GUNNER 第零章

機械文明が進んだ未来。
未だ人類は化石燃料からの脱却を果たせず、それを含む資源の利権争いが各地で発生していた。
各勢力の資源の争奪はいつしか国家間の戦争へと変化していく。
戦争の過程で、人類はまた新たな兵器を生み出す。
GUNNER(ガンナー)と呼ばれるそれは、まるで人の様な形をしたロボットだった。
戦車砲のような固定兵装に加えて人に似た五本のマピュニレータを持ち、格闘、射撃、又は簡易的な作業を可能とする。
ガンナーの普及と研究により、戦場は大きく変わった。
激しい生存戦争の末、現存する大まかな勢力は三つ。
圧倒的な物量を誇るアメリカ。
豊富な資源を誇るロシア。
そして。
その二国が狙う東の小国。第一世代ガンナーの製造主、日本。
この三つ巴の抗争は、既に二十年もの間続いていた。
そして未だ、終は見えない。

ゴゥン……、と重々しい音を立てて空母の後部ハッチが開いた。
空母の中にはアメリカが威信を掛けて開発した制圧用ガンナー《グラント》が六機、収容されていた。
眼下に広がるのは一面の緑だ。しかし彼等の知っている平坦な森では無い。
「好きじゃ無いんだよな、ニホンの森林地帯は」
「起伏が激しいからな。足下を掬われないようにしろ」
兵士達がそんな会話を始める。
その時、木々の間から細長いミサイルが飛んで来るのを部隊長が捉えた。
「ミサイルだ! 飛べッ!」
その言葉に全員がすぐに反応し、空母から飛び降りる。
空母に飛来したミサイルは甲板に突き刺さり、大爆発を起した。その爆風がしんがりの一機を巻き込む。
「うわッ……!」
「チィッ!」
彼らは全員が訓練された軍人だ。反応は遅くなかった。ただ、ミサイルの爆発範囲が予想以上に大きかったのだ。
「各機姿勢を保て! 回避運動を第一に! 錐揉みになるなよ!」
その直後、山の中腹で何かが三つ、光ったのを部隊長だけが見逃さなかった。
瞬間的にサイドのブースターを吹かし、一機分右にずれる。
超音速の弾丸が肩口を掠めるのと、五人に減った部隊員のうち二名のバイタルデータがロストするのが同時だった。
「隊長、今のは!?」
「狙撃型だ…。よもや完成していようとは……ッ!」
狙撃という概念が無かったわけではない。狙撃型ガンナーの開発は各国が勢力を上げて進めている。しかし、今まではその安定性をどんなに引き上げても一キロ先のガンナーに、その装甲を貫通できる弾丸を当てることは不可能とされてきた。だが、
「山の地表まで、三キロはありますよ⁉」
確かにガンナーに内蔵されたコンピュータが演算した相対距離は3016を示している。
「ニホンのガンナー開発者が、化け物だという事だ。速射タイプではないのが救いだな」
速射タイプならば既に全員撃墜されているはずだ。
あえて撃墜しなかった、という可能性も無くはないだろうが、今の日本にそんな余裕があるとは思えない。
そう判断し、とにかく地表に身を隠すことを優先する。
暗色の森林迷彩を施した残り三機のグラントが枝をへし折り、茶褐色の土を飛び散らせる。
「フォーメーションをVに変更。陣形を崩すな!」
三機のガンナーが互いの背中を守るようにかたまり、襲撃に備える。
高威力の榴弾を発射する右手のバズーカ砲を構え、左腕にマウントされたナックルシールドを掲げる。
狙撃型がいるのに散開しないのは危険だが、ここは深い森林の中だ。しかも相手に地の利がある。下手にバラけて各個撃破されてしまう可能性を考えれば固まるほうがまだ安全だ。
「周囲を警戒しろ。五秒待つ。こちらが仕掛けるのはそれからだ」
三人の兵士が息を殺す。視覚、聴覚、そして戦場で培った第六感を研ぎ澄ませ、敵の襲来を警戒する。
一秒が長く、また酷く重かった。
サブモニタの下段に印されたデジタル時計が確実にその数を増やしていく。
そしてその時が訪れる、瞬間。
バチィッ、と何かが爆ぜるような嫌な音が彼らの後ろから上がった。
前に集中していた二人が思わず後ろを向く。
そこには、仲間の姿はなかった。ただあるのは、鋭利な何かで切り裂かれた数ブロックの鉄くずだけ。
それが仲間の残骸であることは考えなくともわかった。
「なんだってんだよ……。力も、資源もない、極東の弱小国のくせに!!」
最後の部隊員がそう叫び、左腕に内蔵されたショートレンジガトリングを幽かな影に向けて狙いもせずに乱射する。
木々が爆ぜ、土が飛び散り、粉塵がもうもうと舞い上がる。
「落ち着け!あいつはレーダーに映らなかった。相手はステルス機なんだぞ。レーダーが利かないのに視界まで奪ってどうする!!」
部下を制止させようとする部隊長の喝が飛ぶ。しかし、恐怖にのまれた兵士がその戦闘中に立ち直ることは不可能に近い。
「ハハ……。どうってことない。俺たちに、アメリカに勝てる奴なんざ……。ハハハハッ!」
あたり一面にばらまかれる弾丸の雨は部隊を中心に扇状の更地を作り上げていく。
その中に深紅の双眸が煌くのとガトリングの咆哮が鳴りやむのが同時だった。
「逃げろ!早く!!」
そう叫んで回避運動をとったその瞬間には、すでに彼の命はなかった。
双振りの細長い実体剣を振りぬいた形で持った華奢なガンナーが、残る一機を冷たく見据える。
その背中についた羽のような大きな装置をたたみ、ゆっくりと、次の標的を定める。
「その羽が、ジャミング装置らしいな」
一人残った隊長が不敵な笑みを浮かべた。
別に勝つ算段があるわけでも、生き残る見込みがあるわけでもなかった。
「来るといい。私も精一杯あがこう」
独り言のようにつぶやいたそれが届いたのか。
剣を鞘に入れた相手が正面から距離を詰めてくる。
それに応じるように、盾をパージし、ガトリングとバズーカを敵ガンナーに向かって乱射する。
決着は、刹那の時間しか要さなかった。


この森だけで何機のガンナーが沈み、何人の兵士が命を落としたのだろう。
もはや数えることもばかばかしい。
しかし私たちは、戦うことをやめられないのだ。
ここは名も無い兵士たちの戦場。
開戦から二十年。二十年たった今でも、まだ終わりは見えない。
幾多の屍の上に得たものとは、一体なんだったのか。
名も無き兵士は今日も戦い、そしてその命を戦火に散らす。
ここには名誉も、ほんの少しの正義もなかった。
ただあるのは、腐りきった意地だけだった。

GUNNER 第零章

GUNNER 第零章

未だ世界は化石燃料からの完全なる脱却を果たせず、その利権を巡って争いを続けていた。 そんな最中、人類は新たな兵器【GUNNER(ガンナー)】を開発する。 戦場の姿は変わり、兵士達は開戦から二十年立った今もなお、戦い続けていた。 これは、終わり無き戦場の物語。 とりあえずプロローグです。 続きは書くかわかりません(^^;;

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-09

CC BY-ND
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