ありしなき探偵(将倫)

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この作品は、東大文芸部の部誌で掲載されているなきシリーズの第九作になります。今回はミステリ要素皆無の、完全な過去話です。

 トラウマや悪夢といった思い出したくない記憶の一つや二つ、誰にでもあるものだ。天谷郁太にとってそれは中学一年のときの出来事だった。

「郁太! お願いがあるの」
 授業が終わり帰り支度を始めていた郁太の元にやってくるや、淵戸日奈は周囲を憚らずに大きな声でそう言った。
「なんだよ?」
 まだ慣れない中学のクラスの雰囲気を窺うように、郁太は声量を押さえて日奈の声に答えた。だが、日奈はそれに構うこともなく、身を乗り出し――さらに郁太に身体を寄せてくる。
「最近ね、面白い本を読んだの。郁太知ってる? 今話題になってるファンタジー作品なんだけど」
 クラス中の視線が集まっているのを感じ、郁太は居心地の悪さを感じた。日奈の言う小説ならば郁太も聞いたことくらいはあるが、それがどうお願いとやらに繋がるのかは見当もつかなかった。だから、馬鹿正直に日奈の問いに返すしかなかった。
「ああ、知ってはいるけど、それがどうしたんだよ」
 このとき、郁太は日奈が後ろ手に何かを持っていることに気が付いたが、それが何であるかまでは分からなかった。だから、日奈の持つ紙束が郁太の机の上に置かれたときも郁太は身構えることなくその様子を見ていた。
「それでね、私も書いてみたの」
「は?」
 郁太の口から漏れた疑問符は誰に拾われることもなく宙を漂った。郁太の反応が鈍いことに焦れたように、それでいて心底嬉しそうに日奈は同じ文言を郁太に押し付けた。
「だから、私も小説を書いてみたんだってば!」
 嬉々とした様子の日奈は郁太に顔を近付けてくる。郁太は自身の身を引くことで日奈との間の劇的な温度差を暗に示そうとしつつも、目の前の状況を未だ掴めずにいた。日奈が小説に影響を受けて自分でも小説を書いてみたのはいい。では、それを郁太の前に持ってきたのは何のためだ。何のお願いがあって郁太の下へやってきたのだ。
 そこまで考えて、郁太はようやく事の次第を把握した。
「つまり、俺にそれを読めっていうのか?」
 日奈は大袈裟なくらいに首を縦に振る。郁太は眼前の紙束に視線をやってから、次いで日奈を、それから周囲へと視線を移していく。この状況の何が嫌かって、中学に上がったばかりの段階で異性と仲良くしているのをクラスの連中に疎まれるのではないかということだ。日奈とは幼馴染みでしかないため、郁太自身それをどうこう思っているわけではない。多分に自意識過剰である可能性だってある。それでも、新しい環境でのスタートでへまをしたくない。
 郁太がこの後の自分の振るまいについて逡巡している間にも、日奈は勝手に話し始めていた。
「あー、でもね。実はまだ完成してないんだ。終わりまではちゃんと考えてるんだけどね、あのね、書いてるうちにどんどん次のアイディアが浮かんできて、それを足してたらまだまだ続けられそうで」
 郁太は日奈の言葉に一瞬耳を疑った。日奈が持ってきた原稿は優に五十枚程度はあるだろう。それで完成していないということはそれなりに長編になるだろう。それを読む労力を考えるのもそうだし、毎回日奈に原稿を持ってこられるのもいい迷惑だ。それこそ妙な噂が立ちかねない。
 これまでも日奈に振り回されることは何度かあった郁太だったが、今度こそはと思い、日奈の申し出を断ることにした。
「だからね、この作品が出来たら結構な大作になると思うの。それから書いてて思ったんだけど、自分の手で世界を作るとか、その中でキャラクターが勝手気ままに動き回るのとか、すごい楽しい。本当に小説ってすごいと思うよ。郁太もさ――」
「悪いけど、俺は読まないよ」
「え?」
 日奈の熱弁を遮って発せられた郁太の拒絶の意は、とたんに日奈の口調をトーンダウンさせた。今までの熱がまるで嘘のように冷めていく。それと同時に日奈の顔から表情が失われていった。
「完成してもいない作品なんて読みたくないし、授業だってどれだけ忙しくなるか分からない。遊びに付き合ってる暇はない」
 きっぱりと言い放ち、それから郁太は視線を日奈から逸らした。少しだけ心にちくりと刺すものがある。あわよくば、このまま諦めてはくれないだろうか。これ以上粘られても、郁太にもこの先の拒絶の仕方は分からなかったし、あまり想像したくなかった。
「そっか……」
 しばらくの沈黙の後、消え入りそうな日奈の声が郁太の耳に届いた。ここで顔を上げてしまったら、恐らく郁太は自分の行いを後悔するだろうと分かる。だから無視を決め込むしかない。この話はこれで終わりだと。
 だが、そうはならなかった。
「――分かった。書き上げる。絶対にこの作品書き上げる」
 日奈の言葉に郁太は思わず顔を上げてしまった。そして、まともに日奈と視線を交えてしまう。日奈は瞳を潤ませて、今にも泣きそうな表情をしていた。しかし、その瞳の奥には決して折れることのない強い色が浮かんでいる。
 日奈はぐすんとしゃくり上げると、きびきびとした動きで郁太に背を向けた。といっても同じクラスなので向かうのは日奈自身の席なのだが。後には、呆然として声も出せないでいる郁太と、机の上に置かれた原稿用紙だけが残された。
 帰路に着く者、部活への見学に赴く者など、教室からは続々と生徒が退出していく。ようやく郁太が鞄を手に帰ろうとしたときには、教室には半数の生徒も残ってはいなかった。もちろん、日奈の姿もいつの間にか消えていた。
 郁太のトラウマが、ここから始まる。

 翌日、郁太が学校にやって来たとき、特に変わった様子はなかった。昨日の日奈とのやり取りが気になってはいたものの、日奈は既に登校していて自分の席に着いている。声を掛けようかとも思ったのだが、宿題をしているのか、日奈は机にかじりつくようにしているのでそれも躊躇われた。結果、郁太も朝の一番頭が冴えている時間帯を授業の予習に当てることにした。
「郁太!」
 日奈が郁太の下にやってきたのは、放課後のことだった。その剣幕にやや押されながらも、今度は郁太も日奈が手にしている物を見逃すことはなかった。またしても、その手には紙の束が握られている。だが、何かおかしい。
「昨日今日の分! まだ完成はしてないけど、読んで!」
 どさりという擬音が相応しいだろう。それだけの分量の物が郁太の机に置かれたのだ。
「まさかこれ、一日で書いたのか?」
 日奈が頷く。郁太はその紙束から視線を離すことが出来なかった。おかしい。どう考えてもおかしい。目測だけでも原稿用紙で二百枚はある。一日で八万字も文章が書けるのか。しかも手書きで。一体どれだけの速度で、どれだけの時間を掛けたのだろうか。
「お前――、」
 郁太が視線を日奈に戻したときには、日奈はもう自分の席へと戻っていた。だからもう郁太の言葉は届かなかった。昨日と変わらず、郁太と原稿だけが残された。
「これ、どうすりゃいいんだよ」
 郁太は独り言ちた。昨日日奈が持ってきた分も、とりあえずはロッカーに保管している。今日もそうするしかないだろう。だが、郁太には嫌な予感しかしなかった。日奈は言っていなかったか。どんどんアイディアが出て足していると。結構な大作になると。そして、絶対に書き上げるのだと。
 日が明けた次の日、郁太は普段通りの時間に学校へと向かった。午前八時三十分。まだクラスの半分も生徒が集まっていない時分に郁太は既に自席に着いている。そして、日奈もその時間には着席していて右手を動かしていた。郁太にはそれが何の動きか完全に分かっていた。今日の内に日奈が郁太の下にやって来ることをも。
 案に相違せず、日奈は昼休みの時間に郁太の机までやって来て原稿用紙の束を郁太の目の前に置いた。昨日と全く変わらず、二百枚相当の原稿用紙の束をだ。
「郁太、ごめん。まだ完成はしてないんだけど、出来れば読んで」
 それだけを言う日奈の表情は二日前と比べて明らかに窶れていた。やや頬が痩けているし、目の淵には隈も出来ている。
 郁太が日奈に言葉を返すよりも先に、日奈は自分の席に戻り、恐らくは続きの原稿に向き合った。もはや、郁太が声を掛ける暇すらなかった。それほどに、日奈は小説を書くことに心身を捧げている。それは見ていて寒気を覚えるほどに。
 日奈の小説がどれだけ続くか分からないが、近い内にロッカーには入りきらなくなるだろう。そう見越した郁太は、机の上でこちらを睥睨してくる用紙を鞄に詰め込んだ。手にしたときに改めてその重さを思い知った。

 それから明くる日も明くる日も、日奈は郁太の下に原稿用紙を持ってきた。細かいばらつきはあるものの、その量は大体にして二百枚だった。日奈の変化は一日毎に顕著に表れていた。恐らくはろくに睡眠も取っていないのだろう。全体的に窶れていることに加えて、目は血走り、髪は解かれることもなく、手は黒く汚れている。それでいて、日奈の表情は実に楽しそうなのだ。郁太はそんな日奈に狂気を感じずにはいられなかった。日に日に、日奈が壊れていくように思えてならない。
 一週間が過ぎた頃、崩れていく日奈を見かねた郁太はようやく決心をした。事の発端は、郁太が日奈の原稿を読むことを拒否したことだ。だとすれば、それさえ受け入れれば、この暴走とも言える日奈の振る舞いも止められるかもしれない。もう形振りも構ってはいられない。
 放課後になり、日奈は覚束ない足取りで郁太の方へやってきた。どうしてそうまで書き続けることが出来るのか、郁太にはまるで分からない。そんな状態でも笑いながら原稿用紙を持ってくる日奈を、郁太はおぞましくすら思う。本当に、こんな悪夢は早く終わってほしい。日奈はこれまでと同じように、一日で書くにはあまりに膨大な量を郁太の机に置いた。
「郁た、もうちょっとで終わるから――」
「日奈!」
 呂律すら怪しくなっている日奈の手を郁太は思わず掴んでいた。そのままにしていたら、また直ぐに去ってしまいそうだったから。そしてもう捕まえられないような気さえしたから。大きな声で名前を呼んでしまったことに顔が熱くなりそうだったが、それよりも掴んだ日奈の手の方がよほど熱かった。この手は今までどれだけの字を、物語を紡いできたのだろうか。
「なに? わたし、続きかかないと」
「読むから。ちゃんと日奈の小説読むから。だから、少しは休んでくれ」
 郁太は真っ直ぐに日奈の目を見て懇願した。ここまで誰かに何かをしてほしいと思ったことは初めてかもしれない。それほどに日奈は草臥れていて、だが進むのを止めようとしない。たぶん、この時点で郁太は気付いていた。どういう答えが返ってくるのかを。
「うん、でもまだ書きおわってないから、わたしは書くよ」
 日奈は力なく郁太の手を振りほどくと、自分の席へと戻っていった。昨日まで同様、席に取り残された郁太だったが、机上の紙束を見詰める視線は昨日までのそれとは異なっていた。日奈の残した用紙を手に取ると、足早に教室を後にした。もう、時間を無駄には出来ない。
 家に帰った郁太は早々に日奈の原稿を読み始めた。一週間で溜まった原稿はもう千五百枚を越えている。これを全て読み尽くすのだ。そうしないと日奈は止まらない。また同じことを繰り返す。
「よし、始めるぞ」
 意気込んで原稿用紙をめくり始めた郁太だったが、その手は直ぐに止まってしまった。最初はまだ良かった。ちゃんと考えて書いているし、表現を凝ったり分かりやすいように書こうという努力も見られる。だが、筆に乗ってきたのであろう箇所辺りから、俄然読みにくくなってしまい、紙をめくる手は一向に進まなかった。
 日奈が書いている小説は、自身でも影響を受けたと言っていたファンタジー作品だ。一から架空の世界を作り、その上で登場人物を配置して物語を作っていく。設定もだいぶ色々と考えているようで、随所に専門用語が散見される。登場する人物数も多く、各人がそれぞれ過去に何かを抱えている。そこまでは郁太も理解出来た。だが、肝心の中身がまるで入ってこない。唐突に表れる造語は、満足な説明もされないまま右から左へと流れていき、かと思えばまるで思い出したかのように詳細に、しかし分かりにくく説明が描写されていたりする。登場人物同士の関係も複雑に入り乱れており、気付けば主人公には兄やら義妹やら種族の違う弟やら親族がどんどん増えていく。
「これ、どうやったらこうなるんだ……」
 内容を把握しながら読み進める作業をしていたせいで、初日の分を解読し終える頃にはもう夜もかなり更けていた。これでは到底日奈の書くペースには追い付かない。そう悟った郁太は、原稿用紙の先に見える巨大な影をひしひしと感じながら、夜に安眠を求めることを諦めた。命を削らん勢いで執筆をする日奈を止めるのだから、それくらいの覚悟は必要だ。
 気付けば夜が明けていた。郁太は原稿から顔を上げてカーテンの隙間から射し込む朝日に目を細めた。一晩を丸々費やして、二日分を終えるのがやっとだった。これは本格的に一日を読解作業に当てないといけない。
「と、とりあえず学校に行く準備を……」
 椅子から立ち上がるとき、足の踏ん張りがあまり利かなくなっていた。重量を増した瞼に抗いながら、郁太はまず顔を洗いに行った。一歩を踏みしめる毎に、脳内には膨大な設定が渦を巻く。下手をすれば今にもこんがらがってしまいそうだ。顔を洗うときも、一瞬たりとも気が抜けない。
 一晩目と頭を酷使したせいか、家を出て太陽を身に受けたときには目眩が襲ってきた。中学までの道程も、ひどく長く感じられる。
「郁太ー。やっとしゅう盤まできたよ。もうすこしで終わるから」
 日奈が今日の分の原稿を持ってきた昼休みにも、郁太は三日目の分を読み進めていた。結局、授業中も原稿と対面を続けてしまっていた。その間に読んだ分量を遥かに越えるものを持ってこられては、本当に終わるのかどうかも分からなくなる。しかも、日奈は郁太の姿をその視界に捉えながらも、郁太が原稿を読んでいることには全く触れなかった。もしかしたら、日奈はもう郁太のことさえ見ていないのかもしれない。
 午後の授業中も読み、帰宅したら読み、夕御飯を食べたら読み、風呂に入ったら読み、そして夜が明けるまで読む。そんな決まりきった日々を郁太は三日過ごした。その間、自分でも分かるくらいに心身ともに疲弊していった。身体は必要最低限のことにしか力を入れようとはしなかったし、意識を集中しなければ今自分が現実にいるのか日奈の小説の中にいるのかさえ分からなくなりそうだった。もう、現実も架空の世界もどちらも悪夢でしかない。
 だが、そんな悪夢もようやく終わろうとしていた。
「やっと……追い付いた」
 日奈が小説を持ってき始めて十日目――もとい、日が変わって十一日目にしてようやく郁太は日奈の小説の最新のところまでを読み終えた。郁太が読み始めてからは四日目だが、あまりに長く辛い四日であった。日奈はこれを三倍近くも続けているのかと思うと、気がおかしくなりそうだ。今の日奈の心身状態を鑑みるだに恐ろしい。
「これで、やっと……」
 しかも喜ばしいことに、小説の中で起きていた大きな争いは終結し、恐らくは今日の分で全てが終わりそうなのだ。
 心なしか気分が上向く郁太ではあったが、身体は下を向くばかりで気持ちにはまるでついてこなかった。朝御飯を食べる手も、着替えをするときの身体の動きも、まるで自分の身体ではないかのようにぎこちない。それでも、今日ばかりは学校へ行くことは――日奈に会うことは苦に感じなかった。
「日奈、よみ終わったぞ」
 学校で日奈の姿を見るや、郁太は自然と話し掛けていた。もう周囲の目を気にする余裕もない。ただ、終わりが近いことに安堵するばかりだ。
「あ、読んでくれたんだ。こっちももうおわったよ」
 その言葉を聞いて、郁太は胸を撫で下ろした。今日で全てが終わる。これで解放される。郁太はその場で日奈から原稿用紙を受け取る。この時間から読めば、放課後までには読み終えるだろう。郁太は机に手を掛けながら、自分の席に戻った。日に日に重くなる頭を何とか持ち上げ、最後の原稿に取り掛かる。あと残されているのは後日談だけだ。新しい設定が出てくることもないはずだ。郁太は誘われるがままに架空世界へと落ち込んでいった。
 ふっと気付いたときには、目の前に日奈がいて、周囲にほとんど生徒はいなかった。どうやら放課後になっていたらしい。授業を受けていた記憶もなければ、活字を読んでいた記憶もない。ただ物語の大団円の記憶があるばかりだ。
「読みおわった?」
「ああ」
「かんそうは?」
 日奈にそう問われ、郁太はどう答えたものか逡巡する。ここまで来て下手に刺激するようなことを言えば、また苦難が舞い降りてこないとも限らない。だが、あれこれ迂遠なことを考える余裕もない。郁太は、言葉が自分の口から出るに任せることにした。
「正直にいえば、よんでいるのは辛かった。表現がへた、せっていが分かりにくい、語りても文単位でかわる。ほんとうに誰かによませることを考えているのかはなはだ疑問だ。でも、内容はわるくはなかった。何がつたえたいのかはなんとなくでも伝わってくる」
 そこまでを一息に言う。途中で何度も噛んだのは見逃してほしい。郁太は、続く言葉をこそ日奈には聞いてほしかった。
「だから、日奈が今後もかくというなら、読まないことはない。でも、こんかいみたいなことはやめてくれ。ちゃんと授業は聞いてすいみんは取れ」
「そっか。わかった。ありがとう」
 穏やかな声でそう言う日奈に、郁太はようやく自分の思いが伝わったのだと思った。日奈は続けて言葉を郁太に投げる。
「じゃあ次もよろしくね。今回はすごくたのしかったね」
 そう言って郁太を見詰める日奈を目の当たりにして、その言葉とは裏腹に郁太は怖気がするのを感じた。前言は撤回せざるを得ない。日奈の嬉々とした満面の笑みに鬼気を覚え、その凶行に恐慌する。そうか、その表情はそういう意味だったのか。日奈の焦点を結ばない視線は、郁太に新たな楔を打ち込む。
 郁太がこの数日で感じていたものはあくまで「苦痛」だった。だからそれが終わることに安気した。だが、日奈は「愉楽」とともに筆を進めていた。そしてまた次の物語を作れることに安気している。この二つの差は、埋めようもないほどに大きい。
 郁太はこの瞬間に悟った。自分に選択肢などないのだと。ただ受け入れるしかないのだと。
 この数日のことが一瞬で思い起こされる。そうして次の瞬間、郁太の意識は糸を切るように容易く、ぷつりと途絶えた。

ありしなき探偵(将倫)

なき探偵にて郁太が強制的に読むという設定を持ち出したときには、その内容については全く考えていませんでした。ちなみに、今作で日奈が十一日で書いた量の約半分である四十四万字を書くのに、将倫は三年を費やしました。

ありしなき探偵(将倫)

何故淵戸日奈は小説を書くようになったのか。何故天谷郁太はそれを否応なく読まされることになったのか。郁太のトラウマを記した悪夢のような十一日間。なきシリーズ第九作にして初の外伝作品。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-14

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