映画『さとこはいつも』レビュー
4Kリマスター上映を控える『南極料理人』でその名を世間に知らしめた沖田修一監督のオリジナル作品。10代、30代、50代の「さとこ」があることをきっかけに自分の半生を物語として綴り出す、ただそれだけのシンプルなストーリーでとんでもないビッグハグをかましてくる至上の一作。とっても良かったです。
人が夢中で何かをしている姿ほど人を惹きつけるものはないと思いますが、ドキュメンタリー映画ならともかく、それを芝居でやるとなるとハードルが格段に上がる。加えて、夢中になる対象が自分の半生を物語として「書く」あるいは「読む」行為となると動きで見せられる余地がほとんどないから、夢中になっている時の、あの周りの情報が一切入ってこない密度の高い時間のリアリティを映像としてどう表現するのか。素人の頭じゃ全く想像がつかなくて、正直、期待と不安が入り混じる状態で本編を見始めたのですが、1人目の「さとこ」を演じられた姫野花春さんがいい意味で私の胸ぐらを掴んでくれました。本作が初出演作品だったからか、姫野さんの演技は演技なんだけど演技じゃない野生味が随所に現れていて、それが文章を書く楽しさに目覚めた「さとこ」の抑えきれない衝動にぴったりマッチする。どのカットにも確かな熱量があるんです。それに観客として中てられると2人目、3人目と続く「さとこ」たちの夢中にも自然とのめり込むことができました。自分で書いたものを本人たちがナレーション読みする演出も絶妙で、物語る自分の半生に生身の演技で受ける2人芝居のような応答が彼女たちの夢中を目に見える形にする。「書く」ことで生まれる様々な音も、彼女たちの思考の痕跡として劇中を盛り上げていました。
そんな「さとこ」たちが実は「さとこ」として…と思わざるを得ない描写もストーリーとして非常に活きています。その要となるべき国語の先生を吉田羊さんが演じられていたのは私得でしかないキャスティングでした。仏頂面で感情を表に出さないくせに、煙草を吸う仕草ひとつで感じているものを雄弁に語るミステリアスは序盤の見所です。本邦切ってのコメディエンヌである有村架純さんの、ヤバい事態がヤバいことになり過ぎない絶妙な配分を『時効警察』さながらの受けの演技で昇華するオダギリジョーさん。あるいは『あすなろ白書』以来の共演となった石田ひかりさんと筒井道隆さんが醸す中年夫婦の独特な距離感など、実力ある共演者同士で作り上げるドラマもむちゃくちゃ面白かったです。映画としてのそういう旨みを、けれど「さとこ」は小説には書かない。彼女たちが生きる日常との間に認められるその塩梅が物語の淵源のように思えて、わたしだったら、あなただったら、きみだったらと響き渡る声にひたすら感動を覚えました。
物語ることを物語る『さとこはいつも』は不思議なほど滋味に富む。噛めば噛むほど楽しめる。一生付き合える映画に出会えて私は幸せです。名作として語られること必至の良作をここに勧めします。多くの方に観て欲しいです。
映画『さとこはいつも』レビュー