荒れる川
荒れる川
ひとしきり降った雨の中、私は川に肩まで浸かる。 私は濁りか。今でも鮮明に覚えている。悪夢の連続。警報は子守唄。
相手も深く沈んだろう。顔さえも知らないが、声が流れる。──川底の住処。塩辛い雨が口に入る。川は荒れ、魚は逃げる。嵩が増していく中、まだ川に肩まで浸かる私は──。
相手は今、元気に笑っているだろうか。私を忘れたか。震えた指先。これが初めてではない。繰り返す行為に諦めを。
このまま生きるしかないのか。
川が心地よいくらいに冷たい。雨は雹へ、私の頭や体を強く打つ。相手の負った深さは、この程度ではないだろう。知らない。自分を罰しては、思い出す。
あの笑顔の、割れ方。相手はどのくらい苦しいのか、分からない。知りたくはない。私がいけないのか?吹く風が肌を抉り出す。散りばめる光と暗。息を漏らした。
私は悪くない。
雹が川に落ちては溶け、嵩が増し、落ちては溶け、増しゆく。増しては揺れて、響いた。
到頭、川の水が私の顎辺りまでやって来る。 そこまで来て急に私は怖くなった。差し迫る不吉に、
笑い声。ワライゴエ。わらいごえ。笑い声。
このまま水に飲まれれば私は流され沈み、誰かに埋葬される。人の目、皆の口。
私はまだここにいたい。しかし、私のせいだ。いや違う。
雨で暗い中、甲高く惹き込まれるような笑い声が聞こえた。 彼処が岸か?
音のする方へ無我夢中に泳いだ。たまに川底の何かが足にひっかかりもした。彼奴の手だ、震えている。足に纏わる藻類。それでも私はあの惹き込まれる声へと泳いだ。そうして辿り着いた先は、雨なのにも関わらず笑い合う男女。揺れる笑顔。向かぬ瞳。
壊してやりたい。此方においで。
なぜだろうか。私は声の方へ手を伸ばしかけて、それを止め、荒れた川へ身を任せた。ただ少し、自由にさせてくれ。仰向けになり、私の空を深く眺めた。降り落ちる雹が額、頬、瞼、鼻を打ち据えた。時に、それを食べてみながら、もう一度空を眺める。
何処までも黒く澄んだ空と雲。いつまでもこうしていたい心地よさ。ただ笑いが沈む。
在りし日の、深く、広がる草に反射した空。空気が澄んでいて、手に抜ける蒼が愛おしかった。手を挙げれば、赤く、じんわり火照らせた。どこかで誰かが呼んでいる。また、それは沈む。
たまらなく、ユカイだった。足に渦巻く藻が、背中を伝い、日を求めた。底は、思うよりそうではなかった。下に積まれた魚が沁みる。頭の先に、流れ込む荒れた川。毎に腕を岩に打ち据えられつつ。水面に欠けて、伸びて、溶けて描く弧。映ったのは口元の孤。私は正しかった?私が濁り。
そして、笑い声は永遠に遠のいていった。
荒れる川