアヤの白い首筋に当てる。
アヤの身体からは汗が噴き出し呼吸が荒くなってきた。
「はあ……はあ……あ……あなた……まさか今、劣化している時神?」
「そうだよ。僕は劣化異種だ。別名ロストクロッカー。君が強大な力を持って生まれたせいで僕は劣化を始めた……。君が死ねば……現代神が僕だけになるから僕はずっと時と共にいられる……。」
現代神も興奮で息が荒くなる。
「見えてきたわ。あなた……私を殺す理由って自分が死ぬのが嫌だったのね。」
「そうだよ?悪い?君にはわからないだろうけどね。劣化異種、ロストクロッカーは死ぬのを待つか殺されるかのどちらかしか残されていないんだ。僕が劣化していると悟られないように過去神未来神から逃げながら生きなければならなかった。」
「二人をだましたのもそのために?」
「そうだよ。君はもう死ぬから全部言っておくのが慈悲ってもんか。僕は現代神。唯一時渡りができる時の神。時を渡り過去神、未来神に会いに行った。黒フードをかぶったのは彼らに顔が知られるのが嫌だったんだ。過去神、未来神とあらかじめ知り合いになっていたら君に怪しまれるからね。僕の計画もわかっちゃうし。だから顔を隠して現代神と名乗った。それと劣化異種がアヤだと思わせるのにいいと思ったんだ。」
「歴史が狂った説明も二人が時を狂わせているのも茶番だったって事ね。」
「それは違うよ。彼らは歴史を狂わせていたのさ。言ったじゃないか。時神が動かした歴史は時神の管轄になるから時神が動かせるんだって。」
「?」
「だから、僕があらかじめ動かしておいたのさ。僕が動かした歴史をアヤが動かしたと思わせて二人には正義として戦ってもらった。」
「……。」
「あの時、僕はこう言った。のちに異種に騙されている僕が時渡りをしてくる。僕は異種をかばうだろうがその時に、僕に構わず異種を殺してほしいと。過去神の場合はアヤが新撰組という歴史をつくったと教えた。だから動乱に傾く時代を守るために新撰組を殺そうとしていたのさ。ちなみに言うと時神が人を殺せるのは時神が動かした歴史の部分だけだよ。だからあの時、過去神はあそこで新撰組を斬ったんだ。……えーと……話を戻すよ。未来神はあの自然共存派戦争がもっと前に起こる歴史だと思っていた。それが遅らされた事で愛するものを失ってしまう事を僕は教えた。そうしたら彼は起こるはずの戦争を後回しにし始めたのさ。ね?彼らは歴史を動かしてしまったんだよ。そうだ!ちなみに言っておくけど大火は僕が勝手にあの時代に移しただけ。君を確実に殺せると思ったから。ちょくちょく時をとめていたのも僕さ。まあ、君が源平へ時渡りしてしまった時、正直まいったけどね。過去神、未来神に触れてしまったら僕が予言にきたのにもう会っているって事になっちゃうし。」
「会ってしまったわ。」
「そう、だから時神の中での歴史が変わってしまった。ずっと君を必死で追いかけて二千三百年の時に君達を見たんだ。黒フードの僕を追っている事もこの時はっきりした。でも残念な事に僕は君達を見失ってしまった。だから考えを先読みしてあの時計を隠して君達を誘導したんだ。あの時代にね。」
「……最低だわ。あなた、最低よ。そして……哀れだわ。」
「最低でも哀れでもけっこうだよ。僕は……ずっと時と共に生きたいんだ。」
現代神は悲しみを含んだ目を一瞬だけアヤに見せるとつぶやいた。
「じゃあ、そろそろ死んでくれるかい?」


未来神と過去神は提灯片手に女と現代神を追って暗い夜道を走っていた。
「いない!どこへ行った?」
「栄次、本当にあの女危ないのか?」
焦りながら二人は現代神の気配を探る。
「現代神、あいつはなぜだが知らんがおこうを殺す気だ。お前も数々の修羅場をくぐってきたはずだが殺気を読み取れないのか?」
「さあ?俺には全然わからなかったが。」
「そうか。うらやましいかぎりだな。」
そんな会話をしていると目の前で何か動く気配がした。
「おい、路地裏に入って行ったぞ。」
影は旅籠と旅籠の間の路地に入って行った。
二人も影を追った。
「おとなしくしなよ。」
「あなた……私に何をするおつもりですか?」
「残念だったね。僕は君が求めている男じゃない。僕は君を探していたんだ。」
「あなた何なのですか?」
「僕は時の神。君は僕よりも力を持っている時の神。でも君はまだ覚醒していない。君が覚醒してしまうと僕が消えてしまうんだ。だから……。」
現代神はおこうを後ろから抱きしめると匕首(あいくち)を取り出し、おこうの白い首にあてる。
「……!」
おこうの顔が恐怖でゆがんだ。
「現代神は僕だけでいいんだ……。」
まずい……!
過去神、未来神が状況を素早く理解しおこうを助けようと飛び出した時、おこうが悲鳴をあげた。
しんとした夜に女の叫びはよく通る。
現代神は驚いてたじろいだ。
すると近くを探索のためかたまたま歩いていた岡っ引きと思われる男性が叫び声に気づき、路地裏へやってきた。
「っ!」
現代神は苦しそうな顔をするとおこうを突き飛ばして夜の闇へ消えて行った。
「大丈夫か?もう心配ねぇ。女がこんな時間に外をうろつくからこんな事になるんでぇ。で?お兄さん達もさっきのやつと関係があんのかい?」
泣き出したおこうを見ながら岡っ引きは過去神、未来神に対して探索モードに入っている。
「……いや。叫びが聞こえたから来たまでだ。」
過去神はそっけなく言い放った。
「お兄さん、あんたお武家さんかい?」
「ああ、まあな。おい、行くぞ。」
「え?ああ……。」
過去神が旅籠へ戻り始めてしまったので未来神は慌てて追いかけた。
岡っ引きと女は呆然と歩き去る二人を見つめていた。
「アヤはなかなか覚醒しなかったから転生を繰り返していたって事か。つまり彼女はタイムクロッカーだったわけだ。」
未来神がぼそりとつぶやく。
「あの時代にアヤが生きているって事はおこうもその他転生した人間も皆逃げ切ったって事か。まさか現代神が劣化異種だったなんてな。」
「現代神がロストクロッカーだとすると、今……アヤが危険なんじゃないか?ロストクロッカーは精神上不安定だ。何するかわからない。」
「!」
未来神の発言で過去神の顔が青くなった。
「まずい!アヤが危ない!」
過去神は旅籠への道を歩いていたが踵を返した。
「おい?どこ行くんだ?」
「この時代の現代神を見つけ、アヤが帰った時間軸へ飛ばしてもらう。」
「それ、成功すると思うか?」
「あいつをだませばなんとかなるかもしれん。」
「……だます……か。……越後屋、おぬしも悪よのぉ。」
未来神がおどけるように言った言葉に過去神は眉をよせた。
「なんだそれは?」
「ああ……これだから時代の離れたやつと話すの嫌なんだよ。」
未来神はため息をつくと過去神の肩をポンとたたき、歩き出した。
「……変な男だな。」
過去神は眉をさらに寄せて未来神の後を追った。


先程の路地に戻ってきた。
なんだか楽しそうに話をしているおこうと岡っ引きが目に入った。
どうやらおこうを口説いていたようだ。
あんな状態だったのに軽いやつらだと過去神、未来神はあきれた顔を向けた。
おこうと岡っ引きは話を中断し驚いた顔でこちらを振り向いた。
「あれ?さっきかっこよく帰って行ったじゃねぇか。」
「まあ、そうなんだが少し聞いてもよいか?」
「なんでぇ?」
岡っ引きはおこうとの話をさえぎられ少々むっとしていたが顔をもとに戻して聞いた。
「さっきのやつは俺達が泊まった旅籠に客として来ていたんだ。……それで……」
「なんだって?じゃあ、さっそく旅籠を調べるぞ!」
過去神の言葉をさえぎり旅籠へ走り去ろうとした岡っ引きを未来神が止め、口を開く。
「最後まで栄次の話を聞けよ。こんな状況になった以上、やつがのこのこあの旅籠に戻るか?」
「戻らねぇな。兄ちゃん。」
未来神に首根っこをつかまれていた岡っ引きは顎に手をあてて考え始めた。
「いいか?俺が聞きたいのは逃げる場所に最適な所だ。この辺で、あまり人の目につかず、一夜を過ごせる場所はどこだ?」
「……なるほどねぇ、兄ちゃん達、頭いいじゃねぇか。そしたらちょっと先にある廃寺が怪しいぜ?俺が案内してやらぁ。なんだかしらねぇが兄ちゃん達は色々関係がありそうだかんな。おい、おこう、旅籠に戻ってゆっくり寝てろ。」
「はいはい。じゃあね、卯之助!」
先程の会話でどこまで親密になったか知らないがおこうは少し走り、振り向いて岡っ引きに向かい大きく手を振った。
そんなおこうを見ながら岡っ引きは照れながらつぶやいた。
「あいつ、俺の女になってくれるってよ。でへへ……。」
おこうに騙されているんじゃないかと思ったが二人は何も言わず岡っ引きを急かして廃寺へと足を進めた。
提灯の明かりを頼りに静かになった内藤新宿を歩く。
しばらく歩くと荒れた草地が現れ、その奥に半倒壊している寺があった。
「ここだぜ。兄ちゃん。」
「かたじけない。すまんが俺達が先に入らせてもらうぞ。お前はここで待っていてくれ。やつと話したい事があるのでな。」
「悪いな。」
二人はそう言うと急に怪しむような顔つきになった岡っ引きを置いて廃寺に足を進めた。
中に入る。
床は所々木が腐っており抜けていてそこから雑草が元気よく伸びている。
天井は雨露を防げるような所はほとんどなく骨組みのみが残っている。
壁はかろうじてあるがもうほとんど建物とは呼べなかった。
火事だな……
二人はそう思った。
「君たち、僕を追ってきたの?」
寺を眺めていると奥の方から急に声が飛んできた。
二人は提灯をかかげた。
「現代神。やはりここにいたのか。」
「……そうだよ……。」
明かりに照らされたのは先ほどと変わらぬ姿で胡坐をかいている現代神だった。
「頼みがある。俺達を二千十年に連れて行ってくれないか?」
現代神は警戒の色を見せている。
「それよりも君たちはなんでこの時代にいるんだい?この時代にもとからいる君たちとは違うだろ?」
「未来のお前に連れて来てもらった。三人で異種を殺そうという事になっていたのだが未来のお前を追ってきた異種が二千十年にお前を飛ばしてしまった。お前ひとりでは時を止められて殺されてしまうかもしれん。だから、未来のお前を救う為に時を渡りたいんだ。と、言っても異種ではないお前のが
力が強い事はわかっているがな。まあ、念のためだ。」
栄次が嘘を言い、それに被せるようにプラズマも声を上げた。
「そうだね。あんた、最近時神になったばかりのタイム・クロッカーなんだろ?」
プラズマも栄次に乗り、信じ込ませるための嘘をついた。
「……。」
現代神は少し考えているようだった。
二人は信用できないが劣化している自分がやられるのはまずい。
もし、三人であいつにかかろうという事になっていたら自分は一生助かるかもしれない。
しばらく沈黙があった後、現代神はぼそりとつぶやいた。
「……いいよ。未来の僕をよろしくね。」
現代神は彼らが仲間である可能性の方にかけた。
二人はだました事に心が痛んだが深くうなずいた。

ロストクロッカー最終話

「くっ……ここまできたのに……なんで……。」
現代神は相も変わらずアヤをまたぎ、ナイフを首元に押し付けている。
アヤは今にも頸動脈を斬られる恐怖を覚えながら現代神を見つめた。
現代神が持っているナイフは小刻みに揺れていた。
「……。あなた、人を殺した事……ないんでしょ?」
「う、うるさい!」
現代神の声は裏返った。
アヤは複雑な気持ちだった。
自分がこの世から消えれば彼は助かる。
だけど自分は死ぬつもりはない。
どうすればいいのだろう。
「ごめん……アヤ……僕は……」
現代神の目から涙がこぼれ落ち、アヤの頬に落ちた。
現代神はナイフを強く握りなおし、ナイフに力を入れた。
「……っ!」
アヤが低く呻いた時、声がした。
「アヤ!」
「き……君達……なんで……?」
現代神は力を緩めると驚きの表情でドアの前に立っている二人を見つめた。
そこには険しい剣幕の過去神と未来神が立っていた。
「お前の考え、その他、すべてわかっている。」
過去神は冷たい瞳で現代神に言い放った。
「どうやってきたんだ!」
「過去の君に連れてきてもらったんだ。」
未来神は少々、同情の念をこめて蒼白の現代神を見ていた。
「僕?」
「安心しろ。ここに俺らを連れてきたお前は過去に帰った。人間の歴史を管理するという歴史神が偶然いてその歴史神は時神を自由に元の時代に戻せるらしいからな。それで戻ってもらった。」
「流史記姫神(りゅうしきひめのかみ)か……。」
「だました償いとして俺達が君を楽にしてあげるよ。」
時の神は他の時の神への同情の心はあまりないようだ。
それだけになんだか悲しくなってきた。
アヤはそっと首筋に手を当ててみた。
薄皮を斬られたのか血がにじんでいた。
「全部ばれちゃったんだね。最初から余計な事しないでアヤをそのまま僕の手で殺せばよかった……。ばれちゃった以上、僕は居場所を手に入れるために君たちも消さないといけなくなった……。だけど、僕は君たちには勝てる自信がない。でも僕には時間がない。……やるしかない。」
現代神は自己解決をすると指を鳴らした。
刹那、未来神、過去神の身体が光りだしアヤが目を開いていられなくなるくらいの光が部屋中に広がった。
「うっ……。」
光がおさまったのでアヤはそっと目を開けた。
愕然とした。
アヤの部屋が何もないただ真っ暗の空間になっていたからである。
「なんだ?ここは。」
三人が戸惑っていると現代神が苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「ここはね、時間のはざまだよ。過去神、現代神、未来神がそろった時に過去、現代、未来が混ざり合い一つの空間ができるんだ。つまり僕を含めて君たちはこの空間を開くための鍵なんだ。ここをうまく利用できれば僕は勝てる。」
現代神はそう言うとすぐ姿を消した。
「き、消えた?」
刹那、近くで風を切るような音がした。
過去神は素早く刀を抜くと何かを弾いた。
「やるね。」
声と同時に目の前に突然ナイフを持った現代神が現れた。
「お前……どこから……」
「反射でかわしたのかい?やっぱり君はすごいや。」
口調は軽いのだが余裕がないのか現代神の頬から汗が流れ出ている。
未来神が間髪をいれずに現代神にむかって銃を撃ち放った。
また現代神が消えた。
タンッとすぐ後ろで靴音がした。
「湯瀬!避けろ!」
「?」
過去神の声を聞き、未来神は咄嗟に身体を捻った。
眼前をナイフが通り過ぎる。
未来神はよろけたがうまく体勢を整えた。
「あぶなっ!」
「大丈夫?」
アヤは何が起きたかわからずとりあえず未来神に声をかけた。
「ああ……大丈夫……。」
「つまりここははざまだ。歴史というものが存在しない。だから異種はなんの障害もなく時を動かせるのか。」
もうすでに先程までいた現代神は姿を消している。
「!」
と思ったらアヤのすぐ前に現れた。
ナイフが心臓めがけて襲ってくる。
未来神が横からアヤを突き飛ばした。
ナイフは空を切ってまた消えた。
よろけてしりもちをついたアヤはすぐに過去神に担がれた。
さっきまでアヤがいた所にはナイフを突き立てた現代神がいた。
「っち……」
現代神は呻くとまた消えた。
「はあ……はあ……」
まだ何にもしていないのにアヤの口からは荒い息が漏れていた。
こんな事するのやめない?……
とアヤは言いかけたが口をつぐんだ。
現代神にとっては生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
軽々しくやめようなんて現代神には言えなかった。
彼にはもはや仲間などいない。
ひとりで……孤独で……自分の死に抗わねばならない。
世界からはもう用無しだからはやく消えてくれと言われている。
そんな人生……あんまりじゃないか。
とも思ったが、だからと言って自分が死んでやるつもりはない。
自分が生き残るためには戦って……彼を殺すしか道はない。
だったらせめてこの戦いには自分と彼だけで決着をつけたい。
いや……つけないといけない。
「……過去神、未来神……私一人で彼と戦うわ。」
アヤは息がつまる思いをしながら一言口にした。
「なに言っているんだ。君はこれから時の神になるんだぞ!もしなんかあったら……」
未来神の怖い顔を横目でちらりと見ながらアヤは続ける。
「あなた達はどちらが死んでも関係ないでしょ。現代神がいれば。」
「……。」
二人は黙り込んだ。
アヤは深呼吸すると一歩前に出た。
「現代神……私と一対一で勝負しなさい。」
「え?」
現代神はアヤの発言で驚きの表情で姿を現した。
「かかってきなさい。あなたも生きたいんでしょう?」
「僕が本気を出したら君……死んじゃうかもしれないんだよ?」
こちらをまっすぐに見つめてくるアヤに現代神は焦った顔を見せた。
「……それなら……あなたが消える?」
アヤは蒼白の現代神に向かって優しく語りかけた。
「……いや……。」
アヤの言葉で現代神の顔から焦りが消えた。
それと同時に殺気が漂ってきた。
過去神、未来神は何も言わずに突っ立っている。
しばらく静寂が訪れた。
先に動いたのは現代神の方だった。
風を切り裂くような音が近くでする。
目にもとまらぬ速さで移動しているはずの現代神をアヤは不思議な事に見えていた。
音速で動いているはずのナイフもやけにのろく見えた。
「く……。アヤ……君は……」
現代神のナイフは空を切ってばかりいる。
「この感覚……あの時の……」
アヤは彼のナイフを避けながら最初に未来神に会って襲われた時の感覚を思い出していた。
そうか……私……気がつかない内に時間の操作してたんだ……
現代神がなんかやっていたわけではなかったのね……
まあ、彼がそんな事……するわけないわよね。
「ち……ちくしょう……。」
アヤの力が強くなっていくのに対し、現代神の方は力が抜けていくのを感じていた。
僕は……僕はもっと時と共にいたい……
世界を……歴史を見ていたい!
なんで僕の方が弱いんだ……
どうして君が生まれたんだ!
この苛立ちはどこにぶつければいいんだ……
僕は……まだ生きていたいのに!
生きていたい……
イキテイタイ……
「うわあああ!」
現代神は発狂しながらアヤに向かってナイフを振り回す。
「うわああ!うわああ!うわああああああ!」
アヤはでたらめな攻撃を避け、現代神の腕をつかんだ。
その手からナイフをもぎ取る。
「……いやだ……。やめろ……。いやだ……」
現代神は暴れながら泣きじゃくっていた。
「ごめんなさい……。」
アヤはそれだけ言うとナイフを現代神の胸めがけて突き刺した。
嫌な感触が手に伝わる。
すぐに生あたたかい液体がアヤの手を汚す。
「あ……ああ……」
アヤは現代神の呻きを聞きながら震えていた。
「ごめんなさい……。」
もう一度同じ言葉を発した。
「ぼくは……もっと……生きたい……生きたいよぉ……」
現代神が涙と血で汚れた顔をアヤに向ける。
アヤは咄嗟に現代神を抱きしめ、震える声でつぶやいた。
「そうよね……。生きたいわよね……。ごめんなさい……。でも……でも……私も……生きたいの……。」
アヤの瞳からも涙が零れ落ちる。
残酷な言葉をかけてしまったと思った。
自分のために死んでくれと言ったようなものだ。
「どうして……君が……うまれちゃったんだろう……ね。」
現代神は捨て台詞のように言葉を吐くとアヤの目の前で光に包まれ跡形もなく消えた。
過去神、未来神はその光をそっと見つめていた。
私が殺した……
私は人を殺した……
私が一人の命を奪った……
自分が生きたいためだけに……
私が……
アヤの手から血のついたナイフがするりと落ち、暗い空間にコンッと響きながら地面に転がった。
「あ……ああ……。」
半ば放心状態のアヤの肩に過去神は手を置くと言った。
「……俺達は異種の事をただ殺そうと思っていたわけではない。歳が逆流して死ぬよりも殺された方が苦しまなくて済むんだ……。だから俺達は……。」
過去神の言葉をアヤがさえぎった。
「私も劣化したらそうやって殺すの?」
「?」
「なんで……皆で助かる道を探さなかったの?ロストクロッカーの選択肢が死ぬか殺されるかなんてあんまりだわ。」
アヤは現代神が消えた所をじっと見つめながらボソボソとつぶやいた。
「皆が助かる道?そんなものないよ。歴代の時の神がそれを証明している。不老不死も寿命を延ばす事もできない。それが……時神の運命なんだよ。アヤ。」
未来神が目を伏せてアヤに向かってつぶやいた。
「人間の寿命と同じだ。ただ、時の神はこういう仕組みで死ぬだけだ。」
過去神も目を伏せた。
「そんな……。」
「人の寿命だって自分達には何もできやしない。それと同じさ。ただ、時の神は生きている次元が違う。あの現代神みたいに自分の寿命がわかんなくなるのも無理はない。」
未来神は遠くを見るような目で真っ暗な空間を見つめていた。
「アヤ……お前はこれから現代神だ……。現代の歴史、時間を守るのが仕事だ。」
「……。」
アヤは何も言わずに下を向いている。
「つらいか?」
過去神の言葉にアヤは嗚咽をもらしながら即答した。
「……いいえ。」
つらいがあえてこう言った。
それが運命なら受け止めるしかない。
時間を守りたい……
私は昔から時を守りたかった……
ゆったり流れたり激しく進んだりするこの世界の時間、人は成長し、また同じことを繰り返す。
そしてまた成長する。
そういうのを見守っていきたかった。
こういうのは望んでいなかったが……
過去神、未来神はどう思ったのだろうか……
時の神だと言われて……
時の神として生きていて……
彼らはきっといままで異種を何人も殺してきたに違いない……
……時神を続けるのは……
つらくは……なかったのだろうか……
口を開きかけてやめた。
聞かない方がいい。
いままでの彼らを見て自分はわかっているはずだ……
つらくないわけがない……
とてもつらいのだ……
……私もこれからその泥沼に足をつけなければならない。
わかっている……
怖くはない……
怖くはない……
これは運命だ……
……どうしてうまれちゃったんだろうね……
最後の現代神の言葉が、憎しみに満ちた目が頭から離れない。
「……そろそろ……戻るぞ……。アヤ、もとの場所に戻してくれ。」
過去神の言葉にアヤはうなずいた。
なぜだかわからないがこの空間の出入りの仕方を知っていた。
アヤがパチンと指を鳴らすと先程と同じ光景が広がった。
過去神と未来神の身体が光り、目の前が白くなった。


気がつくとアヤは自室にいた。
「……?」
なんだか自分の時間が止まっているような錯覚にとらわれていた。
いや、実際止まっているのだろう。
歴史は人間が動かす。
自分の中にある歴史も自分で動かす。
いずれ歳をとり、死ぬという歴史。
しかし、時神は自分の歴史であっても動かせないし関われない。
つまり……時の神が外見変わらず生きられるのは歴史の管轄からはずれてしまったという事だ。
私は……もう……人ではない。
アヤはその場で崩れ落ちた。
「アヤ?どうした。」
過去神が心配そうにアヤを覗き込んだ。
それを見て未来神が口をはさむ。
「過去神、たかだか十年足らずしか生きていないこの子にはこの現実は酷なんだよ。」
「……。ああ、そうだな。」
二人は座り込んでいるアヤの横に何も言わずに腰をおろした。
「私……」
アヤが誰にともなく話出す。
「もう……普通の生活できないの?結婚して子供が生まれて……みたいな生活。」
「できんな。時の神は人と生殖する事はできない。」
過去神はまっすぐ時計を見ながらぼそぼそ話す。
「……そう。あなた達が劣化始めたら……殺さないといけないの?」
「いや、俺は自分で消えるから問題はない。」
「俺ももう自分で消えるよ。なんか……本当はもう疲れているんだ。」
二人は声のトーンを変えずにつぶやく。
「お前はどうする?アヤ。」
「……。私は時の神が楽しく生きられる道を探す。だから劣化しても消しに来ないで。」
アヤは涙声で膝を抱えてうずくまっている。
「……。」
二人は黙り込んだ。
アヤは続ける。
「それから、歴史をもとに戻す。あなた達がなんて言おうと私が戻す。」
「その方がいい。戻そう。もともと俺らは歴史を動かしてはいけないのだ。歴史を消そう、歴史を後回しにしようという事はやってはいかん事だ。」
「そうだな。歴史は俺らが責任もって移動させるから君はそこで落ち着いてな。」
二人は複雑な顔をアヤに向け一言付け加えた。
「俺も楽しく生きられる道を探す。」
「俺も探してあげるよ。だから……その……元気だしな。」
二人の言葉にアヤは無表情で
「ありがとう。」
と言ったのみだった。
そんな事、彼らが微塵にも思っていない事は彼女にはまるわかりだった。
そしてロストクロッカーは次の新しい時神をはやくむかえたいがためにさっさと殺されるという事もわかっていた。
だから最後まで彼らに心を許せなかった。
自分は今、タイムクロッカーから現代神になったばかりなのだが……。


二人をもとの時代に戻した後、自室に戻ってきたアヤはひどく疲れていた。
時の神はこういう仕組みで動いている……。
私は泣き叫ぶ彼を躊躇なく殺してしまった。
それは仕組みだから仕方ないのか……。
それとも殺す必要はなかったのか……。
あの時の自分の判断は正しかったのか……。
自分は彼に殺された方が幸せだったのか……。
もう……
わからない……。
彼……現代神もひどく疲れているように見えた。
私も劣化を始めたらああなってしまうのか……。
他人を騙してまで生きたいと思ってしまうのか……。
それとも未来神過去神のように早く消えたいと思ってしまうのか……。
どうなっているのだろう。
確かに時や歴史をずっと見守りたいとは思っていた。
だが、時や歴史を背負う事がこんなにも重荷だとは思わなかった。
そっと見守っているだけだと思っていた。
私は甘かったんだ。
アヤの頬から涙が零れ落ちた。
時と共に生きたい……
けど……
怖い……
これから自分がどうなってしまうのか……
劣化を始めたら彼のように皆から疎まれて死んでいくのか。
あれではまるで使い捨てではないか……。
今、時を守る神になったばかりだというのに唐突に悲しくなった。
アヤは泣いた。
「ああ……ああああ!」
泣き叫んだ。
誰にも助けてもらえない。
話す事などできない悩みを抱えてアヤはさみしさと孤独と恐怖に押しつぶされて泣きじゃくった。
泣いてもしょうがないと思った。
私はもう、時の神だ。
現代神だ。
現代を守らないといけないんだ。
一生懸命そういう使命感を出したが
涙は止まらなかった。
ここから永遠と続く道。
孤独。
恐怖。
アヤはこれを背負い、現代の時を守るのだ。
殺された方がましだったかもしれない……
そっと落ちていたナイフを拾い、見つめる。
死んでしまおうか。
ダメだ……私は生きる。
生きなければいけない。
私が殺した現代神の為に。
生きたいと願った自分の為に。
……しばらく……泣いても……いいよね。
ずれていた時計はもとに戻り、同じ刻みで秒針がまわっている。
静かな部屋の中で時計の音とアヤの嗚咽が鳴りやむ事なく響いていた……。


少女は果てしなく続く道のりをゆっくりと歩き始めた。
過去を振り返ることなく……
未来にたどりつくことはなく……

ここから彼女の神生と世界の運命は大きく変わる事になる。すべてはここからはじまる。

誰かがおかしいと言っている。

こんな歴史はみたことがないと。

時神はこんなシステムではなかったと。

別の世界の誰かはこう問いかける。

「スサノヲ、ツクヨミ、アマテラスは知っているか?世界は改ざんされている」と。

本編TOKIの世界書一部「流れ時…1」(時神編)H22執筆

テーマは「運命」です。
少し暗くなってしまいましたがアヤの成長に期待したいです。

本編TOKIの世界書一部「流れ時…1」(時神編)H22執筆

時神アヤのはじまりの物語。 流れ時…はここからはじまります! 長編すべての部を読むと世界観が露わになります。 アヤは平和に生きる術をみつけられるのか?

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2013-06-19

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