奇人・変人・隣人(2:2)
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ゆてらじぷれぜんつVol.3「どらまちっくりーでぃんぐ」 書き下ろし作品
テーマ:変
※オフ劇用に書き下ろした作品のため、声劇でやりにくい部分があります。
・【ピンポーン】は、音響を付けない場合は指定した演者さんが声で言ってください
・同時に言う部分は声劇ではラグ等により難しいので、それぞれのタイミングで言ってください。
※ #ゆてらじどらまち にて感想いただけると喜びます。
『奇人・変人・隣人』
リョータ:最近、配信を始めたらしい 基本ツッコミ役 彼女に別れを切り出された
モエ:リョータの同棲中の彼女 自己肯定感が低く、感情をため込んで自己完結しちゃう性格
マチダ:右に引っ越してきた ノンデリで話が長い 姉御肌
ミクリヤ:左に引っ越してきた 陰キャでネガディブだが割と図々しい
◆本文
(マンションの一室、PCに向かって配信しているリョータ)
リョータ:(笑いながら雑談中)あ、餅チョコ3%さん、お帰りなさい!
え? 覚えてますよーもちろん。来てくれてありがとう(イケボで)愛してるよ。
(笑う)あ、アルパカ村のコンポタさん、スパチャありがと! ええっと……
「いつも配信楽しみにしています。
リョータさんの素敵なお声とトークにいつも元気をもらっています。
実は、彼氏が最近冷たい気がします。
私のLineには返信しないのに、他の子とゲームで遊んでいるみたいです。
もう私に冷めたんでしょうか?」
そうだなー彼氏から連絡がなくて寂しいときこそ、俺の枠に来ればいいんじゃないかな?
……「愛してるよ、コンポタ」(笑う)
おっと、ちょうどお時間ですね! みんな、今日も来てくれてありがとう!
次の配信も絶対来てね! それじゃ、おつリョーです!」
(配信を切る)
リョータ:ふぅ……
(モエ入ってくる)
モエ:リョータ君、ちょっといい?
リョータ:あ、モエちゃん。ねぇねぇ聞いて、今日、初見さんが10人も来て、(スパチャも5件もらってさ)
モエ:(さえぎって)別れよ。
リョータ:は?
モエ:だから別れよ。
リョータ:は?
モエ:じゅあ、そういうことだから。
リョータ:いやいやいや……あ、冗談?
モエ:ううん、本気。
リョータ:いやいや、冗談、だよね?
モエ:もう決めたの。
リョータ:なんで?
モエ:いっぱい考えたけど、それが一番いいと思って。
リョータ:え、ちょっとまって、なんで? 意味わかんないんだけど。
なんで急に? だって俺達うまくやってたじゃん! 同棲もいい感じだったし!
モエ:……いいの、リョータ君は悪くない。私の問題だから。
リョータ:なんでなんでなんで! まったくわからない! 話し合おう! ね?
モエ:……いいんだってば。
リョータ:いいから、理由を言って?
モエ:言いたくない……
リョータ:それはないじゃん! 言ってよ。
モエ:でも……
リョータ:急に別れたいとか言われてもさ、(全然納得できないし、ちゃんと話し合おう?)
マチダ:【ピンポーン】
モエ:誰か来た……
リョータ:今、それどころじゃないじゃん! 話し合おう?
モエ:きっとわかってもらえないから。
リョータ:それは話してみなきゃわからなくない?
マチダ:【ピンポーン】
リョータ:……だからなんで?
モエ:……それは。私の問題だし、もう終わったことだから……
リョータ:いや、勝手に終わらせないで?
モエ:でも……
マチダ:【ピンポーン】
リョータ:ごめん、ちょっと待って……
こんな時間に、誰だ? 宅急便?
(扉越しに)はーい、どちらさまですか?
マチダ:こんばんはー
リョータ:あ、はい、こんばんは
マチダ:隣に引っ越してきた者ですけどー
リョータ:はあ
マチダ:すみませんーちょっとご挨拶させていただきたくてーお時間は取らせませんからー
リョータ:はぁ……
(ドアを開ける)
マチダ:どうも初めましてー! 私、マチダと申します。
リョータ:ああどうも。
マチダ:すみませんねーこんな時間に。
いや、もっと早く来ようと思ったんですけど、引っ越しの荷物解いてたら遅くなっちゃって。
ああいう時って大掃除と同じで、古い雑誌とかついつい読み込んじゃうんですよね。
なんででしょうね?
古い服で一人ファッションショーなんて、始めちゃったりなんかして!
いや、早く荷物片づけなきゃとは思うんですよ? 思うんですけど!
そうそう、さっき開けた段ボールからは、小学生の時の寄せ書きとか出てきて、(読んでたら懐かしくなって……)
リョータ:(前の台詞の途中から)あーあの、すみません! ちょっと今忙しくて! すみませんねぇ!
マチダ:え、あ、そうなんですか? 引っ越し祝いの宴会とかも大丈夫です?
リョータ:引っ越し祝いの宴会? お隣さんの?
マチダ:あーこの辺ではそんな感じなんですね、すみません、気が付かなくて!
リョータ:いえいえ、こちらこそ、じゃあ……また……
マチダ:はーい、お隣同士どうか仲良くしてくださいねー、それではー
(ドアが閉まる)
リョータ:はぁ……
モエ:誰?
リョータ:隣の部屋、空き部屋だったじゃん? 引っ越してきたらしい。
モエ:引っ越しの挨拶? 珍しいね。
リョータ:だよね。はー、この部屋、両隣が空き家だったから、配信するとき音響くの気にしなくてよくて、いい感じだったのになぁ
モエ:……じゃ、私出ていくね。
リョータ:え?
モエ:残りの荷物は後で取りに来るから。
リョータ:いやいや、待ってよ!
モエ:あ、ニンテンドースイッチどうする? 半分ずつ出して買ったから……
リョータ:ちょ、具体的な話を進めないで?
俺、悪い所あるなら直すから! あ、家事の分担少なかった? 俺、朝食、作ろうか?
モエ:あ、コーヒーメーカーは結局使わなかったから、この機会にメルカリに出しとくね?
リョータ:わかった、弁当も作る!
モエ:えっと、洗濯機はけっこういいやつだから……
リョータ:聞いて!? もしかして、他に、好きな人ができた?
モエ:……そうじゃない。
リョータ:俺の事嫌いになった?
モエ:そうじゃない。
リョータ:じゃあなに?
モエ:わからない、よね?
リョータ:わからない!
モエ:じゃあやっぱりいい。
リョータ:なんで!
ミクリヤ:【ピンポーン】
リョータ:……ちょっと待ってて。
モエちゃん、とにかくステイ! いい!?
(ドアを開けて)
あの、まだなにか?
ミクリヤ:あ、すみません、あの、その……僕、隣に引っ越して来ました、ミクリヤと申します。
リョータ:はぁ……
ミクリヤ:はい、引っ越しのご挨拶をさせてもらいたいなって思って。
リョータ:はぁ……
ミクリヤ:あの、迷惑、でした?
リョータ:いや、今はちょっと……
ミクリヤ:そうですよね、僕みたいな田舎者が……ご迷惑ですよね……すみません。
リョータ:いや、そこまでは言ってないですけど……
ミクリヤ:いえ、いいんです、わかってるんです、
こんな時間に挨拶に来られても困りますよね。
僕って、いつもそうなんです、空気が読めないというか……
昔からコミュ障だし、友達とかもあんまりいなくて……
こんな自分を変えたいって気持ちはあるんです。
でも中学生の時、修学旅行で京都に行った時、
思い切って変わろうと思って、バスの中でおもいっきりはしゃいでみたら……
なんか、その場にいた人全員、しーんとしちゃって(それ以来、なんかトラウマで……)
リョータ:いやー、嬉しいなー! 挨拶に来てくれて! 俺、引っ越しの挨拶大好き!
ミクリヤ:え、ほんとですか?
リョータ:はい、もちろん!
あの、でもですね、今、ちょっと、その……取り込み中でして……あー残念だなぁ……
ミクリヤ:……?
リョータ:いや、お話したいのはやまやまなんですけど……
ミクリヤ:……?
リョータ:……残念だなぁ……
ミクリヤ:え、もしかして? 引っ越しのお祝いの宴会とかも始めない感じです?
リョータ:はい、始めないです。ただの隣人なんで。
ミクリヤ:す、すみません、僕の田舎、ちょっとでもいいことがあると……例えば、隣の人が千円拾っても宴会始める土地柄でして。
引っ越してきた人がいたりしたら、そりゃ隣近所、総出で、大宴会なもので……
リョータ:はい、すみません、この辺りではそういうことしないです。
ミクリヤ:そ、そうなんですね、知らなくて! ごめんなさい! ごめんなさい!
失礼します!
(ミクリヤ去る)
リョータ:あ、いえ……はぁ
(部屋に戻る)
モエ:今度は誰?
リョータ:それが今度は逆側のお隣さんが引っ越してきたらしくて……なんなんだ今日は。
モエ:そっか……なんか変な日だね。
リョータ:だね。
モエ:とにかく、やっぱり私、出ていくね。
リョータ:一番変なのはモエちゃんだからね!
待ってって。俺がわかってない理由ってなに?
モエ:……
リョータ:じゃあどうしたらチャンスくれる?
モエ:……
リョータ:本当にもう絶対無理な感じ?
モエ:……
リョータ:俺の事嫌い?
モエ:ううん。
リョータ:じゃあなんで? 俺は別れたくないよ?
モエ:ごめんね。
リョータ:ごめんじゃわかんないって。えっと、ちょっとまってね……
(土下座しようとする)
モエ:ちょっと、何するつもり?
リョータ:いや、土下座しようかなと思って。
モエ:や、やめてよ、リョータ君が悪いんじゃないってば! 多分、私の問題。
リョータ:だからその問題が何?
モエ:それは……(何かいいかける)
リョータ:なに、なに?
マチダ:【ピンポーン】
マチダ:すみませんー、マチダですー!
リョータ:(ドアを開けて)ちょっと待って?
……はぁ……なんですか? すみません、忙しいんですけど?
マチダ:すみませんー私ったら、引っ越しのご挨拶の品を渡すの忘れててー
これ! つまらないものですが!
(タッパーを渡す)
リョータ:え、ああ、どうも……なんですか、これ?
マチダ:『グリンピースを甘く煮たの』です!
リョータ:は?
マチダ:だから『グリンピースを甘く煮たの』です!
リョータ:……グリンピースの煮物、ってことですか?
マチダ:というより、グリンピースを甘く煮たのです。
甘辛く、ではなく、甘く、がミソです! 私の出身地の郷土料理なんです!
リョータ:ああ、そうなんですか……どうもご丁寧にありがとうございます!
マチダ:ぜひ食べてみてください!
リョータ:わかりました、すみません、忙しいので! それじゃあ!
(強引にドアを閉める)
リョータ:はぁ……「つまらないものですが」って本当につまらないもの持ってくることあるんだ。
モエ:どうしたの?
リョータ:いや、なんか引っ越しの挨拶の品だって。
モエ:引っ越しソバ?
リョータ:うん、ソバのがよかったなぁ……
そんなことより、モエちゃん……さっき何を言いかけたの?
モエ:いや、別に大したことじゃ。
リョータ:大したことだよ! 教えてくれなきゃ、本当に土下座するよ!?
モエ:なにそれどんな説得の仕方なのよ。
リョータ:それでもダメなら……
モエ:ダメなら?
リョータ:今、この場で! 床に寝っ転がって、手足バタバタさせるよ!
「やだやだ、別れたくない!」って、成人男性が! まあまあきついよ? いいの?
モエ:だから、引き留め方がおかしいのよ!
リョータ:それが嫌なら、話せ! 話せったら話せ!
モエ:……言ってもわかってもらえないと思うんだけど(言いかける)
リョータ:なになに?
ミクリヤ:【ピンポーン】
リョータ:(玄関に走ってドアを開ける)はぁ……もう、いい加減にしてください!
ミクリヤ:す、すみません! 引っ越しの挨拶の品を渡すの忘れてて……
リョータ:今度はこっちか……
ミクリヤ:え?
リョータ:いえなんでもないです。
ミクリヤ:はい、どうぞ! つまらないものですが。
リョータ:え、これって。
ミクリヤ:グリンピースを甘く煮たのです。
リョータ:郷土料理ですか?
ミクリヤ:あ、よくご存じで! 僕の故郷では、法事とか結婚式とかで必ず出るんですよ! グリンピースを甘く煮たの。
リョータ:甘辛くではなく、甘く、がミソなんですよね?
ミクリヤ:え、よくご存じですね。
リョータ:ええ、なんとなく……じゃあそういうことで……ありがとうございました、それでは……!
(強引にドアを閉める)
リョータ:はぁはぁ……なんなんだ今日は
モエ:じゃあ、私、出ていくね?
リョータ:だから、行かせないよ!?
モエ:でも
リョータ:じゃあ、こうしよう! 間を取って、お試し別れ。あるいはプチ別れ。
モエ:はぁ?
リョータ:とりあえず、ちょっとだけ別れる、みたいな。
いつも一緒に寝てるけど、今日は俺、リビングで寝る。お風呂も一緒に入らない。
モエ:いつも一緒に入ってないじゃん。
リョータ:正確には、一緒に入りたいって俺が駄々をこねる、モエちゃんがダメって言う、俺がすごすごと引き下がる、あのくだりを省略する。
モエ:最初からいらないよ? 待って、それ別れてないじゃん。
リョータ:バレたか……ねぇどうやったら別れないでくれる?
モエ:だから、それは……
リョータ:ちょっと待って、なんか嫌な予感がする……
マチダ:【ピンポーン】
リョータ:やっぱり! 今度はなんだ?
マチダ:すみませーん!
リョータ:なんですか!?
マチダ:言い忘れたんですけど、さっきのグリンピースを甘く煮たのの入れ物は、うちのドアの前に置いておいてくれたらいいですからー
リョータ:……ああ、そうですか。
マチダ:ちなみに食べました?
リョータ:いえまだ。そんなにおいしいんですか?
マチダ:いいえ、どちらかと言うと、まずいです。
リョータ:え?
マチダ:郷土料理っておいしいイメージあるでしょ?
グリンピースを甘く煮たものに関しては、ぜんっぜん、おいしくないんです!
びっくりしません? なのになぜか法事や結婚式で必ず出るんですよ!
不思議ですよねー?
私もね、子供の頃はよくわからずに、そんなものだと思って食べてたんですけど、
大人になるとなんでこんなもの食べてるんだろうって……
リョータ:(前の台詞を遮って)いや、あの、なんで引っ越しの挨拶に、まずいものをわざわざ持ってくるんですか?
マチダ:逆にアリかなって
リョータ:は?
マチダ:いやだって、おいしいものを持ってきたら、あまりにもひねりがないというか、普通すぎて面白くないかなって。
リョータ:引っ越しの挨拶に面白さ必要ですか?
マチダ:共感して欲しいんですよ、あの中途半端なまずさを!
リョータ:うーん、ちょっと何言ってるかわからないですね。
とにかくわかりました! 容器はそのようにしますんで!
(ミクリヤ登場)
ミクリヤ:すみませんーさっきの入れ物なんですけど……って、え?
マチダ:え?
(マチダとミクリヤ顔を見合わせる)
ミクリヤ:まっちん?
マチダ:みっくん?
リョータ:あの……
マチダ:え、本当にみっくん? 何してるの、こんなところで!
ミクリヤ:え、いや、あの引っ越して来て……まっちんはなんでここに?
マチダ:え、みっくんも、ここに引っ越してきたの、えー偶然! 私もここに引っ越してきたの! 方角が良かったから!
ミクリヤ:あーわかる、方角で考えたら、ここしかなかったよね! ちょっと築年数は古いけど!
マチダ:そうそう駅からちょっと遠いけどね! 方角的にここしかないよね!
リョータ:もしもーし?
マチダ:あ、おばさん元気?
ミクリヤ:うん、最近よさこい始めた
マチダ:えーそうなんだーどこのチーム
ミクリヤ:えっと苺一画(いちごいちえ)チーム。ほらあの、果物の苺って書くやつ
マチダ:えーすごいじゃん。じゃ、けっこう本格的にやってるんだー
ミクリヤ:そうそう、昔からやりたかったみたいで、週一でよさこい仲間呼んでうちで宴会するもんだから、オヤジもさ……
(リョータ、静かにドアを閉める)
リョータ:はぁ、なんか疲れた。
モエ:どうしたの?
リョータ:それが、左右のお隣さん同士が知り合いだったみたいで……なんか盛り上がちゃって。
モエ:え、そんな偶然ある?
リョータ:ね、なんか騒がしくなりそう。
モエ:じゃあ私……
リョータ:行かせないってば。
モエ:でも、もう終電無くなるし。
リョータ:モエちゃんの家はここじゃん。
モエ:……でも、出ていくって決めたから
リョータ:ダメ
モエ:どいて?
リョータ:やだ、ここは通さない。
モエ:子供みたいなこと言わないでよ。
リョータ:子供でいいもん! 行かせたくないんだもん!
モエ:リョータ君……どいて(強引に通ろうとする)
リョータ:やだやだ、別れたくないヤダ!
マチダ:【ピンポーン】
リョータ:ほんとにいい加減にしてくれませんかね!
(喧嘩しているマチダとミクリヤ)
マチダ:ちょっと聞いてくださいよ!みっくんってばありえないと思いません?
ミクリヤ:ちょ、ちょっと、他の人まきこむのは違うじゃん?まっちんって昔からそういうとこ、あったよね!
マチダ:みっくんこそ!あの時は、私がどんだけ泣いたと思ってるの?
リョータ:あ、あの……ちょっと声が大きいです……
マチダ:(リョータに)もー、ちょっと聞いてくださいよ!
リョータ:いやいや、だからね?
マチダ:私、学生時代に、みっくんに告白しようと思って、聞いたんです『好きな人いるの?』って、そしたらなんて言ったと思います。
リョータ:さ、さあ……?
マチダ:「えーいるようないないようなー?今は恋愛とかいいかなって感じ」って!
それはもう脈ないと思うじゃないですか!思いますよね?
リョータ:うん、まあ、そうかなるかなぁ……?
マチダ:せっかく再会したから、あの時、なんで私振られの?って聞いたら。実は私の事好きだった、って言うんですよ!ありえなくないですか?
ミクリヤ:いや、だってそれは!まっちんが僕のこと好きとかありえないと思ってたし!傷つきたくなかったというか!斜に構えたい年ごろだったんだよ!そういう時ありますよね!?
リョータ:えぇ?まぁ…そうだねぇ…。
マチダ:はぁ!?なにそれ、ありえない!
モエ :(いつの間にか来ている)ありえない……
リョータ:あれ、モエちゃん?
モエ :ありえない!
リョータ:えぇ!?
マチダ:でしょ?ありえないよね!?高校生の私がさ、頬を染めて「好きな、人いるの?」って、勇気を振り絞って告白5秒前の空気出してたってのに!
ミクリヤ:だってまっちん結構モテてたし、陰キャの僕が勘違いしたらいけないと思って!つい、予防線張ったというか……
リョータ:あぁ…まぁそれはなんとなくわかるかなぁ…
マチダ:はぁ?
モエ :はぁ?
リョータ:え、いやっ!?
ミクリヤ:まっちんも、僕の事が好きなら、もっと強引に来てくれればよかったのに…
リョータ:待て待て!
マチダ:ふざけんな!
モエ :ふざけんな!
ミクリヤ:だいたい、僕がまっちんを好きとか、見てればわかるじゃないか…
リョータ:ちょ、おま…それは…
マチダ:わかんないわよ!
モエ :わかんないわよ!
リョータ:ですよねー!
マチダ:気持ちなんて言ってくれなきゃわからない!
モエ :そうよ!言ってくれなきゃわかんない!昨日好きだって言ってくれても今日もそうって限らないし!
リョータ:ん?
マチダ:好きな人のことはいつも不安なんだから!
モエ :私以外には簡単に愛してる、なんて言うくせに!なんで私には言ってくれないの?
マチダ:恋愛に興味ない、なんて言われたら、私に興味ないんだ、って思うじゃない!
モエ :いつもいつも忙しい!ってデートもしてくれないし!配信する時間はあっても、私との時間はないってこと?
マチダ:最低!
モエ :最低!
ミクリヤ:ごめんなさい!
リョータ:ごめんなさい!
(全員 荒い息)
(間)
リョータ:あの、モエちゃんと少し話したいので、部屋に戻っていいですか?
マチダ:あ……すみません、巻き込んで。
ミクリヤ:すみません。
マチダ:ごめんなさい、つい熱くなっちゃって
モエ:私も、すみませんでした……
リョータ:モエちゃん(家に入るように促す)
モエ:うん、それじゃ……
(リョータとモエ、家の中へ)
リョータ:もしかして、俺が配信やってることが、嫌だった?
モエ:……
リョータ:俺の配信応援してくれてたよね?
モエ:応援してたよ、でもさ
リョータ:でも?
モエ:週1だったのがどんどん増えてここのところほぼ毎日だよね?
帰ってくるなりパソコンばっかり見て。楽しそうで。
私、必要あるのかなって。
リョータ:いや、違うって! リスナーに愛してるとか言うのもただのファンサだし、
配信頻度高いのは、イベントが続いてたからで……
モエ:わかってる! わかってるけど!
応援するって言っといて、勝手に不安になってる私が悪いの!
だから、いいの。ごめん、私やっぱり実家に帰るね。
リョータ:……送るよ。
モエ:ダメ……一人にして。
(モエ、去る)
(リョータ立ち尽くす)
(ミクリヤ、入ってくる)
ミクリヤ:こんばんはー、あれ、空いてる……失礼しますー
リョータ:え、ミクリヤさん、でしたっけ? あの、勝手に入らないでもらえます?
ミクリヤ:あー大丈夫です、なんのお構いもいりませんから。
リョータ:だから……
ミクリヤ:えっと、どこに座ればいいですか?
リョータ:(ため息)もういいです、好きにしてください。(PCの前に座る)
ミクリヤ:何してるんですか?
リョータ:コメント返しです。リアタイできなかったリスナーがアーカイブにコメントくれるんで。
ミクリヤ:いわゆるブイチューバーですか?
リョータ:まぁ、だいたいそんなとこです。
ミクリヤ:へぇ、楽しいですか?
リョータ:ええ、まあ……俺のトークでみんなが楽しんでくれて、毎日リスナーが増えて……(ため息)でも、そのせいで、モエちゃんに出て行かれちゃいました。
ミクリヤ:そうですか、よかったですね。
リョータ:(振り返って)は?
ミクリヤ:いいじゃないですか。恋人なんていない方が。
リョータ:何言ってるんですか?
ミクリヤ:僕なんてずっといないですけど、気楽でいいですよ。
女なんて、めんどくさいだけです、察してちゃんで、メンヘラで、自己中で。
男の気持ちなんて全然わかってくれない。
リョータ:……
ミクリヤ:彼女さん、出て行っちゃったんでしょ? これからは好きな事できますよ?
リョータ:……よく、ないです。(パソコンから立ち上がる)
ミクリヤ:ん?
リョータ:はあ、無意識にパソコンの前に座っちゃうくらい、配信が日常になっちゃってたんだんな、俺。
ミクリヤ:へぇー?
リョータ:同じことをモエちゃんがしてたらきっと俺もイヤだったのに。
毎日会えるからって、今度ここに行こうねって約束ばかりで先延ばしにして……
いつの間にかちゃんと言わなくなってた、好きだって。
ミクリヤ:そうなんですね。
リョータ:俺、やっぱり行ってきます!
ミクリヤ:どこへ?
リョータ:モエちゃん追っかけます、間に合わないかもしれないけど、でも……
マチダ:【ピンポーン】
リョータ:あーもー、ちょっと、今それどころじゃ
ミクリヤ:開いてますよー
(モエとマチダ入ってくる)
リョータ:え?
マチダ:お邪魔しまーす! そこで、モエさんに会って。
話聞いてたら、やっぱり彼氏さんと話したいってさ。
モエ:……リョータ君、その……
リョータ:うん……あの、二人とも、ありがとうございます。
ミクリヤ:(リョータに近づいて)あの、さっきのことですけど……
リョータ:(内緒話)分かってます。わざと悪く言ってくれたんですよね?
言いませんよ、マチダさんには。
ミクリヤ:まぁ、本音も多少含まれてはいるんですけど、でも……
リョータ:でも?
ミクリヤ:本当は、僕もめっちゃ彼女欲しいです。
リョータ:じゃあ、今度こそ、素直にならないといけないんじゃないんですか?
お互いに。
ミクリヤ:そうですね……
マチダ:(ミクリヤの首根っこを捕まえて)ちょっとー! 何こそこそ話してるの!
二人の邪魔になるから行くよ、みっくん!
ミクリヤ:うぐぐぐ、首、首しまる、まっちん……
マチダ:はいはい、いいから行くよ。
ミクリヤ:ど、どこに? できれば、まっちんの部屋がいいな。
マチダ:は? ぼてくりこかされたいと!?
※方言、イントネーションは意識しなくてよい
ミクリヤ:うぐぐ……
マチダ:じゃ、失礼しましたー
(マチダとミクリヤいなくなる)
リョータ:……
モエ:……
リョータ:あのさ、モエちゃん……
モエ:なに?
リョータ:……ちょっと、食べて欲しいものがあるんだけど。
モエ:なに?
リョータ:では……『ビリーの三秒クッキングー!』!
(軽快な音楽)
モエ:え、何々?
(アメリカの通販番組のノリで)
リョータ:やあ、ジェニファー! 今日もとってもおいしい料理を、紹介していくよ!
モエ:(おもわず乗る)ちょっとビリー、いつもそんな事言ってー、先週のチェリーパイを忘れたの?
リョータ:ははは、ジェニファー、君は頭を打って、先週の記憶、をなくすべきだね!
モエ:いやだわ、ビリー! 頭を打ったら……痛いのよ!?
リョータ:おっと、それは盲点だった。
けど! 今週こそ、大丈夫さ!
今日の料理は『グリンピースを甘く煮たの』だよ!
モエ:いやだ、聞いたことない料理ね。ビリー、本当に大丈夫?
リョータ:もちろんさ! 泥船に乗ったつもりでまかせてくれ!
材料は、多分、グリンピースに、しょうゆ、みりん、酒、あと、砂糖と砂糖と砂糖。
モエ:ちょっとビリー、砂糖が多すぎない? お客さんの中にサトウキビ農家の人がいたら卒倒してるわ!
リョータ:心配ないさ、ジェニファー、それじゃ作っていくよ。
3,2,1 はい、完成!
モエ:ちょっとビリー、それはあらかじめ料理したものを持ってきただけじゃない!
リョータ:ははは、バレたかい?
そうさ、これはナイスな隣人からのイケてる差し入れさ!
さ、試食してみてくれ!
モエ:しかたないわねぇ……じゃあ、いただくわ…(食べる)……ん?
リョータ:僕もいただいてみるよ? どれどれ……ん?
(ほぼ同時に素に戻って)
モエ:グリンピースが甘い意味がわからない。
リョータ:グリンピースが甘いことが理解できない。
モエ:そう……それ!
リョータ:うん、食べられないことはないけど……
モエ:そう、食べられないことはない。ないけど、普通に茹でてマヨネーズかドレッシングでもかけた方がおいしくない?
リョータ:あるいはピースご飯にするとか!
モエ:そうそう!
リョータ:だよね!
(二人顔を見合わせる)
リョータ:(吹き出す)
モエ:(つられて吹き出す)ねぇ、なんでこれやらせたの? 久しぶりすぎてびっくりした。
リョータ:ほんとに久しぶりだよね、ビリーとジェニファー。
でも、モエちゃん完璧について来てくれたよね?
モエ:だって、それは……つい……
リョータ:えっとね、何が言いたいかというと……たとえ不味いものをもらっても、モエちゃんが居ればこうやって笑い飛ばせるなって。
モエ:あー……
リョータ:なのに、俺、本当にモエちゃんに甘えてた。
ホント、このグリンピースくらい甘い。
モエ:なにそれ、うまくないし。
リョータ:だからさ、俺、変わるから。
モエ:え?
リョータ:配信もやめる。
モエ:え!?
リョータ:うん、別にいい。
モエ:ダメだよ! あんなに楽しんでたのに!
リョータ:いいんだ。
モエ:やだ、やめないで、そうじゃないの、私が悪いの。
リョータ君が大事にしているものを、大事にしてあげたのに、できないの。
気持ちがついていかなくて。
本当はね、リョータ君が配信している間ずっとイライラしてたし、不安になってたの。
でも、重いって思われたくなくて……応援してるって言い続けてた。
いや、応援してたのは本当なんだけど、その……なんていうか……
あのね、ずっと言えなかったけど、その、私、本当は……ものすごく、めんどくさいの!
リョータ:え?
モエ:ごめん、引いたよね……
リョータ:え? 知ってる、けど?
モエ:え?
リョータ:うん、知ってる。モエちゃんってけっこうめんどくさいよね?
モエ:え?
リョータ:今回のこともそうじゃん、早く言ってくれればいいのに。
モエ:あー……
リョータ:あ、それとさ、この際だから言うけど。
モエ:うん
リョータ:俺、実は……ものすごく甘えん坊なんだ。
モエ:え?
リョータ:でも、モエちゃんにはしっかりした頼れる男だと思わたくて、無理してた……かも
モエ:知ってる、けど……
リョータ:え?
モエ:知ってる。
リョータ:出てた?
モエ:うん出てた。ときどきふざけて「ボクチン寂しいでちゅ」とか言う時、めっちゃ目キラキラさせてたけど……え、無意識?
リョータ:無意識
モエ:(笑う)私は、いいよ、別に。大丈夫。
リョータ:いいの?
モエ:うん。
リョータ:甘えん坊でもいい?
モエ:めんどくさい女でもいい?
(二人、自然に笑う)
リョータ:配信のことは、止めるか頻度を減らすか、改めて話し合おう。
モエ:うん、そうだね
リョータ:もう、別れるとか言わない?
モエ:うん、不安になったときは、ちゃんとメンヘラします。
リョータ:よかったぁ、モエちゃん、あのさ……
モエ:うん
リョータ:その、好きです。
モエ:うん……私も
リョータ:愛してる、って言うのは、もうちょっと待って。
リスナーには言えても、本当に愛してる人には言いにくいです。
モエ:それ実質、言っちゃってるけど。
リョータ:うるせぇやい
モエ:ありがとう……
リョータ:……こっち、来て?
モエ:うん……
(二人抱き合おうとする)
マチダ:【ピンポーン】
リョータ:いませーん
モエ:いませーん
【完】
奇人・変人・隣人(2:2)