子猫
学校帰りに出会った子猫
タケシくんはある日の学校帰りに
道端でにゃあにゃあ泣いている
茶色の子猫と目が合ってしまいました。
しばらく一緒に遊んだら
子猫がどこまでもついて来ようとするので
かわいくてサヨナラできません。
どうしても飼いたくて仕方なくなり
ママにおこられるのを承知で
こわごわ連れて帰りました。
「母猫が探してるかもしれないから
戻してらっしゃい」と
ママから言われましたが
子猫があんまり可愛いので
そんな気になれません。
「お手伝いもちゃんとするし
宿題もきちんとやるし
子猫のお世話は全部自分でするから
おねがい!」と、一生懸命たのんで
やっと飼ってもらえることになりました。
タケシくんは子猫に
『チビ』と名前をつけました。
ある日学校から帰って
玄関のドアを開けると
チビがぴゅうっと外に飛び出しました。
タケシくんが追いかけると
すぐに向うから何かをくわえて帰ってきます。
見るとそれはネズミの死骸でした。
チビは何度も出入りして
あっという間に玄関のあがりぐちに
ネズミやトカゲやバッタやゴキブリまで
ずらっと並べました。
まだゴソゴソ動いているゴキブリを
前足でタンタン叩いて潰してしまうと
なんだか得意顔です。
それから手足を舐めては顔を撫で
ひとしきり体のお掃除を済ませたら
タケシくんの目の前で
お行儀よくちょこんと座りなおしました。
「あーあー、ダメだよ、チビ
こんなことしちゃママに叱られちゃうよ!」
タケシくんは
このことをママが知ったら
もうチビを飼えなくなるに違いないから
とにかく内緒にしておこうと決めました。
ママが買い物から帰ってくる前に
なんとかしなければならないと思い
ハラハラしながら大急ぎで
ネズミやゴキブリの死骸を片付けました。
そんなことが来る日も来る日も続いたので
さすがのタケシくんも
イヤになってしまいました。
エサやお水の用意
トイレ砂の手入れなど
頑張ってお世話しながら
チビと遊んで楽しくすごせた日々でしたが
もう我慢の限界です。
ある日の帰宅後
タケシくんは決心してチビを抱き上げました。
そしておうちを後に
あの日、チビを拾ったあたりまで
トボトボと歩いて行きました。
「ねえチビ、もうイタズラはこりごりだ。
おりこうさんになってくれないと
うちにいちゃいけないよ。
さよなら。ごめんね。」
そう言うと、タケシくんは
チビを道端におろしました。
チビはしばらくタケシくんの足元で
すりすりしていましたが
時折あたりをキョロキョロしています。
その時、道向うから声がしました。
「すず、帰っておいで。」
聞こえたが早いか、チビは
声のする方へ小走りにすっ飛んで行きました。
声の主は優しそうなおばあさん。
飛びついた子猫を抱き上げると
おばあさんはにっこり。
「すずがお世話になったのね。」
と言いました。
タケシくんがペコリとおじぎをすると
おばあさんは
「ありがとう、お茶でもいかが?」と
玄関先へ招き入れ
お庭に通してくれました。
お茶とお菓子が運ばれて
タケシくんは遠慮なくいただきました。
「なかなか外に出してやれなくて
出してやったら途端に帰って来なくて。
クルマに轢かれでもしなかったかって
心配してたのよ。
あなたが拾ってくれてよかったわ。
本当にありがとうね。」
勝手に連れて帰ってしまったことを
ちょっとだけ
気がかりに思っていたタケシくんだったので
おばあさんにそう言われると
なんだかホッとしました。
「おうちでイタズラしなかった?」
そう聞かれて、ちょっとドキッとしました。
言おうか言うまいかちょっと迷いましたが
思い切って『あのこと』を言いました。
するとおばあさんは
笑顔のまま申し訳なさそうに
タケシくんに言いました。
「あらまあ、ネズミやらゴキブリやら
お片づけが大変だったのね
ごめんなさいね。
でもこの子はイタズラのつもりじゃないのよ。
タケシくんにお世話になってるから
お礼になにかお仕事したくて
得意なことをしてみせたかったのね。
そしたらほめてもらえると思って
タケシくんのお役に立てたら嬉しいなって
そんな気持ちだったかも。
迷惑だったでしょうけど
悪気はないのでわかってあげてね。」
タケシくんが
チビ、いいえ、『すず』の方を見ると
「ふたりでなんのお話?」とでも言いたげに
キョトンとしています。
おばあさんは続けます。
「ひとと動物がいっしょに暮らすのは
とっても難しいわね。
でも、猫や犬も
人間に可愛がってもらえることで
人間を癒してくれたり
助けてくれたりしているから
人間も猫や犬のことをわかってあげて
なかよく暮らさなくちゃね。」
子猫を撫でてやりながら
おばあさんはそう言いました。
タケシくんは、また遊びに来る約束をして
おばあさんと子猫の家をあとにしました。
おうちに帰ると
夕ご飯の支度をしているママの横に立ち
タケシくんは立て続けに喋り続けました。
何日間か我慢して内緒にしていた
『チビのイタズラ』のこと。
その後の始末が大変だったこと。
とうとう我慢できなくなって
チビを捨てに行ったこと。
おばあさんに出会ったこと。
お茶とお菓子をご馳走になったこと。
チビがすずという飼い猫だったこと。
イタズラが本当はイタズラじゃなくて
猫の得意なお仕事なのだと
おばあさんが教えてくれたこと。
そんなことをすっかり全部
ママに話してしまえたことで
とてもすっきりした気分になりました。
その晩、タケシくんは
そばに子猫のいないことを
少し寂しく感じましたが
『これから先、嫌がらずに
猫のお世話をすることができるようになったら
また飼いたい。』
と思っていました。
そして、それがきっと
そんなに遠い先ではないとも思えるのでした。
了
子猫