夕暮れ、あなたの背中を這い上がってきたものの正体について

たぶん 少しまた わたしは無理をした
あなたは どこかで 今日の鉾を収めた
さくさくと白い砂を食む サンダルの音がそこには響くだけ
わたしも あなたも無言 ふわりとかけられたニットのカーディガン
海から上がる風 まだ冷たい 鼻で香る春先がうそ寒くなるほど唇が冷えて
わたしはそれでも 安心していた わたしたち 同じ場所を譲り合っている
今日だって 帰ったらきっと上手くやれるはずだって

まるで目を閉じてるみたいに 確かめることまで放棄させる夕陽
わたしの前で あなたは 立ち止まった
ぞくりと震わせた 背中は わたしとは何か別のものを感じていたの
それ 今ではよく分かる気がする
心配ないと振り向いた あなたにはもう
わたしを気遣うそぶりなど まるで見えなかったから
頼りない ニットのカーディガンごと
わたしを包んでくれたときとは 本当に別人みたいに

するりと 日常は立ち去っていく
まるで わたしたちが愛し合うとき
フローリングの床の上に はらりと日常性を脱ぎ捨てるように
唐突に 今日と昨日は隔絶していく

夕暮れ あなたの背を這い上がってきたものの正体について
さっきまでは そんなこと
考えもしていなかったのに

夕暮れ、あなたの背中を這い上がってきたものの正体について

タイトルは、小説に使おうと思って頭の隅に引っかかっていたものです。恋人の失踪をテーマに取り扱う作品を作りたいと思ったので、まずはここでイメージを散文詩風の文章にまとめてみる形をとりました。厳密には、たぶん、詩ではないと思います。まだほんの思いつきですが、それでも読んで頂いた方、ありがとうございます。

夕暮れ、あなたの背中を這い上がってきたものの正体について

詩の形式を装った短文です。タイトルはちょっと怖いですが、ホラーではありません。突然の別れを告げられた女性の気持ちをテーマに描いてみました。よろしければどうぞ。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-27

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