映画『DIGGER』レビュー
メタ構造の描写を逆手に取った傑作。私たち観客はそこに映っているものが劇中劇であることが分かると、舞台を中心としたストーリーの把握に誘導され、劇場の外にある「現実」をすっかり忘れてしまう。舞台で起きていることをどう魅せるかというストレートプレイに関する議論=SNSのデマや誤情報が狙う扇動あるいは政治家たちが駆使するレトリックの効果という図式にも気付かない。ゆえに、本作が仕掛ける演出上のカウンターパンチをモロに喰らってしまい、あっという間に脳みそがぐらんぐらんに。博士が言ってたとおり、何をどう語ろうと事実はなるようになるだけなのに、神の視点に立ったつもりで諸々のシーンをふんぞり返って鑑賞する自分の姿を俯瞰した時の恥ずかしさったらないですよ。全身、洗っても落ちないアイロニー塗れになって、異臭を放つセルフイメージに耐え切れなくなって、ついには快感の領域にまでイっちゃうほど。もうね、とんでもない。
ディガー役のトム・クルーズの演技も凄まじいです。聴衆を前にして経済の真実を語り、強欲な未来に向けて人生をフルベット。その結果、己が口にした物語に負けて、飲んで食べなきゃ死んでしまう摂理に組み伏せられて、ついには神に祈りを捧げた。どこまでも滑稽で、哀れで、憎まれて当然のどうしようもないクソ野郎なのに、それなのに、と口にしたくなる特大の褒め言葉が私の頭の中で巣食ってるのは全部トムのせいです。露悪的ともいえるほどの熱弁で、議場を罵詈雑言が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図に書き換える豪胆さ。その全部を耳にして、見ないようにしていた〇ツの汚さを暴露される羞恥にわなわな震える理性と解き放たれる心。今なら胸を張って言えますもん。彼の横に並び立ち、腰でも何でも振って、滅んでも止まりそうにない欲望のア〇コを撫でながら偽善者として綺麗事を口にするヘタクソな演技を私はこの先、一生、嗤いながら続けられるって。甥っ子の「彼」にもむちゃくちゃ惹かれます。親族の一人として人類の敵という業を背負わされてもなお、ステージの幕を上げようとするその心情は全くもって計り知れない。ディガーが作り上げた権力構造も未だその手の内にあるようだし、「彼」がそこにいるだけでストーリーに果てしない奥行きが生まれる。極上の舞台装置。素晴らしいです。喝采。
悲劇がひとときの喜劇に変わり、さらなる悲劇となって襲ってきても、そこから何も学ばないのが私たち人間だというのなら、『DIGGER』はこれから何度も何度も上映されるでしょう。それを観に行く度に座席に沈めた身を悶えさせる、そんな自分であり続けたいものです。アカデミー賞最有力と評されるのも納得の出来。興味がある方は是非。お勧めの一作です。
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