映画『平行と垂直』レビュー

 自閉症スペクトラムの兄と2人っきりで生きてきた妹の結婚が決まり、今まで通りの生活ができなくなることで噴き出す過去と見えない未来。それでも、と手を携えるまでの葛藤を描くことで、障害者を巡る社会のあり方も問いかけようとするのが『並行と垂直』のストーリーの核心です。
 描写としては、ところどころストーリーを成立させる為にアジャストして見える部分が少なくなく、障害者を取り巻くリアルがフィクション化されていると感じてしまう部分に抵抗を覚えてしまうのが正直なところです。しかしながら大貴と希の兄妹に話の焦点を絞って観ると、これ以上ないってくらいのヒューマンドラマに大化けする。鑑賞する意識が前者から後者に移行するまでの時間、いかに振り落とされないようにするか。この点が本作を楽しむポイントになると思います。
 参考までに記せば、私は舞台となる関西圏特有の人間性の強さ、あるいは関西弁のニュアンスに宿る音楽性に身を委ねて観ていました。大貴と希の周囲の人物たちから窺える明と暗のメリハリが上手く効いていて、二人がこれまでの人生で経験してきた数々の不幸と確かな幸せが間接的に描かれる。それらのシーンを咀嚼すると大貴の振舞いが180度違って見えるんです。彼にできるやり方で妹を想い、一所懸命にやってきたのがよく分かる。ここで得られる気付きが観察対象のように扱われがちな障害者の主体性にスポットを当て、相互理解という理想へと物語の水準を上げていきます。その過程で描かれる数々の困難を前に憤りを隠さない希の姿がまた感動的で、兄を守られる側へと押し込めない、対等な立場を貫く姿勢として観客の顔面を手加減なしにぶん殴ってきます。誰もが大貴に対して諦念のような態度を取る中でただ1人、彼に向けて怒りの感情を露わにする。希のような芯が一本通った役を演じさせたらのんさんの右に出る者はガチでいません。
 マジョリティのペースに合わせて動く現実をぎゅっと握り締め、ぱっと緩めた時に花咲く希望の現れとして語られるファミリーストーリーはそのサイズ感においてドラマの芯を外しません。大貴を中心にして生まれる泣き笑いの素直に反応する感情にこそ、世界の真実を見出したい。『平行と垂直』は新宿バルト9などで絶賛公開中。後悔とは無縁の良作をお勧めします。

映画『平行と垂直』レビュー

映画『平行と垂直』レビュー

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-09-15

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