A

の例え』
 コメディ  作者:大盛り
――― とあるカフェ。
テーブルにはコーヒーとケーキ。
AとB、向かい合って座っている。

A
このカフェいい感じだねー!

B
いいよね!インスタで見つけたんだ!

A
コーヒーも美味しいしね。

B
ほんと美味しい。
なんか本格派って感じだよね。

A
そう。ちゃんと深みがある。

B
そうそう!

A
あれくらい深みある。

B
ほう、どれくらい?

A
寿司屋の大将の哲学くらい深みある。

B
どんな例えだよ。

A
夫婦二人で切り盛りしてる店の、三代目の大将の哲学くらい深みある。

B
誰なんだよ、その人は。

A
ケーキも美味しいよね。

B
わかる!めっちゃ美味しい!

A
最近、「ケーキは甘すぎない方がいい」みたいな風潮ふうちょうあるじゃん。

B
あるよねー!でもここのはしっかり甘くて美味しい!

A
甘いよね。大将の経営に対する考えくらい甘い。

B
だから誰なんだよ、その人は。

A
こだわりを優先するあまり、集客を疎おろそかにしてる、大将の経営に対する考えくらい甘い。

B
昔気質むかしかたぎなんだろうね、じゃないのよ。

A
あと、ケーキのスポンジめっちゃフワフワだね。

B
わかる!フワフワでめっちゃ美味しいよね!

A
大将の「今後、店をどうするか」くらいフワフワしてる。

B
だからそれ誰!?大将、誰なの!?

A
近くに回転寿司のチェーンができたのに、フワフワしてる。

B
それはちょっと考えた方がいいよ!大将!

A
そのことで不和ふわも生まれてる。
女将さんとの間に。
大将の頭が硬いから。

B
フワフワなのか硬いのかどっちだよ!?

A
でも、ちょっと残念とこあったよね。

B
え?なに?大将が?

A
いや、この店だよ。

B
あ、この店か!

A
ちょっと接客の態度悪いよね。

B
あー、まぁちょっとクールな店員さんだったかなー。

A
ちょっとそこ残念だったなー。
回転寿司に客が取られて、大将が酒浸さけびたりになったくらい残念だった。

B
大将、大丈夫!?

A
酒飲んで女将さんに辛く当たるようになって。

B
大将、それはダメだよ。
辛いかもしれないけど、それはダメだよ。

A
女将さんも大将に隠れて泣いて。

B
そりゃダメだよ。
辛すぎるよ。

A
あと、この店BGMの選曲変だよね!

B
あ、ああ!この店ね!?
ちょっと独特だよね!
ジャンルがわからないというか!

A
独特ってか、変。うん、変だね、変。

B
え、それってさ……どれくらい変?

A
最近の女将さんの様子くらい。

B
おお……。

A
今までそんなことなかったのに、家を空ける日が増えてきてさ。
でも大将はお構いなしで、酒に溺おぼれる日々。

B
それヤバいよ。
外に男でもできたんじゃない?

A
この店、観葉植物めっちゃあるよね。

B
うん!あるねぇ!

A
でもあそこちょっと枯れてない?

B
枯れてるね!うん!枯れてる!

A
このまま枯れていくだけの人生が嫌だったんだって。

B
女将さん!?

A
そう。女の潤いを思い出したって。

B
あー!やっぱ男だー!
外に男できちゃったー!

A
でも女将さんがそう言ってるの、ほんとは、大将が悪いって攻めきれないからなんだよね。

B
くぅー……!熟年夫婦のそういうのくるなー……!

A
でも大将それがわかってめっちゃ後悔してさ。
反省して、改心して、ちゃんと酒やめたの。

B
え!?えらい!えらいよ!
それができない人もいるからね!
ほんとえらいよ!

A
この店、インテリアもいいよね。

B
うん!そうだね!いいよねぇ!

A
ねー!

B
うん!

A
店長さんの趣味かな?
居心地いいよね!

B
居心地いい!?
え?「居心地いい」か!?
こっから居心地いい展開になるのか!?

A
ずっといられるわー。

B
え、それどれくらい居心地いい?

A
え?

B
いや、どれくらい居心地いい?

A
えー?いや、そう言われたら、まぁ普通に?って感じかな?

B
普通にってどれくらい?

A
まぁリラックスできるなーくらい?

B
うん、だからそれどれくらい?

A
まぁ結構?

B
結構ってどれくらい?

A
えー?そう言われてもなー?
いや、自宅ほどではないかなーって感じー?

B
大将わい!

A
え?

B
大将の話わい!

A
え?何?

B
こっちは大将の話が気になって気になってしょうがないの!
反省して酒やめた大将、どうなったの!?

A
え、いや……。

B
教えてよ!どうなったの!?

A
例えが……。

B
何!?

A
例えがないと……。

B
何で!?

A
いや、そのままじゃ話しづらいというか……。

B
ええ!?
えー!じゃあ……
あ!この店の照明!雰囲気いいよね!

A
ああ!そうだね!雰囲気いい!

B
そうだよね!?どれくらい!?

A
でもちょっと暗いかも。

B
え!?暗い!?

A
うん、暗い。

B
いや、雰囲気いいよね!?

A
いや、暗い。

B
嫌なんだけど!絶対この先暗い話じゃん!
暗い感じは嫌なんだけど!?
雰囲気いいよね!?ね!?

A
いや、暗い。

B
あー!もうー!くそー!
どれくらい暗いの!?

A
病室での大将くらい。

B
病室!?大将入院したの!?

A
酒がたたって。

B
大将っ!!!

A
脳梗塞のうこうそくで倒れちゃって。
一命は取り留めたんだけど、後遺症で、手がね。

B
え?麻痺とかってこと?

A
もう寿司が握れなくてね。

B
大将……!
寿司の哲学がある、あの大将が寿司握れないなんて……!!

A
だから病室でも暗い。

B
何とかしてあげたい!大将っ!! 大将ぉっ!!!
……あっ!いや!じゃないよ!!!

A
え?

B
これずっと何の話!?
何の話をしてるの!?

A
いや、まぁだから寿司屋継つごうかなって思って……。

B
えっ?

A
いや、だからまぁお父さんがそうなったから、寿司屋継ついで四代目になろうかなって。

B
え?ん?理解が追いつかないぞ?

A
あ、確かに、客足は遠のいたけど、既存きぞんの寿司屋にはない(試みもしていこうと……)

B
(被せて)いやいやいや、待って待って!

A
はい?

B
え?今の自分の家の話?

A
あ、うん、そう。

B
えー……っと?
マジか!?

A
うん、マジです。

B
え、あ、うん!
……あー!?だから直接的に話せなくて、独特の例えで話してたってこと!?

A
まぁちょっとでもマイルドにと思って……。

B
えぇ……。
いや、あのね、ちょっとね、本当に辛すぎます。

A
そんな話を聞いてくれてありがとう。

B
え、ちょっと聞きたいんだけど、お母さんは?

A
お母さんはもう男とは別れたよ。
ちゃんと謝ってくれて、お父さんの看病してる。

B
そうか……よかった……。
いや、よくないよ!?

A
いや、いいでしょ。

B
そうだよね!?いいよね!?
いいに決まってるよね!?
よかったー!

A
まぁそういうことだから、お店継ついだら食べに来てよ。

B
いや、まぁもちろん行くけど……。

A
ありがとう。

B
ていうか、今度お父さんのお見舞みまいも行かせて。

A
え?いいけど、何で?

B
もう他人事ひとごととは思えなくなったからだよ。

――― 了

A

A

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-10-14

Copyrighted
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