無限の少女

プロローグ 無限の始まり 1/2

高校入学して早3日。未だに友達らしい友達はいない。別に、今すぐできなくてもいいだろう? 絆というのはすぐにできたものは脆く壊れやすい。逆に時間をかけてゆっくりゆっくりと気長に作り続ければそこには堅い絆が生まれる。なので入学して3日経っても焦る必要はない。
 それに、きっと何かイベントがあるはずだ。親友ができるきっかけが。
 僕が入学した高校は、山野国高等学校といい偏差値は平均的のよくある高校だ。学校名は山野国と書くが、山の中にある高校というわけではない。どちらかと言うと町の中だ。生徒は全学年合わせてざっと900人ほど。1学年300人程度になるな。クラスの数も10組近くある。で、僕はそのうちの4組の普通科。他の組は知らない。というのも、僕はこの高校に入りたくて入ったわけではないからだ。その理由は……まあ後でもいいだろう。
「はーい、みなさん。おはようございます」
 担任が教室に入ってきた。同時に教室にいた生徒は静かに自分の机に戻る。たぶん、静かに着席するなんてこともここ数日以内だろう。1週間もたてば新しい生活にも慣れ、緊張が解け自分の素を出すころだろう。そうなったら先生も手が付けれなくなるだろう。
「これでホームルーム終わります」
 一礼して1時限目の授業の準備にかかった。

  ★

 昼。中学生が憧れるであろう高校の昼だ。昼といえば昼休みと昼食なのだが高校は違う。そう。アニメや、漫画に小説でもよく取り使われているあの、『高校の昼』なのだ。全員が全員想像したであろう、屋上でのお昼ご飯! まさにこれ。高校の楽しみというか期待せざるを得ないイベントだ。
 で、僕も期待していたわけだが入学2日目でそれは砕かれた。というのも担任が僕らの考えを先読みしていたのか「屋上には上がれません」と言った。その瞬間教室内には落胆した空気が流れていた。
 まあそういうことがあって屋上での昼ご飯というのはない。
 で、だ。3日たって2回目の昼食なのだがすでに仲のいい友達と一緒に食べたりしている女子もいる。男子は未だに全員1人で食べている。これにはちゃんとした理由がある。我がクラス。1年4組の生徒は30人だがそのうちの20人は女子。残り10人は男子なのだ。はたから見れば女の子ばっかりでハーレムうはうはなのだが、実際は男子にとっては過酷。その場の空気を支配できず、ずっと女子色に染まっているというのは男子にとってはかなり苦しい。目立とうとも目立てない気分だ。下手に目立てば女子に軽蔑され、相乗効果で男子にも除け者にされる可能性がある。遠慮しているのだ。
 高校の憧れその2.彼女作ってリア充なんてありえない。絶対だ。
 昼食も終わったことだし、さっさと片付けて本でも読むか。
 弁当箱を片付けているとき、ズボンのポケットから何かが落ちる感触がしコロンと軽い音が響いた。
「おっと」
 僕は落としたそれをすかさず取る。
 改めて見ても変だ。
 それは入学式の日に起きた。
 入学式も無事終わり、荷物をまとめて帰ろうと階段を下りていた時だった。下の方から急いで階段を上る音が聞こえたので気を利かせてわきに寄ったのだが、丁度曲がり角だったのもあってぶつかってしまった。
 その人は眼鏡をかけていて髪を後ろで2つ結びをしていた女子だった。僕にも運命の出会いキターと思ったがその女子はごめんと謝ってまた急いで階段を上がっていった。その時に見つけたのがこのキューブだ。ルービックキューブに酷似していて正方形の塊で面には9個のマス目がある。だが何故かルービックキューブのようには面が上手く回転しない。壊れているのだろうか。不思議なことに、というかこのキューブ一番の謎。銀色をしている。すべての面が、だ。よってこれはルービックキューブではないことが分かった。たぶん、ただのキーホルダーなのだろう。とも思ったがキーホルダーのような穴は無いし……むむむ。謎が深まるばかりだ。
 とりあえず早めに返せるように努力しよう。

 ★

 何事もなくすべての授業が終わった。
 教室のみんなはすでに帰宅の準備をしている人が多くいた。中には部活の用意をする者もいるようだ。
 部活。憧れその3とでもいうべきか……。
「僕も何か入ろうかな……」
 と、思いながら帰路に向かうべく校門を出た。
「ねえ」
 いきなり声をかけられた。
「ねえってば」
 今は下校時間で校門には大勢の生徒がいる。
「聞こえてるの?」
 誰かを呼ぶ声を……僕は聞いたことがある。
「ちょっと!」
 ようやく僕を呼ぶ人を見つけた。
 眼鏡をかけていて髪を後ろで2つ結びをしている女の子。もとい、あのキューブを落としていった女子だった。
「君は……」
「あなた、あたしのアレ持ってるでしょ?」
「あれ?」
「シルバーキューブよ。あなたとぶつかってあたし落としたはずよ?」
 ああ。あの銀色のルービックキューブか。ふむふむ。シルバーキューブというのか。そのまんまだな。
「はい」
 ズボンのポケットから出してその女子に渡した。
「ふん。ありがとう」
 と言うと女子は踵を返し校内に向かった。
 僕も要は済んだので今度こそ帰路に戻ろうと思ったが「あ」とまた声をかけられた。
「あなた、小説好きでしょ? 部活」
 とだけ言うと今度こそ校内に向かった。
 まあ確かに小説好きだけど……何故知っている?僕はまだ自分のことをそんなに話していないしだいたいクラスでもまだ必要最低限のことしかしゃべっていないし……。謎だ。
 

プロローグ 無限の始まり 2/2

4日目の学校。別に何か変わったことがあるわけではない。
 放課後になり帰路に向かう。校門に着き、ふと思った。あの女子のこと。
 まあ確かに家に帰ってもやることないし。勉強なんてやろうとも思わない。ゲームやって食って寝て、朝を迎えて学校に行くという流れ。
 あの女子が言った部活。何か面白い部活があるというのか? むむむ……気になる。
 僕は来た道をたどり学校の掲示板絵と向かった。
 入学式が行われた日がまだ近いので掲示板には部活の部員募集のポスターがいくつも貼られていた。
 見回していくとやはり運動部が人気なのか掲示板の半分を占領しているしサッカーとか野球というメジャーなスポーツはほかのポスターとりひときわ大きい。こんなところにも格差社会が……。
 一通り掲示板内を見たがどこにも小説関係の宣伝ポスターはなかった。
 あの女子が言ったことは何かを暗示しているのだろうが……手がかりがないのなら見つけようもない。
 と、掲示板から目を離した時、見つけてしまった。
「……」
 呆れて言葉もでない。ていうかなんだよこの扱い。不遇すぎるだろ。ていうか苛めだろ。
 その紙は名刺ほどの大きさの紙で掲示板の外側に貼られていた。小さい字で『作家部』と書かれていた。
 何故こんな扱いをされているかは分からないが、もしかしたら破り捨てられてもおかしくないくらいに安っぽいポスターだった。
「場所は……第4倉庫?」
 場所もまた不遇ではないだろうか? 絶対苛められているよね?
 幸いにも目的地はそこまで遠くなかった。
 いくつかの廊下を歩きついに第4倉庫らしき教室を見つけた。
 ここまで来るまではそれほど緊張していなかったが一歩一歩近づくにつれて心臓の鼓動が大きくなっているように感じる。
「うう……」
 やはり止めておこうか……。だがもうここまで来たんだ。行くしかない! ……ああでも!
 と、自分の中での葛藤が少し情けない。
 だが、行くと決めたのだ。やるしかない。それに……。
 脳裏にあの女子のことが浮かぶ。
 僕……気になります!
 第4倉庫の扉の前まで行き、ガラッといきよいよく扉を開ける。
「ん?」
「おっ」
「あ」
 目に広がった光景は、倉庫らしいがそうは見えないくらい綺麗で大きい本棚がいくつも並べられていて、もちろん本がぎっしり詰まっていて、12畳くらいの部屋の真ん中に椅子が3つに人が3人座っていた。
 3人とも男子。ラノベみたいなハーレムは無さそうだ。
「ちっ……」
 眼鏡をかけたひょろっとした奴が舌打ちをした。
「おいおい。新入部員だぞ? 舌打ちはないだろう」
 茶髪で少し不良みたいな奴が擁護してくれた。
「女子じゃない。ラノベなら女子が来るだろう! 女子が! しかもとっびきり可愛い美少女が!」
 僕と思っていることが少し似ていた。
「まま、トキタカ君。部員が増えるのはいいことだよ」
 今度は相撲取り……まではいかないが太ったやつが口をはさんだ。
「ようこそ。ささ、こっちおいで」
 空いている椅子を出してきてくれた。なんて気が利く人なのだろう。
「待てい! 貴様、どこのものだ!」
「え? どこって……」
「ハッ!? 貴様……アレから派遣されたエージェントか!」
「はぁ?」
 この……トキタカってやつは何を言っているのだ? 中2か?
「こいつの言ったことは気にすんな。それより、俺は矢部(やべ)だ。よろしく」
「よ、よろしく」
 不良(仮)の名前は矢部と言うそうだ。
「僕は日暮(ひぐらし)でいいよ! よろしくね!」
 太った方は日暮というらしい。
「ほら、トキタカ君も」
 僕を警戒しているのかなかなか自己紹介に映らない。が、空気に押し負けやっと口を開いた。
「千丈朱鷺鷹(せんじょう ときたか)……」
 目をそらしてボソっと言ったがちゃんと聞こえた。
「……本名?」
 別に偽名を使っているのではないかとか怪しんだわけではなく、単純に素で思ってしまった。
「ぐっ」
「あははははは」
 矢部が豪快に笑った。目じりには涙まで浮かべてる。
「本名? って聞かれてるぜ? まあ確かにこいつの名前はどうも中2臭いし作り物っていうか偽名にもきこえるけど、本名だ」
「いいよ別に。慣れてる。そこまで変じゃないし。DQNネームみたいじゃない分ましさ」
 DQNネーム。当て字ばかりで読むにも読めない名前だっけ。まあ確かに千丈の名前はまだ読める。難しいけど。
「さて、そろそろ本題にいこうか。君は入部希望できたのかい?」
 いきなりか。来たら体験入部でもできると思っていたが、できるほどのことはないみたいだし、実際何をする部活なのかもわからない。ここは無難に目的を聞こう。
「その前に、この部活は何をする部活なの? 作家部というくらいだから作家活動でもするのかな?」
「ふむ、いい質問だ」
 いい質問ていうか普通だろ。今まで言わなかったのが不思議だわ。
「簡単に言うとアレだ。小説が好きな人は、とりあえず集まってぺちゃくちゃ話して放課後過ごそうず。っていうことだ。名前は堅苦しいかもしれないが内容はもう薄い」
「ほら、一応部活動だからちゃんとした名前じゃないとダメなんだよ。部活の名前の候補に『小説について語ろう部』とか『ラノベ部』とかあったんだけど先生に全部落とされてね。泣く泣く作家部になったんだよ」
「ふん。あの先生どももアレの支配下にあるのだろう」
 と、様々に言われたが、正直反応しがたい。今ここで部に入らないと言ったらどうなるのだろうか。断る理由もない。でも入る理由もそれほどない。だが、分かる。僕がこの部に入れば、楽しい学校生活になるのは確実だ。ならもう言うことは一つだ。
「分かりました。話聞けてよかったです。では」
 去る。
「ここまできて入部なし!?」
「貴様! やはりエージェントであったか!」
「うう……」
 三人の声を後ろに僕は教室を出た。
 結局、僕は臆病なんだ。
 今までに失ってきた……あれが怖くて怖くて仕方がないんだ。ごめん。みんな。
「あ、君」
 廊下ですれ違った女子に呼び止められた。
 何かやったかビクビクしながら応じた。
「この封筒を渡すように頼まれたの。それじゃ」
 と、ハガキくらいの茶封筒を渡してその女子は去って行った。
 茶封筒を調べると一部封筒が破れているところがあった。というより綺麗に四角に切り取られていた。封筒にはその切り取られて中の紙が見えてるところを矢印が指して『名前を書いて先生に提出』と書いてあった。
 心当たりがないが書いてある通りにした。
 それを職員室にいた担任に渡し先生が封筒から中身をだした。
「ふむ。いいよ。じゃあ明日から第4倉庫に来てね」
 え? 今なんて?
「え? 今なんて?」
 あまりにも突拍子もないことだったので心の声が無意識に声へと出てしまった。
「いやだから、これ。作家部の入部届。入るんでしょ?」
 作家部の入部届!? そんなの書いた覚えなどないぞ!?
「なんか驚いていない?」
 もしかしてあの封筒の中身は入部届!? いったい誰が何のために?
「君はツンデレ属性でも持っているのか?」
 後ろから聞き覚えのある声が。しかもついさっき聞いたばかりの声。不良に見えるが以外にやさしいようにも見えるという男。確か名前は----
「あら矢部君」
「こんにちは先生」
「部員がまた増えたのね。よかったわね」
「へへ」
 のんきにしてますけど僕まだ一言も入部するなんて言ってないよ!? ってもう入部届かいてしまったしぃ! ……ここは潔く入部するしかないのか?
「それじゃあ明日から来てね」

 ★

 なんとなくだが気が重い。
 昨日、入部しないと出ていった部屋に入部したを理由に行かないといけないだなんて。みんなどう思っているのだろうか。
「はぁ……胃が痛い」
 場所は第4倉庫。倉庫と呼ぶには綺麗な場所。今は作家部の部室として使われている。僕その部屋の扉に手をかけ……勢いよくとは言わないが何とかなれという一心で扉を開けた。
「やあ、待っていたよ」
「やっぱり入部してくれるんだね! よかった」
「ぐぬ!? 貴様は昨日のエージェント!」
「……」
 どうやら胃を痛めるほどの心配は不要だったらしい。3人とも笑顔で僕を迎え入れてくれた。
「この部は主に小説やアニメとかについて雑談に考察を主にする部だ。もちろん、作家活動もしてくれてもいいぞ。応募するのもありだな。君の、無限にある物語を形にしてくれ」
「……」
「ん? どうした?」
「いや……なんでもない」
 少し感動してしまい呆然としてしまった。
「じゃあ自己紹介をしてくれ」
 自己紹介か。いったいこれで何度目になるのだろうか。入学式に授業の担当の先生に。合計で10回以上はしている。
「僕の名前は……大安寺京(だいあんじ きょう)」
 正直、僕もよく中2な名前だなと言われることが多い。

無限の少女

無限の少女

ファンタジー系です ゆる~くいきます

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • サスペンス
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. プロローグ 無限の始まり 1/2
  2. プロローグ 無限の始まり 2/2