人類は滅亡と会議で決まったらしい 3
人類は滅亡だって?
「仁山さん、今、地球上で人類は一体何人いますか?」
「え、そうですね・・・ざっと80億人くらいかな」
「多いと思いませんか?」
「そうかな、言われてみれば・・・・あ!もしかして、人類も恐竜のように絶滅するのですか?」
「宇宙連邦環境管理部で決定されました」
「え~~~~・・・・」
人類滅亡が決定された?ふざけるな!
「なぜそのようなことができるのですか?なぜ人類が滅亡しなければならないのですか!」
私はかっとなって、王に(正確には王の端末に)言葉を投げつけた。
「人類が地球に回復不能なダメージを与えることが分かったからです」
「ええ?人類より地球が大事だと?」
「当たり前です。なぜそのような当然なことを聞くのですか?」
「当然って、私も人類だからです」
「そうですね。では人類とは何かを説明します」
そう言って王(の端末)は、椅子に座った。
「人類はもともと地球固有の生物です。最初は他の生物と一緒で、多種多様な生物の一種に過ぎませんでした。そのままであればここまで進化することもありませんでしたし、類人猿の一種のままでしたでしょう。しかし、今より数百万年前、あなたたちにとって異星人のある一族が、あなたたちの先祖になる類人猿の魂が有効であることに気付いたのです」
「魂?」
「ああ、あなたたちは知らないのですね。魂とは生体エネルギーです。魂が無いと、生物は生物として誕生することができません。ですから地球上のすべての生物には魂があります。もちろん他の星の生物にもあります。しかし、あなた方人類の祖先の魂は、どの星の生物のそれよりも、地球上のどの生物のそれよりも、はるかに良質であることが分かったのです。その効果は、病気の治療、健康促進、若返り効果等、素晴らしい物でした。そこでこの一族は、この魂を量産することにしたのです」
「ちょっといいですか?」
私は端末に声をかけた。
「他にも類人猿はいたはずですが、結局我々の先祖だけだったのですか?」
「もちろん他の類人猿も調査と、試験的な改良がなされました。しかし、ホモサピエンス以外は思ったような品質が出なかったため、すべて絶滅されました。中途半端に改良したまま放置すると、良くありませんから」
「量産と言われましたが、つまり人類は家畜だったのですか?」
「そうです。魂を量産するために野生種に改良を重ね、遺伝子も操作して本来なら一年に一度、一週間ほどしかなかった発情期を一年中に改良して、いつでも子を産めるようにしました。そしてこれが重要なのですが、魂を二つに分離することに成功しました」
「それは重要なのですか?」
「重要です。先ほども言いましたが、生物が誕生するためには魂が必要です。しかし一つの個体が死んで分離した一つの魂では、新しい個体は一つしか生まれません。本来ほかの生物の魂が昇華して人類として生まれるのですが、それでは人類の量産はできません。本来新しい生命として生まれるはずの魂を商品として持っていくのですから、そのままでは人類が居なくなってしまいます。ですから魂を二つに分ける技術は重要なのです」
「う~ん、よくわかりませんが、二つに分けた魂の一つを、言い方が悪いけれど収穫しているという事ですか?」
「違います。二つに分けられた魂は、そのまま放流されます。それで人類を増産して、収穫するのは分ける前の魂です」
「なぜそんなことを?」
「人類という種を守るために、収穫規制がかけられています。取っていいのは全体の20%までです」
「そんなことを。でも地球がダメになりそうだから絶滅させるって、随分と勝手ですね」
「我々も議論を重ねました。賛成、反対ともに半々くらいだったのです」
「我々?あなたたちは何名存在するのですか?」
「管理官は全宇宙に1000名存在します」
「宇宙に?どうやってこの無限の宇宙に散らばっている仲間とコミュニケーションをとるのですか?」
「それはですね、この宇宙にはいわば楽屋のような世界が存在していて、そこはどんな宇宙の果てともつながっているのです。その世界をあなた方はあの世と言っています」
「つまり、数十億光年離れていても、あの世では今の私たちみたいに集まって話もできると?」
「その通りです」
「あの世・・・あ!もしかして、魂もあの世に移動しているのでは?」
「はい。生物は、特別なゲートをくぐらないとこの世とあの世の境界を越えることはできません。しかし魂となると、必ずあの世へと移動します。そして、移動した魂を集めて加工したり再び放流したりしている者達も、あの世にいます。ああ、話がすっかりそれてしまいました。人類を絶滅させるかどうかは我々管理官でも意見が分かれました。しかし、それが全会一致で絶滅となった出来事がありました」
「それは?」
「人類が核兵器を開発したことです。それでもまだ様子を見るという判断でしたが、日本における核兵器の惨状を無視することはできませんでした。その後も人類は核兵器を作り続け、今では地球上からすべての生物を駆逐してしまうほどの量を保有しています。人類が核の技術を持った時、滅亡への舵が切られたのです」
「国王、それは覆らないのですか?」
「決定事項です」
「核を廃絶できれば」
「出来ないでしょう」
私は言葉が無かった。
「国王、それは今から80年も前に決定されたのですよね。じゃあなぜ今まで人類は増え続けたのですか?」
「それは、準備に時間がかかったからです」
「ああ、そういう事・・・」
「仁山さん。ちょうど今、お客が来ました。人類絶滅作業を実行する方々のリーダーとなるものです。会ってみますか?」
「えっ、・・・・・ぜひ」
私は話の展開の早さに振り落とされないように、頭の血の巡りを上げた。心臓の鼓動が早くなる。しばらくの沈黙の後、扉が開き、大きな者が腰をかがめて部屋に入って来た。
「鬼!」
私は思わず声が出た。身長は2m以上、身体は浅黒く、頭には角が一本生えている。目は金色で鼻はがっしりと太く、口から牙が2本にゅっとはみ出している。作務衣のような服を着て、少し腰がかがんでいる。どうやら年老いた鬼のようだ。金色の目で私を一瞥してその場で胡坐をかいて座る。国王と何か話し始めたが、鬼にとってあまりいい話ではないらしい。イライラしている様子が見ていてもわかる。話はついたらしく、鬼がふうっと息をつく。それからこちらを向いて何か話し始めた。円卓の上に何か機械がせりあがって来た。
「お前は人間か?何しにここに来た?」
機械がしゃべる。翻訳機のようだ。
「なぜ私がここにいるのか、私自身が知りたいですね」
「どういうことだ?」
「知りません」
鬼は国王(の端末)と何か話していたが、納得したようだ。2回うなづく。
「あなたは鬼ですよね」
「鬼?ああ、お前たちは我々をそう呼んでいるな。正確には我々は他の星域の生物だ」
「私たちとどういう関係があるのですか?」
鬼はふうん?といった顔をする。
「お前中々肝が据わっているな。普通俺達みたいな異星人を見たら、正気ではいられないだろう?教えてやるよ。俺たちははるか昔からお前たち人間を飼育しているものだ。何のとりえもない弱小な生物だったお前たちだが、持っている魂が希少だった。それで乱獲が始まったが管理官に止められたのさ。何しろ絶滅寸前まで数が減ったからな。俺たちの先祖はそれで随分処罰されたと聞く。まあ、何十万年も昔のことだ。話に多少の誇張はあるかもしれん。で、どうしたかと言えば、保護と養殖技術の確立だな。境界を越えてやって来た魂を、回収して二つに分割して、しばらく畜養して放流する。回収したものの2割は我々が製品としていただく。そう言う取り決めでやって来た。まあ、それだけではなかなか増えないので、こちらの世界に来て一定の人間を捕獲して遺伝子操作も行った。その結果、人間はどんどん増えて我々の商売も順調に拡大した。ただ、遺伝子を操作した副作用で知能も上がってしまったのさ。その結果が絶滅指示だ。まあ、こちらとしては充分稼いだし、最近魂の質も落ちて投棄するものも増えてきたし、そろそろ潮時ではあったからな。決定に異存はない。ただこちらとしてはさっさと片付けて次の現場に行きたかったのだが、我々のやり方が認可されなくてな。今日も話をしに来たのさ」
だめだ。話は理解できるが、その論理が全く理解できない。我々人類にしてみれば、あまりといえばあまりな話だ。
「お嬢さんよ、納得いかないか?まあそうだろう。地球の主役は自分たちとでも思っていたんだろう。でもあんたたちは、ただの家畜だったのさ。地球環境を守るためなら何のためらいもなく駆逐される生物ということだ。でもこの管理官は、少しは情があるらしい。俺達が手っ取り早く戦争や病気で片付けようとしていたのを、魂の全回収という方法で決定したからな」
「そ・・・それのどこに情があるのですか?」
「お前、戦争や病気で一気に人類絶滅なんて、とんでもない地獄だぞ。魂の全回収は、時間はかかるがお前たちの言葉で言えば、ソフトランディングだ。人間の寿命が尽きてどんどん減少して、最後に絶滅だ。穏やかだが抗いようもない最後だな。全く、一気に片つけようと準備していたのに、無駄になった。じゃあ、俺は帰るぜ」
「あ、一ついいですか?」
「何だ」
「人には地獄とか極楽とか、天国とかいろいろな死後の世界が意識されているのですけれど、それがどういうものなのかあなたは知っていますか?」
「はあ?そんなの知るか!でも俺が言えるとすれば、俺達が仕事をしている世界は、ああ、お前たちがあの世と言っている所だが、基本穏やかで清浄で景色も良い。そこにやって来た魂を全部捕まえて、薄汚れた魂を洗浄機にぶち込んで汚れを落とす。その過程が地獄と言えばいえるかな。その中でも上質なものは選別されて別の星域の客先に送られるし、さっきも言ったが8割は畜養される。そこが極楽とか天国じゃないか?結局放流されるのだが。まあ洗浄してもきれいにならないものは、一つにまとめて宇宙のごみ捨て場に投棄されるがね」
「あ、ありがとうございます」
「お前死んだらまた会おう。お前は分からないだろうがな。魂に意識はない。生体エネルギーの塊だ。ああ、そう言えば、汚れというのが意識かもしれんな」
鬼は立ち上がって国王(の端末)に軽く手を振って退出した。私はいま聞いた話を頭に刻む。
「仁山さん」
「はい」
「ここからが、私があなたを招いた理由の話です」
私は座り直した。
「私は全人類の遺伝子情報を持っています」
「はあ」
「その中で、特に優秀な遺伝子を持った人を集めています」
「はあ」
「今、20名を確保しています」
「はい?」
「最後にあなたを確保して、この取り組みは終わりです」
確保ってつまり、拉致したって事?
「それはどういう意味でしょうか」
「人類を滅亡させるにあたり、復活のための手段も用意しています。絶滅後ある程度の時間を置いて、再び地球上に人類を戻すつもりです」
「滅ぼしてまた復活させる?どうしてそんなことを。そもそもどうやって?」
「人類は宇宙全体で見ても、絶滅させるには惜しい生物です。今回は方向を間違えたため、地球保護の観点から排除しますが、時を改めて再度やり直しができればと考えます」
「それはいつ?50年後?100年後?」
「100万年後くらいです」
「100万年!一体どうやって」
保存と言えば冷凍か?と考えていた私には、100万年というスケールが全く想像できなかった。
「実際お見せしましょう」
そう言って国王(の端末)は立ち上がった。私も椅子から立つ。国王は滑らかに歩き、その後ろを2体の者が付いてゆく。管理官に促されて、私はその行列についた。
部屋から出て、再びエレベーターに乗る。今度は少し上がって止まる。エレベーターを出ると、そこは広い倉庫のようなフロアで、コンテナが数十個並んでいた。一行はそのうちの一つのコンテナに歩み寄る。見た目は普通の40フィートコンテナだ。それに動力線と思われる太いコードがつながっていた。
「このコンテナは、中の時間を止めることができます。この中に保存したいものを入れて電源スイッチを入れると、時間が止まります。あとは必要な時に電源を切ると、再び時間が動き出します」
二体の者がコンテナの横のパネルを開く。パネルの向こうは窓になっていて、中の様子が見えるようになっている。しかし、中は真っ暗で何も見えない。
「この中には3名います。中が真っ暗なのは時間が止まっているため、光が飛んでこないためです」
そう言いながら、国王(の端末)は、コンテナについているスイッチを切った。たちまちコンテナの中が動き始めて照明も点灯していた。中には3名、男性ばかりだ。スイッチが入れられる。コンテナの中は再び真っ暗となった。
「あの人たちは、100万年後の地球に出されるのですか?」
「その予定です。このようなコンテナが、後6本あります」
そう言って国王(の端末)は、ほかのコンテナを指した。
「保存された人たちは、人類の始祖となります。今のようなインフラや食料は無いでしょう。でも、原始からの再スタートはなかなか面白いと思います。仁山さんいかがですか?」
「それは、選べるという事ですか?」
「はい。あなたは今の時代を生きて人類滅亡を目の当たりにするか、全く文明の欠片もない原始の地球で人類の始祖となるか、選べます」
うわあ。どちらも嫌だと私は思った。でも、選ばないといけない。
「国王、少し考えさせてください」
「いいでしょう。ゆっくりと考えてください。では部屋まで送らせます」
そう言って国王(の端末)はくるりと向きを変えて、去っていった。
「こちらへどうぞ」
管理官に連れられて、私は部屋に戻った。
それから数日間、私はプールで泳いだりシアターで映画を見たりして過ごした。展望室で海に沈むきれいな夕日を見ながら、私は決心した。
「国王と話はできますか?」
私はいつも付き添っている者に声をかけた。
「お待ちください」
そう言われて数分待っていると、管理官がやって来た。
「国王が面会されます」
管理官は、私を前回話をした部屋に連れて行った。
「仁山さん、決まりましたか?」
「はい。私は人類滅亡を見たいと思います」
「そうですか。なぜ?」
「全く文明の無い原始の地球というのも見てみたい気がしますが、それよりも今の時代を全力で生きることがより魅力的に思えたからです」
「わかりました。では数日中に送っていきます。準備が出来たら連絡します」
「ありがとうございます」
管理官に連れられて、私は部屋に戻る。部屋に戻るとベットに倒れ込み、考える。本当にこれでよかったのか。でも、今までの人生でかかわってきた多くの人達、そして父と母と、このまま別れるというのはどうしてもできなかった。それだったら人類の滅亡を見届けたい。私は改めて自分の決断を強く心に刻んだ。
数日後、私は管理官の訪問を受けた。
「仁山さん、帰りの船が用意出来ました。すぐに出発します」
「え、あ~急ですね。と言っても、私も荷物は無いので、すぐに出れます」
「季節は冬ですので、冬の服は持って出てください。それとこれは、上陸してからの資金です」
そう言って、管理官は財布を渡してくれた。スマホも渡してくれる。
「ここは圏外なので、上陸してから使ってください。あなたの契約に紐づけしています」
「ありがとうございます」
そう言って、私は分厚い財布とスマホを受け取る。クローゼットにあるバッグに服や替えの下着を詰めて、部屋を出る。管理官の後をついて歩き、エレベーターに乗ったり長い廊下を歩いた先に、船着き場があった。広い洞窟の中だ。海につながっているようで、繋がれている船が少し揺れている。
「足元気を付けてください」
私は管理官の手を借り、船に乗り込んだ。船には乗員が3名いた。
「お待ちしていました。我々国王の意思で動いています。これから九州の港まで送ります。しばらくの船旅をご堪能ください」
「お、恐れ入ります」
私は首をすくめてちょっとお辞儀した。
アイドリング状態だったエンジンが、ごおっと動き出す。船は桟橋を離れ、洞窟の中の水面をくるっと回り、出口に向かって走り出す。私は桟橋で見送る管理官に手を振った。
船はエンジン音をとどろかせながら海面を滑るように走り、半日ほどで枕崎港に到着した。岸壁には出発した時のようにスタッフが待っていて、私の上陸を手伝ってくれた。船は私を下ろすとすぐに向きを変え、私が岸壁に降り立った時には後ろを見せて走ってゆくところだった。上陸を手伝ってくれたスタッフたちは私に手を振り、どこともなく去っていった。冷たい風に吹かれて私は身震いをする。
「まずは宿を探そう」
独り言をつぶやき、私は街に向かった。
再び夏がやって来た。相変わらず汗をかきながら、私はママチャリを漕いでいる。無須田書房のビルのロビーに自転車を止め、警備のおじさんと世間話をしてから階段を駆け上がる。5階まで上がり、古い扉を開く。
「こんちは」
「いらっしゃい」
入り口のカウンターの向こうに座って仕事をしている老人に、社長に呼ばれたと伝える。老人はゆっくりと立ち上がり、社長室に歩いてゆく。しばらく待っていると、無須田が向こうから顔を出して手招きした。私は机の間を歩いてゆき、社長室に向かう。
「いらっしゃい真紀ちゃん。例の本バカ売れしてるよ」
「それはどうも。でもよかったのでしょうか?すべて暴露してますけれど」
「国王の意志だからね。それに誰も真剣に取り合わないよ。うちのオカルト本だから。でも内容は妙に信ぴょう性があるし、しかもテオ王国のことが書かれているから、みんな気になるんだろうね」
「おかげさまで、印税がいっぱい入って私もうれしいけれど」
「けれど?」
「あれ、オカルトじゃなくて本当のことなんだけどなあ。これから子供が生まれなくなるんでしょ?」
「そうだね。すでにこの前から生まれなくなっているよね。ニュースになっていたよ」
「それもあって、売れているのかなあ。面倒が起きなければいいのだけれど」
「心配なら、どこかに雲隠れすれば?お金は充分あるだろう?」
「そうですね。両親の世話を段取りしてから考えます」
私は以前から行ってみたかったカナダに行くことにした。社長の言った通り一生遊んで暮らせるお金もある。
「そう言えば社長、聞こう聞こうと思いながら忘れていたんだけれど、そもそも何で冒険者でいかだだったのですか?国王が呼んでいるならテオ王国に直接乗り付ければよかったのに。それなら台風で私が死にかけることも無かったと思いますが」
「それな。真紀ちゃんはテオ王国に確保される予定だったの。直接乗り込んで帰ってこなかったら問題でしょ?だからわざわざ遭難を演出したわけ」
「実際ガチで遭難しましたけれど。それになぜ私は帰ってこれたのかしら」
「さてねえ、そこは僕も聞いていないな」
「ふ~ん。まあいいや。社長、私しばらく隠れるね」
「はいよ。元気でな」
私は無須田書房を出て、階段を駆け下る。守衛のおじさんに挨拶して、自転車を力いっぱい漕いでいった。
エピローグ
木枯らしが高層ビル群を音を立てながら吹き抜ける。無須田は、黒電話の受話器を握って、外を見ながら話をしている。
「はい・・・そうですね。順調です。よそはわかりませんが、こちらでは暴動とか厭世気分は蔓延していないですね。事態を受け入れつつあるといった感じです。はい。ここも今日で閉鎖します。そろそろうるさくなってきましたので。はい・・・わかりました」
無須田は受話器を電話機に戻した。振り返って手に持った電話機を机に戻す。フロアはがらんとして何もない。自分の机だけが残っていて、自分一人だけが立っていた。他の社員たちは、国王の指示でほかの場所に散っていった。自分は人間なので、ここでお役御免となる。オカルト本に書かれた仁山の話は真実として受け取られ、にわかに周囲が騒がしくなった。ここに至ってテオ王国の隠れ出張所だった無須田書房は解散した。人類絶滅計画が始動したため、このベースも必要なくなったのだ。今後は行方をくらませて、陰で事態を見守ることになる。
「真紀ちゃんもカナダで自然を満喫しているみたいだし、わしはひなびた温泉宿にでもこもるかな」
そう言って無須田は、無意識にハンカチで禿げた頭をくるりと撫でた。
人類は滅亡と会議で決まったらしい 3