謳歌すべきは大学生活(将倫)

東大文芸部の他の作品はこちら→slib.net/a/5043/  ※web担当より

登場人物や舞台にモデルはありますが、この作品はフィクションであり実在する諸々とは一切関係ないことを始めに述べておきます。
「春」については東大文芸部の部誌静寂21が初出です。合評会では内輪ネタに過ぎると言われました。夏以降は自分が三年生のときに三ヶ月おきにちまちま書いてました。

 うららかな春の日差しが注ぐ四月下旬。三年生になり専門課程への所属が決まり早一ヶ月。大学の授業にも慣れ始め、つい窓の外を見上げると広がる青い空。その空は駒場の広々とした空とは異なり、都会の中で少し狭く感じられた。気が付けばいつも駒場のあの開放的な雰囲気を思い出している。
 最近の惚けた様子を友人に心配され、大丈夫だと思いながらも安田講堂一階横の保健センターを訪れた。受付を済ませると、看護士に問診票を渡された。
・一~四学期で一番好きな学期はいつですか。
・駒場キャンパスの好きなところは何ですか。
・本郷キャンパスの好きなところは何ですか。
 上記のような質問が十数個並び、診断の前にささっとそれらに回答した。その回答を鑑みて病状などの参考にするのだろう。
 そして告げられた結論は――。
「“駒場依存症”ですね」
「――は?」


「正式名称“慢性懐想適応症候群”、通称“駒場依存症”でしょ? 知ってるよ」
 二限目の講義が終わった昼休み、中央食堂で昼食を食べているときに、マサキは先日保健センターに行くよう忠告してくれたイクヤに診断結果を伝えた。するとイクヤはさも常識とでも言うような口振りをしてみせた。
「主に学年が変わるときにキャンパスが変わる大学で発症する病気で、基本的に五月病と併発するんだ。それまでの自由かつゆとりある学生生活とのギャップが原因だと言われている。中でも特に東大生に多いのは、入学者全員が病気の予備軍であることと、東大が受験の最難関であるが故にその揺り返しが大きいからなんだって。だから、全国での発症例はありながら、駒場依存症という名称が付けられているらしいよ」
「イクヤはどこでそういう情報仕入れてんのさ? でもまあ、確かに三学期のゆとりぶりは異常だったからなあ」
「ほらほら、そうやって何でもかんでも駒場のときのことを思い出すのが駒場依存症の症状なんだよ」
 知らず知らずの内に見事に駒場に依存しきっているマサキは、う、と唸りため息をついた。道理で最近全く授業が耳に入らないわけだ。
「でも、どうすれば治るんだかねぇ。一応精神安定剤だとかはもらったけど」
 そう言いながらマサキは昼食後の一錠を口に含むと水で流し込んだ。一方のイクヤは、そんなマサキの様子を見ながら少し怪訝な顔をした。
「マサキ、もしかして治療法それしか教わっていない?」
「あ、ああ。薬飲んで様子見ろって」
 マサキがそう答えるやイクヤは大きなため息をついた。落胆しきったそのため息に、マサキも思わずぎょっとしてしまった。
「その医者、きっと新米だね。駒場依存症について何も分かってないよ」
 じゃあお前は何か知ってるのかよ、と悪態をつきたくなるマサキに、イクヤはぐっと顔を近寄せて指を一つ立てた。
「いい? マサキが今すべきことはただ一つ。五月祭を謳歌すること!」
「えっと……はい?」
「あのね、学校側だって駒場依存症のことは把握しているし、改善しようとしている。駒場依存症を治療するために大学が用意したものが五月祭なんだ」
 マサキはイクヤの言っていることが全く理解出来なかった。五月祭と駒場依存症がどうしたら関連すると言うのだろうか。普通依存症を治すには依存の対象を排除することが行われる。だが、駒場はキャンパスであり到底排除することなど不可能だ。だからどうするか。その答えがイクヤ曰く五月祭らしい。
「駒場でのゆとり生活にいつまでも憧れるなら、それを忘れられるくらい本郷での生活を好きになればいい。大学側はそう考え、学園祭という形でその機会を与えたんだ。考えてもみてよ。何だって梅雨に入ろうかっていう微妙な時期に学園祭をやるのか、その理由を。一年生なんて第一回企画会議にも出れずに急遽参加しなければならないのに。全ては駒場依存症患者が本郷は素晴らしいということに気付いてもらえるようにするためなんだよ」
「なるほど」
 熱い口調で力説するイクヤにマサキはいたく納得してしまった。だが、学園祭が駒場依存症を治すためにあるというなら、よく考えるとおかしな点がある。
「あれ? でも、じゃあ駒場祭は何であるの?」
 仮に駒場依存症患者が五月祭で治癒したとしても、その後に駒場祭があってはまた駒場依存症になってしまう可能性がある。それでは駒場祭を開催する意味がないどころか逆効果だ。
「よく気付いたね。駒場祭は駒場依存症を完治させるための最後の一押しなんだ」
「どういうこと?」
「パンフとか見れば分かるけど、五月祭よりも駒場祭の方が歴史が浅い。これは駒場依存症対策に大学が五月祭を開催するようになっても、完全には治り切らなかった患者がいることに大学が気付いたからなんだ。五月祭だけでは足りないってね。ところで知ってる? 五月祭と駒場祭の違い」
 イクヤに訊かれて、五月祭と駒場祭のそれぞれの様子を思い浮かべたマサキだったが、キャンパスが違うというだけで随分雰囲気が異なり、どこをどうと指摘することは出来なかった。そうこうしている間にイクヤは先に答えを言ってしまった。
「所属する学生の違いから、五月祭の方が学術的なんだよ」
 ああ、と大いに納得して頷いたマサキだったが、やはりそれを駒場祭と繋げることは出来なかった。
「えと、それで?」
「分からないかなあ。駒場祭までの半年間、新三年生はとことん専門的な勉強をすることになる。そうなってしまうと、駒場祭では物足りなくなってしまうんだよ。しかも、駒場祭は五月祭に比べて百近くも参加企画数が多い。これじゃあせっかく広々と感じられていた駒場キャンパスも何かきゅうきゅうとしてしまうよね」
 イクヤはそこで言葉を区切ると、マサキに思考させるように間を空けた。マサキはマサキで、ただただイクヤの言に感心するばかりだった。なるほど確かに、専門的な知識が充分に身に付いた時期ならば、駒場の一般教養は生温いと感じるようになるかもしれない。だんだんと駒場依存症に対する駒場祭の意義が見えてきたような気がした。
 そして、イクヤは最後の一押しと言わんばかりに再びマサキの眼前に指を突き立てた。
「つまり、駒場依存症に罹かった患者を五月祭で治療し、それが完治したかどうかを駒場祭で確かめるんだ。はなから駒場祭に来ない本郷生もいるけど、それはそれで構わないんだ。もう駒場への興味が失せたとみなせるからね。それで、じゃあ駒場祭に訪れた依存症患者はそこで何を感じるか。駒場祭に物足りなさを感じるならば完治したと言える」
「駒場祭をより楽しいと感じたら?」
 マサキの問いにイクヤはため息をつきながら肩を落とした。
「駒バックでもしない限り、その後も授業は本郷だからね。また半年間勉強に専念させて、五月祭で経過を見ることになる」
 このループが行われることで、やがて駒場依存症を脱却していくことになるのだ。とはいえ、大学に在籍していられるのは四年間。うち本郷にいられるのは二年間。このループが永遠に繰り返されるわけではない。そう考えると、駒場依存症は早く治さないと、という焦りも生じてしまう。社会に出るにしろ院に行くにしろ、いつまでも駒場を引き摺っていてはその後の人生にまで差し支えが出てしまう。マサキは今自分が置かれている事の重大さにようやく気が付いた。
「そうか。なら、なるべく早く駒場依存症を治さないとな」
 うんうん、と頷くイクヤを横目に、それでもマサキは五月祭を謳歌するということの実態が掴めないでいた。五月祭に参加するには、今からでは遅すぎるのだ。
「でも、もう企画の締切とかも過ぎちゃってるよな。どうやって謳歌すればいいんだ?」
「あのね、何もマサキが企画の中心にならなくてもいいんだよ。所属サークルでもゼミでも友達でも、マサキの近くで五月祭に参加する団体とかないの?」
 質問に質問で返されたのでわずかに虚を衝かれたが、少し考えるだけでもマサキの脳裏にはいくつかの団体が思い浮かんだ。
「ああ、あるけど」
「だったらそこに加わらせてもらえばいいんだよ。ただ物資を運ぶのを手伝うだけでもいい。とにかくその団体に、五月祭に参加したという自覚が持てればいいんだ」
 謳歌というから如何程のものかと思えばそんなものかと、肩透かしを食らったような気になったマサキだったが、なるほど確かにそれならば今からでも充分に間に合うとは思えた。駒場の空気は非常に心地がよく忘れがたいものではあるが、後々のことを考えれば駒場依存症は治しておかねばならない。マサキは意を決した。
「イクヤ、ありがとう。今年の五月祭はとことん楽しめるようにするよ」
「うん、頑張って。俺は特に参加するつもりはないけど」
 人が決意した矢先に出鼻を折るようなことを言いやがって、とマサキは内心で悪態を付きながらも、ここまでの情報を提供してくれたイクヤには感謝した。これが善意に依るものであると信じたい。
 それから、マサキは積極的に五月祭に参加するように動き始めた。友人や知り合いに掛け合い、手伝いが出来ることはないかと聞いて回った。誰も彼も祭りに対して真剣で、マサキの頼みを無下にするような団体はほとんどなかった。
 勉強も忙しいながら、マサキは実に充実した一ヶ月を過ごした。五月祭のことで集まりがあれば発言力がなくても飛んでいったし、授業でレポートが出ればイクヤらと一緒に作成したりもした。もうそこに、駒場に憧憬を見るマサキの姿はなかった。

 そして迎えた五月祭当日。
 マサキはオープニングから参加し、企画の手伝いをしたり自身も五月祭を積極的に楽しもうとあちこちを見て回った。四百近い企画の全てを回るのは、たとえ二日あってもなかなかに大変だった。その中でも感じたことは、達成感と満足感だった。雑用とはいえ自分が手伝った企画が繁盛しているのを見ると、自然と胸が熱くなりとても嬉しかった。フィナーレでは思わず涙ぐんでしまった。五月祭で気付いた、五月祭だからこそ気付けた本郷の素晴らしさが、確かにそこにあった。

 無事に五月祭が明けた最初の授業で、マサキはとても晴れ晴れとした表情で講義を聞いていた。心が清々しいせいか、内容も頭によく入ってくる。遅刻したイクヤにも快くノートを見せた。イクヤの遅刻癖は駒場のときから全く変わっていない。四月の間は勤勉だったというのに。
「その様子からすると、駒場依存症は治ったみたいだね」
 休み時間になり、イクヤはマサキに話し掛けてきた。授業中にイクヤが何度か自分の方をちらちらと見てきたのをマサキも知っていたので、その話題が挙がるだろうとは思っていた。そして、それに対する答えははっきりとしている。
「ああ、もうばっちりだよ。それもこれも駒場依存症について教えてくれたイクヤのおかげだよ。ありがとう」
 それは良かった、と満足気にイクヤは頷いた。もう間もなく次の授業が始まる。
「そういえば、イクヤは五月祭の間はどうしていたんだ?」
「せっかくの休日をわざわざ大学に行くために使おうとは思わなかったからね。レポートも何も無かったし、俺は久し振りにゆっくりさせてもらったよ。それこそ駒場の三学期みたいだったなあ」
 イクヤのその言葉にマサキはしばし固まってしまった。今のセリフはどこかで聞き覚えがあったからだ。それは三年生になったばかりのかつての自分を見ているようだった。
「駒場の生活は良かったなあ」
 イクヤのその一言でマサキは確信してしまった。時刻は次の授業の開始を告げていた。
「イクヤ、お前、駒場依存症なんじゃ……?」

 例年よりもやや遅く明けた梅雨。進級し三年生になってから早三ヶ月。まだじめじめした空気が残る中、ふと窓の外を見上げると燦々と輝く太陽。季節は本格的な夏に突入しようとしている。
 だが、夏休みを目前にして敢然と立ち塞がる大きな壁。僕らの眼前にて待ち受ける九年来の宿敵がいる。それは――。


「ああー、期末試験やばいなあ」
 二限目の講義が終わった昼休み、中央食堂で昼食を摂っているときに、マサキは間近に迫る脅威に危機感を顕にしていた。向かい合って座るイクヤもそれに大きく頷く。
「本当、もう一週間切ってるもんね」
 マサキはイクヤの顔を見つつ、実は顔を合わせるのが久し振りであることを思い出した。五月祭が終わってからめっきり大学の講義に顔を出さなくなったイクヤだったが、聞いたところ本郷系のサークルで重役に就いたらしい。だから、駒場依存症についての心配はほぼ無いと言ってもいい。
「最近イクヤのこと全然見てないもんな。授業出てないとリカバー大変なんじゃないか?」
 幾ばくかの皮肉も込めてマサキは尋ねてみた。大学に来ないからといって、その時間に家で素直に勉強をするイクヤでないことはマサキとてよく知っている。
「うん、まあね。サークルも忙しいし、夏休みのことを考えてるだけで数時間があっという間に過ぎちゃうからね」
 よくもまあ皮算用でそこまで時間を潰せるものだと、半ば感心しながらもマサキは小さくため息をついた。だが、日頃予習も復習もほとんどしないマサキとて、置かれている状況は同じなのだ。マサキは容易に想像出来る近い未来に、ため息を重ねざるを得なかった。
「はぁ、一夜漬けになりそうな気がしてならないなあ」
 イクヤとの付き合いもそれなりに長くなるが、マサキにはそうしてイクヤについて気付いたことがいくつかあった。イクヤには、ある単語についてのスイッチがあるようなのだ。マサキが何気なく呟いた言葉についてやたらと詳しかったり食い付いてきたりする。イクヤのそうした性癖にマサキが気が付いたのは、まさに駒場依存症のときだった。
 そして、今もどうやらそのときらしい。イクヤは途端に目付きを変えて、マサキの眼前に指を一本突き立てた。
「いい、マサキ? 試験勉強に一夜漬けは絶対にしちゃダメだよ!」
「――はい?」
 とはいえ、イクヤがいつ何の単語に反応してスイッチを切り替えるのかは全くもって分からないため、マサキはすっとんきょうな声を上げるしかなかった。辛うじて、ああ、スイッチが入ったんだな、と思うのが精々である。
「だから、一夜漬けにいいことなんて無いんだって」
 殊更強調して言うイクヤに、マサキは肩を竦めてみせた。イクヤの弁は多少無理に聞こえることもあるが、基本的には楽しいので、マサキも慣れてきてからは上手く話を聞き出すことにしていた。
「へえ、そうなんだ。最後の詰め込みには悪くないと思ってたんだけどな」
 そんなマサキの思惑を知ってか知らずか、イクヤは大げさに肩を落としてみせた。そうしてきっと鋭い視線をマサキへと向けた。
「そう、確かに多くの学生は試験勉強が間に合わないとなると、睡眠時間を削ってでも間に合わせようとするよね」
「夜は長いからな。少しでも勉強の時間を確保したいと思うなら、そうなるのも自然だと思うけどな」
 マサキは上手く相槌を打ちながら、イクヤがどんな話の進め方をするのか期待していた。かくいうマサキは、だが一夜漬けという手段をこれまで取ったことはなかった。だから、もしかしたらイクヤの考えていることはマサキの意見と一致するかもしれない。そういう期待も一部ではあった。
「でもね、心理的な話からすれば、時間が足りないのは日頃から勉強の習慣がなってないからだよね。中学校のときみたいに毎日予習復習していれば、時間が足りないなんてことはまずあり得ない。だから、一夜漬けをする必要性がそもそもない。時間がないっていうのは、現実逃避による錯覚に過ぎないんだよ」
 マサキは思わず目を丸くしてしまった。急に厳しい言葉で日頃の怠慢を糾弾している。しかし、その言は正論極まりない上、マサキはまさに現実逃避組だったので反論など出来るはずもなかった。ただ、見苦しい皮肉を交えることが精一杯だった。
「……まあ、現に俺もイクヤもその通りだよな」
 今まで滑るように舌を回していたイクヤは、うっ、と寸時詰まったが、直ぐに話を再開した。
「そ、それにね、試験は一日限りじゃない。俺たちなんかは二週間にも渡って行われる。そうした場合の一夜漬けの弊害って分かる?」
 イクヤの論法は、こちらに質問をすることで強調する、というパターンがわりかし多い。そしてそういう場合、こちらは無理に答える必要はない。イクヤが誘導してくれるし、構わず突っ走ってくれることもある。なので、マサキは考える振りだけをして、適当に答えた。
「うーん、結局時間が足りなくなる、とか?」
「言葉で言えば同じだけど、多分マサキの意図しているのとは違うね」
 落胆するでもなく感心するでもなく、イクヤは少し困惑したような表情を浮かべている。もしかしたら答えが適切でなかったかな、とマサキはどう取り繕うべきかを思案した。だが、マサキが心配するまでもなく、イクヤは展開の仕方を修正した。
「聞き方を変えようか。一夜漬けをして試験に臨んだ。試験が終わり家に帰ってまずすることは?」
「寝る」
 マサキは即答した。経験則ではないが、それくらいは容易に想像が出来る。イクヤも予想通りの回答に満足しているようだ。
「そう、原義に立つ狭義の一夜漬けは、一睡もしないで時間を勉強に費やすことだ。ともなれば、試験が終わった後の眠気は尋常じゃない。でも、そこで寝てしまってはまるで意味がない。試験はまだ続くんだから」
 ああ、そういうことか、とマサキは深く納得した。最終日ならともかく、日中の時間を睡眠に費やしてはまた時間が足りなくなる。しかも昼に寝ると、惰眠は貪れるくせにあまり疲れが取れた気がしない。要するに、睡眠時間も勉強時間も足りなくなるわけだ。長丁場には決して向かないことがよく分かった。
「なるほどな。仮に夜の内に数時間の仮眠を取ったところで、疲れが完全に取れるわけじゃないから、結局は同じことなんだな」
「そうそう。寝るなら、ちゃんと六時間とか七時間とか、まとまった睡眠を取った方が良いんだよ」
 一段落が着いたところで、二人の間に少しの沈黙が訪れた。気付けば結構な時間が経っているし、二人ともとっくにご飯を食べ終えている。マサキとしては、これでイクヤのご高説が終わりだとは思えなかったので、イクヤの様子を窺いながら黙している外なかった。
 そうして待っていると、イクヤはふと思い出したかのようにまた話し始めた。
「そういえばマサキは知ってるかな? 暗記に最適な方法って」
 突然転換した話題は、試験には関係ありそうでも一夜漬けとは関係がありそうに思えなかった。だから、マサキは虚を衝かれたように反射的に答えていた。
「――いや」
 そうすると、まるでイクヤはその答えを待っていたかのように嬉しそうに破顔した。どうやら次の説法が始まるらしい。
「じゃあ次は逆説的に一夜漬けを否定してみようか」
「逆説的に? つまり、睡眠の有用性を説くってことか?」
 マサキの解釈にもイクヤは満足気に頷いた。だが、先程の質問と合わせて考えると、イクヤがこれから何を言わんとしているのかは自ずと分かる。マサキは少し怪訝そうにしながらも耳を傾けた。
「テレビやなんかで見たことあるかもしれないけど、暗記に最も適する時間って睡眠の直前なんだ。寝ている間に、脳が記憶を整理して忘れないように定着させてるんだ。ほら、夢がまさにそのいい例なんだよ」
 確かにそんな話を聞いたことがあるかもしれない。マサキは何度か相槌を打ちつつも聞きに徹する。イクヤは尚も話を続けた。
「あとね、人の計算能力が最も活発になるのは、起床後数時間だって言われてるんだ。この二つの事柄が何を意味しているか、もう分かるよね?」
 熱く語るイクヤはマサキに答えを迫った。散々逆説的に、と言っているのだから、その返答は容易だ。マサキは暗記と計算が結ぶものを頭の中で思い描いた。
「どちらも『睡眠』が鍵になるってことだろ?」
 イクヤはぱちりと指を叩いて鳴らすと大きく頷いた。そして身を乗り出すとマサキに顔を近付けた。
「その通り。三つ挙げた話からして、一夜漬けがいかに無意味なものか分かったかな?」
 マサキはわずかに身を引きながらこくこくと頷いた。元より一夜漬けなどする気のないマサキからすると、このありがたいご教示の方がまるで意味がないものではある。
 そのとき、ふとマサキの脳裏を過ったのは、四学期の期末試験のことと大型連休明けにあった中間試験のことだった。あのとき試験に臨むイクヤはひどく眠たそうだったことをマサキは記憶している。
「あれ? でもそういえばイクヤって、何度か一夜漬けしてなかったっけ?」
 マサキがそう問うと、痛いところを突かれたようにイクヤは顔を歪めた。そうして苦笑いを浮かべながら、実は、と切り出した。
「実はそのことに気が付いたのがつい最近なんだよね。だから、この試験からは一夜漬けしないように、と今から意気込んでいるんだ」
 マサキはイクヤの言葉にいくつか気になる単語を聞き取った。最近、この試験、一夜漬け。
 最近そのことに気付いたというのなら、当然日頃の勉強が追い付いているはずがない。だとしたら、イクヤは勉強時間が「足りない」のではないだろうか。これはイクヤが話した一つ目の場合にまさに合致している。
 時刻は間もなく三限目の始まりを告げようとしている。二人はトレーを下膳口に返すと、屋外への階段を上る。階段を上りながら、マサキは十分にあり得る近い未来を想像して、イクヤに声を掛けた。
「まあ、試験の寝ブッチには気を付けろよ?」
 外に出ると、暑い夏の日射しが二人を待ち構えていた。

 暑かった夏から一転し、次第に寒くなり人々の着衣も厚くなり始める季節。気付けば、新学期を迎えて一月が経とうとしている。ふと窓の外を見上げると、青く澄んだ空に鳥が寂しげに飛んでいる。
 駒場依存症のことを知ってから半年が経ち、完治を自覚していてもやはり気になってしまう。完治への最後の一押しとなる行事までついにあと三週間を切ったのだ。その行事は――。


「駒場祭が近付いてきたな」
 二限目の講義が終わった昼休み、中央食堂で昼食を摂っているときに、マサキはいよいよ迫る審判の日に緊張の混じる声音でイクヤに告げた。
「うん? ああ、そうだね」
「俺は行った方がいいのかな? 駒場まで行くの面倒なんだよなあ」
 駒場祭へ行き、そこで物足りなさを感じたら依存症は完治。あるいは、そもそも行かなければ興味を失ったと見做して完治。
 駒場依存症の最後の一押しとして用意された駒場祭の意義はそこにある。
 イクヤはコップに注がれた水を飲みながら、少し考える素振りを見せた。イクヤとて、駒場依存症に掛かったことがあるので他人事ではないはずだ。恐らくそのことについて思案しているのだろうと考えていたマサキだったが、次に発せられたイクヤの言葉には思わず目を丸くしてしまった。
「ねえ、マサキ。駒場祭って何のためにあるか知ってる?」
 当たり前の質問に、マサキは出すべき答えを飲み込んでしまった。半年前のまさに同じ場所で熱弁を振るい駒場依存症について説いたのは、他ならぬイクヤだ。イクヤがそれを忘れているはずがない。
 多少怪訝に思うところはあるが、マサキはそれこそイクヤの受け売り通りの答えを返した。
「駒場依存症が治ったかどうかを見る、最後の一押しだろう? イクヤが教えてくれたことじゃないか」
 マサキがそう言った瞬間、イクヤはにやりと笑みを浮かべ、目付きも変わった。マサキには、ああ、スイッチが入ったんだな、と思うのが精々だった。ただ、夏休みを挟み久し振りのこの感覚に、懐かしさを覚えるだけの余裕はあった。マサキも聞く準備だけは整っている。
「確かにそうだ。けどね、駒場祭というのは駒場依存症に罹患した者だけのためにある行事じゃないんだよ」
 イクヤの扱いに関して既に要領を得ているマサキは、今打つべき適切な相槌を挟んだ。
「へえ、じゃあ何のためにあるのさ?」
 潤滑油を得たイクヤは、よく回る舌で話の続きを口にした。ただ、その続きは例によりイクヤの論法に則ったものだった。
「それなんだけどね、マサキは十一月という月をどういう風に考えてる?」
 どうと言われても、駒場依存症でもなく駒場祭でもなく、十一月のことを問われてもマサキには返答のしようがなかった。ただ、銀杏が臭いなということしか頭には浮かばなかった。
「どう、って言われてもなぁ……」
「聞き方を変えようか。マサキは、偶数学期についてどう考えてる?」
 マサキはそれでイクヤの聞きたいこと、その真意の一部を垣間見たような気がした。駒場祭が開催される十一月は、新学期が始まり一月が過ぎた頃だ。これは時期としては五月病、あるいは駒場依存症とよく似ている。
 そして、イクヤは二学期でも四学期でもなく、「偶数学期」と言った。つまり、一年生も二年生もその対象に含まれているということだ。流石に三年になってから六学期という表現はほとんど使われないので、三年以降は無視しても構わないだろう。
 そこまでのヒントを得た中で、マサキは過去の自分を思い出しながら、十一月がどういう時期だったかを思い出してみた。
「うーん、そうだな。一年のときは少しだれ始めたかな」
 マサキのその言葉を待っていたかのように、イクヤはぐいと身体を乗り出してきた。このような挙動にも慣れたマサキとしては、イクヤの洋服が食器に触れやしないかと心配するばかりだ。
「そう、それだよ。一年生にとっては、慣れない大学生活に加えて過密な授業スケジュールで大変だった一学期が終わり、新学期になると授業数も少なくなってきてついだれてしまう時期なんだ。じゃあ二年生にとっては?」
「えっと、確か、進振りが決まったはいいけど、一学期並みのコマ数に辟易としていたな。三学期のゆとりから離れられずに中々気が引き締まらなかった」
 ぱちりと指を鳴らすイクヤの顔はとても楽しそうだった。こういう会話をしているとマサキ自身も楽しくなってくるので、だからついイクヤの熱弁にも付き合ってしまうのだ。
「一年生にしても二年生にしても、どちらも勉学に対するモチベーションが上がらない時期なんだよ、十一月っていうのは」
 今年の五月祭の経験から、マサキには次にイクヤの言わんとしていることが手に取るように分かった。
「つまり、そのモチベーションを上げようってことか?」
「うん。祭りという大きなイベントに参加することで、それまでの緩んだ生活態度を切り替えようというのが駒場祭の大きな目的なんだ。それに、勉学に励むようになればそれは駒場依存症への予防策にもなるしね」
 マサキはいたく感心した様子で何度も頷いたが、イクヤの表情にあまり変化は見られなかった。つまり、それはまだ言い足りないことがあるということだ。マサキは一頻り頷いた後、イクヤの次の言葉を待つべく耳を傾けた。そしてマサキの予想通り、再びイクヤはいつもの調子で話し始めた。
「そういえばマサキって一学期の成績はどうだったの?」
 とは言ったものの、少し突飛な質問と突き付けられた過去の痛い現実にマサキは寸時答えに詰まった。
「急に嫌な所を突いてくるな。――散々だったよ。あの時はまだシケ対の制度を最大限に活用出来てなかったからな。期末試験が情報戦であるということを思い知らされたよ。単位は取れたけど、俺は完全に情報戦に負けてたな」
 マサキの答えは、イクヤの弁の新たな燃料となる。その水を得たような表情を見ると、イクヤはマサキの成績を知っていてそのような質問をしているのではないかと勘繰りたくもなる。というか、確か一学期の話はイクヤにもしていたはずだ。
「そうなんだよ。東大の試験は勉強の量もそうだけど、それよりも情報が物を言うことが多い。そして、その情報を得るためには何かしらのコミュニティに所属するのが手っ取り早い。普通の学生だと、それはクラスかサークルだ。何が言いたいか分かる?」
 クラスかサークルに所属することと駒場祭との間に何か関係を見出だそうとしたマサキは、そのコミュニティこそが駒場祭を作り上げるものだと直ぐに気付いた。ただ、ここでイクヤのお株を奪うのは心苦しいし、ここまで来て答えがそんなに単純であることにも些か疑問が残る。とりあえずマサキは呆ける振りをしてみせた。
「なんだろうな。やっぱりそういう団体とは仲良くした方がいいんじゃないか?」
 遠からず近からずという返答をしたが、イクヤは思いの外納得の表情で頷いている。
「その通りなんだ。情報戦とはいえ、それもまた勉強だ。クラスの仲を良くして結束を高め、情報戦に有利になろうとするから、駒場祭におけるクラスでの参加率は高いんだ。五月祭と違って強制でないにもかかわらずね」
 イクヤは少しの間を空けたが、その長さはマサキに口を挟ませる猶予は与えなかった。
「それに、サークルもこの時期は代替わりが多いんだ。新しい執行代で結束を高めようというのもあるし、最後の大仕事という位置付けにも出来る。どちらにしても、切り替えという言葉がぴたりとくる。駒場祭はやはりそうした駒場生のための祭りなんだよ」
 なるほどと唸らせるものは確かにあるが、最後の質問が予測可能であった上どうも押しが弱かったせいか、マサキは春や夏ほどに感心することは出来なかった。そして、マサキのそんな思いは如実にその場の空気に現れてしまった。どうにか間を持たせようと、マサキは少し話題を逸らせた。
「そ、そういえばイクヤのところは駒場祭で何か出し物とかするのか?」
 マサキの発言が白けそうな場の空気を良く出来たかは分からないが、イクヤはさして気に留めている様子はなかった。如何せん普段から飄々としているために分かりづらい。
「模擬店をやるみたいだよ。でも俺は担当じゃないから、詳しいところはよく知らないんだよね」
 ふーん、とマサキは相槌を打った。それが合図となったのか、二人はどちらからともなく席を立った。毎回思うのだが、この会話が切れるタイミングというのはいつもちょうど良く、今も三限の開始まであと十分というところだ。下膳口で食器を戻した二人は階段を上り始めた。
「駒場に行くのも久し振りだなあ。何だか楽しみだよ」
 先を行くマサキは、後方でのイクヤの呟きにため息をつかずにはいられなかった。夏学期の試験でイクヤは一つ寝ブッチをしており、フラグを立てるセンスは抜きん出ている。
「駒場依存症をぶり返すなよ?」
 願わくは、友が無事進級出来んことを。

 寒波の押し寄せる季節。手を擦り合わせ、白い吐息で暖めても、吹き付ける風が直ぐに体温を奪っていく。それは本格的な冬を体感するに充分な程だ。
 いずれ訪れる春に向け、各教育機関が期末試験や入学試験といった壁を設ける。そうした例に漏れず、三年生最後の壁が、一週間という短い猶予を与え、僕らの前に聳然と立ち塞がっている。


「期末試験までもう一週間切ってるな」
 二限目の講義が終わった昼休み、中央食堂で昼食を摂っているときに、マサキは間近に迫る脅威にそれほど危機感を感じるでもなく、泰然とした様子で昼食に箸をつけていた。向かい合って座るイクヤも何度か頷くものの、マサキと同様にその顔に焦りの色は見られない。
「何でだろうな。夏と違ってそれ程やばいと思わないんだよなあ」
「きっと卒業までの単位数に余裕が出来てきてるからじゃない? あと、これまでの試験から、自分が思っている以上に単位が来やすいことに気付いたとか」
 イクヤの推察にマサキもなるほどと頷く。ざっと計算すると、二、三個の単位を落としたとしても四年になって授業を取る必要はない。そうした心的な余裕がある種の慢心を生んでいるのかもしれない。
「イクヤも単位には余裕あるの? 夏学期に何個か落としたって聞いたけど」
 そう、イクヤは夏学期の試験で単位を落としている。直前にマサキにご高説をのたまったくせに、試験を寝ブッチしたのだ。
「ああ、俺は四学期に他学科の試験を受けてたからね。それで帳消しになったって感じかな」
 せっかくの貴重な単位をもったいない、とマサキは思いつつも、どうせ余っても他に使い道がないのだから、使えるときに使ったイクヤの迷断は正しいのかもしれない。
「それで? 今学期はちゃんと単位取れそうなのか? 年内は全然イクヤのこと見なかったけど」
 マサキはコップに口をつけながら、イクヤの現状を尋ねた。
「ああ――、そのことなんだけどね、そろそろ例の物を貸してほしいんだけど……」
「例の物?」
 不意に出てきた意味深な言葉に、マサキは自然と復誦していた。イクヤの言う例の物が何か分からなかったし、急に下手に出た態度も気に掛かる。そうして考えている内に、マサキは年末にイクヤが漏らしていたことを思い出した。
「授業ノートのことか」
「そう、それ。貸してもらえる?」
 授業に出てなければ、当然板書は写せない。そうすると試験勉強も出来ない。だからノートを借りて不足の箇所を補う。確かに、イクヤの申し出には理があり、マサキとてそれを断ろうとは思わない。だが、それにしても遅すぎやしないだろうか。イクヤは自分が一体いくつの講義に出席していないか、把握しているのだろうか。マサキは思わず嘆息をついた。
「まあ、いいけどさ、間に合うのか?」
「大丈夫だって。それくらいの時間はあるから」
 忍ぶように笑いながらイクヤはノートを受け取った。マサキはノートを手渡しながら、ふとあることを思い付いた。
「そういえば、イクヤはコピー派? 手書き派?」
 マサキの問い掛けに、イクヤは一瞬きょとんとした顔を見せた。それから、マサキの意図に気付き再びその表情に笑みを浮かべた。
「俺はコピー派だね。手書きはやっぱり面倒だよ。量も多いしね」
 ふーん、と相槌を打ちながら、内心でマサキは少し拍子抜けした。ここがイクヤのスイッチになるかと思っていたからだ。
「そういうマサキはどっちなの?」
 マサキの思惑は外れてしまったが、会話はまだ続いている。マサキは思考を会話の方へと戻した。
「俺は手書き派だな。何ていってもコピーは金が掛かる。それが嫌だ。それに、俺は誰かさんとは違ってちゃんと授業に出てるから、ノート借りるにしても量が少ないからな」
 盛大な皮肉を込めた台詞に、イクヤは言葉を詰まらせ何も言い返せなかった。勝ち誇ったような気分になったマサキは、普段ならイクヤが語り通すようにそのまま話を続けた。
「それにさ、よく言うじゃん。実際に手を動かした方が記憶に残りやすい、って。順に追っていくから理解もしやすいしな」
 マサキの話を聞きながら、イクヤは片肘を机につき顎を手のひらに乗せた。どうも納得がいかないようだ。
「それは確かに思うところではあるんだけどね。やっぱり写すのって時間取られるし面倒なんだよね」
「ま、人それぞれってことだな」
 マサキは頷きながら腕時計に目をやった。まだ三限の始まりまでには少し時間がある。周りを見ても、まだ会話に花を咲かせている集団は多い。試験が近くても、昼休みにはみなそうしたことからは離れているのだ。
「――ょうぶなの?」
 マサキは周囲の様子に気を取られていたため、不意に話し掛けてきたイクヤの言葉を聞き損ねた。
「悪い。聞いてなかった。何て言った?」
 マサキが聞き返すと、イクヤは幾分怪訝な顔で同じ言葉を繰り返した。
「だから、マサキは試験期間に入る度に体調崩していたようだけど、大丈夫なの?」
「ああ、そのことか。さあ、どうだろうな」
 マサキは僅かに顔を歪めると、何とも投げやりにそう答えた。
 確かに、先学期も先々学期も、試験の直前になって風邪を引いていた。幸いにも単位を落とすようなことはなかったから良かったものの、マサキ自身そのことには辟易としていた。
「そんなに試験受けたくないのかな?」
「いや、そんなことは今までなかったから、別に試験が嫌だってわけじゃないだろうけど……」
 そうは言うものの、二回続けてとなると些か疑いたくもなるというものだ。試験嫌悪体質とでもいうのだろうか。
「でも、二度あることは何とやらって言うよね」
「やめろ。イクヤのフラグ立ては洒落にならない」
 イクヤが不吉なことを言うものだから、マサキは慌てて否定した。それを言うなら三度目の正直だ。イクヤはけらけらと笑っているが、マサキにしたら笑い事ではない。今からでも決意を固めておこうと心に決めた。
「今回は万全を期するよ」
「どんな?」
 イクヤの期待のこもった視線を受け、マサキは胸を張り答えた。
「不必要に家から出ない」
 マサキの即答に、イクヤは口を閉じることも出来なかった。おそらくは、呆れているのだろう。しばらくの間が沈黙で保たれ、やがてイクヤは呟くように言った。
「マサキ、それって単なる引きこもりじゃない?」
「解釈のしようは人それぞれだ」
 苦笑混じりのイクヤにも、マサキは真剣な表情で返した。こうした空気はもはや真面目顔で押し切るしかない。それが功を奏したのか、その後直ぐに会話は別の話題に逸れた。
 そして、気付けば時刻は三限の開始間近に迫っていた。二人は席を立つと、食膳を持ち出口へと向かった。この食堂を使い始めて早一年。思い返せば、駒場依存症を始めこの一年は色々なことがあった。学部生としてここに通えるのも残り一年と考えると、中々に思うところも多い。
 残りを一年にするためにも、目前に迫る試験はきっちりとパスしなければならない。マサキは階段を上りながら、隣を行くイクヤへと言葉を掛けた。
「お互い不安な要素はあるが、何とか乗り切ろうじゃないか」
 中央食堂を出ると、寒い季節にも昼の陽射しが大学を温かく照らしていた。

謳歌すべきは大学生活(将倫)

全てはNoise35の締め切りが迫る中、熱を出して寝込んでいるときに設定を思い付きました。

謳歌すべきは大学生活(将倫)

駒場から本郷へと移る全ての東大生に読んでほしい、ある工学部生の日常の物語。春夏秋冬の全四編。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-05-17

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