魔法のディナー

魔法のディナー

 さくらちゃんの今日の夕飯はグラタンでした。熱々のお皿に、白いソースにからまった穴の開いたマカロニが覗いています。少し焦げたチーズは金色でまるで、お月さまが溶け出したみたい。桜色のタータンチェックのランチョンマットの上にお行儀よく座り、さくらちゃんを見つめています。
「お母さん。さくらね、グラタン大好きなの。」
さくらちゃんは、スプーンを口にほお張りながら言いました。お母さんは、そんなさくらちゃんを微笑んで見つめてくれます。
「お母さんの料理って、魔法みたい。さくら、大好きなの。」
さくらちゃんは、ご機嫌で、もったいなさそうに、今度はフォークを使って、マカロニの穴にフォークを通そうと、しています。
 ウサギのグラスのオレンジジュースも、お母さんの手作り。さくらちゃんは、そんなお母さんの料理がいつも、楽しみでしょうがありません。かぼちゃのミートローフにお魚のパイ。ハンバーグには満月のような卵はかかせません。ほうれん草のニョッキはトマトのスープに気持ちよさそうに泳いでいます。アルミホイルの銀紙にくるんだ皮付きのじゃがいもはホクホクで、黄金のバターの川がゆっくりと流れます。そんな夕飯はさくらちゃんの大好きで楽しみな時間。
「お母さんは、魔法使いなの?」
さくらちゃんはいつも不思議でたまりません。お母さんはそんなさくらちゃんにいつも微笑み返すばかり。さくらちゃんは、お母さんはきっと、料理をしているときは魔法を使っているんだ。と、信じて疑いません。

 ある日、そんなさくらちゃんは、こっそりキッチンの戸棚の中に忍び込む事を決心しました。
「お母さんの魔法・・・気になる・・・」
そっと扉を半開きにして、お母さんの料理が始まるのを今か今かと待ち焦がれます。
お母さんのピンクのふかふかのスリッパが見えました。さくらちゃんは、息をころして、そっと様子を伺います。
「さくらちゃーん。さくらちゃーん。」
お母さんはどうやらさくらちゃんを探しているようです。まさか、キッチンの戸棚のなかにまるまって、お母さんを伺っているなんて思いもよりません。お母さんは首をかしげながら、冷蔵庫を開けました。さくらちゃんは見つかってしまうんじゃないかと、心臓がはちきれそうにドキドキと音を立てます。そんな大きな心臓の音でお母さんが
さくらちゃんの事を気がついてしまうんじゃないかと、さくらちゃんは胸を小さな手のひらで押さえました。

 いよいよです。
 お母さんは、冷蔵庫から、卵やバター、真っ赤なトマトや青々としたナスを取り出しました。それから、お母さんは、ボールに粉を入れ、まぜながら、歌い出します。
  ♪らざらざらざーにゃ・・・粉をたっぷりいれましょう
  卵も忘れずに入れましょう
  たまねぎさんはちょっといじわる
  いつも私を泣かせるなんて・・・♪
 お母さんの歌は、心地よく、さくらちゃんは毛布でくるまれたみたいにポカポカと気持ちがよくなってきました。まるで陽だまり。香ばしい匂いにさくらちゃんは頬を赤らめ、うっとりとしています。

「さくらちゃん・・・。」
お母さんのやさしい手。やさしく抱き起こしてくれるお母さん。
「あれ・・・!?」
どうやら戸棚のなかで、お母さんの歌を聞きながら眠ってしまったようです。
「こんな所で寝て・・・かくれんぼなの?もうご飯できるわよ。」
お母さんはちょっぴり困った顔でさくらちゃんを見つめます。
「・・・・・。」
さくらちゃんは、目をパチクリ。
「やっぱり、お母さんは魔法使いなんだ。」
さくらちゃんは心の中で叫びます。
さくらちゃんは目を輝かせてお母さんを見つめていました。

魔法のディナー

お母さんって、お母さんの嫌いなものは作らない。好き嫌いがないフリをしている気がする。

魔法のディナー

かぼちゃのミートローフにお魚のパイ。ハンバーグには満月のような卵はかかせません。ほうれん草のニョッキはトマトのスープに気持ちよさそうに泳いでいます。いつも素敵なディナーを作るお母さん。きっと魔法を使って料理をしているに違いない・・・。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted