春の祭典

春の祭典

  群集の騒めき
さあ春だ
陽気に騒ごう
ヘイホー!ヘイホー!

身を凍えさせる
寒さは消えた
ヘイホー!ヘイホー!

身体が動きゃ
心の鎖も解けていく
溜まっていたものを
全部吐き出せ
ヘイホー!ヘイホー!

萌える若葉と共に
身体中からウズウズと
蠢くものが現れる
ヘイホー!ヘイホー!

春の魔法に誘われて
ヘイホー!ヘイホー!


  夢見る少女
ほら!若葉が燃え立つ
あたしも花開くのかしら

すくすくと育ってきたあたし
なんか身体の中から
芽が出てきそうなの

女になるって憧れる!
みんながうっとりするような
綺麗な人になれるかな

それを思うと
はしゃぎたくなるの

こんなにはしゃいだら
まるで子供ね
可愛いだけの
子供じゃだめね

春だから
コートを脱いで
半袖のブラウスに着替えるの

素肌を見せると
男の子の視線が熱い

男の子って
どんな感じなのかしら
なんかそう思うと
火照ってくるの

でも怖い
男の子がじゃなくて
あたしの中から
巻き起こるものが怖い

あたしがあたしで
なくなるような


  恋する男
ああ!愛しい君
大切に見守っているんだ
僕はいつも…

君が傷つくことがないように
君を悲しませるものがないように
静かに見守りたい

だけど君は
怪しげな男たちの接近に
僅かに警戒しながらも
大きな期待を持って
受け入れる

僕は苛立つ
君の白く柔らかそうなうなじや
慎ましやかな胸の膨らみは
男たちがその手中に入れたいと
思わないわけがないことに
君は気付いていないのか

君のその身体を
蹂躙すること以外には
男たちの目的はないことを
感じないのか

ああ僕は
君を守る
だから僕こそが
君のその白い肌に
触れる資格があるのだ

薄着になった
君の身体のしなやかさが
溢れ出している

野獣のような男たちに
汚される前に
僕の物にしよう

それが君を守ること

暖かな春が
君を飲み込む前に
僕の記しを君に付けよう

君が嫌がって抵抗しても
僕は君のために
やり抜くよ
どんなことをしてでも!

僕の中で疼いている
うずうずウズウズと吹き出す全部を
君の中にぶちまけるのだ!


  群集の騒めき
春の祭りだ
ヘイホー!ヘイホー!

しまっておいた物を
全てぶちまけろ!
ヘイホー!ヘイホー!

抑えようとしたって
春の魔法にゃかなわない
ヘイホー!ヘイホー!


  まともそうな紳士
諸君!
君達の未来は輝いている!
一時の感情に流されてはならない!

迫り来る欲求や欲望に
流されてはならない!

君達から吹き出そうとする
強い衝動は
生きるための大事なパワーだ!

無秩序に吐き出さないで
労働や学問に振り替えるのだ!

そうすれば
君らは社会のためになり
皆の絶大な支持を得られるのだ!

世のため人のために生きることが
諸君等の幸福だと信じ給え!


   へそ曲がり
ええっ!なんだって!
人のためにだって!
それが幸福だって!

あっ!はぁ!
笑っちまうぜ

俺が満足しないで
何処に幸福が!

俺は食いたいものを食いたい
俺は飲みたいものを飲みたい
俺は眠りたい時に眠りたい
俺は抱きたい女を抱きたい

俺の身体を満足させろよ
身体の中から欲望が蠢く

人のためって
他人の欲望が満たされても
俺の身体は悶えてばかり

これが幸福であるわけがない!


  まともそうな紳士
諸君!
感情に流されてはいかん!
理性で感情を抑えなければ
欲望の奴隷となるぞ!

欲望は満たされることはない
だから幸福にはなれないのだ!


  へそ曲がり
そう言うお前は欲望がないのか!

毎日毎日飯を
食っているのはなんだ!
子供がいるのは
嫁とやったからだろう!

こっそり欲望を満たしてるくせに
他人には禁欲を説く!
二枚舌の偽善者め!


  群集の騒めき
さあ春だ
陽気に騒ごう
ヘイホー!ヘイホー!

春には欲望が騒ぎ出す
魔法のせいさ
魔法のせいさ

そうさ春は無礼講
何をしたって赦されるのさ

さあ春だ
陽気に騒ごう
ヘイホー!ヘイホー!


  哲学者
ああ
野山には若葉生い茂り
豊かな自然の豊満さを
たたえている

動物たちはのどかに
萌え出る草花を頬張り
冬の餓死への不安から
解放されなんとする

なんという美しさだろう
心が洗われると皆が言う

だがこの景色を構成する
個々の生命体は
互いにせめぎ合い
争いぬいて生きている

そのせめぎ合いで
形作られたこの自然は
妙なる美しさを示す

なれば我ら人間も
せめぎ合い争いあって
醜いありさまを
晒していると思われているが

我ら人間も
絶妙なバランスを持ち
見事なほどの美しさを
醸し出していると考えられる

内部で構成する個々の個体は
その利害関係故に
その美しさに触れることはないが
それは息を呑むような
壮大な構成美を
見せているのであろう


  淫売
あたしゃ
汚れた女と言われてる

そりゃ飢えた男どもに身を任せ
たっぷり楽しませては金を貰う

でも仕事だと割り切れば
割と楽なもんよ

嫌なお客と思っても
男の一物を突っ込まれれば
それなりに気持ちいいのさ

あたしゃ
男に抱かれるのは
大好きさ

好きなことして
お金になれば
こんないいことはないよ

だからと言って
立派だとは思わないよ
当然

できるなら
男に買われるよりも
男を買うぐらいになりたいなぁ

だけど汚れてはいないさ

あたいが汚れてるんなら
とてつもなく短いスカートで
あそこの匂いをプンプン漂わせて
男を誘う若い娘どもだって
汚れてきってるさ

女は男に抱かれたい
男が女を抱きたいように
だって女は肉でできてるんだ
だから骨のような
硬い男の一物が
欲しいのは当たり前だよ

さぁて
今日はどんなアレが
あたいの中に
突っ込まれるのかなぁ!


  群集の騒めき
さあ春だ
陽気に騒ごう
ヘイホー!ヘイホー!
やりたいことはやればいい!

汗と唾液と体液で
びしょびしょになるくらい
身体をぶつけ合い
そしてドロドロに溶けてしまおう!

身は汚れても
気持ちは昇天

さあ!春だ!春だ!
陽気に騒ごう
ヘイホー!ヘイホー!
春の魔法があるうちに


  老いらくの恋
私は愛した
一人の女性を

女房子供もいるのだけれど
定年が近づいて
家族からも当てにもされず
誰からも期待されなくなった時

親切に
私を気遣ってくれる
一人の女性が
果てしなく大切に思えて

湧き上がる情熱の炎を
かき消すことはできなくて
恋心に導かれるままに
彼女の近くを離れることが
できなかっただけ

彼女を愛していたから
もちろん彼女の幸せも願った

でも
彼女を他の男に
取られるのが怖くて
彼女の後を追い
彼女を見守っていたのだ

そして彼女に
私の気持ちを打ち明けると
彼女の優しさや気遣いは
一気に消え失せ
まるで汚いものを見るように
私を扱うようになった

私は悔しかった
確かに私は聖人ではなく
彼女の肉体に触れることを望み
またその想いを
隠すこともできなかった

たが彼女は
男との接触が嫌いな訳ではない
むしろ強くそれを望んでいるのに
その一分を
何故私に分けてくれないのだ

体力の落ちた身体と
皺の増えた顔の私だが
彼女を求める情熱は
薄ら若い者どもに負けはしない

世間でも恋愛は
最高に美しいものと
讃えているではないか

何故私だけ
異常者の扱いを
受けなければならないのだ

金と地位を盾にして
女を我が物にしている
そんな輩もいるではないか

私の情熱は純粋だ

それが年甲斐もなく
冷製さを見失ったから悪いのか

しかし溺れることもない恋愛など
気持ちの高ぶりを得られない

純粋に強く
彼女を求めた私は

異常で変態で危険な愚か者
そして犯罪者
そんな筈はない

有り得ない


  詩人
春の祭りはもうすぐ終わる
溢れ出していた
生のときめきも
やがて夏の気だるい暑さに
飲み込まれていくだろう

ああ
この生きている瞬間
命を感じる今の時

我が命は
時に享楽に耽り
時に悲しみに沈み
時に人を愛し
時に人を憎み

流転しながら姿を変え
その快楽と絶望と
血と汗にまみえた肉体と
嵐の如く荒ぶる精神と
それら総てを巻き込み

或いは昇り
或いは落ち
当て所もない旅路を急ぐ

善も悪も
命の中に混濁し
意味不明な人生という
物語を紡ぎ出す

春の芽吹きから
夏の熟成
秋の収穫
冬の待機

終わりのない旅路
死をも越えて
永遠に回帰しながら
物語は続く

我は思う
人生の物語の
善し悪しなどないのだ

ただ
自身の物語を
受け入れるのか
拒絶するのか

幸せも不幸も
喜劇も悲劇も
その一点に集約する

今あるこの瞬間
我が命があることを
全身全霊を持って受け入れよう

ならば
あらゆる人生は
美しいはず

それは美しいはず


  群集の騒めき
さあ!さあ!
春ももうじき終わる
祭りも終わる

春の魔法が切れたら
夏の魔術を待てばいい

ヘイホー!ヘイホー!
夏の祭りも楽しいぞ!
陽気に騒ごう!
陽気に騒ごう!

春の祭典

春の祭典

戯曲型長編詩の構成で書いた。 私の持っている詩的イメージを全て投入してしまったかもしれない。 この後の作品は、同じイメージの焼き直しか。 それもいいだろう。

  • 自由詩
  • 短編
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2013-05-21

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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