嵐山荘のとある一日

にいがき

FAVORITE様原作十八禁PCゲーム「いろとりどりのセカイ」の二次創作です。 ゲームをクリアしていなくても読める内容にしていますが、細かい設定の説明は省かせて頂きました。 本文を読んでいて、「ん?」と思った方は、下記URLから自身で調べて頂けると幸いです。

いろとりどりのセカイ公式HP→http://www.favo-soft.jp/soft/product/world/irotori_index.htm

いろとりどりのセカイWikipedia→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%84%E3%82%8D%E3%81%A8%E3%82%8A%E3%81%A9%E3%82%8A%E3%81%AE%E3%82%BB%E3%82%AB%E3%82%A4

※公式サイトは十八歳未満閲覧禁止なので注意してください。

なるべく原作の雰囲気を意識して書いていますが、上手く書けているかは分かりません。
時間軸は、「いろとりどりのセカイ」共通√終了後、観波加奈√以外の√中と考えています。
この作品は自分が最も好きな作品なので、機会があればこれからも二次創作活動を続けたいと思います。 よろしくお願いします。

事件が起きた。
冗談ではなく、本当に事件だ。
昼下がりの嵐山荘、その食堂にて、
悠馬「鈴、さん?」
鈴「………………」
鏡「…返事が無い。まるで屍のようなの」
悠馬「なんて言ってる場合じゃない! 鈴さん! 鈴さん!?」
開け放たれた冷蔵庫の前で、唇を真っ赤に腫らし、全身から汗を滝のように流す鈴さんが倒れていた。
悠馬「一体、何が…」
こうして、夏休み真っ只中の嵐山荘は、一転して密室傷害事件? の現場になったのだ。

その前日、管理人室で一日の終わりを日記で締めくくろうとしていた俺は、不意に聞こえたノックの音で日記帳から顔を上げた。
悠馬「こんな時間に誰だ?」
時刻は深夜零時を回ろうとしている。いつもなら、この時間帯、みなそれぞれの部屋で過ごしているはずだ。というか、寝ている人が多数かもしれない。
真紅「大方、また加奈が添い寝でもしに来たんじゃないか?」
膝の上で、半透明の魔法使い、真紅が言う。
悠馬「まさか。いくら加奈でもそんな節操なしに何度も添い寝なんて……」
真紅「しないと思うか?」
悠馬「……するかもしれない」
真紅「だろ?」
苦笑しつつ、真紅が膝の上からどいた。
真紅「女の子をあまり待たせるのはよくないぞ。早く行ってやれ」
悠馬「そうだな。ちょっと行ってくる」
俺は立ち上がり、ドアを開けた。そこに立っていたのは。
鏡「お兄ちゃんに、リベンジを申し込みます」
悠馬「鏡?」
珍しく、本当に珍しく自主的に自室から出て来た敷島鏡だった。
悠馬「リベンジ?」
鏡「そう。リベンジなの」
悠馬「えーっと…、鏡ちゃん? 話が見えないんだけど?」
一体何をリベンジすると言うのだろう。
鏡「そんなの、ゲームに決まっているでしょ、お兄ちゃん」
悠馬「ゲーム? ああ、あれか」
ゲームと言われて思い浮かぶのは、以前鏡の部屋でした格闘ゲーム。
初めて対戦をした時、俺は鏡にコテンパンにされ、悔しさを糧に真紅と共に猛特訓をした末、二度目の対戦で鏡に圧勝したのだ。
今回はそのリベンジ、という事なのだろう。
鏡「…ダメ?」
悠馬「いや、ダメじゃないけど…」
別に鏡とゲームをする事自体は嫌じゃない。けど、鏡はゲームで勝てないと拗ねてしまう。
悠馬(それに、日記をちゃんと書かないと、後で真紅にお説教されるしなぁ…)
真紅「おい。それじゃあ私が煩い母親みたいじゃないか。失礼だな」
悠馬(煩い母親とまでは思ってないけど…。でも、日記を書かないと怒るじゃないか)
真紅「書かなかったら、それは当然怒るさ。でも、私はそこまで狭量じゃない」
悠馬(と言うと?)
真紅「眠る前に必ず日記を書くのなら、ゲームをしてもいい」
悠馬(分かった。約束する)
真紅「ん…」
真紅と約束をし、俺は改めて鏡の挑戦に返事をする。
悠馬「オーケー。売られた喧嘩は買うよ」
鏡「! 本当?」
悠馬「もちろんさ」
鏡「それなら、早く私の部屋に来るの」
悠馬「分かった」
こうして、俺と鏡の夜を徹した格闘ゲーム大会が幕を開けた。

鏡「…どうして。…こんなの、おかしいの」
悠馬「おかしいの、って言われてもな」
鏡「一回も勝てないなんて…」
悠馬「まぁ、ね…」
五時間後。すぐに拗ねてしまう鏡にしてはかなり頑張ったのだが、それでも、俺は鏡相手に全勝という記録を打ち立てた。
総対戦数、五十回にも及ぶその全ての対戦において、俺は鏡に1ラウンドも負けなかったのだ。
さすがに、これは自分でも驚いた。
鏡「…もう一回なの」
悠馬「また? もう朝の五時だし、そろそろ休んだ方がいいんじゃないか?」
もう1、2時間もしたら誰かが起き始めるだろうし。俺は今日朝食も作らないといけない。
そういった理由から対戦を渋る俺に、それでも鏡は諦めようとしない。
鏡「どうしても、ダメ?」
悠馬「…はぁ、分かった。次で最後にするのなら、いいよ」
鏡「うん!」
鏡が嬉しそうにキャラクターを選び始める。
そんな鏡を見れたのだから、もう少しくらいはいいかなと思ってしまうのだから、俺も甘いな。
時雨さんに、鏡のことを甘やかし過ぎだとは言えないか。
真紅「鏡だけじゃなくて、悠馬は女の子全般に甘い気がするけれどな」
悠馬(自覚してるんだから、一々言わなくてもいいよ)
真紅「はいはい」
鏡「お兄ちゃん?」
悠馬「ん? どうした?」
鏡「私、選び終わったよ?」
悠馬「え? あ、ああ、そうだな。俺も選ばないとっ」
真紅と話している間に、既に鏡はキャラクターを選び終わっていた。俺も慌てて選び、対戦が始まる。
鏡「………………………………っ!」
テレビ画面に映る鏡のキャラクターに、俺のキャラクターの強攻撃が当たった。怯んだ相手に、そのままコンボを仕掛ける。
鏡「うっ…」
隣で鏡が息を呑むのが聞こえた。このままの流れなら、今回も俺が勝――、
鏡「こうなったら、奥の手なの…」
――つ。
むにゅ。
悠馬「何っ!?」
突然、右腕に大きく柔らかなものが押し付けられた。
鏡「名付けて、お色気作戦」
悠馬「まんまじゃないか!」
鏡「これで、お兄ちゃんは骨抜き。ゲームも私が勝つ」
悠馬「ふっ。俺を舐めてもらっちゃ困るな。これくらいで俺の集中力が途切れるはずが…」
鏡「あっ、コンボが途切れた」
悠馬「ぐぬっ!?」
俺としたことが、お色気作戦なんてものでミスをするなんてっ!
悠馬「けど、まだ俺の方が有利!」
むにゅ、むにゅむにゅ。
鏡「このコンボで、私の勝ち」
悠馬「何だと!!」
画面には得意気に決めポーズをする鏡のキャラクターと、YOU WIN! の文字。それは紛れも無く、俺の敗北を意味していた。
悠馬「こんなことが…」
鏡「ふっ、所詮はお兄ちゃんも人の子だったということなの」
悠馬「あんな手で負けるなんて…」
恐るべしは、鏡の胸に付いている二つの膨らみか。
真紅「…悠馬。エッチなのは、私は嫌いだ」
悠馬(真紅、違うんだっ、これはその、本能みたいなものであって、逆らえないと言うか!)
真紅「知らん!」
プイッ、と真紅はソッポを向き、そのまま消えてしまった。これは、後でまた何か言われるかもしれないな。
鏡「ふぁあ~~。それじゃ、お兄ちゃんにも勝てたし、私はもう寝るね?」
悠馬「はぁ、分かったよ。おやす――」
?「ぎゃああああああ!!」
悠馬「! な、なんだ!?」
誰かの叫び声。近い。まさかこの寮の中で何かあったのか!?
鏡「おやすみ、なの…」
悠馬「鏡! 寝てる場合じゃないぞ!」
呑気に眠ろうとしている鏡を起こし、俺たちは部屋から出て状況の確認に向かった。
鏡「うぅ~~、お眠なの」
悠馬「鏡ちゃん呑気過ぎるよ!」
そして、俺たちは食堂で倒れている鈴さんを発見したのだ。
悠馬「それで今に至るというわけだ」
澪「分かった。つまり悠馬と敷島さんにはアリバイがあると」
悠馬「ああ」
その後、鈴さんの悲鳴で目を覚まし、食堂に集まった嵐山荘の寮生たちに事の次第を報告した。起きてきた全員が寝巻きの中、加奈だけ何故かいつものメイド服なのは疑問だが。
澪「一体、誰がこんな事を…」
加奈「その、夏目さんは大丈夫なんですか?」
悠馬「ああ、一応見ての通り生きてはいる。念の為脈も確かめたけど、異常は見当たらなかった」
加奈「ほっ。そうですか、良かったです」
加奈が安心したように溜め息を洩らす。しかし、すぐに別の問題が見えてくる。
加奈「あの、どうして夏目さんは倒れていたのでしょうか?」
悠馬「そこなんだよな。問題は…」
鈴さんが倒れているのを見つけた俺は、すぐに鈴さんを長椅子に寝かせ、軽く診察をしてみたのだが、原因がさっぱり分からない。
目に見える症状は、唇を赤く腫らして、滝のように汗を掻いていることだが、それだけでは皆目見当がつかない。
悠馬「時雨さんもいないしな」
こんな時に限って、唯一の大人である時雨さんが不在。運が悪い。
あゆむ「病院に連れて行かなくてもいいのかな…」
悠馬「鈴さんは頑丈に出来てるし、これくらいは大丈夫だ」
あゆむ「そうなんだ…」
まずは、原因究明が先決だろうな。何があったのか分からないんじゃ、みんな不安だろうし。
一同「………………」
やはり、全員が一様に不安そうな顔をしている。
つかさ「お眠なのです~~。むにゃむにゃ…」
悠馬「……」
若干、一名ばかり寝惚けているが、おおよそ全員がこの状況に不安を覚えていた。
あゆむ「とりあえず、分からないところを順番に整理していった方がいいんじゃないかな」
澪「そうね。整理して、その中から分かりそうなものから解き明かしていけば、この事件の詳細が見えてくるかも」
悠馬「そうだな…」
あゆむ「…整理してみた」
○どうして夏目鈴は食堂で倒れていたのか
○何故冷蔵庫が開いていたのか
○他殺なのか、それとも自殺なのか
悠馬「いや、鈴さんは別に死んでいないからな?」
どっちみち、鈴さんが誰かに殺されるなんて考えられないし、自殺だなんて有り得ないと言ってもいいだろう。となると。
悠馬「さしあたっては、どうして鈴さんはこんな所で倒れていたかだな」
加奈「確かに、どうしてなんでしょう」
一同「……」
全員が頭を捻る、そんな中。
真紅「悠馬…」
悠馬(真紅。どうしたんだ?)
先程まで姿を消していた真紅が話し掛けてきた。
真紅「いや。今、思い出したんだ」
悠馬(思い出したって、何を?)
真紅「最近、夏目鈴の姿を見ていなかったな、って」
悠馬「え?」
澪「どうしたの?」
悠馬「あ、いや何でもない…」
驚いて、思わず声が出てしまっていたみたいだ。
悠馬(姿を見なかったって、いつ頃からなんだ?)
真紅「そうだな…。確か、二、三日前くらいじゃないか?」
二、三日前。そういえば、言われてみればそんな気がする。他の人にも確かめてみよう。
悠馬「なあ、聞きたいことがあるんだ」
加奈「何ですか?」
悠馬「この二、三日、誰か鈴さんを見た人はいるか?」
その質問に、全員が考え込む。真っ先に答えたのは鏡だった。
鏡「私はずっと引きこもってたから、分からないの」
悠馬「うん。まぁ、そうだろうね」
その答えは予想出来ていた。
澪「言われてみれば、そうかも…」
あゆむ「僕も、記憶に無い」
つかさ「私もです」
それぞれが同意を示す。やっぱり、鈴さんの姿を見た人はいないのか?
悠馬「加奈はどうなんだ?」
一人まだ答えていなかった加奈に聞いてみる。
加奈はまだ考えていたようだが、不意に顔を上げた。
加奈「そういえば、私、三日前に夏目さんと話しました!」
悠馬「本当か!」
興奮気味に、加奈が話しだす。
加奈「はい! あれは確か三日前の夜――」

その日、私は夏目さんの部屋まで夕食の準備が出来たことを伝えに行きました。
ドアを数回ノックをしても返事が無かったのですが、それでも何回か繰り返すと部屋の中から夏目さんが言ったんです。
鈴「んー? どしたの?」
私は夏目さんに夕食のことを伝えました。
加奈「夏目さん、夕食が出来ましたよ。今日は如月さんが腕に寄りを掛けて作ったカレーです。早くしないと冷めてしまいますよー?」
すると夏目さんはこう言いました。
夏目「んー、今読んでる本が終わったら行くから、先に食べててー」
どこか上の空な返事に聞こえましたが、お邪魔をするのも悪いと思って私は先に食堂に行ったんです。

加奈「結局、その後も夕食の席に夏目さんは来ませんでした」
澪「あー、そうだったわね。あの日は余ったカレーを誰が食べるかであんたと敷島さんが争ってたわね…」
加奈「そ、そんな事はしてません!」
鏡「言い掛かりなの」
澪「ハイハイ」
つかさ「それにしても、夏目さんはその後どうしたのでしょうか?」
悠馬「うん? んー、まぁ、何となく予想は出来るかな…」
つかさ「本当ですか!?」
悠馬「鈴さんのやりそうな事なら、大体分かるし」
つかさ「ふわぁー、やっぱりおっぱいの神様は凄いのです。私のようなお胸の小さき者には想像もつかないと言うのに」
悠馬「大袈裟だって…」
あゆむ「悠馬、夏目さんはその後どうしていたの?」
悠馬「ああ、簡単なことだ」
要するに、そのまま本を読み続けて、三日間部屋から出てこなかったのだろう。
鈴さんだと思えば、十分に有り得る。
悠馬「三日間何も食べずに本を読んでいたから、お腹が空いて食堂まで来たんだろうな」
真紅「見ていなくても、その光景が目に浮かぶな」
悠馬(だろう?)
悠馬「大方、冷蔵庫の前まで辿り着いたけど、空腹に耐えかねて倒れたんじゃないか」
つかさ「さすがお兄さんはおっぱいの神様です! 一部の隙もありません!」
あゆむ「……」
悠馬「あゆむ?」
俺の推理に感心するつばさとは対照的に、あゆむは納得しかねるようななんとも微妙な表情になる。
悠馬「何か、まだ気になることがあるのか?」
あゆむ「実は、そうなんだ」
悠馬「俺の推理におかしなところがあったのか?」
あゆむ「…もし、悠馬の推理が正しかったとして、だとしたらどうして冷蔵庫は開いていたんだろうって」
悠馬「? そんな事なら、冷蔵庫を開けてから倒れたとすれば辻褄は合うだろ」
あゆむ「辻褄はね、合うよ。でも、それじゃあ、あの叫び声の説明にならないよ」
悠馬「あっ」
そうだ。元はと言えば鈴さんの叫びを聞きつけて、みんな食堂に集まったんだ。
あゆむ「それに、こうも考えられない?」
悠馬「?」
あゆむ「冷蔵庫が開いていたってことは、夏目鈴は中から何かを取り出して食べたのかもしれない。そしてその食べ物には、何か仕掛けがされていたとか…」
一同「!!」
あゆむの言葉に、食堂に集まった寮生に衝撃が走る。
澪「仕掛けって、それ、毒殺ってこと…?」
悠馬「いや、鈴さんは死んでないから」
加奈「その、それじゃあ、誰かが意図的に鈴さんを罠に掛けたんですか!?」
つかさ「ま、ままっ、まさか、犯人はこの中にいる! という状況なのですか!?」
鏡「犯人は~、お前なの!」
つかさ「ひぃ! 違います! 私じゃないのですう!」
真紅「おいおい、何だか厄介な事になってきてないか?」
俄かに雲行きが怪しくなってきた事件の推移に、真紅が何を大袈裟なと言いたげに口を挟む。
悠馬(ああ。でも、可能性がゼロとは言い切れないんじゃないか?)
真紅「そうか? 私には下らない結末しか見えないんだけどな」
何はともあれ、早くこの場を収めなければ。
悠馬「まだ毒物と決まったわけじゃないんだし、そんな互いを疑うようなことは――」
鏡「仮に毒物じゃないとしても、毒物に匹敵する料理なら、考えられるの」
一同「………………」
加奈「な、なぜみんなして私の方を見るんですか!? 私はやってません! 濡れ衣ですう!」
澪「いや、だって、ねぇ?」
加奈「如月さん! なんで残念な人を見る目になっているんですか!」
鏡「前科者の言うことを信じるほど、私たちはお人好しじゃないの」
加奈「私の料理はそんな毒物チックな物じゃありません! そうですよね、悠馬さん! あゆむさん!」
悠馬「え? ああ、そだな…」
あゆむ「…うん。…そうだよ」
加奈「そっぽを向いて微妙な肯定をされました!?」
すまない、加奈。一度ならず君の料理でトリップした事のある俺には、その可能性を否定出来ない。
つかさ「おっぱいのおっきなお姉さんがそんな事を…。やはり、より大きなお胸に対する嫉妬が原因なのでしょうか」
加奈「とにかく私じゃありませんー!」
鏡「うるさいの、駄メイド」
加奈「駄メイド!?」
鏡「メイドと言うだけで時代遅れと呼ばれる昨今、その上料理も下手だなんて、観波加奈は駄メイドなの」
加奈「そ、そんな…。私、駄メイドなんですか?」
鏡の辛辣な言葉に、加奈が床に崩れ落ちる。人差し指でのの字を書く姿には同情を感じずにはいられない。
悠馬「なあ、鏡。何も加奈が犯人だと決まったわけじゃないんだし、あまり責めるのは…」
鏡「それは分かっているの」
悠馬「あ、そうなんだ」
意外にも、鏡はあっさり観波加奈犯人説を取り下げた。
鏡「他にも犯人候補はいるし」
悠馬「え、それは一体、誰なんだ?」
鏡「犯人は…、お前なの!」
澪「あ、あたし!?」
鏡が指差したのは、なんと澪だった。
悠馬「鏡、澪が犯人だなんてことはさすがに無いんじゃないか?」
澪「そうよ! それにあたしはどこかのメイドみたいな料理は作らないわ!」
加奈「如月さん!? それはどういう意味ですか!?」
唐突な容疑者候補入りに遺憾の意を唱える澪。当然と言えば当然か。
悠馬「一体どうして澪が犯人だってことになるんだ?」
鏡「その答えは、ここにあるの」
言って、鏡は自らの意外と豊満な胸を指差す。
悠馬「…ゴクリ」
真紅「…悠馬?」
悠馬(冤罪です!)
思わず喉を鳴らしてしまい、真紅にジト目を向けられた。
心中で言い訳をしつつ、鏡の言い分を聞く。
悠馬「それで、理由っていうのは?」
鏡「つまり、如月澪は夏目鈴の胸に嫉妬して、殺害を目論んだの」
悠馬「…ごめん。もう一回聞かせてくれないかな。耳がおかしくなったみたいだ」
鏡「つまり、如月澪は夏目鈴の胸に嫉妬して、殺害を目論んだの」
聞き間違いではなかったみたいだ。
悠馬「…そんなまさか」
鏡「これは、紛れもない事実」
悠馬「いや、でもそんな、胸の大きさに嫉妬してだなんて、いくらなんでも…」
澪「そうよ! 大体そんな証拠がどこに――」
つかさ「あっ!」
悠馬「どうしたんだ、つかさ?」
急に声を上げたつかさに全員の注目が集まる。
つかさ「いえ、私、見たことがあって」
悠馬「見たこと?」
つかさ「はい。あれはつい最近の事です」

天気のよい日でした。お姉さんは洗濯物を干そうとしていたのです。
私はその様子を偶然見てしまいました。
お姉さんは洗濯物の中に夏目さんの下着を見つけると…。
澪「これは…」
おもむろにそれを掴んで、
澪「…誰も、いないわね?」
キョロキョロと辺りを見回し、
澪「少しだけなら、いいわよね…」
ご自身で装着なされました。
澪「………………」
時間にして数秒だったと思います。その後、
澪「うっ…」
その大きさの違いに、少し涙ぐんで、
澪「こ、こんなものっ!」
凄い勢いで物干し竿に夏目さんの下着を干していきます。全部干し終わったお姉さんは言いました。
澪「く、悔しくなんか、ないんだから!」
真っ赤になったお姉さんは再び辺りを見回し、凄い勢いで去って行きました。

一同「………………」
つかさ「思い返してみれば、あの時のお姉さんの顔には、嫉妬の炎が灯っていた気がするのです」
つかさが話し終える。なんて、
悠馬「なんて、残念な現実なんだ…。澪」
澪「ち、違うの!」
澪が紅くなってアワアワと言い訳を始める。
澪「それは、その、確かに憧れたりしているけど! でもっ、それはあくまで憧れであって、そんな嫉妬とかじゃ――」
加奈「如月さん…。そこまで思い悩んでいたなんて、私、気づけませんでした…」
澪「ちょっとそこのメイド! 本気で悲しそうな顔しないの!」
鏡「悲しい事件だったの…」
澪「ああ、もう! 本当にあたしはやってないのーー!!」
つかさ「お姉さん…」
澪「何!」
つかさ「この世はしょぎょーむじょーなのです。今は小さなお胸に甘んじている私たちですが、いつか私たちもきょにゅーになれる可能性が――」
澪「だから違うって言ってるでしょ!? それに諸行無常はそんな使い方はしません!!」
悠馬「………………」
あゆむ「………………」
澪「そこの男子二人! 掛ける言葉が見つからないみたいな表情しない!」
いや、だって、男の俺たちが何か言うわけにもいかないし。
真紅「そうか。諸行無常なのか…」
悠馬(真紅。問題はそこじゃない)
なんだか段々話がおかしな方向になってきたな。
澪「大体、何であたしたちだけが疑われないといけないの! ここにいる全員が容疑者候補になるはずでしょ!?」
加奈「そ、そうです! 決め付け、断固反対です!」
悠馬「え? いや、俺、一応アリバイあるし…」
鏡「私もお兄ちゃんと一緒なの」
あゆむ「僕は、とくに理由が無い」
澪「本当に仕掛けられた罠だったとしたら時間帯のアリバイなんて関係無いじゃない! それに、とくに理由が無いで容疑者候補から外されるのなら、この世に解決出来る事件なんて無いわよ!!」
つかさ「はう! どうしましょう、私、アリバイがありません! このままでは、私も嫉妬に狂った犯罪者ということに!?」
鏡「大丈夫。つかさは良い子だからそんな事しないの」
澪「そこ! 偏った考えで判断しない!」
悠馬「みんな、少し落ち着いて――」
加奈&澪「悠馬(さん)は黙ってて(下さい)!」
悠馬「あ、はい…」
ギャーギャーと、あーでもないこーでもないと議論が交わされる。比例して、食堂に張り詰める空気も重く、淀んだものになってきた。
どうしたものかと考え始めた頃、
鈴「う、ううん…」
真紅「おい、悠馬。夏目鈴が目を覚ましたみたいだぞ」
悠馬「鈴さん!?」
一同「!!」
鈴さんが苦しそうに呻きながらも、意識を取り戻し始めた。食堂の喧騒も同時に収まる。
悠馬「鈴さん! 大丈夫ですか!?」
薄く目を開ける鈴さんの顔を慌てて覗き込む。まだ惚けているようだが、確かに意識を取り戻している。
鈴さんがゆっくりと、口を開く。
鈴「ここは誰? 私はどこ?」
悠馬「…あー、鈴さん。それは順番が逆です。正しくは、『ここはどこ? 私は誰?』です」
目を覚ますと同時に呆けた応答。しかし鈴さんからいつもの無駄に元気な気がなく、冗談でもなんでもなく素で間違えたようだから、なんとも反応に困る。
鈴「う…、ん?」
悠馬「鈴さん、大丈夫ですか? 俺が誰か分かりますか?」
鈴「悠くん?」
悠馬「そうです。鈴さん、さっきまで気を失っていたんですよ? 何があったか、自分で覚えていますか?」
鈴「何が…」
呆とした鈴さんは、数秒虚空を眺めるように視線を彷徨わせ、唐突に叫ぶ。
鈴「そうだ、アイス!」
悠馬「アイス?」
何の事かさっぱり分からない。
鈴「思い出した、アイスだよアイス。あれの所為で私は気を失ってたんだよ!」
加奈「えと、夏目さん、アイス、と言うのはあの食べるアイスのことなんでしょうか?」
鈴「それだよ、それ!」
まだ話が見えてこない。もっと詳しく話を聞く必要がありそうだ。
悠馬「鈴さん、出来れば詳しく説明してくれませんか? さっきからアイスが何なのかよく分からないんですけど」
鈴「あぁ、そうだったね」
鈴さんはオホンと咳払いをして、話を始める。

あれは今朝の事だった。
本を読み終わった私は、三日くらいご飯を食べていない事に気づいたんだ。
鈴「お腹すいた~~…」
空きっ腹を抱えた私は、いつものように悠くんが来るのを待ってご飯を集ろうかとも思ったんだけどね、偶には、自分でご飯を用意してもいいんじゃないかと、柄でもない事を考えてしまったんだよ。

悠馬「出来ればこれからもその心意気を捨てないで欲しいんですけどね」
まぁ、無理な相談か。

彷徨の体で食堂に辿り着いた私は、冷蔵庫のドアを開けて、中を見た。
鈴「すぐに食べれる物が、無い…」
そこには食材はあれど料理は無し。もうこの際生野菜でもいいかなと思った私は、それでも諦めきれず、冷凍庫を開けたんだ。

悠馬「そこでアイスを見つけたと?」
鈴「そうなんだ…」
鏡「あっ――」
悠馬「どうした、鏡?」
鏡「う、ううん。何でもない…」
悠馬「?」

冷凍庫の奥の方、隠すように保存されたカップアイス。誰の物かは分からなかったけど、その時の私にとって、それを食べないと言う手は無かった。
カップの蓋を開けるのももどかしく、味の確認もせずに私は付属のスプーンでアイスを一気に口の中に詰め込んだ。
あれは至福の瞬間だった。空腹に勝る調味料は無いと言うのはやっぱり本当だね。
でも、その瞬間はすぐにやって来た。
鈴「ん?」
冷たく、甘く感じたアイスが次の瞬間、
鈴「ふむぐっ!?」
激辛な本性を露にしたんだ!!

悠馬「激辛の、アイス?」
鈴「そうなんだよ! 酷いよね! 私は辛いのが苦手なのに!」
悠馬「人の物を取って置いて何を言っているんだ、という感じですが、もしかして気を失っていたのって…」
鈴「あまりの辛さに意識が飛んじゃったんだね」
悠馬「………………」
あまりにも下らなくて、その場の誰一人、口を開くことが出来なかった。
鈴「まだ唇はヒリヒリするし、汗掻いて気持ち悪いし、もう最悪だよ~~」
真紅「私の言った通りだろ? 下らない結末しか見えない、って」
悠馬(…そうだね)
何だかもう、どうでもいいや。
加奈「でも結局、そのアイスは誰の物だったんでしょうか?」
澪「あたしは、知らないわよ?」
つかさ「私も記憶にございません」
あゆむ「僕も…」
悠馬「だろうね…」
俺にはもう、大体犯人が誰なのか気づいていた。一人だけこっそりと、食堂から抜け出そうとしている人物。
悠馬「鏡ちゃん、どこに行くのかな?」
鏡「!?」
俺の一言で今まさに食堂から出ようとしていた鏡に、皆の視線が集まる。
悠馬「俺さ、この近くでこんなアイスが売っている所なんて知らないんだ…」
鏡「お兄ちゃんの記憶違いという可能性は…」
悠馬「そうかもしれない。でも、多分ここにいる全員に聞いても、知らないと言うんじゃないかと、俺は思うんだ」
鏡「………………」
悠馬「鏡ちゃん」
鏡「違うのっ」
と、鏡は言う。
鏡「ネットの通販で、パーティーゲーム用品、激辛アイスなんて、私は買ってないの!」
悠馬「へぇ、そのアイスってパーティーグッズだったのか…」
鏡「あ…」
つかさ「敷島さん…」
澪「さっき、あたしたちが犯人とか、言ってたわよね?」
加奈「………………」
あゆむ「………………」
口を滑らせた鏡は、俺たちの顔を見回して、
鏡「お…」
悠馬「お?」
鏡「お休みなさいなのー!!」
脱兎の如く逃げ出した。それは普段の引き篭もり振りからは想像も出来ないような、見事な走りだった。
一同「………………」
食堂に残された者たちの間に沈黙が訪れる。誰一人として鏡を追おうとしないのは、先にも言った通り、何かもうどうでもいいと思ったからだ。
加奈「…取り敢えず、寝直しましょうか?」
澪「…そうね」
つかさ「お休みなさいなのです~~…」
あゆむ「お休み…」
加奈の一言に、次々食堂を出て行く面々。残ったのは俺と真紅、そして鈴さん。
鈴「悠くん――」
悠馬「食べ物なら自分でなんとかして下さい」
鈴「シット!?」
鈴さんを残し、俺も食堂を出た。
真紅「どうするんだ?」
悠馬「取り敢えず、寝る」
真紅「日記は?」
悠馬「どうしようか…」
今日この日の無駄な騒動を、俺は記憶に残しておくべきか。それとも、忘れてしまうべきか。
悠馬「今日のことは、なるべく忘れたいな…」
それでも、やっぱり日記は書くけれど。

END

嵐山荘のとある一日

いろとりどりのセカイ二次創作、「嵐山荘のとある一日」は如何でしたでしょうか。楽しめたのなら幸いです。
この作品を機に、原作に興味を持って頂けたのなら光栄です。
私はこの作品の世界観が好きで、それを活かした作品を書きたかったのですが、同じくらい、作中の日常パートも好きで、こんな事があったらいいなと想像を膨らませた結果、本作が完成しました。
以前投稿した「ギルティクラウン -Another Crown-」の方も、私用で大分遅くなっていますが、絶対に続きを書くので、よかったら本作と一緒にどうぞ。
それでは、次回作もよろしくお願いします。
にいがき

嵐山荘のとある一日

FAVORITE様原作PCゲーム「いろとりどりのセカイ」の二次創作SSです。 夏休みの嵐山荘、そこに響き渡る悲鳴。主人公、鹿野上悠馬の師匠である夏目鈴が、何者かに襲撃された。 疑心暗鬼に陥る嵐山荘の面々。一体誰が夏目鈴を殺したのか。←※死んでいません。 犯人はこの中にいる!

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