死神

私は死神を見たことがある。

子供の頃の話だ。
私は死神を見たことがある。
そして更に言えば 今まさにその死神の姿を見ている。

彼は大きな鎌なんて持っていないし
どこにでもいそうな至って普通の男だった
その男が死神だと気づいたのは大分後になってからだ。

最初に見たのはまだ私が小学生の頃の話だ
学校から友人と下校していると、家の外でスーツを着た男が母にまとわりつき、何かを激しくせがんでいるようだった。
遠くからそれを見ていると、それに気づいた母は「お母さんはこの人と少し話があるから、おまえはしばらくお友達と外で遊んできなさい」と険しい顔で私に言ったが、
見慣れないその男に言葉では言い表せない興味を持ったし、そんな態度をとる母も気になり、こっそりと隠れてそれを見続けた。

どんな会話をしているのか、遠くからではさっぱり聞こえなかったが
男は嬉しそうな顔をしたかと思うと、いきなり泣きだしたりと子供ながらにかなり不審だった。
「おばさん ひとりで何をしているの?」と一緒に見ていた友人が私に聞く。
友人にはその男が見えなかったのだ。
『自分と母にしか見えない男』
その事実に驚いていると突然、「息子の為だから、それは出来ない」と母が男に力強い声で叫んでいるのが聞こえた。

それからしばらくして母親は私をかばって交通事故で亡くなった。


亡くなった母と同じ歳になり、時々思うのだ。
いまの私には生きている価値などあるのだろうか、

高校を卒業してすぐさま社会人になりそれからは本能に従って生きてきた
ただそれでも、必死に働いても何一つ成功できずに、失敗と浪費を重ねていくうちに、段々と思いが強くなっていった
やはり私はあの時に死ぬべきだったんじゃないかと

母の大きな犠牲のおかげで生きている私
母は私の将来が輝かしいものであると期待し、そして犠牲になったのだろう
しかし実際、今の私には何もない

もしももう一度 生前の母に会うことができるのなら、私は必死に説得をするだろう。
私なんかよりも母の命のほうがよっぽど価値があると。

「ジリリリリリリィ」とベルが鳴り、
急いで目を覚ますとドアが閉まり静かに電車が轟音を立てながら走り出した。
どうやら考え込んだまま眠っていたようだ。
終点駅のアナウンスを聞き、そこが子供の頃生まれ育った場所だと気づく

出張からの帰りの電車
どうやら激しく寝過ごしたようだった、外は真っ暗になっていてもおかしくない時間だったが、
まだ明るく、まるで夕方のようだった。

真っ暗な夜にアパートに帰ることが当たり前になっていたせいか
澄んだ夕焼けと光り輝く雲がやけに眩しい。

駅を降り、時刻表を確認すると次の電車まで一時間近くは来ない事がわかった。
しばらく訪れていない懐かしい生まれ故郷の様子も気になり改札に足を運んだ。

改札を出て目に広がる光景に息を飲む
何も変わっていなかったのだ
例え話でなく、何もかも。
潰れたはずの玩具屋も、走る車も、人々のファッションも
母が亡くなる前の、私が引っ越しをする前の、当時、そのままだった。

今では廃校になったはずの母校の帽子をかぶり、ランドセルを背負う少年2人を目にして
夢を見ているのだなと私は思った。

どうせなら母親にも会うかと、ショーウィンドウのガラス越しに曲がったネクタイと髪型を整えながら
私はすべてを悟った。

死神

死神

私は死神を見たことがある。正しく言えば いまもすぐそばにいる。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 成人向け
更新日
登録日
2013-05-16

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