あなたに届かないとしても

握りしめた手紙
胸がドキドキする
さぁ、一世一代の告白よ
心を落ち着けて

あ、きた
何か言わなきゃ


「こんにちは」


……言っちゃった

今さら何言ってんだろう
緊張してるんだわ

さぁ、渡して

受け取ってもらえた!

え、ここで開けるの?
待って、恥ずかしいじゃん
そんな大層なこと、書いてないんだけど

ただ、一首だけ

わたしの大好きな歌を

つい最近の授業で習ったもの
覚えてるはず

わたしが、自分の気持ちを知った歌

わたしの大好きな――


「え、これ恋の和歌?」


彼が顔を上げた


「へえ、こういうの好きなんだ
 なんか古風だね
 憧れてんの?こういうのに」

……え?


「あ、ごめん俺、
 君をそういうふうには考えたことなくて
 ほかにもいい人いると思うし」


彼は困ったように笑って

「じゃあ、ごめんね」

そう言って、彼は行ってしまった

……え

なんで

なんで、そんなふうに言うの

わたし、この歌が大好きなのに

この歌を読んで、初めてわかったのに

わたしがあなたを見つけるたび、嬉しくなっていたことも

あなたと話せた日は、帰り道まで幸せだったことも

あなたがほかの誰かと笑っていると、どうしてか胸が苦しくなったことも

全部

全部、この歌が教えてくれたのに

あなたは、知らないんだね

この歌が、わたしにとってどんなに大切だったのか

……知らなくて、当たり前か



動けなかった

しばらく

側から見れば、滑稽な姿
ぼうっと立ち尽くして、
涙があふれて

違うの
断られて悔しいってわけじゃないの

……ううん
悔しいわよ、そりゃあ

でも、それだけじゃないの

なんで、わたしの大好きな歌を、
そんなふうに言うのよ

わたしはこの歌が大好きなのに
この歌が、わたしの背中を押してくれたのに

…なんて

あなたにとっては、ただの和歌だものね

そんなこと、知らなくて当たり前よね

いいもの
わたしにはもっといい人がいるんだから

きっと現れるわ
絶対に

ただの強がりだけど
そう思わないと、やってらんないわ

けど、次はこの歌は使えないな

だって、これは一応、初恋の歌だものね



夕日を眺めて、
思いっきり泣いた

泣いて、泣いて、
もう涙が出なくなるまで泣いた

……よし

すっきりした!

さぁ、帰ろう

明日になれば、きっと大丈夫
明後日には、もっと大丈夫

そのうち、今日のことだって笑い話になるわ

夕日に背を向けて、歩き出す

この恋は、あなたには届かなかった

でも

わたしがこの歌を好きになったことは、
なかったことにはできないもの


初恋よ、さようなら

あなたに届かないとしても

あなたに届かないとしても

きみにより 思ひならひぬ 世の中の 人はこれをや 恋といふらむ

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-10-17

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