星屑のリング 導きの出逢い

星屑のリング 導きの出逢い

プロローグ

《ねえ、あんた大丈夫! 生きてる。死んでんのかなあ。おーい!》

 耳元で声がする。

 女の声だ。

 これは夢なのだろうか。

 はたと気がつけば周囲は真っ暗だ。(まぶた)を開くことが出来ない。手も足も動かない、声も出すことが出来ないのだ。光があれば肌を通って目が明るさを感じるのだが、そんな感じでは無い。きっと、意識の一部だけが起きていて、体は眠っているのだろう。

 起きろ、起きろ。

 意識を体に集中させて、まずは瞼を開こうと試みるが、瞼の筋肉がわずかにピクリとしはするも、開くことが全く出来ない。それならば手や足はどうかと試みるが、動く気配が無い。指先さえも動かすことが出来ない。

 あたしは思い出した。

 どうしてこんな状況に陥ってしまったのかを。

 これはもうだめだ。絶体絶命の危機的状況だ。あたしは、ここで死ぬ。死んでしまうのだ。こんな見知らぬ辺境の果てで、骨も皮も朽ち果ててしまうのだ。

《ちょっと、あんたってば》

 頭の中でさっきの女の声がした。女は呼びかけながら体を揺さぶっているようだ。

《テッドだめ。この子起きないわ。このまま運びましょうよ》
《狼狽えるな。生命維持装置は正常だ。一時的に気を失ってるだけだ。とにかく、そいつを起こせ》

 男の声も聞こえる。

 この声は直に耳に聞こえているのではない。砂漠服のヘルメット内のスピーカーを通じて聞こえているんだ。そうともここは灼熱の砂地、強烈な紫外線が降り注ぐ砂漠の惑星なのだ。砂漠服無しでは数分で火ぶくれを起こしてしまう過酷な地表にあたしはいるのだ。

 声の背後に周囲の音が混じっていないところから察するに、彼らはあたしの砂漠服に無線周波数を合わせたようだ。でも、一体どうやって。生命維持装置の状態を確認したいが、あいにくあたしの体は眠ってしまっている。これでは視覚神経越しにモニタ映像を見ることすらできない。それにどうしたことか、さっきから体が熱い。冷却装置が壊れてしまったのか、それだと、この星の熱さでは、今日、一日持たない、・・・・。
 そうなるとこの声は幻聴だ。あたしは、もう死ぬんだ。ここで終わりだ。

 かあちゃん。とうちゃん。じいちゃん。ユキ、コズナ、メロ、師匠、クランツ兄貴・・・・・。ごめん、ごめんね。役に立てなくて、

 あたしは、 弱音を吐いた。吐いてしまった。この旅の出発時、あれほど吐くまいと決意していたのに。この絶望的状況では仕方ない、体が動かないのだ。

「人は命ある限り決して、絶望してはならないんだ」

 かつてあたしが語った言葉だ。あたしの父の受け売りではあるが、常にこのつもりだった。なのに体が動かないのでは、それも向こう見ずな青すぎる言葉でしかない。もはやなす術無しと、諦めを感じている自分がいる。自らを鼓舞する気力ももはやない。このまま、何もかも忘れて眠りに落ちたいと、意識が途絶えようとする間際だった。突然、お尻というか直腸的な激しい刺激が下腹部にこみ上げてきた。その痛みは背筋を通って頭に鳴り響くほどだった。

「ひやあ、痛い」

 硬くなっていたあたしの体に瞬時に電気が流れ、手足は動き、立ち上がれたのだ。そして、あの岩のように重たかった瞼も一瞬にして開いた。

《おほお、生き返った!》

 歓喜に沸く男の声がした。周囲はとても明るく、ヘルメットの偏光シールドがすぐに働いたが、あたしの目の追従がそれに追いつけなかった。周囲は砂の海の入り江だった。あたしは、ぎらぎらと太陽が照り返す岩場の上にいた。
 あたしの間近には、前かがみに屈み込んだ砂漠服の人がいた。体格から考えて男に相違なかった。さっきの声の主だろう。声は若いと感じた。少なくとも”オヤジ”という感じは無かった。
《やっぱり、あれは効くね》
 さっきの女だ。センサーがあたしの背後に人の気配を察知している。
《おうよ、浣腸(かんちょう)は結構きくからな。試して正解だったろう》

 浣腸? あたしの無防備なお尻に浣腸だと?

 なんて乱暴な起こし方なんだ。あたしを女と分からないからか。いや、女と分からなくても、こんな起こし方はない。だが、女と気づかれていないのは幸いなのかもしれない。この砂漠服はパワーアシストの為に人工筋肉繊維が織り込まれている。あたしは、女性特有の動きや体系を消す為に偽装を施し、男と認識されるよう体型や所作を男のそれに調整していた。だからさっきの動きで、あたしは女だとは気づかれていない筈である。システムは、あたしの意識が戻ると共に再起動したようだ。あたしが倒れてしまったので、エネルギー消費量を最小限に抑える生命維持モードが働いていたのだ。救難信号も発信されていたようだ。それで、この二人が来たということだと理解した。
 だが、この二人は何か変だ。どう見ても、惑星連合政府直下のレスキュー部隊員には思えない。だいたい、あの礼儀正しい部隊員が、遭難者の生死の判断に浣腸で確かめるなんてしないだろう。いったい、どういう連中なんだ。こいつらは危険だ。用心しなければいけない。あたしは、右腕のショックガンをスタンバイモードにした。

《お前たちは誰だ?》

 あたしは、ショックガンの照準を前後の二人に向けた。ショックガンのオート照準システムはすぐさま、ふたりの足元に照準をロックする。あたしの声は、勇ましく自信に満ちて、少々危険な少年風の声で聞こえた筈だ。

『ターゲットをロックオンしました』

 よし、防衛システムは生きている。パワーも十分だ。彼らがあたしの砂漠服に無線周波数を合わせていたのであれば、彼らの砂漠服の防衛システムも照準システムの動作を関知して、『足元をロックオンされました』のメッセージを発していることだろう。彼らが攻撃行為に入ろうとすると、あたしの砂漠服の防衛システムが先に作動して、攻撃するということなのだ。彼らの動きには、幾分の動揺が見てとれた。

《おいおい、俺たちはあんたの命の恩人だぜ。そんな物騒なものはしまいなよ。それにあんたは結構疲れている。急に動いたから余計にだ。とにかく、俺の船に乗れよ。話はそれからだ》

 男はゆっくりと近づき、手を差し伸べて来た。あたしは彼らが身分証IDを持っているかをコンピュータに確認させた。だが、運が悪かった。恒星間通信衛星はこの上空にはいなかったのだ。これだから、偏狭の惑星は嫌いなんだ。あたしは、仕方なく、身分証ID持っていることだけを確認することにした。しかし、彼らからはその反応が全く出なかった。

 非認証者! 砂漠の鼠か?

 あたしは一層彼らを警戒し、彼らの足元の手前一センチメートルに照準を絞り、一発だけ、威嚇射撃をした。背後の女は咄嗟に後ろに退いたが、男の方はまったく怯まなかった。それどころか、不敵にも微笑んでいるように思えた。やがて、男は軽いダンスのようなステップを踏みながら、じりじりと近づきはじめた。まるで、あたしの砂漠服の防衛装置のスキャニングのタイミングでも読めているかのようだった。防衛装置がスキャニングをした後の僅かな間を使って、素早く間を詰めて来るのだ。

 馬鹿な、あり得ない。人間業でできることではない。後ろの女がハッキングして情報を教えているか、いやそれの方があり得ない。この砂漠服のOS(Operating System)は特殊だ。そもそもこいつらが知るわけがない。どうなってるんだ、これはやはり悪い夢なのか。そんな躊躇をしている間に、あっという間に間合いを詰められてしまった。
 あたしは男が目の前に迫って来たので投げを打とうとしたが、既に右手首は掴まれて、手首をねじられようとしていた。そこで、男の膝を蹴ろうとしたが、女が背後からはがいじめをかけてきた。あたしは、懸命にもがき抵抗するが、次第に力が抜けていくのを感じた。男が言ったとおり、あたしのからだは、急激な疲労に襲われ、それにあがなえなくなってしまった。意識は朦朧となり、徐々に瞼がも開けていられなくなった。
 気がづけば、目の前は再び真っ暗になっていた。男と女の声はかすかに聞こえるが、もう何を話しているのか聞き取れなくなっている。もはや、自分が地に立っているのか、倒れているのかさえ分からなくなっていた。

 そうしているうちに、やがて何も聞こえなくなり、真っ白で心安らぐ空間へと誘われて行った。

第一章 砂上船

 目覚めたのは、ベットの上だった。とてもふかふかで、体を柔らかく包み込んでいた。窓の外は果てしなく広がる砂の海原が見えた。部屋の中は、天井も壁も真っ白だ。決して広くはないが、小奇麗で、小さな花瓶やテーブルなどが置いてあった。見たとことろ客間のようだ。
 あたしは、部屋自体がゆっくりと移動しているのを感じた。不思議とエンジン音のような物音はしなかった。船全体が何かの力を受けて、ずずずっと、うなりを上げて砂の海の上をゆっくり動いているという感じだった。

 これって、砂上船(さじょうせん)

 意識がなくなる前に、あたしを見つけた男が俺の船に乗れと言っていたことを思い出した。これが、あの男の船なのだろう。あたしはゆっくりと体を起こし、床に足をつけた。砂漠服を来ていないことは、確認するまでもなかった。目覚めたときに既に気づいているし、壁側の鍵付きのシースルーのクローゼットにヘルメットと砂漠服の一式が置いてあるのだから。だが、問題はそこではない、その下に着ていた服なのだ。一応、女ものの服ではあるが、あたしのものではない。下着も同様だ。この事実に動揺するなと自分を言いつけられなかったが、少なくとも、あたしはそれなりの歓待を受けていることは察しがついた。
 そうでなければ、今頃は家畜のように鎖につながれ、さるぐつわをはめられ、薄暗い牢獄で唸り声を上げながら冷たいコンクリートの床の上で芋虫のようにもがいていたことだろう。

「やっと、お目覚めのようね」

 声の方角に振り返ると部屋の入口に寝癖のようなつんつん頭をした赤毛で、少し浅黒い肌に、澄んだ青い瞳の女が立っていた。いや少女のようにも見える。大人っぽい感じはあるが、肌のはり具合を見ても少女という方がしっくりきそうだ。彼女があの時、あたしを羽交い締めにしたのだろうか。砂漠服越しでは、声使いや体格を比較することは出来ない。あたしも砂漠服は人工筋肉繊維と強度アシストの人工外骨格で覆っていたんだし、それよりも今の話しぶりなら間違いなくあの時の女に相違ない。あたしを見つめる彼女の目線は、鋭利な刃物の刃先でほっぺたをチクチクいじるように痛く感じられた。

「ねえ、知ってる。あなた三日間も眠り続けてたのよ。
 あたしは、カレン。カレン・バッカス。よろしくね。えっと」

 カレンという少女は、あたしの名前を聞こうとしている。辺境の惑星とはいえ、素性の知れない者に本名を名乗るのはまずい。ここは偽名を使うべきだと自分に言い聞かせることにした。
「ねえ、あなた名前は?」
「あっ、はい! マキナです。マキナ・グレン」
 何をあわてたのか、わたしは、咄嗟に自分の本名を答えてしまった。あれほど、偽名を使って来たのに。あたしは、このカレンの鋭い目つきに嘘がつけなかったのだ。
「よろしくね、マキナ」
 カレンは優しい顔になり、にこやかに微笑んだ。
「えっと、あなたの服、臭うから洗濯しといたよ。それと、体も洗わせてもらいました」
「あ、はい。すみません」
 どうしたことか、あたしはカレンの迫力に押され、いつの間にか年上の姉に従う真面目な妹になっていた。
「あんたが着ていた砂漠服。見慣れない服ね。どこの物なの?」
「えっと、あれは」
 あたしは本当のことを言うことを避けようと思った。名前は本名を喋ってしまったが、あの砂漠服の出処は今は彼女に話すべきではないと思うのだ。
「あれはですね。オアシスゼロのジャンク市場で買った掘り出しものなんですよ」
「オアシスゼロの市場で手に入るものを直すなんて、あなた相当に腕が立つのね?」
「えっと、あたし、こうみえても手先が器用なんですよ。それで、あたしが修理して使えるようにしたんです」
 あたしは可能な限り嘘を言わないことにした。嘘は事実との乖離が大きいほど話に無理がでてしまい結果、相手に疑念をいだかせてしまう。あたしの身分も行動も明かすわけにはいかないのだ。本名を名乗り、医療行為をされたが、その程度では素性はバレない。たかが数日でそれを探り当てるなど到底無理なのだ。それに、あの砂漠服をあたしが使えるようにメンテしたのは本当の話である。なにせ、この砂漠服はあたしの父の設計たが、改良を加えたのはあたしなのだから。

「テッドもそれ脱がすのには相当に手こずっていたよ。あたしにはさっぱり、わからなかったからさあ」
「え、テッドって?」
「あんたの威嚇射撃にもひるみもせずに、手を差し伸べてきた馬鹿がいたでしょ。あれがテッド。そして、良くも悪くもあたしの最高の相棒よ」

 やはり、このカレンが砂漠で出会った女だ。そして、あたしを捕まえたのがテッドと言う奴らしい。それにしても、あいつはただ者じゃない。この砂漠服を破かずに脱がせただなんて。どうやってロックを解除したのか。しかも、こんな短時間で。それに見ず知らずの男に意識もないままに裸体を晒すとは、次期グレン家頭首のの名折れだ。

「起きたんなら、上で食事でもしない?丁度、昼飯時だし、うちの乗組員とも会わせたいしさ」
 カレンは、握り拳に親指を立てて背後に振り上げ、こっちへ来るように合図をした。

「ちょ、ちょっと待ってください」

 あたしは、冷静になろうとしたが、なれなかった。あたしの服を脱がしたのがカレンではなく、あのお調子者そうな、テッドだったという事実があたしを辱めたのだ。
「あなたの体はね、あたしが洗ってあげたから、心配しないで」
「心配しますって、みず知らずのおと、男の人に裸を見られたんですよ!」
 カレンは階段に足をかけたところで立ち止まり、険しい顔をして、つかつかとあたしの方へ歩いて来た。
「あのね、マキナ。勘違いしないで聞いてくれる。テッドはこの砂上船の船長で、十数名の乗組員の命を預かる責任者なの。素性のわからない人を搭乗させるのだから、そのぐらいして当然よ。それにあなたは、武器をあたしらに向けてたのよ。これは敵対行為じゃないのかしら?
 あたしらは、そんなあなたの命を助けたの。裸見られたくらいで、おたおたされるようなら、もといた砂漠に返すけど、それでもいいの!」

 あたしは、カレンに言葉が返せなかった。彼らのおかげで命がつながったことに何よりも感謝しなくてはならないのに、あたしはまだまだ甘いと実感させられた。
「すみません。些細なことで取り乱してしまって。命を助けていただいて、テッド船長さんにも、カレンさんにもとても感謝しています。ありがとうございます」
「わかればいいのよ。こっちもきつく言ってごめんね、でも、けじめは必要なんだよ」
 カレンはあたしの右肩にそっと手を置くと、無言であたしを抱き寄せた。彼女の懐は、まるで母親のように居心地が良かった。あたしとそう変わらない年齢のはずなのに、彼女はしっかりとした大人の女性の匂いがする。

「さ、仲直りしよ。マキナ。そして、上であんたの歓迎会をしてあげるよ」
 あたしに差し伸べられたカレンの手を握ると頼もしいカレンに身をまかせた。いや、彼女があたしの肩を抱き寄せたのだ。
「それとね、あんたと合流予定だった二名のバックパッカーだけど、オアシスゼロに引き返してたそうよ。救難信号も役に立ったようね。あんたが無事なのを知って、再度合流したいから、引き渡し日時と位置情報を送って欲しいて言ってたわ」
 思いがけず偽装も役に立ったようだ。彼らは現地で雇ったお墨付きのガイドだが、あたしが遭難した時の保険だった。同行などしてなかったが、うまく口合わせをしてくれたようだ。あたしは、ほっとしてからだをカレンに任せることにした。
 もちろん演技だ。カレンは、やさしく肩を抱きとめてくれた。階段を上った先は、船の甲板らしき場所だった。やはりこれは砂上船だったのだ。
 空を見上げると、あいもかわらず太陽がさんさんと照りつづけていた。二連の太陽の位置加減から見て、丁度正午あたりのようだ。だが、気のせいかいつもと太陽の位置が違っているようにも見えた。
 それしても、大きな船だ。頭上には大きな帆が何本も立っていた。それはまるで、遙、何千年も大昔に、水の豊富な惑星で、我々の祖先が、内燃機関の動力も持たない時代に、風の力を利用して水上を航行する船に使っていたもののようだった。それと砂流の流れも利用して、この船はその巨体をものともせずに砂の上をゆっくりと動いているのだった。

 天井には大量に降り注ぐ紫外線や宇宙線を遮断する透明シールドが張られているようだ。そうでなければ、こんな薄着で、炎天下の外に出られるはずがない。紫外線を浴びて、たちまち皮膚は火ぶくれを起こすに違いないのだ。

 甲板の中央では既に酒盛りが始まっていた。あたしは、カレンに連れられその真っ只中に入っていく。テーブルの隅々に豪勢な料理に果物、スイーツ、スープにパンにチーズや漬物といったありとあらゆる食べ物が処狭しと並べられ、その周囲で荒くれ者風の老若男女が入り乱れ、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎの真最中だった。
 あたしは、砂上船という砂漠の海を渡る乗り物があることは知っていても、テッドという男がこの乗組員たちを率いて何をしているのかは全く想像がつかなかった。乗組員たちの見てくれは、太古の地球で金銀財宝を略奪していた海賊の雰囲気なのだが、この砂漠の海の惑星デュナンは辺境の星で、金銀財宝を載せた豪華客船など居はしない。たまには物好きな金持ちが外遊しているかもしれないが辺境の星にいるような金持ちなら軍隊並みの重装備なので戦うのも容易では無い筈なのだ。
「お嬢ちゃん、やっと起きたな。駆けつけに一杯やるかい」
「おお、ノックスの爺さん、気が利くじゃないか」
 カレンはノックスという白髪混じりの縮れ髪に口鬚を蓄えた筋骨隆々の老人が手にした小さな小瓶を取ろうとしたが、老人はカレンに奪われないよう巧みにかわして、あたしに一礼して手渡してくれた。「ありがとう」と言いながらもそれがなんだか分からない。
「ちぇ、あたしにくれたんじゃ無いのかよ」
「お前は、お嬢ちゃんじゃね~だろ。生物学上は女でもなあ、この船でお嬢ちゃんと呼べるのは、ミランダが面倒みてるガキと、見習いのジェット娘だけだよ。
 おまけにお前さんは、船長のダチで相棒で、弟分だろう。お嬢ちゃん、てガラじゃないだろう」
「シェスカはどうなんだい」
「シェスカ? 誰でえ、そいつは。そんなしおらしい感じの女なんかこの船に居たか」
 老人は通りかかったウェイターが台車で運んでいたジョッキグラスをひとつ取り上げて一気に飲み干し、しゃっくりをした。
「ジェット娘の姉貴だよ」
「ああ、ドクか、ありゃあ、じゃじゃ馬というかアバズレだろう。おまけに、ガキの頃の船長の筆下ろしちまったんだろう。まったく、」
 老人は二杯目のジョッキグラスを飲み干そうと、グラスに手をかけたが、鼻先に銃剣の剣先、つまり銃口が突き付けられ言葉が途絶えた。
「誰がじゃじゃ馬で、アバズレで、ついでにガキの頃のテッドの筆を下ろしたって、ノックス」
「ちょっと、副長も姉貴も止めなよ。お客の前だよ」
 酔った勢いで、内部事情を暴露しかねない二人に金髪の少女が割って入った。
「そうそう、ジェットの言う通り。お客さんの前ではいついかなる時も身内の見苦しい事情は見せるな! 副長、あんたが作った規則じゃなかったの」
 二人ともカレンには素直に従う。さっき、テッドの相棒と言ってたけど、船長並みの権限を持ってるってことなのだろう。
 第一印象からそのようには感じてはいたが、こうして目の当たりにするとカレンは惚れ惚れするほど勇ましい。数年後にはグレン家の当主になろうかという自分を考えるとまだまだ精進が足りないと考えさせられるばかりである。
 副長のノックスさんとドクターの間に入ったのがこの船のお嬢さん、ジェットさんだとあたしは認識した。けれでも、こんな綺麗なお嬢さんがジェット娘と呼ばれる所以は皆目分からない。その姉シェスカさんがドクターと呼ばれているのも気になった。何かの学者なのか、それとも医者なのか。白衣を羽織っているのだが、どちらにも見える。まあ、長期航海してそうな船だし医者は必要だと思うから、この場合は医者と考えた方がしっくりきそうだ。
「お嬢ちゃん、さっきのヤツ、クイッとやっちまいな。疲れも取れるぜ!」
「そうね、マキナ。この船に乗ったのだから、乗船許可証代わりやっちまいな!」
 あたしは改めて手渡された小さなグラスを見た。何かの結晶石をカッティングしたグラスに琥珀色の液体が入っていた。液体の表面からは気化した気体が立ち昇っていた。これは、噂に聞くショットという酒だと理解した。ノックスさんは、あたしの目の前でショットをあおって見せてくれた。カレンも、ジェットもシェスカさんも次々にショットをあおった。
「くー、逝くー」ふたりとも目をパチクリさせ、笑い出す。
 ショットは、アルコール度数が高めで、糖度と辛味が混じり花の匂いのような独特の芳香のある酒だと聞き及んではいたが、実際どんなものかは知らない。
「さあ、早く逝きな」とカレンの勧めにのって顔を真上にして、初ショットをした。滅多に出来ない体験なので、そのまま一気にあおってみた。喉を越すとともにこみ上げる熱気のようなエネルギーが頭に登り、急激に落ちていく体感をした。ほんの一瞬だが星が見えるようなハイな気分になった。
 そして、例えようのない爽快感が沸き起こるのだ。医学的には脳の活動が高度に活性化され、感覚も冴え渡り、周囲の空気や音を通常とは異なるものに感じるのだと言われているが、確かにこれは凄い。この状態を常に維持し続けたらかなりヤバイかも知れない。
 あたしは目をパチクリさせる。これは無意識の行為だが、それを見た周囲は、どっと笑い出した。
「どう? 結構、逝けるでしょう」
「すろい、すろいよ、こえ」
 言葉が迷走している。しかもなぜか上機嫌である。視界もぐるぐる回っている。足はリズムの悪いタップを踏んでいる。後ろによろけたところを肩を捕まれた。
「あんた大丈夫」
 ジェットと呼ばれたさっきの女の子だ。
「だいじょび、れす」
 もう何を言っているのか、自分で制御できない。敬礼までしてしまっている。
「何それ、あんた面白いね」
「お嬢ちゃん、いい飲みっぷりだ。もう一杯、どうだい」
 あたしはノックスさんに差し出された小さなグラスを受け取ると、またも一気に飲み干した。おい、何やってるあたし。これでは隠れ酒好きがバレてしまったではないか。気持ちがハイになりすぎて呂律がまわらぬほど気持ちよく、飲むのを止めると抑制がきかない。そうなんだ気持ちがいいんだ。爽快なんだ。
「はーい、やめ、やめ。あんたもよ」
 ジェット娘に肩をかつがれ、テーブルにつかされた。そして、首筋に冷たい金属製の棒のようなものが当てられ何かが首筋からすうっと入って来た。
「どう、すっきりした」
「あ、はい。とても、気分爽快です」
 本当にすっきりした。打ったのはシェスカさんだった。シェスカさんはさっきの銃剣の柄を握っていた。長かった銃剣の先はいつの間にやら短くなっており、今度はキセルに火を着けている。
「これ? 便利でしょう。前世代の置き土産よ。銃剣が形状記憶合金で出来てるの。柄の握りで電流を調整して銃剣の長さを変えれるの。さっきあんたの首に打ったのはパルス電磁波よ。どう、すきっとしたでしょう」
「はい、気だるさがすっかり取れました」
「よかった。少々、荒療治だけど。効果あったわね。じゃあ、あらためて乾杯しましょう。こっちのは度数低めだから、子供でもOKよ」
 わたしは、シェスカさんとグラスをあわせた。そしてジェットさんとも。なかなかフルーティな芳香のお酒だった。目の前にある料理もいかにも田舎の郷土料理という感じだ。材料がなんだかわからないけど、まずはこれからと出された琥珀色のスープは濃厚な味わいで、飢えた体にやさしく伝わった。まさに五臓六腑に染み渡るというやつかな。

 なぜにこんなに豪勢な宴会なのかとノックスさんに聞けば、昨日で今年の仕事が終わったので半年の休み入る前に打ち上げの宴会にしようと船長のお達しがあったというのだった。あたしは、船長のテッドがあたしのの身ぐるみをはがしたことが、ずっと気になっていた。裸を見られたことは、この際どうでもいい。問題なのは、所持品からあたしの素性や目的がわかってしまっていないかという事だった。砂漠服に内蔵されているコンピュータは、グレン社製のもので、オペレーティングシステム自体も汎用のものでは無い。仮にテッドがどんなに科学に精通していようとも三日程度で簡単にわかるはずもないのだ。そう考えると、取り越し苦労だと思えてきた。
 あたしは砂竜と呼ばれる体長六十センチメートルの大トカゲの丸焼きの後ろ足をもぎ取って口にした。塩釜を割って出てきた時は、そのおぞましい姿にたじろいだが、料理長がナイフで切り取ってくれた肉片は柔らかく肉汁があふれるジューシーな味わいだった。とにかく空腹のあたしは肉にかぶりついた。「美味しい!」幸せだ、果物も野菜も見た目は色彩鮮やかだがどれもみずみずしくて美味しかった。 このジュリアーノという料理長は若者だが腕前は一流だ。惑星連合都があるアルカディア星の五つ星料理人にひけをとらない腕前だ。
 中央のステージに目をむけると楽隊に合わせて、歌い、踊り回るクルーたちがいる。この砂上船が何をする船なのか今は皆目検討がつかないが、男も女も筋骨逞しいことから察すると肉体労働的な何かなのだろう。そう言えば甲板の後部に大きな扉がある。何かを入れる扉だが甲板は溝があり、中央がやや膨らんでいる。フェリーと言う訳では無さそうだから、これは漁船と考えるのが妥当だろう。一体、砂の海でどういった魚介類が穫れるのか興味は尽きない。でも、今は、重要な任務中だ流行る気持ちも好奇心も抑えねばならないのだ。
 それにしても、テッドとはいったいどういう男なのだろうか、威嚇射撃をした素性も分からぬあたしをこんなにも、もてなしてくれている。荒っぽそうだけどクルーは底なしに明るく、人も良さそうだ。あたしのことは偽装した逸れたバックパッカー程度に扱ってるのだろうか。
 中央のお立ち台では、女性の乗組員がきらびやかな衣装を纏って、華やかな踊りを披露して、喝采を浴びていたが、急にクルーが慌ただしくなって来た。どうやら、お立ち台の真下に昇降口があり、誰かが登って来たのだ。
 上がってきたのは、ライトブラウンのロン毛に筋骨逞しい若者だった。そいつは両脇の女性乗組員を抱き込むようにひょいと抱えあげ、交互にキスをするがお返しに交互にパンチを食らって、歓声が上がり場が盛り上がる。
「野郎ども、景気はどうだ!」
「最高ですよ、船長!」
「今期はたんまり出していただきやしたから、言うことありませんよ、お頭」
「来月はみんな父ちゃんや母ちゃんのもとに帰れるぜ、今日は無礼講だ!」
 父ちゃん、母ちゃんというのは、伴侶ということなんだろうな。みんな所帯持ちって年齢だし、この船は出稼ぎ先みたいなものなのだろう。テッドという船長は、年齢は不明な感じだった。鼻下や口元の無精髭が年齢を高く見せているが、髭は十代でも生えるし、声の感じや身のこなしからどう見ても三十代には見えなかった。
「マキナ、テッドが呼んでるよ」肩を叩いたカレンが指出すテッドはこちらを興味深く見やって、手招きしている。お嬢さん、こっちへいらっしゃいという感じだ。彼には命の恩人なのだから断るわけにも行かない。でも、裸体を見られたという気持ちが、あたしの足を怯ませる。けれども意志に反してあたしの体は軽快にテッドの方へ進んでいる。カレンとジェットがあたしの両肩を担いで、歩かされていたのだ。「ちょっと、ふたりともやめて」も言う間も無く、テッドの前に差し出されてしまった。
 テッドは差し出されたあたしを獲物を見つめる大トカゲのように上から舐めるように見つめている。澄み切った碧色の目は、宝石のように美しく、じっと見つめられると吸い込まれそうな錯覚に陥った。
「あれ、どうしたのマキナ」
「固まってるね」
 ジェットがあたしの目の前で、手のひらを上下させているのに気づき、後ろによろけそうになったところをテッドに抱きかかえられ留まった。テッドは、あたしを起こし胸元に抱き寄せて、聴衆に注目させて大声を上げた。
「よし、野郎ども、よく聞けよ。今日の宴には、美しい客人を紹介する」
 テッドはあたしにウィンクをする。
「このお客人はなあ、仲間とはぐれて砂の海をたった一人で旅をしていたんだ。学者の卵らしいんだが、偉いもんさ。一ヶ月近くもサバイバルしてたんだぜ。お前ら真似できるか」
 テッドの大げさな言葉に聴衆はどよめいた。
「そりゃあ大したお嬢ちゃんだよ。すげーぞ」の歓声があたしの耳に入る。「そ、そんなことないわよ」と照れてしまい、モジモジしてしまうあたし。

 ――――、ちょっと待て、これ上手く人を担ぐ、扇動じゃないのか。でも、皆に担がれてリスクを負うことがあるのかしら。ないわ。あるはずないもの。

 あたしは、自問自答するが何も思い当たらない。さっきも、決断した筈だ。たったの三日であたしがリスクを負う状況に至ることは無いのだ。
「おい、お嬢ちゃん、名前はなんてんだい」
 いかにも肉体労働者っぽい、筋肉質で毛深い大男が赤い顔をしてたずねてきた。あたしは名前くらいならと答えようとしたのだが、テッドがそれを遮った。
「マキナだ。マキナ・グレンと言うのだそうだ」
 あたしは自分の耳を疑った。確かにテッドはあたしの名前を正確に言ったのだ。カレンにはさっき自己紹介したばかりなのに。あたしは、テッドの目を見つめたが、テッドは目線もそらすことなく、澄み切った碧色の瞳で、自信に満ちあふれた顔をまじまじとあたしに指し向けた。
「船長、俺たちゃあ、そのお嬢ちゃんのお口から聞きたいんだぜ。勘弁してくれよ」
 テッドは船員たちのぼやきに、「まあ、そうぼやくな」といなし、飲めや騒げで、ごまかしてしまう。あたしの紹介が終わると彼の手は肩からすっと離れた。さっきまで血気盛んで真っ直ぐな気持ちのようなオーラは急激に引き、それと引き換えになんだか嫌な感じのオーラが彼を覆った。彼はお立ち台から飛び降り、周囲の料理をむさぼった。酒樽からは直接、手柄杓でごくごくと浴びるように煽り始める。やがて、先ほど踊っていた女達を呼び集めテーブルの中央へとなだれ込んだ。真っ直ぐな目と不敵な笑みでじっと見つめられた時は、何かあると思ったのだが取り越し苦労だった。この手の山師は、何かあると見せ掛けるのが手であって、実際は何もないのだ。知識で知ってはいても、目の当たりにすると迫力負けしてしまう。人生何事も経験なのだ。




 夕方になると、船は付近の大きな岩礁近くに錨を降ろし、停泊した。日も落ちて外はすっかり夜になっていた。この星の二重惑星であるルナンの明かりが周囲を青白く照らしている。宴は、なおも続いていた。
 あたしは、乗組員をひとりひとり丁寧に紹介された。まずは、最初に出会った副長のノックスさん。砂上船歴はこの道六十年の大ベテランで、テッドの師匠でもあるとのことだった。先ほど、あたしの名前を聞いてきたのは、機関長のガルーダさんだった。この船一番の力持ちで、故郷にはお子さんと奥さんを残して来たそうだ。
 料理長のジュリアーノさんは、オジさんばかりの乗組員の中では、テッドとカレンを除けば比較的若い方だ。なんでも、テッドのお父さんの代からこの船に乗っているらしく、ジュリアーノさんもお父さんの跡を継いだという話だった。弟さんも一緒にいるとのことだったが今は食材の買出しで居ないとのことだった。ジュリアーノさんが作る料理はどれも絶品だった。材料を聞くと気の弱い人なら引いてしまいそうだが、彼は実にいい仕事をしていた。
 あたしも、これまでサバイバルしてきたから、まともな食事をとれる状況ではなかった。空気中の水分から水を作り出す装置が故障したときは、岩の間に生えている植をすすり、非常食を落とした時は、岩場にいる岩トカゲや、砂の海の表面を這う砂ドジョウを焼いて食べたりもした。だから、材料で凹んだりはしないけど、あの食材たちが、こんなご馳走に変わるなんて、まるで魔法でも見せられているようだった。
 砲銛長のホセさんは、砂虫と呼ばれる体長五十メートルは優に超す惑星デュナンの砂漠の海にのみ生息する巨大な生物を捕獲するプロ中のプロだということだった。
彼は思いがけなく得意のハーモニカの演奏を披露もしてくれた。あたしの周囲の音楽と言えば、電子化され音を出すこと自体にアシストがあるものがほとんどなのに、何千年も前のこんなアナログな楽器を今でも奏でる人がいるのには驚きだった。
 この砂上船はサンドクロール号というらしいのだけど、戦艦のように巨大なのも砂虫がとてつもなく巨大な生物であるからということで納得できた。映像でしか見たことないけど、あれを昔ながらの人手で捕獲するなんて驚きだったわ。でも最近は、積荷の輸送やVIP客のクルージング兼護衛のような仕事の方が多くなってきているから、銛撃ちはイベントでやることが多いとか言ってたかなあ。ホセさんは、砂虫漁が主流だった頃からの乗組員だけど、漁業のことは何でも知っていて、何でも出来るから船員の食材調達や、副業の食品加工品の工場長も兼務しているとか言ってた。
 あとは、航海士のリサさんに、ホーマーさん。船員のモーリーさん、コルカスさん、ユーリーさん。さっき、操舵室を案内してくれたけど、みんな紳士だった。荒くれ者ばかりと思っていたら、そうでない人達もいたからびっくりした。
 それとー、さっき見たお母さんみたいな人は、ハウスメイドだったみたい。名前は確か、ミランダさんだったかな。
 小さな子供たちは、キリクとミキ。そしてその教育係が、ジェットだった。彼女は同い年だがちょっと見、大人っぽい感じもした。何より言葉使いが丁寧だった。賢いことも直感で分かったし、通信教育で大学生というのも頷けた。この星の生態の研究者のようだから、後でうちでスカウトするのもいいと思えた。

 船長のテッドは、昨年、不慮の事故で大怪我を負った父親から家督を譲り受け船長になった。カレンは十五歳で、二人目の副長だ。テッドとは幼なじみらしいが恋人という感じはなかった。二人のプライベートには多少興味をそそられた。
 あたしは、そこそこ気を許せるようになったジェットにテッドやカレンの年齢を聞いてみた。しかし、その回答には驚いた。テッドが十七、カレンが十五、ジェットが十四だった。ジェットはブレスレッドの端末を空中にパネル投影して見せてくれた。公的機関のデータベースの情報だから本物なのだ。いやいやそれはない、あたしとジェットが同じ年、どうみても彼女の方が年上だ。だが、聞いたことがある。偏狭惑星の住民は惑星連合への出生申請が数年単位で遅延している。惑星連合の出生申請は、実年齢の管理ではなく治安の管理である。出生届けをゼロ歳として、その十五年後から職に就けるということだけなのだ。

 いやいや待て、待て、マキナ。そんなことより何か肝心なことを忘れていないか。どうして、船長のテッドはあたしの名前を知っていたのか。あれは、あたしの顔色を伺う引掛けだったのかもしれないのだ。それを忘れるなよ!

 あたしは自問答しながらも、気のいい乗組員たちの温かさに身をゆだねてしまっている。ここ一ヶ月あまり、人に触れてなく、人並みの寂しさを感じていたのだろう。時間はあるとは言っても、先の見えないゴールを目指しているようなものなのだ。
 あれが見つけられ無ければ、わたしの家族はおしまいだ。もちろん、90パーセントそれは目指す場所にあるのだけど、油断は禁物だ。現にあたしは行き倒れかけたのだ。彼らに拾われたのは、必ずしも偶然とは言えないようだ。あたしが雇った業者と話がつけられたということは、案外まともな連中だということでもあるのだ。あたしの偽装は成功したと思う。そうでなければ、こんな状況には無いと思う。いざとなれば、あの雇った連中が仕掛けてくれる。そういう礼は十分はずんで有るし、寝返られる心配も無い。まだ手の内なのだ。 テッドは、あたしにはさほど興味がないのか、皆にあたしを紹介した後は少しも話しかけて来なかった。相変わらず船員の綺麗どころと戯れ、酒を浴びるように飲んでいる。十四歳の少女の片思いを傾けることなど不可能なほどの醜態である。一方のあたしは、ショットを飲んではバカ笑いしている。最初は演技だったが、次第に酔が回りだし、自分の意思とは違った行動をし始めている。

 これはいけないぞ。いけないんだが、クセになる。飲んだ瞬間、意識が飛ぶというか、その飛んでるときがとてもハイになって楽しいのだ。もはや、立っているのも難しいくらいにらふらで、すっかり今はお眠の状態だ。ジェットがどうにか肩を支えてくれているので倒れずにいれる。

 皆はそんなあたしを見て指をさして大声で笑っていたが、あたしは何故かそれにおおおっと、応えている。何やってんだ、あたし。

この辺境の惑星に降り立って、早、一ヶ月。まだ時間はある。焦るな、マキナ。休むべきときは休むのだ。

 あたしは、ジェットに肩をかつがれて、よろよろと階下の客間に戻った。そして、ふかふかのベットを見るなり、そこに飛び込んだ。運んでくれたジェットには「ありがとう」と言ったか、言わなかったかも分からないうちに再び目は虚ろとなり、瞼は重くなり始め、深い眠りが襲ってきた。でも、無理にあがなおうとはしなかった。何故なら、ここは砂漠じゃないからだ。もう、何も抵抗しなくていいんだ・・・・、何も、何も・・・・

第二章 目覚めたら悪夢

 あたしは、青い月の沙漠の上を優雅に船で旅をしていた。目の前には緑色の澄んだ目をした男性がいる。彼は船を漕ぐ、その船は空を飛んでいて、優雅にゆっくりと飛んでいる。夜空には妖しく青く光る月を、青い月を....。青い月は目の前にあった。そうだ、ここは青い月の惑星、砂の海の惑星だった。

 あたしは、悲鳴にも似た小さな耳鳴りを感じふと目が覚めた。何時間寝ていたかは不明だが、部屋の中にある天儀時計が示すには夜明まで、まだ何時間もあるのだろうと予測した。ただこの天儀時計はこれまでおよそ見たことがなかった。デザインは古めかしく、かなり大きなものだからだ。少なくとも百年以上は前の技術で作られたものに思えた。図鑑でしか見たことがなかった針が時刻を示すのに使用されているのには驚いた。文字盤の中にいくつか小さな別の単位の時計が入っていた。きっとどれかは季節や気圧、気候を表したりするのだろうか。使用されている記号や数字が見慣れないため、何を示しているかはわからなかった。

 あたしを夢から覚ました小さな耳鳴りは、最悪の状況下で泣き苦しむ家族の声だった。もちろんそれは幻聴だ。シェルターの中は、まだそんなに酷い状況ではないのだ。焦るな、うろたえるなと心に暗示をかけてもすぐに、無意識のうちに体や意識が緊張してしまう。こんなことでは、任務はとうてい全うできない。こうなるのもわたしが未熟なせいなのだ。人は心に不安を持つだけで自ら力を失ってしまう。しなくていい心配をして心を弱くしてしまう。科学技術は発達しても、人類の精神は何千年立とうともちっとも進歩していない。
 
 眠りにつけなくなったあたしは、この砂の海の惑星に一人でこなければならなくなったいきさつを思い出すことにした。あたしの故郷、アクアリア星は、水と緑の多い、あたしたちの銀河では一番自然が残っている美しい星だ。あたしの祖先は所謂、宇宙開拓移民の末裔だった。母なる地球を離れ数世紀に渡って宇宙の海原を航行し、人類が住める惑星を見つけては開拓する第何十だが、何百番目だかの一団の中にいたらしい。
 この星系に根を下ろしたあたしの祖先は、紅蓮(くれない れん)と言った。母や祖母に小さい頃からよく聞かされて来た紅蓮(グレン)家の始祖にあたる人なのだ。彼女は、碧(みどり)の黒髪を持った凜々しい女性だったと聞いている。彼女の傍らには常に頼りになる相棒がいた。名字は分からないが、イワンといい、宇宙のならず者たちをまとめる船の船長だった。この惑星デュナンに旅立つほんの一週間前、そう、あの惨事に見舞われるほんの少し前に、現グレン家当主である母が、何か突然に思い出したかのように、紅蓮の話をしてくれたのだ。

 蓮とイワンは宇宙開拓移民の孤児院で知り合った。どちらも、旅の途中で家族を失い、流れまわって孤児院暮らしとなっていた。二人が十五になった年に第九次惑星国家間戦争が起きた。二人は義勇軍に志願し、伴に戦場を駆け抜けた。指導力と人望のあった蓮は大尉まで昇進し、イワンは曹長として蓮の手足となり、何度も窮地を乗り越えた。そして、敵の本拠地、人工惑星要塞ギガントス攻略を前に戦争は終結した。お互いに家族のいなかった二人は、食べるために万屋(よろづや)を始め、旅から旅のあてどもない旅を繰り返していた。やがて、二人は偶然にも、稼業の為に使用していた星間貨物艇が不慮の事故で不時着した星で、その後の彼らの運命を変えるものと出会った。それはとてつもなく、巨大な船だった。年式こそ古かったが、しっかりした作りだったが、エンジンに故障を来たしていた。
 船長をしていた男は、かつては英雄として、いくつもの戦場をかいくぐって来た伝説の戦士だった。蓮とイワンは戦場こそ違え、彼の噂は耳にしたことがあった。彼は戦士たちの中では伝説的存在だったのだ。軍隊時代は整備士も兼ねていたイワンは、その船の修理にあたった。船体に致命的な損傷がない事が幸いしたが、どれもが戦時代の技術であったため、技術の解析に多くの時間を要することとなった。惑星は辺境地とは言えど、人は住んでおり、町もあったので、蓮とイワンはよろづ屋稼業を続けながら生計をたて、修理を続けた。船が修理できなければ、蓮もイワンもこの星で生涯を送らなければならない。足掛け三年でどうにか修理を完了させ、その星を離れた。このとき、二人の間には男の子いたということだった。
 戦士は、戦いの反省から私財をなげうって、戦争孤児や移民を入植者が少なく争いのない星へと送り届けていたらしいが、もうたいそうに年をとっていて、その仕事を続けるのは不可能となっていた。そこで、死ぬ前にもう一度だけ故郷を見たいと言ったという。二人はその戦士の最後の望みを叶えてやろうと、その航海につきあうこととなった。船長はイワンが務めた。二人は行く先々で、行商をしながら情報を集めて行った。

 戦士の船、テッド・グラーノフ三世号の航行記録は破損しており、彼の生まれ故郷の星の位置は記録に残って居なかった。二人は、彼の記憶を頼りに、ほうぼう回って探したらしい。その戦士の生まれ故郷こそ、アクアリアだったのだ。グラーノフ三世号はとても大きな船だったので、行く先々で乗員を雇い入れていった。いつしか、船の中は小さな町が出来ていた。五年の歳月を経て二人はようやく、年老いた戦士を生まれ故郷へ帰した。彼は旅の途中何度も死にかかったが、故郷の土を踏むまでは死ねないと歯を食いしばって、生き抜いて来た。

 戦士がついに故郷の星に降り立ったとき、ちょうど日没を迎えていた。木陰に腰をおろし、何十年かぶりの故郷の夕日を眺めた彼の目からはあふれんばかりの涙が、止めども無く流れ続けたのだという。彼は、「ただいま」とひとこと言って息をひきとった。既に親族は戦争で亡くなり、身寄りもない身の上だった。二人は彼の遺体を最後に息をひきとった場所に墓を作り弔った。戦士は自分にあこがれて若者が戦場に出たりしないよう、墓標には自分の通名や戦争の事は書くなと言い残したことを守った。
 やがて、蓮はこの星の美しさに惹かれ、旅先で知り合った仲間たちと伴にこの地に根を下ろすことにした。この星へ降り立つ三年前に、彼女は永年のイワンへの想いを伝え、結婚を申し込んだ。しかし、イワンは、その申し出だけは受け入れることができなかった。理由は、ハヤトという彼らの子供だった。ある時立ち寄った惑星で起きた内乱に巻き込まれ、非難中に離ればなれになっていたのだった。イワンはその責任が自分にあったとして、自分のような者は、蓮の夫にはふさわしくないと、その申し出を素直に受け取ることが出来なかったのだ。蓮は彼の心の扉を開くことはできなかった。
 結局、蓮は、一年後にこの旅の船出の時に航海士として雇っていた男のプロポーズを受け結婚した。イワンは、大粒の涙を流して二人を祝福したという。戦士の星へ降り立って半年後、イワンは未開の惑星開拓の話を聞きつけ、自分の骨を埋める場所にその地を定めた。

 イワンの旅立ちの時、二人はいつか再会を誓って、壊れた宇宙船の廃部品と蓮が持っていた折れた刀で、不格好な合わせリングの首飾りを作った。我が一族では”星屑のリング”と呼んでいるが、それが正しい名前だったかどうかは定かではない。だが、あまりにも不格好だから、見ればきっと気付くに違いない。そう思っていたのかもしれない。
 蓮とイワンがその後、再び出会ったという記録はどこにも記されてなかった。少なくとも我が一族の書庫にはそれを示す記録の存在は確認されていない。なにせ、千年も昔の話なのだ。紅蓮はわたしたちのご先祖さまという以前にアクアリアにおける伝説の偉人なのだ。

 蓮が愛したアクアリアは本当に美しい星だったが、ここ百年の長きの間、政治が不安定で戦争が何度も起き、その度に自然が破壊され、今では自然の四十パーセント近くが修復のできない状況に陥っていた。あたしの家族と大部分の親族は企業経営の為、故郷を離れ最も裕福な人工惑星エデンに移り住んでいた。長年独裁者の圧政に耐えた反政府軍は、周辺惑星国家の協力をかりて政府軍を打ち破り、共和国を打ち立てた。新政府は惑星再生プロジェクトを打ち立て、グレン家もそのプロジェクトに参加することとなった。やがてプロジェクトは成果を生み、徐々に惑星再生が完了しつつあった。
 まもなく、故郷を離れていた人々も帰郷し、都市の再建にとりかかりはじめた矢先のことだった。地下に潜伏していた、旧政府軍が奇襲をかけ、新政府軍を転覆させようと反乱を起こしたのだ。しかし、既に力をなくしていた旧政府軍はまたたくまに鎮圧され、指導者は追い詰められた挙句、大量の土壌汚染物質を撒き散らしてしまった。
 これにより、あたしたちが再生させた植物はことごとく死滅していき、大気も汚染されてしまった。残された住民は、どうにか避難用のシェルターに避難した。あたしだけは、運良く、師匠と父の依頼で遠く故郷を離れ、惑星回復の秘薬とされる植物の球根を調査する為に、この砂の海の惑星デュナンに降り立っていたのだ。

 故郷の惨事をあたしが知ったのは、この星の首都であるオアシスゼロのホテルで、ルームサービスの夕食を取ろうとしていた時だった。緊急惑星間通信が、あたしの通信機に入ってきた。ことの重大さを知ったあたしは、すぐさま政府の特別回線で家族と話をすることができた。あたしは自分を呪った、どうしてあたしだけがここにいるのかと。シェルターの周囲は高濃度の有害毒素が蔓延し、完全密閉した救助活動が百パーセント行えなければ、避難民の安全が保証できないという状況だった。また。この有害毒素は金属を腐食させる成分も含まれていた。これでは救出作業中に故障してしまう可能性があった。
 あたしの探している惑星デュナンの砂の海に生息する植物は、有害毒素を吸収し、無害なガスとして吐き出す性質を持っていた。その植物は繁殖能力も高いため、シェルター周辺で生息させれば、毒素濃度を薄めることができさえすればどうにか救出の可能性も見えてくるというのだ。

 あたしの師匠はかつて探索中の植物を捕獲し、あたしの父と協力して有害毒素で汚染された惑星の土地を回復させた経験者でもあった。ただ、非常に希少な生物の為、この植物はその能力の一部を公にされていなかったのだ。この植物はDNPLT10010という認識コードはあるが名前は無かった。
なので、あたしはその植物を一度も見たことが無いのだ。知っているのは父と師匠だけ。秘密保持のため写真も、スケッチも無いのだ。更に今、この場に師匠はない。当初の計画では、あたしがまず一ヶ月使って、師匠の情報から場所を割り出し、後から来る師匠と兄弟子のクランツ兄貴がその結果を検証するというものだったからだ。いわば、この調査は、あたしの植物学者としての能力を鍛える試練でもあるのだ。師匠とクランツ兄貴は、事故が発生した際、皆を助けようとかばい怪我をして、今は集中治療中だった。
 あたしは、通信画面の向こうにいる家族と師匠ら植物研究所の人々に誓った。あたしは必ず、目的を果たして帰ってくると
「かあちゃん。とうちゃん。じいちゃん。ユキ、コズナ、メロ、師匠、クランツ兄貴・・・・・、あたし、きっと持ってくるよ。そして、みんなの元へ必ず帰ってくるよ」
 あたしは心を落ち着かせ、床に入り再び眠りについた。
 顔にじりじりと熱いものが照り付けているのを感じ、あたしは目が覚めた。そして、すぐに周囲の異変に気づいた。今のあたしは、砂漠服を着てうつぶせで寝ているのだ。生命維持装置は動いていた。バッテリーもフル充電状態だ。コンピューターも正常だった。しかし、これは一体どうしたことなのか?
 あたしは、その場でゆっくりと立ち上がった。周囲を見回すにつけ、気が動転しそうになるのを必死にこらえた。眠りに落ちる前まで、あたしは、テッドとかいう船長の砂上船の客間のベットにいた筈なのだ。なのに、今あたしが立っているここはあのテッドとカレンと三日ほど前に出会った岩場だ。
 まさかあれは夢だったのか? ふかふかのベットの感触や、おいしい料理の味の記憶も鮮明なのに、あれは全て夢だったというのだろうか?
 あたしは呆然とその場に立ちすくんだ。だが、思考が止まってしまった。あたしは成す術もなく、ただ、ただ周囲を眺めるだけだった。あたしは気を取り直して、時間を確認することにした。だが、次の瞬間我が目を疑った。なんと、この惑星降り立って、六ヶ月も経っていたからだった。
 確かこの場所に来たのは、一ヶ月前だった筈だ。その筈だったのだ。しかし、今はそれが五ヶ月も多く経っているのだ。これは一体全体どういうことなのだ。あたしには、この惑星で生活をした記憶は一ヶ月と、あの砂上船で暮らした数日程度の記憶しか無いというのに。

 あたしは、砂上船の甲板でのことを思い出した。確か空を見上げた時、太陽の位置がいつもより西よりにずれていたことを。あれはやはり、時間が経っていたことの現れだったのだ。砂漠服も脱がされ時間も場所も確認する手段は無かった。裸にひん剥かれたことや、暖かい歓迎で、あたしの感情ははげしく動き、冷静な判断ができなくなっていたのだ。
 あのテッドとカレンと初めて出会った時、確か彼らは身分証IDを持っていなかった。
つまり、彼らは惑星連合国家に未所属の者たちだったのだ。そういった者たちの、仕事といえば、すべてが違法行為。殺人まではおかさないも、密輸、産業スパイ、反政府組織への武器や食料の横流し・・・。そして、彼らは、こういった惑星連合国家に所属しない未開地の多いこういう星を根城にしている。この惑星では、彼らを「砂漠の鼠」とよんでいたのだったことを。
 何ということだ。何というお人よしなのだ。あたしは、まんまと彼らの獲物にされたのだ。あの宴会はきっと最後の日だったのだ。あたしは気絶した後、人工冬眠かなにかにかけられ、眠らされ。荷物を掻き回され、コンピュータを解析され、情報をしっかり読み取られていたのだ。そして、さしたる自己紹介もしていないのにあたしを『学者の卵』と呼んでいたし、あたしの名前もさらりと紹介していた。あの自信に満ちた目線は、あたしへのあてつけだったのだ。悔しい、なんてやつだ。
 だが、悪いのはあたしだ。あたしがぶざまにこの岩場で行き倒れなければ、こんなことにはならなかったのだ。彼らはいったいどの程度情報を解析できたのだろうか。実際の答えは師匠しか知らない断片的な情報でしかないのだ。彼らがあれをほしがる理由は簡単だ。あれは、さる研究機関などに売れば、大金が入るからだ。きっと彼らはそれを嗅ぎつけたのだろう。山師のような連中は金になるものは見逃さない。悔しいが済んだことなのだ。きっとカモフラージュに雇った連中も丸め込んだのだろう。
 あたしは、彼らが情報を正しく理解していないことに望みを託し、師匠がくれた情報を頼りに、あの植物が生息する入江へと向かった。入り江へ向かう途中で、地図を見ながらあたしは思い出した。実はあたしは、かなり目的地に近い場所までたどり着いていたのだ。急ぐあまりに無理をしてしまい、天候と日照時間の変化を読み違え、疲労も重なってあそこで行き倒れたのだ。

 だが、彼らに発見されなければ、どのみちあたしはあそこで終わっていた。だから、結果的には彼らには感謝しなくてはならないのだ。今は、彼らに騙されたことを恨むより、自分のふがいなさを反省しなくてはならないのだ。

第三章 ギブ・アンド・テイク

 砂地と岩場の境を歩くこと一週間、やっと、あたしは目的の入江についた。眼前には見覚えのある砂上船が停泊していた。さすが、五ヶ月かけてグレン家の自家製コンピュータを解析しただけのことはある。
 普通のハッカーなら、一年かかったってプロテクトすら破ることは出来ない自信があったのに、金で動く連中のネットワークは想像以上に広いようだ。あの暗号めいた情報をもとに、彼らは、あたしが目指す場所と同じ場所に来ているのだ。あたしは、砂漠スーツの望遠マイクの感度を広げ、彼らの会話を盗み聞くことにした。

「ちょっと、テッド」

 カレンの声が音の無い入江の岩肌の壁を伝わって甲高く響いている。この入り江は、相当に音が反射するようだ。まさか、それを分かって、わたしに聞かせているのか。それはないだろう、わたしが放置されてから、ここへ来るまで一週間もかかっているのだ。都合良く、会話の時間にわたしが来ることなんて予測できっこない。落ち着け、マキナ。なんでも頭で考えてはダメだ。これは偶然なんだ。そう、偶然だ。
「なんだよ、カレン」
 テッドはなにやら気だるそうだ。いや、カレンがカリカリしずぎているだけだ。テッドはこんな感じだ。
「あの娘から奪った情報、ここで正しいの。本当にここなの。ここにあのお宝があるって言うの。ここへ着いて、かれこれ一週間たつけど、ここに例の植物が生えているなんて、到底ありえないわよ」
「なあ、船長。もう一回、あの娘をとっ捕まえましょうや。今度は我々に協力させるんですよ」
「そうですよ。それが早ええ」
 船員たちも、やきもきしているようだ。
「よせよ。俺たちは『砂漠の鼠』だが、オヤジの代から砂上船のりの誇りってーもんがあるのさ。あの娘も断片情報しか持たされてなかったんだ。ただ、十四で大学の修士課程をとるような賢い娘だからな、もしかすると、この岩陰にひそんで俺たちの会話を盗み聞きしているかもしれんぞ」
 あたしはギクッとした。しかし、同時に安心もした。彼らは、アレがどこにあるのかを全然見つけてなかったのだった。でも、五ヶ月のずれは痛い。予定では師匠たちと合流しても二ヶ月以内には、例の植物をさらって帰る予定だったのだから、それが四ヶ月もオーバーしている。シェルターでの生活可能期間はまだ一年以上はあるが、師匠の助言なしにそれが探せるのか不安になった。
 昨日行った気象観測結果によれば、先月までは乾季だったのだが、今月からは雨季に移っていた。この惑星の雨は惑星表面の熱い熱の影響で水蒸気のようにもあっと振りわたるのは特徴だが、砂漠服を着ている状況では、ヘルメットのガラスに水滴がつく程度で体がそれを感じることはない。ただ、その時は生あたたかい温水シャワーでも浴びているようで、日差しも遮られて、結構快適だということだった。状況が状況なのに不謹慎な考えだが、科学者たるもの実地調査も必要なんだ。
 さて、師匠の情報をもとにすると、その植物は岩に張り付いている時は、あたかも岩の一部であるかのような擬態をなすのだという。更に比較的水の澄んだ水量の多い入江に生息しているということなのだ。砂の海とは言われているが、この砂の海は何も全てが砂ではない。遙下の方には水もあるのだ。ただし、光が全く通らないので、闇の海である。その中の生態系については、まだどこの学者もほとんど手をつけていないのだ。
 砂の海の表面は比重の軽い砂が高密度で重なっているためそれなりに表面は硬いのだ。この星の巨大生物の砂虫は、砂の中にいると思われているが、実は下層の海の中を回遊しているのだ。虫と呼ばれてはいるが、昆虫ではない。呼吸器は哺乳類の肺と似た構造をしてはいるが、わりと長く潜っていることが可能なようだ。それでも、十時間に一度は浮上して呼吸をする必要があるといわれている。故に、彼らは呼吸をする場合、二、三たぶんもとはクジラのような生物だったのだろうが、光のない海で暮らしているうちに目が退化し、水流をつかって体をひねるだけで移動が可能になったので、ひれも退化して度浮上を繰り返して、その大きな肺に隅々に空気を溜め込む。そこを砲銛手が銛を撃ち、砂虫を仕留めていたのだ。
 砂虫の血肉には豊富なミネラルが含まれていて、様々な医薬品の原料となる成分が含まれている。一匹しとめて、解体して企業にでも売れば、亜光速航行可能な宇宙船が一隻買えるほどの大金が得られるらしい。だが、この砂虫は出現場所が特定されてなく、砂の海に引きもどると打つ手がない。呼吸をする為に砂の上にあがったときに仕留めないといけないのだ。砂虫の急所は、ベテランの砲銛手でないとわからないというのだから、誰でもできるというものでも無かった。仕留めたいが為に銛を撃ちすぎると、食料にはなっても、医薬品などの原料にはならない。砂虫は身動きこそできなくなるが、いつまでも生きているため、体の成分が変わってしまい質が落ちてしまうのだ。
 あたしは、自分の捕獲目標がこの砂虫でなかったことに感謝した。だが、あたしも、あまり安心もしてられない。テッドたちがアレを見つける前にあたしが見つけなければならないのだから。いつになく雨が激しくなってきた。霧がかかったようで、視界もわるい。この場所に来て、三日が過ぎたがまだ進展は無かった。テッドたちも船に引き上げるようだ。
 あたしはテッドたちからは死角となる岩場に穴を開け、ねぐらを作ることにした。腕につけられた武器には、ショックガン以外に、岩盤に穴をあける爆薬弾が装備されている。それを岩盤の比較的柔らかいところに、丁度人が入れる程度の穴をほじるのだ。あとは少し力仕事になるが、崩れた岩盤を取り除けば、ねぐらの出来上がりだ。霧状の生暖かい雨がとても気持ちよさそうなので、あたしは服を脱ぎ、自然のシャワーをあびることにした。噂には聞いていたが、体験するのは初めてだった。心地よい生暖かい霧のシャワーが体全体を覆う感覚は例えようもないほどに快感だった。体を洗いながら、冷静になろうと努めた。
 だが、家族のことが頭から離れない。シェルターのみんなは大丈夫だろうか。師匠や兄貴の怪我は治ったのだろうか。通信したいが、この惑星の衛星と砂漠服の通信設備程度では、長距離通信は不可能だ。もっと大きな出力がいる。
「かあちゃん。とうちゃん。じいちゃん。ユキ、コズナ、メロ、師匠、クランツ兄貴・・・・・」思いがけず、言葉がこぼれ、涙が出た。情けない。こんなところでくじけるな。何か打開策を考えろ、考えろ。

 入江の岩肌付近は、夜中に十分散策して調べたが、植物の痕跡は無かった。調べ方が悪いのか、何か見落としていないか思案したがわからなかった。やはり、師匠の助言が欲しい。

「大出力の通信設備さえあれば・・・・・」わたしは、吐息が漏れた。

 だが、ふと脳裏にある物がうかんだ。そうテッドの”砂上船”だった。五ヶ月かけて、あたしのコンピュータをハッキングする程の装備があるのだから、きっと大出力の惑星間通信装置も備えているはずなのだ。そして彼らも、目的の物がさがせずにイラついているはずなのだ。それに理由を言えば、分からない連中でもなさそうだ。ここは彼らと協力して、アレを一つでも持ち帰ることを優先すべきなのだ。あたしはそう考えると気が楽になった。あたしは、準備をするためねぐらへ戻ることにした。霧のカーテンをくぐり、入口にかけていたローブをまとい、カムフラージュの岩肌をめくって岩穴に入った。だが目の前にはあのテッドがいた。

「いよー、お嬢さん。マキナ・グレンさん」

彼は、夜であるに真っ黒なサングラスをかけ、薪をで火を起こし、あたしの装置と同じものを使ったのだろう、もうひとつ椅子をこさえていた。そして、どうやら、あたしのためにディナーを用意してくれていた。テーブルには、保温用のシチューポットのようなものと、密閉タイプのランチボックスとおぼしきものがあった。
 そして、テッドは、たき火を使って、なにやらステーキのようなものを調理中だった。わたしが彼の対面に来ると、眼鏡を下に下ろし、澄んだ碧色の瞳で、わたしを見つめた。
「相変わらずお美しいボディラインだ。まったく、将来が楽しみだな」
「もう、いやらしいこと、言わないで頂戴」
 あたしは、このテッドに全裸を既にくまなく見られていることを思い出し、かっとなってしまった。いけない落ち着け、これは彼の策略だ。あたしを感情的にさせて、また何か騙そうとしているのだ。
「話の前にまず、メシを食えよ。腹が減ってるだろ。こっちは、ジュリアーノの手作り料理だ。冷めないように、容器にいれてある。そして、こっちのは俺の手作りだ。グラーノフ家直伝の漁師料理、砂虫の熟成ヒレステーキさ。スパイスがきいて結構いけるぜ」
 あたしは、ジュリアーノさんの料理から手にとった。まずは、岩トカゲのクリームスープを口にした。相変わらずおいし、いい出汁がとれている。野菜の茹で加減もよく、スープの舌触りもなめらかだった。あの岩のようにゴツゴツして、肉の硬い岩トカゲからよくもこれだけの出汁が出るものだ。きっと圧力釜を使ったのだろう。手間暇かけた手料理は何物にも代えがたい。さらに、これをパンにつけて食べるとまた格別だった。このパンはミランダさんが焼いたそうだが、まさに母の味。悔しいが、うちの母が焼いてくれるパンよりも格段においしかった。続けて、テッドのステーキも食べてみた。口にいれると芳醇な肉汁が口の中にぱっとひろがり、この上なく極上の旨みを体の芯まで伝えた。
「どうだ、美味いだろう。我が家直伝の味って奴だよ」
「ええ、とても美味しいわ」
 あたしは、自分でもびっくりするほどの勢いで、テッドの特性ステーキをぺろりと平らげてしまった。
「それで、お前も俺と同じことを考えていると思うんだが。率直に言おう。俺に手を貸して、おまえが探しているものを山分けしよう」

 あたしは一瞬、ぽかんとなった。と、同時に笑いもこみ上げてきた。つられてテッドも笑い出した。
 このテッドという奴は、全く素直だ。あきれる程に。あたしは笑いが止まらなかった。あたしの情報を盗み見ておいて、今度は山分けを言い出してきたのだ。あたしも全部はいらない、一個持ち帰れれば、後は培養すれば簡単に増殖できるのだから。一体いくつ見つけられるか知らないが、残りは、全部、テッド達にくれてやっても構わない。
「いいわよ。あたしも丁度、使える相棒が欲しかったところなの」
 あたしは、騙されたことをとやかく言わない方が良いと思った。この男は、こういう素直な目をした男は、素直に対処するのが一番なのだから。その辺のさかりのついた小娘みたく、キャー、キャーと黄色い声を発しながら、あれよこれよと騒ぎまくるのは、かえって逆効果になるだろう。

 あたしは、テッドと正式に契約を交わすことにした。だが、不安は無いわけではなかった。身分証IDの無い者との契約は成立できないから、結局は口約束同然になってしまうのではないかと。だがすぐにその不安はかき消された。テッドから身分証ID反応が出たのだ。あたしは思わず目口をあんぐりと見開いてしまった。
「ああ、これか?」
 テッドはあたしの驚きに気づいたようだ。
「あん時はよ。俺もカレンも用心して、身分証IDが読み取られないよう船から妨害電波を送らせていたんだよ。それに身分証IDなしに大金が動く商売はできねーからな。俺たちが身分証IDなしてーのは、俺たちが広めたいわばハッタリさ。俺たちを無法者にすることで、俺たち自身を守っていたのさ。だから安心しな。マキナ。契約の不履行は絶対にありえねえ」
 テッドはサングラスを外して、その澄んだ碧色の瞳であたしを見つめ、自信満々に言い放った。
「これな。物体の輪郭しか見えない特殊眼鏡さ。砂の海はどこでも歩けるって訳じゃないことはおまえさんも知ってるだろう。おまえさんは比較的強度の硬い陸地側を常に歩いていたよな。それで正解なんだが、そこから外れると強度の極端に弱い場所があってな。そこに足を踏み入れると」
「砂の振動を感じて、砂蛭が噛み付いて来るってんでしょう」
「そう、そいつは歯がとにかく鋭いからな。砂漠服でさえ破けちまう。今日みたいな軽装だったら、大怪我しちまうからな」

 正論だ。このテッドは意外と丁寧だと感じた。周囲は暗いが昼間のように見える必要はないし、むしろ穴やくぼみが分かった方がよいはずだ。ここはこいつの弁明を信じてやるとしよう。テッドはわたしが理解したことを会釈すると話を続けた。
「それとこれは、おまえさんの名誉の為に言っておく。さっきのおまえさんの裸体も、砂漠服脱がした時の裸体も、俺は一切見ていないぜ。見たのはカレンじゃねー。もう一人の相棒だな。小五月蠅い女なんだんだが、結構な美人でさ。コンピューターとかに強くてさ、なんだったら今度、会わせてやるよ。おまえさんとなら気が合うかもしれなーからな。
 それと一応、あの船には医療施設があってな、医者も常駐してんだ。ちょっと年増の女医だがな」
「シェスカさんでしょ」
「そう、そのシェスカだ。そいつが阻止しやがったのさ。おっと、いっとくが、俺様はまだ独身だぜ」
「でも、筆はおろされたんでしょ、シェスカさんに。ね、筆おろすって何?」
「だ、誰からその話聞いた? ノックスの爺さんだな、くそ、なんてことをこ子供に話やがるんだ。筆をおろす意味か、がきはまだ知らなくていい。まあ、当時はショックと感動があったな。あいつは嫌いじゃないし、しゃべらなきゃ結構いい女だし。おかげて荒くれ者をまとめる俺に箔をつけてもらえたよ」
「そういうお前は、・・・まあ聞くまでもないな。だが、そろそろ経験してもいいんじゃないか。お前さんがその気ならここで事に及んでも俺はかまわないぜ」
《テッド、何ふざけてんの! 話は終わったんだから、その娘連れて帰ってきなよ!》
 無線機のスピーカー音が敗れるほどに大きな声で、カレンの声が鳴り響いた。テッドはカレンの声がする装置をあわてて探している。どうやら、彼女がテッドに内緒で装着したようだ。船長なのに副長に信用されてないのがおかしかった。彼は腕のブレスレット肩の端末で発信源を探査し、ブーツの裏底に薄いカードチップが挿入されているのを発見すると、それを取り出し右手の親指とひとさし指に挟んで一瞬で破壊した。
「どいつも、こいつもうちの女どもは、女房気取りで困るな!」
「あんたの星の妻は、夫の行動を監視するの?」
「そ、そんな訳ねえだろ、俺がいい男すぎてだな、他の女に取られまいとしてるだけなのさ」
 とても変ないい訳だが、これはかなり自慢なのだろうとわたしには思えた。だがなんだ、この男。わたしに気があるのか、それとも軟派しているのか。それとも女と見れば見境ないのか分からない奴だ。
「しかも、ウルスラと来たら、ひどいんだぜ。あ、ウルスラつーのが、今話した。小五月蝿い女のことだ。こいつがよ、ぐーで顔面殴るんだぜ。しかも、しっかり腰入れて、手首のスナップまできかせやがった。俺だって、年端もいかない少女の裸を喜んで見る趣味はねーよ。それでなくとも、姉貴や妹が風呂上がりに真っ裸でうろつきまわるんだぞ。まっぱで俺の頭の上を平気でまたぎやがるし、風呂あがりには、タオルを首にかけたまんまでだから見慣れているんだよ、若い女の裸体はさ」

 テッドはその後も、あたしが聞きもしない船の生活の話や彼の仲間のことをぺらぺらと喋り続けた。わたしは、なんだか分からないこのテッドという男に興味を持ったようだ。

第四章 再び砂上船へ

 あたしは改めて、テッドの砂上船への招待を受けた。甲板には乗組員が総出で出迎えてくれた。彼らは、軍隊のように整然と並び、敬礼までしてくれたのだ。これが、彼らの正式なお客様のお迎えなのだろう。正式にお客様として迎えられたあたしは、ようやく砂上船の説明を聞かせてもらえることとなった。
 テッドの砂上船、サンドクロールス号はその名が示す通り、静かで波も無い真平らな砂の表面を這うように航行する。砂上船は船首の底に砂をかきわける鰓のようなものが左右についている。実は砂は見た目にはわからないが対流をしている。砂上船はこの砂の対流と風の力を利用して航行しているのだ。船の甲板は特殊なシールドに覆われている。このおかげで肌を露出させていても、人体に大きな影響を与えない程度の紫外線量になっており、気温も二十五度前後で快適な環境に保たれている。
 だが、砂虫漁の際は、エネルギー供給確保の為にシールドは解除され、着ぐるしい砂漠服を着ての作業となってしまうので、体力勝負の仕事になってしまうようだ。また、砂上船の大きな帆は形状記憶材質で出来ており、電圧でその形状を変化させていた。通常は、風を受け、船そのものを動かす動力となっているが、同時に太陽エネルギーを吸収し、蓄電しているとのことだった。そして、恒星間通信をするような場合は、帆に電流を流し、巨大なアンテナにするのだそうだ。わたしの狙いは当たっていた。でも、まさか帆がアンテナとは思いもよらなかった。この星のテクノロジーも侮れないものがあると感じた。

 あたしは、テッド達の力を借りて、シェルターと連絡を取ることにした。テッド達は、軍事衛星の裏コード使って良好な通信を開いてくれた。やはりこういうことをできる連中なのだなと思った。どうも仲間はこの星の衛星軌道上にでもいるようで、コンタクトをしている様子が伺えた。とりあえず、お客のあたしはモニタの前に座って、回線がつながるのを待った。その間、再び食事の歓待を受けていた。ジュリアーノさんの弟、マルコさんの虫料理だったが、材料の虫の見てくれからは考えられないほど美味な食事だった。カレンも舌鼓を打ち、何杯もおかわりしたという砂芋虫の熟成ホワイトスープは最高だった。二時間ほどゆったりとくつろいでいると、テッドが通信接続の合図を出した。砂嵐のモニタが徐々に細かな色のついたドットの映像が現れだし、やがて鮮明な映像となった。
 
 六ヶ月ぶりに見るモニタの向こうには、懐かしい顔があった。心配だった師匠もクランツ兄貴もいた。シェルターの外側はあまり良くない状況のようだった。心配されるのは、設備の故障だった。案の定、一部が故障し部品の調達が出来ない状況に陥っていた。それでも、一年はどうにか生活できるとコンピュータは予測していた。シェルターに入った人間が想定人数の半分以下だったことも幸いした。これがもし、想定人数入っていたら、半年も持たない状況となっていたことだろう。
 あたしは、何よりも家族とゆっくり話がしたかったが、そうも言ってられない状況が双方にあることを自覚した。状況を察してか、師匠が先に話を切り出した。
「マキナ。アレは見つかったのか?」
「いいえ、師匠。まだ、見つかってないわ。師匠が示した場所には来たとおもうのだけど、見つからないの」
 師匠はあたしが送った位置情報を確認し、場所が正しいことを告げてくれた。
「ずいぶんと時間がかかったようだが、場所はそこで間違いない。但し、お前も確認してると思うが、今は雨季だ。海面も上昇している。あの入江は特に海面上昇率が高いのだ。アレは岩肌に生息しているのは間違いないが、今は千五百メートルほど下にあるんだ。だから雨季に入る前に採取せねばならなかったのだ。あと、四ヶ月早ければ、手が届く範囲でそのまま岩肌から採取できたんだ。
 だが、お前は初めてでそこまでたどり着いたのいだ。それだけでも褒めてやらねばならないだろう。問題はどうやって千五百メートル潜るかだが、その砂漠服は潜水服としても使えることは、知ってるな。そこらの岩盤は頑丈だからしっかり、岩場にフックを取り付けられるさ」
「あ、はい。調べてやってみます」
 あたしは、悪い癖で師匠に咄嗟にそう応えてしまった。そして、愕然となった。アレは千五百メートルも下にある。砂の海を潜るってことなのか。たしかに砂漠服は潜水具にもなるが一人では砂の海など十メートルも潜るのは大変だろう。砂の海の潜り方のこつも説明はあるが、あたしは砂の海など潜ったことは一度もないのだ。
「お話の邪魔をして申し訳ない」
 あたしは、師匠の言葉に不安になった素振りを察知したかのように、テッドはあたしの肩を軽く叩き、「俺に任せな」と、割って入ってきた。
「お前さんは一体誰だ」
 師匠と父は声をそろえたかのように叫び、怪訝な顔つきになった。無理もない、見てくれは少々イケメンの若い男が突然に、愛娘の肩を抱いて割って入ってきたのだから。
「あ、申し遅れました。あたしは、惑星デュナンで海運業を営んでおります、サンドクロールス号の船長、テッド・グラーノフ三世と申します。以後、お見知りおきを。
 今は、マキナさんのお仕事の協力者を務めております。契約内容をお送りしますのでご覧になってください」
 師匠と父は契約内容を見て驚きを隠せなかったが、事情を察して特に反論はしなかった。
「お二方とも意外と、物分りがおよろしくて助かります。わたくしどもは、砂虫漁においてもプロを自負しており、実は砂の海を潜れる潜水艇も所有しております。
 ですので、この任務はわたくしどもにおまかせください。きっと、目的のものを採取して、お嬢様を安全に皆様の元へお届けいたします。それと言ってはなんですが、追加料金を上乗せしていただきたく、こちらに認証とサインをいただけないかと」
 テッドはすかさず、追加料金の請求書をシェルターへ送りつけた。そこには、あたしを無事に故郷へ送り届ける条件が含まれていた。そうなのだ。あたしとテッドの契約は、目的物の採取だけであり、その後については何もなかったのだ。あたしは、植物を採取しても、その後、来た道を戻り、オアシスゼロのホテルに戻ってから、連絡バスに乗って帰るしかないのだ。惑星連合に加盟していないこの惑星は、オアシスゼロこそ惑星連合の統括府があるが、政府機関のシャトルは停泊できない為、近くの惑星連合ステーションまで連絡バスを乗り継いでいかねばならないのだ。この惑星に降りたときは、半分、旅行気分だった。
 だけど、使命を帯びた今は、帰りの安全も確保しなくてはならなかったことをあたしは全く考えていなかったのだ。テッドは商売に抜け目無いが、あたしよりも上手のようだ。と、いうかあたしがあまり世間を知らないのだ。父は状況を察し、あたしの安全をテッドに託したのだろう。すんなりと契約書にサインし、認証をくれた。
「毎度あり―――!」
 テッドの声が景気よく響いた。そして彼は、無防備なあたしの左の頬にキスをした。
「おい―――、きさまー!何お―――!」
 先ほどまで冷静だった父が取り乱した。
「ほんのご挨拶ですよ、お父さん」
「お父さんだー。貴様にお父さんと呼ばれる筋合いはないぞー」
「僕はもう娘さんのすべてを知ってしまいましたから、体の隅々までね。だから、今度、お会いするときは、息子として迎えてあげてくださいね。お父様」
 あたしは、裸にむかれたことを再び思い出し、顔がかっと熱くなるのを覚えた。だが、テッドはあたしの裸は見ていなかったと弁解してたが、納得するまでには時間がかかるのだ。きっと、あたしの頬は赤らんでいたに違いなかった。父はそれを見るなり、怒りを沸騰させ、みるみる顔が赤鬼のように変化していくのがありありと見えた。

「貴様―!」

 父が怒りをあらわに叫んだその瞬間、通信回線は切れた。あの普段は冷静な父があそこまで取り乱したのを見たのはあたしも初めてだった。きっと、今、父は腸(はらわた)が煮えくりかえっていることだろう。
「よし、これで準備はおわりっと」
 テッドはあたしの肩から手を離した。
「ちょっと、あんた」
 あたしは、テッドをぶたずにはいられなかった。テッドはいつも悪ふざけをするが、こればかりはあたしも許せなかった。
「よしな!」
 カレンが割って入り、あたしの右手首をつかんで、テッドへの平手打ちを止めた。
「いいんだ、カレン。打たせてやれ。俺はそのくらいのことをしたんだ」
「本当にいいのテッド」
「ああ、構わないさ。早く、マキナの手を離してやれ、カレン」
 テッドは、右の頬をあたしの眼前につきだし、さあ、やれよと言わんばかりだった。彼はまるでいい男きどりの絶頂だった。状況が、状況でなかったら、あたしは、少しこの男に惚れるかもしれないと思った程だった。きっと、この男はせいぜいか弱い女の平手打ちが、頬を軽く叩く程度だと思い込んでいるのだろう。
 でも、残念でした。あたしは、幼い頃から、空手や柔道、剣道をこの身にたたき込んできた、紅蓮家の次期当主なのだから。あたしは、平手を握り込み、無防備なテッドの頬に一発おみまいしてやった。テッドは真っ白になったボクサーのようにスローモーションで、床に崩れ落ち、大の字になって倒れた。
「せ、せんちょ―――、お、おかしら――」
 船員たちが悲鳴をあげて、テッドの周りにつめかける。
「あんた、結構やるじゃない。見直したわよ」
 テッドへの平手打ちを止めたカレンが思いがけないことを言ってきた。
「怒ってないの?」
「ううん。あたしも、たまにあいつをぶん殴りたくなることあるのよね。あいつとは、幼馴染なんだけど。ガキの頃は、しょちゅう喧嘩したわね。あいつ、あたしを女だと思ってなかったのよ。未だに弟分扱いするのよ。嬉しいやら、悲しいやらってとこね。
 でも、あいつがあたしの所有する宇宙船の船長になってくれて、あたしは、あいつの気の合う弟分で、相棒であり続けることを承諾したんだ。あたしは、あいつを思い焦がれる女の子でいるより、あいつの弟分、いや相棒でいることに幸せを感じたのかもしれないね。だからね、仕事上あいつの部下であるあたしは、昔のように、そうそうあいつを殴ってばかりもいられないのよ。あいつの船長としてのメンツも立ててあげないとね」
「カレンって、宇宙船持っているの?」
「え、まあ、ただのうすらでかい貨物船よ。うちの家業でさ、輸出業と運輸業を一緒にやってるって感じかな。砂虫漁は、年中やってなくてさ、は一年の五分の二くらいで、あとは副業やるか、休んでるのよ。
 そもそも、一匹、まともに仕留めるのが大変だし、質のいいやつは一匹で一年は悠々暮らせる稼ぎになるのよね。そんでもって、半年近く、空きが出るってんで、うちの仕事、手伝ってもらってるわけよ。なんてったって、家訓ってやつで、女は家業と宇宙船所有権は継げても、貨物船の船長業は告げないとかふざけたものがあるのよ。でも、船長を登録しとくとさ、あいつが居ないときは、わたしが船長代行で仕事できるんで、助かってるのよね。
 まあ、あいつにとっても、宇宙船での旅は気晴らしになっているようだしね。お互いギブアンドテイクってとこなのかな」
 ふたりは、よくあるいい感じの男女じゃないけど、”男の友情”ではしっかりと絆を結んでいるようだった。
「それと、テッドがあんたのお父さんにした事だけど、あれは決して悪気でやったわけじゃないのよ。彼流の元気付けなのよ」
「元気付け?」
「そ、今、シェルターじゃ深刻な状況でしょう。
 もちろん、みんなはあんたの成功を信じているけど、実際は強がっているだけなのかもしれないのよ。特に男はさ、強くしてないといけないじゃない。
 だから、あいつはああいうことをしてあんたの父親を焚きつけたのよ。次、会う時、あんたの父親は、あいつをぶん殴る口実ができたでしょ」
 あたしは、カレンの話に少し納得してしまった。確かに泣き言を言わない父なら、ありえる話だと。
 テッド、あんた結構、いい男だよ。あんたのその計算の無いの破天荒ぶり、素敵だよ。

「お休みテッド、いい夢を見てね」

 あたしは、大の字に伸びているテッドに、投げキッスを送った。

第五章 ダイブ

 その日の朝は、大きな風もなく穏やかだった。潜水艇に乗り込んで、いよいよ、砂の海へのダイブする。潜水艇は小型の三人乗り、左右が操縦士と副操縦士、真ん中がアームを操作して採掘をする作業士の座席がある。砂の海では有視界の作業は不可能なので、センサーだけが頼りである。この潜水艇は、砂虫の回遊を探知するためのもので、探知用の水中ブイを設置する作業を行うためのものだそうだ。あたしは、アームを操作する作業士を、操縦士はカレン、副操縦士はなんと子供たちの教育係のジェットだった。
「あ、ローラはね。一応、船員見習いでもあるのよ。あんた程じゃないけど、IQも高くてさ、通信教育ではあるけどれっきとした大学生なの。あ、知ってるか、自己紹介くらいはしてたよね」
「改めまして、よろしく。マキナ」
 ジェットはにこやかに微笑んだ。
「こちらこそ、よろしく、ロ、ローラ」
 あたしはジェットがローラと呼ばれていることに違和感を覚えた。
「なーに、マキナその如何わしいものでも見るような目線。ちょっとやだなあ」
「あんたが、ローラと呼ばれてるからじゃないかしら、ジェット」
「もう、カレン。ジェットはやめて、父さんが悪いのよ出生届で、あたしの名前を母ちゃんが産気づいた場所と書き間違えるから。ジェットローラースパイラルなんてひど過ぎるわよ。でも、あたし本名のローラーも好きじゃないの。短くローラと呼んで欲しいな」
 ジェットはにこやかに言うが、その感じはとても同年代じゃ無いように感じた。見た目は幼く見える時もあるが、物言いや振る舞いに年長さを感じるのだ。
「じゃあ、ローラと呼ばせていただくわ、ジェットさん」
「もう、マキナ。ジェットはやめて」
 あたしはなぜか笑いがこみ上げてきた。カレンもジェット、もといローラも笑っている。緊張をほぐすためにローラこの話を持ち出したのかもしれない。
『ああー、聞こえるか。セイレーン。こちらはサンドクロールス。どうぞ』

 テッドからの無線が入った。砂の中は遮蔽が多くて無線が通じないので、比重の異なる無線の中継ブイを等間隔にしずめていき、それを使って無線をするらしい。雑音はかなり入って聞きづらいが、多少の海流のうねりがあっても無線が通じるのでかなり便利であるとローラは教えてくれた。
「こちらセイレーン。聞こえます。船長」
 ローラが応答した。
『ジェットか、まだまだ慣れない仕事だろうが頑張ってくれ』
「あのう、船長。休みに入ったら港にちゃんと入ってね。ここから上に行かないでよ」
『あ、ああ。今度はそうするよ。それじゃあ、弟に代わってくれ』
 ローラとテッドの会話の意味は不明だった。『弟』という言葉にカレンの顔がきっとなるのが、船内鏡越しに見えた。多少男勝りであろうが、年頃の女の子に向かって『弟』とは酷いものだ。カレンはテッドにとっては右腕で、『弟』のような存在なのかもしれないが。
「船長、出航準備オッケーです。いつでもダイブ可能です」
 カレンは、テッドの意地の悪い冗談をすかし、いい片腕ぶりをみせた。
『よし、それではセイレーン、ダイブ開始せよ』
「はい、セイレーン、これよりダイブを開始します。ダイブ開始時刻は、オアシスゼロ時刻で〇七一五です」

 ブリーフィングでカレンから聞かされた話では船体は砂上船から吊り下げられた状態になっており、あたしたちは船底のハッチから船内に入り、座席に座っているとのことだった。各座席はジャイロ式になっており、常に水平を保つようになっていた。
 最初は砂の粒が細かく密度の荒い層まで一気に潜るので、吊り下げられた状態の方が都合が良いというわけだった。砂の海は摩擦や抵抗が多いと、深く潜れないので、長くこの方法がとられて来たらしい。
 潜水艇は浮上時に多くの動力を必要とするため、潜水時は自重と砂の水流を利用した潜水方法をとっている。砂の水流は推進濾を通りぬけ、その量を音で感じ取ることで、昔の漁師たちは深さを知ったそうだ。センサーが発達した現在ではその方法はあまり使われていないと言われているが、この潜水艇ではちがっていた。
 昔の方法と、コンピュータの方法の両方で判断していた。人間の感覚は時として、コンピュータを凌駕する能力を発揮する。テッドの父親はそういう事を重んじる船乗りで、船員たちは何度もその力で難局を乗り越えていたのだ。だから、テッドもその方針は変えずに受け継いでいるのだ。だが、潜水艇の扱いに関しては、テッドよりもカレンの方がうまかったらしいのだ。

 水深計はみるみる上がってきた。外は何も見えないので、計器の示す数値だけが頼りだった。水深が深くなれば水圧も上昇するが、最新鋭のこの潜水艇では搭乗者が水圧を感じることはほとんどないのだ。
 二十分かかってようやく、五十メートルを潜った。更に十五分たって千メートルに。そして、更に五分後にようやく、千五百メートルまでに達した。センサーは砂虫の回遊を全く探知しなかった。
 更に遙か二千メートル下に大きな海溝のような溝があることが確認された、溝の深さについては測定不可能だった。千五百メートルでも外は砂だらけで何も見えなかった。砂の層の終わりはここより更に千五百メートルは潜る必要があるようだが、当然光はないので、明かりをつけてもどの程度見渡せるか定かでない。

 あたしは、成分分析センサーを広域にし、岩肌をサーチし始めた。やみくもにサーチしても範囲が広すぎるので、雨季以外は外に露出している場所を先につきとめることにした。
 師匠は千五百メートル下と言ったが、その誤差は一体どのくらいあるのか、実際のところあたしには見当も及ばなかった。
目的の植物が生息する岩肌は侵食でわずかに内側にえぐれていて、そのえぐれた天井の溝に生息しているということだった。この植物が入江で濾過をして、砂の海の水をきれいにしているということらしいのだ。敏感なアームの感触を直接指の神経に伝達しても、触ったことの無いあたしにはその感覚が全くわからなかった。

 センサーで岩肌をサーチしても、実はこの手の溝はいくつかあり、どこがそれに該当するのかが全くわからなかったのだ。これが地上にさえ出ていれば、簡単に見つけ出せるらしいのだが、今は海の中。あたしはあせるばかりだった。するとロボットアームの操縦桿に誰かの手がかかった。
「あたしにやらせてください」
 それは、副操縦席から身を乗り出して来たローラだった。
「大丈夫、あたしもその植物は研究してるんです。実際に採ったこともあります。但し、地上でですけど。地上で探す場合も、やはり岩肌を指の腹で触りながら探すのです。岩肌の感触は覚えています。
 あの植物が繁殖している溝は、必ず表面に気泡のある入江貝が無数に生息しています。理由はわかりませんが、共生なんだと思います」

 その話はあたしも師匠から聞かされていて知ってはいたが、ごつごつした岩肌と貝をロボットアームの感触で見分けるなんてできっこ無いと思ったのだ。しかし、今はローラを信じる他なかった。カレンはゆっくり岩肌をなめるように潜水艇を移動させた。
 あたしはローラとはサンドクロールス号の宴会で世話になったが、身の上話もせぬじまいだったがこの時ばかりはローラが何十年来の親友であるかのように感じられた。
 これまでいろいろあったが、あたしは、あそこであの岩の上で行き倒れたことを猛烈に感謝した。

「ありました。きっとこれです」
 ローラは船外アームでそれらしきものを掴み、船内に取り入れた。その姿は海藻のようでもあり、クラゲのような刺胞動物のようでもあった。その植物とも動物とも知れない生物は、体内発光をしており、赤や青、オレンジといったきらびやかな光粒を放つ美しいものだった。師匠からイメージは教えられてはいたが、想像していたもの以上にそれは美しかった。
 あたしは、ロボットアームを使ってその外皮の一部はぎ取り、成分分析機にかけた。結果が出るのは五分後。あたしには一時間にも感じられる待ち遠しさだった。
 そして、出された解析結果は、まさにあたしが探し求めていたものそのものだったのだ。やっと見つけた、これでみんなを助けられる。

第六章 帰還

 あたしたちは、持ち込めるだけ植物を採取した。あたしは、目的物発見の一報を中継通信機を経由して、シェルターへ送ってもらった。皆の歓声が中継機を隔てて聞こえた。
 あたしは、安堵した。カレンも植物の体組織の分析データ
の結果を見てニヤリとしていた。カレンは浮上開始の号令をかけ、あたしたちは帰還の途につこうとしていた。浮上は流石に時間がかかった。行きは三十分だったが帰りは倍以上かかるとのことがコンピュータの解析結果で分かった。酸素も不足の自体に備えて、はしゃぎたい気持ちをぐっと抑えた。
 三十分かかって、ようやく千メールに達した。あと、五百メートル、実はこの区間の砂の密度が最も高いのでそうそう簡単には上がれなかった。そこでテッドは、もう一隻、自動航行できる潜水艇を出し、ワイヤーフックを引っ掛けて少しでも早く引き上げようとしてくれた。

 しかし、その時、異変が起きた。それは、深海のあの溝の中から巨大なものが急速に浮上してくる知らせだった。そいつが五百メートル下に来てようやく何であるかを捕捉した。巨大な砂虫だった。もしかすると、あの海溝は、砂虫たちが別の海域へ移動するための通路だったのかもしれない。
 彼らは長い間深海に居た為、呼吸成分が欠乏し始め、呼吸をするために、浮上しているのだった。彼らはその大きく、複数の肺に呼吸成分である大気を埋めるために、二、三度、砂の海面に飛び出すのだ。

 こんなに接近した場所で、巨大な砂虫に飛び跳ねでもされたら、小さな潜水艇はうねりに巻き込まれ、故障もしかねない状況だ。けれどもさすがというか、カレンはテッドの相棒だった。
「テッド! 大物よ、仕留めて!!」
 カレンは大声で、砂虫のことを既に察しているであろうテッドに、砂虫捕獲の指示を出した。
「おうよ、相棒。まかしとけってんだい。ホセ!砲撃準備だ!」
 砂虫は潜水艇の横をかすめて登っていったようだ。あたしは、潜水艇の側面を突き抜ける波動を感じた。砂の密度が高いので、あまり大きな衝撃はこなかったが、潜水艇は何回もロールしていたことが計器から読めた。潜水艇の座席はジャイロ式なので、あたしたちは、船体がひどく揺らされても、常に水平状態を保てており、ひどい船酔いを避けることができた。船体が強い力でひどく大きく揺れたのは、たったの一回だけだった。おそらくホセさんが一発で仕留めたのだろう。とてつもなく大きな砂虫には違いなかったが、それをたったの一撃で仕留める砲銛手が実際にいるとは驚きだ。あとで、ゆっくりと、彼の武勇伝をきかせてもらいたいな。
 十分ほどして、潜水艇の姿勢も正常に戻った。カレンがテッドに引き上げ作業の再開を連絡しようと、マイクのスイッチを入れ、テッドを呼び出した。しかし、返事は無かった。マイクのある船長室の部屋越しに、かなり激しめの銃撃音や爆発音のようなものが入っていた。大物を仕留めた乗員達の歓喜の声でないことは、あたし達も分かっていた。どうやら、テッド達は、何者かの襲撃を受けているようだった。

「テッド、返事しろ。くそー、あの野郎、インカムのスイッチ切ってやがる」

 あたしたちは、何も出来ずに、ただただ、船長室の無線機のマイク越しの音を聞くしかなかった。ローラが子供達のことを気にして、身をかがめ、子供達の名前を小さな声で叫び、その安否を気遣い祈りを捧げていた。
「カレンどうしよう」
 あたしは何も出来ない自分を呪った。しかも、口から出た言葉は”どうしよう”だと来たものだ。だが、この場所では何も出来ない。もし、船が沈むようなことがあったら、あたしたちも助からない。
「ローラ、マキナ、落ち着きな。テッドは、テッド達は、こんなトラブルは日常茶飯事さ。それに、あいつはこの程度のことでやられたりするタマじゃないさ。
 でも、応援は必要だ。どうもこいつは、砂虫級に大物のようだ」

 あたしは、カレンが何を言っているのかさっぱりわからなかった。彼女は確かに”応援”と言った。しかし、砂の海に埋もれているあたし達にいったい何が出来るというのだろうか。カレンは何かのレバーを握り、レーダーで位置を探りながら、微調整し、何かを発射した。

 相変わらず、甲板では銃撃音や飛行音のようなものがけたたましく鳴っていた。しかし、その音も大きな爆発音が一発鳴って、やや大きな衝撃が来て、すっとやんだ。
 あたしたちには、上で何がおきているかわからなかった。無線はつながったままだが、もう大きな音はしていないようだった。ただ静かな時間がずっと続いた。潜水艇はゆっくり上昇していた。やがて九十分後、潜水艇は浮上を完了し固定されていた。あたしたちは、あせる気持ちを沈め、減圧室に入って待った。そして、ゆっくりと減圧室を出たが、周囲には人の気配が無かった。

 あたしたちは、潜水服を脱ぎ、船員服に着替えた。カレンの指示で、戦闘装備と医薬品を持って、甲板へと向かった。甲板へ向かう途中、船長室、客室、船員室、電算室、医務室、食堂、厨房と巡回したが、誰も居なかった。
 やがて、甲板への階段付近で、甲板から悲鳴のような奇声が聞こえてきた。まさか犠牲者が。カレンの顔が緊張でこわばっていた。
 あたしたちは、腹ばいになりおそるおそる甲板に出た。しかし、甲板では祝宴中だった。砂虫は、正確に急所を仕留められていて、フロートを体中に巻かれ砂の海の上に背中の一部をさらした状態で浮んでいた。体内成分の変異を避ける為、活け〆にしているとのことだった。
 ノックスさんが宴会になった訳を話してくれた。その話はこんなところだった。ホセさんが仕留めた砂虫の生態成分分析して、いつもどおり取引先の企業のにそのデータを送ったのだが、これまでにない良質のものだったらしいのだ。そこで、その企業はこれまでにない程の最高値の取引額を提示してきたのだった。船長も乗組員たちもたまらず祝宴となったらしいのだ。
 でも、その間に激しい戦闘があったはずなのに、みんなその話は全然してなかった。周囲を見ても残骸らしいものは見つかってないし、船体はというと、なんかそれっぽい傷らしきものはあるのだが、それが新しいものなのかどうかまで判断つかなかった。あたし達の気のせいだったのだろうか。

 それにしても、まったく、ひどい話だ。あたしらよりも、砂虫の方が大事だなんて。でも、テッドならきっとこう言ったことだろう。
「お前たちが死ぬわけない。なんせ、この俺様が守っているんだからな」と、あの澄んだ迷いの無い碧色の瞳できっとそう言ったに違いない。
 今は、カレンの拳で夢うつつになているから、それも言えない状況だけど。でも、カレンって凄い。何とかという格闘技の選手の動きに似てたわね。スポーツ観戦とかあまりしないわたしだけど、あれは、そう、バーカーサースクラムのカルロスよ。
「ああ、久しぶりにすっとした」
 カレンは、あたしにそう言うと、ウィンクをして、舌をぺろっと出し、祝宴の中に入っていった。
 あたしもローラと手をつないでそのあとを追った。

第七章 星屑のリングの導き

 その日の朝は爽快だった。ここ惑星エデン4は人工惑星といいながらも、緑にあふれた星なのだ。あの後、あたしらは、テッドの護衛付きで故郷へ向かった。植物の繁殖はローラの助力もあって、うまくいき、シェルター付近の毒素を薄め、どうにか避難民を救出できたのだった。

 あたしの家族も師匠もクランツ兄貴も健在だった。一ヶ月ほど、彼らは病院に収容されたがその後、元気に退院した。故郷の再生活動は、別のチームに引き継がれ、今も作業が進んでいる。あと、一年もすれば、また戻ることができるのだというのだから、惑星デュナンの植物には頭が下がる思いだ。

 カレンが教えてくれたテッドが船長を任されている宇宙貨物船の正体は惑星連合宇宙軍の巡洋艦クラスの宇宙戦艦の偽装鑑だった。しかも、グレンスペースインダストリーグループが宇宙軍に試験用戦艦として、定期提供しているものに近いものだと知った。客間にしか通してもらえなかったけど、甘い。通信用の回線さえあれば、あたしはハッキングできるのだ。試験用戦艦のことは、大お爺様しか知らないというのだから、あたしは益々、あいつに興味を持った。あいつは一体、何物なのだろう。あたしは、まだ、あいつのことを何も知らない。

 今日は、テッドが、正式にここエデンにてあたしの家族たちと挨拶を交わす日だ。テッドのあたしへの態度で、怒り心頭だった父もすっかり落ち着いて、自分たちを助けてくれたことと、あたしを助けてくれたことに感謝の意を示した。テッドも流石にここまで来て、父に無礼はしないだろう。あたしは、テッド一行の中に、カレンを探したが見当たらなかった。彼女は来ていないのが残念に思えた。白いドレスをまとったブロンドとシルバーの髪の姉妹のような若い女性がいた。二人のうち一人はわたしに手を振ってくれ、もう一人は礼をしていたが。二人とも見覚えが無かった。
 一方、正装し、無精髭を剃ったテッドは、ならず者の船長の片鱗はなく、誠実そうで、凛々しくて、あたしは、彼を直視できなかった。だがその時、彼の胸に不細工な金属のリングを首にかけているのを見つけた。いつもつけていたかまでは記憶がなかったが、あれは、まるで我が一族の祖先である紅蓮(くれない れん)が最も愛した男性と再び逢うことを誓った”星屑のリング”の片割れのようだった。しかし、確認する間はなかった。
 彼はあたしの前に来て、片膝をついたのだ。これはまるでお姫様に王子様がひざまずくシチュエーションだった。あたしは、一介の科学者に過ぎないが、十四歳の花も恥じらう乙女だ。これは、まずい、まずすぎる。うぶな乙女の恋のスイッチが強制入力されてしまいそうだった。

真貴奈(マキナ)紅蓮(グレン)様、私はテッド・グラーノフ三世と申します。貴方の事情を知らぬ上の成り行きとはいえ、これまでの数々のご無礼をどうかお許しください。これからも、我々はあなたのご友人でありたいと思います」

 彼は、迷いの無い澄んだ碧色の瞳で、あたしをじっと見つめた。あたしの胸はキュンと締め付けられた。あたしは、どうしようもないほどに、この謎めいたこの男を好きになってしまったのかもしれない。普通ならもっと彼と冒険をして、恋におちるのが定番なのだが。あたしは、彼の妙な自信だけに魅力を感じてしまったのだ。それに、彼と関われば、冒険はこれからたくさんあるかもしれない、そんな気がしているのだ。
 彼は、あたしに蔓延の笑をうかべてにっと笑った。実にくったくの無い、素直で、明るい笑顔だった。しかし、その笑顔は、あたしの目の前で、「この野郎ーおぉ」の声とともに右頬から徐々に醜くゆがんでいった。
 クランツ兄貴の強烈なパンチだった。テッドは、またも燃え尽きたボクサーのように崩れ落ち、地面に大の字になって仰向けに倒れ、気を失ってしまった。だが、あたしは、兄貴がふんっと言って去った後、薄目を開けて、右の親指を立て、白い歯を見せていたのも見逃さなかった。まったく、なんてやつなの。今までも、あいつはあたしたちに殴られてくれていただなんて。こんな男っぷりをみせつけられては、益々、彼を意識せずには居られない。

 あいつはまるで、紅蓮家の先祖、紅蓮が生涯惚れ抜いた男、イワンのようだ。そうか、確かあいつ、自分をテッド・グラーノフ三世と言っていた。そして、あの”星屑のリング”の片割れ。そうだ、そうだったんだ。あいつは、わが先祖、紅蓮の恋人、イワンの子孫だったのだ。

 あたしは、紅蓮に祈りを捧げた。

 蓮、いえ、ご先祖様ありがとうございます。あなた方の愛と友情が、時を超えて、あたしを、いえ、あなたの子孫を助けてくれました。

 盟友達と伴にテッド・グラーノフ三世号で悠久の旅を続け、あたし達をお導きください。この星屑のリングで交わされた永遠の愛と友情とともに。

エピローグ

 テッド達があたしらの元を去って、早、一ヶ月が過ぎていた。

 あたしは、ローラを父の研究所に招き入れ、今は共に仕事をしている。ローラがサンドクロールス号で勉強の面倒見ていた子供たちキリクとミクは、あたしの実家にひきとって、今は妹や弟たちと仲良くやっている。あの子供たちは、ローラの兄妹だったのだ。

 ミランダさんば、少し寂しそうだったけど、おじさん連中の面倒でも大変だったので、少し楽になったとの話だった。来月は休暇をとってローラと共に里帰りを果たすつもりだ。その時は、あいつをこき使ってやろうと思っている。 
 ローラから知らされたことだが、テッドとカレンは宇宙でも派手に暴れているらしい。あくまでも小耳に挟んだ程度で、ことの真意は分からない。だが、ひとたび宇宙で大きな事件があると、その裏で彼らが動いているとかいないとか、とにもかくにも話題の絶えない忙しい連中であることには違いない。

 先日、砂虫を捕獲した後に聞こえていた銃撃戦の正体が判明した。なんと、凶悪な宇宙海賊ベルゼブブの一味と一戦交えていたようなのだ。なぜ、テッド達と宇宙海賊が戦闘になったかについては、追調査が必要だ。

 それにしても、相手方はかなりな重装備の戦闘機での攻撃だったらしいが、衛星軌道上を航行中だった所属不明の戦艦からの正確な射撃により粉微塵となったということだった。
 衛星軌道上から地上の物体を攻撃するのは、論理上可能だとは分かっていたが、実際に、しかも高速で飛行中の物体に対して、周辺環境に影響を与えることなくやれる者がいたのには驚いた。これをやった者の情報は、トップシークレット扱いで調べられないが、あたしはテッドにゆかりの者だと睨んでいる。そういえば、潜水艇の中でカレンが何かを打ち出していたけど、あれと何か関係があるのかもしれない。機会があれば、あたしはまた、テッド達と行動を共にして良いと思っている。そうすれば、あの驚異的な射撃をした人物とも逢える気がした。
とにかく、今のあたしは、こんな研究室だけで、一生を終えるにはつまらな過ぎると思えている。これも、あいつの影響なのだろうか。

 先日、我がご先祖、紅蓮(くれない れん)とイワンの話をローラにしたら、テッドと親しい彼女は知っていた。やはり、イワンはテッドのご先祖様だった。
 なぜ、未だに三世なのか?と訪ねたら、答えは我がご先祖様と同じ理由だった。ふたりの子孫がお互いを認識できるマジックワードにしているとのことだった。紅蓮は、自らの名前をファミリーネームにして、女子を当主とする家系を作った。イワンの子孫は、イワンが所有していた宇宙船の名前を代々当主が引き継ぐようになっていた。

 そして、蓮とイワンには後日談があった。ローラが言うには、一族の調度品倉でも探してみればわかるとのことだった。あたしは久しぶりに調度品倉を散策した。彼女の話ではそれは、水晶の原石のようなものということだった。

 やがて、倉の地下層の最下層の奥に鍵をかけて厳重に保管されているものを発見した。開けてみると、ビンゴ!くすんだ水晶の原石のようなものがそこにあった。それは現在でも再生が可能な鉱石記録器に他ならなかった。
 技術が変わっても一族がその起源を忘れることの無いようにと、科学者でもあった蓮が二つの一族に残した記録だった。

 あたしは、その鉱石記録器を解析し、再生することに成功した。記録は蓮とイワンの生い立ちから出会い、義勇軍としての戦い、旅の行商、そして、二人の別れなどの様々な記録がホログラム映像と音声で視聴できた。
 蓮の身長は、一七八センチメートルあったそうだが、あたしは二十センチメートルほど足りない。イワンは一六八センチメートルでテッドよりは一〇センチメートル以上は低いようだ。今のあたしとテッドとは真逆だ。
 しかも、蓮は、艶のある黒髪の短髪で、凜々しく、かなりのイケメンだった。胸もそれほど大きくない。それに服装は、男性っぽいものを着ていることが多いので、彼女は男性と見紛うばかりの美少年、もしくは美青年に見えた。さぞや、若い女性達にももてたことだっただろう。

 映像で見る二人はとても眩しく、とてもいい感じだった。恋人というより、とても仲の良い兄弟のようでもあった。千年も昔の人なのに、とても身近に感じられる。
 あたしは時間も忘れて、記録をくまなく再生し続けた。そして、パスワードを入れる秘密の映像にたどり着いた。
 迷わず、”星屑のリング(the ring of the stardust)”と入れた。正解だった。再生された映像には、二人の再会と旅立ちの記録があった。
 連の墓は、アクアリアには無い。テッド・グラーノフ三世号の最初の所有者で、蓮とイワンが連れてきた年老いた貴族が眠る森、”英霊の森”に記念碑があるだけだった。我が一家はその長い歴史において軍人から外れて来たため、何世代か目の子孫が、戦争に通じる蓮の戦いの歴史を封印したのだろう。だが、百年前からまた軍事に関わっているのも皮肉な話ではある。

 数ヶ月前に、最新鋭の宇宙戦艦を貨物船へ偽造させて、ある一族へモニタ貸ししたと聞いたけど、極秘扱いで教えてくれなかった。あれは、わたしが設計した人工知能と、紅蓮家専用OS(Operating System)が組み込まれている特注品だと言うのに、普通の船乗りに乗りこなせるのだろうか。船自体は極秘で見せてくれなかったが大丈夫なんだろうか。
 ローラはテッドから、蓮とイワンの後日談を聞かされてはいたが、それは、自分に聞くより、蓮が残した一族の記録を見た方がいいと言ってくれた。そして、今、あたしはその記録を見始めている。

 蓮とイワンは二十年後に再び再会していた。それは再び勃発した惑星国家間戦争だった。戦争の引き金になったのは、二人が最初の戦争で攻略直前に終戦を迎えた人工惑星要塞ギガントスだった。二人は再び義勇軍として参加し、戦場で再び再会を果たした。既に、子供達に家督を譲り渡し、お互いの伴侶を亡くしていた彼らは、気兼ねなく昔のように暴れまわった。戦争はわずか二年ほどで終結したが二人はそのまま故郷に帰ることなく、昔のように旅をした。やがて、彼らは、我々人類の祖先の生まれ故郷、地球との巨大な恒星間ネットワークを築こうという遠大な計画があることを聞きつけ、最後の大仕事にうってつけだとそれに参加した。
 旅立ちの日の朝に二人はささやかな結婚式をあげた。質素ではあるが白いウェディングドレスをまとった蓮は言葉には言い表せないほどに美しかった。そして、年輪を経たイワンは渋いタフガイだった。今度は、イワンが蓮にプロポーズをした。連は快くそれを受け、二人はキスをして永遠の愛を誓い合った。そこで記録は終わっていた。二人がその後、地球へ行けたかどうかは分からないが、当時の技術でもワープ航法は開発されており、十五年あれば、地球へ到達できた筈である。千年後の今では、一年足らずで地球へ行くことが可能ではあるが、途中に宇宙嵐がふき荒れ次元断層もある宙域が三百年前に発生してしまい、容易に行けなくなっている。あたしは、この装置の贈り主の名前が本体に書かれていることを確認した。蓮とイワンの名とHAYATOの名が刻まれていた。HAYATOは蓮とイワンの最初の子供だった。HAYATOの名前の後に船長の肩書も見つけた。きっと、三人は幸せな人生を送ったに違いない。いつか蓮とイワンの子孫と逢える日もあるのかもしれない。きっと、その縁はこの”星屑のリング”が導いてくれることだろう・・・・。

 アクアリアの惨事を救ったあの砂の海の惑星の植物に名前がつけられ、学術誌にも紹介されることになった。
 師匠は、「マキナ」と命名しようとしたが、あたしは「ローラ」と命名することを望んだ。だが、ローラの提案で、ふたりの名前をつなぎ「ローラキナ」とした。正直あたしは、ジェットマキナの方が良かったのだけど、絶対彼女が嫌がるのでそうするのをやめた。

 あたしは考える。もしも、あたしが、テッドたちと出会わなかったら。そして、ローラと出会わなかったら、今の平穏な生活は無かった。これは、あたしと彼女の友情の証なのだ。

星屑のリング 導きの出逢い

■登場人物■
マキナ・グレン    
 主人公、十四歳の生物科学の博士。漢字で「真貴奈・紅蓮」と書く。

テッド・グラーノフ
 砂の海の惑星に巣くう「砂漠の鼠」と呼ばれる行商人。
 砂上船サンドクロールス号の船長で、宇宙貨物船ビッグスペンダー号の雇われ船長。
 
カレン・バッカス
 テッドの良き相 惑星再生の為の植物を探す旅に出た少女が未開の惑星で、砂漠の鼠と呼ばれるならず者と出会い、騙され、協力し、苦難を乗り超えて友情を結んでいくSF冒険ファンタジーです。棒。女性だが、テッドには弟分のような存在。
 代々宇宙貨物業を営む名家で、所謂、お金持ちのお嬢様だが、
 砂上船サンドクロールス号では副長を勤め、宇宙貨物船ビックスペンダー号では、副長ではあるが、テッドの雇い主でもある。
 
ホセ・ロドリゲス
 砂上船サンドクロールス号の砲銛手で、ピカ一の砂虫漁師。趣味はハーモニカ演奏。
 
ローラ・カーロフ
 砂上船サンドクロールス号見習い船員。大学院で研究論文の為乗船。家は砂の海の漁業長を担い、テッドの一家とは古くからのつきあいであり、テッドとは幼なじみである。
 
師匠:ホメロス   
 宇宙植物学の権威で、マキナの師匠。
 
グランツ兄貴
 ホメロスの助手で、マキナの兄弟子。マキナを実の妹のように慕っている。

■世界観■
 人類が地球を飛び出して、何千年も経過した未来。惑星連合という統合された惑星国家共同帯がいくつかあり、その中で独自の暦、通貨単位がある。この物語の登場人物たちは、イーステラ惑星連合と呼ばれる惑星国家共同帯に所属する。他に、ウェステラ、ノーステラ、サウステラがある。
 文化はそれを守りたい人々が受け継ぎ、その祖先が何であったかを伺える特徴(遺伝的特徴や、姓名、行事、遊び、料理、髪型、民族衣装など)を垣間見ることができる。技術は部分的には衰退している場合もある。地域ごとの言語はあるが、統一言語を使っており意志疎通は出来る。

■技術■
 恒星間航行(亜光速航行、ワープなど)では、光速を超えた航行が可能であるが、これを行なえるエンジンは一般の宇宙船には搭載されていない。

恒星間通信
 ワープ技術を応用し、時空にワームホールを開けそこに通信網を通すことで遅延の少ない映像および音声の通信を行うことができる。

■惑星国家■
アクアリア
 イーステラ惑星連合に属する緑と海の惑星。マキナ・グレンの故郷。惑星国家としては政治が不安定という問題点を持つ。

砂の海の惑星デュナン
 四つの惑星連合には属していないが、中心都市であるオアシスゼロにだけ仮のイーステラの拠点が立っている。星の自然環境が厳しすぎるため、文明人には向かない土地だが、鉱物資源などは豊富に存在しており、一攫千金を狙う強者が巣くっている。多くの無法者が根城にしている星でもある。外を歩くには常に強烈な紫外線と高熱から身を守る為の砂漠服を着用しなければならない。

エデン
 イーステラをはじめとする四つの惑星連合帯に所属する人工惑星である。惑星の中心部には重力発生装置があり、自転が行なえる。政府関係の軍事産業や研究所等が数多く点在する。居住しているのは政府関係者や特権者の家族のみ。犯罪者など、政府に要注意人物としてマークされている者へは居住が許されない。
 但し、商売に関しては、厳しい入監許可させ受ければ、一定期間であれば滞在を許されることがある。

星屑のリング 導きの出逢い

地球から外惑星へと移民し、外惑星国家間で起きた戦いの1000年後、義勇軍の軍人として戦果をあげ名声を馳せた伝説の英雄の子孫達が、古の絆の象徴である星屑のリングに導かれて、出逢い、愛と友情とドタバタをおりなす物語。

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-04-21

CC BY-NC-ND
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  1. プロローグ
  2. 第一章 砂上船
  3. 第二章 目覚めたら悪夢
  4. 第三章 ギブ・アンド・テイク
  5. 第四章 再び砂上船へ
  6. 第五章 ダイブ
  7. 第六章 帰還
  8. 第七章 星屑のリングの導き
  9. エピローグ