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『不来方探偵事務所ーファイル・掌中之珠ー』
 ファンタジー  作者:秋月。
――― 事務所の中、エリスと探が荷物の整理をしている。

探
やあ、また来てくれたのか
今日は刀の手入れをしていてね

エリス
かつて鬼を大量に殺したという、曰く付きの刀で御座います
赤く輝く刀身は血を吸っているのだとか

探
どこまで本気なんだかな
ウチの家系に古くから伝わっている物でね
エリス

エリス
はい、此方に御座います

――― エリスは胸に下げたペンダントを手に取る。

探
これは御霊返みたまがえしのお守りだ
死んだ者を生界せいかいに呼び戻す力があるらしい

エリス
私はこれを肌見離さず持っていなくてはなりません
あら、そんな胡乱うろんげな顔をなさらないで下さい

探
地下室にも、代々伝わる自慢の花があるのだが・・・
あれは持ち出したくなくてな
まぁ、その内見せることもあるだろう

エリス
折角で御座います、本日は赤ファイルを開くのは如何いかがでしょう?

探
ああ、それがいいな

エリス
此方こちらに

探
これはケガレ相手の事件なんだが、それだけではない
まぁ、見てもらうのが早いだろう
さ、じっくり読んでくれたまえ

エリス
それでは、不来方探偵事務所、本日も営業開始です

探
不来方探偵事務所―ファイル・掌中之珠しょうちゅうのたま

――― 時刻は夕方、18時を回ろうとしている。
不来方探偵事務所の一室で、凛は読書をしていた。

凛
んー・・・なんか難しい本だったなぁ
最後どうなったんだろう・・・

エリス
何をお読みになっていたのですか?

凛
えっと、なんて説明したらいいんだろう
紅蓮鬼灯ぐれんほおずきっていう、人種差別がテーマのお話だよ

エリス
人種差別、で御座いますか?

凛
うん、異世界時代劇の漫画なんだけど、鬼と人間の人種問題を扱った漫画なの

探
ふむ、君にしては難しそうな作品を読んでいるな

凛
あ、バカにしてる!

探
阿呆あほと罵りはしたが、馬鹿ばかとは思っていないよ
それにしても、鬼か...
本当に異世界の話だと良いがな

凛
え、何かあるんですか!?

エリス
大抵の創作物には元となった事象が、少なからず存在する物で御座います
それは日常のほんの些細な出来事から、脳裏に焼き付き戦慄わななく出来事まで様々・・・
鬼という物の存在、完全否定することは出来ない、と思っております

探
その通り
無いと決めつけるのは良くない

凛
た、確かに・・・?
かえっちの時もただのイタズラって決めつけちゃって、色々あったんだった

探
ま、私は鬼なんて信じてないがな
人間にケガレが宿って、角でも見えたんだろ

凛
んもう!
どっちなんですか!

エリス
ケガレの存在は我々の預かり知る所ですが、鬼に関する情報は余りにも鮮少で御座います

探
自分で調べて存在すると感じれば信じるし、無いと思えば無い
それだけの話だよ

エリス
取捨選択は重要で御座いますね

――― 事務所の近くに誰かがやってきたのを察知する。

探
む?

エリス
見て参ります

探
ああ、頼むよ

凛
え?え?

探
この時間に来客の様だ
折角だ、ウチに居るなら、珈琲コーヒーの準備をしてくれ

エリス
戻りました
大柄の男性が一人
現時点では白く写っております
通して大丈夫かと

探
分かった、通してくれて構わない

凛
あ、この前も色の話してましたよね?
青色がどうとかって・・・アレは何なんですか?

探
エリスの目は特殊でな
ケガレの力が加わっているモノは青く、何もないモノは白、イレギュラーは赤く写るようになっている

凛
ああ!それでこの前はすぐに危ないって分かったんですね!

――― 凛が言い切ると同時に勢いよく扉が開く
顔全体を布で覆い、ローブを着た男がそこに立っていた

薊
頼もう!

凛
頼もうって・・・いつの時代の入り方!?

エリス
いらっしゃいませ、ようこそ不来方こずかた探偵事務所へ

薊
おお、此処が探偵事務所で合っていたか!
見つからないんで、場所を訪ねようと思っていたんだ!

エリス
はい、此方こちらが不来方こずかた探偵事務所で御座います
ご依頼で宜しいでしょうか?

薊
ああ、探偵殿に頼みがあって来た!

探
どういったご用件でしょう?
詳しくお聞きしますので、宜しければ其処にお座り下さい

薊
おお、失礼する!
いやー、見つかって良かった
私はきさらぎ薊あざみだ
この近くで、料理屋を営んでいる

探
ほう、キサラギさんですか・・・
なるほど、中々・・・気になるお名前だ・・・(後半小声)
と、ああ、遅れました
私が所長の不来方こずかた探さぐる
此方こちらは事務員の天聖院てんせいいんエリス

――― エリスは小さく会釈をする。

凛
私は助手の御薬袋みなえです!
はい、コーヒーです

薊
おお、ありがとう、助手さん!
娘さんかと思っていたよ!
確かにこの年の子が居るにしては、不来方こずかたさんはお若いからな!

凛
娘じゃなくて親戚なんですよ

薊
成程!
それでその若さで助手をしているのか!

探
それで、頼みというのは?

薊
ああ、ウチの店の話なんだが
この所、冷蔵庫の食料が減っている様でね
仕入れの帳簿と一致しないんだ

探
食い逃げやアルバイトの線は?

薊
私一人で回しているんだ
アルバイトはいない

エリス
御一人でとなると、かなり小規模なお店でしょうか?

薊
カウンター席4つしかない店なんだ
食い逃げに気付かないということはない
監視カメラでも買おうかと悩んでいたら、近くに探偵事務所があると聞いてな
相談してみようかと思ったんだ

探
なるほど・・・
エリス、今回の事は全て君に任そう

エリス
私に、で御座いますか?

探
ああ、よろしく頼む
私は調べたいことが出来た

エリス
畏まりました

探
キサラギさん、彼女はとても優秀ですのでご安心を
私は他の依頼もありますので、失礼させて頂きます

――― 不来方、足早に席を立つとそのまま地下室へ行ってしまう

薊
行ってしまった・・・
飄々ひょうひょうと動きが早いな

エリス
急勝せっかちな性分しょうぶんでして、申し訳御座いません
不肖ふしょうエリス、心持って引き継がせて頂く所存で御座います

薊
・・・(静かにエリスを舐め回す様に見る)
引き受けてくれるなら、誰でも良い
機械が苦手でな
出来る限りカメラなんか使いたくないんだ

エリス
そうで御座いますか・・・(少し寂しげ)

凛
エリスさん・・・?

エリス
ふふ、何でも御座いません(誤魔化すように微笑む)

凛
私も手伝います!
調べてみましょう!

薊
お、助手殿も来るのか!
よろしく頼むよ!

エリス
それでは、早速お店に伺わせて貰っても?

薊
ああ、構わないよ
歩いて行ける程度の距離だ、ついてきてくれ

凛
それじゃ、早速いってみましょー!!

――― 凛・薊が店を出ていく
不来方の声がエリスの頭に響く

探
気を落とすな、エリス
私は君に期待しているよ

エリス
・・・私にはその一言で虚往実帰きょおうじっきの様な思いで御座います
まだまだ勉強せねばなりませんね

探
一つ、良いか?

エリス
なんで御座いましょう?

探
あの馬鹿、赤の可能性有りだ

エリス
赤・・・!!

探
丁寧な対応をしてくれ
凛君の事も宜しくな
私は念の為に、捜し物をしておく

エリス
畏まりました
それでは私も行って参ります

探
油断するなよ

――― エリス、2人を追い探偵事務所を後にする

定食屋に着く3人

薊
さ、此処がウチの店だ
とりあえず中に入ってくれ
狭いんだけどな

凛
お邪魔しまーす!

エリス
確かに狭いお店で御座いますね
この辺りは土地代も安いと思いますが、何故この様な狭いお店を?

薊
ああ、ウチは外国の家系でね

エリス
外国?

凛
日本人だと思ってました!

薊
先祖がアラブの方の生まれでな
私自身は日本の生まれだよ

凛
そうだったんですね!

薊
それで風土料理を作ってるんだが、同郷の人間にしか振舞っていないような状態なんだ
だから、あまり大きな店は必要ないんだ

凛
言われてみれば、そんな感じのターバンしてますもんね

エリス
ターバン・・・?
もしや、クーフィーヤの事で御座いましょうか?

凛
ク、くうひい・・・な、なに?

薊
クーフィーヤというんだ、ターバンとは少し違ってね
まぁ、似たようなものなんだが・・・
しかし、クーフィーヤなんて良く知っていたね

エリス
私、知識は豊富で御座いますので

薊
なるほどね
それで、問題の冷蔵庫は裏になる

エリス
御待ち下さい
風土料理と仰いましたが、どのような料理なのでしょうか?

薊
うん?
そうだな、一番人気はそこにある豚を使ったシチューだ
寸胴鍋いっぱいに作っていてな、自信作なんだ
豚肉がとろっとろだぞ~

凛
うわぁ、美味しそう!
ご馳走になってもいいですかっ!?

エリス
凛様!(さえぎるように)
そういった事はまた後日に致しましょう

凛
あ、そ、そうですよね
えへへ、お腹空いちゃってつい

エリス
それでは話を進めましょうか

――― 3人は裏手の厨房の方へ向かう。
そこには小型店舗にして大きめの業務用冷蔵庫が置かれていた。

薊
問題の冷蔵庫がこれだ

エリス
・・・(険しい表情)

凛
どうしました?

エリス
青です
ケガレが原因で間違いないかと

薊
ケガレ・・・?

凛
幽霊とかお化けみたいな奴です
エリスさんは霊感が強いみたいなんですよー!

薊
ほお、幽霊か・・・

エリス
凛様、維摩一黙ゆいまいちもくで御座います

凛
えっ?

エリス
開けさせて頂いても宜しいでしょうか?

薊
ああ
此処に冷凍肉を・・・うん?
・・・おかしいな、こんなにスペースはなかったはずだ

エリス
失礼致します
確かに、不自然なスペースがありますね

薊
そこにも肉があったはずなんだが・・・やはり減っている

凛
え、じゃあ、勝手にお肉が減っちゃったの!?

エリス
勘違いの可能性もありますが

薊
いや、間違いない
探偵殿を訪ねに行く寸前まで仕込みをしていたんだ
そんなすぐの事を勘違いはしない

エリス
そんなに強くおっしゃるのなら、勘違いでは無さそうですね
ケガレによる何らかの干渉があり、冷蔵庫の物が無くなる現象が起きている、と

少年
ねぇお姉ちゃん!

エリス
!?(飛び退く)

凛
あれ
僕、どこから入ったのかな?

少年
ずっとココに居たよ!

薊
ずっと?
おかしいな、鍵は掛かってたんだが

エリス
・・・貴方様は?

少年
ずっとココに居るの!

凛
うーんと・・・

少年
ね、こっちきて!

――― 少年、外に出ていってしまう

凛
えっと・・・

エリス
行きましょう

薊
冷蔵庫はどうなるんだ!

エリス
直ぐに済ませてきますので、少々お待ち下さいませ

薊
待ってるから、早くしてくれよ

凛
すぐ戻ります!

薊
あのガキは・・・クソ!!

――― エリス・凛、少年を追って外に出る
そこに不来方の声だけが二人の頭に響く

探
状況はどうだ?

凛
不来方さん!?今、それどころじゃなくて・・・

エリス
ケガレの事件で間違いないと思われます

探
だろうな

少年
こっちだよー!こっち来てー!

凛
あ、居た!待ってー!

エリス
凛様!単独行動は・・・

探
すまない、映像を見ていなかった
何が起こっている?

エリス
恐らく、子供の姿をしたケガレが現れました
凛様がその子に呼ばれ、後を追っている状態です

探
子供・・・?
私の予想とは、違う展開となっている様だ
凛君なら大丈夫とは思うが、すぐに追ってくれ
続けて、先程の店主にも警戒を怠らないように

エリス
畏まりました

――― エリス二人の後を追う
先程の店の裏庭に辿り着く

少年
ここだよ!

凛
ここに何かあるの?

少年
掘ってほしいの!

凛
掘るって言われても・・・

エリス
小型のスコップで宜しいでしょうか?

少年
んー・・・何でも良い!!

エリス
それでは

――― エリス、ポケットを探りスコップを取り出す。

エリス
凛様、此方こちらをお使い下さい

少年
はやく!はやく掘ってよ!

凛
少し待ってね・・・

――― 凛はスコップを受け取ると、少年が指す所を掘り始める

探
そこは先程のきさらぎ食堂の裏手、であっているか?

エリス
その通りで御座います

探
凛君にやらせない方が良いかも知れない

凛
あれ?
何かにぶつかったみたい

エリス
凛様、そこから先は私が

少年
早く出してよー!
早く出してくれないとさっきの・・・

――― ここから薊は本性を表し始める。

薊
ウチの裏で何をしてるんだ

凛
この子が此処に何かあるって言うんで・・・

薊
子供が言えば何をしても良いのか?
人の家の敷地内だぞ!

凛
ちょっと掘ってるだけですよ!
後でちゃんと直しますから

薊
直すとかいう問題ではない!!(食い気味)

エリス
見られてはいけないものでも?

――― エリス、片手に白い骨のような物を持っている

少年
やっと出れた!ありがとう!

薊
庭先の出来事を無視できないというだけだ
・・・なんだ、それは?

エリス
此方(こちら)は・・・

少年
僕だよ!ねぇ、お母さんも出してあげて!

凛
えっと・・・
どういう・・・

探
すまない!(食い気味)
ちょっと良いかな!

凛
え?あ、こ、不来方さん?

探
凛君に頼みたい事があるんだ!
急ぎ、事務所に戻ってきてくれるかい?

凛
ええっ
でも

少年
ねぇ、はやくしてよ!

凛
ほら、こう言って

探
急ぎなんだ!(有無を言わせずに)
戻ってきてくれ、頼む

凛
わ、分かりました
すみません、先に帰りますね

薊
待て!!

エリス
邪魔立てはさせません!

――― 凛に向けて薊が手を伸ばす
それを凄まじい勢いで払いのけるエリス

エリス
畜生の如き下郎が凛様に触れるなっ!!

凛
え、え!?

エリス
早く御行き下さい!!

凛
は、はい!!

――― 凛は探偵事務所の方へと駆け出す。

薊
ちっ・・・
逃がすことになるとはな・・・
まぁ、家の場所は知ってるんだ、問題ねぇ

探
さて、これで『子供』は居なくなったな

少年
ねぇ、何してるの?
お母さんは?

探
・・・残酷な事をする・・・
まだ、自分が死んだことにも気付いていないじゃないか
貴様、一体何をした!!

薊
ああ?
ガキはうるせぇから嫌いなんだ
母親ごとぶった切ってやっただけだろ?

エリス
下衆の類いで御座いましたか
貴方は畜生の価値すらない

薊
バカ抜かせ
人間と同じ価値観で物を語るんじゃねぇ
食事をして何が悪い!!

――― クーフィーヤを投げ捨てると角が生えているのが見える

探
ほう、目眩ましも同時に使っていたな?
角の生えた人種・・・鬼か
実物を見るのは初めてだな

エリス
今ならはっきりと赤であると分かります

探
だろうな

薊
ウダウダと・・・喋ってんじゃねぇ!!

エリス
落ち着きのない・・・はあっ!!!

――― 薊が大きな動作でエリスに掴みかかるが、エリスはその細腕で薊の腕を掴み取る。

探
大丈夫そうかい?

エリス
両腕を捕捉、このまま数分は維持出来るかと存じます

薊
ぐ、ぐぐ・・・!!

探
限界が来る前に教えてくれ
さてと
おい、ガキ!!

少年
えっ!?

探
キョロキョロすんな、お前だ!

少年
は、はい!

探
ここで何があった?

少年
お母さんとお買い物にでかけたの!
その帰りに電車に乗って、気が付いたらここに・・・

探
誘拐だっつうのに電車か・・・

少年
ねぇ、お母さんを出して!

探
もう少し話を聞かせろ!
時間は何時頃だ?

少年
夕方だよ!ここで目が覚めたときは夜だった・・・かな

探
ふぅむ・・・
夕方買い物にでかけ、帰りに電車に乗った
その後、気を失って気が付いたらここに居た、と
ここでは何があった?

少年
ずっと真っ暗だった!
それが怖くて、僕泣いちゃって・・・
そしたらお母さんの声がして・・・

薊
ガキを守るようにうずくまりやがって!
切りにくかったぜ!

探
クズが・・・
グチグチうるせぇな黙ってろ!

――― 机を叩く様な音が響く。

探
ムカつきすぎてカップが割れちまったじゃねーか!

薊
そんなの知ったことかよ
女の細腕で抑え続けられると思うなよ?
オラッ!!

――― 薊、腕を掴まれた状態で脇腹に蹴りを入れる

エリス
ぐっ・・・
もう時期限界です・・・!!

探
切り上げ時か・・・

――― 不来方は場を仕切り直すように息を吐くと、語気を強めて喋り出す。

探
角が折れると鬼ってのは死ぬらしいな

薊
な・・・!!
それを、知っているのか・・・?

エリス
角、射程圏内です
根元から折る事が可能かと

探
らしいが、どうする?

薊
ちっ・・・
分が良いとは言えんようだな

探
引け、今日は見逃してやる

薊
引けだと・・・!?
人間如きが!!

――― 薊がエリスの腕を振り払う。

エリス
やむを得ません・・・!!

探
待て、エリス!

薊
もう、手は出さねぇよ
・・・けっ!

――― 薊は血の混じった唾を吐くと、息を整える。

薊
後悔すると良い、ケガレ請負人
我々鬼は、そう容易くはないぞ・・・!

――― 数歩下がると、そのまま闇の中へと飛び去っていった。

エリス
はぁ・・・はぁ・・・

少年
お姉ちゃん強いんだね!

エリス
ええ・・・あの様な下衆には屈しません

探
すまないな、エリス
今度、奴を改めて呼ぼう

エリス
申し訳・・・御座いません・・・

探
最後にもうひと仕事、其処を掘り返してくれ

エリス
畏かしこまりました

少年
ありがとう!

探
・・・強い、母を持ったな

少年
お母さん?
強くないよ、すごく優しいの!

探
そうか

エリス
あの様な者が跳梁ちょうりょう跋扈ばっこしているとは、度し難い事で御座います
逃にがしてしまって、宜しかったのですか?

探
店の説明を聞く限り、仲間がいると見た方が良いだろう
泳がせないとな

エリス
何故、気付いたのですか?

探
奴はきさらぎと名乗っただろう?
きさらぎってのは、漢字で鬼と書く事もある
余程目眩ましに自信があったんだろう、自分から鬼を名乗るとはな

エリス
其処にクーフィーヤで御座いますか
イスラムでは豚は好まれません

探
・・・奴の口振りからも、そういう事だろうな
恐らく、あのシチュー・・・
いや、ここで扱う料理全てだろうか

少年
お店のこと?

探
ああ

少年
あそこにもね、お母さんがいるの!

探
・・・呆れて嘆息たんそくも出ん

エリス
掘り出せました

少年
ありがとう!

探
地下で供養してやろう
凛君に見つからない様に持って帰ってくれ

エリス
畏かしこまりました
さ、此方こちらへ

――― エリスは何処からか取り出した袋に遺骨を仕舞うと、少年を優しく抱き上げた

エリス
貴方は、よく頑張りました
只一人となり、孤独の中で愛に包まれていたのですね
貴方の母の愛、いつか必ず報いて見せましょう
必ず・・・

――― 少年を抱きしめる手に自然と力がこもってしまう

少年
お姉ちゃん、くすぐったいよ
お姉ちゃん・・・?

――― エリスは瞳を拭い少年を一撫ですると、事務所の方へと歩みを進めた。

探
こうして、今回の事件は幕を閉じる
きさらぎ食堂の裏庭からは、少年の母親以外にも複数人分の白骨が発見された
何人もの怨念が集まり、特殊な霊場れいばを作り、母の子を守りたいという思いが、少年をケガレと言う形で生界せいかいに呼び戻したのだろう
肉が減っていたのは、少年のケガレが自己存在を主張するためにやっていた様だ
今回のファイル、エリスの様に名前をつけるのなら、掌中之珠と私なりにしておこう
不来方こずかた探偵事務所、本日はこれにて閉店だ

――― エピローグ

凛
ただいまー!
不来方さーん?
帰ってきましたよー!

探
ああ、戻ってきたのか

凛
それで、どうしたんですか?

探
コーヒーカップが割れてしまってな
すまないが新しものを貰ってきてくれるか?

凛
え、ええええっ!?
それだけですか!?

探
ああ、それだけだ
ウチの前の路地をまっすぐ行くとスタジョーネというカフェがあるんだ
そこの榎本えのもとと言う人に不来方こずかた探偵事務所から来た、といえば伝わるはずだ

凛
私はパシリじゃありません!!

探
楓君しか呼んでいないのに、部屋を貸してやっているんだがなぁ
そうか、出ていきたいのか

凛
す、すぐに行ってきます!!
それじゃ!!

――― 凛は慌てて事務所を飛び出していく。
入れ替わる様に静かにエリスが帰ってくる。

エリス
戻りました

探
まだ、人肉のシチューは高校生には早いだろう

エリス
ええ

探
にしても、鬼か

エリス
地下の赤刀、紛い物では無いのかもしれませんね
弔いの準備をしてまいります

探
御霊みたま返がえしのお守りに、鬼狩りの赫刀せきとう
すべて眉唾まゆつばと思っていたが、考えが甘かったな
今回は準備するだけで済んだが、次は抜く必要があるかもしれないな

――― そうして降りた事務所の地下には、燦然さんぜんと紅蓮ぐれんの様に輝く鬼灯ほおずきが飾られていた。

こ

こ

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-10-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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