きずな

「なあ、お前仕事ってしてるの?」
 いつもは話しかけてこないレンの声。面倒くさそうに、顔をあげると、すごく近くに顔。まん丸な目がこっちを見つめる。
「あぁ、レン。お前、珍しいな。俺に話しかけるなんてさ。」
「いいじゃないか。同じ家に住んでるんだし、話しかけたってさ。」
レンはなんだか眠いのか、目をこすっている。
「で、バロン。お前って仕事してるの?」
と、また聞き返すレンの声。
「仕事って何?いきなり何聞くの?レン。俺はこの家を守るのが仕事さ。」
バロンは、前足の上に顔を乗せ、横目でチラッとレンの事を見た。
「おめでたいね。家を守るなんてさ。犬ってだから馬鹿なんだよ。」
レンは前足を舌で舐めて、顔を撫でる。
「よく言うよ。レンだって、猫撫で声を立てて撫でて貰おうなんて甘い考えじゃん。」
バロンは尻尾をばたっと大きく振って、近くで丸くなるレンにに触れた。広いリビングには、クリーム色のソファー。毛足の長いラグマット。ふかふかのクッションはレンのお気に入り。窓のレースのカーテンは明るい日差しをやわらかく届けてくれる。
 レンは大きなあくびをした。つられてバロンも口をあける。
「じゃあさ、レンの仕事って何?」
バロンは眠たそうに毛づくろいをするレンに聞いた。
「あぁ。そこなんだよな。問題は。」
レンは面倒くさそうに答えた。
「猫ってやつはいつもそうだな。すぐに飽きて眠くなる。」
バロンは体を丸くした。毛足の長いラグマットに丸くなると、芝生で寝転んでいる感覚に襲われる。
「うるさいなあ。俺さあ、仕事をしたほうがいいと思うんだ。」
「へぇ、レンはいつも寝てるか、お日様と日向ぼっこしてるだけかと思ったよ。」
バロンは仕事について考えるレンにちょっとびっくりして、まぶたで塞がりそうな目をぱちっと開けた。
「あぁ。俺、仕事が見つかったんだ。でも、悩んでる。」
レンはそう言うと、また毛づくろいを始めた。
「何の仕事?」
「それは秘密だよ。いくらバロンでも言えないね。でもさ、仕事を始めたら、
ここから出て行かなきゃいけないんだ。」
レンは珍しく神妙に言葉を漏らす。
「じゃあ、もう帰ってこないって事?」
バロンはびっくりして、鼻をひくひくさせた。同じ家で住んでいてもほとんど会話も交わさないし、むしろ避けている二匹。でも、出て行くなんて言われて驚かないわけがない。
「そう。遠くに行くかもしれない。」
「レン、いいのか?」
バロンは低い声を出した。バロンの茶色な毛並みが窓から入る光に照らされ、キラキラと光っている。
「いいのかって!?バロン、俺が居ない方がいいだろ。」
「そんな事言ってないよ。ただ、この家にいるのがレンの仕事なのかと思ってた。」
バロンはちょっと切なそうにため息をついた。そして、また口を開いた。
「ただ、あの子の成長を見守ってるのが仕事なんだと・・・。」
 バロンはレンよりずっとずっと前からこの家に住んでいた。レンがやってきた日の事は昨日のように覚えていた。あの子の赤いランドセルの中から出てきた小さなレン。
あの子は泣きながらお母さんに飼っていいかって頼んでたっけ。
「レン。お前が出て行ったらあの子は多分・・・。」
低い声でバロンは小さく呟き、傍らのレンを見つめた。
 レンは気持ちよさそうに、お気に入りのクッションで、寝息をたてて丸くなって眠っていた。
「・・・・寝てるし・・・。」

きずな

月の光に照らされて文章を紡ぐのは薬草を作るかのように。あなたの症状に効く薬を作らなきゃ。

きずな

あたりまえの関係が崩れちゃうかもしれない!?なんてことあるかな、ないかなの世界。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-10

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