流転

貴方がこれを読む頃には、私の命の灯火は消えているのでしょうか?
貴方は、私の魂の味に満足していますか?

覚醒と眠りの間、眠りに落ちる前のあやふやな時刻、貴方は少しずつ空気を凍らせながら、私の胸の上に現れる。
ゆっくりと体の自由を奪い叫ぶことも出来ない私を、貴方は生臭い息を吐きながらじっと見つめている。
その瞳は紅蓮の炎で、灰色の朽ち果てた皮膚は爛れ、長い鋭利な爪は私の肩に食い込み、掻き毟る。

貴方は何の為に私を選んだのでしょうか?

初めて貴方が私の前に現れた時、生温い息でカーテンを揺らしただけ。
私は、貴方の存在を凄く恐れ、大声で泣き叫んでた事を覚えている。
次第に毎晩姿を露わにし、地の底が揺らぐ音を立てながら硬直する私の顔を触り
奇声のような声で笑い、長い舌で私の瞳を舐め、骨の飛び出た手で首を絞め
私を更なる恐怖に誘い込み堕としていった。

眠ることを忘れ天井の四隅を何度も見る私を、貴方は楽しんでいたのでしょうか。
今晩でこの命を奪われるのか、明日なのかと、毎日何年も恐怖に脅え、苦しみ闇を恐れている。
けれど、貴方の燃える炎の瞳や、声が音となり波となり流れ込んでくる情報に
いつしか、あなたを待つようになってしまった。
貴方に魂を吸い尽くされ、この体全てを奪われこの世から消えてしまう未来を望むようになってしまった。
それが、今晩なのか、明日なのかと。

貴方の事を愛してしまったみたい。いつの間にか。
貴方の重さ、貴方の香り、墓場から遣って来たみたいな朽ち果てた肉体。
身も心も凍りそうな視線に、私は全てを捧げたいと熱望している。
現実の世の中は原色に彩られ、時は虚ろに感情を変化させ、物質に溢れつまらなくくだらない。

貴方が何の為に私を選んだかでは無く、私が貴方を選び受け入れている。
私の命を必要としてくれる貴方に溺れ、奪われ朽ち果て消えたいと願っている。

夢なら覚めないで欲しい。全てを捨て去り、貴方の肉と魂になりたい。
貴方を銀色の刃で傷つけ、生温い血に抱かれ眠っていた私を、許してくれるのならば。

流転

ずっと前に書いた『ラブレター』
一体誰に書いたのやら・・・。

流転

貴方がこれを読む頃には、私の命の灯火は消えているのでしょうか? 貴方は、私の魂の味に満足していますか?

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
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  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-29

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