還暦夫婦のバイクライフ 59
ジニー&リン、山陰を旅する 1
ジニーは夫、リンは妻の、共に還暦を過ぎた夫婦である。
8月の上旬、ジニーがつぶやいた。
「そば、食べたいな」
「そば?じゃあ、出石行く?」
「出石そばか。前々から行く行くといいながら、行けて無いなあ。今となっては弾丸できる年でもないし、どこかで泊まらんとなあ」
「そうだね。行くとしたら9月の連休?」
「いや、9月は天気が良くないかも。それに暑いし。行くなら10月の連休だな」
「ジニーせっかくだから、2泊して山陰回ってみようか」
「2泊?いいね。じゃあ早速宿探すか」
二人はグーグルマップで宿を探し始める。
「ジニー1日目はどこに止まる?」
「そうだな・・・豊岡市が良いな」
「豊岡ね」
そこから何件も検索する。
「ここは・・・ちょっと高いな」
「ジニーここはどう?」
「うん?ビジネス旅館か」
「口コミも悪くないよ」
「そうだなあ。ビジネス旅館、今まで泊まったこと無いな」
「ビジネス旅館って何?」
「仕事とかで長期出張となった時に、1週間とか1か月とか長期で泊まれる旅館だよ。面白そうだから、1日目はそこにしよう」
ジニーはネットサイトで予約する。二ヶ月先なので、問題なく予約出来た。
「さて、2日目はどこにするかな」
走る距離や場所を考えながら、マップ上の宿マークを片っ端からクリックする。二人でああでもないこうでもないと話をした結果、2日目は皆生温泉のホテルを取ることにした。
「少々高いけれど、ここにしよう」
ジニーは旅行サイトで予約した。
「宿は押さえた。行先は後で考えよう」
宿を押さえてから二ヶ月経過した。出発の一週間前になり、二人は行程を考え始めた。
「リンさん、2日目だけれど、僕は鳥取砂丘行ったこと無いから行ってみたいな」
「行ったこと無いの?じゃあ、行ってみよう」
「それと、余部鉄橋も見てみたい」
「ふ~ん?いいよ。私は白兎神社見てみたいな」
「いいね、それも行こう。じゃあ、1日目は出石そばと、後はどこに行こうか」
「じゃあ」
リンがスマホで出石近郊の観光地を探す。
「ここにしよう。玄武洞」
「うん」
「あとは・・・竹田城跡かな」
「竹田城跡ね。いいね、行ってみよう。アクセスはどうだろう」
ジニーは竹田城跡の案内を探す。
「あ~リンさん。ここはね、ちょっと今回は無理かも。時間的な自由度があんまりないや。ここに寄ると、昼過ぎまでかかる。出石そばが第一目標なのに、竹田城で1日終わりそうだ」
「そうなん?・・・ああ、これはだめだ。じゃあ、1日目はそばと玄武洞で」
「2日目は余部と砂丘と白兎神社だな。3日目は?」
「ジニー、岡山なんだけど、井倉洞というのがあるみたい」
「井倉洞?」
ジニーは地図アプリを開き、検索する。
「ここか。新見の南だな。ここに行くには・・・ああ、帰りの道沿いだね。よし、ここに行ってみよう」
こうして3日間の予定が決まった。
10月10日、朝5時前にジニーは目を覚ました。台所に行くと、リンはすでに起きていた。
「お早うジニー」
「お早うリンさん」
「何時くらいに出る?」
「6時には出たいな。コーヒー飲む?」
「飲む」
ジニーはやかんに水を入れて湯を沸かす。湯が沸く間に着替えを済ませる。それから用意していた荷物を玄関に運ぶ。コーヒーカップを2つ出して、一人用ドリップコーヒーをそれぞれのカップにセットする。湧いた湯を注ぎ、コーヒーを淹れた。
「ふ~っ、目が覚める」
ジニーは椅子に座り、コーヒーを飲んで一息ついた。
「リンさん、まずはいつも通り入野で休憩して、それから龍野西S.Aで給油しますよ。その後播但道に乗り換える」
「わかった」
コーヒーを飲み終え、カップを洗って片付ける。それから二人は出発準備を始めた。外に出て車庫からバイクを引っ張り出す。荷物をそれぞれのバイクに固定する。
「涼しいね。秋用の格好で正解だ」
「リンさん、昼は暑くなると思うよ」
「その準備もちゃんとしてるよ。ジニーはどうなん?」
「特には何も。防風ジーンズがヤバいかも」
「そうだねえ」
二人は出発準備を整えた。
「じゃあ、出るよ」
「どうぞ~」
5時45分、二人は出発した。市内を抜け、はなみずき通りを南下して松山I.Cに向かう。そこから高速に乗り、瀬戸中央道目指して走り始める。
「ひゃあー、涼しくて気持ちいいねえ」
「快適だ。もうこのまま気温が上がらなければいいのに」
「ジニーそれは無理。30度とは言わないけど、夏日になるみたい」
「10月なのに」
朝の涼しい風を受けて、高速道を快調に走る。6時50分、入野P.Aに到着する。ヘルメットを脱ぎ、バイクにかける。
「ハラ減った。何か食べよう」
二人はコンビニに向かい、おむすびと暖かいほうじ茶を買った。それを持って、いつものベンチに向かう。あたりはすっかり明るくなり、トラックや車の出入りも多くなってきた。
「連休でもお仕事車は動いてるんやなあ」
「まあね。ドイツみたいに休日仕事禁止の法律でもあればだけどね」
駐車場に並んで止まっているトラックを見ながら、おむすびとお茶を頂く。
30分ほど休憩してから、入野P.Aを出発した。
「リンさん、次は吉備S.Aくらいまで走ろうか?」
「そうねえ、手前の鴻ノ池が良いかな」
「わかった」
松山道から高松道坂出JCTまで走り、瀬戸中央道に乗り換える。瀬戸大橋を渡り、本州に上陸する。そこから鴻ノ池S.Aはすぐの所にある。導入路に入り、駐輪場にバイクを止める。
「トイレ行こっと」
ジニーはトイレに行った。お茶を飲みながら休憩していると、ヘルメットの上から被り物をかぶせたバイクが数台やって来た。
「リンさん、ヘルメットに何かかぶせてる。猫?熊?」
「何だろう。風圧で首が疲れそうな大きさだね」
「まあ、猫耳付けたヘルメットも時々見るし、趣味もいろいろだなあ」
「コスプレの一種じゃない?」
「そうだろうね」
二人はコスプレグループが走り去るのを見送った。
「さて、僕たちも出るか。次は龍野まで走るよ」
「わかった」
準備を整えて、8時25分鴻ノ池S.Aを出発した。
瀬戸中央道から倉敷JCTを経由して、山陽道に乗り換える。渋滞というほどではないが、車両が多い。少し早めに流れている集団の後ろに付いてゆく。
「やっぱり多いな。連休中のせいか、走りが怪しい車もちらほら混ざってる」
「ジニー気を付けてね。突然車線変更あるかもよ」
「そうだな」
二人は後ろから早い車が来ると走行車線に戻り、遅い車に詰まると追い越し車線に動く。両車線車が詰まっていて、一度追い越し車線に入るとなかなか走行車線に戻れない。周囲を警戒しながら走り、龍野西S.Aに辿り着いた。導入路から駐輪場に向かい、バイクを止める。
「休憩しよ。何かお土産あるかな?」
バイクにヘルメットを固定して、二人は売店に向かう。
「あ!ジニーこれ見て。揖保乃糸の中華麺がある」
「おお!初めて見た。買ってみよっと」
ジニーは二個手に取った。
「サンドイッチがある。はらへったしこれも買おう」
ジニーはサンドイッチを二つ買い、リンとフードコートの椅子に座った。自販機でコーヒーも買って、サンドイッチを食べる。
「これでお昼まで持つだろう。さて、ガソリン入れに行きますか」
二人はテーブルの上を片付けて、バイクに戻る。ヘルメットを被り、バイクを始動してスタンドに移動した。
「ハイオク満タンで。2台合わせて給油できますか?」
「出来ますよ」
2台のバイクを縦列にして、一度の動作で次々に給油する。
「リッター209円か。高速だし、こんなもんだな」
2台合計19.8L入る。会計を済ませ、二人は出発した。
「リンさん、ナビ様起きとる?」
「起きとるよ」
「出石の手前がよくわからん。ナビ様に案内してもらうようになると思う」
「わかった~」
本線に戻った二人は、東へと走ってゆく。山陽姫路東I.Cで播但連絡道路に乗り換える。そこから朝来市方面に向けて北上する。
「あ、リンさん。正面の山の上に見えるのが、竹田城跡だ」
「あ~見えた。あれね。とりあえず見たということで」
城の下のトンネルをくぐり、和田山JCTで近畿豊岡自動車道に乗り換える。
「さて、ここからが怪しいんよね」
「ジニー、ナビ様動いてないや」
「そうなん?じゃあ、僕のヤマ勘で」
「うわあ、行けるんだろうか」
そうこうするうちに、養父I.Cが近づいてきた。
「ジニー降りるん?」
「いや、ここじゃないと思う」
養父I.Cをスルーして、さらに進む。次に八鹿氷ノ山I.Cが見えてきた。
「リンさん、ここで降りるよ」
2台のバイクは自動車道から降りる。
「豊岡右になってる。右行きます」
「了解」
出口を右折して、R9に乗り換える。さらにその先のY字を左に入り、県道6号に乗った。
「リンさん、間違ってはないと思うけど、現在地が分からん。一度コンビニに入ろう」
「わかった」
そこから少し走った所でコンビニを見つけて、二人は止まった。
「水分補給が必要だな」
「私はトイレね」
二人は店内に入り、ジニーは炭酸飲料と飴を買う。外に出てスマホの地図アプリを呼び出し、現在位置を確認する。
「ジニーどうだった?」
「うん。合ってた。このまま進むとR312と出会うからそこを左折して、しばらく走ると県道2号線が右に向かっているから、それに乗り換えれば出石に着くよ。出石城跡の前に止めたらいいよね」
「そうね。ナビ様に案内してもらおう」
「よろしく」
12時5分、コンビニを出発した二人はナビに導かれて走り、無事出石城跡に到着した。ずらりと並んだバイクの端に止めて、ヘルメットを脱ぐ。
「リンさん、蕎麦屋さん行こう」
「うん、閉まらないうちにね」
ヘルメットをバイクに固定して、来ていたジャケットも脱いでバイクの上にかぶせる。それから街並み向かって歩いてゆく。
「ここに入るか」
「ここね。何年か前にもここに入ったよ」
「あ、そうだった。あの時おいしいって思ったところだ」
「そうそう。他にもう一軒行った所が、旨いって評価程おいしくなかったと思う」
「そうやったな。まずはここで食べよう」
二人は店内に入る。丁度入れ替わりの時間だったのか、すぐに席に座れた。メニューを取って開く。
「いらっしゃいませ。まずはそば一人前お持ちしますね」
お水を持ってきた店員さんに、そう言われてうなづく。どうやら座れば自動的にそば1人前5皿がオーダーされるようだ。メニューには飲み物とかデザートは載っているが、そばは一人前5皿しか載っていない。追加は一皿からできるようだ。
「お待ちどうさま」
店員さんが、そばつゆと薬味とそば2人前を持ってきた。
「うひょーそばだ」
ジニーが猪口にそばつゆを入れ、まずは薬味なしでそばを一皿食べる。
「うまいな~」
リンも次々と薬味を入れながら、そばを手繰る。
「ジニーこの生卵は?」
「多分こうだ」
ジニーは殻を割り、猪口に生卵を入れる。それを混ぜてからそばをくぐらせて食べる。5皿はあっという間になくなり、リンは追加を注文する。ジニーも5皿追加注文する。
さんざんそばを食べて、二人は満足して店を出た。
「しまった。もう一軒行こうと思っていたのに、腹いっぱい食べちゃった」
「リンさん、僕も腹いっぱいで、2軒目は無理だな」
「まあいいや。ジニー城跡見に行こう」
二人はぶらぶらと歩いて城跡に向かう。登城門から入り、石垣を眺めながら歩いてゆく。鳥居が並ぶ坂道を上り、稲荷神社で手を合わせる。
「ジニー、有子山城跡、行く?」
リンが登山道を見て、ジニーに問う。
「パスします」
ジニーが即答する。
「じゃあ、降りて街並みぶらつこう」
「そうだね」
二人は鳥居をくぐり、城跡を出る。
路地裏を歩いたり、店を覗いたりしながら街中散策する。途中、小さなコーヒー店を見つけ、中に入る。そこでおいしいコーヒーを飲んで一息ついた。
「リンさん、このクオリティーで一杯たったの400円。安いね」
「うん。おいしい」
「僕は毎朝淹れるけど、このおいしさは出せないなあ。何が違うんだろう」
「お湯の温度じゃない?」
「ああ・・・・そうかも」
30分ほど休憩してから、店主にお礼を言って出る。お土産を数点買ってからバイクに戻った。
「さて、次は玄武洞だ。ここからはナビ様頼りだ」
「ちゃんと仕事するかな?」
買ったお土産をバッグに収め、ジャケットを着てヘルメットも被る。
「リンさん、出るよ」
「どうぞ」
15時15分、二人は出石を出発した。
「ナビ様のいう通りに動くよ」
「そうして。ジニーの勘は信用ならんから」
「全くだ」
二人はナビの指示通りに走った。県道253号からR426へ、そこから県道703号、536号、R312、R178、県道548号を走り、15時45分玄武洞ミュージアムに到着した。バイクを道端に止める。
「リンさん、ここはだめだ。駐車場がふかふかの砂利だ」
「え~」
「リンさん、そのままその位置に止めて」
ジニーは道端の舗装の上にバイクを止めた。それからリンと交代してリンのバイクに乗り、道の反対側のバス転回場の横の空きスペースにバイクを乗り入れた。それから自分のバイクに戻り、リンのバイクの横に停める。
「ここならだれの邪魔にもならないな」
ジニーはヘルメットとジャケットを脱いで、バイクに引っ掛けた。リンが道を渡ってやってきて、ヘルメットを脱ぐ。
「まさかの未舗装だったね」
「うん。さて、見に行こう」
二人は玄武洞へと歩いて行った。坂道を登ってゆくと、ゲートが出てきた。玄武洞公園の入り口だ。そこで入場料一人500円を支払い、中に入る。
「うおお!石の柱だ。六角形だ。しかもうねってる」
「すごいねこれ。ああ、ここが玄武岩の名前のルーツなんだ。なるほどねえ」
パンフレットを見ながらリンがうなずく。
「採石場跡だって。他にも並びで4か所あるみたいね」
二人は公園内を歩き回り、不思議な岩石を見て回った。
「見た見た。面白い岩だった」
「結構疲れた。汗まみれになったよ。ジニー降りてミュージアムに行こう」
二人は階段を降りてミュージアムに向かった。ただ、時間があまり無くて中に入るのは断念した。そのまま隣の売店に入り、お土産を物色する。数点購入してバイクに戻った。
「入るかな?」
ジニーがバッグの中を動かしてスペースを作り、お土産を収める。
「さて、リンさん次は宿だ」
「豊岡市に来たんだから、カバンストリートは見てみたい」
「カバンストリート?」
「うん。通過するだけで良いから。場所はナビ様のいう通りで」
「わかった。じゃあ、カバンストリート経由で行きます」
二人はバイクにまたがり、出発した。県道548号を南下してR178に出る。右折して円山川を渡り、市街に入ってゆく。あとはナビに導かれて右折左折を繰り返し、カバンストリートに辿り着いた。
「ここがそうね」
バイクで通過しながら左右の店を見る。2軒ほど営業していたが、人影はまばらだった。
「あんまり店開いてないし、人も居ないな」
「まあね。ここは観光客が押し寄せる所じゃないしね。鞄工房が集まっている通りだから」
「なるほど。通りも抜けたし、宿に行こう」
二人はナビの言う通りに走り、17時過ぎに宿に着いた。ジニーはバイクを降りて、フロントに向かった。そこで駐輪場の場所を聞いてくる。
「リンさん、駐輪場に行くよ。ここから100Ⅿくらい向こうだ」
路地を走り、駐車場にバイクを乗り入れる。
「リンさん、あの奥の屋根の下が、駐輪場だ」
「あそこね。立派な屋根だ」
二人は大屋根の下にバイクを止めた。荷物を外して肩に担ぎ、宿まで歩く。フロントでチェックインして、部屋に案内してもらう。
「お風呂すぐに入れますよ」
「入ります」
汗まみれで動いていた二人は、即答する。荷ほどきをしてから着替えて、階下の風呂場に行く。
「手作り感満載のお風呂だな」
汗を洗い流してから、湯船につかる。
「あつ~、気持ちいい~」
リンがはしゃぐ。
汗を流してすっきりした二人は、食堂に行き、夕食を頂く。
「うん。ビジネス旅館だ」
明らかに仕事で来ている4人組の人たちが、焼酎を飲みながら談笑している。夕ご飯も気取ったものではなく、食堂の定食のような気安さだ。ジニーはご飯を3杯お代わりして満腹になった。
「さてー今日は寝るぞ」
「明日の準備してからね」
二人は部屋に戻り、荷物の整理と明日の準備を済ませる。
「今日は疲れた。暑かったね」
「暑かった。明日も暑そうだ」
「おやすみ~」
1日中バイクに乗って、歩き回って疲れた二人は、あっという間に眠りについた。長かった1日目はこうして終った。
還暦夫婦のバイクライフ 59