新選組副長隊長大騒動(腐向け

囚われの副長

土方 side

「う゛…?!」
激しい頭痛によって目覚めた俺。目を開けても、視界は真っ黒のままだ。しかも、手が拘束されてるようで動かない。手を動かすとジャラジャラと鎖の音がし、手首に重みを感じる。
そして口には何か噛まされていてしゃべれない。上半身も、何も着ていない状態だ。冷たい石造りか何かの部屋に閉じ込められているようだった。
その時、ギイイと思い扉があくような音がした。
「お、起きたか…気分はどうだい、鬼の副長さん?」
「うーわ、すっげー体勢してんな」
ハハハ、と自分をさらってきた攘夷浪士たちの笑う声が聞こえる。
そうだ、俺は…

「…土方さん、疲れやした…甘味処でも行きやせんか?」
「ん…まあいいぜ?どこの甘味処行くんだ…?!」
見回りをしていると、総悟がよほど疲れたのか珍しく甘味処へ行きたいと言ってきた。
どこが美味しいか、と頭の中で考えていると、総悟の後ろに怪しい人影が差した。その影は何か鈍器のようなものを掲げていて…
「総悟、危ないッ!!!」
「へ…?!」
刀を抜くのにはスペースがない、相手は今にも鈍器を振り降ろしてきそうだった。
総悟を守るのには、自分が盾とならなければ。
そんな思考が頭の中を渦巻き、行動を起こした。
「覚悟ッ!!」
「かはッ…」
「十四郎?!」
相手の覚悟、という一言とともに、後頭部に鈍い痛みが走る。
俺はとっさに総悟を抱きしめるような形で庇い、人影の振り下ろした鈍器によって殴られたのだ。
力が入らなくなり、その場に崩れ落ちてしまう。
「流石副長、部下をかばうねぇ」
意識が薄れる中で見ると、俺を殴った人影の正体は過激派攘夷浪士だった。
「テメェ、よくも十四郎を…んぐッ!?」
「おおっと、邪魔はおよしなされ隊長殿」
「…ッ」
総悟が俺の敵を討とうと攘夷浪士に刀を抜くと、後ろから浪士の仲間が薬品か何かを染みこませたような布で彼の口と鼻を覆う。
しばらくすると総悟の手からは刀が落ち、だらんと腕が垂れ下がった。眠らされたのだろう…
「おい、そいつの始末しとけ」
「ラジャー」
自分を殴った浪士は沖田を連れていくように指示して…
そこで意識は途絶えた。

「ほんと、部下思いの副長さんだねェ」
相手に顎を持ち上げられてそういわれる。
総悟をどこにやった、そう言いたいのに口枷のせいで唸ることしかできない。
「5時間くらい眠ってたんじゃねぇか?相当お疲れのようで」
自分を殴った奴の声が聞こえる。
5時間も眠って…。そう思うと、総悟が心配でならなかった。

沖田 side

「十四郎ッ!!!」
目の前で十四郎は攘夷浪士に殴られて気絶して…そんな光景を見たら、怒りが頂点に達した。
刀を抜いて、瞳孔開かせて。
「テメェ…よくも十四郎を…んぐッ!?」
よくも十四郎をこんな目に、と言おうとすると、背後から仲間が俺の鼻と口を布で覆った。
布は湿っていて、薬品独特の刺激臭がした。
だんだん思考回路が鈍くなっていって、体から力が抜けちまった…

「…土方ッ!!」
突然ばっと目が覚めると、そこは俺の部屋だった。
誰かに屯所に運ばれて、寝かされていたようだった。
「隊長、お目覚めになりましたか?」
「ザキ、かィ…」
すっと戸があくと、ザキが入ってきた。
「町人の方に運ばれて来られたんですよ?」
「町人…?それ、何時ころのことでィ」
運ばれてきたことは覚えていないので、おそらく眠ってすぐだろうと思って、ザキに聞いてみる。
「ああ…5時間ほど前でしたが。ご飯お食べになりますか」
「飯はいい…ちょいと出かけてくるぜィ」
5時間前、と聞くと寒気が走り、嫌な予感がした。
「あ、隊長?!」
俺は感情に任せて、にらみを利かせていた怪しげな建物に向かった。
きっと、そこに十四郎はいる…!!!

覚醒の沖田

土方 side

「ホント、新選組って厄介なんだよな」
俺を殴った攘夷浪士がそうつぶやくと、刀を抜いた音がした。
しゅっ、と鋭い金属音。
「動くんじゃねえぞ」
そう言われれば身体に力が入り、いっそう恐怖が増した。
「…やれ」
「くっ…!」
相手の一言とほぼ同時に、右の二の腕あたりに痛みを感じた。
おそらく浅くだろうが斬られたのだろう。
「おー、痛そう」
「…あ゛ぁ゛ッ!」
血が流れ出すような痛みを感じていると、更にしみてくるような痛みを感じた。
「おい、もっと塩持って来いよ」
やはり傷には塩を塗られたようだ。ズキズキと痛みが増してくる。
それからはというもの、胸や背にも同じ様なことをされた。
その間中、俺の頭は総悟のことでいっぱいだった…。

沖田 side

「はあっ、はあっ…!」
息を切らしながら夜の町を全力疾走してたどり着いたのは、古い商店のような木造家屋。
新選組では、ここは大きな地下牢があり攘夷浪士達のアジトではないかと考えていた。
ここで合っていれば、にらみも大正解、というわけだ。
(十四郎…!!)
今助ける、と心の中でつぶやくとアジトらしきものに俺は向かった。

ガラッと戸を開けて警戒しながら入ると、攘夷浪士が出てきた。
「何者だ!!」
「ここに瞳孔の開いたマヨラーが拘束されてるって聞いてねィ…引き取りにきたまででィ!!」
「ぐぁっ!」
立ちはだかる攘夷浪士を派手に切り捨てて、地下への階段を降りると、鉄製の扉から十四郎の痛々しい悲鳴が聞こえた気がした。
「そこまででィ!!」
分厚い鉄製の扉も、十四郎の事となれば古い木製の扉と同じ。軽々と蹴破って、瞳孔を開かせて牢へ入った。
「!?お前、昼間の…」
「なぜ此処に!?」
攘夷浪士達は腰を抜かしたような目をしてこちらを向いた。
「十四郎を気絶させたあげくこんな拷問しやがって…死んじまいなァ!!!」
この前まで十四郎に言っていた台詞を叫び捨てて、浪士達に斬りかかっていく。
浪士達を斬り捨てれば刀に付いた血を遠心力で飛ばして鞘に収め十四郎の元へと駆け寄る。
「十四郎ッ!!!」
壁に掛けてあった鍵で手枷を外してやり、アイマスクと口枷を外してやった。
「総、悟…?何で此処に…」
「助けにきたに決まってんだろィ!!この馬鹿…ッ」
自分のシャツを脱いで、スカーフも近くの水道で濡らして使ってまだ止まりかけてしかいない傷口を拭いてやると、十四郎は染みたのかいてて、と呟いた。
「俺の身代わりなんてするから…!!」
そう言って傷口に巻いたシャツやスカーフの上から隊服を着せてやり、相手を抱き抱えて夜の町を屯所に向かって歩いた。
(無事で良かった…)
そう思いながら。

治癒と沖田の涙

沖田 side

屯所に十四郎とともに入ると、ザキや近藤さんが慌てた様子で出てきた。
「隊長、どこ行ってたんですか!いきなり飛び出して行って…って副長!!」
「悪ィ…土方が攘夷浪士にさらわれてたもんでねィ、助けに行った次第でさァ」
「トシ…ッ!!」
「土方の部屋で看病してるんで…あとザキ、俺の部屋から隊服の替えもってきて下せェ」
「は、はい!」
そんな会話を交わして、十四郎の部屋へと向かう。
十四郎は大分辛かったのか屯所に来る途中で寝ちまった。
まぁ、あんな拷問をされて辛くないはずがねェ…。
そんなことを思いながら部屋に着けば布団を引いてやり、そこに十四郎を寝かせて傷の消毒をしたり包帯を巻いてやったりすると、俺も眠くなっちまって…
返り血を浴びた隊服からザキが持ってきた隊服に着替えたら、寝ちまった。



土方 side

「ん、う…」
まぶしい朝日が部屋の中にさしてきて、俺は目を覚ました。
昨日、あそこから総悟が助けてくれて…そう思いながら体を起こすと、頭痛はすっかり消えていたが、傷の痛みはまだかすかに残っている。
意識がはっきりしてくると、傍らを見て驚いてしまった。
「総悟…?」
俺の傍らで、新しい隊服に着替えた総悟がすやすやと寝息を立てながら眠っていた。
しかし、顔や髪には少し血がついている。
“血を浴びるのは俺の仕事なのに”とおもうと、はっとして体を見た。
すると、きれいな包帯が丁寧にまかれていた。そして、枕元には隊服がたたまれていた。
きっと総悟が…
「…ありがとな、総悟」
そう呟くように言えば、俺は軽く総悟の頬にキスをしてやった。


沖田 side

俺はいつもより少し遅めに起きると、また十四郎と見回りに出た。もう襲われたりなんかしないように、今日はパトカーで。
まだ傷が少し痛んでいたのか、十四郎は少し苦い顔をしていた。

夜になって、仕事の書類を片付けると十四郎のことが不安で不安で仕方なくて、十四郎の部屋へ行った。
「土方さん、入りやすぜ…?」
「嗚呼、総悟か。いいぜ」
いつも通りの声が聞こえて、安堵の息を漏らしながら俺は部屋に入った。

土方 side

いつもの様にデスクワークをしていると、総悟が部屋に来た。
まず、昨日のお礼を言わなきゃな…
「総悟、昨日の夜…ありがとな」
やっと言えた。
自分も眠らされたのにも関わらず、助けに来てくれて。
屯所まで連れてきてくれて。
手当までしてくれて。
総悟が相棒でよかった。
そう思っていると、左腕に総悟が抱き付いてきた。
「総悟…?」
「…十四郎の馬鹿ッ…!!」
あいつの声は震えていて、体も震えていて。
俺の腕を抱きしめる力も少し強かった。
「俺の身代わりなんかして、こんな傷だらけになっちまって…!!」
「総悟だからいいんだよ、そう泣くな」
総悟は俺に馬鹿、というと涙で赤くした顔を上げて告げてきた。
「早く治してくだせぇよ、その傷…」
「おう、当たり前だろ?」
そう言うと、右手で髪を撫でてやりながら…

キスをした。

少し長めの、甘いキスだった。

新選組副長隊長大騒動(腐向け

新選組副長隊長大騒動(腐向け

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • アクション
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-24

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  1. 囚われの副長
  2. 覚醒の沖田
  3. 治癒と沖田の涙