If You Forget you, Call My Name.
◆別に読まなくてもいい簡単な説明◆
🩶…回復魔法や治癒魔法を得意とする、心優しい魔女。”宵花の詠─カリタス”という二つ名を持つ。
ある時近くの村に魔法で作った薬を届けた際に傷付いたJesterを見付け、拾い育てた。
その後、王都の人間達からあらぬ疑いを掛けられて致命傷の深手を負わされことでJesterは激昂する。
それが切っ掛けで王都の人口の2割を残して他を全て殺される事件が起きた。
現在は遠く離れた異国の地で彼と2人で暮らしている。
魔女としてはかなり歳若く、幼体だった頃のJesterでさえ彼女より歳上だった。
大掛かりな魔法を使う際は歌を歌って精霊や妖精の力を借りる。二つ名の由縁はここから来ている。
Jesterのことは家族として大切にしているが、契約を結んでも尚、番に定められていることは知らない。
👿🔶…Silviaに拾われて育てられた、非常に長命かつ高い知能を持つ、独立した魔法生物種の雄。
Silviaの身の回りの世話を引き受けている。
普段は変身魔法でヒトの姿を取っているが、本来の姿は5mを越える光の加減で紫や青紫に見える鱗に覆われた人型の上半身に長く艶やかな百足の下半身を併せ持ち、6本の腕と8つの目、4本の角を備える。
口の構造が特殊であり、普段は横にのみ開くが大きく開く際は縦にも開き、内部に百足の顎肢がある。
顎肢には、固有魔法より更に強力な幻覚作用のある体液を分泌する腺が存在する。
Silviaとは五感、感情、魔力、記憶、感覚、時間、生命すら一つにする強力な契約を結んでおり、彼女を主人且つ家族であると同時に、自身の番としてただならぬ想いを寄せつつ傍に仕える。
師…名前、年齢、性別、容姿。その全てが”外見はあくまでも相手に識別させる為の記号でしかない”という考えの元、ひどく曖昧な(※自認は女)推定数千歳の魔女。”真珠の目─アレーテイア”という二つ名を持つ。
大概の事は全て経験し尽くしている。
人の世と妖精や精霊の世の境目を常に渡り行き、一所に留まらない生き方をする人物である為常に出会うことは出来ず、Silviaと会うタイミングが取れそうな時のみ彼女に宛てて珍しい薬草や鉱石を土産代わりの鳥の姿に変えた伝書鳩の様な魔法で知らせる。
幼少期のSilviaを拾って育てた人物なので、彼女からは”母様”と呼び慕われており、彼女もまたSilviaを”愛娘”と呼んで可愛がっている。少しオヤジっぽいことを言う。
螺鈿の様な光の加減で色が変わる、眼球全体に魔法陣の浮かび上がった特殊な千里眼を持ち、一目見た相手の過去と未来、人となりを全て見抜く。二つ名の由縁はここから来ている。
Jesterを一目見た瞬間にSilviaに拾われて治療を受け、成長し、王都をほぼ壊滅状態まで追い込んだ末に彼女を回復させる為に自身の魔力器官に呑み込んだ経緯を全て見通し、”賢いが若さ故に少々短気で且つ大胆な美しく強い雄”と判断しており、合わせてSilviaを番と定めていることも見抜いている。
尚、番として定めている点については”自分を蔑ろにして大切なものを優先する点は同じだが、愛娘よりはその判断の間口が狭く優し過ぎるあの子の代わりに怒り理性的に周囲を見る点は評価に値する。尤も、そう簡単に愛娘をこの美しい獣に与える気は無い。”と考えている
I
近頃、妙な噂を耳にする。”魔物が頻繁に暴れている”と。
その噂に、Jesterは勿論Silviaも訝しんだ。
魔物は魔獣よりも知能が高く、基本人前に出ることを嫌う存在だ。
稀に群れから離れてしまったり、人間に興味を持つ魔物も居るが、それはかなり少なく限られた場合のみである。
そんな事を考える2人が、家の温室で薬草の手入れをしている時。
見知らぬ男が尋ねて来た。
長身の外套のフードを目深く被った男だった。
「─失礼、この辺りで探し物をしているのですが。」
彼は内心怪しく思いつつ、その男に視線を向ける。
しかし、そこで立ち止まり、Silviaを振り返った。
──何か、おかしい。
彼女の感情が契約を通して流れる。
こういう状況で真っ先に相手の元に向かいそうなSilviaが、その場で警戒している。
彼が男に敬意を払わない理由など、それだけで十分だった。
「……何を探している。」
硬い声でJesterは問う。
「いやなに、人を探していましてね。何でも、魔物を使い魔に連れている、お人好しの回復魔法や治癒魔法に明るい魔女だとか。」
「─貴女、ですよね?」
彼の背後を覗き込み、Silviaに声を掛ける。
「─魔術師が、一体何の用でしょう。」
彼女が問う。
魔術師。
Silviaが男を警戒していた理由。
魔女や魔法使いと違い、彼等が持ち合わせる”目に見えないものと関わる力”を用いて、精霊や妖精に敬意を払って借り受けて使うものを、奪う形で自分達の使いやすいものに変える技術を持つ者達。
その在り方の違いから、古来より魔法使いと魔術師は長く対立し合っている。
「気安く話し掛けるな。」
「成る程……では、貴方がその従者の魔物…という訳ですか。」
今度はJesterを覗き込む。
表情が全く読めないフードの奥から、にたりと笑う口元だけが覗く。
「ほぉ!──の若い成体ですか…!これは珍しい。──は特に警戒心が強く、人前に出るどころか人の傍にすら居ることを拒む種だというのに。」
Jesterは眉間に皺を寄せる。
「……何だ、その陳腐な名は。」
「おや、ご存知でないと?我々の間での、貴方の種族の呼び名です。」
男は得意げに話し出す。
「全く、魔法使いは魔物の名前すら知らないとは…何とも嘆かわしい。─貴女方も、魔物の隅々まで調べて、記録を取るべきだ。」
「実に素晴らしいですよ。この魔物の中に宿る、膨大な魔力。ご覧になったことはおありでしょうか?心の臓と同じく、何からも干渉されず、何からも護られた魔力器官…あれは一見の価値がある。」
勿論、彼女はそれを知っている。
他でもない、自分自身がJesterによって其処に匿われていたことがあるのだから。
だからこそ、魔術師の言葉にSilviaは青ざめる。
「……もしかして…」
「ええ、何頭か尊い犠牲となって頂きました。」
口元の笑みを深め、男は声高らかに続ける。
「だからこそ、私は涙を禁じ得ない!──ともあろう種の魔物が魔女の元に隷属し、従う事を良しとしているとは…──の名が廃るというもの!貴方は誰にも縛られず、その力と知能を遺憾無く使ってこそ輝く!私ならば貴方の縛めを解いて差し上げられる…さぁ、如何かな?」
「五月蝿い。私は私の意思で、主人に従っている。貴様如きに、私の生き方をとやかく言われる筋合いは無い。」
「成る程、交渉決裂ですか。では、致し方無い。実力行使といきましょう。」
言うが早いか、男はSilviaに狙いを定める。
Jesterは咄嗟にSilviaを庇う。
パチン、と男が指を鳴らす。毒々しい色合いの粘着質な液体の入った泡の様な玉が弾け、彼の右目の辺りにべっとりと付着する。
Jesterは小さく呻く。
「Jester!?」
「問題ありません。この程度─」
彼の言葉のその先は続かなかった。
液体が付着した右目から、凄まじい激痛と焼かれる様な熱さが襲う。
ガクンと体勢が崩れ、その場に膝を付き、鋭い爪が地を抉る。
呼吸が浅く、意識が魔物側へ急激に塗り潰される。
「何と…!これはこれは、中々どうして根性がおありだ。この薬を使われた魔物はものの数秒で理性を失って暴れ出すと言うのに!」
「貴方、何をしたの!?」
Jesterの傍にしゃがみ込み、様子を伺うSilviaが叫ぶ。
「言ったではありませんか、”縛めを解いて差し上げられる”と。」
「まさか──」
その時、Jesterの変身魔法が薬に耐え切れずに解けた。
地を揺るがす咆哮が響き、見上げる程の巨体に、八つの目が燃えるように光っている。
「何とも見事なものですね…!名残惜しいですが、私にはまだまだやる事がある。では!」
男は無責任に消えた。
Silviaは改めてJesterに視線を向ける。
彼の薄く開いた口の奥から、顎肢を噛み合わせる音が漏れ聞こえる。
──自分で、どうにかしないと。
Silviaは覚悟を決めた。
ドレスの裾に手を掛け、なんの躊躇もなく一気に太腿辺りまで裂く。
「─しょうがないな…おいで、Jester。久し振りに、一緒に遊ぼっか。」
らしくもない挑発の言葉を投げ掛け、彼女は目の前の巨大な魔物と相対した。
Ⅱ
先に動いたのは、Silviaだった。
簡単な転移魔法と透過魔法を組み合わせ、動きを読みにくくする。
魔物の姿の大きさとは反対に、素早い動きで仕掛けて来るJesterの攻撃の初動を契約から読み取って紙一重で避ける。
戦う必要はない。
ただ、”単純な攻撃では仕留められない”と気付いてくれればいい。
”魔法を使った方がいい”と気付いてくれればいい。
普段の彼女を知る者であれば、まず驚く程に軽やかで何処か踊っている様にすら見える身のこなしだった。
鋭い爪が振り下ろされる。
転移魔法で躱す。
鋭利な返しのついた曳航肢が空を裂く。
幻影魔法で標的を狂わせる。
Jesterが次第に苛立ち始めているのが、契約越しに伝わる。
──こんな小さな獲物が、何故仕留められない。
──私を侮辱しているのか。
──腹立たしい。
「……」
少しだけ、彼女は罪悪感を覚えた。
─早く、終わらせないと。
そして、彼の視界の端。閃光が迸る。
Silviaの閃光魔法だった。
─お願い、Jester。勘違いして。
─”攻撃された”と思って。
閃光で僅かに眩む視界に鬱陶しそうに軽く頭を振るJesterの目が、紫に発光する。
──これは、逃げるだけのものではない。
──こちらに、一矢報いる術がある。
──ならば、その気概を折るべきだ。
明らかに動きが変わった。
攻撃を仕掛ける動きではなく、自らの固有魔法である幻覚魔法を掛ける為に生け捕りにする動きに。
Silviaは、わざとドレスの裾が引っ掛かりそうな茂みに足を踏み入れる。
案の定ドレスの裾が木の枝に引っ掛かる。
これ幸いとばかりに、Jesterが動きを封じに掛かる。
茂みを掻き分け、引っ掛かったドレスごと片脚を掴み、ゆっくりと顔を近付ける。
妖しく輝く紫の目が一際強く光った、その瞬間。
Silviaの紺色の瞳が全く同じ色に輝き、その目の奥に魔法陣が浮かび上がった。
その刹那、Jesterが苦しげな咆哮を上げてその場に崩れ落ちた。
轟音が、土煙が、辺りを埋め尽くす。
これこそ、Silviaが狙っていた瞬間だった。
彼女は攻撃魔法が使えない。
それは、厳密に言うと”攻撃魔法として、自身の魔力を放出出来る程の容量が無い”というものであり、逆に言うなら彼女は攻撃魔法でなければ大概の魔法を使うのに素質がある。
なので、師は彼女に何かあった際の奥の手として、ある魔法を覚えさせた。
それが、反転魔法─カウンターだった。
攻撃、呪い、幻覚、或いはSilvia自身が負わされた傷さえ。
相手から受けたものを、全く同じものとして相手に弾き返す。
大抵のものは返せる程強力なそれを、師は彼女に本当に使わなければならない時にだけ使うように言い含めた。
そして、Silviaは初めてそれを行使したのである。
振動と土煙が収まり、彼女は恐る恐るJesterの顔の辺りに歩み寄る。
八つの目を固く閉ざし、時折魘されて唸る。六本の腕の幾つかが、地面に深々と爪痕を残す。
少なくとも、反転魔法は成功した。
Silviaは安心感と罪悪感で、その場にへたり込んだ。
「─うむ、中々に見事だ。」
聞き馴染みのある口振りに、彼女は顔を上げる。
螺鈿の目の男。─Silviaの師だった。
「─母様。」
「お前が反転魔法を使う未来が視えたのでな。教えた身として、上手く使えているかを確認しに来た。」
「……だったら、Jesterが暴れてる時から来てくれても良かったのに…」
へたり込んだまま、Silviaは不満を述べる。
「それでは意味が無い。お前が”自分で何とかする”と決めて行わねば、ただの練習の一環でしかない。」
改めて反転魔法を受けたJesterを見ながら、師は口を開く。
「しかしまぁ…何とも哀れな獣だ。魔術師の妙な薬と、お前の反転魔法でかなり記憶に混乱が生じている。」
「大丈夫なの…?」
不安そうなSilviaに、師は笑って答える。
「大事無い。この程度ならば魔力の波長を合わせて精神世界に入ってしまえば、後はどうとでも治せる。特に、お前はこの私が育て上げた”治すこと”に長けた魔女だ。自信を持て。」
「……分かった。」
師は手を差し伸べる。
「さぁ、落ち着いたら始めるとしよう。苦しみは早く終わるに超したことはないからな?」
Ⅲ
暗く深い、何処までも果ての無いJesterの精神世界。
彼はその暗闇の中を魔物の姿のまま彷徨っていた。
自身の固有魔法である幻覚魔法の力ということは理解出来る。理解している筈なのに、それを解く術が分からない。
しかし、問題はそれではなかった。
見付からない。
見付けられない。
ずっと、何かを探している。
それが何かを、思い出せずに。
何だっただろう。
大切なものの筈。
何だっただろう。
もう随分と、長らく傍にあったものの筈。
何だっただろう。
私だけのものの筈。
思い出せない、それにだけ霧が掛かった様に。
思い出せない、それだけが初めから存在していなかった様に。
存在していたのが、幻だったと思う程に。
いや、そんな筈は無い。
確かに、それがあった事を、彼は覚えている。
では、それは一体何だ?
分からない。思い出せない。
たった一つ、覚えているとすれば──青。
そう、青。
清らかで、澄み渡っていて、儚くて、簡単に壊せそうに見えて、壊れずに受け入れる。
そんな、”青”。
だから、彼は探した。
その”青”を。
しかし、それは見付からない。
似たようなものは見付かる。
だが、触れた瞬間に崩れる。零れる。
彼の手から。彼の腕から。
─この感覚を、私は知っている。
─この感覚を、私は恐れている。
─早く、早く早く早く早く早く早く早く。
─早く、見付けなければ。
─あの”青”を。
─この手に、この腕に、取り戻さなければ。
苛立ちと不安と恐怖が彼の思考を鈍らせる。塗りつぶす。
深い紫の瞳が震えていた。
─何処だ。
─何処に有る。
─何処に居る。
─私の、私だけの、”青”。
とうとう、彼はその場に項垂れ立ち止まった。
呼吸が浅く、八つの目の焦点は狂い、六本の腕の爪が地を深く深く抉る。
分からない。
もう、何も。
ただ、帰りたい。
何処かは分からない。
だが、帰りたい。
──Jester。
水面に広がる波紋の様な声。
──思い出して。
厳しい冬の寒さを和らげる春の風の様な声。
──帰っておいで。
固く絡まった糸が解ける様な声。
──私は此処だよ。
彼は顔を上げる。
─誰だ。
─何故か、とても懐かしい。
─この声を、私は知っている気がする。
記憶の糸をもう一度彼は辿る。
この懐かしい声を、記憶の中に必死に探し求めた。
そして、彼は思い出した。
自分が、何を探していたのか。
何処へ帰りたかったのか。
─そうだ、私は、あのヒトを探していた。
私の主人。
私の魔女様。
私の家族。
私の番。
「─私の、Silvia。」
なんということだ、こんな大切なことを、私は忘れていたなんて。
──Jester。
それは、私が貴女から賜った、私だけの名。
──思い出して。
ご安心を。全て、思い出しました。
──帰っておいで。
言われずとも、貴女の元へと帰りましょう。
──私は此処だよ。
何処に居ようと、貴女を見付け出しましょう。
暗い精神世界から、意識が引き上げられる。
地に伏したJesterの八つの目が像を結んだ視界の先、真っ先に映ったのは拍子抜けする程柔らかな木漏れ日だった。
木々が穏やかに揺れ、時折淡く青い光が漂う。
少し離れた場所から聞こえた足音と共に、見覚えのある螺鈿の目が覗き込む。
「─おや、ようやっとお目覚めか。」
『……目覚めて1番に見るのが貴女の顔とは、何とも腹立たしい限りです。』
「ははっ、相変わらずの憎まれ口は健在か。まぁそれが出る程回復したと考えれば、上々だろう。」
師は顔を上げ、声を張る。
「愛娘!お前の獣が目覚めたぞ。私が相手では気に入らん様だ、相手をしてやれ。ここまで治れば、後は己の回復速度でどうにか─」
それ以上、師の言葉は続かなかった。
それを遮ってSilviaがJesterに飛び付いたからだった。
声も上げずに啜り泣く彼女に、彼は一瞬言葉を詰まらせた。
『─この状況に至るまでの、説明を。』
師に視線を向け、促す。
「うむ、奇っ怪な魔術師が尋ねて来てな。お前を解放するだの何だのと宣い妙な薬を使ってお前の理性を失わせたので、愛娘がお前に固有魔法を使うように仕向けさせ、それを全て弾き返した…と言ったところだ。」
まるでこの場に居たかの様な口振りだった。
Jesterは自身の記憶を辿ってみたが、混濁が酷く殆ど思い出せない。
ただ、何かを追い続けていた覚えはあった。
彼は何気無く、己にしがみついて泣くSilviaに視線を向ける。ドレスの裾が大きく裂け、白い太腿が晒されていた。
「あぁ、それはお前がやったものではないぞ?愛娘がお前に固有魔法を使わせるにあたり、自分でやった事だ。」
─私は、このヒトにここまでさせたのか。
Jesterは何とも言い難い気持ちになった。
『随分と、手間を掛けさせた様ですね。』
「全くだ。お前が私の可愛い愛娘を引き裂くのではないかと、肝が冷えたぞ。」
『白々しい。そうならない未来程度、貴女には視えているでしょう。』
師は笑う。
「中々言うな、美しい獣。ではそろそろ、私はこの場を離れるとしよう。お前も私が居ては愛娘を構いにくかろう。」
『…その呼び名は、辞める様言っているでしょう。』
Jesterの言葉に答えず、師は去って行った。
『─Silvia様。』
六本の腕のうちの彼女に最も近いものが、そっと触れる。
その触れ方は、少し前の獲物を殺す動きとも捕える動きとも全く異なり、彼女を傷付けない様に細心の注意を払う触れ方だった。
Silviaは顔を上げる。
『私は随分と、貴女に無茶な真似をさせた様ですね。…あろうことか、貴女に手を上げるとは。』
「私がどうにかしないといけなかったから、あれが正解だったと思う。だから、大丈夫だよ。」
首を振り、彼女は答える。
『……そういう話をしているのではありません。』
『貴女に手を上げた私自身にも、それを無茶な真似をして相手取った貴女にも不満だと言っているのです。』
「…ごめんね?」
Silviaは眉を下げて言う。
『全く…謝ってくれなどと一言も言っていないと、何度言えば理解するのです。』
Jesterは不服そうな声で続ける。
『あの魔術師の薬の効果は貴女の魔法でかなり薄まっています。だが、まだ本調子とは程遠い。…なので、それまで私の相手をなさい。』
「別にいいけど…」
彼女は首を傾げ、改めてJesterの傍に座り直す。
そんなSilviaの淡い灰色の髪を器用に弄びながら、彼は今度は穏やかに紫の八つの目を閉じたのだった。
If You Forget you, Call My Name.