1999-02『雅の人形』byあでゅー
京都での自由時間、私たちはお土産屋の通りに入り込んだ。見るもの何もかもが情緒的な、なにか古(いにしえ)の風習や風格が感じられるような、そんな感覚になっていたと思う。なにせ、北海道の田舎から出てきた人間だから、歴史とか風習や雅と言う言葉に弱い。
そんな風に、お土産屋の雰囲気を楽しんでいると、一軒の人形屋が目に入った。そして、その中の一体の人形に、私は吸い寄せられていった。
雪のような白い肌、優しく見つめる瞳、鮮やかな真紅の唇。
傘を包むほっそりとした指、振り袖をまとった柔らかい物腰。
この世のものではない。
美しい、美しすぎる!
私は震え、いても立ってもいられずに、売り子を呼んで叫んだ。
「これを下さい!」
それも、箱にしまってある同じ人形ではなくて、
「あの展示している人形が欲しい!」
と言って、頼み込んだ。
そう、人形の顔は一体一体肉筆なので、微妙に表情が違うのだ。
私はどんな旅行でもそうだが、自分にさえ箸一本として買ってくることはなかった。それは、私が貧しい家庭だったため、実生活に必要のない物を極力買わないようにしていたからだった。その私が買った初めての自分へのお土産、それが彼女だった。
私は、そのお気に入りの彼女の入った箱を、衣類で包み込んでカバンに入れ、修学旅行の道中ずっと大切に抱きかかえて過ごした。
修学旅行から帰り下宿に着いた私は、真っ先にあの人形の箱を開けた。
しかし、……首が折れていた。あの美しい人形が、この世に一体しかないあの雅やかな人形が、……死んでいた。
私は力なく立ち尽くし、涙をポタポタと畳の上に落とした。そう、私は惚れていたのだ、あの人形に。それは二度目の恋だった。
二十年近くたった今も、あの人形の遺体は、実家の押し入れに大切に置かれてある。生きていれば、今も私を虜(とりこ)にしていたかもしれない、あの雅の人形。供養すべきか、それとも継(つ)ぎをして添い遂げ(そいとげ)ようか……。
1999-02『雅の人形』byあでゅー