お腹の辺りに確かに巣食う、よく似た感覚

牛筋肉は美味しいです。

おでんに入っていると嬉しくなります。

ピーターが女を作って家を出ていきました。

私の夫です。

彼とは学生時代に知り合い付き合い結婚しました 。

おでんの卵をピーターのあのつるっとした額に見 立て

何度も何度も割り箸を突き立てました。

黄色の塊があふれでてにじんでいくのがわかりま した。

しばらく、目を閉じ息を整えます。

冷えた牛筋肉が私の空腹を誘うイメージとして、

ぼんやりと眼前に浮かび上がってきたので

私はピーターに対する恨みの言葉たちを脳内で回 転させるのをやめました。

私はどうなるのだろう。

牛筋肉が満たしてくれる幸せが今日限りのものだ ろうか

未來を考えると、せっかくの出汁の染み込んだ弾 触も味も台なしになります。

時間はおそろしいもので…まずい

おそろしくまずい。

一秒も満たない刹那の間、真っ黒な血の津波が私 を飲み込んだのでした。

津波のなかで私の意識は、意識の核に集まってき て密度が高くなりました。

すかさず口の中の異物を吐きました。

この前ピーターと、一日以上かけて悩んで買った 高価なカーペットに、

肉片が乗っかりました。

肉片を踏みつけました。 踏みにじりました。

ディスコよろしくゴーゴーを肉片の上で踊りまし た。

叩き壊しました。花瓶

グラス、窓、皿、時計、目につくもの全て

ピーターを殺しました。

子供はいません。

お腹の辺りに確かに巣食うあの感覚は私には受け 付けなくなったのですから。

カーペットに叩きつけました。

私は、眠りますね。

お腹の辺りに確かに巣食う、よく似た感覚

お腹の辺りに確かに巣食う、よく似た感覚

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-26

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