最後のラーメン

最後のラーメン

ラーメン(最後のラーメン屋、涙のラーメン)はナノク設定資料を利用するために用意された創作のプロットである。以下に概要を示す。
下町に一人のラーメン屋を営む男がいた。二十代の頃に軽い気持ちでラーメンを始めたが客はほとんど来ず、やる気も無いので味も悪かった。ある日時計を食べさせてくれという男がやってきて、店に置いてある置き時計をむさぼり食らう。。。。
http://bit.ly/kVcyew

下町に一人のラーメン屋を営む男がいた。二十代の頃に軽い気持ちでラーメンを始めたが客はほとんど来ず、やる気も無いので味も悪かった。ある日時計を食べさせてくれという男がやってきて、店に置いてある置き時計をむさぼり食らう。奇妙に思ったが一晩だけ泊めてやり、時計の男は礼を言って店を去る。その日から店に変化が起こり、少しづつ客が増え始める。やがて近くの雀荘から流れてくる食品工場の常連ができ、店のあまりのラーメンのまずさに今度同僚を大勢つれてくるという。初めは自暴自棄になっていた主人だが、そのうちにたぬきその他の動物たちも遊びにきてラーメンのつくりかたを指南する状況となり、少しばかりラーメンに興味がでて、店はわずかながら繁盛するようになった。しかし、男の不機嫌はなおらなかった。

男がラーメン屋をやっていたのには理由があった、十代の頃にお世話になった兄貴格の男が始めた店だったからだ。行方不明になってしまった兄貴格が帰ってくるかもしれない、と思い、男はまずいながらもラーメン屋を続けていた。店はあけておきたかったのだが、ラーメン自体はどうでもよかった。(とはいえ、生活に困窮する程客が来なかったので、困ってはいたが)

やがて店は大繁盛する。夜中にやっていて、夜の商売が終わって空いている店で、味も独特である種の依存性のようなものがあった。男のラーメンを食べる客はくちぐちにその味やその味のゆくえについて勝手な事を言った。男はとりあわなかった。食品工場の常連たちは余った食材をもってきて、たぬきやその他の動物たちも協力をして。その地域にはこのラーメンあり、というまでに店は有名になった。
ここまでくると男の好奇心にも火がつきはじめ、食品工場の常連たち、たぬきやその他の動物たちがいう「ほんたうの味」というものがどういうものなのか、寝食を削ってまで研究にはげむようになった。

店は全盛期を迎える、男には妻がいて店は二人できりもりしていたが、人手が足りないので人を雇おうということになる。しかし妻は反対をして、二人の方が気軽だといい、男もそれを受け入れて忙しいながらも二人で商売をつづける。しかしそれがもとで妻は過労で倒れ、病院に運ばれる。病院で妻が胃ガンで、余命三ヶ月だと男は知る。消沈する男だったが、食品工場の常連たちやたぬきやその他の動物たちのいう「ほんたうの味」にはガンを治す効果がある、という話しを信じて、看病のかたわら、ラーメン作りに没頭する。

男と妻は幼なじみだった。男はいい加減に生きてきて、妻はそれをいやいやながら見守ってつれそっていた。男がふとしたことがきっかけでラーメン屋をはじめて、妻ははじめ文句ばかりだったが、そのたびに喧嘩をした。ラーメンの研究に没頭するようになってからはそこまでやる必要は無い、といって文句をいったが、男は半ば無視をしてラーメンを作り続けた。妻へのいろいろなしわよせが頭をよぎりながらも、男はついに納得のいくラーメンを完成させた。しかし時すでに遅く、ガンの進行により妻はこの世を去ってしまう。

店を臨時休業し、茫然自失となった男の頭によぎるのは妻との思い出や生活だった。しかし、今度はそれが男の心へ重い足かせとなっていく。あらゆる美しい思い出やそれを想起させるものが、男にとって茨のような苦痛を感じさせるようになった。楽しかった思い出や大好きだったジャズ、あらゆるものが彼の心の穴をふさごうとする。息ぐるしくなってのたうちまわるところで、たぬきたちは「ほんたうの味」を作り出すことのできた男の腕を褒めたたえ上げるのだった。二人で立っていた厨房にも立つ事がかなわなくなった男はラーメン屋をやめることを決心する。「本当だか嘘だか何だか知らねえが、もう俺にはラーメンは無理だ」

http://www.youtube.com/watch?v=mRzi4KRZxAY&feature=player_embedded

 変化のきざしは見え始めていた。反省したたぬきたち、依然あまった食材を届けにくる食品工場の常連たちが男の様子を見にやって来る、初めは来れば塩をかけて追い払っていたが、他の近所の常連たちも置き手紙をするようになっていた。男は夢の中でスープの大海にいた。かつて客たちがいっていた、ラーメンの方向性についても耳をかたむけた。夢の中で男は鍋に火をいれ、製麺機のスイッチをいれ、スープを作り始めた。が、そこまでだった。何夜か経ったあと、男のもとに時計を喰って帰った男がどす黒い腕をしてやってくる。男は時計の男が兄貴格の知人で、困った時にここに来るように、と言われていた事を知る。男は時計の男から兄貴格が書いたとする手紙を渡され、時計の男は手に職をつけるためにラーメンの作り方を教えて欲しい、と懇願する。男はラーメンの作り方を時計の男にていねいに教えながら、再起を決意した。
開店の噂を聞きつけた常連たちはどこからともなく集まり、開店の日にはかつてのように長蛇の列ができていた。
 男が再度厨房にたつことは叶わなかった。時計の男は見ようみまねでラーメンらしいものができるものの、常連たちの納得するような味ではなかった。男は頭をかかえ、時計の男は泣いていた。やがて客たちのめいめい自分勝手な言葉が、ラーメンの味を変えていった。男はそれらの言葉をていねいに書き取って、ついにレシピは完成した。そこの頃には時計の男はいなくなっていた。

レシピは完成し、学生や主婦、同業者、あらゆる人に男はそのレシピを教えた。今では誰でもそのレシピを作ることができるような「あたりまえの味」になる。男のラーメンが「ありきたりの味」や「なつかしい味」になったころ、長年の重労働によって男の体には限界がきており、店はついに閉店する。

男がラーメンをつくることはもうないだろう。しかし沢山の同じラーメンを作る人が今ではいた。男はラーメンがことさら好きというわけではなかった。ラーメンについて聞くと「ラーメンは食べない、体に悪いって、医者に止められてるんでね」と男は答えた。
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最後のラーメン

このプロットについて

 この話しは半ば都市伝説的になっている。語る人の利害や様々な感受性によって、様々な尾ひれや憶測がつく。そのラーメン屋を食べたものはおかしな力がつくようになるとか。そのラーメンを一度食べるともう食べずにはいられなくなるとだか、時計が足りない男の他の逸話などである。(ホリゾンタルフィクションも参考のこと)
このプロットはナノクプロットの第一号となっている。

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題材や効果など

 このプロットはラーメン二郎の店主と池袋大将軒の店主のエピソードが下敷きになっている。時計の男、兄貴、「ほんとうの味」はマクガフィンであり、所々出てくる現実にはありえないと思われる事態や事象は、妄想や仮想現実などではなく、ナノテクノロジーを下敷きとした現実である。プロットは現実のエピソードが下敷きとなっているが、それらを忠実に再現するものではない事は、断り書きをいれたほうが良いかもしれない。
 ナノテクノロジーやマクガフィンの扱いは制作者の判断にゆだねられるが、このプロットで重要となるのは、ガンに打ち勝つ事のできなかったテクノロジーに対する無力感である。同じような無力感は諸星大二郎の中編「無面目」に出てくる、混沌として天地開闢いらいの英知を持っていた神だった男は、顔を持ったがために記憶を失い、暴虐の限りを尽くした後麗華という妻を手に入れる。魂魄の飛び散る様の分かる混沌ではあるが、飛び散る魂魄をどうすることもできない。歳もとらず死にも遠い混沌は麗華の死を受け入れることができずにこの世から消滅する。
 技術は万能ではない、しかし、うまいラーメンを作ることはできる。もう一つこのプロットで焦点となるのは化学調味料の扱いである。ナノク風の店主もいれば、エスノ風の店主もいるだろうし、大地の声に耳をかたむける店主もいるかもしれない。しかし、妻の死は揺るぎのない事実としてプロット中にあって、そこを変えてしまうとプロットの意義は薄れる。
 もう一つの切り口は、ラーメンという食べ物の持つ文化的な背景である。ラーメンは中華料理のコンテキストから派生したものであるものの、だしとめんからなるそばうどんのフォーマットによって成り立っている。ここに肉食という旧体制の禁忌が複雑に麺とスープにからみついている。伝統料理が文化相対主義によって一旦横並びにディコンストラクションされた様は、麗華の魂魄のようである。ラーメンは一旦等価になってしまったものの味を、懐古趣味的でなく、未来を見ながら再構築しようとする。ゆえにナノクのプロットとなっている。
 似たような例としては、メルヴィル「白鯨」及び父と子の感動巨編「チョコレート・カスタマイズ」を参考のこと。

「ほんたうの味」およびたぬきの登場は宮沢賢治、セロ弾きのゴーシュのオマージュとなっている。このプロットはゴーシュ宮沢のその後というとらえかたもできるだろう。
http://bit.ly/kVcyew
http://www.sthills.co.jp/jiro.htm
http://www.jinzai-bank.net/careerlab/info.cfm/tm/085/

最後のラーメン

ラーメン(最後のラーメン屋、涙のラーメン)はナノク設定資料を利用するために用意された創作のプロットである。下町に一人のラーメン屋を営む男がいた。二十代の頃に軽い気持ちでラーメンを始めたが客はほとんど来ず、やる気も無いので味も悪かった。ある日時計を食べさせてくれという男がやってきて、店に置いてある置き時計をむさぼり食らう。。。。 http://bit.ly/kVcyew

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-07-11

CC BY
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