お月さまがくれたもの

お月さまがくれたもの

 ウサギさんは、湖に映るお月さまの姿を見ながら泣いていました。涙でまあるいお月さまは、歪んでゆらゆらと揺れています。
「ウサギさん。どうして泣いているの?」
ウサギさんは、真っ赤に腫れた目を擦り、湖のお月さまに目を見張りました。
「ウサギさん。泣くのはやめて・・・」
その声に、鏡のような水面は柔らかな波を立て、お月さまをさらに歪めます。
「お月さまなのですか?」
湖には、まんまるな黄色いお月さま。
「泣くのはやめて・・・」
ゆっくりと、波がウサギさんの心に響きます。
「お月さま。ワタシは何の取り得もないのです。みんなみたいに、早く走れないし、鳥たちのように、美しい声もでません。」
お月さまの困った顔は湖面に映り、ウサギさんはまた泣き出しました。
「ワタシなんていない方がいいんです。それに、ワタシはひとりぼっち。」
お月さまは問いかけます。
「どうして泣いているの?」
ウサギさんは黙ったまま。
「ウサギさん。ウサギさんが泣くのはみんなと一緒にいたいからじゃないのかな。」
ウサギさんは少し震えて、また泣き出しました。
「ウサギさんをずっと見守っているよ。でもね、ウサギさんを大切に思ってくれる誰かはもっと近くにいるんだよ。」
湖面はやさしい光と暖かな波が混ざりあって、ウサギさんの心を溶かします。
「大切な誰か?ワタシはずっとひとりなの。だって、何もできないし。」
お月さまはやさしく微笑みます。その光はウサギさんには眩しくて、ウサギさん
は目を閉じました。 泣きつかれたウサギさんは、ウトウトと湖のほとりで丸くなって寝てしまいました。春ののどかな風のような、お月さまの声に抱かれて、気持ちよさそうに寝息をたてます。
 どのくらい経ったでしょうか。湖のほとりの葦の葉が、ゆらゆらと揺れています。ウサギさんは目を擦りながらそっと葦の葉に目を移しました。
「こんな所で眠ったら風邪をひくよ。」
ウサギさんは声の主を首を振りながら捜します。湖面いっぱいに揺らいでいたお月さまの姿は見当たりません。
「お月さま?」
恐る恐るウサギさんは声を出しました。
「風邪ひいちゃうよ。」
今度は声が合唱のように聞こえます。
ウサギさんが葦に目を凝らすと、そこにはつるつるとした柔らかそうな姿。
「ほらほら。」
なんとかウサギさんを起そうと大合唱。ほっぺをまあるく膨らまし、まるで、お月さまみたい。
「か・・・かえるさん!?」
湖から上がったばかりの濡れた体を寄せ合い、緑色のキラキラしたかえるたち。いつの間にか夜は明けそうに、空は青白く光を届けています。まんまるなかえるさんの瞳も、お月さまみたいで、ウサギさんはびっくりして走り出しました。ウサギさんの口元は緩み、自然と笑みがこぼれ落ちます。
 生まれたばかりの空の太陽に向かって、ウサギさんは飛び跳ねました。

お月さまがくれたもの

次の満月はいつだっけ・・・。

お月さまがくれたもの

湖に映るまあるいお月さまの姿は、涙で歪んでゆらゆらと揺れていました。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-27

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