1999-04『それじゃ、また。』byあでゅー


  晩春だというのに、はらはらと降り出した雪
  これが極寒の地、別海のありふれた風景……

 私は、道端に生い茂るフキノトウを刈って丁寧に籠に詰め込んでいた。時折、青大将が目の前に現れて、私を凍り付かせることがある。
「これも獲ったら美味そうだな」
 などと強がりを言えるようになれるのは、フキノトウをおかずにして家族で食事を摂るだんになってからだ。私は、そんな北海道の僻地には極ありふれた家庭に育った。
 日頃、私は隣家の同い年の男の子と遊んでいた。近くの谷地へとても食欲をそそる香りのするアイヌ葱を取りに行く時も、天ぷらにする山女(やまめ)を釣りに行く時も、いつも彼と一緒なのだ。そう、彼は私の最初の遊び友達で何をするにも一緒の最高の相棒だった。
 ある日、私は母に起こされて、彼の父親が死んだことを知らされた。私が母に付いて彼の家に行くと、彼は泣いていた。必死に涙を堪えようとして、しかし抑え切れない彼の涙と嗚咽は私達にも伝わった。
 そして間もなくして、彼の家は引っ越していった。働き手を失った酪農家は、町に住むことでしか生きてはいけない。慣れない町の仕事と、働き場の少ない田舎町で、彼の家は一層貧しい生活を強いられたと話に聞いた。

 それから十年の後、私と彼は偶然出会った。お互いに大人びた、しかしあの頃の面影をしっかり残しているお互いを見て、私達は照れくさそうに笑った。そして少しの間私達は一緒に道を歩いたが、言葉は中々出なかった。その沈黙が彼が苦労を味わって来た年月の長さを表しているように感じた。
 彼が待ち合わせの時間だと言って私をある場所へ連れて行った。そこに待つ人は、ひとりの男の子と優しそうな女性……。いつの間にか、彼は家族を持ったのだ。私は彼の子供をまじまじと見た。その子は、十年前私と一緒に遊んでいたころの彼そのものだった。
 彼と私は互いに照れ笑いをしながら、「それじゃ、また」と言って別れた。

 ありふれた生活の中にも、少しずつ時の流れを感じずにはいられない。こうして、私もやがて父親になり、そして年老いて土に戻って行くのだろう。しかし、それが残酷だとは思わない。彼を見てそう思えるようになった。

  それじゃ、また
  いつか会う日まで……

1999-04『それじゃ、また。』byあでゅー

1999-04『それじゃ、また。』byあでゅー

1995から1999年のニフティサーブ時代の小作品です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-09-25

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