坂伴wdtm「ここにある体温」
鋭い陽射しが降り注ぐ海辺。光の欠片をまぶした水面が揺れ、水平線は丸く、遠い。眩しさに目を細めて、これ以上取りこぼしてしまうものがないようにと、俺は二度の瞬きののち目の前を歩く伴に視線を戻す。
海水に濡れた伴の足が光っている。一番眩しい存在が、手を伸ばせば届く距離にいる。ここには永遠がある。なにもかもがある。
「あれ、なんですかね」
伴が突然立ち止まり、海の方に視線をやる。
「どれのことだ?」
「あれです」
そう言いながらずんずん進んでいき、ぷかぷか浮かびながら水底を指差した。
「よく見えんな……、見に行ってみるか」
弾みをつけ、底の方を目指して潜った。すぐさま件が並んだかと思えば、颯爽と追い抜いていく。
伴が泳ぐさまは、自由で、空を飛んでいた時のように型破りで、いつまでも見ていられる。水かきのように美しく揃えられた足。しなやかに水をかき分ける腕、まっすぐ目標だけを見定めているだろう目。
裸だったら良かった。隅々まで、見てやりたかった。
「なにしてんスか」
先に底に着いた伴がこちらを見上げ、怪訝そうに声を上げた。
「すまんすまん」
すぐさま後を追い、水底に足をつける。
伴ばかり見ていて気づかなかったが、眼前に広がるのは色とりどりの珊瑚礁だった。
伴が、青い珊瑚に顔を近づけ、ためらいなく噛みつく。
「お、おい!毒でもあったらどうするつもりだ」
「俺らもう死んでるじゃないスか」
ふっと笑みを溢し、冊瑚を撫でながら伴が放った言葉が胸を刺す。
海のもくずになってからもうどれくらい経つだろう。今こうして伴と過ごしている時間は、死ぬ間際に見ている長い長い走馬灯なのではないか。
すべて幻で、いつか消えてしまったことにも気づかずに生まれ変わりなどしてしまったら。
ここには永遠がある。有限かどうか確かめる術のない、あやふやな永遠が。
生まれ変わりを繰り返し、出会い続け、別れ続ける永遠もあるだろう。伴はそれを望んではいないが。
青、赤、紫、薄桃色、緑、はちまきに縫いつけられた端切れに似たえんじ色の珊瑚。ひとつひとつ撫でていく指先。心なしか伴の目がきらきら輝いて、眩しい。
いつかその光に目を焼かれて目を細めた一瞬のうちに、伴が消えてしまうのではないか。
どんな表情もどんな仕草も、どんな反応も見逃したくない。それと同時に、目を逸らすことへの恐怖が強くなっていく。
「……綺麗スね」
もっと貴様に見せたい景色がある。どこまで歩いても続く海岸線から抜け出して、見せてやりたい色がある。
それを望むことが、伴の望みと異なることはわかっている。
思考の渦に取り込まれ沈みかけていた意識を、突然やって来た魚の群れが連れ戻した。群れが勢いよく伴と俺の間を泳ぎ去っていく。
「伴!」
群れに隠され見えなくなった伴がどこかへ連れ去られてしまいそうな恐怖に支配され、群れに突っ込み伴に掴み掛かる。
「っぶは、な、なんスか突然!」
「……はは、貴様を抱きたくなっただけだ」
大人しく抱かれたままの伴に頬ずりする。繰り返し繰り返し、伴がここにいることを確かめる。
「……っ、あんた、こんなところでまでおったてて、本当にヘンタイっスね」
「伴」
腕を取り、海底へ伴を押しつける。
水の中でもぬくい体温を確かめるように触れながら、すこしでも長くつながっていられるようにしなくては、すこしでも長く、ここにいることを確かめ合えるようにしなくてはと、そんなことばかり考える。
縋るように抱くと、伴はそれを悟ってか背中を叩いた。許されているような、そんな錯覚を強くじ込みながら、何度も何度も舌を絡めた。
坂伴wdtm「ここにある体温」